説明

高分子石けんの製造方法

【課題】 石油資源の枯渇や価格高騰に影響されるのを緩和できる石炭を原料とする高分子石けんの製造方法を提供する。
【解決手段】 石炭を原料とする樹脂成分に重合性モノマーを加えて電子線照射によりラジカルグラフト重合させるか、樹脂成分に有機溶剤を加えて溶解し、加熱し、加熱下でOH基を有する重合性モノマーと重合開始剤を加えて混合し、前記石炭を原料とする樹脂成分と前記重合性モノマーをラジカルグラフト重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を原料とする樹脂成分から高分子石けんを製造する高分子石けんの製造方法に関し、より詳細には、石炭系樹脂に官能基を付与することにより得る塗料用原料等に使用できる高分子石けんの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、高分子化学製品は殆どを石油を原料として製造している。この原料の石油は、資源の枯渇や価格高騰の問題がしばしば大きくとりあげられる。そこで、埋蔵量が多く世界中に普遍的に存在する石炭資源の利用が注目を浴びる。しかし、石炭は石油と違い固体であるため、パイプラインによる輸送が不可能であり、また取り扱う上でも、液体では起こりえない問題があった。このような欠点を改善するために、粉末化した石炭を水中に分散させ石炭スラリーを製造する方法が種々提案されている。
【0003】
しかしながら、従来より提案されている石炭の処理は石炭スラリーの製造方法で、高分子石けんを製造するものではない。石炭スラリーでは、石炭濃度を上げると粘度が著しく上昇し、流動性が劣るという問題があり、流動性を向上させる目的で、各種分散剤の使用が検討されている。この石炭スラリーの分散剤は、界面活性能を有しており、石炭粒子に吸着してこれを微細に分散させるというものであった。石炭樹脂成分を塗料分野で利用するように、グラフト重合させてエマルジョン化し、親水基等の官能基を付与した高分子石けんを製造するものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は石炭を原料に転換できるようにすることにより、石油資源の枯渇や価格高騰に影響されるのを緩和できる石炭を原料とする高分子石けんの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための本発明による高分子石けんの製造方法は、石炭を原料とする樹脂成分に重合性モノマーを加えて混合し、前記樹脂成分と前記重合性モノマーをラジカルグラフト重合させることを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2の高分子石けんの製造方法は、請求項1に記載の前記ラジカルグラフト重合を電子線照射により行う。
本発明の請求項3の高分子石けんの製造方法は、請求項1又は2に記載の前記前記重合性モノマーは、少なくとも(メタ)アクリル系化合物を含んいる。
【0007】
本発明の請求項4の高分子石けんの製造方法は、前記石炭を原料とする樹脂成分に有機溶剤を加えて溶解し、加熱し、OH基を有する重合性モノマーと重合開始剤を加えて混合し、前記樹脂成分と前記重合性モノマーをラジカルグラフト重合させることを特徴とする。
【0008】
本発明において、石炭を原料とする樹脂成分としては、石炭、ピッチ類、アスファルト等があげられる。この樹脂成分の性状は粒状、微粉状にしたもの、有機溶剤で液状にしたものでもよい。
【0009】
本発明において用いられる重合性モノマーは、分子中にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも一つ含有するモノマーであれば、特に限定されない。(メタ)アクリル系化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル類、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、不飽和アミド類、スチレン、グリジル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が代表的にあげられる。
【0010】
水酸基含有エチレン性不飽和化合物としては、具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシ−プロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−(6-ヒドロキシヘキサノイルオキシ)エチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;10-ウンデセン-1-オール、1-オクテン-3-オール、2-メタノールノルボルネン、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N-メチロールアクリルアミド、2-(メタ)アクロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、グリシジルモノアリルエーテル、アリルアルコール、アリロキシエタノール、2-ブテン-1,4-ジオールなどがあげられる。
【0011】
アミノ基含有エチレン性不飽和化合物は、エチレン性二重結合とアミノ基とを有する化合物であり、このような化合物としては、アミノ基および置換アミノ基を少なくとも1種類有するビニル系単量体をあげられる。
【0012】
これらの重合性モノマーは、単独でまたは2種以上を混合して使用される。親水性を付与するためには酸性モノマーまたはアルカリ性モノマーを使用するか加えればよい。これらの重合性モノマーにOH基があれば、親水性付与と官能基が付与できる。
【0013】
上記重合性モノマーは、石炭原料樹脂100重量部に対して、通常は、1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは10〜75重量部の量で使用される。
【0014】
本発明の重合においては、重合性成分を工業的に有効な硬化速度で重合硬化させるためには、電子線照射重合では必要ないが、熱重合や光重合などでは重合開始剤を添加することが好ましい。
【0015】
本発明で使用されるラジカル開始剤としては、たとえば有機過酸化物あるいはアゾ化合物などを挙げることができる。有機過酸化物の具体的な例としては、ジクミルパーオキサイド〔2〕、ジ-t-ブチルパーオキサイド〔2〕、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン〔4〕、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3〔4〕、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン〔4〕、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)バラレート〔4〕、ベンゾイルパーオキサイド〔2〕、t-ブチルパーオキシベンゾエート〔2〕、アセチルパーオキサイド〔2〕、イソブチリルパーオキサイド〔2〕、オクタノイルパーオキサイド〔2〕、デカノイルパーオキサイド〔2〕、ラウロイルパーオキサイド〔2〕、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド〔2〕および2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド〔2〕、m-トルイルパーオキサイド〔2〕などを挙げることができる。また、アゾ化合物としてはアゾイソブチロニトリル〔2〕、ジメチルアゾイソブチロニトリル〔2〕などを挙げることができる。ここで上記の有機過酸化物の具体例に付記の〔 〕内の数字は、化合物1モルから発生し得るラジカルの理論モル数である。本発明で使用されるラジカル開始剤において発生し得るラジカルの理論モル数とは、有機過酸化物の場合、化合物1モル当たりに存在する、−O−O−基のモル数を2倍したものである。また、アゾ化合物の場合、化合物1モル当たりに存在する、−N=N−基のモル数を2倍したものである。
【0016】
このようなラジカル開始剤は、前記石炭原料樹脂100重量部に対して、通常、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜8重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部の量で使用することが望ましい。
【0017】
ラジカル開始剤は、そのまま石炭樹脂、およびラジカルを含有する化合物、またはこれらのラジカルを含有する化合物を発生し得る化合物に混合して使用することもできるし、また、少量の有機溶媒に溶解して使用することもできる。ここで使用される有機溶媒としては、ラジカル開始剤を溶解し得る有機溶媒であれば特に限定されることなく使用することができる。
【0018】
熱重合開始剤としては特に限定されず、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシオクトエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物があげられる。また、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物もあげられる。この有機過酸化物にはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミン類を組み合わせたレドックス重合開始剤などが挙げられる。また、必要に応じて、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、オクチル酸ニッケル等の金属石鹸類も使用することができる。
【0019】
光重合では石炭を主成分とするので、黒色であるため効果のばらつきが大きいが、重合開始剤としては特に限定されず、効率のよいものを選択すればよい。重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、tert−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノンや、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類があげられる。
その他、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン類もあげられる。
また、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類があげられる。
また、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類などもあげられる。
さらに、メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジンなどがあげることができる。
【0020】
これらの重合開始剤は1種で用いても、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の含有量は、重合速度の点から、合計で、0.01質量%以上であることが好ましい。また、樹脂組成物中の重合開始剤の含有量は、経済性の点から、合計で、10質量%以下であることが好ましい。
【0021】
有機溶剤としては、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒やペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびデカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒などがあげられる。その他、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンがあげられる。また、メタノール、エタノール、n-プロピノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノールなどのアルコール系溶媒があげられる。アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒があげられる。さらに、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ジ-n-アミルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒をあげることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明による高分子石けんの製造方法は、石炭を原料とする樹脂成分から安定して安価に高分子石けんを得ることができる。石炭を原料とする樹脂中には二重結合が残り、この二重結合に重合性モノマーをグラフト重合させ、親水性を付与することにより高分子石けんを得ることができる。
本発明の請求項2の高分子石けんの製造方法によれば、上記効果に加えて、簡単に種々の高分子石けんを得ることができる。
本発明の請求項3の高分子石けんの製造方法によれば、上記効果に加えて、簡単なプロセスで各種の種々の高分子石けんを得ることができる。
【0023】
本発明の請求項4の高分子石けんの製造方法によれば、上記効果に加えて、簡単に高分子石けんを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は安定して安価に得ることができる石炭を原料とする樹脂成分から高分子石けんを得ることができた。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による高分子石けんの製造方法を実施例により詳細に説明する。
実施例1
石炭を原料とする中ピッチ100グラムをキシレン300グラムに溶解し、フラスコに仕込み、別に、ヒドロキシエチルメタクリレート12グラム、アクリル酸5グラム、エチルアクリレート23グラム、メチルメタクリレート20グラム、ベンゾプロピルオキサイド2グラムを混合した後、これを滴下ロートに入れる。前記フラスコを80℃に維持し、窒素ガス下で2時間かけて前記混合溶液を加え、さらに80℃に30分保持し、高分子石けんを得る。
【0026】
実施例2
石炭を原料とするハイピッチ20グラムと、ヒドロキシエチルメタクリレート2グラム、ジエチルアミノエチルメタクリレート1グラム、スチレン3グラムを混合し原料材料を得る。この原料材料を薄いPETフィルムに挟み、15mmの厚みの板状にする。この板状材に電子線加速器より、3メガラッドの電子線を照射して高分子石けんを得る。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の高分子石けんは、塗料のみならず、シーリング材、コーキング材に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を原料とする樹脂成分に重合性モノマーを加えて混合し、前記樹脂成分と前記重合性モノマーをラジカルグラフト重合させることを特徴とする高分子石けんの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂成分と前記重合性モノマーのラジカルグラフト重合を電子線照射により行う請求項1に記載の高分子石けんの製造方法。
【請求項3】
前記重合性モノマーは、少なくとも(メタ)アクリル系化合物を含む請求項1又は2に記載の高分子石けんの製造方法。
【請求項4】
前記石炭を原料とする樹脂成分に有機溶剤を加えて溶解し、加熱し、加熱下でOH基を有する重合性モノマーと重合開始剤を加えて混合し、前記樹脂成分と前記重合性モノマーをラジカルグラフト重合させることを特徴とする高分子石けんの製造方法。

【公開番号】特開2006−152124(P2006−152124A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344859(P2004−344859)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(504439702)
【Fターム(参考)】