説明

高効率変異導入法

【課題】異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製する方法を改善し、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上のトランスジェニック生物の調製に現在要している時間、労力およびコストを削減すること。
【解決手段】本発明により、植物において、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製する方法であって、(a)植物細胞内に相同組換え用核酸を導入する工程、および(b)その相同組換え用核酸が導入された植物細胞を培養する工程、を包含する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック生物の調製法に関する。より具体的には、本発明は、相同組換えを利用した、2つ以上のトランスジェニック生物を調製する方法およびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
相同組換えとは、相同的な塩基配列を有する分子間の遺伝的交換をいい、これは大腸菌、酵母、植物および動物を含む全ての生物において見られる現象である。生体内では染色体乗り換えなどの形式で見られるが、人工的にゲノム上の特定遺伝子を変化させる遺伝子ターゲティングの手段としても利用されている。
【0003】
特定の染色体上の遺伝子においてこの相同組換えを起こさせることによって、特定の内在性遺伝子領域を欠失させる遺伝子ノックアウト系が、酵母において最初に確立された。遺伝子ノックアウト系は高等生物では非常に効率が低く、目的とする組換え体を得ることは困難であったが、ポジティブ・ネガティブ選抜等を適用することにより、ある程度は組換え体を効率よく選別することができるようになった。
【0004】
近年、単純に遺伝子を破壊するノックアウト系だけではなく、点変異を導入してアミノ酸置換を起こさせて所望の変異を導入すること、または新規遺伝子を染色体上に導入すること等を可能にする、ノックイン系が開発された。このノックイン系では、ゲノム上で特定の遺伝子の両脇に位置するDNAと相同的な塩基配列を有するDNAフラグメントを改変体の両脇につなげて細胞内に導入し、両脇の相同(組換え)領域で相同組換えを起こし、特定の遺伝子を除去して、代わりに外来の遺伝子を挿入する。このノックイン系により、遺伝子変換を起こさせて、より詳細な解析を行うことが可能となった。
【0005】
相同組換えを利用したノックイン系は、より詳細な遺伝子解析を行うための強力かつ有用な実験ツールである。しかしながら、高等真核生物においては相同組換えイベントが起こる確率は非常に低く、ある所望される目的の核酸を導入するためには、膨大な数の試行を行い、その中から所望のトランスジェニック生物の単離する必要がある。これは、非常に労力およびコストを要する作業である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ノックイン系は強力な遺伝子の機能解析ツールであるが、特に高等真核生物においてはその発生確率が極めて低い。そのため、例えばたった1つ程度の変異を導入するために、膨大な数の試行を行い、その中から所望のトランスジェニック生物を単離するという、非常に時間、労力およびコストを要する作業が必要とされている。そのため、1種のみならず複数種の異なる変異を有するトランスジェニック生物を調製するためには、多大な労力が必要とされていた。複数種の異なる変異を有するトランスジェニック生物を調製するには、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製し、そこからトランスジェニック生物を調製する必要がある。そのため、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製する方法を改善し、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上のトランスジェニック生物の調製に現在要している時間、労力およびコストを削減する大きな必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物において、複数の点変異を導入した相同組換え用核酸をアグロバクテリウムによって植物細胞に導入し、相同組換えを起こさせることによって、予想外に、単一の相同組換え用核酸と、1回の相同組換え用核酸導入作業から、入れ子状のゲノム領域を含む異なるゲノム配列を有する少なくとも2種類の相同組換え体を得ることができることを発見し、この発見に基づいて上記課題を解決した。本発明の方法は、アグロバクテリウム媒介性の1回のノックイン試行によって入れ子状のゲノム領域を含む異なるゲノム配列を有する少なくとも2種類の相同組換え体を得ることにより、相同組換えが起こる確率の低さに起因するノックインの効率の悪さを飛躍的に改善し得る。さらに、本発明の方法を用いた変異導入法は、相同組換え体取得効率自体も、従来公知である他の方法に比べて非常に高かった。また、従来の二本鎖DNAを介した変異導入メカニズム(図1Bを参照のこと;F.Paques and J.E.Haber(1999)Microbiol.Mol.Biol.Rev.63:349−404(一部改変))では変異導入が困難であると理解されていた、相同組換え核酸内の5’上流側および3’下流側(すなわち、両末端の領域)への変異導入効率が、本発明の方法では上昇した。
【0008】
本発明は、目的の遺伝子と染色体上の特定の遺伝子との間で、複数の箇所において入れ子状に相同組換えが起こるという、従来からは到底予想され得なかったモデルに基づくものであり、そして点変異のノックイン効率を飛躍的に改善するという、当業者が容易に想到し得ない顕著な効果を奏するものである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、例えば以下の項目を提供する:
(項目1) 植物において、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製する方法であって、以下:
(a)植物細胞内に相同組換え用核酸を導入する工程、および
(b)その相同組換え用核酸が導入されたその植物細胞を培養する工程、
を包含する、方法。
【0010】
(項目2) 上記異なるゲノム配列は、少なくとも2つの上記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、およびその少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの上記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域を含む、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目3) 上記相同組換え用核酸が、アグロバクテリウム菌によって上記植物細胞に導入される、項目1に記載の方法。
【0012】
(項目4) 植物において、再生能のある植物細胞から、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上のトランスジェニック植物を調製する方法であって、以下:
(a)植物細胞内に相同組換え用核酸を導入する工程、
(b)その相同組換え用核酸が導入された植物細胞を培養する工程、および
(c)その培養された細胞より、トランスジェニック植物を調製する工程、
を包含する、方法。
【0013】
(項目5) 上記異なるゲノム配列は、少なくとも2つの上記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、およびその少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの上記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域を含む、項目3に記載の方法。
【0014】
(項目6) 上記相同組換え用核酸が、アグロバクテリウム菌によって上記植物細胞に導入される、項目3に記載の方法。
【0015】
(項目7) 上記相同組換え用核酸が、以下:
(1)第一のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第一の相同組換え領域、
(2)第二のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第二の相同組換え領域、および
(3)その第一の領域とその第二の領域との間に挟まれた、ポジティブ選択マーカー、を含有し、ここで、その第一の領域およびその第二の領域が、その第一のゲノム領域またはその相補鎖およびその第二のゲノム領域またはその相補鎖に対して、少なくとも2つ以上の変異を有する、項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【0016】
(項目8) 上記相同組換え用核酸が、以下:
(4)第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子;および
(5)第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子、
をさらに含有する、項目7に記載の方法。
【0017】
(項目9) 項目8に記載の方法であって、上記第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子と上記第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子が同一の遺伝子である、方法。
【0018】
(項目10) 上記相同組換え用核酸が、上記ポジティブ選抜マーカー遺伝子の上流および下流に(6)部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)認識配列をさらに含む、項目7に記載の方法。
【0019】
(項目11) 上記相同組換え用核酸が、(7)発現誘導可能な部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)遺伝子をさらに含む、項目10に記載の方法。
【0020】
(項目12) 上記ポジティブ選抜マーカー遺伝子が、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子および薬剤耐性遺伝子からなる群から選択される、項目7に記載の方法。
【0021】
(項目13) 上記ネガティブ選抜マーカー遺伝子が、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子およびbarnase遺伝子からなる群から選択される、項目8に記載の方法。
【0022】
(項目14)
上記部位特異的組換え酵素を発現させて、上記ポジティブ選抜マーカー遺伝子を上記植物細胞から除去する工程をさらに包含する、項目10に記載の方法。
【0023】
(項目15) 植物において、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製するための組成物であって、相同組換え用核酸を含有する、組成物。
【0024】
(項目16) 上記異なるゲノム配列は、少なくとも2つの上記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、およびその少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの上記植物の細胞のゲノム領域からなるゲノム領域を含む、項目15に記載の組成物。
【0025】
(項目17) 上記相同組換え用核酸が、アグロバクテリウム菌によって上記植物に導入される、項目15に記載の方法。
【0026】
(項目18) 上記相同組換え用核酸が、以下:
(1)第一のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第一の相同組換え領域、
(2)第二のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第二の相同組換え領域、および
(3)その第一の領域とその第二の領域との間に挟まれた、ポジティブ選択マーカー、
を含有し、ここで、その第一の領域およびその第二の領域が、その第一のゲノム領域またはその相補鎖およびその第二のゲノム領域またはその相補鎖に対して、少なくとも2つ以上の変異を有する、項目15に記載の組成物。
【0027】
(項目19) 上記相同組換え用核酸が、以下:
(4)第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子;および
(5)第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子、
をさらに含有する、項目18に記載の組成物。
【0028】
(項目20) 項目19に記載の組成物であって、上記第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子と上記第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子が同一の遺伝子である、組成物。
【0029】
(項目21) 上記相同組換え用核酸が、上記ポジティブ選抜マーカー遺伝子の上流および下流に(6)部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)認識配列をさらに含む、項目18に記載の組成物。
【0030】
(項目22) 上記相同組換え用核酸が、(7)発現誘導可能な部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)遺伝子をさらに含む、項目21に記載の組成物。
【0031】
(項目23) 上記ポジティブ選抜マーカー遺伝子が、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子および薬剤耐性遺伝子からなる群から選択される、項目18に記載の組成物。
【0032】
(項目24) 上記ネガティブ選抜マーカー遺伝子が、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子およびbarnase遺伝子からなる群から選択される、項目19に記載の組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者らは、植物細胞において遺伝子に複数の点変異を導入した相同組換え用核酸を、アグロバクテリウムによって植物細胞に導入し、相同組換えを起こさせることによって、予想外に、単一の相同組換え用核酸を用いた1回の相同組換え用核酸導入作業から、入れ子状のゲノム領域を含む異なるゲノム配列を有する少なくとも2種類のトランスジェニック植物を得ることができることを発見し、その発見に基づいて上記課題を解決した。本発明の方法は、アグロバクテリウム媒介性の1回のノックイン試行によって入れ子状のゲノム領域を含む異なるゲノム配列を有する少なくとも2種類のトランスジェニック植物を得る(図1Aを参照のこと)ことにより、相同組換えが起こる確率の低さに起因するノックインの効率の悪さを飛躍的に改善する。図1Aにおいて示されるように、アグロバクテリウムによって植物細胞内に導入された、本発明の一本鎖DNAの相同組換え用核酸によって、(i)および(ii)のような複数のタイプの相同組換えが生じ、その結果、入れ子状のゲノム領域を含む異なるゲノム配列を有する少なくとも2種類のトランスジェニック植物を得ることができる。本発明は、目的の遺伝子と染色体上の特定の遺伝子との間で、複数の箇所において入れ子状に相同組換えが起こるという、従来からは到底予想され得なかったモデルに基づくものであり、そして点変異のノックイン効率を飛躍的に改善するという、当業者が容易に想到し得ない顕著な効果を奏するものである。さらに、本発明の方法を用いた変異導入法は、相同組換え体取得効率自体も、従来公知である他の方法に比べて非常に高い。
【0034】
現在、ゲノム上の特定の遺伝子の両脇に位置するDNAと相同的な塩基配列を有する二本鎖DNAフラグメントを改変体の両脇につなげて細胞内に導入することにより、両脇の相同(組換え)領域で相同組換えが起こり、特定の遺伝子が除去されて、代わりに外来の遺伝子が挿入されると考えられている(図1Bを参照のこと)。したがって、単一の核酸構築物によって1回のノックインを行うことにより、1種類のトランスジェニック植物を調製するという方法が、慣習的に実施されている(図1Bおよび図2Bを参照のこと)。それに対して、本研究者らは、植物細胞において遺伝子に複数の点変異を導入した相同組換え用核酸を、アグロバクテリウムによって植物細胞に導入し、相同組換えを起こさせることによって、この相同組換え用核酸由来の遺伝子と染色体上の特定の遺伝子との間で少なくとも1つの入れ子状の相同組換えが起こり、その結果、複数のパターンで入れ子状に目的の核酸が導入されている異なるゲノムを有する2つ以上の相同組換え体が生じる(図2Aを参照のこと)ことを、予想外に発見した。
【0035】
本発明の相同組換え用核酸は、以下:
(1)第一のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第一の相同組換え領域、
(2)第二のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第二の相同組換え領域、および
(3)該第一の領域と該第二の領域との間に挟まれた、ポジティブ選択マーカー、
を含有し、ここで、該第一の領域および該第二の領域において、少なくとも2つ以上の変異を有する。この第一の領域および第二の領域における2つ以上の変異の上流および下流においてそれぞれ、入れ子状に相同組換えが起こり、この2つ以上の変異が入れ子状に異なるパターンで相同組換え体に導入されることにより、入れ子状の異なるゲノム配列を有する2つ以上の相同組換え体が調製できる。
【0036】
この一本鎖DNAを介した入れ子状の相同組換えモデル(図1Aを参照のこと)は、相同組換えを利用したノックイン系において当該分野で現在周知である二本鎖DNAを介したモデル(図1Bを参照のこと)とは全く異なる新規のモデルである。図1Aは、本発明の高効率変異導入法における相同組換えのモデル図を示し、(i)のSDSA(synthesis−dependent strand−annealing:合成依存型1本鎖DNA会合)とは、太い矢印で示された新たに合成されたDNA鎖同士がハイブリダイズ(annealing)し、さらにDNA合成とライゲーションにより組換え体が生じる過程をさす。植物の核に導入された相同組換え用の一本鎖T−DNAは相同組換えの中間体として働き、1本鎖T−DNAの3’末端が植物の標的遺伝子領域ゲノムDNAの相同領域に侵入(invasion)し、(i)又は(ii)に示すような相同組換え過程が進行する。(i)は分枝点移動(branch migration)によってベクター由来の1本鎖T−DNAの相同領域のゲノムDNAがヘテロ2重鎖DNA(heteroduplex DNA)を形成する。この分枝点移動は、ポジティブ選抜マーカー遺伝子の非相同領域のはじまる所で停止するが、1本鎖T−DNAに切断が起り、その3’末端がゲノムDNAに再侵入して再び分枝点移動によりヘテロ2重鎖DNAを形成され、新たに合成された1本鎖DNA断片同士が会合するSDSA過程を経て相同組換えが起る経路(pathway)である。この場合は、生じたヘテロ2重鎖DNAの修復過程で種々の(2つ以上の)組合せの組換え体が生成され、高頻度で入れ子状の配列をもつ組換え体も生じる。一方、(ii)の場合は、T−DNA上の1本鎖相同領域を鋳型としてDNAが合成されるので、数塩基の変異(置換、挿入、および欠失)ばかりでなく、1〜2kb程度の比較的大きな置換、挿入、および欠失も効率よくベクターからゲノムへ移すことができる。それ故、従来の相同組換えでは困難な非相同領域をもつベクター上の配列とも高効率で組換えが起って相同組換え体を得ることが出来るので、この点もT−DNAを介した本組換え機構の特徴である。図1Bは、従来のノックイン法における相同組換えのモデル図を示す。この場合も末端で、ヘテロ2重鎖DNAを生じる可能性はあり、修復機構によって末端がベクター由来の配列か植物ゲノム由来に配列になり得るが、配列が入れ子状にはならない。
【0037】
本発明者らは、上述の新規のモデルの発見に基づいて本発明を完成した。本発明は、植物において、アグロバクテリウムによって相同組換え用核酸を植物細胞に導入し、相同組換えを起こさせることによって、1回のノックイン試行で入れ子状のゲノム領域を含む少なくとも2種類の相同組み換え体を得ることにより、相同組換えが起こる確率の低さに起因するノックインの効率の悪さを飛躍的に改善する。さらに、本発明の方法を用いた変異導入法は、相同組換え体取得効率自体も、従来公知である他の方法に比べて非常に高かった。また、従来の二本鎖DNAを介した変異導入メカニズム(図1Bを参照のこと;F.Paques and J.E.Haber(1999)Microbiol.Mol.Biol.Rev.63:349−404(一部改変))では変異導入が困難であると理解されていた、相同組換え核酸内の5’上流側および3’下流側(すなわち、端の領域)への変異導入効率が、本発明の方法では上昇した。これらは、当業者が容易に想到し得ない顕著な効果である。
【0038】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載する。本発明を以下に説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0039】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきではない。本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは、当業者に明らかである。
【0040】
(定義)
任意の植物細胞由来の再生能を有する細胞を用いることが可能である。
【0041】
本明細書において用いられる「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、葉緑体、硬い細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在、および運動する能力がない生物により特徴付けられる。植物の種類は、例えば、「原色牧野植物大図鑑」(北隆館(1982))などにおいて広範に分類されており、そこに記載されるすべての種類の植物が、本発明において使用され得る。代表的には、植物は、細胞壁の形成・葉緑体による同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。単子葉植物としては、イネ科植物が挙げられる。好ましい単子葉植物としては、トウモロコシ、コムギ、イネ、エンバク、オオムギ、ソルガム、ライムギ及びアワが挙げられ、さらに好ましくは、トウモロコシ、コムギ、イネが挙げられるが、これらに限定されない。コムギには、従来法では形質転換体を得ることが困難であったコムギ品種農林61号も含まれる。双子葉植物としては、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物が挙げられるが、これらに限定されない。アブラナ科植物としては、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワーが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいアブラナ科植物は、ハクサイおよびナタネである。特に好ましいアブラナ科植物は、ナタネである。マメ科植物としては、ダイズ、アヅキ、インゲンマメ、ササゲが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいマメ科植物は、ダイズである。ナス科植物としては、トマト、ナス、バレイショが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいナス科植物は、トマトである。ウリ科植物としては、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいウリ科植物は、マクワウリである。ヒルガオ科植物としては、アサガオ、カンショ、ヒルガオが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいヒルガオ科植物は、アサガオである。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。特定の実施形態では、植物は、植物体を意味し得る。
【0042】
別の実施形態において、本発明において使用され得る植物種の例としては、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科、ヒルガオ科、キク科などの植物が挙げられる。さらに、本発明において使用され得る植物種の例としては、任意の樹木種、任意の果樹種、クワ科植物(例えば、ゴム)、およびアオイ科植物(例えば、綿花)が挙げられる。
【0043】
アブラナ科の植物の例としては、Raphanus、Brassica、Arabidopsis、Wasabia、またはCapsellaに属する植物が挙げられ、例えば、大根、アブラナ、シロイヌナズナ、ワサビ、ナズナなどを含む。
【0044】
イネ科の植物の例としては、Oryza、Triticum、Hordeum、Secale、Saccharum、Sorghum、またはZeaに属する植物が挙げられ、例えば、イネ、オオムギ、ライムギ、サトウキビ、ソルガム、トウモロコシなどを含む。
【0045】
本発明の方法は、植物細胞(カルスおよび懸濁培養細胞を含む)または植物組織(休眠組織(完熟種子、未熟種子、冬芽、および塊茎を含む)、生殖質、生長点、および花芽を含む)に対して、アグロバクテリウム菌を用いてT−DNAを介した形質転換を行うことによって実施される。本発明の方法は、好ましくは植物を対象に実施されるが、これに限定されず、T−DNAを介した形質転換を行うことが出来る動物細胞(Kunik Tら、(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:1871−1876;Pelczar Pら、(2004)EMBO REP 5:632−637)および個体動物にも適用され得る。
【0046】
本明細書において用いられる「動物」とは、動物界に属する生物の総称であり、酸素と有機性食物を必要とし,植物や鉱物と違って任意的に動くことができる生物により特徴付けられる。動物は、大きく脊椎動物と無脊椎動物とに分類される。脊椎動物としては、例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物などが用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)が用いられる。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)が用いられる。最も好ましくはヒト由来の細胞または器官などが用いられる。無脊椎動物としては、例えば、甲殻綱、ヤスデ綱、エダヒゲムシ綱、ムカデ綱、コムカデ綱、昆虫綱などが用いられる。より好ましくは、昆虫(例えば、チョウ目(カイコなどを含む))が用いられる。
【0047】
本発明において使用する場合、用語「形質転換」、「形質導入」および「トランスフェクション」は、特に言及しない限り互換可能に使用され、宿主細胞への核酸の導入を意味する。本発明においては、アグロバクテリウム菌を用いたT−DNAを介した形質転換法が使用される。
【0048】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞等が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0049】
本明細書において、「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子をある生物に組み込むことまたはそのような遺伝子が組み込まれた生物(例えば、植物または動物(マウスなど)を含む)をいう。トランスジェニック生物のうち、ある遺伝子が欠失または抑制されているものをノックアウト生物といい、ある遺伝子の配列または変異が挿入されているものをノックイン生物という。
【0050】
本明細書において、「トランスジェニック生物」とは、特定の遺伝子が組み込まれた生物をいい、トランスジェニック植物およびトランスジェニック動物などを含む。「トランスジェニック植物」とは、特定の遺伝子が組み込まれた植物をいい、同様に「トランスジェニック動物」とは、特定の遺伝子が組み込まれた動物をいう。本発明において、トランスジェニック生物は、好ましくはトランスジェニック植物である。本発明において、トランスジェニック生物は、より好ましくは、トランスジェニックイネである。
【0051】
本明細書において「再分化する」とは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再分化により、カルスやプロトプラストなどの細胞および葉または根などの組織片から植物体が形成される。
【0052】
形質転換体を植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118: 627−640(1986);Tabata et al.,Plant
Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338: 274(1989);Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course. Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995);Hiei et al.,Plant Mol Biol 35:205(1997);Toki et al.,Plant J 47:969 (2006)などが挙げられる。従って、当業者は、上記周知方法を目的とするトランスジェニック植物に応じて適宜使用して、再分化させることができる。
【0053】
本発明の方法により核酸導入/形質転換された細胞および組織は、当該分野において公知の任意の方法によって、分化、成長および/または増殖され得る。植物種の場合、細胞または組織を分化、成長および/または増殖させる工程は、例えば、その植物細胞もしくは植物組織またはそれらを含む植物体を栽培することによって達成され得る。本明細書では、植物の栽培は当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。植物の栽培方法は、例えば、監修 島本功および岡田清,「モデル植物の実験プロトコール−イネ・シロイヌナズナ編−」:細胞工学別冊植物細胞工学シリーズ4;イネの栽培法(奥野員敏)pp.28−32、ならびに、丹羽康夫著,シロイヌナズナの栽培法,pp.33−40に例示されており、当業者であれば容易に実施することができることから本明細書では詳述する必要はない。例えば、シロイヌナズナの栽培は土耕、ロックウール耕、水耕いずれでも行うことができる。白色蛍光灯(6000ルクス程度)の下、恒明条件で栽培すれば播種後4週間程度で最初の花が咲き、開花後16日程度で種子が完熟する。1さやで約40〜50粒の種子が得られ、播種後2〜3ケ月で枯死するまでの間に10000粒程度の種子が得られる。また、例えば、コムギの栽培においては、播種後に一定期間の低温短日条件にさらされなければ、出穂および開花しないことが周知である。従って、例えば、人工環境下(例えば、温室やグロスチャンバー)においてコムギを栽培する場合には、生育初期段階で、コムギ幼植物に低温短日処理(例えば、20℃ 明期8時間(約2000ルクス)および8℃ 暗期16時間での処理など)を行う必要がある。この処理は春化処理(vernalization)と呼ばれる。このような各植物種ごとに必要とされる栽培条件は、当該分野において一般に広く知られており、従って、本明細書中で詳述する必要はない。
【0054】
植物以外の種(例えば、動物種)の場合においても、T−DNAを介して核酸導入/形質転換された細胞および組織は、当該分野において公知の任意の方法によって、分化、成長および/または増殖され得る(例えば、泉美治ら編,生物化学実験のてびき 4.動物・組織実験法,化学同人,1987年などを参照のこと)。
【0055】
本明細書において使用される用語「相同組換え体」とは、外来遺伝子(本発明においては、相同組換え用核酸)由来の核酸が相同組換えによってゲノムに組み込まれている、任意の細胞および個体をいう。
【0056】
本明細書において使用される句「少なくとも2つの前記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、および該少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」とは、本発明の相同組換え用核酸由来のゲノム領域が入れ子状に植物細胞の植物ゲノム領域に組み込まれたゲノム領域をいう。「少なくとも2つの前記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、および該少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」と「入れ子状のゲノム領域」とは同義であり、交換可能に使用され得る。
【0057】
本発明の方法では、植物細胞の特定のゲノム領域と、相同組換え用核酸由来のゲノム領域との間の相同組換えによって、相同組換え用核酸由来のゲノム領域がその植物細胞に導入される。ここで、この導入された相同組換え用核酸由来のゲノム領域と、相同組換えによって置換された領域とは、同じ配列を有していてもよいし、異なる配列を有していてもよい。好ましくは、導入された相同組換え用核酸由来のゲノム領域と、相同組換えによって置換された領域とは、異なる配列を有している。本発明の一実施形態において、植物細胞に導入された相同組換え用核酸由来のゲノム領域は、少なくとも1つの変異を含む。
【0058】
本発明の一実施形態において、上記「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」は、本発明の方法の実施後に、少なくとも1つ以上存在する。本発明の別の実施形態において、この「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」は、本発明の方法の実施後に、少なくとも2つ以上存在する。本発明の別の実施形態において、この「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」は、本発明の方法の実施後に、少なくとも3つ以上存在する。本発明の別の実施形態において、この「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」は、本発明の方法の実施後に、少なくとも4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたは9つ以上存在する。より好ましくは、この「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域」は、10個、15個、20個、30個、40個、50個または100個以上存在する。
【0059】
本発明の一実施形態において、上記「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域」は、10bp以上のサイズである。本発明の別の実施形態において、上記「少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域」は、20bp、30bp、40bp、50bp、60bp、70bp、80bp、90bp、100bp、150bp、200bp、250bp、300bp、350bp、400bp、450bp、500bp、550bp、600bp、650bp、700bp、750bp、800bp、850bp、900bp、950bpまたは1,000bp以上のサイズである。
【0060】
本明細書において使用される用語「アグロバクテリウム」とは、グラム染色陰性の土壌細菌Agrobacterium tumefaciensをいい、植物に感染してクラウンゴール腫瘍を誘発する植物病原菌の一種である。このアグロバクテリウムが有する約200,000塩基対のTiプラスミドがクラウンゴール腫瘍の原因因子である。このTiプラスミドは、同一方向を向いた一対の25塩基対からなる境界配列に囲まれたT−DNA領域が存在する。このT−DNA領域は、特定のVirタンパク質により境界配列の中で一本鎖切断を受け、一本鎖DNAとして切り出される。この一本鎖DNAが植物へ移動し、染色体に組み込まれると考えられている。本発明のノックインモデルは、この一本鎖T−DNA領域を利用することによって可能になった。
【0061】
アグロバクテリウムを用いた形質転換は、植物だけでなく、哺乳動物由来の細胞(例えば、HeLa細胞)にも適用され得ることが報告されている(Pawel Pelczar et al.,EMBO report,VOL5,NO.6,2004;Talya Kunik et al.,PNAS 98;1871−1876;2001などを参照のこと、これらの参考文献は、本明細書中に参考として援用される)。したがって、本発明は植物のみならず、哺乳動物への変異導入にも使用され得ることが理解される。
【0062】
理論に束縛されることは意図しないが、本発明の方法は、相同組換え用核酸として一本鎖DNAを使用する点にあり得る。したがって、本発明の方法では、アグロバクテリウム由来のT−DNAを相同組換え用核酸として使用しているが、相同組換え用核酸は必ずしもアグロバクテリウム由来のT−DNAには限定されず、一本鎖DNAならば全て、本発明の相同組換え用核酸として使用され得る。
【0063】
本明細書中において使用される「再生能」とは、個体または器官の一部(例えば、細胞)から、元の個体または器官を再生する能力をいう。本発明において「再生能を有する細胞」とは、カルスまたは不定胚などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本明細書において使用される用語「細胞」とは、任意の植物または動物由来であって、自己複製能と分化能とを有する、未分化で幼若な任意の細胞を指し、カルスも含まれる。
【0065】
本明細書において使用される用語「2つ以上の相同組換え体」とは、2種類以上の外来遺伝子(本発明においては、相同組換え用核酸)由来の核酸の組み込みパターンを有する相同組換え体をいう。一実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する2つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する3つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する4つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する5つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する6つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する7つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する8つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する9つ以上の形質転換細胞が調製される。別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する10種以上の形質転換細胞が調製される。さらに別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する15種以上の形質転換細胞が調製される。さらに別の実施形態では、本発明の方法によって、異なるゲノム配列を有する20種以上の形質転換細胞が調製される。
【0066】
本明細書において「相同組換え」とは、相同的な塩基配列を有する分子間の遺伝的交換をいう。生体内では染色体乗り換えなどの形式で見られるが、人工的にゲノム上の特定遺伝子を変化させる遺伝子ターゲティングの手段でもある。ゲノム上の特定遺伝子と相同的な部分を有するDNAを細胞中に導入した場合、この相同部分で組換えを起こし、外来のDNAがゲノムに取り込まれる。これを利用して改変体(例えば、特定の遺伝子に点変異が導入された改変体)を産生することが可能になる。相同組換えは、転写活性遺伝子における変異を誘導または矯正するために遺伝子をターゲティングするためにもともと開発された技術である(Kucherlapati,Prog.in Nucl.Acid Res.&Mol.Biol.,36:301,1989)。基本的な技術は、哺乳動物ゲノムの特定の領域に特定の変異を導入するための方法として開発された(Thomas et al.,Cell,44:419−428,1986;Thomas and Capecchi,Cell,51:503−512,1987;Doetschman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,85:8583−8587,1988)か、または欠損遺伝子内の特定の変異を矯正するための方法として開発された(Doetschman et al.,Nature,330:576−578,1987)。例示的な相同組換え技術は、米国特許第5,272,071(EP 9193051,EP公開No.505500;PCT/US90/07642、国際公開WO91/09955)に記載されている。当該分野において、相同組換えは周知であり、慣習的に実施されている。
【0067】
本明細書において「遺伝子ターゲティング」(ジーンターゲティング、標的遺伝子組換えともいわれる)とは、細胞および個体レベルで、特定遺伝子座のみに目的とした変異を導入することをいう。遺伝子ターゲティングのためには、相同遺伝子組換えを細胞レベルで起こさせ、その後植物遺伝子組換え体を選別する。
【0068】
本明細書において、「相同組換え用核酸」とは、導入ベクターまたは相同組換え用ベクターともいわれ、本発明の相同組換え用核酸は、以下:
(1)第一のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第一の相同組換え領域、
(2)第二のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第二の相同組換え領域、および
(3)該第一の領域と該第二の領域との間に挟まれた、ポジティブ選択マーカー、
を含有し、ここで、該第一の領域および該第二の領域において、少なくとも2つ以上の変異を有する。この第一の領域および第二の領域における2つ以上の変異の上流および下流においてそれぞれ、入れ子状に相同組換えが起こり、この2つ以上の変異が異なるパターンで植物に導入されることにより、異なるゲノム配列を有する2つ以上の相同組換え体を調製する。本発明の相同組換え用核酸は、必要に応じて、ネガティブ選抜のためのネガティブ選抜マーカーを含む。本発明の「相同組換え用核酸」はさらに、必要に応じて、ポジティブ選抜マーカーの前後に配置される2つのリコンビナーゼ(部位特異的酵素)認識配列を含む。このリコンビナーゼ認識配列は、好ましくは、loxP配列である。本発明の「相同組換え用核酸」はなおさらに、必要に応じて、部位特異的組換え酵素であるCre遺伝子を含む。本発明の相同組換え用核酸の概略については、図2Aを参照のこと。この相同組換え用核酸は、必要に応じて他の調節エレメントと組み合わせて使用することもでき、そのような相同組換え用核酸もまた本発明の範囲に含まれる。
【0069】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。
【0070】
本明細書において「相同組換え領域」とは、幹細胞の特定のゲノム領域との間で相同組換えが起こり得る、相同組換え用核酸における部位をいう。相同組換え領域は、実際にその部位で相同組換えが起こるか否かに関わらず、相同組換えが起こり得る領域をいう。したがって、相同組換え領域において必ずしも相同組換えが起こる訳ではないことを、当業者は容易に認識する。
【0071】
本明細書において使用する場合、「選抜マーカー」とは、核酸構築物、ベクターを含む宿主細胞を選択する指標として機能する遺伝子をいう。選抜マーカーとしては、蛍光マーカー、発光マーカー、および薬剤耐性選抜マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。「蛍光マーカー」としては、緑色蛍光プロテイン(GFP)、青色蛍光プロテイン(CFP)、黄色蛍光プロテイン(YFP)および赤色蛍光プロテイン(dsRed)のような蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「発光マーカー」としては、ルシフェラーゼのような発光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「薬剤耐性選抜マーカー」としてはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、グルタミンシンセターゼ遺伝子、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、メタロチオネイン(MT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アデノシンデアミナーゼ(AMPD1,2)、キサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ、UMPシンターゼ、P−グリコプロテイン、アスパラギンシンテターゼ、およびオルニチンデカルボキシラーゼ。これら薬剤選抜マーカーと使用される薬剤との組み合わせは、例えば、以下のとおりである:ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(DHFR)とメソトレキセート(MTX)との組み合わせ、グルタミンシンセターゼ(GS)遺伝子とメチオニンスルホキシミン(Msx)との組み合わせ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)遺伝子とN−ホスホンアセチル−L−アスパラギン酸(N−phosphonacetyl−L−aspartate)(PALA)との組み合わせ、MT遺伝子とカドミウム(Cd2+)との組み合わせ、アデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子とアデノシン、アラノシン、2’−デオキシコホルマイシンとの組み合わせ、アデノシンデアミナーゼ(AMPD1,2)遺伝子とアデニン、アザセリン、コホルマイシンとの組み合わせ、キサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子と、マイコフェノール酸との組み合わせ、UMPシンターゼ遺伝子と6−アザウリジン、ピラゾフラン(pyrazofuran)との組み合わせ、P−グリコプロテイン(P−gp,MDR)遺伝子と多剤薬剤との組み合わせ、アスパラギンシンテターゼ(AS)遺伝子とβ−アスパルチルヒドロキサム酸またはアルビジイン(albizziinn)との組み合わせ、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)遺伝子とα−ジフルオロメチル−オルニチン(DFMO)などのタンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本明細書中、相同組換えの文脈において使用する場合、用語「ネガティブ選抜マーカー」とは、改変核酸が植物領域以外のゲノム領域に挿入された細胞の増殖を阻害および/または抑制することによって、改変核酸が標的領域に挿入された細胞の選択を容易にする配列である。代表的には、「ネガティブ選抜マーカー」は、改変核酸の付加配列として存在し、2つの相同領域での相同組換えによらずに改変核酸がゲノム中に挿入された場合、2つの相同領域および挿入配列とともに、ゲノム中に挿入され、その結果、ネガティブ選択配列から、宿主細胞の増殖を阻害および/または促成する遺伝子産物(RNAおよび/またはタンパク質)が発現されて、その結果、改変核酸が標的領域以外のゲノム領域に挿入された細胞の増殖が阻害および/または抑制される。これに対して、改変核酸が相同組換えによって標的領域に挿入される場合は、2つの相同領域の外にある付加配列としての「ネガティブ選択配列」は、ゲノム中に挿入されることがなく、そのため、改変核酸を挿入した宿主細胞の増殖が、阻害・抑制されない。本明細書において使用する場合、「ネガティブ選抜マーカー」による選択を「ネガティブ選抜」という。「ネガティブ選抜マーカー」としては、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、Exotoxin A遺伝子、Ricin toxin A遺伝子、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子、RNase T1遺伝子およびbarnase遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書中、相同組換えの文脈において使用する場合、用語「ポジティブ選抜マーカー」とは、改変核酸がゲノム領域に挿入された細胞の増殖の増殖に必須であるか、および/または増殖を促進する配列である。本明細書において使用する場合、「ポジティブ選抜マーカー」による選択を「ポジティブ選択」という。「ポジティブ選抜マーカー」としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子のような薬剤耐性遺伝子、ALS(AHAS)遺伝子やPPO遺伝子のような除草剤耐性遺伝子など(Iida,S and Terada R(2005)Plant Mol. Biol.59:205−219)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書において使用されるゲノムまたは遺伝子座などを除去する方法において用いられる、Cre酵素のような部位特異的組換え酵素の一過的発現、染色体上でのDNAマッピングなどは、細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ「FISH実験プロトコール ヒト・ゲノム解析から染色体・遺伝子診断まで」松原謙一、吉川 寛 監修 秀潤社(東京)などに記載されるように、当該分野において周知である。
【0075】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0076】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子である、細胞中に存在する核酸の一定の長さの配列をいう。本発明において遺伝子は、遺伝形質を規定するものであっても規定しないものであってもよい。本明細書において、遺伝子は、通常ゲノムに存在するものをさすが、それに限定されず、染色体外の配列、ミトコンドリアの配列なども包含することが理解される。多くの遺伝子は、通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書において遺伝子の「オープンリーディングフレーム」または「ORF」とは、遺伝子の塩基配列を3塩基ずつに区切った時の3通りの枠組の1つであって、開始コドンを有し、そして途中に終止コドンが出現せずある程度の長さを持ち、実際にタンパク質をコードする可能性のある読み枠をいう。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、例えば、DNAポリメラーゼ遺伝子というときは、通常、DNAポリメラーゼの構造遺伝子ならびにDNAポリメラーゼのプロモーターなどの転写および/または翻訳の調節配列の両方を包含する。本発明では、構造遺伝子のほか、転写および/または翻訳などの調節配列もまた、本発明が対象とする遺伝子として有用であることが理解される。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0077】
本明細書において「単離された」物質(例えば、核酸またはタンパク質などのような生物学的因子)とは、その物質が天然に存在する環境(例えば、生物体の細胞内)の他の物質(好ましくは、生物学的因子)(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0078】
本明細書において「精製された」物質(例えば、核酸またはタンパク質などのような生物学的因子)とは、その物質に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された物質におけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0079】
本明細書において「精製された」および「単離された」とは、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の物質が存在することを意味する。
【0080】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0081】
本明細書において「ストリンジェントなハイブリダイズ条件」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0082】
本明細書では塩基配列の同一性の比較および相同性の算出は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0083】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるプロモーターとしては、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応する配列も含まれるべきであることが意図される。
【0084】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0085】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0086】
その文字コードは以下のとおりである。
アミノ酸
3文字記号 1文字記号 意味
Ala A アラニン
Cys C システイン
Asp D アスパラギン酸
Glu E グルタミン酸
Phe F フェニルアラニン
Gly G グリシン
His H ヒスチジン
Ile I イソロイシン
Lys K リジン
Leu L ロイシン
Met M メチオニン
Asn N アスパラギン
Pro P プロリン
Gln Q グルタミン
Arg R アルギニン
Ser S セリン
Thr T トレオニン
Val V バリン
Trp W トリプトファン
Tyr Y チロシン
Asx アスパラギンまたはアスパラギン酸
Glx グルタミンまたはグルタミン酸
Xaa 不明または他のアミノ酸。
【0087】
塩基
記号 意味
a アデニン
g グアニン
c シトシン
t チミン
u ウラシル
r グアニンまたはアデニンプリン
y チミン/ウラシルまたはシトシンピリミジン
m アデニンまたはシトシンアミノ基
k グアニンまたはチミン/ウラシルケト基
s グアニンまたはシトシン
w アデニンまたはチミン/ウラシル
b グアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
d アデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシル
h アデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
v アデニンまたはグアニンまたはシトシン
n アデニンまたはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル、不明、または他の塩基。
【0088】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100、200、300、400、500、600、600、700、800、900、1000およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0089】
本発明において使用されるポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上(例えば、1または数個)のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
【0090】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。親水性指標もまた、改変体作製において考慮される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0091】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0092】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0093】
本明細書において「機能的改変体」とは、基準となる配列が担う生物学的活性を保持する改変体をいう。
【0094】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。核酸においては、保存的置換は、例えば、プロモーター活性を測定しながら確認することができる。
【0095】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドをコードする遺伝子を作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0096】
本明細書において発現されるべきポリペプチドの核酸形態は、そのポリペプチドのタンパク質形態を発現し得る核酸分子をいう。この核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0097】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変異誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0098】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0099】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、原核生物細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物個体および動物個体等の宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書では、例えば、BACベクターを用いることができる。BACベクターとは、大腸菌のFプラスミドをもとにして作製されたプラスミドで、約300kb以上の巨大なサイズのDNA断片をも大腸菌などの細菌内で安定に保持し増殖させることが可能なベクターである。BACベクターは、少なくともBACベクターの複製に必須の領域を含む。その複製に必須の領域としては、例えば、Fプラスミドの複製開始点であるoriSまたはその改変体が挙げられる。
【0100】
本明細書において「プロモーター」(またはプロモーター配列)とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することができる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0101】
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。動物細胞において使用する場合、エンハンサーとしては、SV40プロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。プロモーター中のプロモーター活性を強める領域もまたエンハンサーと呼ばれることがある。
【0102】
本明細書において使用する場合、「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0103】
本明細書において使用する場合、「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子など)のような選抜マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0104】
本明細書において使用する場合、「導入ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物個体および動物個体等の宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0105】
本明細書において「上流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの5’末端に向かう位置を示す。
【0106】
本明細書において「下流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの3’末端に向かう位置を示す。
【0107】
ベクターの導入方法としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium)(特開昭59−140885、特開昭60−70080、WO94/00977)が好ましい。
【0108】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0109】
本明細書中で使用される「部位特異的リコンビナーゼ」とは、多くの生物(例えば、ウイルスおよび細菌)において存在するタンパク質であり、そしてエンドヌクレアーゼおよびリガーゼの両方の特性を有すると特徴づけられる。これらのリコンビナーゼは、(いくつかの場合において関連タンパク質とともに)DNAにおける塩基の特異的な配列を認識し、そしてこれらのセグメントに隣接するDNAセグメントを置換する。このリコンビナーゼおよび関連タンパク質は、総称して、「組換えタンパク質」と呼ぶ(例えば、以下を参照のこと:Landy,A.,Current Opinion in Biotechnologv 3:699−707(1993))。
【0110】
種々の生物由来の多くの組換え系が記載されている。例えば、以下を参照のこと:Hoess,et al.,Nucleic Acids Research 14(6):2287(1986);Abremski,et al.,J.Biol.Chem.261(1):391(1986);Campbell,J.Bacteriol.174(23):7495(1992);Qian,et al.,J.Biol.Chem.267(11):7794(1992);Araki,et al.,J.Mol.Biol.225(1):25(1992);Maeser and Kahnmann,Mol.Gen.Genet.230:170−176)(1991);Esposito,et al.,Nucl.Acids Res.25(18):3605(1997)。これらの多くは、リコンビナーゼのインテグラーゼファミリーに属する(Argos,et al.,EMBO J.5:433−440(1986);Voziyanov,et al.,Nucl.Acids Res.27:930(1999))。おそらく、これらのうち最もよく研究されているのは、バクテリオファージPI由来のCre/loxP系(Hoess and Abremski(1990)In NucleicAcids and MolecularBiology,vol.4.Eds.:Eckstein and Lilley,BerlinHeidelberg:Springer−Verlag;pp.90−109)、バクテリオファージX由来のインテグラーゼ/att系(Landy,A.Current Opinions in Genetics and Devel.3:699−707(1993))、およびSaccharomyces cerevisiae 2μ環状プラスミド由来のFLP/FRT系(Broach,et al.,Cell 29:227−234(1982))である。
【0111】
Creリコンビナーゼの細胞種特異的発現とCre−loxPの部位特異的組換えとを併用するCre−loxP系を使用することにより、相同組換えによっていったんはゲノム中に挿入された核酸領域を削除することができる。Cre−loxPを用いる変異導入法では、標的遺伝子の発現を阻害しない位置に選抜マーカー(例えば、ハイグロマイシン遺伝子など)などの核酸配列を導入し、後に削除する配列をはさむようにしてloxP配列を挿入したターゲティングベクターを細胞に導入し、その後相同組換え体を単離する。次に、大腸菌のP1ファージ由来の部位特異的組換え酵素Creを特定条件下で特異的に発現させると、Creを発現する細胞中でのみ遺伝子が削除される(ここでは、Creは、loxP配列(約34bp)を特異的に認識して、2つのloxP配列間で組換えを起こさせ、その間の核酸配列が削除される)。この組換え系は、代表的には、部位特異的組換え酵素としてCreリコンビナーゼ、部位特異的組換え酵素認識配列としてloxPを使用するCre/loxP系であるが、これに限定はされず、上述のように種々の生物由来の組換え系が使用され得る。この部位特異的組換え酵素は、本発明の相同組換え用核酸中に含まれてもよいし、相同組換え用核酸中には含まれなくてもよい(例えば、プラスミドによって供給されてもよい)。
【0112】
本明細書において、「リコンビナーゼ」とは、部位特異的組換え酵素ともいい、DNA上の特定配列(例えば、Creリコンビナーゼの場合、loxPという配列)を認識し、その部分の組換えを促進させる酵素をいう。リコンビナーゼとしては、例えば、Creリコンビナーゼなどを挙げることができる。このほかに、使用され得るリコンビナーゼとしては、例えば、F1p組換え酵素やR組換え酵素(Srivastava,V and Ow,D (2004) Trends Biotechnol 22:627−629)、φC31(アクセッション番号NC_001978;GI:40807285)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0113】
本明細書において「リコンビナーゼ認識配列」とは、少なくとも1つのリコンビナーゼによって認識される配列をいい、そのような配列は、リコンビナーゼに通常特異的である。そのような認識配列は、以下のようにして決定することができる:サザンハイブリダイゼーション解析、PCR産物のDNA塩基配列などが挙げられる。そのような認識配列としては、例えば、loxP配列、FRT部位、RS部位、attB配列,attP配列およびres部位配列を挙げることができるがそれらに限定されない。そのような認識配列の具体的配列は以下の通りである:
LoxP配列
ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTAT(配列番号4)。
【0114】
このようなリコンビナーゼ認識配列は、上記配列のすべてを含んでいてもよく、リコンビナーゼに認識される限り、これらの配列に対して、1または複数の置換、付加および/または欠失を含んでいても良い。あるいは、リコンビナーゼと一定の条件下で任意の配列のライブラリーを用いてスクリーニングすることによって別のリコンビナーゼ認識配列を作製することも可能である。
【0115】
本明細書において「逆方向」とは、リコンビナーゼ認識配列について用いられるとき、あるリコンビナーゼ認識配列が二本鎖DNAの一方に配置されているとき、他方の鎖にリコンビナーゼ認識配列が配置されていることをいう。好ましくは、実質的に相同な配列が、一方の鎖に5’から3’向きに、他方の鎖に5’から3’向きに配置されている。より好ましくは、同一の配列が一方の鎖に5’から3’向きに、他方の鎖に5’から3’向きに配置されている。
【0116】
本明細書において「発現誘導可能なリコンビナーゼ遺伝子」とは、Dexamethasone, Tetracycline, Ecdysone, Estradiol, Ethanol, Copperなどの種々の化学的誘導系で発現制御できるCreなどの部位特異的組換酵素遺伝子をいう。化学的誘導系プロモーター(Padidam, M (2003) Curr. Opin. Plant Biol. 6:169−177)の代りに、ヒートショックプロモーターなどをつないで、熱ショックにより部位特異的組換え酵素遺伝子を発現誘導させることも可能である。
【0117】
本明細書における点変異の導入は、従来からのsite−directed mutagenesis法(Kunkel,A.(1985)Proc.Natl.Acad. Sci.USA 82:448−492;Ke,S.−H.and Madison, E.L.(1997)Nucleic Acids Res.25:3371−3372)であっても、目的とする点変異の両側に各々約50塩基の相同塩基配列を有する2本鎖のオリゴヌクレオチドを合成してλRedシステムを用いた方法で組換えを行なわせて導入する方法(Muyrers,J.P.P.et al.,(2001)Trend Biochem.Sci.26:325−331)であってもよい。
【0118】
(一般生化学・分子生物学)
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et
al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0119】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0120】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0121】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0123】
(一般的実施例)
以下の記載は、Adh2遺伝子を標的とした場合について記載しているが、本発明の方法はAdh2遺伝子のみに標的が限定されるものではない。他の遺伝子を標的とする場合には、当業者は以下に記載される各条件を適宜改変し、本発明の方法を容易に実施することができる。
【0124】
(核酸の調製)
プラスミド調製、植物DNAおよびRNA調製、PCRおよびRT−PCR増幅、ならびにサザンブロットおよびDNA配列決定分析を含む一般的な核酸調製法は、Terada Rら、(2002)Nature Biotechnol 20:1030−1034;Terada Rら(2004)Plant Cell Rep 22:653−659;ならびにMorita Yら(2005)Plant J 42:353−363に記載されるように実施した。完全なコード領域を保持している約1.5kbのAdh遺伝子転写物を検出するために、SuperScriptIII逆転写酵素(Invitrogen)を使用して第一のcDNA鎖を合成し、RT2−F/RT2−R(それぞれ、配列番号16および17)を使用して、Adh2を、Ex Taqポリメラーゼ(Takara Biomedicals)によってPCR増幅した。構成的に発現される遺伝子であるユビキチン(D12629)を、Ubiq−F/Ubiq−Rと共に、RT−PCRについての内部コントロールとして使用した。PCRおよびRT−PCRのために使用されたプライマーを、以下の表1に示す。
【0125】
【表1】

Adh2をターゲティングするためのpJHYAd2ベクターを構築するために、Adh2プロモーターを含む6.2kbのフラグメントを、LA Taqポリメラーゼ(Takara Biomedicals)を使用して、プライマーF1およびR1を用いるPCR増幅によって、品種日本晴(Nipponbare)ゲノムから調製した(Morita Yら、(2005)Plant J 42:353−363;Terada Rら、(2002)Nature Biotechnol 20:1030−1034)。PCR条件は、以下の通りであった:
初回変性(94℃で1分間);
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(58℃で15分間)を、16サイクル;次いで
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(58℃で15分間、1サイクル当たり15秒を自動的に追加する)を、19サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)。
同様に、Adh2のコード領域を含む6.0kbのフラグメントもまた、プライマーF2およびR2を使用するPCRによって増幅した。PCR条件は、以下の通りであった:
初回変性(94℃で1分間);
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(62℃で15分間)を、16サイクル;次いで
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(62℃で15分間、1サイクル当たり15秒を自動的に追加する)を、19サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)。
得られたフラグメントを、まず、ベクターpCR−XL−TOPO(Invitrogen)に個々にクローニングし、次いでターゲティング骨格ベクターであるpINA134(Terada Rら、(2002)Nature Biotechnol 20:1030−1034)に再びクローニングし、pJHYAd2を得た。Adh2プロモーターを含む7.0kbのフラグメントもまた、プライマーF3およびR1を使用して、LA Taqポリメラーゼで増幅した。PCR条件は、以下の通りであった:
初回変性(94℃で1分間);
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(68.1℃で15分間)を、16サイクル;次いで
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(68.1℃で15分間、1サイクル当たり15秒を自動的に追加する)を、19サイクル; 最終伸長(72℃で10分間)。
このフラグメントをpCR−XL−TOPOにクローニングし、次いでpINA134に再びクローニングし、pJHYAd2Ct5を生成した。これを、プライマーF4およびR4と一緒に、PCRスクリーニングにおける信頼できる5’連結フラグメントを生成するために使用した。
【0126】
(植物の形質転換)
アグロバクテリウム媒介性イネ(Oryza sativa)形質転換法は、以前に記載された方法(Terada Rら、(2002)Nature Biotechnol
20:1030−1034)に、以下の改変を加えて行った。形質転換のための胚形成カルスを、イネ、Oriza sativa L.亜種、japonica cv.日本晴の約1000〜2000個の成熟した種子から調製した。アグロバクテリウムとの共培養の後、バンコマイシン(200mg/L)をアグロバクテリウムを除去するための洗浄用に使用した(Sallaud Cら、(2003)Theor Appl Genet 106:1396−1408)。Cephatoxim(400mg/L)およびバンコマイシン(100mg/L)を、ハイグロマイシンB含有(50mg/L)2N6−CH培地選択において継続的に使用した(Terada Rら、(2002)Nature
Biotechnol 20:1030−1034)。
【0127】
Adh2プロモーターを含む6.4kbの5’連結フラグメントを検出するために、LA Taqポリメラーゼを使用して、プライマーF4およびR4でPCR増幅を実施し、ヘテロ接合状態を模倣している等モルのpJHYAd2Ct5と日本晴DNAとを、コントロールDNAサンプルとして使用した。このPCR反応のサイクルは、以下の通りであった:
初回変性(94℃で1分間);
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(63.5℃で15分間)を、15サイクル;次いで
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(63.5℃で15分間、1サイクル当たり15秒を自動的に追加する)を、19サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)。
Adh2コード領域を含む6.8kbの3’連結フラグメントの検出のために、プライマーF5およびR5を用いてPCR分析を行った。このPCR条件は、以下の通りであった:
初回変性(94℃で1分間);
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(66.5℃で15分間)を、16サイクル;次いで
変性(98℃で10秒間)、アニーリングおよび伸長(66.5℃で15分間、1サイクル当たり15秒を自動的に追加する)を、19サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)。
これら6.4kbフラグメントおよび6.8kbフラグメントが、予想された5’および3’連結フラグメントにそれぞれ対応することを確認するために、これらのPCR増幅されたフラグメントの両端を、直接配列決定した。
【0128】
MS培地の塩基性塩およびビタミン、スクロース(30g/L)、ソルビトール(30g/L)、NAA(1mg/L)、BAP(2mg/L)、および0.8%アガロースタイプI(Sigma)を含むMSRE培地を、カルスから多数の苗条を再生するのに、慣習的に使用した(Terada Rら、(2002)Nature Biotechnol 20:1030−1034)。カルスを緩やかに再生させるためには、少ない量(通常のMSRE培地の1/4)の無機塩およびビタミンと、さらにIAA(1mg/L)およびZeatin(0.5mg/L)を含む改変MSRE培地を使用した。標的とされたカルスから、20を超えるトランスジェニック植物が多数の苗条から慣習的に再生し(Terada Rら、(2002)Nature Biotechnol 20:1030−1034)、この再生体がadh2::hptアレルを含むことを確認するために、5’および3’連結フラグメントを検出するためのPCR分析に供した。予想された通り、ほとんどの再生体が、adh2::hptアレルを保持しており、その中から活発に成長するトランスジェニック植物をさらなる分析のために選択した。T1分離個体におけるAdh2の遺伝型を試験するために、それぞれAdh2およびadh2::hptアレルに対する1.3kbおよび5.0kbのフラグメントを、プライマーF6およびR6を用いたPCR増幅によって確認した。
【0129】
(実施例1:相同組換え用核酸の設計)
本発明の相同組換え用核酸の概略が、図2Aに示される。本発明者らは、本研究において変異を導入する標的遺伝子として、イネのAdh2遺伝子を選択した。adh2変異については、これまでに報告されていない。Adh2の1.0kb下流には、高度に反復しているコピア様配列が存在する。Adh2遺伝子は、ゲノムにおいてAdh1遺伝子とAdh3遺伝子との間に位置し、全てのAdh遺伝子は、イネのカルスにおいて顕著に発現する。本実施例では、本発明の方法をイネのAdh2遺伝子に適用したが、標的とされる遺伝子はイネのAdh2遺伝子には限定されず、任意の生物の任意の遺伝子が標的とされ得ることを、当業者は容易に認識する。本実施例で使用した核酸は、上述のように調製した。
【0130】
複数の点変異が導入されたAdh2遺伝子は、PCR増幅によって作製した。PCR法によってDNAを増幅する際には、使用するTaqポリメレースが、しばしば(1kb毎に数ヶ所)の塩基配列の増幅エラー(以下PCRエラー)を引き起こすことが知られている。上記Adh2プロモーターを含む6.2kbのフラグメントおよびAdh2のコード領域を含む6.0kbのフラグメントは各々、ゲノムDNAを鋳型としてPCR増幅しているため、各フラグメント内にはPCRエラーが存在し得る。各増幅フラグメントをpCR−XL−TOPOにクローニングした、次いでその塩基配列を決定した。その結果、Adh2プロモーターを含む6.2kbのフラグメントには12個所の、Adh2のコード領域を含む6.0kbのフラグメントには7個所の塩基置換が導入されていることが明らかとなった。これらのフラグメントを使用して、以下のように標的ベクターpJHYAd2(相同組換え用核酸)を作製した。
【0131】
ハイグロマイシンB耐性(Hm)のためのポジティブ選抜マーカー遺伝子hptを0.1kbの5’非翻訳領域を含む6.2kbのAdh2プロモーターと、隣接するコピア様配列の2.0kbの3’部分を含む4.0kbのAdh2遺伝子との間に配置した。ネガティブ選抜マーカーであるジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)を、境界でのランダム挿入を効率的に排除する(ネガティブ選抜する)ために、T−DNAの両端の境界配列の横に配置した。この相同組換え用核酸については、図2Aを参照のこと。
【0132】
(実施例2 相同組換え体の作出および単離)
実施例1において作製した相同組換え用核酸pJHYAd2を使用して、上記(植物の形質転換)において記載したように、イネの形質転換を実施した。pJHYAd2を用いて、ポジティブ−ネガティブ選抜によって9個の生存カルスを得ることができた。
【0133】
最初に、相同組換えによってAdh2が改変されていない相同組換えカルスをスクリーニングするために、まずAdh2プロモーターを含む6.4kbの5’連結フラグメントが検出され得るか否かを、プライマーF4およびR4を用いるPCR分析によって試験し、次いでその5’連結フラグメントの存在が確認されたカルスにおいて、Adh2コード領域を含む6.8kbの3’連結フラグメントも存在するか否かを、プライマーF5およびR5を用いるPCR分析によって試験した(図3を参照のこと)。5’連結フラグメントが検出された9個のカルスは全て、3’連結フラグメントを含んでいることを確認した。これらの6.4kbフラグメントおよび6.8kbフラグメントが各々予測される5’連結フラグメントおよび3’連結フラグメントに対応することを確認するために、これらPCR増幅されたフラグメントの両端を配列決定した。配列決定したPCR増幅フラグメントは全て予測された連結フラグメントであることが示され、このことによって期待された相同組換えが9個のカルス全てにおいて起こったことを確認した。本発明者らはさらに、残りの459個の生存カルスにおいて3’連結フラグメントが検出され得るか否かをPCRによってさらに分析し、それらは全て6.8kbのフラグメントを生成しないことを確認した。以上のことから、目的とする相同組換えが起こった9個のカルスを単離した。
【0134】
(実施例3 相同組換えによって導入された塩基置換の同定)
実施例2において単離した各カルスから、上記の条件にて、Adh2プロモーターを含む6.4kbの5’連結フラグメントおよびAdh2コード領域を含む6.8kbの3’連結フラグメントをPCR増幅し、得られたフラグメントの全塩基配列を決定した。
【0135】
この結果を、図4に示す。図4に示されるように、9個のカルスでは、3つのグループ:S1〜S19の全ての点変異が導入されている、グループAの相同組換え体;S15から下流には野生型の配列が残っている(S15から下流には塩基置換が導入されていない)、グループBの相同組換え体;およびS1〜S19において野生型の配列と塩基置換とを入れ子状に有している(S1〜S19の種々の点において塩基置換が導入されている)、グループCの相同組換え体、が観察された。ここで、図4におけるグループA、BおよびCにおいて、Vは変異が挿入されていることを示し、Gは変異が挿入されず、植物細胞のゲノム領域が残存していることを示す。図4の結果から明らかなように、単一の相同組換え用核酸pJHYAd2を用いて、本発明の方法によって8種類の相同組換え体を得た。
【0136】
(実施例4 誘導型Cre遺伝子を組み込んだ相同組換え用核酸の構築)
リコンビナーゼCreを発現させてポジティブ選抜マーカーを除去する工程を省くことができる、より高効率の変異導入を可能にする、誘導型Cre遺伝子を組み込んだ相同組換え用核酸(図5を参照のこと)の構築を行った。
【0137】
具体的には、誘導型Cre遺伝子を組み込んだ相同組換え用核酸(以下pKIN7)を、以下のように作製した。基となるベクターはpINA134である。pKIN7は、pINA134にpBIMFN由来のEstradiolを用いてCre遺伝子を化学的に誘導するためのDNA断片(pAct−XVE−tE9)およびXVEにより誘導されるプロモーターと、Cre遺伝子とからなるDNA断片(OLexA−Cre−tNos)を組み込んだものである。構築方法はλRedシステム(M.−K.Chaveroche et al.,(2000)A rapid method for efficient gene replacement in the filamentous fungus Aspergillus ridulans.Nucleic Acids Res.,28:e97;J.P.P.Muyrers et al.,(2001)Techniques:Recomninogenic engineering−new options for cloning and manipulating DNA.Trend Biochem.Sci.,26:325−331を参照のこと)を用いた。
【0138】
(Step1)
pBIMFNから、不要な部分(pNOS−hpt−tNos)をλRedシステムを用いて取り除いた。ゼオシン耐性遺伝子(ZeocinR)を持つpCR−BluntII−TOPO(Invitrogen)を鋳型とし、pBIMFN上のtE9及びOLexAとそれぞれ50bpの相同性をもつプライマーZeoF(tE9と相同性を有する)とZeoR(OLexAと相同性を持つ)とを用いてPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子の両側にtE9およびOLexAと50bpの相同性を有するDNA断片を作製した。図6において、斜線部分は50bpの相同領域を示す。λRedシステムを用い、この断片とpBIMFNとの間で大腸菌内で組換えをおこさせ、不要な部分(pNOS−hpt−tNos)をゼオシン耐性遺伝子によって置き換え、削除しpBIMFN/hpt deletedプラスミドを作製した。
【0139】
(Step2)
pBIMFNから必要な部分のみ(pActからtNosまで)を、pBluescriptII(Stratagene)へクローニングした。pBluescriptIIを鋳型とし、プライマーpBl−FとpBl−Rとを用いてPCRを実施した。pBl−FにはpBIMFN上のpActと相同性を有する60bpの領域(図6においては灰色の四角で表示される)と、後述のpINA134のlox領域と相同性を有する40bpの領域(図6においては斜線と三角形で表示される)とを有する。またpBl−Rは、pBIMFN上のtNosと相同性を有する60bpの領域(図6においては灰色の四角で表示される)と、後述のpINA134のpActと相同性を有する40bpの領域(図6においては斜線とpAで表示される)を有する。このPCRによって作製したDNAフラグメントには、pBluescriptIIの配列の両側に、まずpBIMFNと相同性を有する領域(図6における灰色の領域)が存在し、さらに外側にpINA134と相同性を有する領域(図6における斜線部分)が存在する。このDNAフラグメントおよびStep1で作成したpBIMFN/hpt deletedプラスミドを用いて、λRedシステムにより大腸菌内で組換えを起こさせ、pBluescriptII/hpt deletedプラスミドを作製した。
【0140】
(Step3)
pINA134への誘導型Creの導入を行った。Step2で得られたpBluescriptII/hpt deletedプラスミドを、制限酵素SpeIおよびNotIで切断し、図6に示すDNA断片を得た。この断片およびpINA134を用いて、λRedシステムにより大腸菌内で組換えを起こさせ、pKIN6プラスミドを作製した。
【0141】
(Step4)
pKIN6より不要なゼオシン耐性遺伝子を除去した。用いたDNAフラグメントは、120merの人工的に合成したオリゴヌクレオチドであり、tE9とOLexAが連続的につながるように設計したオリゴヌクレオチドを、センス鎖及びアンチセンス鎖の2本作成した。この2種のオリゴヌクレオチドをアニールさせて2本鎖DNAとし(図6においては斜線部分で表示される)、pKIN6と合わせてλRedシステムにより大腸菌内で組換えを起こさせ、pKIN7を作製した。以下は、pKIN7作製の過程で使用したプライマーの配列である:
ZeoF 5‘TGAAACTGAAGGCGGGAAACGACAATCTGATCATGAGCGGAGAATTAAGGATTATTAACGCTTACAATTT 3’(配列番号20)
ZeoR 5‘TGTACAGTACGTCGAGGGGATGATAATGCGATTAGTTTTTTAGCCTCGACGATCTTCACCTAGATCCTTT 3’(配列番号21)
pBl−F 5‘GTTTTATTTTGGACTATCCCGACTCTCTTCTCAAGCATATGAATGACCTCGATCGAGATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATGCCCGGGCAAGCACTAGTGGATCCCCCGG 3’(配列番号22)
pBl−R 5‘GCGCGCAAACTAGGATAAATTATCGCGCGCGGTGTCATCTATGTTACTAGATCCGTACAATTGGTCAAAAGTGAAAACATCAGTTAAAAGGTGGTATAAAGTGCGGCCGCCACCGCGGTG 3’(配列番号23)
センス鎖オリゴヌクレオチド 5‘CAAACAAGCTTGAAACTGAAGGCGGGAAACGACAATCTGATCATGAGCGGAGAATTAAGGGTCGAGGCTAAAAAACTAATCGCATTATCATCCCCTCGACGTACTGTACATATAACCACT 3’(配列番号24)
アンチセンス鎖オリゴヌクレオチド 5‘AGTGGTTATATGTACAGTACGTCGAGGGGATGATAATGCGATTAGTTTTTTAGCCTCGACCCTTAATTCTCCGCTCATGATCAGATTGTCGTTTCCCGCCTTCAGTTTCAAGCTTGTTTG 3’(配列番号25)。
【0142】
(pKIN7を用いた相同組換え体の作出)
標的遺伝子と相同性を有する第一の相同領域および第二の相同領域をpKIN7に導入する。続いて、第一の相同領域および第二の相同領域内に複数の任意の点変異を導入し、本発明における相同組換え用核酸である変異導入ベクター(pKIN8)を完成させる。pKIN8を用いて遺伝子ターゲティングを行い、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を得る。その後組換え体から個体を再生させる工程においてエストラジオールによりCre遺伝子の発現を誘導し、2つのLox部位で部位特異的組換えを起こさせ、変異のみをゲノム中に有する個体を作出する。
【0143】
(実施例5 点変異を導入した相同組換え体からのCre酵素によるポジティブマーカーの除去
リコンビナーゼであるCreの発現を誘導して、実施例3で得られたAdh2遺伝子に塩基置換が導入された植物から、ポジティブ選抜マーカーを除去するためのベクターpCre−Kmを以下のように構築した。図7に示されるように、pBIMFNベクターのHPT遺伝子のORF部分を、λRedシステムを用いて(実施例4を参照のこと)、NPTII遺伝子に置き換えた。
【0144】
実施例3で得られたAdh2遺伝子に塩基置換が導入された植物の自殖後代から、Adh2遺伝子がホモで改変されている次世代を得た。このうち、#6系統をさらに自殖した種子からカルスを誘導し、培地中にエストラジオールを添加することによって、その発現を誘導することができる誘導型Cre遺伝子を発現させるためのpCre−Kmベクターをアグロバクテリウムによって導入した。pCre−Kmベクターの構造は図7及び図8に示す。形質転換カルスを分離するために、パロモマイシン(40mg/l)を加えた選抜培地にて約1ヶ月選抜し、パロモマイシン耐性を示す形質転換カルスを分離した。さらに得られたカルスを2.0μM及び4.0μMのエストラジオールを含む植物再生培地に14日間置いてCre遺伝子の発現を誘導し、その後エストラジオールを含まない再生培地にカルスを移し、再生した植物体をPCRにて解析した。エストラジオール添加により誘導されたCre酵素により、Adh2遺伝子領域内のlox配列に挟まれたポジティブ選抜マーカー(HPT遺伝子)および、ゲノム中に導入されたpCre−Km領域のlox配列に挟まれた配列(誘導型Cre遺伝子とNPTII遺伝子)がゲノム中より削除されるはずである。二つの領域の除去が起きた形質転換植物は、以下のようなPCRにて選抜した。
【0145】
Adh2領域からのHPT遺伝子の除去(PCR−Adh2)
初回変性(94℃で1分間);
変性(94℃で30秒間)、アニーリング(61.4℃で30秒間)、伸長(72℃で2分間)を30サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)。
プライマー;Adh2F:5’−GAGAGAAGAAAAGGCATCCATCC−3’(配列番号26)
Adh2R:5’−TGCACAATTGGACACTTGGTAGATTTCTTT−3’(配列番号27)
pCre−Km領域からのNPTII遺伝子および誘導型Cre遺伝子の除去(PCR−Cre)
初回変性(94℃で1分間);
変性(94℃で30秒間)、アニーリング(55℃で30秒間)、伸長(72℃で1分間)を30サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)。
プライマー;Cre−F:5’−AACTGACAACCGCAACGTTGAAGGATCC−3’(配列番号28)
Cre−R:5’−TAACACATTGCGGACGTTTTTAATGTACTG−3’(配列番号29)
【0146】
上記の2種のPCRにてどちらの領域からもlox配列に挟まれた配列が除去されたことが明らかとなった植物からゲノムDNAを抽出し、サザン法によってAdh2遺伝子領域の構造を解析したところ、2つの染色体の両方のAdh2領域からHPT遺伝子の除去が起きていることが確認された(図9)。またこれらの植物のAdh2領域の塩基配列を決定したところ、図8および図4の様な点変異が導入されていることも明らかとなった。すなわち、本実施例にて、本発明者らは、相同組換え体を選抜する際のポジティブマーカー(HPT遺伝子)をCre遺伝子の発現を誘導することで除去し、相同組換えによって効率良く導入した点変異を植物ゲノムに残すことができたことを示した。さらに、この結果から、従来のように複数回の相同組換えを必要としないだけでなく、実施例3または実施例6のように2回の形質転換を行なわなくとも、本実施例で構築したベクターを用いることにより、1回の形質転換によって、より簡便に当初の目的を達することができることが明らかである。
【0147】
(実施例6 品種金南風を用いた変異の導入)
品種日本晴以外のイネの品種においても、同様の結果が得られるか否かを、品種金南風(きんまぜ)を用いて検討した。図4で示す塩基置換のパターンは、詳細なゲノム配列が解析された品種日本晴に相同組換え用核酸pJHYAd2を導入して得られた結果である。品種日本晴の代りに品種金南風を用いて、実施例2と実施例3に記載の手順を繰返し、図10の結果を得た。この結果から、本願発明は、種を超えて普遍性があることが明らかである。
【0148】
(実施例7 導入したpCre−Kmベクターを分離した、マーカーフリーイネの作出)
実施例5で得られた、Adh2遺伝子領域内に点変異が導入され、遺伝子ターゲティングの際のポジティブマーカーであるハイグロマイシン耐性遺伝子を、Cre/lox部位特異的組換えにより除去した植物には、ゲノム中に後から導入したpCre−KmベクターのT−DNA断片やT−DNA領域の配列が残存している可能性がある(図11)。残存しているランダムにゲノムに挿入したT−DNA配列は実施例6のPCR断片が示す2つのボーダー配列とlox配列(図11B)だけでなく、部位特異的組換えが起こらなかったために、NPTII遺伝子領域等を持つT−DNA領域(図11C)があると考えられる。それ故、Adh2遺伝子領域内からポジティブマーカーを除去した植物の次世代を得て、分離により導入したpCre−Kmの全てのT−DNA断片の配列が全く残っていない植物を得ることを試みた(図11)。図12に示すように、pCre−KmのT−DNA領域内の選抜マーカーであるNPTII遺伝子および、T−DNAのボーダー配列付近のMCS部位付近をプローブとしたサザン法により、得られた次世代(T1世代)のゲノムを解析した。図12の#1や#14では、NPTIIとMCSのどちらのプローブを用いてもサザン法のシグナルが得られないので、余計なT−DNA断片は全く含まれないことは明らかである。さらにこれら個体のゲノム中には、図11で示したようにAdh2遺伝子内には点変異が導入されていることは、塩基配列を決定して確認した。即ち、Adh2遺伝子内の点変異とlox配列以外のゲノム領域は野生型と同様で、T−DNA由来の配列や選抜マーカー遺伝子配列を全く含まない、完全なマーカーフリーイネを作出できた。これにより、任意のゲノム中に目的の点変異を非常に効率良く導入し、かつ余分なマーカー遺伝子等の除去も可能であり、結果として目的の点変異のみを任意の遺伝子に導入することができたことを示した。
【0149】
(実施例8 マーカーフリー植物における、点変異を導入したAdh2遺伝子の発現解析)
実施例7で得られた、完全マーカーフリー植物を用いて、点変異を導入したAdh2遺伝子の発現解析を行った。播種後2週間の植物の根および葉よりRNAを抽出し、Adh2転写産物特異的に増幅するプライマー(Adh2cd−FおよびAdh2cd−R)を用いて、RT−PCRによりAdh2遺伝子の発現を解析した。図13で示したように、点変異を導入した個体でも、根において野生型とほぼ同等のAdh2遺伝子の発現を確認できた。また、変異を導入した個体では野生型よりも若干長い転写産物が得られた。得られた転写産物の塩基配列を決定したところ、この違いは1つのlox配列がAdh2遺伝子領域内に残り、lox配列も転写されているためであり、その他の領域は野生型と差異がないことが判明した。さらに葉においてはAdh2転写産物は野生型と同様にほとんど検出されず、たとえlox配列が挿入していたとしても、Adh2遺伝子の組織特異的な発現にはあまり影響していないことも分かった。したがって、遺伝子ターゲティングにより点変異を導入した時は、標的遺伝子の発現は全く見られないノックアウト変異であった植物から、部位特異的組換えによりポジティブマーカー遺伝子を除去した後、たとえlox配列が転写領域内に残っていたとしても、野生型と同等の転写を回復でき、導入した点変異の利用や、機能解析が可能であることが示された。
【0150】
Adh2転写産物の検出(RT−PCR)
初回変性(94℃で1分間);
変性(94℃で30秒間)、アニーリング(55℃で30秒間)、伸長(72℃で2分間)を32サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)
プライマー;Adh2cd−F:5’−GCAACGAACTGCGAGTGATTC−3’(配列番号30)
Adh2cd−R:5’−TCTCATCCATTTTTTGCTTTCA−3’(配列番号31)
ユビキチン遺伝子転写産物の検出(コントロール実験)
初回変性(94℃で1分間);
変性(94℃で30秒間)、アニーリング(55℃で30秒間)、伸長(72℃で2分間)を27サイクル;
最終伸長(72℃で10分間)
プライマー;Ubi−F:5’−CCAGGACAAGATGATCTGCC−3’(配列番号32)
Ubi−R:5’−AAGAAGCTGAAGCATCCAGC−3’(配列番号33)
【0151】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1A】図1Aは、本発明の高効率変異導入法における相同組換えのモデル図を示し、(i)のSDSA(synthesis−dependent strand−annealing:合成依存型1本鎖DNA会合)とは、太い矢印で示された新たに合成されたDNA鎖同士がハイブリダイズ(annealing)し、さらにDNA合成とライゲーションにより組換え体が生じる過程をさす。植物の核に導入された相同組換え用の一本鎖T−DNAは相同組換えの中間体として働き、1本鎖T−DNAの3’末端が植物の標的遺伝子領域ゲノムDNAの相同領域に侵入(invasion)し、(i)又は(ii)に示すような相同組換え過程が進行する。(i)は分枝点移動(branch migration)によってベクター由来の1本鎖T−DNAの相同領域のゲノムDNAがヘテロ2重鎖DNA (heteroduplex DNA) を形成する。この分枝点移動は、ポジティブ選抜マーカー遺伝子の非相同領域のはじまる所で停止するが、1本鎖T−DNAに切断が起り、その3’末端がゲノムDNAに再侵入して再び分枝点移動によりヘテロ2重鎖DNAを形成され、新たに合成された1本鎖DNA断片同士が会合するSDSA過程を経て相同組換えが起る経路(pathway)である。この場合は、生じたヘテロ2重鎖DNAの修復過程で種々の(2つ以上の)組合せの組換え体が生成され、高頻度で入れ子状の配列をもつ組換え体も生じる。一方、(ii)の場合は、T−DNA上の1本鎖相同領域を鋳型としてDNA が合成されるので、数塩基の変異(置換、挿入、および欠失)ばかりでなく、1〜2kb程度の比較的大きな置換、挿入、および欠失も効率よくベクターからゲノムへ移すことができる。それ故、従来の相同組換えでは困難な非相同領域をもつベクター上の配列とも高効率で組換えが起って相同組換え体を得ることが出来るので、この点もT−DNAを介した本組換え機構の特徴である。
【図1B】図1Bは、従来のノックイン法における相同組換えのモデル図を示す。この場合も末端で、ヘテロ2重鎖DNAを生じる可能性はあり、修復機構によって末端がベクター由来の配列か植物ゲノム由来に配列になり得るが、配列が入れ子状にはならない。
【図2A】図2Aは、本発明の高効率変異導入法の概略を示す。各部位の説明は、図の下部に記載されている。
【図2B】図2Bは、従来のノックイン法の概略を示す。各部位の説明は、図の下部に記載されている。
【図3】図3Aは、Adh遺伝子座のゲノム構造を示す。図3Bは、本発明の一実施形態において使用される相同組換え用核酸pJHYAd2の構造を示す。図3Cは、本発明の方法によって改変されたAdh2遺伝子の構造を示す。マップの下の水平線およびそれに隣接している小さな矢印は、それぞれPCRフラグメントおよびプライマーを示す。Copia−likeは、コピア様配列を示す。
【図4】図4は、実施例2において単離した各カルスにおいて、導入された塩基置換のパターンを示す。グループA、BおよびCにおいて、Vは変異が挿入されていることを示し、Gは変異が挿入されず、植物細胞のゲノム領域が残存していることを示す。
【図5】図5は、誘導型Creを組み込んだ相同組換え用核酸の概略を示す。この相同組換え用核酸を用いて本発明の方法を実施し、その後Cre遺伝子の発現を誘導して、塩基置換を導入する。相同組換え用核酸における各部位の説明は、図の下部に記載されている。
【図6】図6は、誘導型Creを組み込んだ相同組換え用核酸であるpKIN7の構築およびその構造を示す。
【図7】図7はCre酵素をトランスに供給するためのpCre−Kmベクターの構築及びその構造を示す。
【図8】図8は実施例5の概略を示す。下向き矢印の右側にはpCre−Kmベクターの構造を示す。また左側には、各lox配列で挟まれ、Cre遺伝子の作用で除去され得る領域を模式的に示す。Adh2遺伝子領域のマップ内の黒丸はベクター由来の塩基置換が起きたことを示し、白丸は植物ゲノムの配列が保持されていることを示す。マップの下の水平線およびそれに隣接している矢印は、それぞれPCRフラグメントおよびプライマーを示す。
【図9】図9はサザン法の結果を示す(A)。用いた植物は、独立に得られたカルスより再生した2個体であり、それぞれ1,2で示した。WTは非形質転換体の日本晴個体をまた、GTはpCre−Kmを形質転換していない、Adh2遺伝子領域がホモで相同組換え(ターゲティング)によって改変された個体を示す。全てのゲノムはKpnIにて制限酵素処理をした。用いたプローブはAdh2遺伝子の下流領域の3’U(図9B参照)である。サザン法で得られるバンドの大きさをBに示した。Typeアは野生型のアレルを示し、15kbのバンドが得られる。Typeイはターゲット型アレルを示し、7.6 kbのバンドが得られる。Typeウは目的のHPT遺伝子が削除されたアレルを示し、11kbのバンドが得られる。また、K*は相同組換えにより導入された点変異により、作出された新たなKpnI部位を示す。
【図10】図10は、品種金南風を用いて単離したカルスにおいて、導入された塩基置換のパターンを示す。ベクター由来の点変異を黒丸(●)、ゲノムの配列を白丸(○)で示す。なお、品種金南風は品種日本晴に比べて、Adh2遺伝子領域内に、さらにもう1つ多型(PK)が見出された。
【図11】完全なマーカーフリー個体を得るための策を模式的に示す。部位特異的組換えにより得られた個体のゲノムには、点変異を有するAdh2遺伝子(A)だけでなく、T−DNA内で部位特異的組換えが起きた断片(B)以外にも組換えが起きなかった断片(C)が存在する可能性がある。後から導入したpCre-KmのT−DNA断片を含まない個体を得るために、得られた組換え体を自殖して、T1次世代を得た。分離すると考えられるゲノム構造のうち、3例を示す。中央に示した個体が、目的の完全なマーカーフリー個体である。
【図12】マーカーフリー個体をサザン法により検出した。NPTIIとMCSプローブのハイブリダイズしうる領域をそれぞれ「NPTII probe」、「MCS probe」として示した。MCSプローブは図11-Bの様な断片と図11Cの様な断片のどちらも検出し得る。野生型は野生型日本晴(非形質転換体)を用いた。#1と#14の個体は、どちらのプローブを用いてもシグナルが得られないため、完全なマーカーフリー個体であると判明した。
【図13】図12で示した#1と#14個体を用いて、Adh2遺伝子の発現をRT−PCRにて検出した。RNAは播種後2週間の植物の根と葉から抽出した。完全マーカーフリー個体のAdh2遺伝子の発現は、野生型日本晴(野生型)と同じ組織で転写産物が観察されたので、部位特異的組換えにより、HPT遺伝子を除去することで、Adh2遺伝子の発現が回復したことを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0153】
配列番号1=Adh2の核酸配列
配列番号2=Adh2のアミノ酸配列
配列番号3=プラスミドpINA134
配列番号4=loxP
配列番号5=F1プライマー
配列番号6=R1プライマー
配列番号7=F2プライマー
配列番号8=R2プライマー
配列番号9=F3プライマー
配列番号10=F4プライマー
配列番号11=R4プライマー
配列番号12=F5プライマー
配列番号13=R5プライマー
配列番号14=F6プライマー
配列番号15=R6プライマー
配列番号16=RT2−Fプライマー
配列番号17=RT2−Rプライマー
配列番号18=Ubiq−Fプライマー
配列番号19=Ubiq−Rプライマー
配列番号20=ZeoFプライマー
配列番号21=ZeoRプライマー
配列番号22=pBl−Fプライマー
配列番号23=pBl−Rプライマー
配列番号24=センス鎖オリゴヌクレオチド
配列番号25=アンチセンス鎖オリゴヌクレオチド
配列番号26=Adh2Fプライマー
配列番号27=Adh2Rプライマー
配列番号28=Cre−Fプライマー
配列番号29=Cre−Rプライマー
配列番号30=Adh2cd−Fプライマー
配列番号31=Adh2cd−Rプライマー
配列番号32=Ubi−Fプライマー
配列番号33=Ubi−Rプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物において、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製する方法であって、以下:
(a)植物細胞内に相同組換え用核酸を導入する工程、および
(b)該相同組換え用核酸が導入された該植物細胞を培養する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記異なるゲノム配列は、少なくとも2つの前記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、および該少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相同組換え用核酸が、アグロバクテリウム菌によって前記植物細胞に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
植物において、再生能のある植物細胞から、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上のトランスジェニック植物を調製する方法であって、以下:
(a)植物細胞内に相同組換え用核酸を導入する工程、
(b)該相同組換え用核酸が導入された植物細胞を培養する工程、および
(c)該培養された細胞より、トランスジェニック植物を調製する工程、
を包含する、方法。
【請求項5】
前記異なるゲノム配列は、少なくとも2つの前記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、および該少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物細胞のゲノム領域からなるゲノム領域を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記相同組換え用核酸が、アグロバクテリウム菌によって前記植物細胞に導入される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記相同組換え用核酸が、以下:
(1)第一のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第一の相同組換え領域、
(2)第二のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第二の相同組換え領域、および
(3)該第一の領域と該第二の領域との間に挟まれた、ポジティブ選択マーカー、
を含有し、ここで、該第一の領域および該第二の領域が、該第一のゲノム領域またはその相補鎖および該第二のゲノム領域またはその相補鎖に対して、少なくとも2つ以上の変異を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記相同組換え用核酸が、以下:
(4)第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子;および
(5)第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子、
をさらに含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子と前記第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子が同一の遺伝子である、方法。
【請求項10】
前記相同組換え用核酸が、前記ポジティブ選抜マーカー遺伝子の上流および下流に(6)部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)認識配列をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記相同組換え用核酸が、(7)発現誘導可能な部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)遺伝子をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポジティブ選抜マーカー遺伝子が、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子および薬剤耐性遺伝子からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記ネガティブ選抜マーカー遺伝子が、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子およびbarnase遺伝子からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記部位特異的組換え酵素を発現させて、前記ポジティブ選抜マーカー遺伝子を前記植物細胞から除去する工程をさらに包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
植物において、異なるゲノム配列を有する少なくとも2つ以上の相同組換え体を調製するための組成物であって、相同組換え用核酸を含有する、組成物。
【請求項16】
前記異なるゲノム配列は、少なくとも2つの前記相同組換え用核酸由来のゲノム領域、および該少なくとも2つの相同組換え用核酸由来のゲノム領域に挟まれた少なくとも1つの前記植物の細胞のゲノム領域からなるゲノム領域を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記相同組換え用核酸が、アグロバクテリウム菌によって前記植物に導入される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記相同組換え用核酸が、以下:
(1)第一のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第一の相同組換え領域、
(2)第二のゲノム領域またはその相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし得る、第二の相同組換え領域、および
(3)該第一の領域と該第二の領域との間に挟まれた、ポジティブ選択マーカー、
を含有し、ここで、該第一の領域および該第二の領域が、該第一のゲノム領域またはその相補鎖および該第二のゲノム領域またはその相補鎖に対して、少なくとも2つ以上の変異を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記相同組換え用核酸が、以下:
(4)第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子;および
(5)第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子、
をさらに含有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物であって、前記第一のネガティブ選抜マーカー遺伝子と前記第二のネガティブ選抜マーカー遺伝子が同一の遺伝子である、組成物。
【請求項21】
前記相同組換え用核酸が、前記ポジティブ選抜マーカー遺伝子の上流および下流に(6)部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)認識配列をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
前記相同組換え用核酸が、(7)発現誘導可能な部位特異的組換え酵素(リコンビナーゼ)遺伝子をさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記ポジティブ選抜マーカー遺伝子が、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子および薬剤耐性遺伝子からなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
前記ネガティブ選抜マーカー遺伝子が、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子およびbarnase遺伝子からなる群から選択される、請求項19に記載の組成物。

【図8】
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【図10】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−253254(P2008−253254A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63405(P2008−63405)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人農業生物資源研究所「有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)」
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】