説明

高吸着性能多孔性成形体及びその製造方法

【課題】下水や排水中に含まれる低濃度のリン、ホウ素、フッ素、ヒ素等を、高速に吸着除去でき、吸着容量が大きい吸着剤に適した多孔性成形体の提供。
【解決手段】有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔生の成形体であって、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて得られる、該多孔性の成形体に担持されている無機イオン吸着体を構成する成分元素の95%相対累積X線強度と5%相対累積X線強度の比(相対累積X線強度比)が1〜10となることを含む、上記多孔性成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高吸着性能多孔性成形体及びその製造方法に関する。特に、河川水、下水処理水、工場排水中に含まれる、リン、ホウ素、ヒ素、フッ素イオンを選択的に吸着除去する吸着体に適した、処理速度が速くかつ吸着容量が大きい多孔性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染、富栄養化の問題から、飲料水、工業用水、工業排水、下水道処理水、環境水中のリン、ホウ素、ヒ素、フッ素イオン等の環境基準が強化され、それらを除去する技術が求められている。
リンは富栄養化の原因物質の一つであり、閉鎖水域で規制が強まっている。また、枯渇が危惧されている元素であり、排水中から回収し、再利用する技術が求められている。
ホウ素は、植物の育成にとって必須の元素であるが、過剰に存在すると植物の成長に悪影響を及ぼすことが知られている。さらに、人体に対しても、飲料水中に含まれると健康への影響、特に生殖機能の低下等の健康障害を起こす可能性が指摘されている。
ヒ素は、非鉄金属精錬工業の排水や、地熱発電所の熱排水、また特定地域の地下水等に含まれている。ヒ素の毒性については昔より知られているが、生体への蓄積性があり、慢性中毒、体重減少、知覚傷害、肝臓障害、皮膚沈着、皮膚がんなどを発症すると言われている。
フッ素は、金属精錬、ガラス、電子材料工業等からの排水に多く含まれる場合が多い。フッ素の人体へ影響が懸念されており、過剰に摂取すると、斑状歯、骨硬化症、甲状腺障害等の慢性フッ素中毒症を引き起こすことが知られている。
さらに、文明の発達にともない、これらの有害物質の排出量は増加することが懸念され、これらを効率的に除去する技術が求められている。
【0003】
これらの有害物質を除去する従来技術としては、ジルコニウム含水亜鉄酸塩や、含水酸化セリウム等の無機イオン吸着体粉末を高分子材料に担持させた吸着剤が知られている(特許文献1参照)。この公知の吸着剤は、多孔性であり表面の開孔性も高く、リンやホウ素等の吸着対象物の吸着体内部への拡散が速いので吸着性能が優れている。この成形体は、粉末の無機イオン吸着体をバインダの有機高分子と有機高分子の良溶媒、さらに水溶性高分子と混合して原料スラリーを得た後、該原料スラリーを成形して、水等の貧溶媒と接触させて凝固させる方法で製造される。
【0004】
しかし、従来の製造方法では、有機溶媒中に有機高分子と水溶性高分子を溶解させたポリマー溶液は粘度が高いため、該ポリマー溶液中に無機イオン吸着体を均一に分散することは困難であった。事実、不十分な分散のまま成形した多孔性成形体の内部には、無機イオン吸着体の二次凝集物が観察され、仕込みで入れた無機イオン吸着体全量が有効に吸着性能に反映されないという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/056175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、用水や排水中に含まれる低濃度のリン、ホウ素、フッ素、ヒ素等を、高速に吸着除去でき、また吸着容量が大きく、かつ耐久性が高く繰り返し使用できる吸着剤に適した多孔性成形体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、原料スラリーを製造する工程で、無機イオン吸着体を有機溶媒中に均一に混合する際に、水溶性高分子を無機イオン吸着体の分散剤として加え、更にビーズミル等の粉砕・混合手段を用いて粉砕・混合する製造方法を採ることで、成形後の多孔性成形体中に無機イオン吸着体の二次凝集物が少なく、吸着性能に優れる多孔性成形体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性の成形体であって、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて得られる、該多孔性の成形体に担持されている無機イオン吸着体を構成する成分元素の95%相対累積X線強度と5%相対累積X線強度の比(相対累積X線強度比)が1〜10となることを含む、上記多孔性成形体。
(2)前記多孔性成形体が、連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている、上記(1)記載の多孔性成形体。
(3)前記連通孔が、成形体表面付近に最大孔径層を有する、上記(1)または(2)に記載の多孔性成形体。
(4)平均粒径が100〜2500μmである、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の多孔性成形体。
(5)前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる一種以上を含んでなる、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の多孔性成形体。
(6)前記無機イオン吸着体が、下記式(I)で表される金属酸化物を少なくとも一種を含有している、上記(1)〜(5)に記載の多孔性成形体。
MN・mHO・・・・・・(I)
(式中、xは0〜3、nは1〜4、mは0〜6であり、MおよびNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。)
(7)前記金属酸化物が、下記(a)〜(c)のいずれかの群から選ばれる1種又は2種以上の混合物である、上記(6)に記載の多孔性成形体。
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる金属元素と、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
(8)前記無機イオン吸着体が、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の多孔性成形体。
(9)無機イオン吸着体の担持量が65〜95%である、上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の多孔性成形体。
(10)前記フィブリルが、有機高分子樹脂、無機イオン吸着体、及び水溶性高分子を含んでなる、上記(2)〜(9)のいずれか一つに記載の多孔性成形体。
(11)前記水溶性高分子が合成高分子である、上記(10)に記載の多孔性成形体。
(12)前記水溶性高分子が、ポリビニルピロリドンである、(10)又は(11)に記載の多孔性成形体。
(13)前記水溶性高分子の含有量が0.001〜10%である、上記(10)〜(12)のいずれか一つに記載の多孔性成形体。
(14)上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の多孔性成形体を充填しているカラム。
(15)有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性成形体の製造方法であって、(1)少なくとも有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体と水溶性高分子の3種を粉砕・混合手段を用いて粉砕・混合してスラリーを得る粉砕・混合工程、(2)工程(1)で得たスラリーに有機高分子樹脂を溶解する溶解工程、(3)工程(2)で得たスラリーを成形し、貧溶媒中で凝固させる成形工程を含んでなる、多孔性成形体の製造方法。
(16)前記粉砕・混合手段が、媒体撹拌型ミルである、上記15)に記載の方法。
(17)前記有機高分子樹脂の良溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる1種以上である、上記(15)〜(16)記載の方法。
(18)貧溶媒が、水、又は、有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物である、上記(15)〜(17)のいずれか一つに記載の方法。
(19)前記有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の混合比が0〜40%である、上記(15)〜(18)のいずれか一つに記載の方法。
(20)成形の方法が、回転する容器の側面に設けたノズルから、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、水溶性高分子、無機イオン吸着体を混合したスラリーを飛散させて液滴を形成させることを含む、上記(15)〜(19)のいずれか一つに記載の方法。
(21)上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の多孔性成形体を含んでなる、多孔性吸着体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔性成形体は、成形体中に無機イオン吸着体の二次凝集物が少ないので、仕込みで用いた無機イオン吸着体の全てが均一に成形体の全体に分散し、その全てが有効に吸着に関与しているので、吸着対象物質との接触効率が極めて高い。
また、無機イオン吸着体の二次凝集物が少ないため、二次凝集物が起点となって割れることが少ないので、耐久性も高い。
したがって、低濃度のリンやホウ素、フッ素及びヒ素等を含む用水や排水を、好適に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率200倍)。
【図2】実施例1の成形体の割断面表面付近を示す電子顕微鏡写真(倍率500倍)。
【図3】実施例1の成形体の外表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図4】実施例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図5】比較例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率150倍)。
【図6】比較例1の成形体の割断面表面付近を示す電子顕微鏡写真(倍率500倍)。
【図7】比較例1の成形体の外表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図8】比較例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。
まず、本発明の成形体の構造について説明する。
本発明の多孔性成形体は、有機高分子樹脂からなる多孔性成形体に、無機イオン吸着体が担持されている。
本発明の多孔性成形体に担持されている無機イオン吸着体の成形体中での該無機イオン吸着体の分布状態では、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析して求めた該無機イオン吸着体を構成する成分元素の濃度分布において、該成分元素の95%相対累積X線強度と5%相対累積X線強度の比(相対累積X線強度比)が1〜10である。さらに好ましい相対累積X線強度比の範囲は、1〜7であり、更に好ましくは、1〜5である。
無機イオン吸着体の成形体中での該無機イオン吸着体の分布状態の分析方法では、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて面分析を行う。この分析により得られた面分析データ、具体的にはX線強度(カウント数)の度数分布を統計処理する。
5%相対累積X線強度とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で成形体の割断面を面分析して求めた、無機イオン吸着体を構成する成分元素のX線強度の度数分布を、小さいX線強度(低濃度)側からそのX線強度の度数を積算し、X線強度の度数の累計が5%に達するX線強度の値である。
同様に、95%相対累積X線強度とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で成形体の割断面を面分析して求めた、無機イオン吸着体を構成する成分元素のX線強度の度数分布を、小さいX線強度(低濃度)側からそのX線強度の度数を積算し、X線強度の度数の累計が95%に達するX線強度の値である。このようにして求めた、95%相対累積X線強度と5%相対累積X線強度を用いて、下記式より、相対累積X線強度比を求めた。
相対累積X線強度比=95%相対累積X線強度/5%相対累積X線強度
【0012】
この相対累積X線強度比は、無機イオン吸着体の成形体中での該無機イオン吸着体の分散状態を示す。相対累積X線強度比が10以下では、無機イオン吸着体の多孔性成形体中での該無機イオン吸着体の分散状態が良好であり、いわゆるダマと呼ばれるような二次凝集物が少ない。よって無機イオン吸着体と吸着対象イオンとの接触効率が高くなり、吸着性能が良好に保たれる。
さらに、無機イオン吸着体の二次凝集物が少ないため、二次凝集物が起点となって割れるといったことが少ないため耐久性も高い。
【0013】
本発明の成形体は、次のような特殊な多孔構造を持つことが好ましい。
本発明の多孔性成形体は連通孔を有し多孔質な構造を有する。さらに、外表面にはスキン層が無く、表面の開口性に優れる。さらに、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有し、その空隙の少なくとも一部はフィブリル表面で開孔している。無機イオン吸着体は、該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に担持されている。
本発明の成形体の外表面開口率は、走査型電子顕微鏡で表面を観察した視野の面積中に占める全ての孔の開口面積の和の割合をいう。本発明では10,000倍で成形体の表面を観察し外表面開口率を実測した。本発明の多孔性成形体の外表面の電子顕微鏡写真を図3に示した。
【0014】
好ましい表面開口率の範囲は、10〜90%であり、特に15〜80%が好ましい。10%以上では、リンやホウ素等の吸着対象物質の成形体内部への拡散速度の低下が抑えられ、一方90%以下では成形体の強度が十分であり、力学的強度に優れた成形体の実現が可能になる。
本発明の成形体の外表面開口径は、走査型電子顕微鏡で表面を観察して求める。孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
好ましい表面開口径の範囲は、0.005μm〜100μmであり、特に0.01μm〜50μmが好ましい。0.005μm以上では、リンやホウ素等の吸着対象物質の成形体内部への拡散速度の低下が抑えられ、一方、100μm以下では成形体の強度が十分となる。
【0015】
本発明の成形体は、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有し、かつ、その空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔している。無機イオン吸着体は、このフィブリルの外表面およびフィブリル内部の空隙表面に担持されている。フィブリル自体も多孔質であるため、内部に埋め込まれた吸着基質である無機イオン吸着体も、リンやホウ素といった吸着対象物質と接触することができ、有効に吸着剤として機能することができる。
本発明の多孔性成形体は、このように吸着基質が担持されている部分も多孔質であるため、吸着基質とバインダを練り込んでつくる従来の方法の欠点であった、吸着基質の微細な吸着サイトがバインダで塞がれるといったことが少なく、吸着基質である無機イオン吸着体を有効に利用することができる。
ここで、フィブリルとは有機高分子樹脂からなり、成形体の外表面および内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を意味する。
フィブリル内部の空隙およびフィブリル表面の開孔は、走査型電子顕微鏡で成形体の割断面を観察して判定する。図4は、本発明の多孔性成形体の割断面を10,000倍で観察した電子顕微鏡写真である。フィブリルの断面には空隙があり、フィブリルの表面は開孔していることが観察される。さらに、無機イオン吸着体がフィブリルの外表面及び内部の空隙表面に担持されている様子が観察される。
フィブリルの太さは、0.01μm〜50μmが好ましい。
フィブリル表面の開孔径は、0.001μm〜5μmが好ましい。
【0016】
本発明の成形体の構造が発現するメカニズムを以下に考察する。
一般に、ポリマーとポリマーの良溶媒の混合物を貧溶媒の中に浸漬して、溶媒交換によりポリマーのゲル化を行わせて多孔体を形成する方法を湿式相分離法という。これらの過程で良溶媒の比率が減少し、それにつれてミクロ相分離が生じ、ポリマーの小球が形成し、成長し、絡み合い、フィブリルが形成され、フィブリルの隙間が連通孔となる。
さらに、成形体構造の決定(凝固)は、貧溶媒の内部への拡散により、外表面から内部へと順次進行していく。この方法では、成形体の表面にはスキン層と呼ばれる緻密な層が形成されるのが一般的である。
これに対し、本発明では、後述する水溶性高分子を添加することにより、相分離の過程で、ポリマーの絡み合いの間に水溶性高分子が分散し、介在することで、細孔同志が互いに連通し、フィブリル内部も多孔質となり、さらにフィブリル表面も開孔する。さらに、成形体の外表面においても開口し、スキン層のない成形体が得られるものと考えられる。
さらに、水溶性高分子は、相分離の過程で一部は貧溶媒側に溶けだしていくが、一部は、有機高分子樹脂の分子鎖と絡みあったまま、フィブリルの中に残る。この残存した水溶性高分子は、無機イオン吸着体である吸着基質とフィブリルの隙間をコーティングして、吸着基質の活性点を塞がない役目をすると考えられる。したがって、本発明の多孔性成形体は、担持した無機イオン吸着体の吸着能力のほぼ全てを使うことができ、効率が高い。
さらに、水溶性高分子は、フィブリルの表面からその分子鎖を一部、あたかもヒゲのように伸ばすため、フィブリルの表面は親水性に保たれ、疎水的吸着などからの防汚効果も期待できる。
【0017】
本発明の多孔性成形体は、連通孔が、成形体表面付近に最大孔径層を有することが好ましい。ここで、最大孔径層とは、成形体の表面から内部に至る連通孔の孔径分布中で最大の部分をいう。ボイドと呼ばれる円形或いはだ円形(指状)の大きな空隙がある場合には、ボイドが存在する層を最大孔径層という。
表面付近とは、外表面から中心部へ向かって、成形体の割断径の25%まで内側を意味する。
最大孔径層が成形体表面付近にあることによって、吸着対象物質の内部への拡散を速める効果を有する。よって、リンやホウ素といった吸着対象物質を素早く成形体内部に取り込み、処理水中から除去することができる。
最大孔径及び最大孔径層の位置は、成形体の表面および割断面を走査型電子顕微鏡で観察して求める。
【0018】
孔径は、孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、その面積と同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
成形体の形態は、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態をとることができる。
粒子状の成形体の成形方法は特に限定されないが、1流体ノズルや2流体ノズルから、ポリマースラリー(有機高分子樹脂と、該有機高分子樹脂の良溶媒と、水溶性高分子と、無機イオン吸着体の混合スラリー)を噴霧して凝固浴中で凝固する方法があげられる。
特に、粒子状で粒度分布がそろったものが得られる点で、下記の回転ノズル法が特に好ましい。回転ノズル法とは、高速で回転する回転容器の側面に設けたノズルから、遠心力で、ポリマースラリーを飛散させて液滴を形成させる方法である。
ノズルの径は、0.1mm〜10mmの範囲が好ましく、0.1mm〜5mmの範囲がより好ましい。0.1mm以上では液滴が飛散しやすく、10mm以下では、粒度分布の広がりを抑えることができる。
【0019】
遠心力は、遠心加速度で表され5〜1500Gの範囲が好ましく、10〜1000Gの範囲がより好ましい。より好ましくは、10〜800Gの範囲である。遠心加速度が5G以上では、液滴の形成と飛散が容易であり、1500G以下では、ポリマースラリーが糸状にならずに吐出するので粒度分布が広くなるのを抑えることができる。
糸状およびシート状成形体は、該当する形状の紡口、ダイスからポリマースラリーを押し出し、貧溶媒中で凝固させる方法を採ることができる。また、中空糸状成形体は、環状オリフィスからなる紡口を用いることで同様に成形できる。円柱状および中空円柱状成形体は、紡口からポリマースラリーを押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断してもよい。
なかでも、成形体を水処理分野において吸着剤として使用する場合には、カラム等に充填して通水する際の圧力損失、接触面積の有効性の点、取り扱い易さの点から粒子状が好ましく、特に球状粒子(真球状のみならず、楕円球状であってもよい)が好ましい。
本発明の球状成形体の平均粒子径は、該粒子を球状とみなして、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のメジアン径である。好ましい平均粒子径の範囲は、100〜2500μmであり、特に200〜2000μmが好ましい。平均粒子径が100μm以上では、カラムやタンクになどへ充填した際に圧力損失を抑え、また、平均粒子径が2500μm以下では、カラムやタンクに充填したときの表面積が大きくなり、処理効率が上がる。
【0020】
本発明の成形体の空孔率Pr(%)とは、成形体の含水時の重量W1(g)、乾燥後の重量W0(g)、及び成形体の比重をρとするとき、下式で表わされる値をいう。
Pr=(W1−W0)/(W1−W0+W0/ρ)×100
含水時の重量は、十分に水に濡れた成形体を、乾いたろ紙上に拡げ、余分な水分をとってから含水時の重量を測定すればよい。乾燥は、水分をとばすために、室温下で真空乾燥を行えばよい。成形体の比重は、比重瓶を用いて簡便に測定することができる。
好ましい空孔率Pr(%)の範囲は、50%〜90%であり、特に60〜85%が好ましい。50%以上でリンやホウ素等の吸着対象物質と吸着基質である無機イオン吸着体との接触頻度が十分となる。90%以下では、成形体の強度が十分となる。
【0021】
本発明の成形体の無機イオン吸着体の担持量は、成形体の乾燥時の重量Wd(g)、灰分の重量Wa(g)、とするとき下式で表わされる値をいう。
担持量(%)=Wa/Wd ×100
ここで、灰分は本発明の成形体を800℃で2時間焼成したときの残分をいう。
高吸着性能の多孔性成形体を得るためには無機イオン吸着体の担持量を高くすることが好ましい。ただし高くし過ぎると成形体の強度が不足しやすくなる。好ましい担持量の範囲は65〜95%であり、さらに好ましくは70〜90%であり、特に75〜90%が好ましい。
【0022】
本発明の方法によると、従来技術の添着法とは異なり、吸着基質と有機高分子樹脂を練り込んで成形するため、担持量を多く保ち、且つ強度の強い成形体を得ることができる。
本発明の成形体の比表面積は、次式で定義される。
比表面積(m/cm)=SBET×かさ比重(g/cm
ここで、SBETは、成形体の単位重量あたりの表面積(m/g)である。
比表面積は、成形体を室温で真空乾燥した後、吸着ガスに窒素ガスを用いたBET法でSBETを測定し、上式により算出する。
かさ比重の測定方法は、粒子状、円柱状、中空円柱状等の形状が短いものは、湿潤状態の成形体を、メスシリンダー等を用いてみかけの体積を測定する。その後、室温で真空乾燥して重量を求める。
糸状、中空糸状、シート状の形状が長いものについては、湿潤時の断面積と長さを測定して、両者の積から体積を算出する。その後、室温で真空乾燥して重量を求める。
好ましい比表面積の範囲は、5m/cm〜500m/cmである。5m/cm以上では、吸着基質の担持量および吸着性能が十分となる。500m/cm以下では、成形体の強度が十分となる。
【0023】
一般的に、吸着基質である無機イオン吸着体の吸着性能は、比表面積に比例する場合が多い。したがって比表面積(単位体積あたりの表面積)が小さいと、単位体積あたりの吸着性能が低くなり、カラムやタンクに充填したときの高速処理や高容量処理を達成しにくい。
本発明の成形体は、多孔質でありフィブリルが複雑に絡み合った三次元網目構造をとる。さらに、フィブリル自体も空隙を有するため、表面積が大きいという特徴を有する。このフィブリルに、さらに大きい比表面積をもつ吸着基質である無機イオン吸着体を、単位体積あたりに高い含有率で担持させるので、単位体積あたりの表面積が極めて大きくなるのが特徴である。
【0024】
次に本発明の多孔性成形体の製造方法について説明する。
本発明の多孔性成形体の製造方法は、
(1)少なくとも有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体と水溶性高分子の3種を粉砕・混合手段を用いて粉砕・混合してスラリーを得る粉砕・混合工程、
(2)工程(1)で得たスラリーに有機高分子樹脂を溶解する溶解工程、
(3)工程(2)で得たスラリーを成形し、貧溶媒中で凝固させる成形工程を含んでなることを特徴とする。
無機イオン吸着体を、有機高分子樹脂の良溶媒中で湿式粉砕することにより、無機イオン吸着体を微粒子化できる。さらに、この粉砕・混合工程において、水溶性高分子を加えることで、水溶性高分子が分散助剤の働きをし、粉砕の効率を改善し、さらに無機イオン吸着体の再凝集を防ぐ役割をする。その結果、成形後の多孔性成形体に担持された無機イオン吸着体には二次凝集物が少ない。
水溶性高分子が分散助剤として働くメカニズムを以下に考察する。
【0025】
水溶性高分子は、無機イオン吸着体の固体表面に吸着し、凝集している固体粒子を液体である有機高分子樹脂の良溶媒に濡れやすくする。濡れ性向上により凝集体は良溶媒中でほぐれ、凝集体中の空気を液体で置換できる。また、分子量が高い水溶性高分子は嵩高いので、無機イオン吸着体の固体表面に吸着層を形成し、固体粒子の表面電荷を増加させたり、立体障害により粒子間の反発力を高めることができる。
水溶性高分子には、ここで説明した分散剤としての効果と、先述した特殊な多孔構造をつくる効果の2つの効果がある。本発明の特徴は、従来技術で用いていた水溶性高分子の新たな効果を発見したものであり、多孔性成形体の性能面と製造面にもたらす効果は高い。性能面の効果は、成形体中に無機イオン吸着体の二次凝集物が少ないので、仕込みに用いた無機イオン吸着体の全てが均一に成形全体に分散し、その全てが有効に吸着に関与し、吸着対象物質との接触効率が極めて高いということである。
また、二次凝集物が少ないため、二次凝集物が起点となって割れるといったことが少ないため耐久性も高い。
製造面の効果は、粉砕・分散効率が高く、粉砕時間を短くできるということである。また、スラリーの安定性が向上し、長期間保存しても、無機イオン吸着体が沈降するといったことが少ないこともあげられる。
【0026】
本発明に用いる水溶性高分子は有機高分子樹脂の良溶媒と相溶性のあるものであれば特に限定されない。
天然高分子では、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン等があげられる。
また、半合成高分子では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン等があげられる。
【0027】
さらに、合成高分子では、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩、ビニル化合物とカルボン酸系単量体との共重合物の塩、ポリアルキレンポリアミン、さらに、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類があげられる。
これらの水溶性高分子の中でも、合成高分子が耐生分解性を有する点で好ましい。
また、本発明の成形体では、水溶性高分子としてポリビニルピロリドンを用いるのが、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有する構造を発現させる効果が高い点で、特に好ましい。
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、2,000〜2,000,000の範囲が好ましく、2,000〜1,000,000の範囲がより好ましく、2,000〜100,000の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量が2,000以上では、フィブリル内部に空隙を有する構造を発現させる効果が高くなり、2,000,000以下では、成形する時の粘度が上昇せず、成形が容易である。
【0028】
また、多孔性成形体の構造に影響しない範囲で界面活性剤等の公知の分散剤を添加することもできる。
本発明の粉砕・混合手段は、無機イオン吸着体と有機高分子樹脂の良溶媒及び水溶性高分子を合わせて粉砕・混合できるものであれば特に限定されない。例えば、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理、ホモジナイザー等の物理的破砕方法を用いることができる。粉砕・混合手段の典型例としては、ジェネレーターシャフト型ホモジナイザー、ワーリングブレンダーなどのブレンダー、サンドミルやボールミルなどの粉砕器、ジェットミル、乳鉢および乳棒、らいかい器、超音波処理などの手段が挙げられる。
粉砕効率が高く、粘度の高いものまで粉砕できるので、ボールミルやアトライタ、ビーズミル等の媒体撹拌型ミルが好ましい。無機イオン吸着体をナノ領域の微小粒径まで粉砕・混合が可能な点で、ビーズミルが更に好ましい。ビーズミルに使用するボール径は、特に限定されるものではないが、0.1〜2mmの範囲が好ましい。0.1mm以上では、ボール重量が充分あるので粉砕力があり粉砕効率が高く、2mm以下では、微粉砕する能力が優れている。ボールの材質は、特に限定されるものではないが、鉄やステンレスの金属系、アルミナやジルコニアの酸化物類、窒化ケイ素や炭化ケイ素等の非酸化物類の各種セラミック系が挙げられる。
特に、耐摩耗性に優れ、製品へのコンタミネーション(摩耗物の混入)が少ない点で、ジルコニア類が優れている。
粉砕・混合手段の操作条件についてビーズミルを例に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
粉砕・混合手段への原料の初期投入方法は、循環方式かプレミックス法が好ましい。循環方式は、あらかじめスラリータンク内に溶媒を投入し溶媒のみで循環ポンプとミルを運転し、被粉砕物を少しずつ投入していく方法である。プレミックス法は、あらかじめ別容器中で溶媒と被粉砕物を混合・スラリー化する方法をいう。ここで、溶媒とは有機高分子樹脂の良溶媒であり、被粉砕物とは無機イオン吸着体を指す。溶媒と被粉砕物の分散状態が悪くてダマがあるような場合、ビーズミルのスクリーン(ビーズとスラリーの分離機構)を詰まらせてしまうことがある。
アジテータの周速としては3m/s超〜20m/s未満であることが好ましく、8〜18m/sであることが更に好ましい。3m/s超では、粉砕効率が悪く、処理時間が長くなるという問題を回避でき、20m/s未満では、ビーズがミル内でアンバランスになり粉砕効率が低下するという問題を回避できる。
処理温度は、溶媒の凝固点〜引火点の範囲に制御することが好ましい。凝固点以下では、粉砕効率が極端に下がり、引火点以上では引火爆発の危険性の観点から好ましくない。通常、粉砕処理を行うと、ビーズの摩擦熱から発熱するので、冷却する必要が生じる。冷却手段は、スラリータンクとミルの循環ラインに熱交換器を設け冷却することも好ましい。
被粉砕物すなわち無機イオン吸着体の粒径制御方法は、粉砕時間の経過毎に実際にスラリー液をサンプリングして粒径及び粒径分布を測定し、粉砕時間と粒径分布の相関曲線を用いる方法が好ましい。また、粉砕時間の代わりに、スラリー粘度、スラリー温度等を管理指標として用いることもできる。粉砕時間が短いと被粉砕物の粒径は大きく、粉砕時間が長いと粒径は小さくなり粒径分布も狭くなる傾向がある。
【0029】
本発明で用いる有機高分子樹脂は、特に限定されないが、湿式相分離による多孔化手法が可能なものが好ましい。たとえば、ポリスルホン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体系ポリマー等があげられる。
特に、水中での非膨潤性と耐生分解性、さらに製造のし易さから、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、さらに親水性と耐薬品性を兼ね備えている点で、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)が好ましい。
また、本発明に用いる良溶媒は有機高分子樹脂及び水溶性高分子を共に溶解するものであればいずれでもよい。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等である。これらの良溶媒は1種または混合溶媒としてもよい。
【0030】
有機高分子樹脂の良溶媒中の含有率に特に限定はないが、好ましくは5〜40重量%であり、さらに好ましくは、7〜30重量%である。5重量%以上で十分に強度のある成形体が得られ、40重量%以下で空孔率の高い多孔性成形体が得られる。
本発明の成形体の水溶性高分子の含有量は、成形体の乾燥時の重量をWd(g)、成形体から抽出した水溶性高分子の重量をWs(g)とするときに下式で表される値をいう。
含有率(%)=Ws/Wd×100
水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の種類、分子量に左右されるが、0.001〜10%が好ましく、より好ましくは、0.01〜1%である。0.001%以上では、成形体の表面を開口させるのに効果が十分であり、10%以下では相対的にポリマー濃度が薄くならず、強度が十分となる。
【0031】
ここで、成形体中の水溶性高分子の重量Wsは、次のようにして測定する。まず、乾燥した成形体を乳鉢等で粉砕した後、該粉砕物から水溶性高分子の良溶媒を用いて水溶性高分子を抽出し、次いで該抽出物を蒸発乾固して、抽出した水溶性高分子量の重量を求める。
さらに、抽出した蒸発乾固物の同定と、フィブリル中に残存して抽出されなかった水溶性高分子の有無の確認は、赤外線吸収スペクトル(IR)等で測定できる。さらに、フィブリル中に残存して抽出されなかった水溶性高分子がある場合は、本発明の多孔性成形体を、有機高分子樹脂と水溶性高分子の両方の良溶媒で溶解後、無機イオン吸着体を濾過して除いた液を作成し、次いで、該液体をGPC等を用いて分析して水溶性高分子の含有量を定量することができる。
水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の分子量、有機高分子樹脂とその良溶媒の組み合わせで適宜調整が可能である。例えば、分子量の高い水溶性高分子を使用すると、有機高分子樹脂との分子鎖の絡み合いが強固になり、成形時に貧溶媒側に移行しにくくなり、含有量を高くすることができる。
【0032】
本発明で用いられる無機イオン吸着体とは、イオン吸着現象またはイオン交換現象を示す無機物質をいう。
例えば、天然物ではゼオライト、モンモリロナイト、及び各種の鉱物性物質があり、合成物系では金属酸化物や不溶性の含水酸化物などがある。前者はアルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライトなどで代表される。後者は、複合金属水酸化物、金属酸化物、金属の含水酸化物、多価金属の塩、不溶性のヘテロポリ酸塩、不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩などが主要なものである。
【0033】
多価金属の塩としては、下記式(II)のハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。
2+(1−X)3+(OH(2+x−y)(An−)y/n (II)
〔式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。〕
金属酸化物は、下記式(I)で表せる。
MN・mHO (I)
(式中、xは0〜3、nは1〜4、mは0〜6であり、MおよびNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。)
金属酸化物は、式(I)中のmが0で表せる未水和(未含水)の金属酸化物であってもよいし、mが0以外の数値で表せる水和(含水)金属酸化物であってもよい。
また式(I)中のxが0以外の数値である場合の金属酸化物は、含有される各金属元素が規則性を持って酸化物全体に均一に分布して、例えば、ペロブスカイト構造、スピネル構造等を形成し、ニッケルフェライト(NiFe)、ジルコニウムの含水亜鉄酸塩(Zr・Fe・mHO mは0.5〜6)のごとく金属酸化物に含有される各金属元素の組成比が一定に定まった化学式で表される、複合金属酸化物である。
【0034】
無機イオン吸着体としては、リン、ホウ素、フッ素、ヒ素の吸着性能に優れている点から、水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、水和酸化イットリウム;チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、イットリウムからなる群から選ばれる金属元素と、アルミニウム、珪素、鉄からなる群から選ばれる金属元素との複合金属酸化物、および活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物であることが好ましい。また、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、硫酸アルミニウム添着活性炭等も好ましい。上記式(I)で表される金属酸化物は、M、N以外の金属元素が固溶したものであっても良い。例えば、式(I)に則ってZrO・mHOという式で表される水和酸化ジルコニウムとは、鉄が固溶した水和酸化ジルコニウムであってもよい。無機イオン吸着体は、式(I)で表せる金属酸化物を複数種含有していてもよい。
【0035】
各金属酸化物の無機イオン吸着体における分布状態については特に制限はないが、各金属酸化物の有する特性を有効に活用し、よりコストパフォーマンスに優れる無機イオン吸着体を得るためには、特定の金属酸化物の廻りを、他の金属酸化物が覆った混合体構造にすることが好ましい。このような構造としては、四三酸化鉄の廻りを水和酸化ジルコニウムが覆った構造が例示できる。
また、金属酸化物には他の元素を固溶している金属酸化物も含むため、ジルコニウムが固溶した四三酸化鉄の廻りを、鉄が固溶した水和酸化ジルコニウムが覆った構造も好ましい例として例示できる。この例においては、水和酸化ジルコニウムはリン、ホウ素、フッ素、ヒ素等のイオンに対する吸着性能や繰り返し使用に対する耐久性能は高いが、高価である。一方、四三酸化鉄は、水和酸化ジルコニウムに比較してリン、ホウ素、フッ素、ヒ素等のイオンに対する吸着性能や繰り返し使用に対する耐久性能は低いが、非常に安価である。
したがって、四三酸化鉄の廻りを水和酸化ジルコニウムで覆った構造にした場合、イオンの吸着に関与する無機イオン吸着体の表面付近は、吸着性能や耐久性能が高い水和酸化ジルコニウムになる一方、吸着に関与しない内部は安価な四三酸化鉄になるため、高吸着性能、高耐久性能、及び低価格の、すなわちコストパフォーマンスに極めて優れる吸着剤として利用できる。
【0036】
リン、ホウ素、フッ素、ヒ素の環境や健康に有害なイオンの吸着除去に対して、コストパフォーマンスに優れる吸着剤を得るという観点からは、無機イオン吸着体は、式(I)中のMおよびNの少なくとも一方がアルミニウム、珪素、鉄からなる群から選ばれる金属元素である金属酸化物の廻りを、式(I)中のMおよびNの少なくとも一方がチタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、イットリウムからなる群から選ばれる金属元素である金属酸化物で覆った構造で構成されていることが好ましい。
この場合、無機イオン吸着体中のアルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる金属元素の含有比率は、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる金属元素と、チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる金属元素との合計モル数をT、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる金属元素のモル数をFとして、F/T(モル比)が、0.01〜0.95の範囲であることが好ましく、0.1〜0.90の範囲であることがより好ましく、0.2〜0.85であることがさらに好ましく、0.3〜0.80であることが特に好ましい。これは、F/T(モル比)の値を大きくし過ぎると、吸着性能、耐久性能が低くなる傾向があり、小さくなると低価格化に対する効果が小さくなるからである。
【0037】
また、金属によっては、金属元素の酸化数が異なる複数の形態の金属酸化物が存在するが、無機イオン吸着体中で安定に存在できるものであれば、その形態に制限はない。例えば、鉄の酸化物である場合は、空気中での酸化安定性の問題から水和酸化第二鉄(FeO1.5・mHO)または水和四三酸化鉄(FeO1.33・mHO)であることが好ましい。
なお、無機イオン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を本発明の目的の達成を逸脱しない範囲で含有していても良い。混入する可能性がある不純物元素としては窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム、ハフニウム等が考えられる。
また、無機イオン吸着体は、その比表面積が吸着性能や耐久性能に影響するため、比表面積が一定の範囲内であることが好ましい。具体的には、窒素吸着法で求めたBET比表面積が20〜1000m/gであることが好ましく、30〜800m/gであることがより好ましく、50〜600m/gであることがさらに好ましく、60〜500m/gであることが特に好ましい。これは、BET比表面積が小さすぎると吸着性能が低下し、大きすぎると酸やアルカリに対する溶解性が大きくなり、その結果繰り返し使用に対する耐久性能が低下するからである。
【0038】
上記式(I)で表される金属酸化物の製造方法は特に限定されないが、例えば、次のような方法により製造される。該金属塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の塩類水溶液中にアルカリ溶液を添加して得られた沈殿物をろ過、洗浄した後乾燥する。乾燥は風乾するかもしくは約150℃以下、好ましくは約90℃以下で約1〜20時間程度乾燥する。
次に、式(I)中のMおよびNの少なくとも一方がアルミニウム、珪素、鉄からなる群から選ばれる金属元素である金属酸化物の廻りを、式(I)中のMおよびNの少なくとも一方がチタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる金属元素である金属酸化物で覆った構造で構成されている無機イオン吸着体の製造方法を、四三酸化鉄の廻りを酸化ジルコニウムが覆った構造の無機イオン吸着体を製造する場合を例に説明する。
まずジルコニウムの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の塩と、鉄の塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の塩とを、上述のF/T(モル比)が所望の値になるように混合した塩類水溶液を作製する。その後、アルカリ水溶液を添加して、pHを8〜9.5、好ましくは8.5〜9に調整して沈殿物を生成させる。この後、水溶液の温度を50℃にし、pHを8〜9.5好ましくは8.5〜9に保ちながら空気を吹き込み、液相に第一鉄イオンが検出できなくなるまで、酸化処理を行う。生じた沈澱を濾別し、水洗した後乾燥する。乾燥は風乾するかもしくは約150℃以下、好ましくは約90℃以下で約1〜20時間程度乾燥する。乾燥後の含水率は、約6〜30重量%の範囲内に入ることが好ましい。
【0039】
前述の製造法において用いられるジルコニウムの塩としては、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl)、四塩化ジルコニウム(ZrCl)、硝酸ジルコニウム(Zr(NO)、硫酸ジルコニウム(Zr(SO)等が挙げられる。これらは例えばZr(SO・4HOなどのように含水塩であってもよい。これらの金属塩は通常、1リットル中に約0.05〜2.0モルの溶液状で用いられる。前述の製造法において用いられる鉄の塩としては、硫酸第一鉄(FeSO)、硝酸第一鉄(Fe(NO)、塩化第一鉄(FeCl)等の第一鉄塩が挙げられる。これらもFeSO・7HOなどの含水塩であってもよい。これらの第一鉄塩は通常、固形物で加えられるが、溶液状で加えてもよい。
アルカリとしては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、好ましくは約5〜20重量%の水溶液で用いられる。酸化性ガスを吹き込む場合、その時間は、酸化性ガスの種類などによって異なるが、通常約1〜10時間程度である。酸化剤としては、たとえば過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどが用いられる。
【0040】
本発明の方法の貧溶媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール等のアルコール類、エーテル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類などの有機高分子樹脂を溶解しない液体が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、貧溶媒中に有機高分子樹脂の良溶媒を若干添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。好ましい高分子樹脂の良溶媒と水の混合比は0〜40%であり、0〜30%がより好ましい。混合比が40%以下では、凝固速度が遅くならないため、液滴等に成形したポリマースラリーが、貧溶媒中への突入する時および貧溶媒中を移動中に、貧溶媒と成形体の間で摩擦抵抗の影響を受けず、形状が良好になる。
貧溶媒の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは−30℃〜90℃、より好ましくは0℃〜90℃、さらに好ましくは0℃〜80℃である。貧溶媒の温度が90℃以下、及び−30℃以上であると、貧溶媒中の成形体の状態が安定する。
【0041】
次に本発明の多孔性成形体の水処理用途以外について説明する。
本発明の多孔性成形体は、成形体表面の開口性が高く、成形体内部には連通孔が三次元網目状に発達しており、さらに連通孔を形成するフィブリルも多孔性であることから、接触効率が高いことが特徴である。
その接触効率が高いことを活かせる用途として、吸着剤、脱臭剤、抗菌剤、吸湿剤、食品の鮮度保持剤、酵素固定担体、クロマトグラフィーの担体等が挙げられる。
例えば、無機イオン吸着体にゼオライトを用いた場合は、脱臭効果が期待できる。
さらに、本発明の多孔性成形体の無機イオン吸着体がゼオライトであり、さらに、該ゼオライトに銀を担持した場合には、抗菌性を示す。
また、パラジウムや白金を担持した場合には、エチレンを吸着することから鮮度保持剤として使用できる。
また、銀又は銅を担持させた場合は、硫化水素やアンモニア、メチルメルカプタンといった悪臭ガスを吸着、分解できることから脱臭効果がある。
いずれの場合でも、本発明の多孔性成形体の接触効率の高さを活かした従来技術にない効果が期待できる。
【0042】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例において成形体の種々の物性を、以下の方法で測定した。
【0043】
・相対累積X線強度比
無機イオン吸着体の成形体中での分布状態は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)(EPMA1600、(株)島津製作所)を用いて面分析を行った。分析して得た面分析データ(具体的にはX線強度(カウント数)の度数分布)を統計処理した。
無機イオン吸着体を構成する成分元素のX線強度の度数分布を、小さいX線強度(低濃度)側からそのX線強度の度数を積算し、X線強度の度数の累計が5%に達するX線強度の値を5%相対累積X線強度とした。
同様に、無機イオン吸着体を構成する成分元素のX線強度の度数分布を、小さいX線強度(低濃度)側からそのX線強度の度数を積算し、X線強度の度数の累計が95%に達するX線強度の値を95%相対累積X線強度とした。
下記式より、相対累積X線強度比を求めた。
相対累積X線強度比=95%相対累積X線強度/5%相対累積X線強度
【0044】
・ 電子線マイクロアナライザ(EPMA)用サンプルの作成
成形体を室温で真空乾燥した。乾燥した成形体をカミソリにて割断後、オスミウム(Os)を蒸着した。次いでエポキシ樹脂にて包埋し、研磨にて断面を作成後、再びオスミウム(Os)を蒸着して成形体内部を観察するEPMA用サンプルを作成した。
【0045】
・ 無機イオン吸着体の担持量
成形体を室温下で24時間真空乾燥にした。乾燥した成形体の重量を測定し、成形体の乾燥時の重量Wd(g)とした。次に、乾燥した成形体を、電気炉を用いて800℃で2時間焼成して灰分の重量を測定し、灰分の重量Wa(g)とした。下記式より、担持量を求めた。
担持量(%)=Wa/Wd ×100
式中、Waは、成形体の灰分の重量(g)であり、Wdは成形体の乾燥時の重量(g)である。
【0046】
・ 比表面積
成形体を室温で真空乾燥した後、ベックマン・コールター(株)社製コールターSA3100(商品名)を用い、吸着ガスに窒素を用いたBET法で多孔性成形体の単位重量あたりの表面積SBET(m/g)を求めた。
つぎに、湿潤状態の成形体を、メスシリンダー等を用いてみかけの体積V(cm)を測定した。その後、室温で真空乾燥して重量W(g)を求めた。
本発明の成形体でいう比表面積は、次式から求めた。
比表面積(m/cm)=SBET×かさ比重(g/cm
かさ比重(g/cm)=W/V
式中、SBETは成形体の比表面積(m/g)であり、Wは成形体の乾燥重量(g)、Vはそのみかけの体積(cm)である。
【0047】
・ 成形体の粒径及び無機イオン吸着体の粒径
成形体及び無機イオン吸着体の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA−950(商品名))で測定した。但し、粒径が2,000μm以上の場合には、SEM像を用いて、成形体の最長直径と最短直径を測定し、その平均値を粒径とした。
【0048】
・ 空孔率
十分に水に濡れた成形体を乾いたろ紙上に拡げ、余分な水分をとった後に重量を測定し、成形体の含水時の重量(W1)とした。次に、成形体を室温下で24時間真空乾燥を行って乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定し、成形体の乾燥時の重量(W0)とした。
次に、比重瓶(ゲーリュサック型、容量10ml)を用意し、この比重瓶に純水(25℃)を満たしたときの重量を測定し、満水時の重量(Ww)とした。次に、この比重瓶に、純水に湿潤した状態の成形体を入れ、さらに標線まで純水を満たして重量を測定し、(Wwm)とした。次に、この成形体を比重瓶から取り出し、室温で24時間、真空乾燥に付して、乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定して(M)とした。
下記の計算式に従って、成形体の比重(ρ)、および、空孔率(Pr)を求めた。
ρ=M/(Ww+M−Wwm)
Pr=(W1−W0)/(W1−W0+W0/ρ)×100
式中、Prは空孔率(%)であり、W1は成形体の含水時の重量(g)、W0は成形体の乾燥後の重量(g)、および、ρは成形体の比重(g/cm)、Mは成形体の乾燥後の重量(g)、Wwは比重瓶の満水時の重量(g)、Wwmは比重瓶に含水した成形体と純水を入れたときの重量(g)である。
【0049】
・ 走査型電子顕微鏡による成形体の観察
走査型電子顕微鏡(SEM)による成形体の観察は、日立製作所製のS−800型走査型電子顕微鏡で行った。
【0050】
・ 成形体の割断
成形体を室温で真空乾燥し、乾燥した成形体をイソプロピルアルコール(IPA)に加えて、成形体中にIPAを含浸させた。次いで、IPAと共に成形体を直径5mmのゼラチンカプセルに封入し、液体窒素中で凍結した。凍結した成形体をカプセルごと彫刻刀で割断した。割断されている成形体を選別して顕微鏡用試料とした。
【0051】
・ 表面の開口径
走査型電子顕微鏡を用いて撮影した成形体の表面の画像から実測して求める。孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
【0052】
・ 表面の開口率
走査型電子顕微鏡を用いて撮影した成形体の表面の画像を、画像解析ソフト(三谷商事(株)製ウインルーフ(商品名))を用いて求めた。
さらに詳しく説明すると、得られたSEM像を濃淡画像として認識し、色が濃い部分を開口部、色が薄い部分をフィブリルとして、しきい値を手動で調整し、開口部分とフィブリル部分に分割して、その面積比を求めた。
【0053】
・ リン吸着量
リン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)を蒸留水に溶解し、リン濃度9mg−P/L(Pはリン、Lはリットル)の液を作り、硫酸でpHを7に調整した液をモデル液、すなわち吸着原液とした。
多孔性成形体8mlを、カラム(内径10mm)に充填して、さきの吸着原液を240ml/hr(SV30)の速度で通水した。カラムからの流出液(処理液)を30分毎にサンプリングして、該処理水中のリン酸イオン濃度(リン濃度)を測定して、0.5mg−P/L(ppm)超過時までの通水量(吸着量 mg−P/L−R(Rは多孔性成形体である。))を求めた。リン酸イオン濃度測定は、HACH社製りん酸測定装置フォスファックス・コンパクト(商品名)を用いて測定した。
【0054】
[実施例1]
ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))375gを、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))4125g中に溶解して均一な溶液を得た。該溶液4500gに対し、平均粒径30μmの酸化セリウム粉末(岩谷産業(株))2250gを加えて、直径1mmφのジルコニアボールを充填したビーズミル(SC100、三井鉱山(株))を用いて、30分間粉砕・混合処理を行い黄色のスラリーを得た。さらに、このスラリーにエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803(商品名))375gを、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一なスラリー溶液を得た。
得られたポリマースラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、ポリマースラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径600μmの球状成形体を得た。
物性を表1に示した。
【表1】


得られた成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した結果を図1〜4に示した。
図1及び図2から割断面全体を観察したところ、無機イオン吸着体は、均一に分散して担持されていることが確認された。
さらに、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、無機イオン吸着体の構成元素であるセリウム(Ce)について、成形体内部の面分析を行った。解析の結果、相対累積X線強度比は1.9であった。
さらに図1からは、得られた成形体には表面付近に最大孔径層(ボイド層)を有していることが観察された。
図3からは、成形体は外表面にはスキン層が形成されておらず、開口していることが確認された。
また図4からは、フィブリル内部の空隙、及びフィブリル表面の開孔が確認され、さらに、そのフィブリル外表面およびフィブリル内部の空隙表面には無機イオン吸着体粉末が担持されている様子が観察された。
この多孔性成形体のリン吸着量は、5.7g−P/L−Rであった。
また、本成形体の水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の含有率は、0.1重量%であった。
【0055】
(試験例1)
実施例1と同じ方法で得たポリマースラリーを8時間静置して、沈殿の状態を観察した。容器底部に沈降物は観察されず、実施例1のポリマースラリーは安定であることが確認された。
[実施例2]
粉砕・混合処理時間を5分間にしたこと以外は実施例1と同様の方法で、平均粒径600μmの球状成形体を得た。
物性を表1に示した。
[実施例3]
直径0.5mmφのジルコニアボールを用いて、粉砕・混合処理を行うこと以外は実施例1と同様の方法で、平均粒径600μmの球状成形体を得た。
物性を表1に示した。
【0056】
(比較例1)
ビーズミルによる粉砕・混合を行わないで、代わりに、容量10Lの円筒容器中で撹拌羽根を用いて、300rpmの回転数で8時間混合処理して黄色のスラリーを得たこと以外は実施例1と同様の方法で多孔性成形体を得た。平均粒径は600μmであった。
物性を表1に示した。
得られた成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した結果を図5〜8に示した。
図5及び図6から割断面全体を観察したところ、一部の無機イオン吸着体は、二次凝集物を形成して担持されていることが確認された。
さらに、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、無機イオン吸着体の構成元素であるセリウム(Ce)について、成形体内部の面分析を行った。解析の結果、相対累積X線強度比は10.5であった。
図7からは、成形体は外表面にはスキン層が形成されておらず、開口していることが確認された。また図8からは、フィブリル内部の空隙、及びフィブリル表面の開孔が確認され、さらに、そのフィブリル外表面およびフィブリル内部の空隙表面には無機イオン吸着体粉末が担持されている様子が観察された。
この多孔性成形体のリン吸着量は、4.6g−P/L−Rで実施例より少なかった。これは、担持されている無機イオン吸着体の一部は二次凝集物として担持されているため、リン酸イオンとの接触効率が悪く、その結果、リン吸着量が低いものと考えられる。
【0057】
(試験例2)
比較例1と同じ方法で得たポリマースラリーを8時間静置して、沈殿の状態を観察した。容器底部には沈降物が観察された。比較例1のポリマースラリーは安定性に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の成形体は、スキン層が無く、表面の開口性に優れるため、成形体内部への対象物質の拡散が速い。また、担持されている無機イオン吸着体は二次凝集物が少ないので、対象物質との接触効率が極めて高い。よって、液体や気体の処理に用いる吸着剤及びろ過剤、脱臭剤、抗菌剤、吸湿剤、食品の鮮度保持剤、各種のクロマトグラフィー用担体、触媒等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性の成形体であって、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて得られる、該多孔性の成形体に担持されている無機イオン吸着体を構成する成分元素の95%相対累積X線強度と5%相対累積X線強度の比(相対累積X線強度比)が1〜10となることを含む、上記多孔性成形体。
【請求項2】
前記多孔性成形体が、連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている、請求項1に記載の多孔性成形体。
【請求項3】
前記連通孔が、成形体表面付近に最大孔径層を有する、請求項1又は2に記載の多孔性成形体。
【請求項4】
平均粒径が100〜2500μmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項5】
前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる一種以上を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項6】
前記無機イオン吸着体が、下記式(I)で表される金属酸化物を少なくとも一種を含有している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
MN・mHO・・・・・・(I)
(式中、xは0〜3、nは1〜4、mは0〜6であり、MおよびNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。)
【請求項7】
前記金属酸化物が、下記(a)〜(c)のいずれかの群から選ばれる1種又は2種以上の混合物である、請求項6に記載の多孔性成形体。
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる金属元素と、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
【請求項8】
前記無機イオン吸着体が、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項9】
無機イオン吸着体の担持量が65〜95%である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項10】
前記フィブリルが、有機高分子樹脂、無機イオン吸着体、及び水溶性高分子を含んでなる、請求項2〜9のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項11】
前記水溶性高分子が合成高分子である、請求項10に記載の多孔性成形体。
【請求項12】
前記水溶性高分子が、ポリビニルピロリドンである、請求項10又は11に記載の多孔性成形体。
【請求項13】
前記水溶性高分子の含有量が0.001〜10%である、請求項10〜12のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体を充填しているカラム。
【請求項15】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性成形体の製造方法であって、(1)少なくとも有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体と水溶性高分子の3種を粉砕・混合手段を用いて粉砕・混合してスラリーを得る粉砕・混合工程、(2)工程(1)で得たスラリーに有機高分子樹脂を溶解する溶解工程、(3)工程(2)で得たスラリーを成形し、貧溶媒中で凝固させる成形工程を含んでなる、多孔性成形体の製造方法。
【請求項16】
前記粉砕・混合手段が、媒体撹拌型ミルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機高分子樹脂の良溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる1種以上である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
貧溶媒が、水、又は、有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物である、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の混合比が0〜40%である、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
成形の方法が、回転する容器の側面に設けたノズルから、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、水溶性高分子、無機イオン吸着体を混合したスラリーを飛散させて液滴を形成させることを含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体を含んでなる、多孔性吸着体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−297707(P2009−297707A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106067(P2009−106067)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】