説明

高周波加熱装置用直線駆動アンテナ

【課題】
回転式反射鏡は、保守作業が容易でない真空容器内に設置されており、特に核融合炉環境では構造物の放射化により頻繁な保守は困難である。更に、摩擦を伴う回転軸やリンク機構を有する回転式反射鏡はある頻度での保守、交換が必要となる問題点を有する。
【解決手段】
本発明の高周波加熱装置直線駆動用アンテナにおける核融合炉内のプラズマへの電磁波ビーム入射用の反射鏡は、プラズマへの電磁波ビームの入射角度を制御するために、平面的な反射鏡を回転させる従来の方法と異なり、特殊な面形状の反射鏡を直線運動させる手法を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合実験装置および核融合炉の高周波加熱装置用直線駆動アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波加熱装置は、プラズマに電磁波を入射して加熱したり、プラズマ内部に電流を駆動したりすることにより、効率良く核融合反応が発生する高温高圧プラズマの状態を長時間維持することを目的とする。特にミリ波帯の電磁波を用いる電子サイクロトロン波帯加熱装置は、入射する電磁波がビーム状であり、プラズマ中の特定の箇所を選択的に加熱したり、局所的に電流を駆動したりすることが可能である。この特徴は、プラズマの性能向上に欠かせない電流分布制御や、不安定性の抑制に活用され、そのため、電磁波ビームの入射角度の制御は重要な項目である。波長の短いミリ波帯の電磁波ビームは準光学的な取り扱いが可能で、金属製の反射鏡で簡単にその方向を変えることができる。
【0003】
ところで、本発明の装置は、プラズマへの電磁波ビームの入射角度を制御する方法として、平面的な反射鏡を回転させる従来の方法と異なり、特殊な面形状の反射鏡を直線運動させる手法を用いている。しかし、従来の装置では、以下の方式(1)、(2)、(3)および(4)で入射角度制御が行われていた。
【0004】
(1)真空容器壁をその法線方向から貫通する導波管の先端部に、固定式の第1反射鏡を設け、電磁波ビームを直角に曲げる。この電磁波ビームが次に反射する第2反射鏡の角度を回転運動によって変えることで、プラズマへの入射角度を制御する方式。このとき第1反射鏡は電磁波ビームの収束を目的として凹面鏡としているが、第2反射鏡は平面である。また、電磁波ビームの反射の際に発生する熱は、入射時間が比較的短い場合には強制冷却が必要ない程度であり、冷却配管は有しない。(非特許文献1)
(2)方式(1)を入射時間が長い場合や核融合プラズマからの中性子束が強い場合に適用するためには、反射鏡の強制冷却が必要となる。このような場合に回転する反射鏡への冷媒の供給を行うためにスパイラル状のフレキシブルチューブを用いる方式(非特許文献2)。
【0005】
(3)反射鏡をプラズマから遠く離れた位置に置き、入射角の変化によって発射角が変化する特殊な導波管を介する方式。中性子束が比較的弱く、保守が容易な場所に回転式の反射鏡があるが、冷却は必要であり方式(2)と同様な冷却方式が想定される。(非特許文献3)。
【0006】
(4)入射角度の2次元的な制御が必要な場合に、方式(1)の第2反射鏡を2次元的に回転運動させる方式。強制冷却が必要な場合は方式(2)に類似した方法で行う。(非特許文献4)。
【0007】
(5)入射角度の2次元的な制御が必要な場合に、方式(1)の第1反射鏡と第2反射鏡をそれぞれ1次元的に回転運動させる方式。強制冷却が必要な場合は方式(2)に類似した方法で行う。(非特許文献5)。
【非特許文献1】Y. Ikeda et al., "The 110-GHz Electron Cyclotron Range of Frequency System on JT-60U: Design and operation", Fusion Sci. Technol. 42, 435 (2002).
【非特許文献2】K.Takahashi et. al., "Development of EC H&CD launcher components for fusion device", Fusion Engineering and Design 66-68, p.473-479(2003).
【非特許文献3】K.Takahashi et. al., "High power experiments of remote steering launcher for electron cyclotron heating and current drive", Fusion Engineering and Design 65(4), p.589-598(2003).
【非特許文献4】K. Kajiwara et al., "Launcher Performance In the DIII-D ECH System", Proc. 15th Tpic. Conf. on RF Power in Plasmas, Moran Wyoming, May, 694, 325 (2003).
【非特許文献5】森山伸一 他; "JT-60Uにおける電子サイクロトロン加熱・電流駆動技術の進展“, Journal of Plasma and Fusion Research, Vol.79, No.9, p.935 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景技術、方法(1)の課題は
1) 回転式反射鏡は、保守作業が容易でない真空容器内に設置されている。特に核融合炉環境では構造物の放射化により頻繁な保守は困難である。摩擦を伴う回転軸やリンク機構を有する回転式反射鏡はある頻度での保守、交換が必要となる問題点を有する。
【0009】
上記背景技術、方法(2)の課題は
1) 方式(1)と同様に摩擦を伴う回転軸やリンク機構を有する回転式反射鏡はある頻度での保守、交換が必要である。
2)冷却配管にフレキシブルチューブを用いる方式では、柔軟性を確保するために管壁の肉厚を薄くしなくてはならず、外的要因による破損のリスクがある。
3) 冷却配管にフレキシブルチューブを用いる方式では、柔軟性を確保するために管径を比較的小さくしなければならず、流量に制限がある。
4) 冷却配管にフレキシブルチューブを用いる方式では、冷媒にボイドが発生した際や真空容器に機械的振動が発生した際に、チューブ自身が振動し周辺の構造物と接触するなどして損耗するリスクがある。
【0010】
上記背景技術、方法(3)の課題は
1) 反射鏡の位置はプラズマから遠く、核融合炉環境にあっても比較的放射化の程度の小さい場所ではあるが、回転軸やリンク機構の保守が必要であるという点で方式(1)と同様の課題を有する。
2) 反射鏡の熱負荷は小さいものの、強制冷却が必要であり、方式(2)と同様の課題を有する。
【0011】
上記背景技術、方法(4)、(5)の課題は
1) 駆動機構が方式(1)、(2)よりも複雑であり、方式(1)(2)と同様の課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来技術では、電磁波ビームの反射角を変えるために、反射鏡の反射面を回転させるという共通の概念があり、回転を実現させるために必要な回転軸や駆動用リンク機構が必要不可欠であった。本発明では反射鏡は直線駆動するために、これら回転軸、駆動用リンク機構は全く用いない。また、固定された冷却機器と運動する反射鏡を接続する冷却配管に必要な緩衝機構も従来技術では、保守の困難な真空容器内に設置する必要があるという課題があったが、本発明では直線運動を緩衝する単純で信頼性の高いベロー管を保守の容易な真空容器外に設置することで解決している。直線運動によって電磁波ビームの反射角を変えるためには、反射鏡への電磁波ビームの入射位置を変化させることで、入射角度および反射角度が変化するように設計した反射面形状を有する反射鏡を用いる。
【0013】
即ち、本発明の装置は、前述したとおり、プラズマへの電磁波ビームの入射角度を制御する方法として、平面的な反射鏡を回転させる従来の方法と異なり、特殊な面形状の反射鏡を直線運動させる手法を用いている。
【0014】
本発明は、具体的には、高周波加熱装置の真空容器に真空容器のポートを設け、このポート内に第1反射鏡及び第2反射鏡を設け、第1反射鏡には電磁波ビーム用の導波管を設け、第2反射鏡には第2反射鏡の冷却水流路管を内装した第2反射鏡の駆動棒を設け、前記駆動棒の反射鏡の反対端には、真空封止用ベロー、駆動棒の支持・駆動機構及び冷却配管用ベローを設けることにより、導波管内に導入された電磁波ビームを第1反射鏡で反射させた後に第2反射鏡に入射させ、第2反射鏡で反射された電磁波ビームを真空容器壁孔を透過させて核融合装置内のプラズマに入射してプラズマを加熱し、その第2反射鏡の反射角を変化させるために、第2反射鏡の駆動棒を封止ベローを介して駆動機構により前後に移動させて電磁波ビームのプラズマへの入射角を制御し、冷却管内には冷却配管用ベローを介して冷媒を流して第2反射鏡を冷却することを特徴とする、高周波加熱装置用直線駆動アンテナに関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高周波加熱装置用直線駆動アンテナは、反射鏡を直線駆動させることにより、定期的な保守が必要となる摩擦を伴い損耗する機器を真空容器内に使用せず、運動の緩衝に使う配管も単純な構造でかつ保守の容易な真空容器外からアクセス可能な位置に設置できる。以下に特徴的な効果を示す。
【0016】
(1)定期的な保守が必要となる摩擦を伴い損耗する機器を、保守が困難な真空容器内に使用しない。
(2)冷却配管の緩衝には単純かつ堅牢な直線型ベロー管を、保守の容易な真空容器外に設置できる。
【0017】
(3)真空容器の壁面を貫通する反射鏡冷却配管および反射鏡駆動機構の駆動軸と真空容器との取り合いに、堅牢かつ信頼性の高い直線的ベロー管を使用できる。
(4)反射鏡駆動機構の駆動軸内部を反射鏡用冷却配管として用いることができるため、駆動軸用、冷却配管用の真空容器壁貫通部およびベローを兼用でき、アンテナ全体の構造を単純化できる。
【0018】
(5)反射鏡駆動機構の駆動軸内部を反射鏡用冷却配管として用いることができるため、管径を太く、厚肉とすることができ、大流量の冷媒を安全に流すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
反射鏡の個数は、システムを単純化する観点から少ないほうが良い。導波管が真空容器に導入される方向によっては反射鏡を1個とする設計も可能であるが、壁の法線方向から導入される一般的な場合には2個の反射鏡が必要となる。2個の反射鏡の相対位置変化によって反射角の制御が実現されるため、どちらの反射鏡を直線駆動するか、またどちらの反射鏡の反射面形状を変化させるかは、周囲の状況によって選択して設計することが可能である。
【0020】
プラズマへの入射角を制御する場合、その角度範囲はできるだけ広く、理想的にはプラズマの端から端までカバーすることが望ましい。また、入射角は連続的に変化させることが望ましい。したがって、直線駆動する反射鏡によってこれを実現するためには、その反射面形状を法線の角度が連続的に変化する曲面でかつその角度範囲が広いことが望まれる。一方で、電磁波ビームは線でなく有限の断面積を持つため、この断面内で反射面の法線が大きく変化すると、電磁波ビームに望ましくない収束、発散を与える。これらの要求を満たすためには反射鏡をできるだけ大型にして、反射面の法線を緩やかに且つ広範囲に変化させる必要がある。したがって、アンテナを設置する空間が許す限り大型の反射鏡とする。しかし、用途や入射角度範囲の限定、あるいは2個の反射鏡の両方を曲面鏡とする方法によって小型化も可能である。また、プラズマ周辺への入射とプラズマ中心への入射など複数の用途を使い分ける場合には非連続的な反射面形状の設計が有効である。また、ビーム角度を2次元的に制御する必要がある場合には、反射面の形状を2次元的に変化させればよい。
【0021】
アンテナの機械的支持および駆動、冷媒の供給はいずれも真空容器外から行い、駆動軸に冷却配管を内蔵することで、真空容器との取り合いは単純な直線型ベロー管1個とする。固定された冷却装置と直線運動する冷却配管の取り合いは、真空容器から十分離れた位置において、単純な直線型ベロー管で行う。
【実施例】
【0022】
本発明の実施例について図1〜図5を用いて説明する。
(実施例1)
図1aは本発明の原理図であり、高周波加熱装置用直線駆動アンテナの原理説明に必要な座標と記号を示すものである。曲面鏡の最も単純な場合として球面反射鏡を用いる場合を示す。球面反射鏡の曲率中心アを原点(0,0)とする極座標系(r,θ)を考え、原点ア(0,0)から距離dだけ離れた点イ(d,0)を通過する入射ビームr=d/cos(θ-π/2)が、極率半径Rの球面反射鏡上の点ウ(R,φ)にて反射する。核融合装置のトーラス中心を点エとしたとき、入射ビームのイウはウエと直交するものとする。入射ビームの球面鏡に対する入射角、反射角は等しく、π/2-φであり、反射した電磁波ビームr=d/cos(θ+2φ)のトーラスへの入射角αは2φ-π/2である。距離d=Rcosφであるからトーラスへの入射角α= 2cos-1(d/R) -π/2となる。これは距離dを変化させることにより、トーラスへの入射角αを制御できることを示している。また、トーラスへの入射角αの可変範囲はd/Rが大きいほど大きく取れることも示している。しかし、距離dの範囲が小さいほど球面反射鏡を小さくできるため、コンパクトなアンテナとなる。
【0023】
一方、電磁波ビームが実際には線でなく有限の断面積を持っているためにその断面積内でのαは均一でない。均一性を高め断面積内での光路長(または位相)変化を抑えるためにはRは大きいほど良い。しかしRが小さいほど球面反射鏡を小さくできるためコンパクトなアンテナとなる。一方、αが不均一であるがゆえに電磁波ビームは収束傾向となるが、焦点距離を過ぎると発散傾向となるので、プラズマ中での加熱位置近くで電磁波ビームの幅が大きくならないように曲率半径Rを選ぶ必要がある。したがって、dの範囲とRは実際の電磁波ビームの断面積、アンテナとプラズマ中での加熱位置との距離、アンテナ設置場所の空間的制約、ビーム光路長の変化幅の要求等から最適値を選ぶ必要がある。単純な球面鏡の場合、図1aに示す断面に垂直な方向、すなわち紙面に垂直な方向のビームの幅に関する収束点は曲率中心となり、焦点距離よりも遠くなる。この効果を補正する必要がある場合には、紙面に垂直な方向の曲率半径を小さくする方法がある。
【0024】
図1bに電磁波ビームの発散、収束による、ビーム径の変化を示す。導波管端部アでのビーム半径をwとすると導波管端部から距離zだけ離れた球面鏡位置イでのビーム半径w、さらに距離z離れた収束位置ウでのビーム半径w、さらに距離z離れたプラズマ加熱位置エでのビーム半径wは以下の式で表される。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで 電磁波ビームの波長をλとしたとき、d0=pw02/l, d1=pw12/l, d2=pw22/l である。図2及び図3の本発明の実施例において、これらの式を用いてビーム径を見積もった。
(実施例2)
図2に本発明の一実施例である、第1反射鏡駆動方式の高周波加熱装置用直線駆動アンテナ断面図を示す。本実施例では第1反射鏡イは平面鏡、第2反射鏡ウは単純な球面(凹面)鏡としている。導波管ア内を伝送される高周波は導波管アの端部で空間に放射され、平面鏡である第1反射鏡イで直角に曲げられた後、曲率中心エを持つ球面鏡である第2反射鏡で再び曲げられ、プラズマに入射される。第1反射鏡イは駆動棒オによって直線的に駆動され、第2反射鏡ウと入射ビームとの相対距離、すなわち図1の距離dに相当する量を変化させる。距離dの変化によってプラズマへの入射角αを変化させることができる。図2は、電磁波ビームが半径2cmの平行光線であると仮定し、第2反射鏡の曲率半径Rが1mとしたときに、距離dを54cmから35cmに変化させると入射角αを20°から45°に変えることができる設計例に基づく作図である。トーラス中心方向の第2反射鏡ウの奥行きは距離dの可変範囲とビーム径の合計に多少の余裕を加えて30cm程度にできる。このとき幾何学的な焦点距離はR/2=50cmであるが、ビームの発散、収束を考慮して、第2反射鏡からの距離50cm及び2mでのビーム半径はそれぞれ1.9cmおよび5.7cmである。第2反射鏡が従来技術の回転する平面鏡であった場合を仮定するとビーム半径はそれぞれ2.7cmおよび5.7cmであり、球面にしたことによるビーム径の変化は小さく、図2の設計例は第2反射鏡の曲率半径Rを適切に選んだ例といえる。
(実施例3)
図3に本発明の一実施例である、第2反射鏡駆動方式の高周波加熱装置用直線駆動アンテナ断面図を示す。本実施例では第1反射鏡イは平面鏡、第2反射鏡ウは単純な球面(凹面)鏡としている。導波管ア内を伝送される高周波は導波管アの端部で空間に放射され、平面鏡である第1反射鏡イで直角に曲げられた後、曲率中心エを持つ球面鏡である第2反射鏡で再び曲げられ、プラズマに入射される。第2反射鏡ウは駆動棒オによって直線的に駆動され、第2反射鏡ウと入射ビームとの相対距離、すなわち図1の距離dに相当する量を変化させる。距離dの変化によってプラズマへの入射角αを変化させることができる。図3は、電磁波ビームが半径2cmの平行光線であると仮定し、第2反射鏡の曲率半径Rが1.5mとしたときに、距離dを54cmから83cmに変化させると入射角αを20°から45°に変えることができる設計例に基づく作図である。トーラス中心方向の第2反射鏡ウの奥行きは距離dの可変範囲とビーム幅の合計に多少の余裕を加えて40cm程度にできる。このとき幾何学的な焦点距離はR/2=75cmであるが、ビームの発散、収束を考慮すると第2反射鏡からの距離50cm及び2mでのビーム半径はそれぞれ2.0cm、5.3cmである。第2反射鏡が従来技術の回転する平面鏡であった場合を仮定するとそれぞれ2.7cmおよび5.7cmであるので、球面にしたことによるビーム径の変化は非常に小さく、図3の設計例は第2反射鏡の曲率半径Rを適切に選んだ例といえる。
(実施例4)
図4に本発明の一実施例である第2、第3反射鏡駆動方式による2次元掃引の高周波加熱装置用直線駆動アンテナ断面図を示す。本実施例では第1反射鏡ウは平面鏡、第2反射鏡イは複合平面鏡、第3反射鏡アは単純な球面(凹面)鏡としている。導波管カ内を伝送される高周波は導波管カの端部で空間に放射され、平面鏡である第1反射鏡ウで直角に曲げられた後、角度の異なる2つの平面鏡で構成された第2反射鏡イで紙面奥行き方向に曲げられ、さらに球面鏡である第3反射鏡アで曲げられ、プラズマに入射される。第2反射鏡イは駆動棒エによって、第3反射鏡は駆動棒オによってそれぞれ直線的に駆動され、プラズマへの入射角を2次元的に変化させることができる。
(従来例)
図5aに背景技術(2)項に相当する従来の回転反射鏡式高周波アンテナの構造を示す。従来例では第1、第2反射鏡ともに平面鏡である。導波管コで伝送され、その端部から放射される電磁波ビームは固定式の第1反射鏡ケで方向を変えられ、回転式の第2反射鏡アに入射する。第2反射鏡アは平面鏡であるが、その角度を回転によって変えられ、反射ビームの方向を制御する。第2反射鏡アは回転軸を支持機構で固定されており、駆動棒イの直線運動をリンク機構スが回転運動に変換して駆動される。回転軸およびリンク機構にはベアリングなど摩擦を低減する部品が必要であるが、これらの中性子環境下での耐久性は必ずしも確認されておらず、定期的な交換が必要だとされている。第2反射鏡アは核融合装置からの中性子および入射する電磁波ビームによる熱を除去するために冷却が必要であるが、その回転運動のため冷却水配管の接続にはスパイラル管クを用いてその弾性で位置の変化を吸収する。駆動棒イは支持機構カによって機械的に支持され、回転式モーターとギアの組み合わせまたはリニアモーターを用いた駆動機構オによって直線的に駆動される。支持機構カおよび駆動機構オは支持構造キに固定される。直線駆動する駆動棒イは、真空容器のポートフランジを貫通するときその相対位置の変化をベローのエで吸収する。
(実施例5)
図5bは本発明の一実施例である第2反射鏡駆動方式の高周波加熱装置用直線駆動アンテナの支持駆動機構および冷却機構を示す断面図である。本実施例では第1反射鏡ケは平面鏡、第2反射鏡アは単純な球面(凹面)鏡としている。球面鏡である第2反射鏡アは駆動棒イによって直線的に駆動される。駆動棒イは支持機構カによって機械的に支持され、回転式モーターとギアの組み合わせまたはリニアモーターを用いた駆動機構オによって直線的に駆動される。駆動距離は図2または図3の設計例で20〜30cmである。支持機構カおよび駆動機構オは支持柱キに固定される。直線駆動する駆動棒イは、真空容器のポートフランジを貫通するときその相対位置の変化をベローのエで吸収する。駆動棒イの内部には第2反射鏡アを冷却するための冷却水流路ウを設ける。固定された冷却系統と直線駆動される冷却水流路ウの取り合いにはベローのクを設ける。プラズマから放出される中性子の影響を受けにくく、メンテナンスのしやすい、トーラスから離れた真空容器外に、全ての駆動機構、支持機構、ベローなどの変形部品を設置できる本発明の長所が図5aとbの比較により明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の高周波加熱装置用直線駆動アンテナは、核融合実験装置および核融合炉において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1aは、本発明の原理図であり、高周波加熱装置用直線駆動アンテナの原理説明に必要な座標と記号を示すものである。図1bはビームの発散、収束による、ビーム径の変化を示す。
【図2】本発明の一実施例である第1反射鏡駆動方式の高周波加熱装置用直線駆動アンテナ断面図である。
【図3】本発明の一実施例である第2反射鏡駆動方式の高周波加熱装置用直線駆動アンテナ断面図である。
【図4】本発明の一実施例である第2第3反射鏡駆動方式による2次元掃引の高周波加熱装置用直線駆動アンテナ断面図である。
【図5】図5aは背景技術(2)項に相当する従来の回転反射鏡式高周波アンテナの構造図である。図5bは、本発明の一実施例である第2反射鏡駆動方式の高周波加熱装置用直線駆動アンテナの支持駆動機構および冷却機構を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
(図1a)
ア・・・球面鏡の曲率中心かつ曲座標系(r,θ)の中心(0,0)
イ・・・入射ビームから点アに下ろした垂線の足(d,0)
ウ・・・球面鏡上のビームの入射点(R,φ)
エ・・・核融合装置のトーラス中心
d・・・入射ビームの点アからの距離
φ・・・点ウのθ座標
R・・・球面鏡の曲率半径
(図1b)
ア・・・導波管端部(ビーム半径をw
イ・・・球面鏡位置(ビーム半径w
ウ・・・収束位置(ビーム半径w
エ・・・プラズマ加熱位置(ビーム半径w
(図2)
ア・・・導波管
イ・・・第1反射鏡(直線駆動式平面鏡)
ウ・・・第2反射鏡(固定式球面鏡)
エ・・・第2反射鏡の曲率中心
オ・・・第1反射鏡の駆動棒
α・・・プラズマへのビーム入射角度
(図3)
ア・・・導波管
イ・・・第1反射鏡(固定式平面鏡)
ウ・・・第2反射鏡(直線駆動式球面鏡)
エ・・・第2反射鏡の曲率中心
オ・・・第2反射鏡の駆動棒
α・・・プラズマへの電磁波ビーム入射角度
(図4)
ア・・・第3反射鏡(直線駆動式球面鏡)
イ・・・第2反射鏡(直線駆動式複合平面鏡)
ウ・・・第1反射鏡(固定式平面鏡)
エ・・・第2反射鏡の駆動棒
オ・・・第3反射鏡の駆動棒
カ・・・導波管
(図5a)
ア・・・第2反射鏡(回転駆動式平面鏡)
イ・・・第2反射鏡の駆動棒
ウ・・・冷却水流配管
エ・・・真空封止用ベロー
オ・・・駆動棒イの駆動機構
カ・・・駆動棒イの支持機構
キ・・・駆動機構オおよび支持機構イを含むアンテナ系全体を固定する支持機構
ク・・・冷却配管用スパイラルチューブ
ケ・・・第1反射鏡
コ・・・導波管
サ・・・核融合実験装置の真空容器
シ・・・真空容器のポート
(図5b)
ア・・・第2反射鏡(直線駆動式球面鏡)
イ・・・第2反射鏡の駆動棒
ウ・・・冷却水流路
エ・・・真空封止用ベロー
オ・・・駆動棒イの駆動機構
カ・・・駆動棒イの支持機構
キ・・・駆動機構オおよび支持機構イを固定する支持柱
ク・・・冷却配管用ベロー
ケ・・・第1反射鏡
コ・・・導波管
サ・・・核融合実験装置の真空容器
シ・・・真空容器のポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核融合炉または核融合実験装置の真空容器に取付けた、導波管、1個以上の金属製反射鏡、反射鏡冷却配管、および反射鏡駆動機構で構成され、導波管端部から放射されるミリ波帯の電磁波ビームをプラズマに入射する角度の制御を、反射鏡の回転運動によらず、直線運動によって実現することを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。
【請求項2】
反射鏡への電磁波ビームの入射位置を変化させることで、入射角度および反射角度が変化するように設計した反射面形状を有する反射鏡を用いることを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。
【請求項3】
反射鏡への電磁波ビームの入射位置の変化を、固定された導波管と直線駆動される反射鏡の相対位置の変化によって実現することを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。
【請求項4】
反射鏡を直線駆動とすることで、回転運動に必要な、摩擦を伴う回転軸やリンク機構を真空領域内に設ける必要性を排除したことを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。
【請求項5】
直線運動する反射鏡と固定された冷却装置を接続する、反射鏡冷却配管の緩衝機構として、堅牢かつ信頼性の高い直線的ベロー管を保守の容易な真空容器外に設置することを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。
【請求項6】
真空容器の壁面を貫通する反射鏡冷却配管および反射鏡駆動機構の駆動軸と真空容器との取り合いに、堅牢かつ信頼性の高い直線的ベロー管を使用することを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。
【請求項7】
反射鏡駆動機構の駆動軸内部を反射鏡用冷却配管として用いることを特徴とする高周波加熱装置用直線駆動アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−40919(P2007−40919A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227647(P2005−227647)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)