説明

高周波回路用伝送線路

【課題】所望の奇モードに対する特性インピーダンスを低くし、不要な偶モードに対する特性インピーダンスを高くした高周波回路用伝送線路を提供する。
【解決手段】本発明の一実施例では、誘電体基板の片側面上に2枚のコプレーナ・ストリップ18を設け、またその裏面には、その長手方向がコプレーナ・ストリップの長手方向に対して垂直になるように配向された複数の短い導電性セグメント30を、ある一定間隔を置いて設けている。これにより、2枚のコプレーナ・ストリップ間の静電容量が増大し、それだけ有効特性インピーダンスを低減させることができる。さらに、複数の導電性セグメント間の間隙によって、伝送線路上の偶モード信号の伝播が妨げられる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は伝送線路に関するものであり、より詳細には、平衡モードを伝送する改良型伝送線路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】伝送線路は、電気エネルギーを1点から別の点へ伝送する単一導体または導体群である。従って、伝送線路は、基本的には1つの場所から別の場所に至る連続経路を形成する有形の境界線システムであり、この経路に沿って電磁エネルギーの伝送を導くことができる。伝送線路は、信号を回路内の1つの場所から別の場所へ、或いは多くの場合アンテナへ伝送するために回路内で使用される。無線周波数(RF)向け用途においては、伝送線路は、送信機からアンテナまたは結合装置までRFエネルギーを伝送する、正確に寸法決めされた導体または導体対である。伝送線路は、送信機からの信号を通過させる一方、電力損失を最小に維持するようにして送信機出力を処理することができるものでなければならない。送信機システムでは、インピーダンスの関係が、伝送特性を画定する中心的役割を果たす。伝送線路の一般的原理に従えば、負荷および信号源が、伝送線路の特性インピーダンスと等しいインピーダンスを有していなければならない。この場合、その線路は「整合」がとれていることになる。
【0003】伝送線路の特性インピーダンスは、次式で与えられることが周知である。
【数1】


【0004】式(1)において、Lは、伝送線路単位メートル当たりのインダクタンスであり、Cは、伝送線路単位メートル当たりの静電容量である。伝送線路は、特性インピーダンスZoを有しており、このことは、その線路に沿って移動する波動の電圧対電流比がZoに等しいことを意味する。周期的に容量性負荷がかかる線路の有効特性インピーダンスは、次式のようになることが分かっている。
【0005】
【数2】


式(2)中のCoは、周期的な集中容量の値であり、dは、これら容量の間の距離である。
【0006】同一平面に配置された2つの導体ストリップから成る伝送線路(通常、コプレーナ・ストリップ(coplanar strips)またはCPSと称される)が周知であり、マイクロ波部品内において使用されている。コプレーナ・ストリップ伝送線路は、差動モード(図2において図示)を伝送するため使用されてきた。電気力線は、一方の導体ストリップから出て、他方の導体ストリップで終端する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】特性インピーダンスは、所望の伝播方向で低くなることが望ましい場合が多々ある。コプレーナ・ストリップを使用する場合においてこの条件を実現するには、ストリップを極めて幅広に、かつ、ストリップ間の間隙を極めて狭くする必要がある。その上、この幅には、伝播する電気の波長に比べて狭くしなければならないという機能的制限がある。狭い間隙は製作困難であり、また、間隙が狭いと、間隙周りの導電性ストリップの小さな領域内に多量の電流が押し寄せることによって、伝送線路の抵抗損失が増大する。また、許容公差変数を大きくせずに小さな間隙を精密に製作することも困難である。
【0008】幅広のコプレーナ・ストリップは、導電性ハウジング内に装着される状況でも問題を引き起こす。ハウジング内への装着は一般に、電気的絶縁性を向上させる理由で、および構造上の理由で行なわれる。ハウジング内では、伝送線路が不要な「偶」モードを伝送することがある。この不要な「偶」モードは、図3で示すように、導電性ストリップで開始し、他方の導電性ストリップではなくハウジング内壁で終端するような電界によって特徴付けられる。必要であるのは、製造を複雑化せずに、所望の伝播モードに対し低特性インピーダンスを呈し、かつ、不要モードに対し高インピーダンスを呈す伝送線路である。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明では、所望のモードに対し低特性インピーダンスを呈し、不要なモードに対し高インピーダンスを呈する伝送線路を提供する。本発明による伝送線路は、誘電体基板の片側面上に2つのコプレーナ・ストリップを、他方片側面上には、その長手方向がコプレーナ・ストリップの長手方向に対し垂直になるように配置された複数の短い導電性セグメントを設えている。これにより本発明による伝送線路は、2枚のコプレーナ・ストリップ間の静電容量を増大させ、それに応じて有効特性インピーダンスを低減させるように動作することが可能となる。
【0010】
【実施例】本発明による伝送線路には、所望の伝播モードに対する低特性インピーダンスと、不要モードに対する高インピーダンスが備わっている。本発明による伝送線路の構造は、図1A乃至図1Eで包括的に示してある。図1A、図1Cは本発明による伝送線路の上面側斜視図及び上面図であり、図1B、図1Dは底面側斜視図及び底面図である。図1Eは、図1Aの矢印方向から見た同構造体の端面図である。図1Aから分かるように、誘電体基板16の第1面15(以降、便宜上これを上面と称するが、この呼称に限定されるわけではない)があり、同第1面上に2枚の電気伝導性コプレーナ・ストリップ18があり、各ストリップは幅wを有しており、かつ、両ストリップが距離dだけ離間されており、更に誘電体基板は所定の基板長さ9および基板幅10を有する。図1Bには、複数の導電性セグメント30を備えた誘電体基板の第2面20(以降、便宜上これを底面と称するが、この呼称に限定されるわけではない)が示されている。導電性セグメント30は、セグメント幅11が狭く、誘電体基板の幅に比べてセグメント長さ12が短い。セグメントは、所定の間隙gをおいて周期的に配置されており、その長手方向は、誘電体基板の上面にあるコプレーナ・ストリップ18の長手方向に対して垂直である。導電性セグメント30は、2つのコプレーナ・ストリップ18の間の静電容量を増大させ、それに応じて有効特性インピーダンスを低減するように作用する。図1Eは、誘電体基板16の所定厚さ13を示している。当業者であれば、これらの所定寸法に選択される値が、その伝送線路がどのような用途で使用されるかに依存することを理解するであろう。更に、当業者であれば、所与の用途に向けた適切な寸法を決定するために、一般的に知られている原理を適用することができるであろう。
【0011】伝送線路の特性インピーダンスがZ0=(L/C)であることは周知である。この式中、Lは、伝送線路の単位メートル当たりのインダクタンスであり、Cは同伝送線路の単位メートル当たりの静電容量である。周期的容量性負荷のかかった線路の有効特性インピーダンスは、次式で示される。
【0012】
【数3】


式中、C0は、周期的な集中容量の値であり、dは、これら集中容量の間の距離である。2つの導体からなるコプレーナ・ストリップ伝送線路(通常、CPS伝送線路と称される)は、差動モードを伝送するために使用される(図2に図示)。電気力線40は、一方の導電性ストリップで開始し、他方ストリップで終端する。なお、図3には、ハウジング50内の誘電体基板16上にあるコプレーナ・ストリップ伝送線路に沿って存在する不要な伝播60が図示されている。
【0013】図4には、伝送線路において所望される伝播モードの電界40、45、70が示されている。導電性セグメント間の間隙によって、導電性ストリップ18に平行な方向に電流が流れないようになっており、その結果、偶モード信号の伝播が防止される。
【0014】しかし、この伝送線路を図5に示すように導電性ハウジング55内に実装した場合、偶モード、つまり非平衡モードは伝送される。偶モードは、コプレーナ・ストリップを伴う場合と同様に、コプレーナ導電性ストリップで開始し、ハウジング内壁で終端する電界80により特徴付けられる。この電界に対応する磁界90は、導電性ストリップを包囲しており、外方へ広がり導電性ハウジング55に及んでいる。
【0015】幸運にも、図6で表したように、不要な偶モードを分散させてこれを除去することが可能である。偶モードを除去するため、電気的および/または磁気的損失を生ずる部材100が、伝送線路の周囲に配置される。所望の奇伝播モードは、この物質を配した領域に極めて小さな電磁界を形成するが、比較的、電磁気的損失を生ずる物質100の存在に影響されることはない。本明細書に開示した実施例に変更を加えて実施することができることは当業者にとっては明白であり、本明細書に記述した発明の原理を使用する実施態様の全ては、以下に記述する特許請求の範囲に包含される。
【0016】〔実施態様〕なお、本発明の実施態様の例を以下に示す。
【0017】〔実施態様1〕所望の奇伝播モード信号を伝送する平衡モード伝送線路であって、上面および底面を有する誘電体基板と、それぞれが幅(w)を有しており、前記誘電体基板の前記上面上に位置した、差動モード信号を伝送する少なくとも2枚の電気伝導性コプレーナ・ストリップであって、前記少なくとも2枚のコプレーナ・ストリップ間に間隙(d)を有するコプレーナ・ストリップと、前記誘電体基板の前記底面上に位置しており、その長手方向が前記コプレーナ・ストリップの長手方向に対し垂直になるように配向された、複数の周期的に配置された導電性セグメントであって、前記複数の導電性セグメント間に、前記伝送線路上の偶モード信号の伝播を防ぐように機能する個々の間隙(g)を有しており、更に、前記偶モード信号伝播の防止に応じて、所望の奇伝播モード信号に対する有効特性インピーダンスの低減を引き起こすように機能する複数の導電性セグメントとを設けて成る伝送線路。
【0018】〔実施態様2〕前記導電性セグメントが、前記伝送線路上の前記偶モード信号伝播を妨害するために、前記導電性コプレーナ・ストリップの長手方向に平行な方向の電流の流れを妨害するように機能することを特徴とする実施態様1に記載の伝送線路。
【0019】〔実施態様3〕前記偶モード信号伝播の妨害に応じて前記所望の奇伝播モード信号に対する有効特性インピーダンスの低減を引き起こすように、前記導電性セグメントによって2枚の前記コプレーナ・ストリップ間の静電容量を増加させていることを特徴とする実施態様2に記載の伝送線路。
【0020】〔実施態様4〕前記伝送線路を収容する導電性ハウジングをさらに設けたことを特徴とする実施態様1乃至実施態様3のいずれか一項に記載の伝送線路。
【0021】〔実施態様5〕前記偶モード信号を減衰させる電磁気的損失を生ずる部材が前記伝送線路の周囲にさらに設けたことを特徴とする実施態様4に記載の伝送線路。
【0022】〔実施態様6〕所望の奇モード伝播モード信号を伝送する平衡モード伝送線路パッケージであって、上面および底面を有する誘電体基板と、個々に幅(w)を有しており、前記誘電体基板の前記上面上に位置した、差動モード信号を伝送する少なくとも2枚の電気伝導性コプレーナ・ストリップであって、前記少なくとも2枚のコプレーナ・ストリップ間に間隙(d)を有する前記コプレーナ・ストリップと、前記誘電体基板の前記底面に位置しており、前記伝送線路上の偶モード信号伝播を防止するために、その長手方向が前記コプレーナ・ストリップの長手方向に対して垂直になるように配向して設けられた比較的短い複数の導電性セグメントであって、更に、前記偶モード信号伝播の妨害に応じて、所望の奇伝播モード信号に対する有効特性インピーダンスの低減を引き起こすように、前記コプレーナ・ストリップ間の静電容量を増加させるように機能する導電性セグメントと前記伝送線路を収容する導電性ハウジングとを設けて成る伝送線路パッケージ。
【0023】〔実施態様7〕前記伝送線路の周囲に配置されており、前記偶モード信号を減衰する電磁気的損失を生ずる部材をさらに設けたことを特徴とする実施態様6に記載の伝送線路パッケージ。
【図面の簡単な説明】
【図1A】本発明の好適な実施態様を示す上面側斜視図である。
【図1B】本発明の好適な実施態様を示す底面側斜視図である。
【図1C】本発明の好適な実施態様を示す上面図である。
【図1D】本発明の好適な実施態様を示す底面図である。
【図1E】本発明の好適な実施態様の端面を示す図である。
【図2】コプレーナ・ストリップ伝送線路上の平衡(奇モード)電界を示す図である。
【図3】コプレーナ・ストリップ伝送線路上の非平衡(偶モード)電界を示す図である。
【図4】線路構造を有するコプレーナ・ストリップ上の平衡(奇モード)電界を示す図である。
【図5】線路構造を有するコプレーナ・ストリップ上の非平衡(偶モード)電界を示す図である。
【図6】偶モード除去部材を備えた実施例を示す図である。
【符号の説明】
15:第1面(上面)
16:誘電体基板
18:コプレーナ・ストリップ
20:第2面(底面)
50:導電性ハウジング
55:導電性ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】所望の奇伝播モード信号を伝送する平衡モード伝送線路であって、上面および底面を有する誘電体基板と、それぞれが幅を有しており、前記誘電体基板の前記上面上に位置した、差動モード信号を伝送する少なくとも2枚の電気伝導性コプレーナ・ストリップであって、前記少なくとも2枚のコプレーナ・ストリップ間に間隙を有するコプレーナ・ストリップと、前記誘電体基板の前記底面上に位置しており、その長手方向が前記コプレーナ・ストリップの長手方向に対し垂直になるように配向された、複数の周期的に配置された導電性セグメントであって、前記複数の導電性セグメント間に、前記伝送線路上の偶モード信号の伝播を防ぐように機能する個々の間隙を有しており、更に、前記偶モード信号伝播の防止に応じて、所望の奇伝播モード信号に対する有効特性インピーダンスの低減を引き起こすように機能する複数の導電性セグメントとを設けて成る伝送線路。

【図1A】
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【図1B】
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【図1E】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−151218(P2000−151218A)
【公開日】平成12年5月30日(2000.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−285297
【出願日】平成11年10月6日(1999.10.6)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.