説明

高周波型荷電粒子加速装置

【構成】 高周波型イオン加速装置6は、高周波4重極型線形加速器8とビームのエネルギーを可変する後段高周波加速器9とが、高周波的に両加速器8・9を隔離する仕切り板10を介して真空チャンバ7内に一体的に設けられている構成である。
【効果】 両加速器8・9の間の距離が非常に短くなり、両加速器8・9間のビームのマッチングが最適に行われ、ビームの輸送効率が高まる。全体の長さが短くなり、装置の小型化が図れる。従来では2つ必要であった真空チャンバが1つとなり、部品数の削減および低コスト化が図れる。従来よりも両加速器8・9のビーム軸を合致させる作業が容易であり、両加速器8・9のビーム軸のずれが生じ難い。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高エネルギーのイオン等の荷電粒子を照射対象物に照射してイオン注入や表面改質等を行う装置に供される高周波型加速装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】イオン注入装置は、拡散したい不純物をイオン化し、この不純物イオンを磁界を用いた質量分析法により選択的に取り出し、電界により加速してイオン照射対象物に照射することで、イオン照射対象物内に不純物を注入するものである。そして、このイオン注入装置は、半導体プロセスにおいてデバイスの特性を決定する不純物を任意の量および深さに制御性良く注入できることから、現在の集積回路の製造に重要な装置になっている。
【0003】近年、半導体デバイスメーカでは、MeV級の高エネルギーイオン注入装置の必要性が高まっている。これは、C−MOSデバイス製造プロセスにおけるレトログレイドウエルの形成、ROM後書込み等を、高エネルギーイオン注入で行う利点が明らかになってきたためである。
【0004】上記高エネルギーイオン注入装置の一つに、図2に示すように、イオン加速手段として高周波4重極型線形加速器(以下、RFQ加速器と称する)56を用いたものがある。上記高エネルギーイオン注入装置は、イオン源物質をイオン化してビームとして引き出すイオン源52、質量分析により所望のイオンのみを選択的に取り出す分析マグネット53、イオンビームをシャープに整形する静電レンズ54、および上記各部位52〜54に電力を供給する高電圧電源部55を有するイオンビーム発生部51を備えている。そして、このイオンビーム発生部51の後段に上記RFQ加速器56が設けられ、イオンビーム発生部51から出射されたイオンがRFQ加速器56により所定のエネルギーまで加速されるようになっている。
【0005】上記RFQ加速器56は、真空チャンバ56a内にモジュレーション(波)を有する4重極電極56bを備えている。また、上記RFQ加速器56のビーム入射部には、ビームを加速し易いように集群(バンチ)するバンチ部が形成されている。上記RFQ加速器56に、図示しない高周波電源より所定周波数の高周波電力を供給して共振させることにより、イオンの進行方向と直角な方向に4重極電界が形成され、ビーム入射部でバンチされたビームが集束されながら加速される。
【0006】尚、上記RFQ加速器56では、その共振周波数が、その構造によって一定のものに固定されているため、同一イオン種の加速エネルギーを可変できないという欠点がある。また、あるエネルギー以上になると加速効率が悪化する。この解決法として、RFQ加速器56の後段に高周波加速器(以下、後段RF加速器)57が付加されている。即ち、上記RFQ加速器56から出射された所定エネルギーのビームを、後段RF加速器57でさらに加速、あるいは減速して、所望のエネルギーに調整するのである。上記後段RF加速器57としては、例えば、真空容器57a内にドリフトチューブ57bを備えた2ギャップのλ/4共振器を用いることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来では、上記RFQ加速器56の後段に後段RF加速器57を設ける場合、ベローズ58およびゲートバルブ59を介して、RFQ加速器56の真空チャンバ56aと、後段RF加速器57の真空チャンバ57aとを連通している。
【0008】このため、RFQ加速器56のビーム出口と後段RF加速器57のビーム入射口との間のギャップ長が、ベローズ58、ゲートバルブ59およびフランジ等によって長くなり、RFQ加速器56と後段RF加速器57との間に比較的長いドリフト空間が形成されてしまう。したがって、RFQ加速器56と後段RF加速器57とのビームマッチングが不適当になり、ビームの輸送効率の悪化を招来するという問題が生じる。
【0009】即ち、上記RFQ加速器56から出射されたビームは、イオンが所定の位相範囲内(例えば−30°<φ<30°、φ:位相〔°〕)に存在するバンチ構造であるが、位相の進んでいるイオンは速度が遅く、位相の遅れているイオンは速度が速いので、ドリフト空間を通過するに連れてビームバンチは平滑にされて位相範囲が広がってしまう。上記後段RF加速器57は、所定の位相範囲内のイオンしか加速しないので、上記ドリフト空間が長くビームバンチの位相範囲が広くなる程、後段RF加速器57で加速されないイオンの割合が多くなり、ビームの輸送効率の悪化を招くのである。
【0010】また、ベローズ58やゲートバルブ59が必要な分、全体の長さが長くなり、装置の大型化を招来すると共に、部品数も多くなり、コスト高も招来する。
【0011】また、上記RFQ加速器56と後段RF加速器57とがそれぞれ別体の真空チャンバ56a・57a内に設けられているので、両者56・57のビーム軸を合致させる作業が比較的難しい。即ち、RFQ加速器56と後段RF加速器57をそれぞれ別体の真空チャンバ56a・57a内で正確に位置決め固定し、さらに、両真空チャンバ56a・57aを正確に位置決め固定する必要があるからである。また、両真空チャンバ56a・57aを位置決め固定した後、地震等によって何れか一方の真空チャンバの固定位置がずれると、両加速器56・57のビーム軸にずれが生じてしまうといった不都合も生じる。
【0012】本発明は、上記に鑑みなされたものであり、その目的は、ビームの輸送効率を高めることができ、小型化および低コスト化が図れ、さらに、2つの加速器間のビーム軸の合致作業が容易であり、ビーム軸のずれが生じ難い安定な構造の高周波型荷電粒子加速装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の高周波型荷電粒子加速装置は、被加速荷電粒子の通過経路のまわりに配置された4重極電極を備え、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記荷電粒子ビームを集群して加速する高周波4重極加速手段と、上記高周波4重極加速手段の後段に配置され、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記高周波4重極加速手段で加速された荷電粒子ビームのエネルギーを可変する後段高周波加速手段とを備えているものであって、上記の課題を解決するために、以下の手段が講じられていることを特徴とするものである。
【0014】即ち、上記高周波4重極加速手段と上記後段高周波加速手段とが、高周波的に両加速手段を隔離するための隔離部材を介して、1つの真空容器内に一体的に設けられている。
【0015】
【作用】上記の構成によれば、1つの真空容器内に、隔離部材を介して高周波4重極加速手段と上記後段高周波加速手段とが一体的に設けられているので、従来用いられていたベローズやゲートバルブが存在しない分、両加速手段の間の距離が非常に短くなる。このため、高周波4重極加速手段で集群された状態で加速された荷電粒子ビームは、略、高周波4重極加速手段から出射された位相範囲のままで、後段高周波加速手段に入射されることになるので、両加速手段間のビームのマッチングが最適に行われ、ビームの輸送効率が高まる。
【0016】また、従来用いられていたベローズやゲートバルブが不要となるため、全体の長さが短くなり、装置の小型化が図れる。また、従来では2つ必要であった真空容器が1つとなり、また、ベローズやゲートバルブも不要となるので、部品数の削減および低コスト化が図れる。
【0017】また、上記高周波型荷電粒子加速装置では、従来よりも両加速手段のビーム軸を合致させる作業が容易となる。即ち、従来では真空容器内における加速手段の位置決めと、真空容器の位置決めとを正確に行う必要があるが、本発明では、1つの真空容器内における両加速手段の位置決めを正確に行うだけで、ビーム軸の合致が可能となる。また、従来では、一方の真空チャンバの固定位置がずれると、ビーム軸がずれてしまうが、本発明では、一度、真空容器内で両加速手段のビーム軸を合致させれば、地震等が生じてもビーム軸のずれが生じ難い安定な構造となっている。
【0018】
【実施例】本発明の一実施例について図1に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0019】本実施例に係る高周波型荷電粒子加速装置としての高周波型イオン加速装置(以下、RF加速装置と称する)は、高エネルギーイオン注入装置に用いられるものであり、図1に示すように、高エネルギーイオン注入装置のイオンビーム発生部1の後段に設置されている。
【0020】上記イオンビーム発生部1は、イオン源物質をイオン化してビームとして引き出すイオン源2、質量分析により所望のイオンのみを選択的に取り出す分析マグネット3、RF加速装置6へ入射するビーム量の効率を高めるためにイオンビームをシャープに整形する静電レンズ4、および上記各部位2〜4に電力を供給する高電圧電源部5を有している。
【0021】上記RF加速装置6は、1つの真空チャンバ(真空容器)7内に、高周波4重極加速手段としての高周波4重極型線形加速器(以下、RFQ加速器と称する)8と、このRFQ加速器8の後段に配置される後段高周波加速手段としての後段高周波加速器(以下、後段RF加速器)9とが一体的に設けられたものである。上記RFQ加速器8と後段RF加速器9との間には、両加速器8・9を高周波的に隔離するための隔離部材としての仕切り板10が介在されている。上記仕切り板10の中央には、ビーム通過孔が形成されている。
【0022】上記仕切り板10は、高周波電流に対して抵抗の少ない材質、例えば銅により形成されている。また、仕切り板10として、銅メッキを施した鉄板等を用いることもできる。上記仕切り板10の内部には、水等の冷媒の通路が形成されており、装置運転中の過熱を防止するようになっている。
【0023】上記RFQ加速器8は、被加速荷電粒子ビームとしてのイオンビームの通過経路のまわりに配置された4重極電極8aを備えている。この4重極電極8aにおける各電極の対向面には、イオンの進行方向と直角な方向に4重極電界を形成するためのモジュレーション(波)が形成されている。また、上記RFQ加速器8のビーム入射部には、ビームを加速し易いように集群(バンチ)するバンチ部が形成されている。
【0024】上記後段RF加速器9は、共振波長λの1/4倍の長さを有する導体9aを備え、導体9aの一端をショート、他端にビーム通過孔を有するドリフトチューブ9bを形成した2ギャップのλ/4共振器であり、導体9aを渦巻き状にしたスパイラルレゾネータと呼称されるものである。
【0025】上記真空チャンバ7には、図示しない高真空ポンプの引口と、上記RFQ加速器8および後段RF加速器9にそれぞれ高周波電力を供給するためのポートとが設けられている。
【0026】上記の構成において、RF加速装置6の動作を以下に説明する。
【0027】RF加速装置6のRFQ加速器8には、図示しない高周波電源より所定の高周波電力が供給されており、イオンの進行方向と直角な方向に4重極電界が形成されている。イオンビーム発生部1から出射されたイオンビームは、先ず、このRFQ加速器8に入射し、該RFQ加速器8のバンチ部でバンチされる。即ち、イオンの位相が所定範囲内なるように揃えられる。そして、バンチ部でバンチされたビームが、上記4重極電界により集束されながら加速される。
【0028】上記RFQ加速器8で所定エネルギーに加速されたビームは、RFQ加速器8から出射後、仕切り板10のビーム通過孔を通過して直ちに後段RF加速器9に入射される。両加速器8・9間の距離は非常に短く、この間に従来のようにビームバンチの位相範囲が大きく広がってしまうことはなく、バンチ構造のビームは、略、RFQ加速器8から出射された位相範囲のままで、後段RF加速器9に入射されることになる。
【0029】上記後段RF加速器9では、RFQ加速器8と後段RF加速器9との位相関係を180°変化させることにより、2つのギャップg1 ・g2 においてバンチ構造のビームが加速、または減速される。この後、後段RF加速器9から出射されたイオンビームは、照射部にセットされているウェハ等のイオン照射対象物へ照射される。
【0030】以上のように、本実施例のRF加速装置6は、イオンビームの通過経路のまわりに配置された4重極電極8aを備え、高周波電源より所定の高周波電力の供給を受けて所定周波数で共振し、イオンビームをバンチ(集群)して加速するRFQ加速器8と、上記RFQ加速器8の後段に配置され、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記RFQ加速器8で加速されたイオンビームのエネルギーを可変する後段RF加速器9とを備えているものであって、上記RFQ加速器8と後段RF加速器9とが、高周波的に両加速器8・9を隔離するための仕切り板10を介して真空チャンバ7内に一体的に設けられている構成である。
【0031】これにより、RFQ加速器8と後段RF加速器9との間の距離が非常に短くなり、バンチ構造のビームは、略、RFQ加速器8から出射された位相範囲のままで、後段RF加速器9に入射されることになるので、RFQ加速器8と後段RF加速器9との間のビームのマッチングが最適に行われ、ビームの輸送効率が高まる。
【0032】また、従来、RFQ加速器と後段RF加速器との間に設けられていたベローズやゲートバルブが不要となるため、全体の長さが短くなり、装置の小型化が図れる。また、従来では2つ必要であった真空チャンバが1つとなり、また、ベローズやゲートバルブも不要となるので、部品数の削減が図れ、低コスト化も図れる。
【0033】また、上記RF加速装置6では、従来よりも両加速器8・9のビーム軸を合致させる作業が容易である。即ち、従来では真空チャンバ内における加速器の位置決めと、真空チャンバの位置決めとが正確に行われていないと両加速器のビーム軸を合致させることができなかったのに対し、上記RF加速装置6では、1つの真空チャンバ7内における両加速器8・9の位置決めを正確に行うだけで、両加速器8・9のビーム軸を合致させることができる。また、従来では、地震等によって何れか一方の真空チャンバの固定位置がずれると、両加速器のビーム軸がずれてしまうが、上記RF加速装置6では、一度、真空チャンバ7内で両加速器8・9のビーム軸を合致させれば、地震等が生じてもビーム軸のずれが生じ難い安定な構造となっている。
【0034】尚、上記実施例では、高周波型荷電粒子加速装置を高エネルギーイオン注入装置に適用した例を示したが、他の装置にも適用可能である。また、上記実施例では、後段高周波加速手段としてスパイラルレゾネータが用いられているが、これに限定されるものではなく、例えば、ドリフトチューブを複数有し、各ドリフトチューブ間のギャップで加速を行う構成のドリフトチューブライナック等の他の高周波加速器を用いることもできる。上記実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【0035】
【発明の効果】本発明の高周波型荷電粒子加速装置は、以上のように、被加速荷電粒子の通過経路のまわりに配置された4重極電極を備え、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記荷電粒子ビームを集群して加速する高周波4重極加速手段と、上記高周波4重極加速手段の後段に配置され、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記高周波4重極加速手段で加速された荷電粒子ビームのエネルギーを可変する後段高周波加速手段とを備えているものであって、上記高周波4重極加速手段と上記後段高周波加速手段とが、高周波的に両加速手段を隔離するための隔離部材を介して、1つの真空容器内に一体的に設けられている構成である。
【0036】それゆえ、高周波4重極加速手段と後段高周波加速手段との間の距離が非常に短くなり、両加速手段間のビームのマッチングが最適に行われ、ビームの輸送効率が高まる。
【0037】また、従来用いられていたベローズやゲートバルブが不要となるため、全体の長さが短くなり、装置の小型化が図れる。また、従来では2つ必要であった真空容器が1つとなり、また、ベローズやゲートバルブも不要となるので、部品数の削減および低コスト化が図れる。
【0038】また、1つの真空容器内における高周波4重極加速手段および後段高周波加速手段の位置決めを正確に行うだけで、ビーム軸の合致が可能となり、従来よりも両加速手段のビーム軸を合致させる作業が容易となる。また、従来では、一方の真空チャンバの固定位置がずれると、ビーム軸がずれてしまうが、本発明では、一度、真空容器内で両加速手段のビーム軸を合致させれば、地震等が生じてもビーム軸のずれが生じ難い等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すものであり、高周波型イオン加速装置を用いた高エネルギーイオン注入装置の要部の構成を示す概略構成図である。
【図2】従来例を示すものであり、高周波型イオン加速装置を用いた高エネルギーイオン注入装置の要部の構成を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 イオンビーム発生部
6 高周波型イオン加速装置
7 真空チャンバ(真空容器)
8 高周波4重極型線形加速器(高周波4重極加速手段)
8a 4重極電極
9 後段高周波加速器(後段高周波加速手段)
10 仕切り板(隔離部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】被加速荷電粒子の通過経路のまわりに配置された4重極電極を備え、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記荷電粒子ビームを集群して加速する高周波4重極加速手段と、上記高周波4重極加速手段の後段に配置され、高周波電源より高周波電力の供給を受けて共振し、上記高周波4重極加速手段で加速された荷電粒子ビームのエネルギーを可変する後段高周波加速手段とを備えているものであって、上記高周波4重極加速手段と上記後段高周波加速手段とが、高周波的に両加速手段を隔離するための隔離部材を介して、1つの真空容器内に一体的に設けられていることを特徴とする高周波型荷電粒子加速装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平7−57897
【公開日】平成7年(1995)3月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−198401
【出願日】平成5年(1993)8月10日
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)