説明

高周波結合器及び通信システム

【課題】効率よくかつ広帯域で近距離での大容量のデータ通信が可能な高周波結合器及び通信システムを得る。
【解決手段】送信側の高周波結合器10Aと受信側の高周波結合器10Bとで構成した通信システム。それぞれの高周波結合器10A,10Bは、外部に高周波信号を送受信する放射板11と、整合回路15と、高周波信号を処理する通信回路20と、で構成されている。整合回路15は、放射板11と通信回路20とに結合し、放射板11と通信回路20との間を所定の周波数帯域でインピーダンス整合をとる。放射板11の共振周波数は送受信される高周波信号の周波数よりも高く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波結合器、特に、近距離での大容量データ通信に好適に用いることのできる高周波結合器及び通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像や音楽などの大容量データを無線信号の送受によって転送する広帯域周波数を使った通信方式が注目されている。この通信方式によれば、近距離(30mm程度)であるが、1GHz以上の広い周波数帯域を使用し、500Mbps程度の大容量のデータを送受することができる。
【0003】
一般的に、高周波信号で通信する場合の結合器(アンテナ)として、電界結合方式や電磁誘導方式を用いると、通信距離に比例してエネルギーが減衰する。電界結合は距離の3乗に比例して減衰することが知られている。これに対して、磁界結合は距離の2乗に比例して減衰する。このことは、他の通信装置からの干渉を受けずに近距離での通信を可能としている。しかし、1GHz以上の高周波信号を用いて通信する場合、高周波信号の波長が短いので、距離に応じて伝搬損が生じる。そこで、効率よく高周波信号を伝達する必要がある。
【0004】
特許文献1には、広帯域周波数を使った通信方式により情報機器間で大容量のデータ通信を行うために、主に電界結合でエネルギーの伝達を行う高周波結合器が記載されている。しかし、電界結合は距離の3乗に比例して減衰するので、小型化すると通信距離がかなり短くなってしまい、結合器の小型化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−99236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、効率よくかつ広帯域で近距離での大容量のデータ通信が可能な高周波結合器及び通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第1の形態である高周波結合器は、
外部に高周波信号を送信する、及び/又は、外部から高周波信号を受信する放射板と、
整合回路と、
高周波信号を処理する通信回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記放射板と前記通信回路とに結合し、前記放射板と前記通信回路との間を所定の周波数帯域でインピーダンス整合をとり、
前記放射板の共振周波数は送信及び/又は受信される高周波信号の周波数よりも高いこと、
を特徴とする。
【0008】
本発明の第2の形態である通信システムは、
少なくとも二つの前記高周波結合器を備え、
前記少なくとも二つの高周波結合器がそれぞれ備える前記放射板によって高周波信号を送信及び/又は受信することによりデータを伝送すること、
を特徴とする。
【0009】
前記高周波結合器及び通信システムにおいては、放射板と通信回路との間をインピーダンス整合させる整合回路を備えているため、整合回路が決定する所定の周波数で放射板が高周波信号を送信/受信する。放射板自体は伝送される高周波信号の周波数で共振していないので、広い周波数帯域での通信が可能であり、放射板の共振周波数が通信周波数よりも高いために、放射板からは磁界が放射され結合器どうしが減衰比率の小さい磁界で結合する。このような磁界結合によって効率よく高周波信号を伝達でき機器の小型化が可能であり、特に、近距離での大容量のデータ通信に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、広帯域での高周波信号による通信を近距離で効率よく実現することができ、特に、近距離での大容量のデータ通信に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る一組(送信側、受信側)の高周波結合器を示すブロック図である。
【図2】図1に示した一組の高周波結合器の放射板を対向させた状態を示す斜視図である。
【図3】前記放射板を磁界遮蔽部材にとり付けた状態を示す斜視図である。
【図4】図3に示した放射板と磁界遮蔽部材を示す分解斜視図である。
【図5】整合回路の一例を示すブロック図である。
【図6】放射板の反射特性を示すグラフである。
【図7】放射板の放射状態を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る高周波結合器及び通信システムの実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1に示すように、通信システムは送信側の高周波結合器10Aと受信側の高周波結合器10Bとで構成されている。それぞれの高周波結合器10A,10Bは、外部に高周波信号を送受信する放射板11と、整合回路15と、高周波信号を処理する通信回路20と、で構成されている。
【0014】
放射板11は、金属材からなるループ状アンテナであり、該ループ状アンテナの両端部が導線12を介して整合回路15と結合している。また、整合回路15は、通信回路20と導線19を介して結合しており、放射板15と通信回路20との間を所定の周波数帯域でインピーダンス整合をとっている。そして、放射板11の共振周波数は放射板11,11の間で送受信される高周波信号の周波数よりも高く設定されている。
【0015】
整合回路15は、例えば、図5に示すように、互いに磁気結合する二つのインダクタンス素子L1,L2にて形成されており、所定周波数の高周波信号を通信回路20から放射板11に伝達し、また、放射板11から通信回路20に伝達する。インダクタンス素子L1,L2からなる整合回路15は、図6に示すように、4GHz帯域で600MHz帯域X(−5dBの帯域幅)で、放射板11と通信回路20とのインピーダンスを整合させる。
【0016】
従って、送信側の高周波結合器10Aにおいては、通信回路20から供給されるエネルギーでループ状の放射板11に高周波電流が流れて放射板11から高周波磁界が放射される。放射された高周波磁界は受信側の高周波結合器10Bの放射板11で受信され、整合回路15を介して通信回路20に供給される。放射板11自体は伝送される高周波信号の周波数で共振していないので、広い周波数帯域(図6参照)で高周波信号の伝達が可能である。この通信時において、それぞれの放射板11,11は図2に示すように近接対向させる必要がある。しかし、磁界は放射板11から広がるように放射されるので、それぞれの放射板11,11の相対位置関係は比較的自由である。
【0017】
ところで、図7に示すように、放射板11はその共振周波数f0が通信周波数帯域f1よりも高いと磁界を発生し、通信周波数帯域f2よりも低いと電界を発生する。従って、放射板11の共振周波数f0を送受信する高周波信号の周波数よりも高く設定することにより、放射板11からは常に磁界が放射/受信され、二つの放射板11,11が磁界結合する。これにて、近接した距離で他の通信機器からの干渉を排除して効率的な高周波信号の送受信が可能になる。また、距離の2乗に比例して減衰する磁界エネルギーを使用しているため、結合器を小型にしても必要な通信距離を確保することができる。
【0018】
使用される高周波信号は1GHz以上であることが好ましく、このような高周波結合器は高周波の広帯域信号を用いるUWB通信方式における近距離での大容量のデータ通信に好適に用いることができる。放射板11がループ形状であることは、磁界がループ内を通過することで結合効率が向上する。そして、放射板11の利得はループ状の形状やその大きさに比例する。
【0019】
本高周波結合器は、図3及び図4に示すように、放射板11の正面(磁界の放射方向)を除く周囲に、磁界を遮蔽する箱状の金属部材30を配置してもよい。放射板11を背面部30a、上下面部30b,30c及び左右面部30d,30eで閉止することにより、磁界を正面部分にのみ放射させることができる。この場合、金属部材30は、効率よく磁界を遮蔽するために、放射板11からλ/4(λは高周波信号の中心周波数)だけ離間して配置されることが好ましい。なお、磁界を遮蔽するための金属部材30として、背面部30aのみを設けてもよい。
【0020】
なお、本発明に係る高周波結合器及び通信システムは前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0021】
例えば、放射板は、金属線で構成したり、あるいは基板上に金属パターンや金属膜で形成したものであってもよく、その構成や形状は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のように、本発明は、高周波結合器及び通信システムに有用であり、特に、効率よくかつ広帯域で近距離での大容量のデータ通信が可能である点で優れている。
【符号の説明】
【0023】
10A,10B…高周波結合器
11…放射板(ループ状アンテナ)
15…整合回路
20…通信回路
30…金属部材(磁界遮蔽部材)
L1,L2…インダクタンス素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に高周波信号を送信する、及び/又は、外部から高周波信号を受信する放射板と、
整合回路と、
高周波信号を処理する通信回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記放射板と前記通信回路とに結合し、前記放射板と前記通信回路との間を所定の周波数帯域でインピーダンス整合をとり、
前記放射板の共振周波数は送信及び/又は受信される高周波信号の周波数よりも高いこと、
を特徴とする高周波結合器。
【請求項2】
前記放射板はループ状アンテナであること、を特徴とする請求項1に記載の高周波結合器。
【請求項3】
前記ループ状アンテナの両端部が前記整合回路と結合していること、を特徴とする請求項2に記載の高周波結合器。
【請求項4】
前記整合回路は互いに磁気結合する少なくとも二つのインダクタンス素子を有していること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の高周波結合器。
【請求項5】
さらに、前記放射板の背面部分に配置されて磁界を遮蔽する金属板を備えたこと、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の高周波結合器。
【請求項6】
さらに、前記放射板の放射部分を除く周囲に配置されて磁界を遮蔽する金属板を備えたこと、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の高周波結合器。
【請求項7】
前記金属板は前記放射板からλ/4(λは前記高周波信号の中心周波数)だけ離間して配置されていること、を特徴とする請求項5又は請求項6に記載の高周波結合器。
【請求項8】
前記高周波信号は1GHz以上であること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の高周波結合器。
【請求項9】
前記請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の少なくとも二つの高周波結合器を備え、
前記少なくとも二つの高周波結合器がそれぞれ備える前記放射板によって高周波信号を送信及び/又は受信することによりデータを伝送すること、
を特徴とする通信システム。
【請求項10】
前記少なくとも二つの高周波結合器がそれぞれ備える前記放射板は、同じ形状を有し、かつ、互いに対向していること、を特徴とする請求項9に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−135120(P2011−135120A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289908(P2009−289908)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】