説明

高周波電磁波伝送線路

【課題】金属導波管よりも高い周波数領域でも使用可能な高周波電磁波伝送線路を提供する。
【解決手段】高周波電磁波伝送線路1は、周囲12よりも誘電率が高いコア11を有する。コア11の内部を伝搬する電磁波は、コア11と周囲12との境界面13への入射角θ0が臨界角よりも大きければ、境界面12で全反射されるので、周囲12には漏れず、コア11の内部に閉じ込められる。
この高周波電磁波伝送線路1は、中空構造を有しないので、製造が非常に容易である。また、高周波領域で損失の小さい材料を用いて形成することにより、低損失な伝送線路を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電磁波を伝送する高周波電磁波伝送線路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波電磁波の伝送には、金属導波管が使用されている。図3は、従来の高周波電磁波伝送線路である金属導波管の一構成例を示す断面図である。
金属導波管101は、所定方向に延びる金属部材111にその一端と他端との間を貫通する中空部112が形成された中空導体構造を有している。電磁波は中空部112内を伝搬する。電磁波が伝搬する方向を電磁波伝送方向という。中空部112の電磁波伝送方向に垂直な断面は、図3(b)に示すような四角形をしている。四角形の各辺の長さは、電磁波を単一モードで伝搬させるために、伝搬させる電磁波の自由空間中の波長のほぼ半分程度の寸法となっている(例えば、非特許文献1または2参照。)。
【0003】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【非特許文献1】中島将光著、「マイクロ波光学」、第1版、森北出版、1975年4月15日、p.49−62およびp.272
【非特許文献2】細野敏夫著、「電磁波光学の基礎」、第1版、昭晃堂、昭和48年6月20日、p.96−99
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、金属導波管101では、中空部112の断面寸法は、伝搬させる電磁波の波長のほぼ半分程度の寸法となっている。このため、電磁波の周波数が高くなり波長が短くなるにつれて、中空部112の断面寸法は小さくなっていく。例えば、電磁波の周波数が0.1THzでは中空部112の断面寸法は1mm程度であるのに対し、10THzになると10μm程度と非常に小さくなる。しかし、このような断面寸法をもつ中空導体構造の製造は困難であり、たとえできたとしても非常に高価なものとなる。
また、金属導波管101は、0.1THz以上の周波数領域では損失が大きくなり、方向性結合器などの単純なデバイスすら構築することが困難となる。
このような理由により、実用的なデバイスの構築が可能な金属導波管101は、0.1THz以下でしか実用化されていない。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、金属導波管よりも高い周波数領域でも使用可能な高周波電磁波伝送線路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明に係る高周波電磁波伝送線路は、周波数が0.1THz以上10THz以下の高周波電磁波を伝送する高周波電磁波伝送線路であって、所定方向に延び周囲よりも誘電率が高い誘電体からなるコアを有することを特徴とする。
【0007】
ここで、コアについては、上記所定方向に垂直な断面を四角形にしてもよい。
コアについてはまた、上記所定方向に垂直な断面の一辺の長さを、上記誘電体中を高周波電磁波が伝搬する際の波長の1/4倍以上、波長以下にしてもよい。好ましくは、上記波長の1/3倍以上、上記波長の2/3倍以下にするとよい。
上記誘電体については、その周囲に対する誘電率の比を2以上100以下にしてもよい。好ましくは、9以上25以下にするとよい。
【0008】
上述した高周波電磁波伝送線路は、コアの周囲を覆い上記誘電体よりも誘電率が低い周辺部を更に有するものであってもよい。
周辺部については、上記所定方向に垂直な方向の厚みを、周辺部を構成する媒体中を高周波電磁波が伝搬する際の波長以上にしてもよい。
これらの場合には、コアを、シリコン、ゲルマニウム、砒化ガリウム、酸化アルミニウム、ダイアモンド状炭素の少なくとも1つから構成し、周辺部を、真空、空気、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィン、ポリスチレン、酸化硅素系化合物の少なくとも1つから構成してもよい。
あるいは、コアを、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィン、ポリスチレン、酸化硅素系化合物の少なくとも1つから構成し、周辺部を、真空または空気から構成してもよい。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明に係る高周波電磁波伝送線路は、周囲よりも誘電率が高いコアを有する。コア内部を伝搬する電磁波は、コア内部と周囲との境界面であるコア表面への入射角が臨界角よりも大きければ、コア表面で全反射されるので、周囲には漏れず、コア内部に閉じ込められる。よって、電磁波をコアに集中した状態で、コアが延びる方向に伝送できる。
また、この高周波電磁波伝送線路は、中空構造を有しないので、中空構造を有する金属導波管101と比較して、製造が非常に容易である。
また、この高周波電磁波伝送線路は、金属以外の多様な材料を用いて形成できる。このため、高周波領域で損失の小さい材料を用いることにより、低損失な伝送線路を実現できる。
したがって、本発明によれば、金属導波管101よりも高い周波数領域に対しても、低損失な伝送線路を安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る高周波電磁波伝送線路の要部構成を示す図である。
図1に示す高周波電磁波伝送線路1は、所定方向に延びる第1の誘電体からなるコア11と、コア11の全周を覆う第2の誘電体からなる周辺部12とから構成されている。コア11の誘電体の比誘電率をεr1、周辺部12の誘電体の比誘電率をεr2とすると、
εr1 > εr2
の関係が成立している。電磁波はコア11の内部を伝搬していく。電磁波が伝搬する方向を電磁波伝送方向という。
【0011】
図2は、高周波電磁波伝送線路1の電磁波伝送原理を説明するための図である。この図において、コア11の内部を伝搬する電磁波がコア11と周辺部12との境界面(すなわちコア11の表面)13に入射する場合に、境界面13の法線ベクトルnに対する電磁波の入射角θ0が臨界角θcよりも大きくなると、電磁波は境界面13において全反射される。したがって、電磁波の入射角θ0を臨界角θcよりも大きくすることにより、電磁波は周辺部12には漏れず、コア11に閉じ込められるので、電磁波をコア11に集中した状態で伝送できる。
【0012】
高周波電磁波伝送線路1は、中空構造を有しないので、中空構造を有する金属導波管101と比較して、製造が非常に容易である。さらに、高周波電磁波伝送線路1は、金属以外の多様な材料を用いて形成できるので、高周波領域で損失の小さい材料を用いることにより、低損失な伝送線路を実現できる。したがって、本実施の形態によれば、金属導波管よりも高い0.1THz以上の周波数領域に対しても、低損失な伝送線路を安価に製造することが可能となる。ただし、シリコンをはじめ多くの材料は、電磁波の周波数が10THzを超えると、イオン共振やフォノン吸収などにより電磁波の吸収が非常に大きくなるため、10THz以下の周波数領域で使用することが好ましい。なお、0.1THz以下の周波数領域での使用も可能である。
また、高周波電磁波伝送線路1は、周辺部12が金属のような電磁波遮蔽体ではないので、外部からコア11への電磁波の導入が容易になるという効果も得られる。
【0013】
高周波電磁波伝送線路1の各部の構成について、さらに説明する。
[コア11の断面形状]
図1(b)には、電磁波伝送方向に垂直なコア11の断面形状を長方形にした例が示されている。このような形状のコア11は、例えば、周辺部12の一部となる平面基板上に誘電体を堆積し、この誘電体の不要部分をエッチングするなどの簡単なプロセスで製造できる。なお、コア11の断面形状は必ずしも長方形でなくてもよく、円形などの他の形状であってもよい。
【0014】
[コア11の寸法]
コア11を構成する第1の誘電体からなる一様媒体中を電磁波が伝搬する際の波長をλ1とすると、コア11の断面形状が長方形である場合には、長方形の長辺の長さL1を略λ1以下にすることが好ましい。このような寸法にすることにより、実用的な高周波伝送線路に必要とされる単一モード条件を満たすことが可能となる。
【0015】
有限要素法(岡本勝就著、「光導波路の基礎」、コロナ社、1992年)や平面波展開法(S.G.Johnson,J.D.Joannopoulos,“Brock-iterative frequency-domain methods for Maxwell's equations in a plainwave basis”,Opt.Express,vol.8,pp.173-190,2001)による固有値解析用いた伝搬モード解析によれば、例えば比誘電率εr1=12の第1の誘電体で形成され断面形状が2:1の長方形をしたコア11と、比誘電率εr2=2の第2の誘電体で形成された周辺部12とからなる高周波電磁界伝送線路1に対し、周波数が1THzの電磁波を導入すると、コア11の形状を長辺の長さL1が100μmより小さい長方形にした場合に単一モード条件を満たすという結果が得られた。
一方、比誘電率εr1=12の第1の誘電体中における1THz電磁波の波長λ1は87μmであるから、長方形の長辺の長さL1をλ1以下にするという上述した条件を満たすように、L1を87μm(<100μm)にすれば、単一モード条件も満たすことが分かる。
【0016】
しかし、長方形の短辺の長さL2を略λ1/4より小さくすると、コア11から周辺部12への電磁波の漏れが非常に大きくなり、伝送損失が増大する。このため、L2を略λ1/4より小さくしないことが好ましい。したがって、コア11の断面形状が長方形である場合には、長方形の各辺の長さL1,L2を略λ1/4以上、略λ1以下にすることが好ましい。
なお、コア11の断面形状が長方形以外の形状である場合にも、その寸法を略λ1/4以上、略λ1以下にすることが好ましい。例えば、コア11の断面形状が円形である場合には、円の直径を略λ1/4以上、略λ1以下にすることが好ましい。
より好ましくは、コア11の断面形状の寸法を、略λ1/3以上、略2λ1/3以下にするとよい。
【0017】
[コア11の周辺部12に対する誘電率の比]
コア11の周辺部12に対する誘電率の比(εr1/εr2)は、略2以上にすることが好ましい。時間領域有限差分法による電磁場伝搬解析(宇野亨著、「FDTD法による電磁界およびアンテナ解析」、コロナ社、1998年)によれば、コア11の断面形状を2:1の長方形とし、各辺の長さL1,L2を略λ1/4〜略λ1にした状態において、コア11の周辺部12に対する誘電率の比を2以上にすると、電磁波をコア11に強く閉じ込めることができ、外部への電磁波の漏れ損失を低減できるという結果が得られた。よって、伝送損失を低減できる。
なお、周辺部12を誘電率が比較的大きい誘電体で構成する場合を考慮すると、コア11の周辺部12に対する誘電率の比は、略100以下にすることが好ましい。
より好ましくは、誘電率の比は、略9以上、略25以下にするとよい。
【0018】
[周辺部12の厚み]
周辺部12を構成する第2の誘電体からなる一様媒体中を電磁波が伝搬する際の波長をλ2とすると、電磁波伝送方向に垂直な方向の周辺部12の厚みを、略λ2以上にすることが好ましい。時間領域有限差分去による電磁場伝搬解析によれば、上述したのと同じ条件の下では、周辺部12の厚みをλ2以上にすると、外部への電磁波の漏れ損失を無視できるという結果が得られた。よって、伝送損失を低減できる。
【0019】
[コア11および周辺部12の構成材料の例1]
コア11を構成する第1の誘電体として、シリコン、ゲルマニウム、砒化ガリウム、酸化アルミニウムまたはダイアモンド状炭素を用いる。また、周辺部12を構成する第2の誘電体として、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、パラフィン、ポリスチレンまたは酸化硅素系化合物を用いる。
【0020】
周辺部12を構成する第2の誘電体として例示した材料は、0.1THz〜10THzという周波数領域において低い誘電率をもつことが知られており、比誘電率は2.5程度またはそれ以下である。これに対し、コア11を構成する第1の誘電体として例示した材料は、比誘電率が5以上であるので、上記の周波数領域において上記の誘電率の比(2≦εr1/εr2≦100)が満たされる。よって、これらの材料を組み合わせてコア11および周辺部12を構成することにより、漏れ損失の少ない高周波電磁波伝送線路1を実現できる。さらに、これらの材料は上記の周波数領域における電磁波の吸収が少ないので、吸収損失も低減できる。
【0021】
また、周辺部12を真空または空気で構成してもよい。真空または空気の比誘電率は、1または1に非常に近い値なので、上述したコア11を構成する第1の誘電体との関係で、やはり漏れ損失および吸収損失が少ない高周波電磁波伝送線路1を実現できる。なお、周辺部12を真空で構成する場合には、コア11を真空容器に収容する。周辺部12を空気で構成する場合には、コア11を空気中に配置してもよい。この際、コア11の外周がなるべく空気以外のものに触れないように、電磁波の伝送に影響が少ないコア11の支持構造を設けてもよい。
【0022】
[コア11および周辺部12の構成材料の例2]
コア11を構成する第2の誘電体として、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィン、ポリスチレンまたは酸化硅素系化合物を用いる。また、周辺部12を真空または空気で構成する。
【0023】
周辺部12を構成する真空または空気の比誘電率は、0.1THz〜10THzという周波数領域において1または1に非常に近い値をもつ。これに対し、コア11を構成する第1の誘電体として例示した材料の比誘電率は、上記の周波数領域において2以上であるので、上記の誘電率の比(2≦εr1/εr2≦100)が満たされる。よって、このような構成にすることにより、漏れ損失の少ない高周波電磁波伝送線路1を実現できる。また、これらの材料は上記周波数領域における電磁波の吸収が少ないので、吸収損失も低減できる。さらに、これらの材料は上記の周波数領域における電磁波の吸収が、例1で挙げた材料と比較して更に少ないので、吸収損失を更に低減できる。
【0024】
[その他]
周辺部12は、必ずしも一様材料で構成される必要はない。周辺部12の誘電率がコア11の誘電率よりも小さいという条件を満たしていれば、多様な材料を用いた複合構造で周辺部12を構成してもよい。例えば、高周波電磁波伝送線路1の下部周辺部を固体材料で構成し、上部周辺部を別の固体材料または真空や空気で構成してもよい。
コア11もまた、一様材料で構成されなくてもよい場合がある。例えば、コア11の中心軸線から外周に向かって誘電率が次第に小さくなるような構造にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、通信をはじめ、高周波電磁波が使用される分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】高周波電磁波伝送線路の要部構成を示す図であり、(a)は電磁波伝送方向に平行な断面、(b)は電磁波伝送方向に垂直な断面(A−A′線方向の断面)をそれぞれ示している。
【図2】高周波電磁波伝送線路の電磁波伝送原理を説明するための図である。
【図3】従来の高周波電磁波伝送線路である金属導波管の一構成例を示す断面図であり、(a)は電磁波伝送方向に平行な断面、(b)は電磁波伝送方向に垂直な断面(B−B′線方向の断面)をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0027】
1…高周波電磁波伝送線路、11…コア、12…周辺部、13…境界面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が0.1THz以上10THz以下の高周波電磁波を伝送する高周波電磁波伝送線路であって、
所定方向に延び、周囲よりも誘電率が高い誘電体からなるコアを有することを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項2】
請求項1に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記コアは、前記所定方向に垂直な断面が四角形をしていることを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項3】
請求項2に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記コアは、前記所定方向に垂直な断面の一辺の長さが、前記誘電体中を前記高周波電磁波が伝搬する際の波長の1/4倍以上、前記波長以下であることを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記誘電体は、その周囲に対する誘電率の比が2以上100以下であることを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記コアの周囲を覆い、前記誘電体よりも誘電率が低い周辺部を更に有することを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項6】
請求項5に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記周辺部は、前記所定方向に垂直な方向の厚みが、前記周辺部を構成する媒体中を前記高周波電磁波が伝搬する際の波長以上であることを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項7】
請求項5または6に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記コアは、シリコン、ゲルマニウム、砒化ガリウム、酸化アルミニウム、ダイアモンド状炭素の少なくとも1つからなり、
前記周辺部は、真空、空気、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィン、ポリスチレン、酸化硅素系化合物の少なくとも1つからなることを特徴とする高周波電磁波伝送線路。
【請求項8】
請求項5または6に記載された高周波電磁波伝送線路において、
前記コアは、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィン、ポリスチレン、酸化硅素系化合物の少なくとも1つからなり、
前記周辺部は、真空または空気からなることを特徴とする高周波電磁波伝送線路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2005−175941(P2005−175941A)
【公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−413669(P2003−413669)
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】