説明

高圧ガス貯蔵容器

【課題】 容器内に充填され温度上昇した燃料ガスの熱が上昇したままにならないように放熱させることができ、それにより燃料ガスの充填効率の低下を防止できる高圧ガス貯蔵容器を提供する。
【解決手段】 ライナー2と、このライナー2の周面に帯状の補強部材3を巻き付けて形成した補強層4と、からなる高圧ガス貯蔵容器1において、強化繊維であるカーボン繊維6と、熱伝達性の高い熱伝達性繊維7との複合繊維とした補強部材3を使用する。熱伝達性繊維7を使用することで、容器内で上昇した燃料ガスの熱を、この熱伝達性繊維7を通して容器外へと放熱させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガスを充填し貯蔵するための高圧ガス貯蔵容器に関し、詳細には、容器内の過度の熱を放熱させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスを貯蔵するためのガス貯蔵容器としては、タンク形状とされたライナーの周面に、容器の機械的強度(耐圧性)を高める目的で帯状のカーボン繊維を巻き付けてこれを補強層とした、圧力容器が提案されている(例えば、特許文献1、2など参照)。
【特許文献1】特開平5−346197号公報
【特許文献2】特開平10−231997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種のガス貯蔵容器では、容器内に燃料ガスを充填すると、容器内の燃料ガスの温度が上昇する。時間が経つに連れて温度上昇した燃料ガスの熱は、容器内部からライナーへと伝達された後、補強層を通過して容器外へと放熱される。
【0004】
しかしながら、補強層を構成するカーボン繊維とそれらの配列を保持するためのエポキシ樹脂などの樹脂剤は、熱容量がそれ程大きくないため、補強層自体が一種の断熱層のように作用し、容器外への放熱を妨げる。
【0005】
また、燃料ガスの容器内への充填速度を上げると、充填後に容器内の燃料ガス温度上昇代が上がることも確認されており、容器内に蓄積する温度がより高くなることも判っている。
【0006】
容器内の燃料ガス温度が上昇したままであると、限られた容器の容積内に貯蔵できる燃料ガス量が少なくなり、充填効率が落ちるという問題が生じる。さらに、上昇した燃料ガスの熱によって、シール部のシール材(Oリングやその他のシール材)の熱負荷が高くなり、寿命が短くなるという問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明は、容器内に充填され温度上昇した燃料ガスの熱が上昇したままにならないように放熱させることができ、それにより燃料ガスの充填効率の低下を防止でき、且つシール部材の寿命を延ばすことのできる高圧ガス貯蔵容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る高圧ガス貯蔵容器は、ライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成した補強層とからなる。そして、この高圧ガス貯蔵容器では、補強部材を、強化繊維と、熱伝達性の高い繊維との複合繊維とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高圧ガス貯蔵容器によれば、補強部材として強化繊維に熱伝達性の高い繊維を織り混ぜた複合繊維としたので、容器内に充填された燃料ガスの温度が上昇しても、熱伝達性の高い繊維が、その上昇した熱を容器外へと放熱させる。
【0010】
そのため、本発明によれば、容器内の燃料ガス温度上昇を最小限に留めることができ、容器内に貯蔵できる燃料ガス量をより多く貯蔵可能とする充填効率を高めることができる。
【0011】
また、本発明によれば、シール部材の寿命も大幅に延ばすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器の斜視図、図2は図1のA−A線における要部拡大断面図、図3はライナーに帯状の補強部材を巻き付けて補強層を形成するためのワインディングパターンを示す図、図4は容器内に燃料ガスを急速充填したときの容器内温度変化を示す特性図、図5は本実施の形態の補強部材の一例を示す要部拡大断面図、図6は本実施の形態の補強部材の他の例を示す要部拡大断面図である。
【0014】
本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器1は、図1から図3に示すように、円筒形状のライナー2と、このライナー2の周面に帯状の補強部材3を巻き付けて形成した補強層4とからなる。この高圧ガス貯蔵容器1には、例えば水素ガスなどの燃料ガスが充填貯蔵される。
【0015】
ライナー2は、一端に口金5を有した有底の円筒形状からなる容器(タンク)として形成されている。かかるライナー2は、合成樹脂製であっても良いし、或いは金属製であってもよい。合成樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、ポリアミド、ポリカーボネート、またはこれらに強化繊維を混合したものが使用できる。金属としては、アルミニウム合金などが使用される。
【0016】
補強層4は、ライナー2の周面に帯状の補強部材3を所定数巻き付けることにより形成され、当該ライナー2の物理的強度(耐圧性)を確保する役目をする。ライナー2の長手方向両端を除く胴部1Aには、補強部材3を円周方向に巻き付けるフープ巻きを行い、その両端の鏡部1Bには、補強部材3を容器長手方向であって対角線上に巻き付けるヘリカル巻きを行う。
【0017】
このように構成された高圧ガス貯蔵容器1では、容器内に燃料ガスを充填すると、図4に示すように、容器内の燃料ガス温度及びタンク圧(容器内圧力)も上昇し、その温度が上昇したままになり易い。容器内の燃料ガス温度が上昇したままであると、容器内に貯蔵できる燃料ガス量が減少し、充填効率が落ちてしまう。
【0018】
そこで本実施の形態では、補強部材3として、この種の容器で使用されている強化繊維に加えて、熱伝達性の高い繊維を混合させた(織り込んだ)複合繊維を用いる。すなわち、補強部材3には、例えば図5に示すように、強化繊維としてのカーボン繊維6と、熱伝達性の高い熱伝達性繊維7とを織り込んで形成した、繊維強化プラスチック素材であるCFRP層(Fiber Reinforced Plastics)を帯状としたものを使用する。
【0019】
そして、帯状とした補強部材3をライナー2に巻き付けるときに、繊維同士及び補強部材3同士の保持を目的としてエポキシ樹脂などの樹脂8を含浸させる。本実施の形態では、カーボン繊維6と熱伝達性繊維7を合計12000本の束とし、熱伝達性繊維7の数をカーボン繊維6の数よりも多くしてある。
【0020】
熱伝達性繊維7としては、熱伝達性に優れた金属繊維が使用される。例えば、熱伝達性繊維7には、アルミニウム、ステンレス、チタン、ニッケルなどが好適である。
【0021】
このように構成された補強部材3を使用して補強層4を形成すれば、容器内に充填された燃料ガスの温度が上昇しても、熱伝達性繊維7が、上昇した熱を容器外へと放熱させ、当該容器内の燃料ガス温度上昇を最小限に留めることができる。これにより、本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器1によれば、容器内に貯蔵できる燃料ガス量をより多く貯蔵可能とする充填効率を高めることができ、また、口金5に装着されるシール部材の寿命も大幅に延ばすことが可能となる。
【0022】
図6には、カーボン繊維6と熱伝達性繊維7を予め半硬化させたプリプレグまたはトゥプレグとした例を示す。このように、カーボン繊維6と熱伝達性繊維7を予め半硬化させたプリプレグまたはトゥプレグとすれば、これらカーボン繊維6と熱伝達性繊維7の繊維同士を規則正しく、且つ、繊維同士間を最小となるように配列することができる。これにより、熱伝達性繊維7同士間距離が短くなることで、より熱伝達が容易に行えるようになる。
【0023】
プリプレグまたはトゥプレグとすることで、繊維同士が整列されると共に繊維間距離が短くなることから、図5の補強部材3の厚みH1よりも図6の補強部材3の厚みH2を薄くすることが可能となる。
【0024】
また、このように構成された補強部材3は、ライナー2の胴部1A及び鏡部1Bの全ての部位に巻き付けても良いが、放熱させたい部位を限定して巻き、その他の部位はカーボン繊維6のみから形成される補強部材を巻き付けるようにしても良い。
【0025】
例えば、胴部1Aからの放熱をより多くしたい場合には、熱伝達性繊維7を胴部1Aにフープ巻きで巻き、鏡部1Bには熱伝達性繊維7が含まれていないカーボン繊維6をヘリカル巻きで巻く。鏡部1Bからの放熱をより多くしたい場合には、熱伝達性繊維7を鏡部1Bにヘリカル巻きで巻き、胴部1Aには熱伝達性繊維7が含まれていないカーボン繊維6をフープ巻きで巻く。
【0026】
このように、熱伝達性繊維7として金属繊維などのように比重が大きい繊維を使用した場合、同等の耐圧強度を持つ容器とすると質量増となってしまうが、補強層4の全てに熱伝達性繊維7を適用するのではなく、より効率よく熱交換できる積層パターンとすることで、比重の大きい熱伝達性繊維7の使用量を限定できる。つまり、熱伝達性繊維7を織り交ぜた補強部材3を巻き付ける部位を限定すれば、通常の容器に比べて質量増加量を最小限に留めることが可能となる。
【0027】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に制限されることなく種々の変更が可能である。
【0028】
例えば、繊維同士及び補強部材3同士の保持を目的として使用される樹脂8、または、プリプレグやトゥプレグに使用される樹脂8を、熱伝達性に優れた高熱伝達性樹脂とする。熱伝達性繊維7に加えて高熱伝達性樹脂を使用することで、より一層、容器内の上昇した燃料ガスの熱を放熱させることができる。
【0029】
高熱伝達性樹脂としては、例えば熱硬化性の、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、メラミンフェノール樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ジアリルフタレート樹脂などが使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器の斜視図である。
【図2】図1のA−A線における要部拡大断面図である。
【図3】ライナーに帯状の補強部材を巻き付けて補強層を形成するためのワインディングパターンを示す図である。
【図4】容器内に燃料ガスを急速充填したときの容器内温度変化を示す特性図である。
【図5】本実施の形態の補強部材の一例を示す要部拡大断面図である。
【図6】本実施の形態の補強部材の他の例を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1…高圧ガス貯蔵容器
2…ライナー
3…補強部材
4…補強層
5…口金
6…カーボン繊維
7…熱伝達性繊維
8…樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成した補強層と、からなる高圧ガス貯蔵容器において、
前記補強部材は、強化繊維と、熱伝達性の高い繊維との複合繊維からなる
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記熱伝達性の高い繊維を予め半硬化させたプリプレグまたはトゥプレグとした
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記熱伝達性の高い繊維を、放熱させたい部位のみに設ける
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−300139(P2006−300139A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119920(P2005−119920)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】