説明

高圧放電ランプの製造方法

【課題】 簡単な工程で外管と放電管を組み合わせることができると共に、外管と放電管の間に形成される間隙を挿入でき、作業工程を簡素化できる高圧放電ランプの製造方法を提供すること。
【解決手段】 内部に一対の電極を有してなる円筒状の放電管と、この放電管の外周に配置された外管とを備え、放電管及び外管が端部領域で封止された高圧放電ランプの製造方法であって、外管の内面及び/又は放電管の外面に潤滑剤を塗布する工程と外管の内部に放電管を挿入する工程と前記外管及び放電管を加熱して潤滑剤を乾燥させる工程とを備えることを特徴とする。潤滑剤を乾燥させる工程の後、外管及び放電管を加熱する工程備えてなり、この加熱工程において、潤滑剤に含有するカーボンを残留させて、潤滑剤を焼失させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプの製造方法に関するものであり、特に放電管と外管とが接触状態ないしは密着状態に設けられ、外管の周囲から放電管を間接冷却する高圧放電ランプに係る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤などの樹脂の硬化処理やプリント基板などの露光処理には紫外線が好適に利用されており、その光源としては高圧放電ランプが用いられている。かかる高圧放電ランプは、ランプ自体の破損防止や被処理物に対する熱的な影響を回避するといった目的で、通常冷却した状態で使用されている。
高圧放電ランプの冷却に関しては、例えば特許文献1のような技術が知られている。
【0003】
図6は従来技術に係る高圧放電ランプの構成を説明する図であり、ランプを管軸方向に切断した断面図である。
同図において、高圧放電ランプ50は、全体が棒状の例えば石英ガラスからなる放電管51と、この放電管51が内部に挿入配置された、例えば石英ガラスからなる外管52とにより構成されている。
前記放電管51は、その両端が封止され内部に、例えばタングステンからなる一対の電極53が対向配置されたものであり、各電極53は放電管51に形成されたロッド状の封止部54内に気密に埋設された、モリブデン等の金属箔55を介して、外部リード56に電気的に接続されており、該外部リード56は前記封止部14の外端より軸方向外方に突出して伸びている。
そして、この放電管51は、外管52内に接触状態ないしは密着状態に挿入されていて、その両端で接着剤57およびベース58により一体化されて、高圧放電ランプ50を形成している。
また、前記放電管51内には、Hg、あるいは、Hgと共にFe,Tl,Sn,Zn,In及びそれらのハロゲン化物などが封入されており、これらがランプ点灯中に励起され光が放射される。
【0004】
この高圧放電ランプ装置では、前記高圧放電ランプ50の外周には空隙を有してこれを被嵌するように円筒状の水冷ジャケット41が設けられていて、この高圧放電ランプ50、具体的には外管52と、水冷ジャケット41の間の空間には42が形成されている。
そして前記高圧放電ランプ50および水冷ジャケット41は、架台43および架台45に取り付けられており、該架台43,45にはそれぞれ冷却水流入路44、冷却水流出路46が形成されていて、これら冷却水流入路33および冷却水流出路46が前記水冷ジャケット41に連通している。外管52と放電管51の間には図6(B)において示すようにごくわずかな間隙dが形成されており、冷却水流路42により外管52が冷却され、間隙dを介して放電管51が間接的に冷却されている。
高圧水銀ランプ50の点灯時において、冷却水Wが図示しないポンプ等の適宜の冷却水供給手段によって冷却水流入路44に供給され、冷却水Wは、高圧放電ランプ50と水冷ジャケット41との間に形成された冷却水流路42内を、高圧放電ランプ50の壁面、具体的には外管52の外周面に沿って軸方向に流過して高圧放電ランプ50全体を間接的に冷却した後、冷却水流出路46を介して排出される。
【0005】
また、光照射方向(図6において下方向)に対して高圧放電ランプ50の背面側(上方向)には、例えば断面が放物状の反射面を有する樋状の反射鏡40が、その第1焦点が高圧放電ランプ50の中心軸線(高圧放電ランプ50における一対の電極53の中心を結ぶ直線)と一致する状態で、該高圧放電ランプ50に沿って伸びるよう配置されている。
高圧放電ランプ50から放射される光は、直接的にあるいは反射鏡40により反射されて平行光とされてマスクステージ47に保持されたマスクMを介してワークステージ48上に載置された、例えばレジスト等の感光剤が塗布された液晶パネルや半導体素子などのワーク49に照射されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−252423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高圧放電ランプはその用途からも効率よく冷却されることが要求され、冷却媒体と高圧放電ランプの放電管との間の熱伝導性をできるだけ良好とすることが望まれている。このために外管と放電管との間に形成される隙間(d)をできるだけ小さく構成することが必要となるが、外管の内径と内管の内径とを小さくしようとした場合、外管の内部に放電管を挿入する工程で傷がつくという問題が生じる。つまり、図7に示すように中空円筒状の外管用のガラス管内部に、電極等を組み付けた放電管を挿入するが、この時に、外管の内面及び/又は放電管の外周がこすれて傷がついてしまう。一方、ガラス管の公差を許容するよう設計すると、間隙が大きくなり冷却を十分に行うことができなくなる。
なお、特許文献1の中で開示されるように、外管を加熱、軟化させることで外管と放電管の間の間隙を小さくすることも考えられるが、個々のランプの冷却性能を均一化しつつ、生産性を高めることは難しい。
【0008】
そこで本発明が目的とするところは、簡単な工程で外管と放電管を組み合わせることができると共に、外管と放電管の間に形成される間隙を挿入できて、作業工程を簡素化できる高圧放電ランプの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)
本願第1の発明にかかる高圧放電ランプの製造方法は、
内部に一対の電極を有してなる円筒状の放電管と、この放電管の外周に配置された外管とを備え、放電管及び外管が端部領域で封止された高圧放電ランプの製造方法であって、
外管の内面及び/又は放電管の外面に潤滑剤を塗布する工程と
外管の内部に放電管を挿入する工程と
前記外管及び放電管を加熱して潤滑剤を乾燥させる工程と
を備えることを特徴とする。
(2)
また更に、潤滑剤を乾燥させる工程の後、外管及び放電管を加熱する工程を備えてなり、
この加熱工程において、潤滑剤に含有するカーボンを残留させて、潤滑剤を焼失させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)
外管の内面及び/又は放電管の外面に潤滑剤を塗布し、その後、外管の内部に放電管を挿入するので、高圧放電ランプの製造段階において放電管の外面および外管の内面に傷がつくことを防止することができ、高圧放電ランプの使用時、傷に起因してランプが破損するような事態を回避することができる。
(2)
加熱工程を実施することにより、無用に残留する潤滑剤を飛ばして光の利用効率を高めることができ、放電管と外管の内部にカーボンを残留させることで、高圧放電ランプの点灯・消灯の際に放電管が伸縮しても、緩衝材として機能するので、高圧放電ランプの製造段階のみならず使用中においても外管の内面や放電管の外面に傷がつくことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る高圧放電ランプの製造方法を説明する図であり、放電管の説明図である。
【図2】本発明に係る高圧放電ランプの製造方法を説明する図である。
【図3】本発明に係る高圧放電ランプの製造方法を説明する図であり、高圧放電ランプの最終形態を示す図である。
【図4】他の実施形態に係る高圧放電ランプの製造方法を説明する説明図である。
【図5】(A)の乾燥工程後の潤滑剤の残部の状態と、(B)加熱工程後のカーボンの状態を模式的に示す図である。
【図6】高圧放電ランプを備えた光源装置の要部を示す説明図である
【図7】従来技術に係る高圧放電ランプの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、高圧放電ランプの放電管部分の全体構造を示す図である。
放電管11は、紫外線透過性の発光管12の内部に一対の電極13が対向して配置され、発光管12の両端に封止部12Aに形成されて、構成されている。発光管12の内部には、Hg、あるいは、Hgと共にFe,Tl,Sn,Zn,In及びそれらのハロゲン化物などが封入されており、これらがランプ点灯中に励起され光が放射される。封止部12Aにはモリブデンからなる金属箔14が埋設されており、電極13の軸部が当該金属箔14に接続され、更に金属箔14に外部リード棒15が接続されて外部に導出されている。
【0013】
図2は、本発明にかかる高圧放電ランプの製造方法を説明する図である。
(1)潤滑剤の調製工程
図2(a)に示すように適宜の容器30に潤滑剤31を用意する。潤滑剤31は水溶性の高分子増粘剤を純水に溶解し、粘性が2〜100センチポアズとなるよう調製した粘性液体からなる。高分子増粘剤としては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。具体的な数値例を挙げると、PEOを用いた場合、水に対して混合比を0.1:100の割合で混合することで7センチポアズの粘性液体を得ることができる。
(2)潤滑剤塗布工程
所定の粘性の潤滑剤を調製したところで、外管を構成するガラス管17Aの内面及び/又は放電管11の外面上に潤滑剤を塗布する。
図2(b)は外管17の内面に潤滑塗布する工程を説明する図である。同図に示すように潤滑剤31にガラス管17Aの一端部を浸し、吸引によって吸い上げて塗布する。
無論、塗布方法としては吸引法に限定されることなく、ディッピングや流し込みなど適宜の方法を採用することができる。
(3)挿入工程
外管を構成するガラス管17Aの内面及び/又は放電管11の外面上に潤滑剤を塗布したのち、図2(c)に示すように外管用ガラス管17Aの内部に放電管11を挿入する。
この時、潤滑剤31がガラス管17Aと放電管11の間に介在することにより、ガラス管17Aの内部に放電11管を挿入するときにガラス管17Aの内面や放電管11の外面に傷がつくことが防止される。
なお、上記(2)のように少なくとも外管の方に潤滑剤31を塗布しておいた場合には、放電管11を挿入する際、ガラス管17A内面における放電管11の挿入側端部の近傍に、確実に潤滑剤31が存在することになる。よって、擦過性の傷がつきにくく、最後まで確実に挿入することができるようになる。
(4−A)乾燥工程
このように外管の内部に放電管を挿入した状態で、図2(d)に示すように電気炉32にガラス管17Aと放電管11の組み立て体Nを収容し、昇温して潤滑剤を乾燥させる。
この乾燥工程においては、潤滑剤に含まれる水分を飛ばすものであり、比較的低温の約100〜150℃の範囲に加熱する。
(5)封止工程
潤滑剤の水分を十分飛ばしたのち、図3に示すように放電管11の端部にベース18を装着して接着剤19を充填すると、高圧放電ランプ10が出来上がる。
【0014】
以上説明した本発明にかかる高圧放電ランプの製造方法によれば、ガラス管の内部に放電管を挿入するとき、ガラス管の内面及び/又は放電管の外面上に潤滑剤を塗布した状態で行うので、ガラス管の内部に放電管を挿入するときに外管の内面や放電管の外面に傷をつけることなく行うことができる。この結果、高圧放電ランプを使用したときに、外管や放電管の傷に由来してランプが破損してしまうという問題を回避することができるようになる。また更には、潤滑剤を用いない場合と比較して外管の内径と放電管の外径との間隙を小さく設定することができるので、最終的に得られる高圧放電ランプの冷却性能を高いものとすることができ、光源装置に適用されたときに冷却媒体と放電管の外面との間の熱伝導特性を好適なものとすることができるようになる。このような高圧放電ランプによれば、先に図6で示した光源装置に搭載して使用した場合に、外管と放電管の表面に傷がないので、長時間使用しても破損が生じることのない信頼性の高い放電ランプとすることができる。また、外管と放電管との間隙を小さく設定できるので、冷却水流路によって冷却される際に、放電管が効率よく冷やされるようになる。
【0015】
ここで、上記実施形態より更に好ましい実施形態について説明する。
(4−B)加熱工程
上記(4−A)の乾燥工程で潤滑剤の水分を飛ばしたのち、封止工程の前段階において、外管および放電管の組み立て体を、乾燥工程よりも高い温度で加熱する。
図4は加熱工程を説明する図である。放電管11の両端部から外部に導出されたリード棒15を露出させて、発光部の長さ領域L部分を電気炉で加熱する。ここでの温度は300〜400℃の範囲が好ましい。これにより潤滑剤残部の一部を焼成させて、カーボンを析出させる。そして更に、カーボンの一部が適度に残留するようカーボンを焼失させる。この工程を行ったのち、図3で示した封止工程を実施する。
なおこの加熱工程においては、上述した乾燥工程と連続的に行うことが可能であることは言うまでもない。
【0016】
このような加熱工程において潤滑剤残部からカーボンを生成させることで、外管と放電管の間において無用に残留した遮光性の物質の一部を取り除くと共に、わずかにカーボンを残すことでカーボンを外管と放電管の間の緩衝物として機能させる。すなわち、高圧放電ランプの外管の外周には常に冷却媒体が存在しているのでほとんど熱膨張しないが、放電管は点灯によって発光管内部の温度が上がり、放電管は熱膨張するので、外管と放電管の間に適宜に残留するカーボンが外管の周方向および管軸方向に点在して、放電管が熱膨張、収縮で長さ方向に伸縮したときに緩衝材として機能する。よって、ランプの点灯、消灯を繰り返し行っても、外管内面と放電管外面が擦れて傷が形成するという問題が生じることがなく、ランプの破損を抑制することができるようになる。
なお、カーボンの残留量は加熱温度および加熱時間によって制御することができる。つまり、潤滑剤に用いた高分子増粘剤の種類、粘性液体における高分子増粘剤の割合、外管と放電管の間隙の大きさと、温度および時間を調製することによって、カーボンの残留量を制御することが可能になる。
【0017】
図5に、(A)乾燥工程後の潤滑剤の残部の状態と、(B)加熱工程後のカーボンの状態を模式的に示す。同図は、高圧放電ランプを管軸方向に切断した断面の拡大図であり、放電管と外管の間隙部分を拡大して示す説明図である。
図5(A)に示すように潤滑剤の残部31Aは、間隙dの内部において外管17及び/又は放電管11の表面上に比較的大きな割合で存在する。材料とした高分子増粘剤の種類にもよるが、潤滑剤残部31Aは高分子材料を由来とするためC,O,Hにより構成される化合物であり、少なくともカーボンを含んでいる。乾燥後の状態では発光部面積に対する潤滑剤残部31Aが存在する割合が大きいために、高圧放電ランプの光出力にわずかながらも影響が生じる。
加熱処理によって、図5(B)に示すようにO及びHと、Cの一部を飛ばしてカーボン(C)を残留させると、同図(A)との比較で明らかなように発光部の表面積に対して介在物の存在面積が小さくなり、遮光される光がほとんどなくなる。
【0018】
以上、説明したように、本願発明に高圧放電ランプの製造方法によれば、外管の内面及び/又は放電管の外面に潤滑剤を塗布し、その後、外管の内部に放電管を挿入するので、放電管の外面および外管の内面に傷がつくことが防止され、長期間使用しても破損が生じることのない信頼性の高い高圧放電ランプとすることができる。
そして、上記製造方法において更に、加熱工程を実施することにより、光の利用効率を高めると共に、放電管と外管の内部にカーボンが残留することで、高圧放電ランプの点灯・消灯の際に、緩衝材として機能させることができるようになり、高圧放電ランプの使用中においても、外管の内面や放電管の外面に傷がつくことを防止することができるようになる。
【符号の説明】
【0019】
10 高圧放電ランプ
11 放電管
12 発光管
12A 封止部
13 電極
14 金属箔
15 外部リード棒
17 外管
17A ガラス管
18 ベース
19 接着剤
30 容器
31 潤滑剤
31A 潤滑剤残部
32 乾燥用電気炉
33 加熱用電気炉
C カーボン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の電極を有してなる円筒状の放電管と、この放電管の外周に配置された外管とを備え、放電管及び外管が端部領域で封止された高圧放電ランプの製造方法であって、
外管の内面及び/又は放電管の外面に潤滑剤を塗布する工程と
外管の内部に放電管を挿入する工程と
前記外管及び放電管を加熱して潤滑剤を乾燥させる工程と
を備えることを特徴とする高圧放電ランプの製造方法。
【請求項2】
潤滑剤を乾燥させる工程の後、外管及び放電管を加熱する工程を備えてなり、
この加熱工程において、潤滑剤に含有するカーボンを残留させて、潤滑剤を焼失させることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209226(P2012−209226A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76071(P2011−76071)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】