高圧放電ランプ
【課題】水銀を使用しなくても、ランプ電流を低下させることができると共に、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの発光スペクトルを最適化することが可能になる高圧放電ランプを提供する。
【解決手段】耐火性で透明性の気密容器と、気密容器に封着された電極と、発光物質と希ガスが封入された高圧放電ランプであり、発光物質として、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物と、第1のハロゲン化物よりのも蒸気圧の高い第2のハロゲン化物が添加されており、かつ希ガスを15気圧以上30気圧以下の圧力で封入した構成とする。
【解決手段】耐火性で透明性の気密容器と、気密容器に封着された電極と、発光物質と希ガスが封入された高圧放電ランプであり、発光物質として、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物と、第1のハロゲン化物よりのも蒸気圧の高い第2のハロゲン化物が添加されており、かつ希ガスを15気圧以上30気圧以下の圧力で封入した構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクタや、自動車用照明灯等に搭載される、メタルハライドランプ等の高圧放電ランプに係わる。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプは、比較的高効率で、高演色性であるため、広く使用されている。また、高圧放電ランプは、封入物の違いにより、メタルハライドランプや水銀ランプなど、数種類に分けることができる。
【0003】
メタルハライドランプは、主に液晶プロジェクタ用、又は、自動車の前照灯用などの用途により、使用される放電ランプの発光材料が異なる。
プロジェクタ用の放電ランプの発光材料には、水銀とヨウ化ディスプロシウム(DyI3)、又は、水銀とヨウ化ネオジウム(NdI3)が主に使用されている。
自動車の前照灯用の放電ランプの発光材料には、水銀とヨウ化ナトリウム(NaI)、又は、水銀とヨウ化スカンジウム(ScI3)が主に使用されている。
【0004】
従来のメタルハライドランプに水銀が使用されているのは、水銀の発光スペクトルを利用するという目的もあるが、主として、ランプ電圧を高くするという目的のために使用されている。
ランプ電圧を高くするのは、ランプ電圧が低いと、所望のランプ入力を得るために必要となるランプ電流が大きくなるためである。
ランプ電流が大きいと、点灯回路の電流容量の増大や、発熱量の増加が問題となり、さらにメタルハライドランプの発光効率が低下するという問題がある。また、メタルハライドランプの電極の消耗が大きくなり、ランプの寿命が短くなるという問題が発生する。
【0005】
超高圧水銀ランプ(UHP)に使用されている発光材料は、水銀のみである。
水銀が使用されている理由は、水銀を使用することにより、水銀の発光スペクトルを使用できるためと、ランプ電圧を高くすることができるためである。
ランプ電圧を高くする理由は、メタルハライドランプと同様に、ランプ電圧が低いと、所望のランプ入力を得るために必要となるランプ電流が大きくなるためである。
ランプ電流が大きいと、点灯回路の電流容量の増大や、発熱量の増加が問題となり、さらに水銀ランプの発光効率が低下するという問題がある。また、水銀ランプの電極の消耗が大きくなり、ランプの寿命が短くなるという問題が発生する。
【0006】
しかし、上述のメタルハライドランプ及びUHPに、発光材料として使用している水銀は、環境に悪影響を与える環境負荷物質であるため、廃絶することが求められている。
特に、RoHS指令により、EU加盟国内において水銀等の対象物質が含まれた電子・電気機器を上市することはできなくなるなど、水銀は全廃することが求められている。
【0007】
また、上述のメタルハライドランプ及びUHPは、水銀を使用しているため、点灯中にランプ内の水銀原子の温度と密度が非常に高くなっている。このため、上記の放電ランプでは、スイッチを入れてから発光管内の温度が上昇し、発光管内が水銀の蒸発によって所定の圧力に達するまで数分間を要し、始動時の光束の立ち上がりが遅くなってしまう。
【0008】
また、上述のメタルハライドランプ及びUHPは、点灯中に水銀が蒸発して、すべて蒸気になっているため、発光管内は50〜200気圧の高圧になっている。このため、一旦消灯した後に再始動させるためには、非常に高電圧のパルス電圧を印加する必要があるため、瞬時に再点灯することが難くなっている。
【0009】
そこで、発光スペクトルを得るための第1のハロゲン化物を使用し、さらに、水銀の代わりにランプ電圧を高くする材料として蒸気圧の高い第2のハロゲン化物を使用するメタルハライドランプが提案されている。
例えば、発光金属としてNa、Li、Sc及び希土類等の発光金属からなる第1のハロゲン化物と、蒸気圧が相対的に高く第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属からなる第2のハロゲン化物とを使用した放電ランプが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0010】
【特許文献1】特開平11−238488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に記載された構成の放電ランプにおいては、始動用及び緩衝用のガスとして、アルゴン等の希ガスを封入している。
しかしながら、この希ガスの封入圧力が小さいと、ランプ電流を充分に低減することができない。
特許文献1では、多数挙げられている具体例において、希ガスの封入圧力は最大でも5気圧となっており、この程度の圧力では、ランプ電流をある程度大きくする必要がある。
【0012】
上述した問題の解決のために、本発明においては、水銀を使用しなくても、ランプ電流を低下させることができると共に、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの発光スペクトルを最適化することが可能になる高圧放電ランプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の高圧放電ランプは、耐火性で透明性の気密容器と、気密容器に封着された電極と、発光物質と希ガスが封入された高圧放電ランプであり、発光物質として、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物と、第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加されており、かつ希ガスを15気圧以上30気圧以下の圧力で封入したことを特徴とする。
【0014】
上述の本発明の高圧放電ランプの構成によれば、発光物質のハロゲン化物が、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物に対して、この第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加され、希ガスが15気圧以上30気圧以下の圧力で封入されている。
第1のハロゲン化物のみでは、放電ランプの発光スペクトルが可視光領域の短波長側(紫色領域や青色領域)に偏ってしまうが、第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加されていることにより、放電ランプの光のスペクトル分布を長波長側(赤色領域)にシフトさせることができる。
また、希ガスが15気圧以上30気圧以下の圧力で封入されていることにより、ランプ電圧を上げることができるため、ランプ電流を充分に低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明によれば、水銀を使用しないため、環境に大きな影響を与えることがない。
また、本発明によれば、第2のハロゲン化物の添加によって放電ランプの光のスペクトル分布を長波長側(赤色領域)にシフトさせることができるため、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの光のバランスを最適化することが可能になる。
これにより、光の利用効率を向上し、液晶デバイスを通過した後に高い輝度を得ることが可能になる。
さらに、本発明によれば、ランプ電流を充分に低減することができるため、発光効率を向上して、放電ランプを長寿命化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明の放電ランプは、気密容器、電極、ハロゲン化物及び希ガスによって構成される。そして、電極を気密容器に封着すると共に、ハロゲン化物及び希ガスを気密容器内に封入して放電ランプを構成する。
【0017】
気密容器は、耐火性で透明性を有する構成とする。そして、放電ランプの通常の作動温度に充分耐える材料であり、かつ放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することができれば、どのようなもので作られていてもよい。例えば、石英ガラスや透光性アルミナ、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)等の透光性セラミックスやこれらの単結晶等を用いることができる。
さらに、気密容器の内面に耐ハロゲン性や耐金属性の透明性被膜を形成する等、気密容器の内面を改質した構造としても良い。
【0018】
電極は、交流および直流のいずれで点灯するように構成してもよく、交流で作動させる場合には、陽極と陰極を同一構造とするが、直流で作動させる場合には、一般的に陽極は温度上昇が激しいため、陰極より放熱面積の大きいものを用いることが好ましい。
【0019】
発光物質であるハロゲン化物は、放電媒体となる。使用するハロゲン化物として好ましくは、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムであり、さらに好ましくは、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)、ヨウ化ツリウム(TmI3)、ヨウ化イットリウム(YI3)、ヨウ化ホルミウム(HoI3)、ヨウ化ルテチウム(LuI3)、ヨウ化エリビウム(ErI3)、ヨウ化テルビウム(TbI3)である。
【0020】
上記のハロゲン化物は、所望の発光をさせることができる金属のハロゲン化物であり、例えば可視光または紫外線等を発生する金属のハロゲン化物である。
【0021】
本発明においては、放電媒体として、上記のハロゲン化物(第1のハロゲン化物)に加えて、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)を加える。
蒸気圧の高い金属ハロゲン化物を加えることにより、発光スペクトルが短波長側から長波長側にシフトするため、発光スペクトルの分布が均一になるように調整することが可能になる。
【0022】
また、本発明においては、気密容器に封止される希ガスの圧力を15気圧以上30気圧以下とする。
希ガスの圧力を15気圧以上30気圧以下とすることにより、ランプ電流を充分に低減することができる。
希ガスの圧力が15気圧未満であると、比較的大きいランプ電流が必要になるので好ましくない。
希ガスの圧力が30気圧を超えると、圧力の増大に対するランプ電流の低減の効果が飽和すると共に、気密容器の破裂の可能性が高まるため、好ましくない。
【0023】
より好ましくは、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)の添加量を1mg/cc以下、即ち気密容器の内部容積1cc当たり1mg以下と少量にする。
蒸気圧の高い第2のハロゲン化物を多く添加した場合には、ランプ電圧を上昇させることができる利点を有するが、発光スペクトルが長波長側に移行してしまい、ランプの色温度が低下してしまう。つまり、発光スペクトルがRed側に移行してしまうため、Blue側の光量が減少してしまう。
従って、このように発光スペクトルが長波長側に移行した放電ランプをプロジェクタに使用した場合には、所望の色温度に設定しようとするとBlueの光量が足りなくなるため、光量の多いGreen及びRedの光量をBlueの光量に合わせて減光して調整する必要がある。このため、液晶デバイスを通過した後の光量が低くなってしまい、スクリーンに投影される輝度が低下してしまう。
第2のハロゲン化物の添加量を1mg/ccと少量にすることにより、短波長側の光量と長波長側の光量を均一にすることが可能になり、放電ランプの光のバランスを、液晶デバイスを通過した後のバランスに近づけることができ、光の利用効率をさらに向上させることができる。
【0024】
そして、本発明のハロゲン化物を使用したメタルハライドランプと、従来使用されている超高圧水銀ランプ(UHP)とを比較すると、本発明のハロゲン化物を使用したメタルハライドランプの方が、より均一な発光スペクトルの分布を得ることができる。
従って、プロジェクタ等に、本発明のハロゲン化物を使用したメタルハライドランプを使用した場合は、水銀を使用した従来のランプよりも、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに近い発光をすることができる。
【0025】
本発明において、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)とは、点灯中の蒸気圧が、発光物質としてのハロゲン化物に対し、相対的に蒸気圧の大きい金属ハロゲン化物である。
第2のハロゲン化物として好ましくは、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウムであり、さらに好ましくは、ヨウ化ガリウム(GaI3)、ヨウ化インジウム(InI,InI3)、ヨウ化スズ(SnI2,SnI4)、ヨウ化タリウム(TlI)、ヨウ化亜鉛(ZnI2)、ヨウ化アルミニウム(AlI3)である。
【0026】
本発明の発光物質としてのハロゲン化物(第1のハロゲン化物)、及び蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)を構成するハロゲンとしては、ヨウ素、臭素、塩素等のいずれのハロゲンにおいても効果を得ることができる。しかし、ハロゲンの反応性はフッ素が一番強く、以下塩素、臭素、ヨウ素の順に反応性が弱くなるが、本発明においては、ヨウ素の反応性が最も適当である。なお、本発明においては、異なるハロゲンを併用することも可能であり、例えば、ヨウ化物と臭化物のような異なるハロゲン化物を併用することも可能である。
【0027】
本発明において、希ガスは、始動ガス及び緩衝ガスとして作用するもので、気密容器を透過しない物であれば、特に限定されない。なお、ネオンは石英ガラスを透過しやすいので、気密容器の材質を選ばない理由から、アルゴン、クリプトン、又はキセノンが好ましく、さらに好ましくは、封入圧力を高くすることによってランプ電流を抑えることができるため、キセノンが好ましい。
希ガスの封入圧力を高くすることにより、メタルハライドランプの光束の立ち上がり特性を向上させることができる。光束の立ち上がり特性が良好であることは、どのような使用目的であっても好都合であり、特に自動車などの前照灯や、液晶プロジェクタなどにおいて特に有用である。
【0028】
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の放電ランプの一実施の形態として、メタルハライドランプの概略構成図を図1に示す。
このメタルハライドランプ220は、例えば石英管から成る気密容器208に、一対の電極201,202を封着すると共に、ハロゲン化物及び希ガスを気密容器208内に封止して成る。
気密容器208は、中央の発光部208aと、その両側の封止部208b,208cとから成る。発光部208aは、内部に空間を有する、球体形状もしくは回転楕円体形状であり、その内部の空間にハロゲン化物及び希ガスが封入される。両端の封止部208b,208cは、発光部208a内に封入する物質が外部へ漏れないように封止するように構成される。また、封止部208b,208cには、金属箔209が封止されている。
一対の電極201,202は、それぞれリード線203の先端に取り付けられ、発光部208a内に封止されている。リード線203は金属箔209の一端に取り付けられ、金属箔209の他端にはリード線204が取り付けられている。リード線204は気密容器208の封止部208b,208cよりも外に導出されている。これら電極201,202、リード線203、金属箔209、リード線204は、組み立てられて一体の電極構体214となっている。金属箔209とその両端に接続されたリード線203及び204の一部が、気密容器208の封止部208b,208cによって封止されている。
【0029】
本実施の形態のメタルハライドランプ220では、特に気密容器208に封止されたハロゲン化物が、前述した第1のハロゲン化物に、蒸気圧の高い第2のハロゲン化物が添加された構成とする。
また、気密容器208に封止された希ガスの圧力が、15気圧以上30気圧以下である構成とする。
第1のハロゲン化物としては、前述した、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上、より好ましくはヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化ツリウム、ヨウ化イットリウム、ヨウ化ホルミウム、ヨウ化ルテチウム、ヨウ化エリビウム、ヨウ化テルビウムから選ばれる1種類以上を用いる。
第2のハロゲン化物としては、前述した、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウムから選ばれる1種類以上、より好ましくは、ヨウ化ガリウム、ヨウ化インジウム、ヨウ化スズ、ヨウ化タリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウムから選ばれる1種類以上を用いる。
希ガスとしては、好ましくは、アルゴン、クリプトン、キセノン、から選ばれるガスを用い、特に好ましくはキセノンを用いる。
【0030】
さらに、好ましくは、第2のハロゲン化物の添加量を、1mg/cc以下、即ち気密容器208の内部容積(発光部208aの内容積)1cc当たり1mg以下と、少量とする。
【0031】
本実施の形態のメタルハライドランプ220は、図1に示す状態でそのまま使用することも可能であるが、例えばプロジェクタ等に使用する場合には、図2に示すように、メタルハライドランプ(発光管)220にリフレクタ(反射鏡)221を取り付けるとよい。
図2に示す構成では、メタルハライドランプ(発光管)220の気密容器208の一方の封止部208bに、内部に鏡面222を有するリフレクタ(反射鏡)221が取り付けられている。
リフレクタ(反射鏡)221が取り付けられていることにより、発光部208aからの光が、鏡面222で反射されて、図中右側に効率良く放射させることができる。
【0032】
本実施の形態のメタルハライドランプ220は、以下のようにして製造することができる。
まず、図3Aに示すように、気密容器208の下側の封止部208bから、電極201・リード線203・金属箔209・リード線204から成る電極構体214を挿入する。
また、気密容器208の上の封止部208c側から、真空排気を行なう。
次に、図3Bに示すように、CO2レーザーや酸素水素混合ガスバーナー等の加熱手段215により、気密容器の下側の封止部208bを軟化させて、シュリンクシールや、軟化した石英を機械的にシールするピンチシール等によって封止する。
次に、図3Cに示すように、下側が封止された気密容器208内に、始動ガスや緩衝ガスとして希ガス216を封入する。このときの希ガス216の気密容器208内での圧力は、封止部208cを封止した後、室温で15気圧以上30気圧以下となるようにする。
続いて、発光物質である第1のハロゲン化物217及び蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)218を、気密容器208の発光部208a内に入れる。
次に、気密容器208の上側の封止部208cから、電極202・リード線203・金属箔209・リード線204から成る電極構体214を挿入する。このとき、2つの電極201,202の間隔219を0.5〜4.5mm等の所望の間隔に調整する。
その後、シュリンクシール、ピンチシール等により、気密容器208の上側の封止部208cを封止する。このようにして、図3Dに示すように、図1に示した本実施の形態のメタルハライドランプ220を製造することができる。
【0033】
なお、図2に示したように、リフレクタ221を設ける場合には、この後、メタルハライドランプ(発光管)220の一方の封止部208bにリフレクタ221を取り付けて、発光管220とリフレクタ221とを位置あわせして固着する。
【0034】
上述の本実施の形態のメタルハライドランプ220の構成によれば、水銀を使用していないため、環境に悪影響を与えることがない。
また、気密容器208に封止されたハロゲン化物が、第1のハロゲン化物に、蒸気圧の高い第2のハロゲン化物が添加された構成であることにより、第1のハロゲン化物のみでは、発光スペクトルが可視光領域の短波長側(紫色領域や青色領域)に偏ってしまっていたのが、スペクトル分布を長波長側(赤色領域)にシフトさせることができる。
これにより、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの光のバランスを最適化することが可能になり、光の利用効率を向上して、液晶デバイスを通過した後に高い輝度を得ることが可能になる。
【0035】
また、本実施の形態のメタルハライドランプ220の構成によれば、気密容器208に封止された希ガスの圧力が15気圧以上30気圧以下であることにより、ランプ電流を充分に低減することができる。
これにより、発光効率を向上して、メタルハライドランプ220を長寿命化することができる。
【0036】
さらに、本実施の形態のメタルハライドランプ220において、第2のハロゲン化物の添加量を1mg/ccとすることにより、発光スペクトルの低波長側へのシフト量を適度に抑えて、短波長側の光量と長波長側の光量を均一にすることが可能になり、放電ランプの光のバランスを、液晶デバイスを通過した後のバランスに近づけることができ、光の利用効率をさらに向上させることができる。
【0037】
(実施例)
以下に、本発明を実施例により説明する。
メタルハライドランプ220の気密容器208としては、石英管を用いた。石英管は、洗浄、アニール処理を行った後、電極構体214を石英管208の一方の封止部208bに挿入した。
次に、管内を排気しながら、酸素水素混合ガスバーナーによって石英を軟化させてシュリンクシールを行った。
次に、片側が封止された石英管内に、始動ガス及び緩衝ガス用の希ガス216としてキセノン(Xe)を封入した。この時のキセノンの容器内での圧力を15気圧とした。
次に、発光物質としてのハロゲン化物217及び蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)218を封入した。
次に、石英管の他方の封止部208cにも電極構体214を挿入した。この時の電極の間隔219を1.0〜2.5mmに調整した。さらに、気密容器208の発光部208aの内容積が0.9cm3となるように、石英管の他方の封止部208cにシュリンクシールを行い、メタルハライドランプ220の試料を作製した。
【0038】
(測定・評価)
本発明のメタルハライドランプをTV用プロジェクタとして使用する場合、Red、Green、Blueそれぞれの光量を調整して、ホワイトバランスを合わせる必要がある。 プロジェクタ用のランプの場合、白色光をダイクロミラー等で、Red、Green、及びBlueのそれぞれの波長に分光して、液晶デバイス等を通過した後に、分光した光を再び1つに戻している。この時、ダイクロミラー等を設計することにより、Red、Green、及びBlueとして使用する光の波長の範囲を選択することができる。
そこで、各色の波長領域を、Blueとして使用する波長領域を430〜509nmとし、Greenとして使用する波長領域を510〜579nmとし、Redとして使用する領域を600nm〜700nmとして、この各色の波長をもとに、各試料のメタルハライドランプの入力100Wでの発光スペクトルを測定し、さらに、光束(lm)と色温度(K)を測定した。
また、各試料のメタルハライドランプの光を、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させるシミュレーションを行い、液晶デバイスを通過した後の各色の光の利用率(%)、液晶デバイスを通過した後の光束(lm)を測定した。
【0039】
(試料1)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、及び、希ガスとして、キセノン(Xe)15気圧を封入して、上述の製造方法によりメタルハライドランプ220を作製し、試料1とした。この試料1のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図4に示す。
図4のスペクトル分布では、400〜450nmにかけて強い発光強度を示している。また、450〜700nmにかけて、なだらかな連続発光がみられる。しかし、その強度は長波長側になるにつれて弱くなっていく傾向にある。また、上記のメタルハライドランプの光束は4200(lm)、色温度は36000Kとなり、非常に青い光となっている。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが70%、Greenが80%、Redが100%となり、液晶デバイス通過後の光束は2900(lm)となった。
【0040】
(試料2)
発光物質として、ヨウ化ホルミウム(HoI3)3mgを封入する他は試料1と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料2とした。この試料2のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図5に示す。
図5のスペクトル分布では、400〜450nmにかけて強い発光強度を示している。また、450〜700nmにかけて、なだらかな連続発光がみられる。しかし、その強度は長波長側になるにつれて弱くなっていく傾向にある。即ち、試料1と同様の傾向となった。また、上記のメタルハライドランプの光束は2900(lm)、色温度は14000Kとなり、非常に青い光となっている。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが80%、Greenが80%、Redが100%となり、液晶デバイス通過後の光束は2100(lm)となった。
【0041】
(試料3)
発光物質として、ヨウ化ツリウム(TmI3)3mgを封入する他は試料1と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料3とした。この試料3のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図6に示す。
図6のスペクトル分布では、400〜600nmにかけていくつかの特有な輝線があるものの全体的に均一なスペクトルとなっている。また、400〜430nmにかけて強い発光強度を示している。しかし、その強度は長波長側になるにつれて弱くなっていく傾向にある。即ち、試料1と同様の傾向となった。また、上記のメタルハライドランプの光束は4900(lm)、色温度は8600Kとなっている。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが80%、Greenが60%、Redが100%となり、液晶デバイス通過後の光束は2800(lm)となった。
【0042】
(試料4;実施例1)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)として、ヨウ化インジウム(InI)0.5mg、及び、希ガスとして、キセノン(Xe)15気圧を封入して、上述の製造方法によりメタルハライドランプ220を作製し、試料4とした。この試料4のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図7に示す。
図7のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化インジウムを封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は6800(lm)、色温度は5400Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが80%、Redが70%となり、液晶デバイス通過後の光束は4500(lm)となった。
【0043】
(試料5;実施例2)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、第2のハロゲン化物として、ヨウ化タリウム(TlI)0.5mgを封入する他は試料4と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料5とした。この試料5のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図8に示す。
図8のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化タリウムを封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は6700(lm)、色温度は7100Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが65%、Redが90%となり、液晶デバイス通過後の光束は4300(lm)となった。
【0044】
(試料6;実施例3)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、第2のハロゲン化物として、ヨウ化亜鉛(ZnI2)0.5mgを封入する他は試料4と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料6とした。この試料6のメタルハライドランプ220メタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布を図9に示す。
図9のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化亜鉛を封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は5200(lm)、色温度は7100Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが100%、Redが80%となり、液晶デバイス通過後の光束は4100(lm)となった。
【0045】
(試料7;実施例4)
発光物質としてのハロゲン化物として、ヨウ化ツリウム(TmI3)3mg、第2のハロゲン化物として、ヨウ化ガリウム(GaI3)0.5mgを封入する他は試料4と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料7とした。この試料7のメタルハライドランプ220メタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布を図10に示す。
図10のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化ガリウムを封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は6500(lm)、色温度は6800Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが70%、Redが90%となり、液晶デバイス通過後の光束は4200(lm)となった。
【0046】
(比較例)
従来、TV用プロジェクタに使用されている100Wの超高圧水銀ランプの発光スペクトル分布を、図12に示す。
図12の発光スペクトルは、350〜450nmにかけて数個の大きなピークを持ち、550〜600nmにかけても数個の大きなピークを持ち、600nm以上では、大きなピークは見られない。また、上記の超高圧水銀ランプの光束は、7100(lm)であり、色温度は、8700Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが70%、Greenが60%、Redが100%となり、液晶デバイスを通過した後の光束は4000(lm)となった。
【0047】
以上の結果から、比較例の超高圧水銀ランプの液晶デバイスを通過した後の光は、実際には超高圧水銀ランプの光の56%しか利用できていないのに比べ、発光スペクトルのバランスが良くなったため、液晶デバイスを通過した後の光の利用率、光束ともに向上したことが分かる。
【0048】
さらに、発光物質としてハロゲン化物を使用し、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)を添加した実施例1〜4(試料4〜7)のメタルハライドランプは、短波長側に多く発光する光を、長波長側にシフトさせることができる。従って、第2のハロゲン化物を添加することで、メタルハライドランプの光が均一化し、液晶デバイスを通過した後の光の利用効率を増加することができる。
【0049】
(希ガスの封入圧力とランプ電流との関係)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mgを使用し、上述の各試料と同様の方法によってメタルハライドランプを作製した。この時、キセノンの容器内での圧力を10気圧、15気圧、20気圧、25気圧、30気圧と変更してメタルハライドランプを作製した。
作製したメタルハライドランプのキセノンの容器内での圧力とランプ電流の関係を図9に示す。
【0050】
図9に示すように、キセノン封入圧力を高くすることによりランプ電流を低くすることができる。特に15気圧以上30気圧以下とすることにより、ランプ電流が3.5A以下と低くなる。
従って、ランプ電流が小さくなることにより、点灯回路の電流容量や、発熱量が増加せず、メタルハライドランプの発光効率が向上する。また、メタルハライドランプの電極の消耗が少なくなるため、ランプを長寿命化することができる。
【0051】
また、図4〜図6より、ヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化ホルミウム、ヨウ化ツリウムが同様の傾向のスペクトル分布を有しており、図7〜図9より、ヨウ化ディスプロシウムに、ヨウ化インジウム、ヨウ化タリウム、ヨウ化亜鉛のいずれかを添加した場合も、同様の傾向のスペクトル分布を有している。さらに、図10より、ヨウ化ツリウムにヨウ化ガリウムを添加した場合も、図7〜図9と同様の傾向のスペクトル分布を有している。
従って、第1のハロゲン化物と第2のハロゲン化物の組み合わせを、これらの任意の組み合わせとしても、同様に、光を均一化し、光の利用率を増加させることが可能になる。
【0052】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のメタルハライドランプの構成図である。
【図2】図1のメタルハライドランプにリフレクタを取り付けた構成を示す図である。
【図3】A〜D 本発明のメタルハライドランプの製造方法を示す製造工程図である。
【図4】試料1のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図5】試料2のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図6】試料3のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図7】試料4のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図8】試料5のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図9】試料6のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図10】試料7のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図11】キセノンの封入圧力とランプ電流との関係を示す図である。
【図12】100Wの超高圧水銀ランプのスペクトル分布である。
【符号の説明】
【0054】
201,202 電極、203 リード線、208 気密容器、208a 発光部、208b,208c 封止部、209 金属箔、214 電極構体、215 加熱手段、216 希ガス、217 発光物質(第1のハロゲン化物)、218 蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)、219 電極の間隔、220 メタルハライドランプ、221 リフレクタ、222 鏡面
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクタや、自動車用照明灯等に搭載される、メタルハライドランプ等の高圧放電ランプに係わる。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプは、比較的高効率で、高演色性であるため、広く使用されている。また、高圧放電ランプは、封入物の違いにより、メタルハライドランプや水銀ランプなど、数種類に分けることができる。
【0003】
メタルハライドランプは、主に液晶プロジェクタ用、又は、自動車の前照灯用などの用途により、使用される放電ランプの発光材料が異なる。
プロジェクタ用の放電ランプの発光材料には、水銀とヨウ化ディスプロシウム(DyI3)、又は、水銀とヨウ化ネオジウム(NdI3)が主に使用されている。
自動車の前照灯用の放電ランプの発光材料には、水銀とヨウ化ナトリウム(NaI)、又は、水銀とヨウ化スカンジウム(ScI3)が主に使用されている。
【0004】
従来のメタルハライドランプに水銀が使用されているのは、水銀の発光スペクトルを利用するという目的もあるが、主として、ランプ電圧を高くするという目的のために使用されている。
ランプ電圧を高くするのは、ランプ電圧が低いと、所望のランプ入力を得るために必要となるランプ電流が大きくなるためである。
ランプ電流が大きいと、点灯回路の電流容量の増大や、発熱量の増加が問題となり、さらにメタルハライドランプの発光効率が低下するという問題がある。また、メタルハライドランプの電極の消耗が大きくなり、ランプの寿命が短くなるという問題が発生する。
【0005】
超高圧水銀ランプ(UHP)に使用されている発光材料は、水銀のみである。
水銀が使用されている理由は、水銀を使用することにより、水銀の発光スペクトルを使用できるためと、ランプ電圧を高くすることができるためである。
ランプ電圧を高くする理由は、メタルハライドランプと同様に、ランプ電圧が低いと、所望のランプ入力を得るために必要となるランプ電流が大きくなるためである。
ランプ電流が大きいと、点灯回路の電流容量の増大や、発熱量の増加が問題となり、さらに水銀ランプの発光効率が低下するという問題がある。また、水銀ランプの電極の消耗が大きくなり、ランプの寿命が短くなるという問題が発生する。
【0006】
しかし、上述のメタルハライドランプ及びUHPに、発光材料として使用している水銀は、環境に悪影響を与える環境負荷物質であるため、廃絶することが求められている。
特に、RoHS指令により、EU加盟国内において水銀等の対象物質が含まれた電子・電気機器を上市することはできなくなるなど、水銀は全廃することが求められている。
【0007】
また、上述のメタルハライドランプ及びUHPは、水銀を使用しているため、点灯中にランプ内の水銀原子の温度と密度が非常に高くなっている。このため、上記の放電ランプでは、スイッチを入れてから発光管内の温度が上昇し、発光管内が水銀の蒸発によって所定の圧力に達するまで数分間を要し、始動時の光束の立ち上がりが遅くなってしまう。
【0008】
また、上述のメタルハライドランプ及びUHPは、点灯中に水銀が蒸発して、すべて蒸気になっているため、発光管内は50〜200気圧の高圧になっている。このため、一旦消灯した後に再始動させるためには、非常に高電圧のパルス電圧を印加する必要があるため、瞬時に再点灯することが難くなっている。
【0009】
そこで、発光スペクトルを得るための第1のハロゲン化物を使用し、さらに、水銀の代わりにランプ電圧を高くする材料として蒸気圧の高い第2のハロゲン化物を使用するメタルハライドランプが提案されている。
例えば、発光金属としてNa、Li、Sc及び希土類等の発光金属からなる第1のハロゲン化物と、蒸気圧が相対的に高く第1のハロゲン化物の金属に比較して可視域に発光しにくい金属からなる第2のハロゲン化物とを使用した放電ランプが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0010】
【特許文献1】特開平11−238488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に記載された構成の放電ランプにおいては、始動用及び緩衝用のガスとして、アルゴン等の希ガスを封入している。
しかしながら、この希ガスの封入圧力が小さいと、ランプ電流を充分に低減することができない。
特許文献1では、多数挙げられている具体例において、希ガスの封入圧力は最大でも5気圧となっており、この程度の圧力では、ランプ電流をある程度大きくする必要がある。
【0012】
上述した問題の解決のために、本発明においては、水銀を使用しなくても、ランプ電流を低下させることができると共に、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの発光スペクトルを最適化することが可能になる高圧放電ランプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の高圧放電ランプは、耐火性で透明性の気密容器と、気密容器に封着された電極と、発光物質と希ガスが封入された高圧放電ランプであり、発光物質として、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物と、第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加されており、かつ希ガスを15気圧以上30気圧以下の圧力で封入したことを特徴とする。
【0014】
上述の本発明の高圧放電ランプの構成によれば、発光物質のハロゲン化物が、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物に対して、この第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加され、希ガスが15気圧以上30気圧以下の圧力で封入されている。
第1のハロゲン化物のみでは、放電ランプの発光スペクトルが可視光領域の短波長側(紫色領域や青色領域)に偏ってしまうが、第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加されていることにより、放電ランプの光のスペクトル分布を長波長側(赤色領域)にシフトさせることができる。
また、希ガスが15気圧以上30気圧以下の圧力で封入されていることにより、ランプ電圧を上げることができるため、ランプ電流を充分に低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明によれば、水銀を使用しないため、環境に大きな影響を与えることがない。
また、本発明によれば、第2のハロゲン化物の添加によって放電ランプの光のスペクトル分布を長波長側(赤色領域)にシフトさせることができるため、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの光のバランスを最適化することが可能になる。
これにより、光の利用効率を向上し、液晶デバイスを通過した後に高い輝度を得ることが可能になる。
さらに、本発明によれば、ランプ電流を充分に低減することができるため、発光効率を向上して、放電ランプを長寿命化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明の放電ランプは、気密容器、電極、ハロゲン化物及び希ガスによって構成される。そして、電極を気密容器に封着すると共に、ハロゲン化物及び希ガスを気密容器内に封入して放電ランプを構成する。
【0017】
気密容器は、耐火性で透明性を有する構成とする。そして、放電ランプの通常の作動温度に充分耐える材料であり、かつ放電によって発生した所望波長域の可視光を外部に導出することができれば、どのようなもので作られていてもよい。例えば、石英ガラスや透光性アルミナ、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)等の透光性セラミックスやこれらの単結晶等を用いることができる。
さらに、気密容器の内面に耐ハロゲン性や耐金属性の透明性被膜を形成する等、気密容器の内面を改質した構造としても良い。
【0018】
電極は、交流および直流のいずれで点灯するように構成してもよく、交流で作動させる場合には、陽極と陰極を同一構造とするが、直流で作動させる場合には、一般的に陽極は温度上昇が激しいため、陰極より放熱面積の大きいものを用いることが好ましい。
【0019】
発光物質であるハロゲン化物は、放電媒体となる。使用するハロゲン化物として好ましくは、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムであり、さらに好ましくは、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)、ヨウ化ツリウム(TmI3)、ヨウ化イットリウム(YI3)、ヨウ化ホルミウム(HoI3)、ヨウ化ルテチウム(LuI3)、ヨウ化エリビウム(ErI3)、ヨウ化テルビウム(TbI3)である。
【0020】
上記のハロゲン化物は、所望の発光をさせることができる金属のハロゲン化物であり、例えば可視光または紫外線等を発生する金属のハロゲン化物である。
【0021】
本発明においては、放電媒体として、上記のハロゲン化物(第1のハロゲン化物)に加えて、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)を加える。
蒸気圧の高い金属ハロゲン化物を加えることにより、発光スペクトルが短波長側から長波長側にシフトするため、発光スペクトルの分布が均一になるように調整することが可能になる。
【0022】
また、本発明においては、気密容器に封止される希ガスの圧力を15気圧以上30気圧以下とする。
希ガスの圧力を15気圧以上30気圧以下とすることにより、ランプ電流を充分に低減することができる。
希ガスの圧力が15気圧未満であると、比較的大きいランプ電流が必要になるので好ましくない。
希ガスの圧力が30気圧を超えると、圧力の増大に対するランプ電流の低減の効果が飽和すると共に、気密容器の破裂の可能性が高まるため、好ましくない。
【0023】
より好ましくは、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)の添加量を1mg/cc以下、即ち気密容器の内部容積1cc当たり1mg以下と少量にする。
蒸気圧の高い第2のハロゲン化物を多く添加した場合には、ランプ電圧を上昇させることができる利点を有するが、発光スペクトルが長波長側に移行してしまい、ランプの色温度が低下してしまう。つまり、発光スペクトルがRed側に移行してしまうため、Blue側の光量が減少してしまう。
従って、このように発光スペクトルが長波長側に移行した放電ランプをプロジェクタに使用した場合には、所望の色温度に設定しようとするとBlueの光量が足りなくなるため、光量の多いGreen及びRedの光量をBlueの光量に合わせて減光して調整する必要がある。このため、液晶デバイスを通過した後の光量が低くなってしまい、スクリーンに投影される輝度が低下してしまう。
第2のハロゲン化物の添加量を1mg/ccと少量にすることにより、短波長側の光量と長波長側の光量を均一にすることが可能になり、放電ランプの光のバランスを、液晶デバイスを通過した後のバランスに近づけることができ、光の利用効率をさらに向上させることができる。
【0024】
そして、本発明のハロゲン化物を使用したメタルハライドランプと、従来使用されている超高圧水銀ランプ(UHP)とを比較すると、本発明のハロゲン化物を使用したメタルハライドランプの方が、より均一な発光スペクトルの分布を得ることができる。
従って、プロジェクタ等に、本発明のハロゲン化物を使用したメタルハライドランプを使用した場合は、水銀を使用した従来のランプよりも、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに近い発光をすることができる。
【0025】
本発明において、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)とは、点灯中の蒸気圧が、発光物質としてのハロゲン化物に対し、相対的に蒸気圧の大きい金属ハロゲン化物である。
第2のハロゲン化物として好ましくは、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウムであり、さらに好ましくは、ヨウ化ガリウム(GaI3)、ヨウ化インジウム(InI,InI3)、ヨウ化スズ(SnI2,SnI4)、ヨウ化タリウム(TlI)、ヨウ化亜鉛(ZnI2)、ヨウ化アルミニウム(AlI3)である。
【0026】
本発明の発光物質としてのハロゲン化物(第1のハロゲン化物)、及び蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)を構成するハロゲンとしては、ヨウ素、臭素、塩素等のいずれのハロゲンにおいても効果を得ることができる。しかし、ハロゲンの反応性はフッ素が一番強く、以下塩素、臭素、ヨウ素の順に反応性が弱くなるが、本発明においては、ヨウ素の反応性が最も適当である。なお、本発明においては、異なるハロゲンを併用することも可能であり、例えば、ヨウ化物と臭化物のような異なるハロゲン化物を併用することも可能である。
【0027】
本発明において、希ガスは、始動ガス及び緩衝ガスとして作用するもので、気密容器を透過しない物であれば、特に限定されない。なお、ネオンは石英ガラスを透過しやすいので、気密容器の材質を選ばない理由から、アルゴン、クリプトン、又はキセノンが好ましく、さらに好ましくは、封入圧力を高くすることによってランプ電流を抑えることができるため、キセノンが好ましい。
希ガスの封入圧力を高くすることにより、メタルハライドランプの光束の立ち上がり特性を向上させることができる。光束の立ち上がり特性が良好であることは、どのような使用目的であっても好都合であり、特に自動車などの前照灯や、液晶プロジェクタなどにおいて特に有用である。
【0028】
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の放電ランプの一実施の形態として、メタルハライドランプの概略構成図を図1に示す。
このメタルハライドランプ220は、例えば石英管から成る気密容器208に、一対の電極201,202を封着すると共に、ハロゲン化物及び希ガスを気密容器208内に封止して成る。
気密容器208は、中央の発光部208aと、その両側の封止部208b,208cとから成る。発光部208aは、内部に空間を有する、球体形状もしくは回転楕円体形状であり、その内部の空間にハロゲン化物及び希ガスが封入される。両端の封止部208b,208cは、発光部208a内に封入する物質が外部へ漏れないように封止するように構成される。また、封止部208b,208cには、金属箔209が封止されている。
一対の電極201,202は、それぞれリード線203の先端に取り付けられ、発光部208a内に封止されている。リード線203は金属箔209の一端に取り付けられ、金属箔209の他端にはリード線204が取り付けられている。リード線204は気密容器208の封止部208b,208cよりも外に導出されている。これら電極201,202、リード線203、金属箔209、リード線204は、組み立てられて一体の電極構体214となっている。金属箔209とその両端に接続されたリード線203及び204の一部が、気密容器208の封止部208b,208cによって封止されている。
【0029】
本実施の形態のメタルハライドランプ220では、特に気密容器208に封止されたハロゲン化物が、前述した第1のハロゲン化物に、蒸気圧の高い第2のハロゲン化物が添加された構成とする。
また、気密容器208に封止された希ガスの圧力が、15気圧以上30気圧以下である構成とする。
第1のハロゲン化物としては、前述した、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上、より好ましくはヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化ツリウム、ヨウ化イットリウム、ヨウ化ホルミウム、ヨウ化ルテチウム、ヨウ化エリビウム、ヨウ化テルビウムから選ばれる1種類以上を用いる。
第2のハロゲン化物としては、前述した、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウムから選ばれる1種類以上、より好ましくは、ヨウ化ガリウム、ヨウ化インジウム、ヨウ化スズ、ヨウ化タリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウムから選ばれる1種類以上を用いる。
希ガスとしては、好ましくは、アルゴン、クリプトン、キセノン、から選ばれるガスを用い、特に好ましくはキセノンを用いる。
【0030】
さらに、好ましくは、第2のハロゲン化物の添加量を、1mg/cc以下、即ち気密容器208の内部容積(発光部208aの内容積)1cc当たり1mg以下と、少量とする。
【0031】
本実施の形態のメタルハライドランプ220は、図1に示す状態でそのまま使用することも可能であるが、例えばプロジェクタ等に使用する場合には、図2に示すように、メタルハライドランプ(発光管)220にリフレクタ(反射鏡)221を取り付けるとよい。
図2に示す構成では、メタルハライドランプ(発光管)220の気密容器208の一方の封止部208bに、内部に鏡面222を有するリフレクタ(反射鏡)221が取り付けられている。
リフレクタ(反射鏡)221が取り付けられていることにより、発光部208aからの光が、鏡面222で反射されて、図中右側に効率良く放射させることができる。
【0032】
本実施の形態のメタルハライドランプ220は、以下のようにして製造することができる。
まず、図3Aに示すように、気密容器208の下側の封止部208bから、電極201・リード線203・金属箔209・リード線204から成る電極構体214を挿入する。
また、気密容器208の上の封止部208c側から、真空排気を行なう。
次に、図3Bに示すように、CO2レーザーや酸素水素混合ガスバーナー等の加熱手段215により、気密容器の下側の封止部208bを軟化させて、シュリンクシールや、軟化した石英を機械的にシールするピンチシール等によって封止する。
次に、図3Cに示すように、下側が封止された気密容器208内に、始動ガスや緩衝ガスとして希ガス216を封入する。このときの希ガス216の気密容器208内での圧力は、封止部208cを封止した後、室温で15気圧以上30気圧以下となるようにする。
続いて、発光物質である第1のハロゲン化物217及び蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)218を、気密容器208の発光部208a内に入れる。
次に、気密容器208の上側の封止部208cから、電極202・リード線203・金属箔209・リード線204から成る電極構体214を挿入する。このとき、2つの電極201,202の間隔219を0.5〜4.5mm等の所望の間隔に調整する。
その後、シュリンクシール、ピンチシール等により、気密容器208の上側の封止部208cを封止する。このようにして、図3Dに示すように、図1に示した本実施の形態のメタルハライドランプ220を製造することができる。
【0033】
なお、図2に示したように、リフレクタ221を設ける場合には、この後、メタルハライドランプ(発光管)220の一方の封止部208bにリフレクタ221を取り付けて、発光管220とリフレクタ221とを位置あわせして固着する。
【0034】
上述の本実施の形態のメタルハライドランプ220の構成によれば、水銀を使用していないため、環境に悪影響を与えることがない。
また、気密容器208に封止されたハロゲン化物が、第1のハロゲン化物に、蒸気圧の高い第2のハロゲン化物が添加された構成であることにより、第1のハロゲン化物のみでは、発光スペクトルが可視光領域の短波長側(紫色領域や青色領域)に偏ってしまっていたのが、スペクトル分布を長波長側(赤色領域)にシフトさせることができる。
これにより、液晶デバイスを通過した後の光のバランスに合うように、放電ランプの光のバランスを最適化することが可能になり、光の利用効率を向上して、液晶デバイスを通過した後に高い輝度を得ることが可能になる。
【0035】
また、本実施の形態のメタルハライドランプ220の構成によれば、気密容器208に封止された希ガスの圧力が15気圧以上30気圧以下であることにより、ランプ電流を充分に低減することができる。
これにより、発光効率を向上して、メタルハライドランプ220を長寿命化することができる。
【0036】
さらに、本実施の形態のメタルハライドランプ220において、第2のハロゲン化物の添加量を1mg/ccとすることにより、発光スペクトルの低波長側へのシフト量を適度に抑えて、短波長側の光量と長波長側の光量を均一にすることが可能になり、放電ランプの光のバランスを、液晶デバイスを通過した後のバランスに近づけることができ、光の利用効率をさらに向上させることができる。
【0037】
(実施例)
以下に、本発明を実施例により説明する。
メタルハライドランプ220の気密容器208としては、石英管を用いた。石英管は、洗浄、アニール処理を行った後、電極構体214を石英管208の一方の封止部208bに挿入した。
次に、管内を排気しながら、酸素水素混合ガスバーナーによって石英を軟化させてシュリンクシールを行った。
次に、片側が封止された石英管内に、始動ガス及び緩衝ガス用の希ガス216としてキセノン(Xe)を封入した。この時のキセノンの容器内での圧力を15気圧とした。
次に、発光物質としてのハロゲン化物217及び蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)218を封入した。
次に、石英管の他方の封止部208cにも電極構体214を挿入した。この時の電極の間隔219を1.0〜2.5mmに調整した。さらに、気密容器208の発光部208aの内容積が0.9cm3となるように、石英管の他方の封止部208cにシュリンクシールを行い、メタルハライドランプ220の試料を作製した。
【0038】
(測定・評価)
本発明のメタルハライドランプをTV用プロジェクタとして使用する場合、Red、Green、Blueそれぞれの光量を調整して、ホワイトバランスを合わせる必要がある。 プロジェクタ用のランプの場合、白色光をダイクロミラー等で、Red、Green、及びBlueのそれぞれの波長に分光して、液晶デバイス等を通過した後に、分光した光を再び1つに戻している。この時、ダイクロミラー等を設計することにより、Red、Green、及びBlueとして使用する光の波長の範囲を選択することができる。
そこで、各色の波長領域を、Blueとして使用する波長領域を430〜509nmとし、Greenとして使用する波長領域を510〜579nmとし、Redとして使用する領域を600nm〜700nmとして、この各色の波長をもとに、各試料のメタルハライドランプの入力100Wでの発光スペクトルを測定し、さらに、光束(lm)と色温度(K)を測定した。
また、各試料のメタルハライドランプの光を、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させるシミュレーションを行い、液晶デバイスを通過した後の各色の光の利用率(%)、液晶デバイスを通過した後の光束(lm)を測定した。
【0039】
(試料1)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、及び、希ガスとして、キセノン(Xe)15気圧を封入して、上述の製造方法によりメタルハライドランプ220を作製し、試料1とした。この試料1のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図4に示す。
図4のスペクトル分布では、400〜450nmにかけて強い発光強度を示している。また、450〜700nmにかけて、なだらかな連続発光がみられる。しかし、その強度は長波長側になるにつれて弱くなっていく傾向にある。また、上記のメタルハライドランプの光束は4200(lm)、色温度は36000Kとなり、非常に青い光となっている。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが70%、Greenが80%、Redが100%となり、液晶デバイス通過後の光束は2900(lm)となった。
【0040】
(試料2)
発光物質として、ヨウ化ホルミウム(HoI3)3mgを封入する他は試料1と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料2とした。この試料2のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図5に示す。
図5のスペクトル分布では、400〜450nmにかけて強い発光強度を示している。また、450〜700nmにかけて、なだらかな連続発光がみられる。しかし、その強度は長波長側になるにつれて弱くなっていく傾向にある。即ち、試料1と同様の傾向となった。また、上記のメタルハライドランプの光束は2900(lm)、色温度は14000Kとなり、非常に青い光となっている。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが80%、Greenが80%、Redが100%となり、液晶デバイス通過後の光束は2100(lm)となった。
【0041】
(試料3)
発光物質として、ヨウ化ツリウム(TmI3)3mgを封入する他は試料1と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料3とした。この試料3のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図6に示す。
図6のスペクトル分布では、400〜600nmにかけていくつかの特有な輝線があるものの全体的に均一なスペクトルとなっている。また、400〜430nmにかけて強い発光強度を示している。しかし、その強度は長波長側になるにつれて弱くなっていく傾向にある。即ち、試料1と同様の傾向となった。また、上記のメタルハライドランプの光束は4900(lm)、色温度は8600Kとなっている。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが80%、Greenが60%、Redが100%となり、液晶デバイス通過後の光束は2800(lm)となった。
【0042】
(試料4;実施例1)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)として、ヨウ化インジウム(InI)0.5mg、及び、希ガスとして、キセノン(Xe)15気圧を封入して、上述の製造方法によりメタルハライドランプ220を作製し、試料4とした。この試料4のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図7に示す。
図7のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化インジウムを封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は6800(lm)、色温度は5400Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが80%、Redが70%となり、液晶デバイス通過後の光束は4500(lm)となった。
【0043】
(試料5;実施例2)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、第2のハロゲン化物として、ヨウ化タリウム(TlI)0.5mgを封入する他は試料4と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料5とした。この試料5のメタルハライドランプ220の入力100Wでのスペクトル分布を図8に示す。
図8のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化タリウムを封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は6700(lm)、色温度は7100Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが65%、Redが90%となり、液晶デバイス通過後の光束は4300(lm)となった。
【0044】
(試料6;実施例3)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mg、第2のハロゲン化物として、ヨウ化亜鉛(ZnI2)0.5mgを封入する他は試料4と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料6とした。この試料6のメタルハライドランプ220メタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布を図9に示す。
図9のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化亜鉛を封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は5200(lm)、色温度は7100Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが100%、Redが80%となり、液晶デバイス通過後の光束は4100(lm)となった。
【0045】
(試料7;実施例4)
発光物質としてのハロゲン化物として、ヨウ化ツリウム(TmI3)3mg、第2のハロゲン化物として、ヨウ化ガリウム(GaI3)0.5mgを封入する他は試料4と同様にして、メタルハライドランプ220を作製し、試料7とした。この試料7のメタルハライドランプ220メタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布を図10に示す。
図10のスペクトル分布では、試料1において400〜450nmにかけてあった、強い発光が抑えられている。逆に450nm〜700nmにかけて、連続スペクトルが増加している。これらは、第2のハロゲン化物としてヨウ化ガリウムを封入した効果である。また、上記のメタルハライドランプの光束は6500(lm)、色温度は6800Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが100%、Greenが70%、Redが90%となり、液晶デバイス通過後の光束は4200(lm)となった。
【0046】
(比較例)
従来、TV用プロジェクタに使用されている100Wの超高圧水銀ランプの発光スペクトル分布を、図12に示す。
図12の発光スペクトルは、350〜450nmにかけて数個の大きなピークを持ち、550〜600nmにかけても数個の大きなピークを持ち、600nm以上では、大きなピークは見られない。また、上記の超高圧水銀ランプの光束は、7100(lm)であり、色温度は、8700Kである。
次に、液晶デバイスを通過した後の色温度が10000Kになるように、得られたスペクトルの中で光量の一番少ない色に合わせて、光量の多い色を均等に減少させたときの光の利用率は、Blueが70%、Greenが60%、Redが100%となり、液晶デバイスを通過した後の光束は4000(lm)となった。
【0047】
以上の結果から、比較例の超高圧水銀ランプの液晶デバイスを通過した後の光は、実際には超高圧水銀ランプの光の56%しか利用できていないのに比べ、発光スペクトルのバランスが良くなったため、液晶デバイスを通過した後の光の利用率、光束ともに向上したことが分かる。
【0048】
さらに、発光物質としてハロゲン化物を使用し、蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)を添加した実施例1〜4(試料4〜7)のメタルハライドランプは、短波長側に多く発光する光を、長波長側にシフトさせることができる。従って、第2のハロゲン化物を添加することで、メタルハライドランプの光が均一化し、液晶デバイスを通過した後の光の利用効率を増加することができる。
【0049】
(希ガスの封入圧力とランプ電流との関係)
発光物質として、ヨウ化ディスプロシウム(DyI3)3mgを使用し、上述の各試料と同様の方法によってメタルハライドランプを作製した。この時、キセノンの容器内での圧力を10気圧、15気圧、20気圧、25気圧、30気圧と変更してメタルハライドランプを作製した。
作製したメタルハライドランプのキセノンの容器内での圧力とランプ電流の関係を図9に示す。
【0050】
図9に示すように、キセノン封入圧力を高くすることによりランプ電流を低くすることができる。特に15気圧以上30気圧以下とすることにより、ランプ電流が3.5A以下と低くなる。
従って、ランプ電流が小さくなることにより、点灯回路の電流容量や、発熱量が増加せず、メタルハライドランプの発光効率が向上する。また、メタルハライドランプの電極の消耗が少なくなるため、ランプを長寿命化することができる。
【0051】
また、図4〜図6より、ヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化ホルミウム、ヨウ化ツリウムが同様の傾向のスペクトル分布を有しており、図7〜図9より、ヨウ化ディスプロシウムに、ヨウ化インジウム、ヨウ化タリウム、ヨウ化亜鉛のいずれかを添加した場合も、同様の傾向のスペクトル分布を有している。さらに、図10より、ヨウ化ツリウムにヨウ化ガリウムを添加した場合も、図7〜図9と同様の傾向のスペクトル分布を有している。
従って、第1のハロゲン化物と第2のハロゲン化物の組み合わせを、これらの任意の組み合わせとしても、同様に、光を均一化し、光の利用率を増加させることが可能になる。
【0052】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のメタルハライドランプの構成図である。
【図2】図1のメタルハライドランプにリフレクタを取り付けた構成を示す図である。
【図3】A〜D 本発明のメタルハライドランプの製造方法を示す製造工程図である。
【図4】試料1のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図5】試料2のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図6】試料3のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図7】試料4のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図8】試料5のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図9】試料6のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図10】試料7のメタルハライドランプの入力100Wでのスペクトル分布である。
【図11】キセノンの封入圧力とランプ電流との関係を示す図である。
【図12】100Wの超高圧水銀ランプのスペクトル分布である。
【符号の説明】
【0054】
201,202 電極、203 リード線、208 気密容器、208a 発光部、208b,208c 封止部、209 金属箔、214 電極構体、215 加熱手段、216 希ガス、217 発光物質(第1のハロゲン化物)、218 蒸気圧の高い金属ハロゲン化物(第2のハロゲン化物)、219 電極の間隔、220 メタルハライドランプ、221 リフレクタ、222 鏡面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性で透明性の気密容器と、前記気密容器に封着された電極と、前記気密容器内に封入された発光物質と希ガスとを有する高圧放電ランプにおいて、
前記発光物質としてハロゲン化物が用いられ、
前記ハロゲン化物が、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物に対して、前記第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加されており、
かつ前記希ガスが15気圧以上30気圧以下の圧力で封入されている
ことを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記第2のハロゲン化物の添加量が、1mg/cc以下であることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記希ガスがキセノンであることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
前記第1のハロゲン化物が、ヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化ツリウム、ヨウ化イットリウム、ヨウ化ホルミウム、ヨウ化ルテチウム、ヨウ化エリビウム、ヨウ化テルビウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
前記第2のハロゲン化物が、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項1】
耐火性で透明性の気密容器と、前記気密容器に封着された電極と、前記気密容器内に封入された発光物質と希ガスとを有する高圧放電ランプにおいて、
前記発光物質としてハロゲン化物が用いられ、
前記ハロゲン化物が、ハロゲン化ディスプロシウム、ハロゲン化ツリウム、ハロゲン化イットリウム、ハロゲン化ホルミウム、ハロゲン化ルテチウム、ハロゲン化エリビウム、ハロゲン化テルビウムから選ばれる1種類以上の第1のハロゲン化物に対して、前記第1のハロゲン化物よりも蒸気圧の高い金属ハロゲン化物から成る第2のハロゲン化物が添加されており、
かつ前記希ガスが15気圧以上30気圧以下の圧力で封入されている
ことを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記第2のハロゲン化物の添加量が、1mg/cc以下であることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記希ガスがキセノンであることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
前記第1のハロゲン化物が、ヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化ツリウム、ヨウ化イットリウム、ヨウ化ホルミウム、ヨウ化ルテチウム、ヨウ化エリビウム、ヨウ化テルビウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
前記第2のハロゲン化物が、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルミニウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−134086(P2007−134086A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323874(P2005−323874)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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