説明

高圧放電ランプ

【課題】最冷部となる発光管細管部と電流導体との隙間に生じる微小の空間に発光物質が過度に溜まらないようし、色特性や光出力等のランプ特性を改善し、また製造中及びランプ始動時に生じるクラックの問題を解決しようとしたものである。
【解決手段】中央に発光部と該発光部の両端には細管部が形成されており、該細管部内部にはそれぞれ電流導体が挿通されているセラミック製の発光管を用いた高圧放電ランプにおいて、前記細管部の少なくとも前記電流導体との間に空間が生じる部分は非透光性セラミック材によりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光管にセラミックを用いた高圧放電ランプにおいて、特に発光管の両端に細管部を有し、その細管部のセラミック材質を含めた発光管の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来から一般的に多く用いられている石英製の発光管を使用した高圧放電ランプに代わり、透光性を有するセラミック(以下、透光性セラミック)を発光管に用いた高圧放電ランプが商品化されるようになってきている。ここで透光性を有するとは、光を少しでも通すという意味ではなく、全光線透過率を高めたという意味として用いる。現在光の利用効率を考慮して、発光管には全光線透過率が90%を超えるセラミックを使用している。この透光性セラミックは、石英と比較して耐熱性、耐食性に優れているため、これを用いた高圧放電ランプは、高効率及び高演色更に長寿命など非常に優れた特性を得る事ができる。
【0003】
図1は発光管全体図であり、透光性セラミック発光管は中央に発光部1、そしてこの発光部の両端に細管部2を有している。そして、この細管部内部には発光管端部側より、導電性サーメット3、中間材4、電極芯棒5(これらをまとめて電流導体と呼ぶ)が挿通され、その端部は発光管内部を外部から気密にするため、シール材によってシールされている。図2に細管部の拡大図を示すが、その細管部端部側の6はシール材であり、細管部と電流導体との隙間を埋めている。しかし、細管部内壁と電流導体との間にはその発光部側において隙間7が存在する。この隙間7は発光管の放電空間内で最も温度の低くなる部分であり、つまり最冷部となる。ランプ効率や色特性は、この最冷部の温度によって決定される。通常細管部に透光性のセラミックを用いると、アークからの赤外光、可視光、紫外光などの光が細管部で反射及び吸収され難く、外部へ放出されてしまい、細管部の温度を高めることは出来ず、ランプ効率や色特性を改善することが難しい。そこで、最冷部の温度を高くすることでこれらの特性が改善される事が特許文献1に開示されている。また特許文献2には最冷部の温度を上げることで、希土類金属のハロゲン化物の発光を促し、演色性を高めることが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1には細管部の周りに保温膜が設けられており、その製造にコストがかかり歩留まりも下がってしまう。また、特許文献2では熱伝導率の高い発光管を用いているため、細管部の温度が上がる一方で、発光管中央部の温度は低下してしまうのでアーク温度が低下し光束が低下する。その他に細管部の肉厚を薄くし熱ロスを少なくすることで、細管部内部の温度を高め、前記微小の隙間に発光物質が堆積するのを低減することにより改善できるが、肉厚が薄いためクラックが発生しやすい等の問題がある。最近では、省エネの観点から、ランプ効率の更なる改善や、使用目的に合わせた適切な色特性等の要求があり、ランプ設計に対してますます過酷な条件に成りつつある。
【0005】
ランプ効率を高めるために、発光管の管壁負荷を増加させる事は一般的であるが、管壁負荷を増加させる事は、発光管に入力される電力が大きくなる、または発光管の大きさ当たりの入力電力が増加する、即ちランプ電流も大きくなる。このため、細管部に挿入されシールされているモリブデンやニオブまたはサーメットと呼ばれる電流導体もランプ電流の増加に従い必然的に太径となる。
【0006】
この種類のランプの発光管に用いられるセラミック材は熱膨張係数が比較的大きく、また熱衝撃に比較的弱いなどの特徴を有する。そのため、ランプ製造において発光管細管部に電流導体をシールする時に、シール部分になるセラミックと電流導体の熱膨張率の差により細管部にクラックが発生する問題がある。
【0007】
更に、発光管両端にある細管部内に位置する電極芯棒や中間材からなる電流導体から、ランプ始動時にアークが発生し、そのアークの過熱に因ってセラミックからなる細管部が異常な熱衝撃を受ける事でクラックしてしまうなどの問題があった。しかし、それらの問題を、従来は寸法形状等により回避していたが、近年の高効率化等の改善に伴い、それらの問題を防止するだけの設計的なゆとりが取れなくなってきている。
【0008】
クラック防止の方法として耐熱衝撃性を高めるために、発光管の両端に細管部を有さない高圧ナトリウムランプにおいて発光管端部の結晶粒径が、発光管中央部の結晶粒径よりも小さい多結晶透明アルミナ製の発光管からなる高圧蒸気放電灯が提案されている。(特許文献3参照)
また、同様にクラック発生の抑制の一つとして、セラミック強度を改善するため、大径部分の平均粒子径を大きく、封止部分の平均粒子径を小さくし、その中間では連続的に粒子径が変化することにより、機械的強度だけを改善した透光性セラミック発光管が提案されている。(特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献3も特許文献4もセラミック結晶粒径を小さくすることで機械的強度を改善することを目的としており、セラミック結晶粒径を小さくすることでランプ特性である色特性や光出力等を改善することは考慮されていない。

【特許文献1】特開2002−25504(0009)
【特許文献2】特開平11−283572(0004)
【特許文献3】公開特許昭52−94672号公報
【特許文献4】特許第3575344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、最冷部となる発光管細管部と電流導体との隙間に生じる微小の空間に発光物質が過度に溜まらないようし、色特性や光出力等のランプ特性を改善し、また製造時及びランプ始動時に生じるクラックの問題を解決しようとしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は中央に発光部と該発光部の両端には細管部が形成されており、該細管部内部にはそれぞれ電流導体が挿通されているセラミック製の発光管を用いた高圧放電ランプにおいて、前記細管部の少なくとも前記電流導体との間に空間が生じる部分は非透光性セラミック材よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セラミック製の発光管に於いて、細管部に非透光性セラミック材を用いる事で、アークからの赤外光、可視光、紫外光などの光が細管部で反射及び吸収されるため、細管部内にある最冷部となる隙間の温度を上昇させる事により色特性や効率等のランプ特性を改善すると共に、製造時の細管部のクラック及びランプ始動初期の細管部のクラックを防止する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発光部と該発光部の両端には細管部が形成されており、該細管部内部にはそれぞれ電流導体が挿通されているセラミック製の発光管を用いた高圧放電ランプにおいて、前記細管部の少なくとも前記電流導体との間に空間が生じる部分は非透光性セラミック材により構成する。
【実施例1】
【0014】
本発明で実施する発光管の構造を図3乃至図8に基づいて説明する。図3において、発光管の中央部である発光部1は、外径φ11mmで長さが19mmの円筒形状をした平均結晶粒径30μmの透光性アルミナであり、その両端には外径φ9.2mmで内径2.6mmの、平均結晶粒径30μmの透光性アルミナからなるディスク8が取り付けられている。発光管中央部とその両端に取り付けられているディスクのアルミナは図5に示すように透光性を高めるために、結晶粒径を均一にかつ大きくしている。このアルミナの全光線透過率を測定したところ96%であった。更にそれぞれ透光性アルミナからなるディスク8の中央部には、外径2.6mm、内径0.95mm、長さ17mmからなる白色のアルミナ製の細管2が挿入され焼結により一体的に焼きばめられている。この細管のアルミナは図6に示されているように結晶粒径を非均一にかつ発光部1の結晶粒径より小さくしており、平均結晶粒径3μmである。このアルミナの全光線透過率は10%にも満たなかった。
【0015】
外径0.5mm,長さ13.0mmのタングステン電極芯棒の先端に、直径0.2mmのタングステン線がコイル状に巻きまわされている。このタングステン電極5は、抵抗溶接により外径0.6mm、長さ8.0mmのモリブデンロッドに0.15mm径のモリブデンワイヤーを密巻きした中間材4(モリブデンコイルロッドと呼ぶ)の端部に同軸に接合され、更にモリブデンコイルロッドのタングステン電極が溶接されていない側の端には外径0.9mmであり、長さ7.5mmのアルミナ粉末とモリブデン金属粉末が等体積で混合焼結された導電性サーメットロッドが抵抗加熱により溶接されている。
【0016】
このタングステン電極5とモリブデンコイルロッド4と導電性サーメットロッド3の接合体(これらをまとめて電流導体と呼ぶ)をアルミナ細管部内に挿入し、フリットリング成形体を細管部端面上に置き、ヒーターによってフリットリング成形体と細管部および電極マウントを加熱して、アルミナ細管部と導電性サーメットロッドを、導電性サーメットロッドとモリブデンコイルロッドとの境界付近までとなる、細管部の端面より6mmの距離にわたりシールした。溶融したフリットはアルミナ細管部と電流導体の隙間を満たすことにより両者を気密シールしている。
【0017】
但し、発光部側に位置するアルミナ細管とモリブデンコイルロッドの隙間にはフリットが満たされておらず、微小の隙間7がある。この微小の隙間7は、ランプ点灯中に最冷部となるため、発光物質の一部が液化し溜まってしまう。すると発光に寄与する発光物質が減り、色特性や効率などのランプ特性に非常に影響を与えるため、微小の隙間7の温度は重要になってくる。
【0018】
発光管の片端をシールした後、所定量の水銀および発光物質であるヨウ化ディスプロシウム、ヨウ化タリウム、ヨウ化ナトリウムをもう一方の端部細管より投入後、第1端部と同様に電極マウントを発光管の端部アルミナ細管部に挿通して、シールを行なった。このシール時には、細管部のクラックは発生しなかった。
【0019】
次に、図4に示すように、上記にて作製された発光管9を、ホルダーやリード線等から構成された外球マウント10に接続支持した後に、外径48mmの硬質ガラス製外球11内に入れ、シールし所定の口金12を取り付けランプが完成される。そのランプを150Wにて点灯したところ、100時間において、効率100lm/W、平均演色評価数(Ra)95を実現できた。更に、点灯初期のアーク発生箇所に起因する細管部のクラックを確認するため、30分点灯−30分消灯にて点滅試験を行ったところ、1000回点滅を繰り返したもののクラックの発生は起こらず、また、点灯時間が5000時間後でも、効率は約90lm/Wで平均演色評価数(Ra)も97と高性能を維持できた。
【実施例2】
【0020】
次に比較実験について説明する。
実験としては、細管部以外の仕様は実施例1と同一で、細管部分のアルミナ結晶粒径の大きさを変化させたものを作成し、粒径の大きさの非均一さや透光性、そしてランプとしての特性である発光効率(lm/W)及び平均演色評価数Raを100時間点灯後に測定し、その結果に対して検討を行った。結果を表1に示す。表1のNo.1は図5に示すように、平均結晶粒径が20μmで均一のセラミックである。No.2は図6に示すように平均結晶粒径が3μmで非均一のセラミックである。そしてNo.3は図7に示すように平均結晶粒径3μmで均一のセラミックであり、No.4は図8に示すように平均結晶粒径20μmで非均一のセラミックである。
【0021】
【表1】

【0022】
ここで発明者はセラミック結晶粒径の大きさの均一さ非均一さによって、そのセラミックの透光性が変わることに着目した。本実施例では、図5や図7のように、結晶粒径の大きいものと小さいものの差が大きくても5倍程度であれば、均一であるとし、図6や図8のように、結晶粒径の大きいものと小さいものの差が10倍以上であるものは、非均一であるとした。そして、それらの全光線透過率を測定したところ、結晶粒径を均一としたセラミックは全光線透過率が90%以上であり、透光性を「有」とした。一方粒子径を非均一としたセラミックは、いずれも50%にも満たなく、透光性を「無」とした。つまりセラミック結晶粒径の大きさが均一であるほど透光性が良い。反対にセラミック結晶粒径の大きさが非均一であるほど透過性は悪い。これは一般的に透光性を有するセラミック製の発光管は全光線透過率を向上させるために、結晶成長をさせ、結晶粒を大きく且つ均一にしていることからも判る。また、図6や図8にはセラミック結晶粒形状が細長いものや、丸いものが混在している事が分かる。これは図5や図7のように全体のセラミック結晶粒が略相似形であるのと比較して、全光線透過率は低く、つまり透光性は「無」と判定できた。
【0023】
表1から明らかなように、細管部にセラミック結晶粒径が非均一の非透光性セラミック材料を使用した方が、透光性を有するセラミック材料を使用したランプより、発光効率及び色特性が良好である事が解った。
【0024】
この理由は、細管部が透光性を有する材料の場合、赤外光や可視光、紫外光の光が透過してしまい、細管部で反射及び吸収され難いため保温効果が乏しいのに対し、細管部が非透光性材料である場合、赤外線等の光が反射及び吸収されるため細管部内部を保温する効果があり、細管部の温度つまり最冷部の温度を上げることが出来たため、細管部内に発光管に封入した発光物質が溜まることなくなりランプ効率や色特性が良好となったためである。
【実施例3】
【0025】
しかし、上記実験でランプ効率や色特性が良かったものの中に細管部におけるクラックが生じるものが出てきた。そこで、上記実験でランプ効率・色特性の良かった、セラミック結晶粒径の大きさが非均一で透光性のないものの中で、セラミック結晶粒径を変化させ両端をシールした後に細管シール部にクラックが発生する頻度及び点滅試験によりクラックの発生頻度を比較した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2より、細管部に平均結晶粒径が小さい透光性を有さないセラミック材料を使用したほうがシール後及び点滅試験にて、アルミナ細管部にクラックが発生する確率が減少することが解った。この理由は、シール時及びランプ点灯時の熱により各種材料が膨張した際に、金属材料とアルミナの膨張による差があるものの、結晶粒径の小さいセラミックであれば、曲げ強度や機械的強度が強く、アークの熱衝撃で生じるクラックの発生が抑えられ、一方曲げ強度の弱い結晶粒径の大きいアルミナはクラックの発生率が高くなったためである。
【0028】
次に、上記実施例の発光管において細管部だけでなくディスク状の透光性アルミナの部分も透光性の殆ど無いセラミックを用いた場合、ランプからの光を遮るなどの悪影響を与えるか、ランプから出る光の量(全光束)の違いを評価したが、電極先端部からアーク中心部の外周が透光性を有すれば、全光束には殆ど影響しない事が判明した。このため、発光管のアーク外周の主要部分は透光性セラミックを使用し、その両端を透光性の殆どない強度的に強いセラミックを用いても、上記同様に、クラック防止とともに良好な光特性及び色特性が得られる。
【0029】
今回の実験には発光管中央に透光性セラミックとして多結晶アルミナを用いたが、その多結晶アルミナに限らずサファイアで有っても本発明の効果は同様に得られる。
また今回の実施例では全て、図に示すように発光管は、発光部1をディスク付きの円筒形状としているが、発光部をディスクを用いない楕円体形状などとしても本発明の効果は同様に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、セラッミック製の発光管を用いたランプにおいて製造時並びにランプ始動初期の細管のクラックを防止すると共に、細管部の保温効果によりランプ特性を改善出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発光管の全体図である
【図2】発光管細管部の拡大図である
【図3】発光管細管部から見た図である
【図4】発光管を外球内に配置した全体図である
【図5】平均結晶粒径が大きく、且つ結晶粒径が均一である事を示すセラミック拡大写真
【図6】平均結晶粒径が小さく、且つ結晶粒径が非均一である事を示すセラミック拡大写真
【図7】平均結晶粒径が小さく、且つ結晶粒径が均一である事を示すセラミック拡大写真
【図8】平均結晶粒径が大きく、且つ結晶粒径が非均一である事を示すセラミック拡大写真
【符号の説明】
【0032】
1 発光部
2 細管部
3 導電性サーメット
4 中間材
5 電極芯棒
6 シール材
7 隙間
8 ディスク
9 発光管
10 外球マウント
11 外球
12 口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部と該発光部の両端に細管部が形成されており、該細管部内部にはそれぞれ電流導体が挿通されているセラミック製の発光管を用いた高圧放電ランプにおいて、前記細管部の少なくとも前記電流導体との間に空間が生じる部分は非透光性セラミック材によりなることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記非透光性セラミック材の結晶粒径は、非均一である事を特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記非透光性セラミック材は、発光部のセラミック材より結晶粒径の平均が小さいことを特徴とする請求項1および2記載の高圧放電ランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−262728(P2008−262728A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102597(P2007−102597)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】