説明

高屈折率ポリカーボネート共重合体

【課題】高屈折率であり且つ加工性、透明性、耐環境性に優れたポリカーボネート共重合体を提供する。
【解決手段】全ヒドロキシ化合物の少なくとも80モル%が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン及びビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドであり、且つ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドの割合がモル比で65:35〜15:85の範囲で構成されたポリカーボネート共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のジヒドロキシ化合物を特定割合含有するポリカーボネート共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズ用途に実用化されている光学用透明樹脂としては、ビスフェノールAからなるポリカーボネート(屈折率(n)=1.586、アッベ数(ν)=29)、ポリスチレン(n=1.578、ν=34)等がある。しかしながら、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂、ポリスチレンとも屈折率が不十分であるため、使用範囲が限られていた。また、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂は複屈折が大きいことから光学材料として使用範囲が限られていた。そこで、屈折率がより高く、複屈折がより小さい光学レンズ向け樹脂の開発が幅広く行われてきた。また、近年、光学分野においては軽薄短小化を反映して、高屈折率性、低複屈折性、精密成形性等レンズ向け樹脂により厳しい要求が求められてきている。そこで、屈折率がより高く、複屈折がより小さい光学レンズ向け樹脂としてフルオレン含有ポリカーボネート樹脂の開発が幅広く行われてきた。また、レンズの長期信頼性、用途多様化のため、レンズ向け樹脂に耐環境性が求められており、この促進試験として湿熱試験等が行われる。
【0003】
例えば、フルオレン含有樹脂に硫黄含有化合物をブレンド(混合、添加)することで簡便に屈折率を向上させる手法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、上記手法では低分子量成分を添加するために熱安定性が低下してしまうこと、ブレンドする二成分の相溶性が悪い場合透明性が低下してしまうことがあった。
【0004】
例えば、特定のフルオレン構造を有するポリカーボネート共重合体が開示されている(特許文献2、3)。しかしながら、該特許文献はnd=1.63の高い屈折率を有し、複屈折も小さいが、ガラス転移温度が高いため射出成形が困難であり、光学レンズとして使用する際に重要となる成形性や耐環境性等、成形体としての評価がなされていない。
【0005】
例えば、シリコーン結合を有する樹脂組成物からなるレンズ成形体が開示されている(特許文献4)。該特許文献に開示されるレンズ成形体は、nd=1.6前後の高い屈折率を有し、複屈折も小さいが、該樹脂組成物は熱硬化性樹脂であるためレンズ成形体の生産性が低いという欠点を有する。
【0006】
例えば、フルオレン含有ポリエステル樹脂からなる光学部材が開示されている(特許文献5)。該特許文献に開示される光学部材は高屈折率性、低複屈折性、成形性に優れるが、湿熱条件下に放置すると成形品の外観が悪化することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−187661号公報
【特許文献2】特開平6−25398号公報
【特許文献3】特開2001−253960号公報
【特許文献4】特開2001−89660号公報
【特許文献5】特開2004−315676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、特定のジヒドロキシ化合物を特定割合含有するポリカーボネート共重合体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定のフルオレン含有ジヒドロキシ化合物及び硫黄含有ジヒドロキシ化合物を特定割合で共重合することで、上記目的を達成することを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、全ヒドロキシ化合物の少なくとも80モル%が式(1)で表される9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び式(2)で表されるビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドであり、且つ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドの割合がモル比で65:35〜15:85の範囲で構成されたポリカーボネート共重合体からなる。
【0011】
【化1】

【化2】

【発明の効果】
【0012】
本発明により、高屈折率であり且つ加工性、透明性、耐環境性に優れたポリカーボネート共重合体を得ることができ、該ポリカーボネート共重合体は、射出成形可能で生産性が高く安価であるため、カメラ、望遠鏡、双眼鏡、テレビプロジェクター等、従来、高価な高屈折率ガラスレンズが用いられていた分野に用いることができ極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】EX−PC1のプロトンNMR
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリカーボネート共重合体組成において9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが65モル%を超える場合、ガラス転移温度(Tg)が170℃より高くなり射出成形を行う際の成形条件が狭くなるため好ましくない。また、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが15モル%未満の場合、Tgが115℃より低くなりレンズ材料として不満足となり好ましくない。
【0015】
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドの割合は、モル比で65:35〜15:85の範囲が好ましく、60:40〜20:80の範囲が更に好ましく、55:45〜25:75の範囲がより一層好ましい。
【0016】
本発明のポリカーボネート共重合体は目的に応じて9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及びビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドと共重合可能な他のジヒドロキシ化合物を加えても良く、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン等があげられ、特に1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンが好ましい。これらの他のジヒドロキシ化合物は全ジヒドロキシ化合物成分の20モル%以下であり、好ましくは10モル%以下である。
【0017】
本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体は、それぞれ通常の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば二価フェノール成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0018】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0019】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法または溶融法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。
【0020】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃ 、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0021】
溶融法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃ の範囲である。反応後期には系を1.3×10〜1.3×10Pa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0022】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0023】
また、溶融法において重合速度を速めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類、マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせ使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、1×10−8〜1×10−3当量、好ましくは1×10−7〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−6〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。
【0024】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、その重合反応において、末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリマーは、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。
【0025】
かかる単官能フェノール類としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、一般にはフェノール或いは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0026】
【化3】

[式中、Aは水素原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはアリールアルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。]
【0027】
前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
また、他の単官能フェノール類としては、長鎖のアルキル基或いは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類または安息香酸クロライド類、もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用することができ、これらを用いて芳香族ポリカーボネート共重合体の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易となるばかりでなく、物性も改良される。これらは下記一般式[I−a]〜[I−h]で表される。
【0028】
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0029】
[前記一般式[I−a]〜[I−h]中、Xは−R−O−、−R−CO−O−または−R−O−CO−である、ここでRは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、Tは単結合または上記X と同様の結合を示し、nは10〜50の整数を示す。
Qはハロゲン原子または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の一価の脂肪族炭化水素基を示し、pは0〜4の整数を示し、Yは炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、W1は水素原子、−CO−R17、−CO−O−R18またはR19である、ここでR17、R18およびR19は、それぞれ炭素数1〜10、好ましくは1〜5の一価の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜8、好ましくは5〜6の一価の脂環族炭化水素基または炭素数6〜15、好ましくは6〜12の一価の芳香族炭化水素基を示す。
aは4〜20、好ましくは5〜10の整数を示し、mは1〜100、好ましくは3〜60 、特に好ましくは4〜50の整数を示し、Zは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、W2は水素原子、炭素数1〜10、好ましくは1〜5の一価の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜8、好ましくは5〜6の一価の脂環族炭化水素基または炭素数6〜15、好ましくは6〜12の一価の芳香族炭化水素基を示す。]
【0030】
これらのうち好ましいのは、[I−a]および[I−b]の置換フェノール類である。この[I−a]の置換フェノール類としては、nが10〜30、特に10〜26のものが好ましく、その具体例としては、例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノールなどを挙げることができる。
【0031】
また、[I−b]の置換フェノール類としてはXが−R−CO−O−であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10〜30、特に10〜26のものが好適であって、その具体例としては、例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0032】
前記一般式[I−a]〜[I−g]で示される置換フェノール類または置換安息香酸クロライドにおいて置換基の位置は、p位またはo位が一般的に好ましく、その両者の混合物が好ましい。
【0033】
前記単官能フェノール類は、得られた芳香族ポリカーボネート共重合体の全末端に対して少なくとも5モル% 、好ましくは少なくとも10モル% 末端に導入されることが望ましく、また単官能フェノール類は単独でもしくは2種以上混合して使用してもよい。
【0034】
本発明におけるポリカーボネート共重合体はそのポリマー0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.12〜0.55の範囲のものが好ましく、0.15〜0.45の範囲のものがより好ましい。比粘度が0.12未満では成形品が脆くなり、0.55より高くなると溶融粘度および溶液粘度が高くなり、取扱いが困難になるので好ましくない。
【0035】
本発明におけるポリカーボネート共重合体は、昇温速度20℃/minにて測定したガラス転移温度(Tg)が115〜170℃であることが好ましく、120〜165℃であることがより好ましく、130〜160℃であることがさらに好ましい。Tgが115℃未満では、該共重合体を用いて形成した光学部品の使用する用途によっては耐熱性が十分でなく、一方Tgが170℃より高い場合では溶融粘度が高くなり、成形体を形成する上での取扱いが困難となるので好ましくない。
【0036】
本発明におけるポリカーボネート共重合体は、熱安定性の指標として、昇温速度20℃/minにて測定した5%重量減少温度が400℃以上であることが好ましい。さらには450℃以上であることが好ましい。5%重量減少温度が400℃より低い場合は、成形の際の熱分解が激しく、良好な成形体を得ることが困難となるため好ましくない。
【0037】
本発明におけるポリカーボネート樹脂は、25℃、波長587nmにおける屈折率が好ましくは1.61〜1.65、より好ましくは1.62〜1.65、さらに好ましくは1.625〜1.65である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお、評価は下記の方法によった。
(1)比粘度:ポリマー0.7gを塩化メチレン100mlに溶解し20℃の温度で測定した。
(2)共重合比:ポリマー10mgを重クロロホルム0.6mlに溶解し、日本電子社製JNM−AL400のプロトンNMRを用いて、積算回数128回で測定した。共重合比は9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンのメチル基に起因するピーク(2.1〜2.ppm)及びビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドのメチル基に起因するピーク(2.2〜2.3ppm)の積分比から求めた。
(3)ガラス転移点(Tg):デュポン社製910型DSC により測定した。
(4)屈折率(n):ATAGO製DR−M2のアッベ屈折計を用いて測定した。
(5)光学歪み:成形片を二枚の偏光板の間に挟み直行ニコル法で後ろからの光漏れを目視することにより評価した。
(6)全光線透過率:1mm厚の成形片を日本電色(株)製MDH−300Aを用いて測定した。
(7)耐湿熱性:1mm厚の成形片を85℃、85%RHの条件下で400時間放置した後、外観を目視評価した。
【0039】
[実施例1]
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水309.15重量部、25%水酸化ナトリウム水溶液103.05重量部を入れ、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“ビスクレゾールフルオレン”または“BCF”と略称することがある)40.57重量部、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド(以下“HMPS”と略称することがある)26.41重量部、ハイドロサルファイト0.37重量部を溶解した後、イオン交換水20.64重量部、48%水酸化ナトリウム水溶液14.17重量部、塩化メチレン237.23重量部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン27.63重量部を60分要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール1.13重量部を塩化メチレン3重量部に溶解した溶液および25%水酸化ナトリウム水溶液17.17重量部を加え、乳化後、トリエチルアミン0.12重量部を加えて28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、この溶液から溶媒を除去しポリマーを得た。このポリカーボネートはBCFとHMPSとの構成単位の比がモル比で50:50であり、比粘度は0.34、Tgは154℃であった。
【0040】
作成したポリカーボネート共重合体を100℃で24時間真空乾燥した後、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.050%、ペンタエリスリトールテトラステアレートを0.10%加えて、ベント付きφ30mm単軸押出機を用いて、ペレット化した後、JSW(株)製N−20C射出成形機を用いて表1に示す成形条件にて厚さ1.0mm、幅1.0mm、長さ2.0mmの成形片を射出成形した。得られた成形体は湿熱試験後の外観変化が全くなかった。また、上記成形片を二枚の偏光板の間に挟み直行ニコル法で後ろからの光漏れを目視することにより評価した。評価は、○:殆ど光漏れがない、×:光漏れが顕著である とした。また、上記成形片を用いて全光線透過率を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例2]
実施例1のBCFの使用量を34.08重量部、HMPSの使用量を30.63重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリカーボネートはBCFとHMPSの構成単位の比がモル比で42:58であり、比粘度は0.36、Tgは144℃であった。また、実施例1と同様にして成形片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
EX−PC1のBCFの使用量を16.23重量部、HMPSの使用量を42.25重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリカーボネートはBCFとHMPSの構成単位の比がモル比で20:80であり、比粘度は0.29、Tgは120℃であった。また、実施例1と同様にして成形片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例4]
実施例1のBCFの使用量を48.69重量部、HMPSの使用量を36.97重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリカーボネートはBCFとHMPSの構成単位の比がモル比で60:40であり、比粘度は0.25、Tgは168℃であった。また、実施例1と同様にして成形片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。また、得られた成形体は湿熱試験後の外観変化が全くなかった。
【0044】
[比較例1]
実施例1のBCFの使用量を56.80重量部、HMPSの使用量を15.84重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリカーボネートはBCFとHMPSの比がモル比で70:30であり、比粘度は0.28、Tgは181℃であった。また、実施例1と同様にして成形片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
実施例1のBCFの使用量を8.11重量部、HMPSの使用量を47.53重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリカーボネートはBCFとHMPSの比がモル比で10:90であり、比粘度は0.35、Tgは110℃であった。また、実施例1と同様にして成形片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例3]
実施例1のBCFを9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下“ビスフェノールフルオレン”または“BPFL”と略称することがある)の使用量を52.60重量部、HMPSをBPAに変更し、BPAの使用量を14.69重量部とする以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリカーボネートはBPFLとBPAの比がモル比で70:30であり、比粘度は0.28、Tgは220℃であった。また、実施例1と同様にして成形片を作成し、評価を行った。結果を表1に示す。また、得られた成形体は湿熱試験後にクラックが生じていた。
【0047】
実施例1〜4及びC比較例1〜3は、IR測定より、1760cm−1付近にカーボネート結合由来の吸収が確認された。また、DSC測定より得られるTgに起因するピークが1つであることからランダム共重合体であることが確認できた。また、実施例1は図1のプロトンNMRからBCFとHMPSとのポリカーボネート共重合体であることを示している。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜4はTgが適度な範囲であり得られた成形品は耐熱性に優れ、加工性にも優れる。また、屈折率が高く、耐環境性にも優れることからレンズ用材料として適している。これに対して、比較例1、3はTgが高く加工性に劣ること、比較例2はTgが低く耐熱性に劣り、光学歪みも大きいことからレンズ用材料としての使用範囲が限定される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のポリカーボネート樹脂は高屈折率であり且つ加工性、透明性、耐環境性に優れるので光学レンズ、フイルム、ディスク等の高屈折率、透明性、耐環境性を要求される各種光学用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ヒドロキシ化合物の少なくとも80モル%が式(1)で表される9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン及び式(2)で表されるビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドであり、且つ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドの割合がモル比で65:35〜15:85の範囲で構成されたポリカーボネート共重合体。
【化1】

【化2】

【請求項2】
屈折率が1.61〜1.65、且つガラス転移温度が115℃〜170℃である請求項1に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項3】
該ポリカーボネート樹脂はそのポリマー0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.12〜0.55である請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項4】
全ヒドロキシ化合物の少なくとも80モル%が式(1)で表される9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン及び式(2)で表されるビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドであり、且つ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドの割合がモル比で60:40〜20:80の範囲で構成された請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項5】
全ヒドロキシ化合物の少なくとも80モル%が式(1)で表される9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン及び式(2)で表されるビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドであり、且つ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドの割合がモル比で55:45〜25:75の範囲で構成された請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254806(P2010−254806A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106460(P2009−106460)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】