説明

高強度遠心成形コンクリート管の製造方法

【課題】スラッジ低減剤の使用や高速遠心Gを下げることなしに、圧縮強度が100N/mm以上となる高強度ヒューム管の製造
【解決手段】遠心成形することによりコンクリート管を成形する高強度遠心成形コンクリート管の製造方法であって、セメント又は、セメントと微粒状混和材からなる総紛体重量が650kg/m3以上であり、該総紛体重量に対する水の比率(水紛体比)が21%(重量%、以下同じ)以下、総骨材容積に対する細骨材容積の比率(細骨材率s/a)が45%以下、セメントペーストの細骨材空隙に対する充填率を示すペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタルの粗骨材空隙に対する充填率を示すモルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6であり、前記減水剤の添加量を調整することによりスランプフロー値を400mm〜800mm、50cmスランプフロー時間を15秒以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮強度を100N/mm以上を目標とした高強度遠心成形コンクリート管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮強度が100N/mmを超える高強度コンクリート製品が多く製造されており、多くの場合、単位紛体重量が650kg/m以上となるように、酸化ケイ素・酸化アルミニウム・酸化カルシウムなどを含み、セメントのアルカリ性下で水和反応をする粉末として、主にシリカの粉末や高炉スラグ、フライアッシュ(石炭灰)、石灰石、籾殻灰などの高強度コンクリート用混和材が添加され、かつ水紛体比が21%以下となるように配合したコンクリートが使用されている。
【0003】
しかし、単位粉体量が650kg/m以上、水粉体比が21%以下になるような配合のコンクリートを使用して遠心成形コンクリート管(以下、ヒューム管と記す)を製造しようとする場合には著しく遠心成形性が悪くなる。特に遠心力成形コンクリートを高強度化させるためにシリカフュームなどの微粒子が多用されているような場合にはそれが顕著となる(例えば特許文献1)。
【0004】
これは、微粒子はコンクリートを高強度化させる反面、遠心成形時に円筒内面に集積し易く、これが遠心力によっても締め固まらずに脆弱層として残り、ブラシやヘラなどの内面仕上げ器具を使用しても内面が仕上がらず、遠心成形性を著しく悪化させることに起因する。
【0005】
この問題を解決するために、コンクリートにスラッジ低減剤を加える方法が提案されている(例えば特許文献2,3)。
【0006】
また、スラッジ低減剤を用いずに、遠心成形方法を加減して高速遠心Gを低下させてスラッジを発生させない方法も提案されている(例えば特許文献4)。
【0007】
更に一般的に、遠心成形コンクリート管(以下ヒューム管)において内面の仕上げを良好とするためには、硬練りのコンクリートを用いて強い振動をかける方法も提案されている(例えば特許文献5)。
【0008】
この他非特許文献1〜4に、高強度コンクリート杭、現場打ち高強度コンクリートに関する論文がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−100505号公報
【特許文献2】特開2002−60258号公報
【特許文献3】特開平10−217228号公報
【特許文献4】特開2005−169814号公報
【特許文献5】特開平06−254831号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】コンクリート工学年次論文集 Vol.28 No.1,2006 「論文 遠心成形高強度コンクリートの長期物性に及ぼす養生方法の影響」
【非特許文献2】コンクリート工学年次論文集 Vol.31 No.2,2009 「論文 超高強度コンクリートを用いたRC柱の繰り返し圧縮性状」
【非特許文献3】コンクリート工学年次論文集 Vol.32 No.1,2010 「論文 超高強度コンクリートの基礎的性状」
【非特許文献4】コンクリート工学年次論文集 Vol.31 No.1,2009 「論文 シリカフューム置換率を変えた超高強度コンクリートの強度発現」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のスラッジ低減剤や高速遠心Gを低下させる従来の遠心成形による高強度コンクリート製品の製造は、主に内面の仕上げを行わない杭にしか用いられず、内面仕上げが必要なヒューム管には使用されていない。
【0012】
その理由は、上記方法による場合は、遠心成形後に、管内面に指を差し込むことができるような締固められていない軟弱層が形成されるため、内面仕上げとして刷毛やヘラ等の仕上げが必要となるヒューム管では、内面仕上げができず、平滑面形成が極めて悪い状態となる為であった。
【0013】
このため、内面仕上げの必要の無いコンクリート杭のみにしか用いられず、圧縮強度130N/mmを超える高強度コンクリート杭が実現化出来ても、ヒューム管では圧縮強度90N/mm程度の製品しか製造できないという問題があった。
【0014】
また、ヒューム管において内面の仕上げを良好とするための硬練りのコンクリートを用いて強い振動をかける方法は、水粉体比が30%以上あるような通常のヒューム管に有効な方法であって、水粉体比が小さくて総粉体量が多い場合には,まず均質なコンクリートとして練り混ぜることが困難であり,練り混ぜに長時間を要することのほか,前述のように仕上げ直後に内面に脆弱層が残ること、強い振動は騒音の問題があるばかりでなく遠心成形設備が痛みやすいこと、硬練りのコンクリートのコントロールが難しいことなどの問題点がある。
【0015】
本発明は、上述の如き従来の問題に鑑み、スラッジ低減剤の使用や高速遠心Gを下げることなしに、圧縮強度が100N/mm以上の高強度ヒューム管の製造を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、粗骨材、細骨材、高強度化用微粒状混和材、減水剤及びセメントに水を加えて混練し、遠心成形することによりコンクリート管を成形する高強度遠心成形コンクリート管の製造方法であって、
【0017】
前記セメント又は、セメントと微粒状混和材からなる総紛体重量が650kg/m以上であり、該総紛体重量に対する水の比率(水紛体比)が21%(重量%、以下同じ)以下、総骨材容積に対する細骨材容積の比率(細骨材率s/a)が45%以下、セメントペーストの細骨材空隙に対する充填率を示すペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタルの粗骨材空隙に対する充填率を示すモルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6であり、前記減水剤の添加量を調整することによりスランプフロー値を400mm〜800mm、50cmスランプフロー時間を15秒以上、とすることにある。
【0018】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記微粒状混和材にシリカフュームを50kg/m以上を含むことにある。
【0019】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記水紛体比が16%〜21%であることにある。
【0020】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1〜3のいずれか1構成に加え、前記細骨材率が35%〜45%であることにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、セメント又は、セメントと微粒状混和材からなる総紛体重量が650kg/m以上であり、該総紛体重量に対する水の比率(水紛体比)が21%(重量%、以下同じ)以下、総骨材容積に対する細骨材容積の比率(細骨材率s/a)が45%以下、セメントペーストの細骨材空隙に対する充填率を示すペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタルの粗骨材空隙に対する充填率を示すモルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6であり、前記減水剤の添加量を調整することによりスランプフロー値を400mm〜800mm、50cmスランプフロー時間を15秒以上、とすることにより、スラッジ低減剤の使用や高速遠心Gを下げることなしに、圧縮強度が100N/mm以上で、内面に脆弱層が残らずに平滑に仕上げることができる成形性が良好な高強度ヒューム管が製造できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第2表の配合例について、ペースト細骨材比(α)及びモルタル粗骨材比(β)と成形性の良否の関係のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明の実施の態様について説明する。
実施例
使用材料
【0024】
セメント(C): 普通ポルトランドセメント
粗骨材(a):砕石2005
細骨材(S):砕砂
【0025】
混和材(Add):高強度化用微粒状混和材(製品名:セラパワーCPS 株式会社デイ・シイ製)
【0026】
減水剤(PX):高性能AE減水剤(製品名:レオビルド8000S BASFポゾリス株式会社製)
第1表

【0027】
混練条件:空練り(粗骨材+細骨材+セメント+混和材)30秒の後注水(水+減水剤)360秒混練
【0028】
遠心力(G):低速(5G)1分、中速(15G)1分、高速(35G)7分
【0029】
養生条件:蒸気養生、前置き4時間−昇温(20℃/時間)−最高温度70℃−6時間保持−自然冷却、脱型後 気中養生
【0030】
上記条件に従ってヒューム管を製造した結果、内面ブラシ仕上げが良好な成形ができ、圧縮強度が100N/mm以上の高強度ヒューム管が製造できた。
【0031】
尚、上記実施例において、フロー値とはJIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠したものである。
比較試験例
【0032】
第2表に示すように、水紛体比、細骨材率、混和材添加量、及びフロー値を違えた配合No.1〜30について成形性と圧縮強度の試験を比較するとともに、参考例として前記非特許文献1〜4の論文に示された遠心成形高強度コンクリート杭及現場打ちコンクリートの配合例について試験した。尚、第1表の実施例の配合は、第2表中の試験例No.13を示している。2表中に示す成形性とは内面に脆弱層が残らずに平滑に仕上げることができることをいい、○は良好、△はやや不良、×は不良を表している。
【0033】
参考例1は、非特許文献1に示されている遠心高強度コンクリート杭の配合であり、参考例2は、非特許文献2に示されている超高強度コンクリートRC柱の配合、参考例3は、非特許文献3に示されている超高強度コンクリートの配合、参考例4〜6は、非特許文献4に示されたシリカフューム使用の超高強度コンクリートの配合である。
第2表

【0034】
第2表中のペースト細骨材比(α)及びモルタル粗骨材比(β)の算出は次式による。


ここに,
α:ペースト細骨材比
β:モルタル粗骨材比
【0035】
W:単位水量 kg/m3
【0036】
C:単位セメント(粉体)量 kg/m3
【0037】
S:単位細骨材量 kg/m3
【0038】
G:単位粗骨材量 kg/m3
【0039】
WS,WG:表乾状態の細骨材,粗骨材の単位容積質量
【0040】
VS,VG:表乾状態の細骨材,粗骨材の空隙率
【0041】
ρc,ρs:セメント,細骨材の密度
【0042】
この第2表の配合例及び参考例について、ペースト細骨材比(α)及びモルタル粗骨材比(β)と成形性の良否の関係をグラフに示すと図1に示す如くである。
【0043】
この結果から、ペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6の範囲である場合に、成形性が良好であることが判明した。
【0044】
尚、図1では、ペースト細骨材比α及びモルタル粗骨材比βと成形性の良否の関係を示しており、水粉体比22%以上のものを白抜き丸で示した、また、水粉体比21%以下の実施例について、成形性が良いものを黒塗り丸、悪いものを黒塗り三角で示した。参考例である高強度コンクリートの現場打ちの事例と高強度杭の配合を黒塗り菱形で示した。
【0045】
これを見ると、成形性が良好なものはペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6の範囲にあることが分かる。範囲内にあるが成形性の悪いものはスランプフロー値が400未満のものである。参考例は、いずれも遠心性形性は悪く、上記のα及びβの範囲外であった。
【0046】
水紛体比が21%以下の場合で、細骨材率が35〜45%の範囲でフロー値が400以上あった場合には成形性が良好であったが、細骨材率が50%以上の場合(配合No.18)には成形性が好ましくなかった。
【0047】
一方、水粉体比が30%以上有るような場合では、骨材を十分に覆うだけのセメントペースト量が無いため、フロー値が大きくなると骨材とセメントペーストが分離し、遠心成形した場合に内面に骨材が露出してしまい、成形性が悪くなる。(配合No.3及び6)この場合、50cmスランプフロー時間は15秒以下であった。50cmスランプフロー時間とはスランプフローが50cmに到達するまでの時間であり、この時間が短いほど、骨材とセメントペーストの分離が著しい。
【0048】
圧縮強度100N/mm以上を目標強度とする水粉体比が21%以下で、総粉体量が650kg/m以上有るような場合では、実施例配合No.13、15〜17、19〜23、26〜30に示すように、フロー値を大きくすることによって遠心成形性は良くなる。
【0049】
即ち、このフロー値が実現可能なコンクリートには、高強度化させるためのシリカフュームが50kg/m以上添加されていて、分離抵抗性の大きなもの、例えば太平洋セメント株式会社製のシリカフュームプレミックスセメント(商品名:SFPC)や、混和材として高強度混和材(商品名:セラパワーCPS、株式会社デイ・シイ製)を混和とすることが好ましい。
【0050】
また、減水剤には少量で分散効果が高く,長期間の分散安定性に優れるポリカルボン酸系の分散剤を用い、好ましくはBASFポゾリス株式会社製のレオビルド8000Sを使用することが好ましい。
【0051】
第2表に示すペースト細骨材比αおよびモルタル粗骨材比βと遠心成形性の関係では、水粉体比が21%以下の範囲において、配合No.17ではペースト細骨材比αが2.06でモルタル粗骨材比βが3.16であって遠心成形性が良く、配合No.18はペースト細骨材比αが2.23、モルタル粗骨材比βが4.03であって遠心成形性が良くなかった。
【0052】
また、配合No.23ではペースト細骨材比αが2.87、モルタル粗骨材比βが3.13であって遠心成形性が良く、配合No.24はペースト細骨材比αが3.43、モルタル粗骨材比βが2.84で遠心成形性が良くなかった。
【0053】
この理由としては、遠心成形によって粗骨材の空隙中にモルタルが入り込み、モルタル中にはセメントペーストが入り込むのであるが、配合No.18では細骨材率が大きくなりすぎてモルタル粗骨材比βが4.03と粗骨材の空隙に対して余剰のモルタルが大きくなりすぎ、また、配合No.24はペースト細骨材比αが3.43と細骨材の空隙に対して余剰のペーストが大きくなりすぎるため成形できなくなったと考えられる。
【0054】
これらの結果から、ペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6の範囲が適切であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗骨材、細骨材、高強度化用微粒状混和材、減水剤及びセメントに水を加えて混練し、遠心成形することによりコンクリート管を成形する高強度遠心成形コンクリート管の製造方法であって、
前記セメント又は、セメントと微粒状混和材からなる総紛体重量が650kg/m以上であり、該総紛体重量に対する水の比率(水紛体比)が21%(重量%、以下同じ)以下、総骨材容積に対する細骨材容積の比率(細骨材率s/a)が45%以下、セメントペーストの細骨材空隙に対する充填率を示すペースト細骨材比αが2.0<α<3.0、モルタルの粗骨材空隙に対する充填率を示すモルタル粗骨材比βが2.5<β<3.6であり、前記減水剤の添加量を調整することによりスランプフロー値を400mm〜800mm、50cmスランプフロー時間を15秒以上、とすることを特徴としてなる高強度遠心成形コンクリート管の製造方法。
【請求項2】
前記微粒状混和材にシリカフュームを50kg/m以上を含む請求項1に記載の高強度遠心成形コンクリート管の製造方法。
【請求項3】
前記水紛体比が16%〜21%である請求項1又は2に記載の発明の高強度遠心成形コンクリート管の製造方法。
【請求項4】
前記細骨材率が35%〜45%である請求項1〜3の何れか1に記載の高強度遠心成形コンクリート管の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−32246(P2013−32246A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169305(P2011−169305)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000229667)日本ヒューム株式会社 (70)
【Fターム(参考)】