説明

高感度免疫測定法

【課題】増感剤溶液を適用した後も継続的に呈色状態を保持することを可能とした免疫測定法を提供すること。
【解決手段】分析対象物質と、該分析対象物質に対して免疫学的に反応する試薬とを反応させて両者の複合体を検出することからなる免疫測定法であって、前記分析対象物質又は前記試薬の何れか一方を、白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記複合体を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにした免疫測定法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識物質として金属コロイドを用いた免疫測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫学的測定法、中でもイムノクロマト法(ICA法)は、その高い特異性に加え、簡易、迅速を特徴とする臨床診断法として実用化されている。イムノクロマト法は、操作が煩雑で重厚な設備、機器などを必要とせず、軽便な器具を使用した簡便な操作により、目視だけでも被検出物の有無を判定できる点で好都合である。
【0003】
近年、感染症の診断にイムノクロマト法が用いられているが、その検出感度は、一般に、細菌の場合、10〜10CFU/mlである。他方、細菌の検出感度は遺伝子増幅法(PCR法)によれば10〜10CFU/mlまで達成されている。しかしながら、遺伝子増幅法は重厚な設備、機器及び煩雑な操作が必要であり、しかも、検出までに数時間という長時間を要する。
【0004】
また、従来、B型肝炎ウイルスの免疫学的測定法による検出も行われているが、その感度は、最も高感度の酵素免疫定量法(ELISA法)でも10〜10PFU/mlである。感染可能なウイルスの濃度は10PFU/mlであるため、早期の診断感染予防には、現行の10倍から100倍の感度を有する診断法の開発が求められている。
【0005】
かかる状況の中、本発明者らは、イムノクロマト法(ICA法)等の免疫学的簡易測定法において、金コロイド粒子の表面に白金を担持させた金属コロイド粒子を呈色標識物質として用いる方法を提案した(特許文献1参照)。また、金コロイド粒子が高価であるというコスト面の問題を解消すべく、パラジウムコロイド粒子の表面に白金を担持させた金属コロイド粒子を呈色標識物質として用い、該金属コロイド粒子上で、銅イオンを含有する増感剤溶液を還元し銅を析出させて、従来と同様の高感度を実現した方法を提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3886000号公報
【特許文献2】特開2009−192270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、銅イオンを含有する増感剤溶液を還元し銅を析出させて呈色させる方法においては、増感剤溶液を適用した直後の呈色感度はよいものの、経時的に退色するという問題があった。
【0008】
本発明の課題は、増感剤溶液を適用した後も継続的に呈色状態を保持することを可能とした免疫測定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、自身で考案した銅イオンを含有する増感剤溶液を使用した方法を用いて免疫測定を行っていたところ、通常は増感剤溶液使用直後に測定を行うことから認知できなかった退色の発生を、以前呈色していたテストストリップを後日偶然目にすることにより、発見した。この点についてさらに検討したところ、2時間程度で、増感剤溶液を用いない場合と同程度まで退色することが明らかとなり、例えば数多くの症例を同時に測定する場合等には測定精度に影響が生じる可能性があることが判明した。本発明者らは、この問題点を解消すべく鋭意検討した結果、増感剤溶液を接触させて呈色させた後に、保護層形成溶液と接触させて呈色部分に保護層を形成し、酸素との接触を遮断することにより、退色を防止することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 分析対象物質と、該分析対象物質に対して免疫学的に反応する試薬とを反応させて両者の複合体を検出することからなる免疫測定法であって、前記分析対象物質又は前記試薬の何れか一方を、白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記複合体を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたことを特徴とする免疫測定法や、
(2) 競合法又はサンドイッチ法であることを特徴とする上記(1)記載の免疫測定法や、
(3) 分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬を用意し、前記第1の試薬を担体に固定しておき、前記第2の試薬を白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記分析対象物質を前記第1の試薬と第2の試薬との間にサンドイッチするサンドイッチ法により行われることを特徴とする上記(2)記載の免疫測定法や、
(4) イムノクロマトグラフィー測定法であることを特徴とする上記(2)又は(3)記載の免疫測定法や、
(5) 増感剤溶液が、硫酸銅及び還元剤を含有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の免疫測定法や、
(6) 保護層形成液が、グリセロール又はその誘導体を含有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の免疫測定法に関する。
【0011】
また、本発明は、
(7) 分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬並びに膜担体を用意し、前記第1の試薬を予め前記膜担体の所定位置に固定せしめて捕捉部位を形成し、前記第2の試薬をコロイドに白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で予め標識しておき、該第2の試薬と所定量の被験試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被験試料中に含まれる分析対象物質と前記第2の試薬との複合体を前記捕捉部位に捕捉させ、該捕捉部位を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたことを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定法、
(8) 増感剤溶液が、硫酸銅及び還元剤を含有することを特徴とする上記(7)記載のイムノクロマトグラフィー測定法や、
(9) 保護層形成液が、グリセロール又はその誘導体を含有することを特徴とする上記(7)又は(8)記載のイムノクロマトグラフィー測定法に関する。
【0012】
さらに、本発明は、
(10) 分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬並びに膜担体を少なくとも備え、前記第1の試薬は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第2の試薬は白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で予め標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなるイムノクロマト法テストキットであって、さらに、銅イオンを含有する増感剤溶液及び保護層形成液を備え、前記クロマト展開後に該増感剤溶液を前記捕捉部位に接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたことを特徴とするイムノクロマト法テストキットや、
(11) 増感剤溶液が、硫酸銅及び還元剤を含有することを特徴とする上記(10)記載のイムノクロマト法テストキットや、
(12) 保護層形成液が、グリセロール又はその誘導体を含有することを特徴とする上記(10)又は(11)記載のイムノクロマト法テストキットに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の免疫測定法によれば、高感度で検出された呈色状態を長期にわたって安定的に保持することができる。したがって、数多くの症例を同時に測定する場合にも高い測定精度で行うことが可能となり、また、増感剤溶液を適用した直後に測定する必要がなく、さらには、測定後のイムノクロマト法テストストリップ等をカルテなどに添付して保存することも可能となり、商品価値が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】aは、本発明のイムノクロマトグラフィー測定法に用いられるテストストリップの一例の平面図、bは、aで示されたテストストリップの縦断面図である。
【図2】抗原濃度4ng/mlの被験試料を用いた場合のイムノクロマト法テストストリップの経時的な呈色度合いを表す写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の免疫測定法としては、分析対象物質と、該分析対象物質に対して免疫学的に反応する試薬とを反応させて両者の複合体を検出することからなる免疫測定法であって、前記分析対象物質又は前記試薬の何れか一方を、白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記複合体を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにした方法であれば特に制限されるものではなく、競合法でもサンドイッチ法でもよく、サンドイッチ法としては、例えば、分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬を用意し、前記第1の試薬を担体に固定しておき、前記第2の試薬を白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記分析対象物質を前記第1の試薬と第2の試薬との間にサンドイッチするサンドイッチ法により行われる方法を例示することができる。具体的には、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法、イムノクロマトグラフィー測定法を好適に例示することができる。
【0016】
より具体的な本発明のイムノクロマトグラフィー測定法としては、分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬並びに膜担体を用意し、前記第1の試薬を予め前記膜担体の所定位置に固定せしめて捕捉部位を形成し、前記第2の試薬をコロイドに白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で予め標識しておき、該第2の試薬と所定量の被験試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被験試料中に含まれる分析対象物質と前記第2の試薬との複合体を前記捕捉部位に捕捉させ、該捕捉部位を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにした方法を例示することができる。
【0017】
また、このイムノクロマトグラフィー測定法に用いる試薬等はキットとして製造販売等することができ、かかるキットとしては、具体的に、分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬並びに膜担体を少なくとも備え、前記第1の試薬は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第2の試薬は白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で予め標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなるイムノクロマト法テストキットであって、さらに、銅イオンを含有する増感剤溶液及び保護層形成液を備え、前記クロマト展開後に該増感剤溶液を前記捕捉部位に接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたキットを例示することができる。
【0018】
本発明の分析対象物質としては、免疫学的に検出できるものであれば特に限定されるものではなく、分析対象物質が抗原である場合は、上記試薬として、該分析対象物質に対して特異的に反応する抗体が使用され、分析対象物質が抗体である場合は、上記試薬として、該抗体が特異的に反応する抗原が使用される。上記試薬として用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体とすることが好ましい。
【0019】
イムノクロマトグラフィー測定法等のサンドイッチ式免疫測定法においては、そこで使用する第1の試薬及び第2の試薬としては、分析対象物質が抗原である場合、抗体が使用される。この場合、第1の試薬及び第2の試薬は、それぞれ、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、一般に、少なくとも一方の抗体をモノクローナル抗体とすることが好ましく、両方の抗体をモノクローナル抗体とすることが特に好ましい。
【0020】
本発明において、分析対象物質及び上記試薬の何れか一方を金属コロイド粒子で標識すればよいが、上記のような第1の試薬及び第2の試薬を用いるイムノクロマトグラフィー測定法などのサンドイッチ式免疫測定法の場合、第1の試薬及び第2の試薬の何れか一方が金属コロイド粒子で標識される。
【0021】
本発明における金属コロイド粒子としては、白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子(複合金属コロイド粒子)が用いられる。この複合金属コロイド粒子は、銅イオンの還元を触媒して銅を析出させる能力を有する。この複合金属コロイド粒子としては、金コロイド粒子の表面に白金コロイドを担持させてなるものや、パラジウムコロイド粒子の表面に白金コロイドを担持させてなるものが好ましい。金コロイド粒子及びパラジウム粒子の平均粒径としては、30〜100nmであることが好ましく、40〜80nmであることがより好ましい。また、複合金属コロイド粒子の平均粒径としては、40〜200nmであることが好ましい。イムノクロマトグラフィー測定法の場合、複合金属コロイド粒子の平均粒径は60〜100nmであることが好ましい。
【0022】
本発明の増感剤溶液としては、銅イオンの供給源となる硫酸銅等の塩を必須成分として含有し、好ましくは還元剤を含有する。さらに、必要に応じて、錯化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定剤等を含有してもよい。このような増感剤溶液としては、従来公知の無電解めっき溶液を使用することもできる。
【0023】
還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、抱水ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ホルムアルデヒド、ロッシェル塩、ブドウ糖等を例示することができ、次亜リン酸ナトリウム、ホルムアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0024】
また、錯化剤としては、アンモニア、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩等を例示することができる。pH調製剤としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、アンモニウム塩等を例示することができる。安定剤としては、各種の界面活性剤を例示することができる。
【0025】
本発明の保護層形成液としては、銅析出部を被覆する保護層を形成して酸素を遮断することができるものであれば特に制限されるものではなく、かかる保護層形成液の主成分としては、銅析出部(捕捉部位)を被覆しかつその場に留まることができる物質であればよく、白金コロイドとの反応性を示さない物質であることが好ましい。また、溶液調製の観点から、水溶性であることが好ましい。具体的に、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールに代表される水溶性の合成高分子や、ヒアルロン酸等の多糖類に代表される天然高分子や、水溶性でかつ粘性のあるグリセロールやエチレングリコール等の多価アルコール又はその誘導体(低級アルキルエステル)等を例示することができる。また、油脂等を使用することも可能である。これらの中でも、グリセロールやその誘導体が特に好ましい。
【0026】
特にイムノクロマトグラフィー測定法においては、本発明の保護層形成液は、所定の粘性を有することが好ましい。すなわち、捕捉部位の被覆効果を確実に得るために、毛細管現象によりテストストリップの下流方向へ展開せず捕捉部位に留まることができる程度の粘性を有することが好ましい。なお、粘性が高すぎる場合には、滴下、浸漬等の操作がより容易になるように、緩衝液等で希釈することにより保護溶液の粘度を調整することが好ましい。
【0027】
上記本発明の増感剤溶液や保護層形成液を接触させる方法としては、例えば、銅析出部(捕捉部位)に液を滴下する方法や、銅析出部(捕捉部位)を液中に浸漬する方法を例示することができる。
【0028】
続いて、イムノクロマトグラフィー測定法に用いられるテストストリップの一例を、図面を参照して説明する。図1において、符号1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、31は捕捉部位、4は吸収用部材、5は試料添加用部材を示す。
【0029】
図1の例では、膜担体3は、幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターで作成されている。膜担体3には、そのクロマト展開始点側の末端から7.5mmの位置に、第1の試薬が固定され、検体の捕捉部位31が形成される。この例では、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いているが、被験試料に含まれる分析対象物質をクロマト展開可能で、かつ、上記捕捉部位31を形成する抗体を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜等も使用できる。
【0030】
含浸部材2は、前記第2の試薬を含浸等の方法で配置せしめた部材からなる。当該第2の試薬は、上記金属コロイド粒子で予め標識される。この例では、含浸部材2として、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、セルロース類布(濾紙、ニトロセルロース膜等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類等も使用できる。
【0031】
第2の試薬の標識物質として使用される金属コロイド粒子は、捕捉部位31に集積することにより、肉眼で観察できる程度の色を呈し、さらに、増感剤溶液と接触することによって銅を析出させて呈色の度合いが向上するものであることが好ましい。当該含浸部材2は、標識された第2の試薬の懸濁液を前記ガラス繊維不織布等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させること等によって作製できる。
【0032】
図1に示すように、膜担体3を粘着シート1の中程に貼着し、該膜担体3のクロマト展開の開始点側(図の左側)(以下、「上流側」といい、その逆の側を「下流側」という。)の末端の上に、含浸部材2の下流側末端を重ね合わせて連接するとともに、この含浸部材2の上流側部分を粘着シート1に貼着して本発明のイムノクロマト法テストストリップを作成できる。
【0033】
さらに、必要に応じて、含浸部材2の上面に試料添加用部材5の下流側部分を載置すると共に、該試料添加用部材5の上流側部分を粘着シート1に貼着してもよく、また、膜担体3の下流側部分の上面に吸収用部材4の上流側部分を載置すると共に、該吸収用部材4の下流側部分を粘着シート1に貼着せしめることもできる。
【0034】
試料添加用部材5としては、例えば、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレン等のような多孔質合成樹脂のシート又はフィルムや、濾紙、綿布等のようなセルロース製の紙、織布又は不織布を用いることができる。吸収用部材4は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を例示することができ、濾紙が最適である。
【0035】
さらに、市販品の場合、イムノクロマト法テストストリップは、試料添加用部材5と捕捉部位31の上方にそれぞれ被験試料注入部と判定部が開口された適当なプラスチック製ケース内に収容されて提供してもよい。
【0036】
上記のようなイムノクロマト法テストストリップを用いて測定を行うには、生体試料等を含む被験試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合してクロマト展開可能な混合液を得た後、当該混合液をテストストリップの試料添加用部材5上に注入する。該混合液は、該試料添加用部材5を通過して含浸部材2において、標識された第2の試薬と混合する。その際、該混合液中に分析対象物質が存在すれば、抗原抗体反応により分析対象物質と第2の試薬との複合体が形成される。
【0037】
この複合体は、膜担体3中をクロマト展開されて捕捉部位31に到達し、そこに固定された第1の試薬と抗原抗体反応して捕捉される。このとき、標識物質である金属コロイド粒子の集積により捕捉部位31が発色する。そして、該捕捉部位31と増感剤溶液とを接触させることにより、増感剤溶液に含まれている銅イオンが金属コロイド粒子の触媒作用によって還元されて銅として析出するので、金属コロイド粒子による発色が増強される。さらに、保護層形成液を捕捉部位31に接触させ、この増強された発色状態を長期にわたって保持する。捕捉部位31の発色を測定機器で読み取り、定量的に測定することもできる。
【0038】
なお、本発明では、第2の試薬又は第2の試薬を含有する前記含浸部材を膜担体上に配置せず、適当な容器に収納しておき、当該容器内で被験試料と第2の試薬を混合して膜担体に注入することにより、膜担体にてクロマト展開可能なように用意しておくこともできる。
【0039】
被験試料の調製に用いる生体試料としては、特に制限はなく、公知の免疫測定法で使用されている生体試料であれば何れも使用することができる。また、本発明の分析対象物質も生体試料由来のものに限られず、公知の免疫測定法で使用されているものであれば何れも使用できる。
【0040】
なお、全血を被験試料として用いる場合、前記試料添加用部材に血球捕捉膜部材を配置しておくことが好ましい。血球捕捉膜部材は、前記含浸部材と前記試料添加用部材との間に積層することが好ましい。これにより、赤血球が膜担体に展開されるのが阻止されるので、膜担体の捕捉部位における呈色標識の集積の確認が容易になる。血球捕捉膜部材としては、カルボキシメチルセルロース膜が用いられ、具体的には、アドバンテック東洋株式会社から販売されているイオン交換濾紙CM(商品名)や、ワットマンジャパン株式会社から販売されているイオン交換セルロースペーパー等を用いることができる。
【実施例1】
【0041】
1.白金微粒子被覆金コロイド粒子の調製
(1)使用するガラス器具の全てを王水で洗浄した。
(2)390mlの超純水をフラスコに入れて沸騰させ、この沸騰水に塩化金酸水溶液(水溶液1リットル当たり金として1g、片山科学工業株式会社製)30mlを加え、その後、1重量% クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、6分45秒後に、塩化白金酸水溶液(水溶液1リットル当たり白金として1g、和光純薬工業株式会社製)30mlを加えた。塩化白金酸水溶液添加から5分後に1重量% クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、4時間還流を行い、白金微粒子被覆金コロイド懸濁液を得た。
(3)次いで、この懸濁液を200mM炭酸カリウム水溶液でpH9.0に調整し、これに超純水を加えて全量を100mlとして白金微粒子被覆金コロイド再懸濁液を得た。この再懸濁液中の白金微粒子被覆金コロイドの平均粒径を動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500((株)堀場製作所製)によって測定したところ80nmであった。
【0042】
2.白金−金コロイド標識抗体の調製
抗ヒトCRP(C反応性蛋白、C-reactive protein)マウスモノクローナル抗体の蛋白換算重量1μg(以下抗体の重量を示すとき、その蛋白換算重量を示す)と上記で得られた白金微粒子被覆金コロイド再懸濁液1mlとを混合し、室温で2分間静置して、この抗体の全量を該再懸濁液中の白金微粒子被覆金コロイド粒子(以下、「白金−金コロイド粒子」という。)と結合させた。
これに最終濃度が0.2%となるように1%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」という。)水溶液を加えて、上記抗体に結合せしめられた白金−金コロイド粒子の表面をブロックした。この懸濁液を4000×gで25分間遠心分離して、白金−金コロイド粒子の表面がBSAでブロックされた白金−金コロイド標識抗体を沈殿せしめて集めた。この白金−金コロイド標識抗体を0.05%Tween20及び1%BSAを含有する50mMトリス塩酸塩緩衝液(pH7.4)に再懸濁して、精製白金−金コロイド標識抗体懸濁液を得た。
【0043】
3.イムノクロマト法テストストリップの作成
図1に示されるイムノクロマト法テストストリップを下記の手順で作成した。
(1)抗CRP抗体と白金−金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。抗ヒトCRPマウスモノクローナル抗体1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、抗原であるヒトCRPと白金−金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。
(2)白金−金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、上記で得られた白金−金コロイド標識抗体懸濁液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて白金−金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
(3)イムノクロマト法テストストリップの作成
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図1と同様のクロマト法テストストリップを作成した。
【0044】
4.増感剤溶液(硫酸銅−ホルムアルデヒド混合液)の調製
純水500mlに対し、酒石酸カリウムナトリウム(キシダ化学製)243g、硫酸銅(和光純薬株式会社製)34g、炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製)15g、水酸化ナトリウム16g、EDTA11gを溶解し、硫酸銅溶液を調製した。得られた硫酸銅溶液15mlにホルムアルデヒド1.2mlを添加し、硫酸銅−ホルムアルデヒド混合液を調製した。混合液はテストストリップに反応させる前に調製した。
【0045】
5.保護層形成液の調製
保護層形成液としては、市販の特級グリセロール(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0046】
6.試験
上記作成したイムノクロマト法テストストリップを使用して、抗原であるリコンビナントCRPを測定した。リコンビナントCRP(オリエンタル酵母工業株式会社製)は、0.25%Tweenを含むリン酸緩衝液(pH7.4)と混合し、リコンビナントCRPの濃度を4,2,1 ng/ml及び500,250,125,63,31pg/mlに調製し、被験試料とした。また、抗原を含まない溶液をBlankとした。
【0047】
これらの被験試料100μlを上記のイムノクロマト法テストストリップの試料添加用部材5上に滴下して膜担体3に展開せしめ、15分後に捕捉部位31の呈色の度合いを肉眼で観察した。ブランクは、0.25%Tweenを含むリン酸緩衝液(pH7.4)とした。その後、イムノクロマト法テストストリップを超純水にて洗浄し、水気を切った後、捕捉部位31を上記で作成した増感剤溶液(硫酸銅−ホルムアルデヒド混合液)に浸漬し、さらに保護層形成液(グリセロール)を滴下後、呈色の度合いを肉眼で観察した。また、保護層形成液を滴下しないこと以外、上記方法と同様の方法にて反応させたイムノクロマト法テストストリップを対照とした。
【0048】
7.結果
表1に、増感剤溶液への浸漬前後の観察結果を示し、表2に、保護層形成液の添加・非添加に基づく、呈色度合いの経時的変化を示す。なお、捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で−(着色なし)、±(微弱な着色)、±(弱い着色)、+(明確な着色)、++(強い着色)の5段階に区分して判定した。さらに、各区分における弱い反応についてw(weak)を付記し判定した。また、図2に、抗原濃度4ng/mlの被験試料を用いた場合のイムノクロマト法テストストリップの経時的な呈色度合いを表す写真を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1から明らかなように、白金−金コロイド標識テストストリップにおいて、増感剤溶液に浸漬前の目視判定では250pg/mlが検出限界であったのに対し、浸漬後では31pg/mlと検出感度が向上した。また、表2及び図2から明らかなように、保護層形成液を滴下することにより、増感反応2時間後及び1日後においても、捕捉部位の呈色強度は、増感反応直後と同等に呈色強度を保つことが可能であった。他方、保護層形成液非添加の対照では、時間経過と共に退色し、反応2時間後において増感前と同等にまで呈色強度の低下が認められた。また、図2aに示すように、グリセロールを滴下することにより、呈色感度をさらに向上させることができることが明らかとなった。
以上のように、本発明においては、増感反応後の呈色強度を長期にわたって維持することが可能となり、判定時の呈色強度の低下を防ぐことが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、従来よりも高感度で測定が行える免疫測定法、とりわけ、サンドイッチ式免疫測定法、特にイムノクロマトグラフィー測定法及びイムノクロマト法テストストリップを提供するものであり、標識物質として金属コロイド粒子を用いて肉眼で簡便に判定できるようにした免疫測定法の分野で有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 粘着シート
2 標識抗体含浸部材
3 クロマト展開用膜担体
31 捕捉部位
4 吸収用部材
5 試料添加部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象物質と、該分析対象物質に対して免疫学的に反応する試薬とを反応させて両者の複合体を検出することからなる免疫測定法であって、前記分析対象物質又は前記試薬の何れか一方を、白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記複合体を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたことを特徴とする免疫測定法。
【請求項2】
競合法又はサンドイッチ法であることを特徴とする請求項1記載の免疫測定法。
【請求項3】
分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬を用意し、前記第1の試薬を担体に固定しておき、前記第2の試薬を白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で標識しておき、前記分析対象物質を前記第1の試薬と第2の試薬との間にサンドイッチするサンドイッチ法により行われることを特徴とする請求項2記載の免疫測定法。
【請求項4】
イムノクロマトグラフィー測定法であることを特徴とする請求項2又は3記載の免疫測定法。
【請求項5】
増感剤溶液が、硫酸銅及び還元剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の免疫測定法。
【請求項6】
保護層形成液が、グリセロール又はその誘導体を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の免疫測定法。
【請求項7】
分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬並びに膜担体を用意し、前記第1の試薬を予め前記膜担体の所定位置に固定せしめて捕捉部位を形成し、前記第2の試薬をコロイドに白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で予め標識しておき、該第2の試薬と所定量の被験試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被験試料中に含まれる分析対象物質と前記第2の試薬との複合体を前記捕捉部位に捕捉させ、該捕捉部位を、銅イオンを含有する増感剤溶液と接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたことを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項8】
増感剤溶液が、硫酸銅及び還元剤を含有することを特徴とする請求項7記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項9】
保護層形成液が、グリセロール又はその誘導体を含有することを特徴とする請求項7又は8記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項10】
分析対象物質に対して免疫学的に反応する第1及び第2の試薬並びに膜担体を少なくとも備え、前記第1の試薬は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第2の試薬は白金コロイドを担持させた金属コロイド粒子で予め標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなるイムノクロマト法テストキットであって、さらに、銅イオンを含有する増感剤溶液及び保護層形成液を備え、前記クロマト展開後に該増感剤溶液を前記捕捉部位に接触させることにより、前記金属コロイド粒子上で前記銅イオンを還元させて銅を析出させた後、該銅析出部を保護層形成液と接触させて被覆し、検出するようにしたことを特徴とするイムノクロマト法テストキット。
【請求項11】
増感剤溶液が、硫酸銅及び還元剤を含有することを特徴とする請求項10記載のイムノクロマト法テストキット。
【請求項12】
保護層形成液が、グリセロール又はその誘導体を含有することを特徴とする請求項10又は11記載のイムノクロマト法テストキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−209069(P2011−209069A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76278(P2010−76278)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(593025712)株式会社ビーエル (20)