高感度分子検出及び分析を可能にする、ナノポアを有するベアの単層グラフェン膜
実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン膜表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在するナノポアを含むグラフェン膜が提供される。第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部は、ナノポアにイオン溶液中の化学種を提供し、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部は、第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するために提供される。電気回路は、ナノポアの対向する両側に接続されて、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2009年9月18日に提出された米国仮出願第61/243,607号の利益を主張する。本出願はまた、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2010年6月16日に提出された米国仮出願第61/355,528号の利益も主張する。
【0002】
連邦支援の研究に関する記述
本出願は、NIHによって授与された契約番号2R01HG003703-04の下に政府の援助によってなされた。政府は、本出願においてある一定の権利を有する。
【0003】
本出願は、一般に分子検出及び分析に関し、より詳細には、ナノポアを通って転位する分子を検出するように配置されたナノポアについての構成に関する。
【背景技術】
【0004】
生体分子、例えば、ポリヌクレオチド、例えば生体ポリマー核酸分子DNA、RNA、及びペプチド核酸(PNA)、並びにタンパク質、並びに他の生物学的分子を含めた分子の検出、特性解析、同定、及び配列決定は、重要で広がりつつある研究分野である。ポリマー分子のハイブリッド形成状態、構成、モノマースタッキング及び配列を迅速で信頼性のある安価な方法で決定することができるプロセスが、現在、非常に必要とされている。ポリマーの合成及び作製における進歩並びに生物学的開発及び医薬における進歩、特に、遺伝子治療、新規の医薬品の開発、及び患者への適切な治療のマッチングの分野における進歩は、かかるプロセスに大部分が依存している。
【0005】
分子分析のための一つのプロセスにおいて、核酸及びタンパク質などの分子が、天然又は固体状態のナノスケールポア、すなわちナノポアを通して輸送され得ること、並びに、分子の同定、分子のハイブリッド形成状態、分子と他の分子との相互作用、及び分子の配列、すなわち、ポリマーが構成されるモノマーの線形順序を含めた分子の特性が、ナノポアを通る輸送により及び輸送の間に識別され得ることが示されている。ナノポアを通る分子の輸送は、例えば、電気泳動、又は他の転位機構によって達成され得る。
【0006】
ナノポアによる分子分析のための一つの特に一般的な構成において、ナノポアを通るイオン電流の流れは、液体イオン溶液としてモニタリングされ、該溶液中に提供されている研究される分子は、ナノポアを横断する。イオン溶液中の分子は、ナノポアを通って転位するとき、液体溶液の流れ及び該溶液中のイオンを、ナノポアを通して少なくとも部分的に遮断する。このイオン溶液の遮断は、ナノポアを通った、測定されたイオン電流の減少として検出され得る。ナノポアの単一分子横断を強いる構成により、このイオン遮断の測定技術は、個々の分子がナノポアを通って転位する事象を成功裏に検出することが実証されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
理想的には、分子分析のためのこのイオン遮断の測定技術は、提案されている他の測定技術と同様に、単一のモノマー分割のスケールで高い感度及び分解能を有する分子特性解析を可能にするべきである。個々のモノマー特性の明確な解明は、生体分子の配列決定用途などの信頼性のある用途に重要である。しかし、この機能は、特に、固体状態のナノポア構成について実際に達成するのが困難であった。固体状態のナノポアの長さは、該ナノポアが形成される材料層(複数可)の厚さによって決定され、ナノポアの分子横断の性質に影響し、ナノポア中の分子が検出及び分析され得る感度及び分解能を直接制限することが見出されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のセンサの感度及び分解能の制限を克服するナノポアセンサが提供される。かかるセンサの一例において、第1の膜表面と第1の膜表面の対向側にある第2の膜表面との間に約1nm未満である厚さを有する固体状態膜を含むナノポアセンサが提供される。ナノポアは、第1の膜表面と第2の膜表面の間の膜厚を通って延在し、該膜厚よりも大きい直径を有する。第1の膜表面においてイオン溶液中の化学種をナノポアに提供するための、第1の膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、第1の膜表面から第2の膜表面にナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するための、第2の膜表面から第2のリザーバまでの接続部とが存在する。膜におけるナノポアを通るイオン溶液中の化学種の転位をモニタリングするために、電気回路が接続されている。
【0009】
このナノポアセンサは、グラフェンナノポアセンサとして提供され得る。本明細書において、実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン膜表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在するナノポアを含むグラフェン膜が提供される。第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部は、第1のグラフェン膜表面においてイオン溶液中の化学種をナノポアに提供し、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部は、第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するのに提供される。グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するために、電気回路がナノポアの対向する両側に接続されている。
【0010】
さらなるグラフェンナノポアセンサにおいて、実質的にベアの単層グラフェン膜は、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在し、約3nm未満であってグラフェン厚さを超える直径を有するナノポアを含む。グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するために、電気回路がナノポアの対向する両側に接続されている。
【0011】
これらの構成により、ポリマー分子を評価するための方法であって、評価されるポリマー分子がイオン溶液中に付与されている方法が可能になる。イオン溶液中のポリマー分子は、実質的にベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通して、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面まで転位され、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れがモニタリングされる。
【0012】
これらのセンサ配置及び検知方法は、高分解能且つ高感度の分子検出及び分析を可能にし、これにより、ポリマー中の密集したモノマーの検出を達成させ、したがって、例えば、DNAポリマーの鎖中の各モノマーによって引き起こされる種々のイオン遮断を順次解明する。本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から並びに特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ナノポアを通るイオン流の測定により分子を検出するための例のグラフェンナノポアデバイスの概略斜視図である。
【図2】図2A〜2Eは、膜における6種の理論上のナノポアの概略側面図であり、各ナノポアの直径は、2.4nmであり、ナノポアの長さは、それぞれ0.6nm、1nm、2nm、5nm及び10nmの範囲にあり、各ナノポアを通しての、種々の領域における平均イオン電流密度は、ナノポアにおいて示されている矢印の長さを提示している。
【図3】遮断されていないナノポアを通るイオン電流と、示された直径の分子によって遮断されている同じナノポアを通るイオン電流との間の差の絶対値として定義された、イオン電流遮断のプロットであり、3MのKClイオン溶液及び160mVのナノポアバイアスでの、2.5nmの直径並びに0.6nm、2nm、5nm及び10nmの有効長を有するナノポアに関するものである。
【図4】実験グラフェン層のX-線回折像であり、単一グラフェン層における炭素原子の六角形パッキングから生じる必然的な六角形パターンを表示している。
【図5】実験グラフェン膜に関するラマンシフト測定のプロットであり、該膜についての単層グラフェンを示している。
【図6】実験グラフェン膜のシス及びトランス側における3MのKClイオン溶液の間に適用された電圧バイアスの関数としてのイオン電流の実験的測定データのプロットである。
【図7】図6のプロット、及び8nm幅のナノポアを含む実験グラフェン膜についての電圧の関数としてのイオン電流のプロットを示す図である。
【図8】0.6nm、2nm、及び10nmの長さを有するナノポアについてのナノポア直径の関数としてのイオン伝導率のプロットである。
【図9】DNA断片がナノポアを通って転位するときの、実験グラフェン膜における2.5nmのナノポアについての、測定されたイオン電流の時間の関数としてのプロットである。
【図10】図10A〜10Cは、図9のプロットから取得した、測定されたイオン電流の時間の関数としてのプロットであり、一列に並んだ形式、部分的に折り畳まれた形式、及び半分に折り畳まれた形式で、DNAがナノポアを通って転位することについての電流プロファイルを詳細に示している。
【図11】400の転位事象についての、グラフェン膜におけるナノポアのDNA転位の関数としてのイオン電流遮断のプロットである。
【図12】ナノポアを通しての距離の関数としてのイオン電流遮断における百分率変化のプロットであり、0.6nmの長さのナノポア及び1.5nmの長さのナノポアに関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、例としてのグラフェンナノポア分子特性解析デバイス10の概略斜視図である。議論を明確にするために、図1に図示されているデバイスの特徴は、縮尺通りに示されていない。図1に示されるように、該デバイスにおいて、ベアの単層グラフェン膜14におけるナノスケールアパーチャ、すなわちナノポア12が付与されている。グラフェン膜は、自己支持されており、これは、膜を支持するための構造体が膜の及ぶ範囲内に存在しないことを意味している。膜の縁部には、例えば、支持フレーム16が付与されていてよく、これは、ひいては、支持基材又は他の構造体18上に付与されていてよい。自己支持されたベアのグラフェン膜は、グラフェン膜の第1、すなわちシス側に、特性解析される分子20を含む液状溶液を含有する第1の液体リザーバ又は液体供給体が接続されるように、また、グラフェン膜の第2、すなわちトランス側に、特性解析された分子がグラフェンナノポア12を通しての転位によって輸送される第2の液体リザーバが接続されるように、流体セルにおいて構成される。
【0015】
該図に示されるグラフェンナノポアの一つの用途において、特性解析される分子20は、例えば、各単鎖DNA分子(ssDNA)骨格に沿ってヌクレオチド塩基の配列22の同一性を決定することによって特性解析される、該塩基の配列を有するssDNAを含む。議論を明確にするために、この配列決定例を以下の記載において使用するが、かかる例は、グラフェンナノポア特性解析デバイスの排他的な用途ではない。加えて、以下に記載されている配列決定操作は、DNAの例に限定されず;ポリヌクレオチドRNAが同様に特性解析されてよい。グラフェンナノポアデバイスによって可能となる分子特性解析として、例えば、配列決定、ハイブリッド形成の検出、分子相互作用の検出及び分析、構成の検出、並びに他の分子特性解析を含めた広範囲の分析が挙げられる。特性解析される分子20として、ポリマー及び生体分子、例えばタンパク質、ポリヌクレオチドDNA及びRNAなどの核酸、糖ポリマー、並びに他の生体分子を含めたあらゆる分子を一般に挙げることができる。したがって、以下の議論は、特定の実施に限定することは意図されていないが、分子特性解析に関する実施形態の範囲内の一例の詳細を提供する。
【0016】
図1のグラフェンナノポアでは、分子20に、ベアの、自己支持された単層グラフェン膜を通ってナノポアを横断させるための特徴を有する配置が提供されている。例えば、グラフェン膜を横切る各溶液の電圧を制御するために、グラフェン膜14の両側に溶液に浸漬された塩化銀電極24、26を提供することができる。膜の対向する両側にある2種の溶液中の電極間に電圧バイアス24をかけることにより、膜の第1、すなわちシス側における溶液中に付与された分子、例えば、ssDNA分子を、ナノポア12内で及びこれを通して膜の第2、すなわちトランス側における溶液まで電気泳動的に駆動させる。なぜなら、DNA骨格は、溶液中にあるときに負に帯電しているからである。
【0017】
本発明者らは、本明細書において、二つのイオン溶液充填リザーバを分離させるベアの単層グラフェン膜の平面に対して垂直方向のイオン抵抗率が極めて大きく、これにより、上記のようにして、二種の溶液間で、グラフェン膜を横切る有意な電圧バイアスを確立することが可能になるという驚くべき発見をした。以下の実験の議論においてさらに説明されているように、この発見は、グラフェンの単層を横切る電位の電気制御が、分子電気泳動に必要とされるように維持され得る、図1の構成を可能にする。
【0018】
ベアの単層グラフェン膜は、フレームによってその縁部においてのみ支持されている、すなわち、その範囲を横切って自己支持されている、グラフェン膜におけるナノポアを通して二つの溶液充填リザーバが互いに直接連通しているか否かによらず、これらのリザーバ間の構造的障壁として作動するのに十分に機械的に強固であることがさらに発見されている。結果として、単一のベアのグラフェン層のナノポア一体化(nanopore-articulated)膜が作動して、ベアのグラフェン膜のシス及びトランス側にある二種のイオン溶液間の電圧バイアスの適用によりナノポアを通る分子を電気泳動的に駆動させるための、ナノポア分野に精通している人々に公知の方法を用いて、二つのイオン溶液充填リザーバを分離させることができる。
【0019】
ナノポアを通して分子を取り出すために他の技術及び配置が使用されてよく、特定の技術は必要とされない。ナノポアを通しての分子の転位の電気泳動的駆動に関するさらなる詳細及び例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2003年9月30日に発行されたBrantonらへの米国特許第6,627,067号「Molecular and Atomic Scale Evaluation of Biopolymers」に提供されている。
【0020】
図1に示すように、ナノポア12を通る、グラフェン膜のシス及びトランス側の間のイオン電流の流れの変化を測定するための回路26、28が提供されていてよい。この構成により、ナノポア12を通る分子の転位を検出でき、この検出に基づいて、分子がナノポアを通って駆動されると分析し得る。しかし、この分子検出技術は、グラフェン膜及びナノポアについて使用され得る広範囲の検出技術の一つである。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2008年12月23日に発行された、Golovchenkoらによる米国特許第7,468,271号「Molecular Characterization with Carbon Nanotube control」に記載されているように、電極間、例えば、ナノポアにおいて一体化されているカーボンナノチューブ若しくは他のプローブ間のトンネル電流、プローブ若しくはグラフェン膜自体におけるコンダクタンス変化、又は他の分子検出技術が使用されてよい。
【0021】
イオン電流の流れの測定による分子検出の技術を特に考慮して、本発明者らは、本明細書において、転位する化学種が存在しないときのベアの単層グラフェン膜のナノポアを通るイオン電流、及びナノポア内にある分子によって遮断されているときのナノポアを通るイオン電流の流れが、いずれも、あらゆる他の公知の脂質又は固体状態膜界面における同様の直径のナノポアを通るイオン電流の流れよりも約3倍大きいという驚くべき発見をした。別の固体状態膜における同様の直径のバイオポア又はナノポアと比較して、ベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通るこの有意に大きいイオン電流の流れは、グラフェン膜の厚さ、及びこれに応じて、膜を通るナノポアの長さに起因することが本発明者らによって理解される。
【0022】
ベアのグラフェン膜は、六角形炭素格子の単原子層であり、該層は、したがって原子的に薄く、約0.3nmの厚さに過ぎない。この厚さでは、ベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン流は、ナノポアの長さがポアの直径よりもさらにいっそう短いというレジメンにおいて特性解析され得る。このレジメンにおいて、ナノポアのイオン伝導率は、ナノポア直径dに比例し、ナノポアを通るイオン電導密度は、ナノポアの中間における電流密度と比較して、ナノポアの周辺において、すなわち、ナノポアの縁部において鋭いピークとなる。対照的に、ナノポア直径を超える長さを有するナノポアは、ナノポア面積に比例しナノポア直径を横切って均一であるイオン伝導率によって特性解析され、イオン伝導率は、ナノポアの中間を通って、及びナノポアの周辺において均一に流下する。
【0023】
これら二つのナノポアの長さレジメンにおけるナノポアコンダクタンス間の明確な差は、図2A〜2Eに示されている。これらの図を参照すると、それぞれが2.4nmの直径を有し、それぞれ0.6nm、1nm、2nm、5nm、及び10nmの長さを有するナノポアを横切る10点での平均電流密度の表示が示されている。図における矢印の相対長さは、各矢印の位置によって表示されるナノポア内の領域での相対平均電流密度を示している。図2A〜2Cに示すように、2.4nmのナノポア直径よりも短いナノポアの長さでは、電流密度は、ナノポア周辺においてピークとなる。ナノポアの長さがナノポア直径に近づくに従い、ナノポアを横切るコンダクタンスがより均一になる。ナノポアの長さがナノポア直径を超えるとき、図2D及び2Eにおけるように、イオン伝導率がナノポアを横切って一様に均一であり、ナノポア周辺に優先されない。ナノポアの種々の領域内での局所電流密度は、ナノポアの長さが増大するに従い次第に均一になる。
【0024】
結果として、ナノポア直径がナノポアの長さを超えるベアの単層グラフェン膜におけるナノポアは、閉塞されていない状況において、ナノポア直径を超える厚さを有する膜における等しい直径のナノポアの全インダクタンスを有意に超える全イオン伝導率を示す。他の条件が等しいとき、コンダクタンスが大きくなることで、所与の直径より薄い膜における該直径を有する開いたナノポア(open nanopore)を通る全イオン電流は、これに等しい直径よりも厚い膜における該直径を有する開いたナノポアの場合よりも、結果として、有意に大きくなる。グラフェン膜を通るイオン電流が大きくなることで、ナノポアを通るイオン電流の流れの高精度の測定を容易にする。
【0025】
ナノポア直径未満の長さを有するナノポアを通るイオン電流は、ナノポア中心軸を通るよりもむしろ主としてナノポア周辺にあるため、ナノポアの中心を横断する分子の直径の小さな変化が、イオン電流の流れの変化に多大な影響を及ぼす。このことは、分子の直径の差が、イオン電流の流れが、短い長さのナノポアについて、最大である場合には、ナノポア縁部において現れ、イオン電流が、短い長さのナノポアについて、より小さい場合には、むしろナノポア中心に現れるという事実によるものである。結果として、ナノポア直径未満の長さを有するベアの単層グラフェンナノポアは、ナノポア直径を超える長さを有するナノポアよりも、分子次元の粒子、又は異なる次元の粒子、分子若しくはこれらの成分の差に敏感である。
【0026】
この考えの結果は、図3において定量的に示されており、ナノポアにおける、算出されたイオン電流遮断レベルを、2.5nmの直径、並びに0.6nm、2nm、5nm、及び10nmの有効長を有するナノポアの中心を横断するポリマー分子の直径の関数としてプロットしている。算出された電流遮断は、遮断されていないナノポア(すなわち、ナノポア中にポリマー分子が存在していない)を通るイオン電流と、示された直径のポリマーによって遮断されたときの同じナノポアを通るイオン電流との間の差の絶対値である。プロットは、3MのKClのイオン溶液並びにナノポアのシス及びトランス側間の160mVの電圧バイアスによる分子の転位とする。ここでプロットにおいて示されているように、ナノポアを通るイオン電流は、ナノポアの長さが減少するに従い、転位する分子の直径の変化に対する感度が増大することを実証している。
【0027】
本発明者らは、転位する分子の直径の変化に対するナノポアの伝導率の感度が、ナノポア直径が転位する分子の直径に可能な限り近く設定されているときに最大となることをさらに発見した。この条件は、いずれの長さのナノポアにも当てはまる。例えば、図3のプロットに示されているように、直径2.5nmのナノポアでは、転位する分子の直径がナノポアの直径に近づくに従い、ナノポアの長さがナノポアの直径を超える場合においても、電流の遮断が上昇する。しかし、プロットされているデータにおいて、ナノポアの長さがナノポアの直径未満である、すなわち、2nm及び0.6nmであるナノポアでは、かかる短い長さのナノポアが、転位する分子の直径がナノポアの直径に近づくに従って該分子の直径の小さな変化にさらにいっそう強く敏感であることが示されている。これらのナノポアでは、遮断電流は、遮断する分子の直径の増大に対して指数関数的に上昇する。ナノポアの直径よりも長い、5nm及び10nm長のナノポアでは、遮断電流は、遮断する分子の直径がナノポアの直径に近づくときでも、準線形的にのみ上昇する。
【0028】
このように、転位する分子の直径の近接した差の分解能は、いずれもが膜の縁部の厚さを超えるがナノポアを転位している分子について予想される直径を大きく超えることはない、例えば、5%を超えて大きくならない直径を有するナノポアを単層グラフェン膜に付与することによって、好ましくは最大となる。所与の用途のためのナノポア直径について、この第2の条件を決定するために、以下の実施例に記載されているような分析が実施され得る。簡潔には、かかる分析において、例えば、Laplace方程式を介して、分子の転位に用いられるイオン溶液の電流密度が決定され、分子の転位の検出の所望の感度が設定され、ナノポア直径が実現可能となるための一般の要件が決定される。これらの因子、及びナノポア直径が膜厚を超えるという決定的な制約に基づいて、これらの因子の全てを最適化するナノポア直径が次いで選択され得る。
【0029】
本発明者らは、二つの電気的にバイアスされたイオン溶液充填リザーバを分離させるベアの単層グラフェンナノポアからの電気ノイズが、いずれの他の固体状態のナノポアからの電気ノイズよりも比例的に大きくならないことをさらに発見した。結果として、グラフェンナノポアを通るイオン電流の変化、すなわち、イオン遮断が、いずれの所与の直径の分子の横断の間にも、ナノポア直径を超える長さを有する他の公知のナノポアにおける場合よりも大きいとすると、ベアの単層グラフェンナノポアは、他の公知のナノポアよりも良好な信号対ノイズ比をもたらすことができる。なぜなら、単位時間当たり、又は横断する核酸塩基当たりに計数されるイオンの数が多いほど、計数率がより低いときより、正確であるからである。これらの発見は、グラフェンの公知の化学的不活性及び例外的に高い強度と一緒になって、ナノポアが一体化されたベアの単層グラフェン膜を、分子検出及び特性解析のための優れた界面として確立する。
【0030】
これらの発見の結果として、膜は、ベアである、すなわち、両側が、グラフェン膜厚に付加するいずれの材料層又は化学種によってもコーティングされていないグラフェンの単層として提供されることが好ましい。この状態において、膜の厚さは、最小となり、また、周辺のイオン電流の流れが最大となり且つ検体の物理的寸法の変化の関数としてのナノポア伝導率が最大となる、短い長さのナノポアレジメンにおいて安全である。また、グラフェン膜によって提供されるナノポアの長さが非常に短いことは、グラフェンナノポアが、ポリマー中の密集したモノマーを検知して、これにより、例えば、DNAポリマー鎖における各モノマーによって引き起こされる種々のイオン遮断を順次解明することも可能にする。
【0031】
単層グラフェン膜は、DNA及びRNAのようなポリマー分子などの多くの分子に親和性を有することが認識されている。したがって、DNA、RNA、及び他の同様の分子が、ベアのグラフェン膜に優先的に吸着する傾向を有することが予想され得る。グラフェン表面の吸着特性は、膜を表面層が付加されていないベアの状態に維持する適切な環境及び/又は表面処理によって少なくとも部分的に抑制されることが好ましい。
【0032】
例えば、約8を超える、例えば、約8.5と11との間のpHを特徴とし、例えば、約2Mを超えて2.1M〜5Mの範囲にある比較的高い塩濃度を含む、イオン溶液が提供され得る。高いイオン強度の塩基性溶液を使用することによって、ベアのグラフェン膜の表面への分子の付着が最小となる。あらゆる好適な選択された塩、例えば、KCl、NaCl、LiCl、RbCl、MgCl2、又は検体分子との相互作用が破壊的でないあらゆる易溶性塩が使用され得る。
【0033】
加えて、以下に詳細に説明するように、グラフェン膜の合成及び操作の間に、膜を、分子をグラフェン表面に引き付ける場合がある残余又は他の化学種が実質的に存在しないように、元のままの状態に維持するよう細心の注意が払われることが好ましい。また、動作の際、グラフェン膜が、分子をグラフェン表面から遠ざけるように電気的に操作され得ることも認識される。例えば、グラフェン膜におけるナノポアを通る負に帯電したDNA分子の転位を考えると、グラフェン膜自体は、負に帯電したDNA分子を遠ざける負電位において電気的にバイアスされ得る。ここで、グラフェン膜への電気接触は、選択された電圧の適用を可能にするいずれの好適な方法でなされてもよい。かかるシナリオでは、グラフェン膜の両側にあるイオン溶液間の電圧は、グラフェン表面での反発を克服してグラフェン表面における吸着よりもむしろナノポアを通るDNAの転位を引き起こす電気泳動力を生成するのに十分に高く設定され得る。
【0034】
グラフェンナノポアデバイスを製造するための方法に戻ると、ベアのグラフェンの単層は、いずれの好都合で好適な技術によって合成されてもよく、特定の合成技術は必要とされない。一般に、触媒材料、例えば、ニッケル層でのメタンガスを用いた常圧化学蒸着(atmospheric chemical vapor deposition)が使用されて、グラフェン層を形成することができる。ラマン分光法、透過電子顕微鏡法、及び制限視野回折検査が使用されて、使用される合成されたグラフェンの領域が真に本質的に単層であることを検証することができる。
【0035】
グラフェン膜として配置するためにグラフェン層をデバイス構造体に転写することは、いずれの好適な技術によって行われてもよいが、この転写において使用されるいずれも材料もグラフェン表面を汚染しないことが好ましい。好ましい一技術において、選択された取り扱い材料(handle material)が、触媒材料及び基材上の合成されたグラフェン層上にコーティングされる。多くの用途では、グラフェン層の取り扱いが完了したらグラフェン層から容易に除去される取り扱い材料を使用することが好ましくあり得る。メチルメタクリライト-メチルアクリル酸コポリマー(MMA-MAA)が特に適した取り扱い材料であり得る。グラフェン層上に配置されているMMA-MAAの層について、構成全体が片に切断していてよい。
【0036】
得られた片は、次いで加工し、グラフェン層の下層にあるが処理層に接着された触媒層及び基材材料を除去することができる。例えば、Niの触媒層を考えると、HCl溶液を使用して、蒸留水を使用して濯ぎながらNi層をエッチング除去してグラフェン/MMA-MAA複合体を遊離させることができる。次いで、水に浮遊するグラフェン/MMA-MAA複合体を、例えば、SiNx層でコーティングされたシリコンウエハによって捕捉され得る。シリコンウエハの中心領域を、KOH又は他の好適なエッチャントによってエッチングして、例えば、50×50μm2の面積の独立したSiNx膜を製造することができる。集束イオンビーム(FIB)又は他のプロセスが次いで使用されて、グラフェン層の膜のための枠を形成するようにSiNx膜を通して好適な穴を開けることができる。例えば、200nm×200nmの例えば角窓を窒化物膜で形成して、グラフェン膜のための枠を製造することができる。
【0037】
このデバイス構成が完成したら、グラフェン/MMA-MAA複合体を角窓上に配置して、例えば、窒素風(穏やかな窒素ジェット)を使用してグラフェン膜におけるグラフェンを基材に強く押し付けることができる。MMA-MAAは、次いで、例えば、アセトンをゆっくり滴下し、続いてアセトン、ジクロロエタン、及びイソプロパノールに浸漬することによって除去し得る。
【0038】
グラフェンフィルムからあらゆる残留物を除去して、膜として一旦構成されたグラフェンに化学種が接着する傾向を低減することが好ましい。例えば、MMA-MAAを除去したら、窒化物フレームを横切って広げられたグラフェン層を含む得られた構造体を、図1におけるように、少しの間、例えば、1分間、例えば、KOHの溶液に室温にて浸漬し、次いで、例えば、水、次いでイソプロパノール、最後にエタノールで激しくすすいでよい。グラフェン膜に対する損傷を回避するために、構造体は、臨界点乾燥してよい。最後に、構造体を、選択された環境、例えば、約450℃で、4%のH2をHe中に含有するガスストリームにおいて、例えば、20分間、迅速な熱アニールプロセスに暴露して、残存する炭化水素をすべて除去することができる。次いで、再汚染を回避するために、構造体を直ちに好ましくは例えばTEMに付して、さらに処理する。
【0039】
次いで、ナノポアをグラフェン膜に形成することができる。集束電子ビーム又は他のプロセスを使用して、ナノポアを形成してもよい。ナノポア直径は、グラフェン膜の厚さを好ましくは超えて、先に記載されているように周辺のイオン電流の流れの増大及び分子寸法の変化に対する感度の増大という予想外の発見の利益を得る。ssDNAの転位のためには、ナノポア直径が約1nmと約20nmとの間であることが好ましくあり得、約1nmと約2nmとの間の直径が最も好ましい。dsDNAの転位のためには、ナノポア直径が約2nmと約20nmとの間であることが好ましくあり得、約2nmと約4nmとの間の直径が最も好ましい。ナノポアの形成後、グラフェン構造体をクリーンな環境下、例えば、約10-5Torrの真空下に保つことが好ましい。
【0040】
図1のナノポア分子検知デバイスを完成するために、実装されたグラフェン膜は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)ガスケットによって封止された、例えば、ポリエーテル-エーテルケトン(PEEK)又は他の好適な材料のマイクロ流体カセットにおける二つの半電池間に挿入されてよい。ガスケットオリフィスは、グラフェン膜の縁部を溶液から完全に密封するようにグラフェン膜の寸法よりも小さいことが好ましくあり得る。
【実施例1】
【0041】
この実施例は、単層のベアのグラフェン膜の実験的実証を記載する。グラフェン層をニッケル表面においてCVDによって合成した。ニッケルを、SiO2の層によってコーティングされたシリコン基材に電子ビーム蒸着によってフィルムとして付与した。ニッケル層を熱的にアニールして、約1μmと20μmとの間のサイズの単結晶粒を有するNiフィルムミクロ構造体を生成した。これらの粒の表面は、エピタキシャル成長のための単結晶基材の表面と同様に、原子的に平坦なテラス及びステップを有した。このトポロジーによると、Ni粒におけるグラフェンの成長は、単結晶基材の表面におけるグラフェンの成長と類似する。
【0042】
CVD合成において、Ni層をH2及びCH4ガスに約1000℃の温度で暴露した。ラマン分光法、透過電子顕微鏡法及び制限視野回折検査により、グラフェンフィルムは、優れた質を有し、大部分(87%)が約10μmのドメインサイズを有する一層及び二層の厚さのドメインの混合物であることを示した。三層以上のグラフェン層を有するより厚い領域は、光学顕微鏡において色対比によって容易に区別され、全表面の少しの部分のみを覆った。より厚い領域及びドメイン境界を見出したときには、このエリアを廃棄した。
【0043】
MMA-MAAコポリマー(MMA(8.5)MAA EL9、Microchem Corp.)によってグラフェンをまずコーティングすることによって担体Si/SiNxチップにグラフェンを転写し、0.5nm×0.5mm片に切断した。これらの片を1NのHCl溶液に約8時間浸漬し、Niフィルムをエッチング除去してグラフェン/ポリマー膜を遊離させ、これを、グラフェン/ポリマーが浮遊した蒸留水に、グラフェン側を下にして移した。約250nmの厚さのSiNxによってコーティングされた担体Siチップを用いて、グラフェン/ポリマーフィルムをチップの中心領域上でそれぞれ延伸するように注意しながら、浮遊するグラフェン/ポリマーフィルム片をすくい上げた。チップの中心領域を標準的な異方性エッチング技術を用いて微細加工して、約50×50μm2の面積のSiNxコーティングを、集束イオンビーム(FIB)を用いて約200nm×200nmの角窓を開けた、独立したSiNx膜として残した。窒素ガス風を用いて、チップの表面に対してグラフェンを強く押し付けた。これにより、担体チップのSiNxコーティングに強固且つ不可逆的に接着したグラフェンの下から少量の液体を排出させた。グラフェンの頂部にあるポリマーをアセトンの遅い滴下、続いて、その後のアセトン、ジクロロエタン、及び最後にイソプロパノール中への浸漬により除去した。
【0044】
グラフェンフィルムからのあらゆる残余を除去するために、各チップを、続いて、33wt%のKOH溶液に室温で1分間浸漬し、次いで、イソプロパノール及びエタノールによって激しく濯いだ。グラフェンフィルムの懸濁された独立した部分に対する損傷を回避するために、各チップを臨界点乾燥した。最後に、チップを急速熱アニール器に付し、4%のH2をHe中に含有するガスストリームにおいて20分間かけて450℃に加熱して、いずれの残存する炭化水素も駆除した。再汚染を回避するために、チップを透過電子顕微鏡に直ちに付して、さらに処理した。
【0045】
グラフェン膜の一つのX-線回折像を図4に示し、単一グラフェン層における炭素原子の六角形パッキングから生じる必然的な六角形パターンを表示している。グラフェン層に関するラマンシフト測定を図5に示す。非常に小さなGピーク及び非常に鋭い2Dピークは、1未満のG/2D比を生じ、単層膜を示唆している。
【実施例2】
【0046】
この実施例は、実施例Iの単層のベアのグラフェン膜のコンダクタンスの実験的決定を記載する。
【0047】
実施例Iからのチップが取り付けられた単層グラフェン膜を、ポリエーテル-エーテルケトン(PEEK)からなる特注のマイクロ流体カセットの二つの半電池間に挿入した。チップの両側をポリジメチルシロキサン(PDMS)ガスケットによって封止した。Si/SiNx担体チップにおけるグラフェンフィルムに対して押し付けたガスケットの開口は、約100μmの内径を有した。結果として、ガスケットオリフィスは、グラフェン膜(0.5×0.5mm2)の寸法よりも小さく、グラフェン膜の縁部を電解質から完全に密封した。チップの対向側において、電解質は、SiNx膜における200nm幅の角窓を通してのみグラフェン膜と接触した。この配置によって、電解質と接触する二つのグラフェン膜表面間に大きな面積差が存在したことに注意されたい(100μm直径の円形面積対200nm×200nmの面積の方形)。
【0048】
二つの半電池をまずエタノールで満たし、チップ表面の湿潤を促進した。次いで電池を脱イオン水、その後、緩衝液を含まない1MのKCl塩溶液でフラッシングした。実験測定に影響し得る、グラフェン膜と溶質との間のいずれの電位相互作用も回避するために、実験に用いた全ての電解質をできるだけ簡単に保存し、緩衝させなかった。全ての溶液のpHは、記載の実験での使用前及び後の両方で測定したとき、0.2pH単位の範囲にしか及ばず、5.09〜5.29であった。
【0049】
各半電池内のAg/AgCl電極を用いて、グラフェン膜を横切る電気的電位を適用し、イオン電流を測定した。電流トレースを、50kHzで作動する外部の8極Bessel低域フィルタ(90IP-L8L型、Frequency Devices, Inc.)に接続されたAxopatch200B(Axon instruments)増幅器を用いて取得した。アナログ信号を、250kHzのサンプリングレート及び16ビット分割で作動するNI PCI-6259DAQカード(National Instruments)を用いてデジタル化した。全ての実験をIGOR Proソフトウエアによって制御した。
【0050】
図6は、グラフェン膜のシス及びトランス側における3MのKClイオン溶液間に適用した電圧バイアスの関数としてのイオン電流の実験的に測定したデータのプロットである。オームの法則をこのデータに適用すると、イオン電流抵抗率(ionic current resistivity)は、グラフェン膜の平面に垂直に3〜4GΩの範囲内にあることが分かる。これにより、グラフェン膜の平面に垂直のイオン抵抗率は、非常に大きく、有意な電気バイアスが二つの電圧バイアスしたイオン溶液充填リザーバを分離させるベアの単層グラフェン膜を横切って維持され得る構成を可能にするという本発明の一発見を実証する。
【0051】
二つのAg/AgCl電極間に適用された100mVのバイアスにより、グラフェン膜のシス及びトランス側にある種々の塩化物電解質についてイオン電流測定を行った。電解質の伝導率を、伝導率標準溶液(Alfa Aesar、製品番号43405、42695、42679)を用いて較正したAccumet Research AR50伝導率計を用いて測定した。全ての流体実験を、24℃で温度制御された実験室条件下に実施した。表1は、グラフェン膜のコンダクタンスがnSレベルよりもはるかに低いことを示す。最大コンダクタンスは、グラフェンとの相互作用を媒介する最小水和殻と相関して、最大の原子サイズカチオン、Cs及びRb、を有する溶液について観測された。このコンダクタンスは、独立したグラフェン膜における欠陥構造体を通してのイオン輸送に起因するものであった。
【表1】
【0052】
電気化学電流からグラフェン膜へ及びグラフェン膜からの寄与を、さらなる実験によって排除した。ここで、電気化学(ファラデー)電流からの寄与を調査するために、別個の大面積のグラフェンフィルム(約2×4mm2)をガラススライドに転写し、その一端部において、ワックス絶縁が施された金属クリップに付着した銀塗料と接触させた。グラフェンフィルムの暴露された端部をAg/AgCl対電極による1MのKCl電解質に浸漬させ、電気化学I-V曲線をトランス電極実験において用いたときと同じ電圧範囲で測定した。表面積について正規化した後、トランス電極デバイスにおけるいずれの電気化学電流も3倍程度に小さ過ぎて、成長中のグラフェン膜を通して測定された約pAの電流も占めないことが表1において結論づけられた。種々のカチオンについて観測されたコンダクタンスは、CsClからLiClまで進む際に溶液の伝導率よりもさらにいっそう速く降下し、これは、グラフェン-カチオン相互作用の影響を示唆している。それにも関わらず、チップ表面と接触しているグラフェンを通してのイオン輸送を完全に排除することができない。
【実施例3】
【0053】
この実施例は、ナノポアを含む実施例Iの単層のベアのグラフェン膜のコンダクタンスの実験結果を記載する。
【0054】
単一のナノメートルサイズのナノポアを、200kVの加速電圧で操作されるJEOL2010FEG透過電子顕微鏡において集束電子線を用いて、実施例Iの数個のグラフェン膜を通して開けた。ナノポア直径を、グラフェン膜の全体の電子露光を最小に保つように、よく広がった(well-spread)電子線においてEM可視化によって測定した。DigitalMicrographソフトウエア(Gatan、Inc.)を用いて較正されたTE顕微鏡写真から測定されるように、異なるナノポア軸に沿った四つの測定値の平均として8nmのナノポア直径が測定された。チップ又はTEMホルダが、いずれかの汚染有機残余を有したときには、アモルファス炭素が、電子線下で可視的に堆積することが分かった。かかるデバイスを廃棄した。ナノポアを開けた後、直ちに調査していなかったグラフェンナノポアチップを約10-5Torrのクリーンバキューム下に保った。
【0055】
図7は、実施例IIにおいて先に与えたような、適用された電圧の関数としてのイオン電流のプロットを、連続グラフェン膜、並びに8nm幅のナノポアを含むグラフェン膜の両方について表示する。これらのプロットは、グラフェン膜のイオン伝導率が、ナノポアによって桁違いに増大することを実証する。
【0056】
既知のグラフェンナノポア直径及び既知のイオン溶液伝導率を用いた実験により、ベアの単層グラフェン膜の有効絶縁厚さの推定を可能にすることが分かる。実施例Iからの十個の別個のグラフェン膜を、5〜23nmの範囲のナノポア直径を含むように処理した。次いで、十個の膜のそれぞれのイオン伝導率を、11Sm-1の伝導率を有する、シス及びトランス溶液リザーバの両方に付与された1MのKCl溶液を用いて測定した。図8は、十個の膜についての、ナノポア直径の関数としての測定されたイオン伝導率のプロットである。図中の実線は、0.6nm厚の絶縁膜のモデル化されたコンダクタンスであり、実験的に測定されたコンダクタンスに最良適合(best fit)である。2nm厚の膜についてモデル化されたコンダクタンスを点線で示し、10nm厚の膜についてモデル化されたコンダクタンスを破線で示し、比較のために提示する。
【0057】
無限に薄い絶縁膜における直径dのナノポアのイオン伝導率Gを:
G薄い=σ・d (1)
(式中、σ=F(μK+μCl)Cは、イオン溶液の伝導率であり、Fは、ファラデー定数であり、cは、イオン濃度であり、μi(c)は、KClイオン溶液に用いられるカリウム(i=K)及び塩化物(i=Cl)イオンの移動度である)によって与える。コンダクタンスの直径への線形依存性は、先に記載されているように、無限に薄い膜についてはナノポアの周囲で鋭いピークとなる電流密度から得られる。ナノポア直径よりも厚い膜では、伝導率が、ナノポア面積に比例することとなる。有限であるが厚さが薄い膜では、コンピュータ計算により、コンダクタンスを予測することができる。
【0058】
図8のプロットに示されているように、式(1)と一致して、5〜23nmの範囲の直径を有する単層のベアのグラフェンナノポアの伝導率はナノポア直径に準線形依存性を示した。モデル化された曲線を、ナノポアの直径及び膜厚の関数として、理想化された非耐電絶縁膜におけるナノポアのイオン伝導率の計算に基づいて作成した。この曲線上の点は、適切な溶液伝導率及び境界条件を用いてイオン電流密度についてのLaplace方程式を数値的に解き、ナノポア面積に対して積分して伝導率を得ることによって得た。これらの数値シミュレーションは、ナノポアの軸に沿って円筒対称性を有する適切な三次元形状においてCOMSOL Multiphysics有限要素ソルバーを用いて行った。Poisson-Nerst-Planck方程式の一式を定常状態レジメンにおいて解いた。対象の物理パラメータである高い塩濃度及び小さな適用電圧の範囲において、数値シミュレーション解は、適合されたコンダクタンスを有するLaplace方程式の解と有意に相違しないことが分かり、これは、コンピュータ上での不利益が有意により少ないということである。この理想化されたモデルにおいて用いられる膜厚Lを、本明細書において、グラフェンの絶縁厚さ、又はLITと称する。図8において測定されたナノポアコンダクタンスに対する最良適合は、LGIT=0.6(+0.9-0.6)nmをもたらし、ここで、不確実性を、最小二乗誤差分析から決定した。
【実施例4】
【0059】
この実施例は、実施例Iの単層のベアのグラフェン膜におけるナノポアを通ったDNA転位の実験測定を記載する。
【0060】
上記実施例のミクロ流体セルを、1mMのEDTAを含有する3MのKCl塩溶液によってpH10.5でフラッシングした。先に説明したように、高い塩濃度及び高いpHが、DNA-グラフェン相互作用を最小にすることが分かっており、したがって、これらの溶液条件は、好ましくあり得る。二重鎖のλDNA分子の10kbpの制限断片を系のシスチャンバに導入した。負に帯電したDNA分子を、160mVの電気泳動力の適用によってナノポアまで電気泳動的に引き抜き、ナノポアを通って駆動させた。ナノポアを通過する各絶縁分子は、ポリマーのサイズ及びコンホメーションの両方を反映する方法でナノポアのイオン伝導率を一時的に低減させ又はナノポアを遮断した。DNA断片が、適用された電気泳動力によってナノポアを遮断したとき、転位事象を、適切なBesselフィルタ機能によって回旋された複数の方形波からなって記録条件を模倣する適合機能を用いてMATLABによって分析した。
【0061】
図9は、電圧バイアスをシス及びトランスリザーバ間に適用したときから1分間の時間の関数としての、ナノポアを通る測定されたイオン電流のプロットである。プロットにおいて、測定された電流のそれぞれの降下は、ナノポアを通ったDNAの転位に相当し、二つのパラメータ、すなわち、平均電流降下又は遮断、及び、ナノポアを通って完全に転位する分子に要する時間である、遮断の持続時間の特性解析を可能にする。1分の期間における、ベアのグラフェン膜のナノポアについての多数の転位事象に注目されたい、これは、高いpHの塩溶液による、ベアのグラフェン膜表面へのDNAの接着の成功裏な抑制、並びに、DNAの転位実験のための準備の間のグラフェン膜の注意深いクリーニング及び取り扱いを示している。
【0062】
図10A、10B及び10Cは、単一の転位事象でナノポアを通る測定されたイオン電流のプロットである。図10Aにおいて、一列に並んだ形式におけるDNAの転位の間のイオン電流の流れの遮断が実証されている。図10Bにおいて、部分的に折り畳まれたDNAの転位の間のイオン電流の流れの遮断が実証されている。最後に、図10Cにおいて、半分に折り畳まれたDNAの転位の間のイオン電流の流れの遮断が実証されている。これらの三つの実験的な転位事象は、DNA断片の転位の間に起こり得る、可能性のあるイオン電流の流れの測定の典型であり、DNAの折り畳み及びコンホメーションが、より厚い従来の固体状態のナノポアと同様にグラフェンナノポアによって起こり得ることを実証している。
【0063】
5nm幅のナノポアを実施例Iからの別個のグラフェン膜において形成し、二重鎖DNAの転位実験をpH10.4の3MのKCl溶液について行った。それぞれの単一分子の転位事象を、二つのパラメータ:平均電流降下又は遮断、及び、ポアを通って完全に転位する分子に要する時間である、遮断の持続時間;によって特性解析することができる。図11は、グラフェンナノポアを通った400の二重鎖DNAの単一分子の転位のそれぞれについて電流降下の値及び遮断持続時間を示している散布図である。このデータの特徴的な形状は、折り畳まれた及び折り畳まれていない殆ど全ての事象が一定の電子電荷損失(ecd)の線の付近にある場合に窒化シリコンナノポアの実験において得られた形状と類似している、すなわち、他の場合の同一の分子がどのように折り畳まれているかに関わらず、それぞれが、各分子がナノポアを通って移動するのに要する全時間の間に、ナノポアを通して同量のイオン電荷移動を遮断する。ここで、先の実験と同様に、二重鎖DNAは、グラフェン表面に粘着することによって抑制されていないナノポアを通過したことが実証されている。プロットに包囲されている事象では、この条件を満たすものが少なくなく、これらの長い転位時間が、グラフェン-DNA相互作用を示しており、このことは、ナノポアを通る転位を遅延させる。
【0064】
図11のプロットにおいて、挿入図は、単一分子の二つの転位事象を示す。右手の事象において、分子は、図10Aの実施例と同様に、折り畳まれていない線状形式にてナノポアを通過した。左手の事象において、分子は、図10Bの実施例と同様に、ナノポアに進入したときに自身の上に折り畳まれており、短時間の間に電流遮断を増大させた。
【0065】
DNAの転位事象の間のナノポアコンダクタンスの測定を、グラフェン膜の有効絶縁厚さLITを評価するための代替の方法として使用することができる。実験的に決定した、開いたナノポア及びDNA-遮断されたナノポアのコンダクタンスを、膜厚及びナノポア直径が適合パラメータである場合に数値解によって決定したものと比較した。ここで、DNA分子を、ナノポアの中心を通り抜ける、直径2nmの長く堅い絶縁ロッドとしてモデル化した。方位分解能の計算のために、DNAモデルに直径2.2nmのステップを付加して、非連続部がナノポアの中心を通って転位するときのイオン電流における変化を計算した。全イオン電流を、ナノポアの直径を横切る電流密度を積分することによって計算した。
【0066】
直径2.0nmの折り畳まれていない二重鎖DNAの転位の間に観測された平均電流遮断ΔI=1.24±0.08nA、及びDNAの非存在において観測されたナノポアのコンダクタンスG=105±1nSを用いて、グラフェン膜の絶縁厚さをLIT=0.6±0.5nmと決定し、これは、先で議論した、開いたナノポアの測定のみからの上記の推定した値と極めて一致した。これらの計算から推定したナノポア直径dGIT=4.6±0.4nmもまた、ナノポアのTEMから得られた、5±0.5nmの幾何学的直径と一致する。
【0067】
両方の実験からの最良適合値LIT=0.6nmは、膜のそれぞれの側においてグラフェン-水距離が0.31〜0.34nmであることを示している分子動力学シミュレーションと一致している。LITはまた、固定化水分子及び吸着イオンのStern層における典型的な存在によっても影響され得る。一方で、理論研究は、グラフェンにおけるいずれの固定化水層にも反論しており、実験的測定は、水と内部の曲線状のカーボンナノチューブ表面との間の異常に高いスリップを支持している。ベアの単一グラフェン層に具体的に吸着したイオンの表面化学について実際には殆ど知られていないが、1nm未満の直径を有するカーボンナノチューブの内部体積を通るイオン電流の測定は、イオンがこれらの黒鉛表面に全く固定化されていないことを示すことができる。ここで決定したLITに関するサブナノメートルの値は、以下の見解を支持している。
【0068】
ここで得られたLITに関する極めて小さな値は、単層のベアのグラフェン膜におけるナノポアが、分子がナノポアを通過するときに分子の長さに沿って空間及び/又は化学的な分子構成を識別するのに類を見ないほどに最適であることを示唆している。かかるナノポアによって得ることができる分子検出分解能の数値モデル化をグラフェン膜絶縁厚さLITの決定をベースとして達成することができる。
【0069】
かかるモデルの例において、2.4nmの直径のナノポアの中心を通って対称的に転位する長く絶縁の2.2nmの直径のシリンダを特定する。その長さに沿った一つの位置において、シリンダ直径は、2.2nm〜2.0nmまで非連続的に変化する。非連続部がポアを通過するときのこの幾何学形状についてのコンダクタンスを解くために、図12のプロットに示すデータを得る。ナノポアコンダクタンスの増大に相当する、イオン電流の流れの遮断の減少は、分子シリンダの大きな直径部分がナノポアを出るときに明確に見られる。二つのLIT値についての計算の結果を示す。保守的なLIT=1.5nmについて、伝導率がその最大値の75%から25%に変化する距離として定義された空間分解能は、δzGIT=7.5Åによって与えられる一方で、最良適合値LGIT=0.6nmは、δzGIT=3.5Åを導く。
【0070】
先に詳述した実験及び先に記載されているモデル化の両方から、ベア単層グラフェン膜におけるナノポアが、サブナノメートル分解能によって分子をプローブすることが本質的に可能であるということを結論づけることができる。グラフェンナノポア境界を機能化すること、又は転位の間のその局所的な面内イオン伝導率を観測することで、この系の分解能をさらに増大させる追加又は代替の手段を提供することができる。
【0071】
先の記載から、ベアの単層グラフェンの原子的に薄いシートから、膜厚よりも大きい直径のナノポアを含む自己支持膜を作製して、ナノポアを通る分子転位事象を検知することができる。ベアの単層として、グラフェン膜の厚さは最小となり、また、周辺のイオン電流の流れが最大となり且つナノポアの長さの関数としてのナノポア伝導率が最大となる短い長さのナノポアレジメンにおいて安全である。グラフェン膜によって付与される非常に短い長さのナノポアはまた、グラフェンナノポアが、ポリマー中に密集したモノマーを検知して、これにより、例えば、DNAポリマー鎖における各モノマーによって引き起こされる種々のイオン遮断を順次解明することも可能にする。
【0072】
これらの考えに基づいて、技術の進歩がかかることを可能にするときに代替材料の固体状態膜を単層のベアのグラフェン膜層の代用とし得ることが認識される。具体的には、約1nm未満の厚さであり、膜厚を超える直径を有する、膜厚を通って延在するナノポアを機械的に支持することができる固体状態膜を使用して、先に記載されている分子検知能及び特にDNA検知能を得ることができる。膜のナノポアを通しての分子転位のための、シス及びトランスリザーバ間の膜材料の配置を可能にするには、膜の平面に垂直方向の抵抗率のための要件、機械的完全性、及び先に記載されている他の特性が必要とされ得ることを理解されたい。イオン電流遮断の測定又は他の電気的測定は、所与の用途に好適であるように使用されてよく、特定の測定技術は必要とされない。
【0073】
この理解をさらに拡大すると、ナノポアに対する代替構成が使用され得ることが認識される。例えば、非常に鋭い又は尖った縁部位置を有するアパーチャであって、その直径がナノスケールまで低減されていて、直径の低減の位置の厚さよりも大きいアパーチャを生成することができる膜又は他の構成体を使用することもできる。これにより、アパーチャがこれらの要件を満たすと認識され得るいずれの固体状態の構造的構成も、先に記載されている分子検知のための利点を達成するのに使用することができる。
【0074】
当然ながら、当業者は、当該分野への本発明の寄与の精神及び範囲から逸脱することなく、先に記載されている実施形態に対する種々の変更及び追加をなし得ることが認識される。したがって、本明細書により付与されようとする保護は、適正に本発明の範囲内にある主題としての特許請求の範囲及びこれらの全ての等価物まで拡大するとみなされるべきであることを理解されたい。
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2009年9月18日に提出された米国仮出願第61/243,607号の利益を主張する。本出願はまた、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2010年6月16日に提出された米国仮出願第61/355,528号の利益も主張する。
【0002】
連邦支援の研究に関する記述
本出願は、NIHによって授与された契約番号2R01HG003703-04の下に政府の援助によってなされた。政府は、本出願においてある一定の権利を有する。
【0003】
本出願は、一般に分子検出及び分析に関し、より詳細には、ナノポアを通って転位する分子を検出するように配置されたナノポアについての構成に関する。
【背景技術】
【0004】
生体分子、例えば、ポリヌクレオチド、例えば生体ポリマー核酸分子DNA、RNA、及びペプチド核酸(PNA)、並びにタンパク質、並びに他の生物学的分子を含めた分子の検出、特性解析、同定、及び配列決定は、重要で広がりつつある研究分野である。ポリマー分子のハイブリッド形成状態、構成、モノマースタッキング及び配列を迅速で信頼性のある安価な方法で決定することができるプロセスが、現在、非常に必要とされている。ポリマーの合成及び作製における進歩並びに生物学的開発及び医薬における進歩、特に、遺伝子治療、新規の医薬品の開発、及び患者への適切な治療のマッチングの分野における進歩は、かかるプロセスに大部分が依存している。
【0005】
分子分析のための一つのプロセスにおいて、核酸及びタンパク質などの分子が、天然又は固体状態のナノスケールポア、すなわちナノポアを通して輸送され得ること、並びに、分子の同定、分子のハイブリッド形成状態、分子と他の分子との相互作用、及び分子の配列、すなわち、ポリマーが構成されるモノマーの線形順序を含めた分子の特性が、ナノポアを通る輸送により及び輸送の間に識別され得ることが示されている。ナノポアを通る分子の輸送は、例えば、電気泳動、又は他の転位機構によって達成され得る。
【0006】
ナノポアによる分子分析のための一つの特に一般的な構成において、ナノポアを通るイオン電流の流れは、液体イオン溶液としてモニタリングされ、該溶液中に提供されている研究される分子は、ナノポアを横断する。イオン溶液中の分子は、ナノポアを通って転位するとき、液体溶液の流れ及び該溶液中のイオンを、ナノポアを通して少なくとも部分的に遮断する。このイオン溶液の遮断は、ナノポアを通った、測定されたイオン電流の減少として検出され得る。ナノポアの単一分子横断を強いる構成により、このイオン遮断の測定技術は、個々の分子がナノポアを通って転位する事象を成功裏に検出することが実証されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
理想的には、分子分析のためのこのイオン遮断の測定技術は、提案されている他の測定技術と同様に、単一のモノマー分割のスケールで高い感度及び分解能を有する分子特性解析を可能にするべきである。個々のモノマー特性の明確な解明は、生体分子の配列決定用途などの信頼性のある用途に重要である。しかし、この機能は、特に、固体状態のナノポア構成について実際に達成するのが困難であった。固体状態のナノポアの長さは、該ナノポアが形成される材料層(複数可)の厚さによって決定され、ナノポアの分子横断の性質に影響し、ナノポア中の分子が検出及び分析され得る感度及び分解能を直接制限することが見出されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のセンサの感度及び分解能の制限を克服するナノポアセンサが提供される。かかるセンサの一例において、第1の膜表面と第1の膜表面の対向側にある第2の膜表面との間に約1nm未満である厚さを有する固体状態膜を含むナノポアセンサが提供される。ナノポアは、第1の膜表面と第2の膜表面の間の膜厚を通って延在し、該膜厚よりも大きい直径を有する。第1の膜表面においてイオン溶液中の化学種をナノポアに提供するための、第1の膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、第1の膜表面から第2の膜表面にナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するための、第2の膜表面から第2のリザーバまでの接続部とが存在する。膜におけるナノポアを通るイオン溶液中の化学種の転位をモニタリングするために、電気回路が接続されている。
【0009】
このナノポアセンサは、グラフェンナノポアセンサとして提供され得る。本明細書において、実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン膜表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在するナノポアを含むグラフェン膜が提供される。第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部は、第1のグラフェン膜表面においてイオン溶液中の化学種をナノポアに提供し、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部は、第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するのに提供される。グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するために、電気回路がナノポアの対向する両側に接続されている。
【0010】
さらなるグラフェンナノポアセンサにおいて、実質的にベアの単層グラフェン膜は、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在し、約3nm未満であってグラフェン厚さを超える直径を有するナノポアを含む。グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するために、電気回路がナノポアの対向する両側に接続されている。
【0011】
これらの構成により、ポリマー分子を評価するための方法であって、評価されるポリマー分子がイオン溶液中に付与されている方法が可能になる。イオン溶液中のポリマー分子は、実質的にベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通して、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面まで転位され、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れがモニタリングされる。
【0012】
これらのセンサ配置及び検知方法は、高分解能且つ高感度の分子検出及び分析を可能にし、これにより、ポリマー中の密集したモノマーの検出を達成させ、したがって、例えば、DNAポリマーの鎖中の各モノマーによって引き起こされる種々のイオン遮断を順次解明する。本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から並びに特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ナノポアを通るイオン流の測定により分子を検出するための例のグラフェンナノポアデバイスの概略斜視図である。
【図2】図2A〜2Eは、膜における6種の理論上のナノポアの概略側面図であり、各ナノポアの直径は、2.4nmであり、ナノポアの長さは、それぞれ0.6nm、1nm、2nm、5nm及び10nmの範囲にあり、各ナノポアを通しての、種々の領域における平均イオン電流密度は、ナノポアにおいて示されている矢印の長さを提示している。
【図3】遮断されていないナノポアを通るイオン電流と、示された直径の分子によって遮断されている同じナノポアを通るイオン電流との間の差の絶対値として定義された、イオン電流遮断のプロットであり、3MのKClイオン溶液及び160mVのナノポアバイアスでの、2.5nmの直径並びに0.6nm、2nm、5nm及び10nmの有効長を有するナノポアに関するものである。
【図4】実験グラフェン層のX-線回折像であり、単一グラフェン層における炭素原子の六角形パッキングから生じる必然的な六角形パターンを表示している。
【図5】実験グラフェン膜に関するラマンシフト測定のプロットであり、該膜についての単層グラフェンを示している。
【図6】実験グラフェン膜のシス及びトランス側における3MのKClイオン溶液の間に適用された電圧バイアスの関数としてのイオン電流の実験的測定データのプロットである。
【図7】図6のプロット、及び8nm幅のナノポアを含む実験グラフェン膜についての電圧の関数としてのイオン電流のプロットを示す図である。
【図8】0.6nm、2nm、及び10nmの長さを有するナノポアについてのナノポア直径の関数としてのイオン伝導率のプロットである。
【図9】DNA断片がナノポアを通って転位するときの、実験グラフェン膜における2.5nmのナノポアについての、測定されたイオン電流の時間の関数としてのプロットである。
【図10】図10A〜10Cは、図9のプロットから取得した、測定されたイオン電流の時間の関数としてのプロットであり、一列に並んだ形式、部分的に折り畳まれた形式、及び半分に折り畳まれた形式で、DNAがナノポアを通って転位することについての電流プロファイルを詳細に示している。
【図11】400の転位事象についての、グラフェン膜におけるナノポアのDNA転位の関数としてのイオン電流遮断のプロットである。
【図12】ナノポアを通しての距離の関数としてのイオン電流遮断における百分率変化のプロットであり、0.6nmの長さのナノポア及び1.5nmの長さのナノポアに関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、例としてのグラフェンナノポア分子特性解析デバイス10の概略斜視図である。議論を明確にするために、図1に図示されているデバイスの特徴は、縮尺通りに示されていない。図1に示されるように、該デバイスにおいて、ベアの単層グラフェン膜14におけるナノスケールアパーチャ、すなわちナノポア12が付与されている。グラフェン膜は、自己支持されており、これは、膜を支持するための構造体が膜の及ぶ範囲内に存在しないことを意味している。膜の縁部には、例えば、支持フレーム16が付与されていてよく、これは、ひいては、支持基材又は他の構造体18上に付与されていてよい。自己支持されたベアのグラフェン膜は、グラフェン膜の第1、すなわちシス側に、特性解析される分子20を含む液状溶液を含有する第1の液体リザーバ又は液体供給体が接続されるように、また、グラフェン膜の第2、すなわちトランス側に、特性解析された分子がグラフェンナノポア12を通しての転位によって輸送される第2の液体リザーバが接続されるように、流体セルにおいて構成される。
【0015】
該図に示されるグラフェンナノポアの一つの用途において、特性解析される分子20は、例えば、各単鎖DNA分子(ssDNA)骨格に沿ってヌクレオチド塩基の配列22の同一性を決定することによって特性解析される、該塩基の配列を有するssDNAを含む。議論を明確にするために、この配列決定例を以下の記載において使用するが、かかる例は、グラフェンナノポア特性解析デバイスの排他的な用途ではない。加えて、以下に記載されている配列決定操作は、DNAの例に限定されず;ポリヌクレオチドRNAが同様に特性解析されてよい。グラフェンナノポアデバイスによって可能となる分子特性解析として、例えば、配列決定、ハイブリッド形成の検出、分子相互作用の検出及び分析、構成の検出、並びに他の分子特性解析を含めた広範囲の分析が挙げられる。特性解析される分子20として、ポリマー及び生体分子、例えばタンパク質、ポリヌクレオチドDNA及びRNAなどの核酸、糖ポリマー、並びに他の生体分子を含めたあらゆる分子を一般に挙げることができる。したがって、以下の議論は、特定の実施に限定することは意図されていないが、分子特性解析に関する実施形態の範囲内の一例の詳細を提供する。
【0016】
図1のグラフェンナノポアでは、分子20に、ベアの、自己支持された単層グラフェン膜を通ってナノポアを横断させるための特徴を有する配置が提供されている。例えば、グラフェン膜を横切る各溶液の電圧を制御するために、グラフェン膜14の両側に溶液に浸漬された塩化銀電極24、26を提供することができる。膜の対向する両側にある2種の溶液中の電極間に電圧バイアス24をかけることにより、膜の第1、すなわちシス側における溶液中に付与された分子、例えば、ssDNA分子を、ナノポア12内で及びこれを通して膜の第2、すなわちトランス側における溶液まで電気泳動的に駆動させる。なぜなら、DNA骨格は、溶液中にあるときに負に帯電しているからである。
【0017】
本発明者らは、本明細書において、二つのイオン溶液充填リザーバを分離させるベアの単層グラフェン膜の平面に対して垂直方向のイオン抵抗率が極めて大きく、これにより、上記のようにして、二種の溶液間で、グラフェン膜を横切る有意な電圧バイアスを確立することが可能になるという驚くべき発見をした。以下の実験の議論においてさらに説明されているように、この発見は、グラフェンの単層を横切る電位の電気制御が、分子電気泳動に必要とされるように維持され得る、図1の構成を可能にする。
【0018】
ベアの単層グラフェン膜は、フレームによってその縁部においてのみ支持されている、すなわち、その範囲を横切って自己支持されている、グラフェン膜におけるナノポアを通して二つの溶液充填リザーバが互いに直接連通しているか否かによらず、これらのリザーバ間の構造的障壁として作動するのに十分に機械的に強固であることがさらに発見されている。結果として、単一のベアのグラフェン層のナノポア一体化(nanopore-articulated)膜が作動して、ベアのグラフェン膜のシス及びトランス側にある二種のイオン溶液間の電圧バイアスの適用によりナノポアを通る分子を電気泳動的に駆動させるための、ナノポア分野に精通している人々に公知の方法を用いて、二つのイオン溶液充填リザーバを分離させることができる。
【0019】
ナノポアを通して分子を取り出すために他の技術及び配置が使用されてよく、特定の技術は必要とされない。ナノポアを通しての分子の転位の電気泳動的駆動に関するさらなる詳細及び例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2003年9月30日に発行されたBrantonらへの米国特許第6,627,067号「Molecular and Atomic Scale Evaluation of Biopolymers」に提供されている。
【0020】
図1に示すように、ナノポア12を通る、グラフェン膜のシス及びトランス側の間のイオン電流の流れの変化を測定するための回路26、28が提供されていてよい。この構成により、ナノポア12を通る分子の転位を検出でき、この検出に基づいて、分子がナノポアを通って駆動されると分析し得る。しかし、この分子検出技術は、グラフェン膜及びナノポアについて使用され得る広範囲の検出技術の一つである。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2008年12月23日に発行された、Golovchenkoらによる米国特許第7,468,271号「Molecular Characterization with Carbon Nanotube control」に記載されているように、電極間、例えば、ナノポアにおいて一体化されているカーボンナノチューブ若しくは他のプローブ間のトンネル電流、プローブ若しくはグラフェン膜自体におけるコンダクタンス変化、又は他の分子検出技術が使用されてよい。
【0021】
イオン電流の流れの測定による分子検出の技術を特に考慮して、本発明者らは、本明細書において、転位する化学種が存在しないときのベアの単層グラフェン膜のナノポアを通るイオン電流、及びナノポア内にある分子によって遮断されているときのナノポアを通るイオン電流の流れが、いずれも、あらゆる他の公知の脂質又は固体状態膜界面における同様の直径のナノポアを通るイオン電流の流れよりも約3倍大きいという驚くべき発見をした。別の固体状態膜における同様の直径のバイオポア又はナノポアと比較して、ベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通るこの有意に大きいイオン電流の流れは、グラフェン膜の厚さ、及びこれに応じて、膜を通るナノポアの長さに起因することが本発明者らによって理解される。
【0022】
ベアのグラフェン膜は、六角形炭素格子の単原子層であり、該層は、したがって原子的に薄く、約0.3nmの厚さに過ぎない。この厚さでは、ベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン流は、ナノポアの長さがポアの直径よりもさらにいっそう短いというレジメンにおいて特性解析され得る。このレジメンにおいて、ナノポアのイオン伝導率は、ナノポア直径dに比例し、ナノポアを通るイオン電導密度は、ナノポアの中間における電流密度と比較して、ナノポアの周辺において、すなわち、ナノポアの縁部において鋭いピークとなる。対照的に、ナノポア直径を超える長さを有するナノポアは、ナノポア面積に比例しナノポア直径を横切って均一であるイオン伝導率によって特性解析され、イオン伝導率は、ナノポアの中間を通って、及びナノポアの周辺において均一に流下する。
【0023】
これら二つのナノポアの長さレジメンにおけるナノポアコンダクタンス間の明確な差は、図2A〜2Eに示されている。これらの図を参照すると、それぞれが2.4nmの直径を有し、それぞれ0.6nm、1nm、2nm、5nm、及び10nmの長さを有するナノポアを横切る10点での平均電流密度の表示が示されている。図における矢印の相対長さは、各矢印の位置によって表示されるナノポア内の領域での相対平均電流密度を示している。図2A〜2Cに示すように、2.4nmのナノポア直径よりも短いナノポアの長さでは、電流密度は、ナノポア周辺においてピークとなる。ナノポアの長さがナノポア直径に近づくに従い、ナノポアを横切るコンダクタンスがより均一になる。ナノポアの長さがナノポア直径を超えるとき、図2D及び2Eにおけるように、イオン伝導率がナノポアを横切って一様に均一であり、ナノポア周辺に優先されない。ナノポアの種々の領域内での局所電流密度は、ナノポアの長さが増大するに従い次第に均一になる。
【0024】
結果として、ナノポア直径がナノポアの長さを超えるベアの単層グラフェン膜におけるナノポアは、閉塞されていない状況において、ナノポア直径を超える厚さを有する膜における等しい直径のナノポアの全インダクタンスを有意に超える全イオン伝導率を示す。他の条件が等しいとき、コンダクタンスが大きくなることで、所与の直径より薄い膜における該直径を有する開いたナノポア(open nanopore)を通る全イオン電流は、これに等しい直径よりも厚い膜における該直径を有する開いたナノポアの場合よりも、結果として、有意に大きくなる。グラフェン膜を通るイオン電流が大きくなることで、ナノポアを通るイオン電流の流れの高精度の測定を容易にする。
【0025】
ナノポア直径未満の長さを有するナノポアを通るイオン電流は、ナノポア中心軸を通るよりもむしろ主としてナノポア周辺にあるため、ナノポアの中心を横断する分子の直径の小さな変化が、イオン電流の流れの変化に多大な影響を及ぼす。このことは、分子の直径の差が、イオン電流の流れが、短い長さのナノポアについて、最大である場合には、ナノポア縁部において現れ、イオン電流が、短い長さのナノポアについて、より小さい場合には、むしろナノポア中心に現れるという事実によるものである。結果として、ナノポア直径未満の長さを有するベアの単層グラフェンナノポアは、ナノポア直径を超える長さを有するナノポアよりも、分子次元の粒子、又は異なる次元の粒子、分子若しくはこれらの成分の差に敏感である。
【0026】
この考えの結果は、図3において定量的に示されており、ナノポアにおける、算出されたイオン電流遮断レベルを、2.5nmの直径、並びに0.6nm、2nm、5nm、及び10nmの有効長を有するナノポアの中心を横断するポリマー分子の直径の関数としてプロットしている。算出された電流遮断は、遮断されていないナノポア(すなわち、ナノポア中にポリマー分子が存在していない)を通るイオン電流と、示された直径のポリマーによって遮断されたときの同じナノポアを通るイオン電流との間の差の絶対値である。プロットは、3MのKClのイオン溶液並びにナノポアのシス及びトランス側間の160mVの電圧バイアスによる分子の転位とする。ここでプロットにおいて示されているように、ナノポアを通るイオン電流は、ナノポアの長さが減少するに従い、転位する分子の直径の変化に対する感度が増大することを実証している。
【0027】
本発明者らは、転位する分子の直径の変化に対するナノポアの伝導率の感度が、ナノポア直径が転位する分子の直径に可能な限り近く設定されているときに最大となることをさらに発見した。この条件は、いずれの長さのナノポアにも当てはまる。例えば、図3のプロットに示されているように、直径2.5nmのナノポアでは、転位する分子の直径がナノポアの直径に近づくに従い、ナノポアの長さがナノポアの直径を超える場合においても、電流の遮断が上昇する。しかし、プロットされているデータにおいて、ナノポアの長さがナノポアの直径未満である、すなわち、2nm及び0.6nmであるナノポアでは、かかる短い長さのナノポアが、転位する分子の直径がナノポアの直径に近づくに従って該分子の直径の小さな変化にさらにいっそう強く敏感であることが示されている。これらのナノポアでは、遮断電流は、遮断する分子の直径の増大に対して指数関数的に上昇する。ナノポアの直径よりも長い、5nm及び10nm長のナノポアでは、遮断電流は、遮断する分子の直径がナノポアの直径に近づくときでも、準線形的にのみ上昇する。
【0028】
このように、転位する分子の直径の近接した差の分解能は、いずれもが膜の縁部の厚さを超えるがナノポアを転位している分子について予想される直径を大きく超えることはない、例えば、5%を超えて大きくならない直径を有するナノポアを単層グラフェン膜に付与することによって、好ましくは最大となる。所与の用途のためのナノポア直径について、この第2の条件を決定するために、以下の実施例に記載されているような分析が実施され得る。簡潔には、かかる分析において、例えば、Laplace方程式を介して、分子の転位に用いられるイオン溶液の電流密度が決定され、分子の転位の検出の所望の感度が設定され、ナノポア直径が実現可能となるための一般の要件が決定される。これらの因子、及びナノポア直径が膜厚を超えるという決定的な制約に基づいて、これらの因子の全てを最適化するナノポア直径が次いで選択され得る。
【0029】
本発明者らは、二つの電気的にバイアスされたイオン溶液充填リザーバを分離させるベアの単層グラフェンナノポアからの電気ノイズが、いずれの他の固体状態のナノポアからの電気ノイズよりも比例的に大きくならないことをさらに発見した。結果として、グラフェンナノポアを通るイオン電流の変化、すなわち、イオン遮断が、いずれの所与の直径の分子の横断の間にも、ナノポア直径を超える長さを有する他の公知のナノポアにおける場合よりも大きいとすると、ベアの単層グラフェンナノポアは、他の公知のナノポアよりも良好な信号対ノイズ比をもたらすことができる。なぜなら、単位時間当たり、又は横断する核酸塩基当たりに計数されるイオンの数が多いほど、計数率がより低いときより、正確であるからである。これらの発見は、グラフェンの公知の化学的不活性及び例外的に高い強度と一緒になって、ナノポアが一体化されたベアの単層グラフェン膜を、分子検出及び特性解析のための優れた界面として確立する。
【0030】
これらの発見の結果として、膜は、ベアである、すなわち、両側が、グラフェン膜厚に付加するいずれの材料層又は化学種によってもコーティングされていないグラフェンの単層として提供されることが好ましい。この状態において、膜の厚さは、最小となり、また、周辺のイオン電流の流れが最大となり且つ検体の物理的寸法の変化の関数としてのナノポア伝導率が最大となる、短い長さのナノポアレジメンにおいて安全である。また、グラフェン膜によって提供されるナノポアの長さが非常に短いことは、グラフェンナノポアが、ポリマー中の密集したモノマーを検知して、これにより、例えば、DNAポリマー鎖における各モノマーによって引き起こされる種々のイオン遮断を順次解明することも可能にする。
【0031】
単層グラフェン膜は、DNA及びRNAのようなポリマー分子などの多くの分子に親和性を有することが認識されている。したがって、DNA、RNA、及び他の同様の分子が、ベアのグラフェン膜に優先的に吸着する傾向を有することが予想され得る。グラフェン表面の吸着特性は、膜を表面層が付加されていないベアの状態に維持する適切な環境及び/又は表面処理によって少なくとも部分的に抑制されることが好ましい。
【0032】
例えば、約8を超える、例えば、約8.5と11との間のpHを特徴とし、例えば、約2Mを超えて2.1M〜5Mの範囲にある比較的高い塩濃度を含む、イオン溶液が提供され得る。高いイオン強度の塩基性溶液を使用することによって、ベアのグラフェン膜の表面への分子の付着が最小となる。あらゆる好適な選択された塩、例えば、KCl、NaCl、LiCl、RbCl、MgCl2、又は検体分子との相互作用が破壊的でないあらゆる易溶性塩が使用され得る。
【0033】
加えて、以下に詳細に説明するように、グラフェン膜の合成及び操作の間に、膜を、分子をグラフェン表面に引き付ける場合がある残余又は他の化学種が実質的に存在しないように、元のままの状態に維持するよう細心の注意が払われることが好ましい。また、動作の際、グラフェン膜が、分子をグラフェン表面から遠ざけるように電気的に操作され得ることも認識される。例えば、グラフェン膜におけるナノポアを通る負に帯電したDNA分子の転位を考えると、グラフェン膜自体は、負に帯電したDNA分子を遠ざける負電位において電気的にバイアスされ得る。ここで、グラフェン膜への電気接触は、選択された電圧の適用を可能にするいずれの好適な方法でなされてもよい。かかるシナリオでは、グラフェン膜の両側にあるイオン溶液間の電圧は、グラフェン表面での反発を克服してグラフェン表面における吸着よりもむしろナノポアを通るDNAの転位を引き起こす電気泳動力を生成するのに十分に高く設定され得る。
【0034】
グラフェンナノポアデバイスを製造するための方法に戻ると、ベアのグラフェンの単層は、いずれの好都合で好適な技術によって合成されてもよく、特定の合成技術は必要とされない。一般に、触媒材料、例えば、ニッケル層でのメタンガスを用いた常圧化学蒸着(atmospheric chemical vapor deposition)が使用されて、グラフェン層を形成することができる。ラマン分光法、透過電子顕微鏡法、及び制限視野回折検査が使用されて、使用される合成されたグラフェンの領域が真に本質的に単層であることを検証することができる。
【0035】
グラフェン膜として配置するためにグラフェン層をデバイス構造体に転写することは、いずれの好適な技術によって行われてもよいが、この転写において使用されるいずれも材料もグラフェン表面を汚染しないことが好ましい。好ましい一技術において、選択された取り扱い材料(handle material)が、触媒材料及び基材上の合成されたグラフェン層上にコーティングされる。多くの用途では、グラフェン層の取り扱いが完了したらグラフェン層から容易に除去される取り扱い材料を使用することが好ましくあり得る。メチルメタクリライト-メチルアクリル酸コポリマー(MMA-MAA)が特に適した取り扱い材料であり得る。グラフェン層上に配置されているMMA-MAAの層について、構成全体が片に切断していてよい。
【0036】
得られた片は、次いで加工し、グラフェン層の下層にあるが処理層に接着された触媒層及び基材材料を除去することができる。例えば、Niの触媒層を考えると、HCl溶液を使用して、蒸留水を使用して濯ぎながらNi層をエッチング除去してグラフェン/MMA-MAA複合体を遊離させることができる。次いで、水に浮遊するグラフェン/MMA-MAA複合体を、例えば、SiNx層でコーティングされたシリコンウエハによって捕捉され得る。シリコンウエハの中心領域を、KOH又は他の好適なエッチャントによってエッチングして、例えば、50×50μm2の面積の独立したSiNx膜を製造することができる。集束イオンビーム(FIB)又は他のプロセスが次いで使用されて、グラフェン層の膜のための枠を形成するようにSiNx膜を通して好適な穴を開けることができる。例えば、200nm×200nmの例えば角窓を窒化物膜で形成して、グラフェン膜のための枠を製造することができる。
【0037】
このデバイス構成が完成したら、グラフェン/MMA-MAA複合体を角窓上に配置して、例えば、窒素風(穏やかな窒素ジェット)を使用してグラフェン膜におけるグラフェンを基材に強く押し付けることができる。MMA-MAAは、次いで、例えば、アセトンをゆっくり滴下し、続いてアセトン、ジクロロエタン、及びイソプロパノールに浸漬することによって除去し得る。
【0038】
グラフェンフィルムからあらゆる残留物を除去して、膜として一旦構成されたグラフェンに化学種が接着する傾向を低減することが好ましい。例えば、MMA-MAAを除去したら、窒化物フレームを横切って広げられたグラフェン層を含む得られた構造体を、図1におけるように、少しの間、例えば、1分間、例えば、KOHの溶液に室温にて浸漬し、次いで、例えば、水、次いでイソプロパノール、最後にエタノールで激しくすすいでよい。グラフェン膜に対する損傷を回避するために、構造体は、臨界点乾燥してよい。最後に、構造体を、選択された環境、例えば、約450℃で、4%のH2をHe中に含有するガスストリームにおいて、例えば、20分間、迅速な熱アニールプロセスに暴露して、残存する炭化水素をすべて除去することができる。次いで、再汚染を回避するために、構造体を直ちに好ましくは例えばTEMに付して、さらに処理する。
【0039】
次いで、ナノポアをグラフェン膜に形成することができる。集束電子ビーム又は他のプロセスを使用して、ナノポアを形成してもよい。ナノポア直径は、グラフェン膜の厚さを好ましくは超えて、先に記載されているように周辺のイオン電流の流れの増大及び分子寸法の変化に対する感度の増大という予想外の発見の利益を得る。ssDNAの転位のためには、ナノポア直径が約1nmと約20nmとの間であることが好ましくあり得、約1nmと約2nmとの間の直径が最も好ましい。dsDNAの転位のためには、ナノポア直径が約2nmと約20nmとの間であることが好ましくあり得、約2nmと約4nmとの間の直径が最も好ましい。ナノポアの形成後、グラフェン構造体をクリーンな環境下、例えば、約10-5Torrの真空下に保つことが好ましい。
【0040】
図1のナノポア分子検知デバイスを完成するために、実装されたグラフェン膜は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)ガスケットによって封止された、例えば、ポリエーテル-エーテルケトン(PEEK)又は他の好適な材料のマイクロ流体カセットにおける二つの半電池間に挿入されてよい。ガスケットオリフィスは、グラフェン膜の縁部を溶液から完全に密封するようにグラフェン膜の寸法よりも小さいことが好ましくあり得る。
【実施例1】
【0041】
この実施例は、単層のベアのグラフェン膜の実験的実証を記載する。グラフェン層をニッケル表面においてCVDによって合成した。ニッケルを、SiO2の層によってコーティングされたシリコン基材に電子ビーム蒸着によってフィルムとして付与した。ニッケル層を熱的にアニールして、約1μmと20μmとの間のサイズの単結晶粒を有するNiフィルムミクロ構造体を生成した。これらの粒の表面は、エピタキシャル成長のための単結晶基材の表面と同様に、原子的に平坦なテラス及びステップを有した。このトポロジーによると、Ni粒におけるグラフェンの成長は、単結晶基材の表面におけるグラフェンの成長と類似する。
【0042】
CVD合成において、Ni層をH2及びCH4ガスに約1000℃の温度で暴露した。ラマン分光法、透過電子顕微鏡法及び制限視野回折検査により、グラフェンフィルムは、優れた質を有し、大部分(87%)が約10μmのドメインサイズを有する一層及び二層の厚さのドメインの混合物であることを示した。三層以上のグラフェン層を有するより厚い領域は、光学顕微鏡において色対比によって容易に区別され、全表面の少しの部分のみを覆った。より厚い領域及びドメイン境界を見出したときには、このエリアを廃棄した。
【0043】
MMA-MAAコポリマー(MMA(8.5)MAA EL9、Microchem Corp.)によってグラフェンをまずコーティングすることによって担体Si/SiNxチップにグラフェンを転写し、0.5nm×0.5mm片に切断した。これらの片を1NのHCl溶液に約8時間浸漬し、Niフィルムをエッチング除去してグラフェン/ポリマー膜を遊離させ、これを、グラフェン/ポリマーが浮遊した蒸留水に、グラフェン側を下にして移した。約250nmの厚さのSiNxによってコーティングされた担体Siチップを用いて、グラフェン/ポリマーフィルムをチップの中心領域上でそれぞれ延伸するように注意しながら、浮遊するグラフェン/ポリマーフィルム片をすくい上げた。チップの中心領域を標準的な異方性エッチング技術を用いて微細加工して、約50×50μm2の面積のSiNxコーティングを、集束イオンビーム(FIB)を用いて約200nm×200nmの角窓を開けた、独立したSiNx膜として残した。窒素ガス風を用いて、チップの表面に対してグラフェンを強く押し付けた。これにより、担体チップのSiNxコーティングに強固且つ不可逆的に接着したグラフェンの下から少量の液体を排出させた。グラフェンの頂部にあるポリマーをアセトンの遅い滴下、続いて、その後のアセトン、ジクロロエタン、及び最後にイソプロパノール中への浸漬により除去した。
【0044】
グラフェンフィルムからのあらゆる残余を除去するために、各チップを、続いて、33wt%のKOH溶液に室温で1分間浸漬し、次いで、イソプロパノール及びエタノールによって激しく濯いだ。グラフェンフィルムの懸濁された独立した部分に対する損傷を回避するために、各チップを臨界点乾燥した。最後に、チップを急速熱アニール器に付し、4%のH2をHe中に含有するガスストリームにおいて20分間かけて450℃に加熱して、いずれの残存する炭化水素も駆除した。再汚染を回避するために、チップを透過電子顕微鏡に直ちに付して、さらに処理した。
【0045】
グラフェン膜の一つのX-線回折像を図4に示し、単一グラフェン層における炭素原子の六角形パッキングから生じる必然的な六角形パターンを表示している。グラフェン層に関するラマンシフト測定を図5に示す。非常に小さなGピーク及び非常に鋭い2Dピークは、1未満のG/2D比を生じ、単層膜を示唆している。
【実施例2】
【0046】
この実施例は、実施例Iの単層のベアのグラフェン膜のコンダクタンスの実験的決定を記載する。
【0047】
実施例Iからのチップが取り付けられた単層グラフェン膜を、ポリエーテル-エーテルケトン(PEEK)からなる特注のマイクロ流体カセットの二つの半電池間に挿入した。チップの両側をポリジメチルシロキサン(PDMS)ガスケットによって封止した。Si/SiNx担体チップにおけるグラフェンフィルムに対して押し付けたガスケットの開口は、約100μmの内径を有した。結果として、ガスケットオリフィスは、グラフェン膜(0.5×0.5mm2)の寸法よりも小さく、グラフェン膜の縁部を電解質から完全に密封した。チップの対向側において、電解質は、SiNx膜における200nm幅の角窓を通してのみグラフェン膜と接触した。この配置によって、電解質と接触する二つのグラフェン膜表面間に大きな面積差が存在したことに注意されたい(100μm直径の円形面積対200nm×200nmの面積の方形)。
【0048】
二つの半電池をまずエタノールで満たし、チップ表面の湿潤を促進した。次いで電池を脱イオン水、その後、緩衝液を含まない1MのKCl塩溶液でフラッシングした。実験測定に影響し得る、グラフェン膜と溶質との間のいずれの電位相互作用も回避するために、実験に用いた全ての電解質をできるだけ簡単に保存し、緩衝させなかった。全ての溶液のpHは、記載の実験での使用前及び後の両方で測定したとき、0.2pH単位の範囲にしか及ばず、5.09〜5.29であった。
【0049】
各半電池内のAg/AgCl電極を用いて、グラフェン膜を横切る電気的電位を適用し、イオン電流を測定した。電流トレースを、50kHzで作動する外部の8極Bessel低域フィルタ(90IP-L8L型、Frequency Devices, Inc.)に接続されたAxopatch200B(Axon instruments)増幅器を用いて取得した。アナログ信号を、250kHzのサンプリングレート及び16ビット分割で作動するNI PCI-6259DAQカード(National Instruments)を用いてデジタル化した。全ての実験をIGOR Proソフトウエアによって制御した。
【0050】
図6は、グラフェン膜のシス及びトランス側における3MのKClイオン溶液間に適用した電圧バイアスの関数としてのイオン電流の実験的に測定したデータのプロットである。オームの法則をこのデータに適用すると、イオン電流抵抗率(ionic current resistivity)は、グラフェン膜の平面に垂直に3〜4GΩの範囲内にあることが分かる。これにより、グラフェン膜の平面に垂直のイオン抵抗率は、非常に大きく、有意な電気バイアスが二つの電圧バイアスしたイオン溶液充填リザーバを分離させるベアの単層グラフェン膜を横切って維持され得る構成を可能にするという本発明の一発見を実証する。
【0051】
二つのAg/AgCl電極間に適用された100mVのバイアスにより、グラフェン膜のシス及びトランス側にある種々の塩化物電解質についてイオン電流測定を行った。電解質の伝導率を、伝導率標準溶液(Alfa Aesar、製品番号43405、42695、42679)を用いて較正したAccumet Research AR50伝導率計を用いて測定した。全ての流体実験を、24℃で温度制御された実験室条件下に実施した。表1は、グラフェン膜のコンダクタンスがnSレベルよりもはるかに低いことを示す。最大コンダクタンスは、グラフェンとの相互作用を媒介する最小水和殻と相関して、最大の原子サイズカチオン、Cs及びRb、を有する溶液について観測された。このコンダクタンスは、独立したグラフェン膜における欠陥構造体を通してのイオン輸送に起因するものであった。
【表1】
【0052】
電気化学電流からグラフェン膜へ及びグラフェン膜からの寄与を、さらなる実験によって排除した。ここで、電気化学(ファラデー)電流からの寄与を調査するために、別個の大面積のグラフェンフィルム(約2×4mm2)をガラススライドに転写し、その一端部において、ワックス絶縁が施された金属クリップに付着した銀塗料と接触させた。グラフェンフィルムの暴露された端部をAg/AgCl対電極による1MのKCl電解質に浸漬させ、電気化学I-V曲線をトランス電極実験において用いたときと同じ電圧範囲で測定した。表面積について正規化した後、トランス電極デバイスにおけるいずれの電気化学電流も3倍程度に小さ過ぎて、成長中のグラフェン膜を通して測定された約pAの電流も占めないことが表1において結論づけられた。種々のカチオンについて観測されたコンダクタンスは、CsClからLiClまで進む際に溶液の伝導率よりもさらにいっそう速く降下し、これは、グラフェン-カチオン相互作用の影響を示唆している。それにも関わらず、チップ表面と接触しているグラフェンを通してのイオン輸送を完全に排除することができない。
【実施例3】
【0053】
この実施例は、ナノポアを含む実施例Iの単層のベアのグラフェン膜のコンダクタンスの実験結果を記載する。
【0054】
単一のナノメートルサイズのナノポアを、200kVの加速電圧で操作されるJEOL2010FEG透過電子顕微鏡において集束電子線を用いて、実施例Iの数個のグラフェン膜を通して開けた。ナノポア直径を、グラフェン膜の全体の電子露光を最小に保つように、よく広がった(well-spread)電子線においてEM可視化によって測定した。DigitalMicrographソフトウエア(Gatan、Inc.)を用いて較正されたTE顕微鏡写真から測定されるように、異なるナノポア軸に沿った四つの測定値の平均として8nmのナノポア直径が測定された。チップ又はTEMホルダが、いずれかの汚染有機残余を有したときには、アモルファス炭素が、電子線下で可視的に堆積することが分かった。かかるデバイスを廃棄した。ナノポアを開けた後、直ちに調査していなかったグラフェンナノポアチップを約10-5Torrのクリーンバキューム下に保った。
【0055】
図7は、実施例IIにおいて先に与えたような、適用された電圧の関数としてのイオン電流のプロットを、連続グラフェン膜、並びに8nm幅のナノポアを含むグラフェン膜の両方について表示する。これらのプロットは、グラフェン膜のイオン伝導率が、ナノポアによって桁違いに増大することを実証する。
【0056】
既知のグラフェンナノポア直径及び既知のイオン溶液伝導率を用いた実験により、ベアの単層グラフェン膜の有効絶縁厚さの推定を可能にすることが分かる。実施例Iからの十個の別個のグラフェン膜を、5〜23nmの範囲のナノポア直径を含むように処理した。次いで、十個の膜のそれぞれのイオン伝導率を、11Sm-1の伝導率を有する、シス及びトランス溶液リザーバの両方に付与された1MのKCl溶液を用いて測定した。図8は、十個の膜についての、ナノポア直径の関数としての測定されたイオン伝導率のプロットである。図中の実線は、0.6nm厚の絶縁膜のモデル化されたコンダクタンスであり、実験的に測定されたコンダクタンスに最良適合(best fit)である。2nm厚の膜についてモデル化されたコンダクタンスを点線で示し、10nm厚の膜についてモデル化されたコンダクタンスを破線で示し、比較のために提示する。
【0057】
無限に薄い絶縁膜における直径dのナノポアのイオン伝導率Gを:
G薄い=σ・d (1)
(式中、σ=F(μK+μCl)Cは、イオン溶液の伝導率であり、Fは、ファラデー定数であり、cは、イオン濃度であり、μi(c)は、KClイオン溶液に用いられるカリウム(i=K)及び塩化物(i=Cl)イオンの移動度である)によって与える。コンダクタンスの直径への線形依存性は、先に記載されているように、無限に薄い膜についてはナノポアの周囲で鋭いピークとなる電流密度から得られる。ナノポア直径よりも厚い膜では、伝導率が、ナノポア面積に比例することとなる。有限であるが厚さが薄い膜では、コンピュータ計算により、コンダクタンスを予測することができる。
【0058】
図8のプロットに示されているように、式(1)と一致して、5〜23nmの範囲の直径を有する単層のベアのグラフェンナノポアの伝導率はナノポア直径に準線形依存性を示した。モデル化された曲線を、ナノポアの直径及び膜厚の関数として、理想化された非耐電絶縁膜におけるナノポアのイオン伝導率の計算に基づいて作成した。この曲線上の点は、適切な溶液伝導率及び境界条件を用いてイオン電流密度についてのLaplace方程式を数値的に解き、ナノポア面積に対して積分して伝導率を得ることによって得た。これらの数値シミュレーションは、ナノポアの軸に沿って円筒対称性を有する適切な三次元形状においてCOMSOL Multiphysics有限要素ソルバーを用いて行った。Poisson-Nerst-Planck方程式の一式を定常状態レジメンにおいて解いた。対象の物理パラメータである高い塩濃度及び小さな適用電圧の範囲において、数値シミュレーション解は、適合されたコンダクタンスを有するLaplace方程式の解と有意に相違しないことが分かり、これは、コンピュータ上での不利益が有意により少ないということである。この理想化されたモデルにおいて用いられる膜厚Lを、本明細書において、グラフェンの絶縁厚さ、又はLITと称する。図8において測定されたナノポアコンダクタンスに対する最良適合は、LGIT=0.6(+0.9-0.6)nmをもたらし、ここで、不確実性を、最小二乗誤差分析から決定した。
【実施例4】
【0059】
この実施例は、実施例Iの単層のベアのグラフェン膜におけるナノポアを通ったDNA転位の実験測定を記載する。
【0060】
上記実施例のミクロ流体セルを、1mMのEDTAを含有する3MのKCl塩溶液によってpH10.5でフラッシングした。先に説明したように、高い塩濃度及び高いpHが、DNA-グラフェン相互作用を最小にすることが分かっており、したがって、これらの溶液条件は、好ましくあり得る。二重鎖のλDNA分子の10kbpの制限断片を系のシスチャンバに導入した。負に帯電したDNA分子を、160mVの電気泳動力の適用によってナノポアまで電気泳動的に引き抜き、ナノポアを通って駆動させた。ナノポアを通過する各絶縁分子は、ポリマーのサイズ及びコンホメーションの両方を反映する方法でナノポアのイオン伝導率を一時的に低減させ又はナノポアを遮断した。DNA断片が、適用された電気泳動力によってナノポアを遮断したとき、転位事象を、適切なBesselフィルタ機能によって回旋された複数の方形波からなって記録条件を模倣する適合機能を用いてMATLABによって分析した。
【0061】
図9は、電圧バイアスをシス及びトランスリザーバ間に適用したときから1分間の時間の関数としての、ナノポアを通る測定されたイオン電流のプロットである。プロットにおいて、測定された電流のそれぞれの降下は、ナノポアを通ったDNAの転位に相当し、二つのパラメータ、すなわち、平均電流降下又は遮断、及び、ナノポアを通って完全に転位する分子に要する時間である、遮断の持続時間の特性解析を可能にする。1分の期間における、ベアのグラフェン膜のナノポアについての多数の転位事象に注目されたい、これは、高いpHの塩溶液による、ベアのグラフェン膜表面へのDNAの接着の成功裏な抑制、並びに、DNAの転位実験のための準備の間のグラフェン膜の注意深いクリーニング及び取り扱いを示している。
【0062】
図10A、10B及び10Cは、単一の転位事象でナノポアを通る測定されたイオン電流のプロットである。図10Aにおいて、一列に並んだ形式におけるDNAの転位の間のイオン電流の流れの遮断が実証されている。図10Bにおいて、部分的に折り畳まれたDNAの転位の間のイオン電流の流れの遮断が実証されている。最後に、図10Cにおいて、半分に折り畳まれたDNAの転位の間のイオン電流の流れの遮断が実証されている。これらの三つの実験的な転位事象は、DNA断片の転位の間に起こり得る、可能性のあるイオン電流の流れの測定の典型であり、DNAの折り畳み及びコンホメーションが、より厚い従来の固体状態のナノポアと同様にグラフェンナノポアによって起こり得ることを実証している。
【0063】
5nm幅のナノポアを実施例Iからの別個のグラフェン膜において形成し、二重鎖DNAの転位実験をpH10.4の3MのKCl溶液について行った。それぞれの単一分子の転位事象を、二つのパラメータ:平均電流降下又は遮断、及び、ポアを通って完全に転位する分子に要する時間である、遮断の持続時間;によって特性解析することができる。図11は、グラフェンナノポアを通った400の二重鎖DNAの単一分子の転位のそれぞれについて電流降下の値及び遮断持続時間を示している散布図である。このデータの特徴的な形状は、折り畳まれた及び折り畳まれていない殆ど全ての事象が一定の電子電荷損失(ecd)の線の付近にある場合に窒化シリコンナノポアの実験において得られた形状と類似している、すなわち、他の場合の同一の分子がどのように折り畳まれているかに関わらず、それぞれが、各分子がナノポアを通って移動するのに要する全時間の間に、ナノポアを通して同量のイオン電荷移動を遮断する。ここで、先の実験と同様に、二重鎖DNAは、グラフェン表面に粘着することによって抑制されていないナノポアを通過したことが実証されている。プロットに包囲されている事象では、この条件を満たすものが少なくなく、これらの長い転位時間が、グラフェン-DNA相互作用を示しており、このことは、ナノポアを通る転位を遅延させる。
【0064】
図11のプロットにおいて、挿入図は、単一分子の二つの転位事象を示す。右手の事象において、分子は、図10Aの実施例と同様に、折り畳まれていない線状形式にてナノポアを通過した。左手の事象において、分子は、図10Bの実施例と同様に、ナノポアに進入したときに自身の上に折り畳まれており、短時間の間に電流遮断を増大させた。
【0065】
DNAの転位事象の間のナノポアコンダクタンスの測定を、グラフェン膜の有効絶縁厚さLITを評価するための代替の方法として使用することができる。実験的に決定した、開いたナノポア及びDNA-遮断されたナノポアのコンダクタンスを、膜厚及びナノポア直径が適合パラメータである場合に数値解によって決定したものと比較した。ここで、DNA分子を、ナノポアの中心を通り抜ける、直径2nmの長く堅い絶縁ロッドとしてモデル化した。方位分解能の計算のために、DNAモデルに直径2.2nmのステップを付加して、非連続部がナノポアの中心を通って転位するときのイオン電流における変化を計算した。全イオン電流を、ナノポアの直径を横切る電流密度を積分することによって計算した。
【0066】
直径2.0nmの折り畳まれていない二重鎖DNAの転位の間に観測された平均電流遮断ΔI=1.24±0.08nA、及びDNAの非存在において観測されたナノポアのコンダクタンスG=105±1nSを用いて、グラフェン膜の絶縁厚さをLIT=0.6±0.5nmと決定し、これは、先で議論した、開いたナノポアの測定のみからの上記の推定した値と極めて一致した。これらの計算から推定したナノポア直径dGIT=4.6±0.4nmもまた、ナノポアのTEMから得られた、5±0.5nmの幾何学的直径と一致する。
【0067】
両方の実験からの最良適合値LIT=0.6nmは、膜のそれぞれの側においてグラフェン-水距離が0.31〜0.34nmであることを示している分子動力学シミュレーションと一致している。LITはまた、固定化水分子及び吸着イオンのStern層における典型的な存在によっても影響され得る。一方で、理論研究は、グラフェンにおけるいずれの固定化水層にも反論しており、実験的測定は、水と内部の曲線状のカーボンナノチューブ表面との間の異常に高いスリップを支持している。ベアの単一グラフェン層に具体的に吸着したイオンの表面化学について実際には殆ど知られていないが、1nm未満の直径を有するカーボンナノチューブの内部体積を通るイオン電流の測定は、イオンがこれらの黒鉛表面に全く固定化されていないことを示すことができる。ここで決定したLITに関するサブナノメートルの値は、以下の見解を支持している。
【0068】
ここで得られたLITに関する極めて小さな値は、単層のベアのグラフェン膜におけるナノポアが、分子がナノポアを通過するときに分子の長さに沿って空間及び/又は化学的な分子構成を識別するのに類を見ないほどに最適であることを示唆している。かかるナノポアによって得ることができる分子検出分解能の数値モデル化をグラフェン膜絶縁厚さLITの決定をベースとして達成することができる。
【0069】
かかるモデルの例において、2.4nmの直径のナノポアの中心を通って対称的に転位する長く絶縁の2.2nmの直径のシリンダを特定する。その長さに沿った一つの位置において、シリンダ直径は、2.2nm〜2.0nmまで非連続的に変化する。非連続部がポアを通過するときのこの幾何学形状についてのコンダクタンスを解くために、図12のプロットに示すデータを得る。ナノポアコンダクタンスの増大に相当する、イオン電流の流れの遮断の減少は、分子シリンダの大きな直径部分がナノポアを出るときに明確に見られる。二つのLIT値についての計算の結果を示す。保守的なLIT=1.5nmについて、伝導率がその最大値の75%から25%に変化する距離として定義された空間分解能は、δzGIT=7.5Åによって与えられる一方で、最良適合値LGIT=0.6nmは、δzGIT=3.5Åを導く。
【0070】
先に詳述した実験及び先に記載されているモデル化の両方から、ベア単層グラフェン膜におけるナノポアが、サブナノメートル分解能によって分子をプローブすることが本質的に可能であるということを結論づけることができる。グラフェンナノポア境界を機能化すること、又は転位の間のその局所的な面内イオン伝導率を観測することで、この系の分解能をさらに増大させる追加又は代替の手段を提供することができる。
【0071】
先の記載から、ベアの単層グラフェンの原子的に薄いシートから、膜厚よりも大きい直径のナノポアを含む自己支持膜を作製して、ナノポアを通る分子転位事象を検知することができる。ベアの単層として、グラフェン膜の厚さは最小となり、また、周辺のイオン電流の流れが最大となり且つナノポアの長さの関数としてのナノポア伝導率が最大となる短い長さのナノポアレジメンにおいて安全である。グラフェン膜によって付与される非常に短い長さのナノポアはまた、グラフェンナノポアが、ポリマー中に密集したモノマーを検知して、これにより、例えば、DNAポリマー鎖における各モノマーによって引き起こされる種々のイオン遮断を順次解明することも可能にする。
【0072】
これらの考えに基づいて、技術の進歩がかかることを可能にするときに代替材料の固体状態膜を単層のベアのグラフェン膜層の代用とし得ることが認識される。具体的には、約1nm未満の厚さであり、膜厚を超える直径を有する、膜厚を通って延在するナノポアを機械的に支持することができる固体状態膜を使用して、先に記載されている分子検知能及び特にDNA検知能を得ることができる。膜のナノポアを通しての分子転位のための、シス及びトランスリザーバ間の膜材料の配置を可能にするには、膜の平面に垂直方向の抵抗率のための要件、機械的完全性、及び先に記載されている他の特性が必要とされ得ることを理解されたい。イオン電流遮断の測定又は他の電気的測定は、所与の用途に好適であるように使用されてよく、特定の測定技術は必要とされない。
【0073】
この理解をさらに拡大すると、ナノポアに対する代替構成が使用され得ることが認識される。例えば、非常に鋭い又は尖った縁部位置を有するアパーチャであって、その直径がナノスケールまで低減されていて、直径の低減の位置の厚さよりも大きいアパーチャを生成することができる膜又は他の構成体を使用することもできる。これにより、アパーチャがこれらの要件を満たすと認識され得るいずれの固体状態の構造的構成も、先に記載されている分子検知のための利点を達成するのに使用することができる。
【0074】
当然ながら、当業者は、当該分野への本発明の寄与の精神及び範囲から逸脱することなく、先に記載されている実施形態に対する種々の変更及び追加をなし得ることが認識される。したがって、本明細書により付与されようとする保護は、適正に本発明の範囲内にある主題としての特許請求の範囲及びこれらの全ての等価物まで拡大するとみなされるべきであることを理解されたい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンナノポアセンサであって、
実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン膜表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在するナノポアを含む、グラフェン膜と、
イオン溶液中の化学種を第1のグラフェン膜表面においてナノポアに提供するための、第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、
第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するための、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部と、
ナノポアの対向する両側に接続されている、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するための電気回路と
を含むグラフェンナノポアセンサ。
【請求項2】
電気回路が、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するために、第1のイオン溶液と第2のイオン溶液との間に接続されている、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項3】
電気回路が、ナノポアを通る時間依存性イオン電流の流れを測定するために接続された電流モニターを含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項4】
電流モニターが、ナノポアを通る化学種の転位を示す時間依存性イオン電流の流れの遮断を測定するために接続されている、請求項3に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項5】
ナノポアに電圧をかけて、ナノポアを通る化学種の転位を電気泳動的に引き起こすための、第1及び第2のイオン溶液のそれぞれに設けられた電極をさらに含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項6】
イオン溶液が、約2Mを超える塩含量を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項7】
イオン溶液が、約8を超えるpHを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項8】
イオン溶液がKClである、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項9】
ナノポアが、ナノポアが延在するグラフェン膜の第1の表面と第2の表面との間のグラフェン膜厚より大きい直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項10】
ナノポアが、約1nmと約10nmとの間である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項11】
ナノポアが、約1nmと約5nmとの間である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項12】
ナノポアが、約3nm未満である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項13】
ナノポアが、約2.5nm未満である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項14】
グラフェン膜が、約2nm未満である厚さを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項15】
グラフェン膜が、約1nm未満である厚さを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項16】
グラフェン膜が、約0.7nm未満である厚さを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項17】
ナノポアが、ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種に特有の直径と比べ約5%以下だけ大きい直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項18】
グラフェン膜が、膜の縁部において膜フレーム構造体によって機械的に支持されている、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項19】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、生体分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項20】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、DNA分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項21】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、RNA分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項22】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、オリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項23】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、ポリマー分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項24】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、ヌクレオチドを含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項25】
グラフェンナノポアセンサであって、
実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在し、約3nm未満であってグラフェン厚さを超える直径を有するナノポアを含むグラフェン膜と、
ナノポアの対向する両側に接続されている、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するための電気回路と
を含むグラフェンナノポアセンサ。
【請求項26】
イオン溶液中のポリマー分子を第1のグラフェン膜表面においてナノポアに提供するための、第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、
第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通ってポリマー分子及びイオン溶液が転位した後にポリマー分子及びイオン溶液を収集するための、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部と
をさらに含む、請求項25に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項27】
電流モニターが、ナノポアを通るポリマー分子の転位を示す時間依存性イオン電流の流れの遮断を測定するために接続されている、請求項25に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項28】
ナノポアに電圧をかけて、ナノポアの化学種の転位を電気泳動的に引き起こすための、第1及び第2のイオン溶液のそれぞれに設けられた電極をさらに含む、請求項26に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項29】
イオン溶液が、約2Mを超える塩含量及び約8を超えるpHを特徴とする、請求項25に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項30】
ナノポアセンサであって、
第1の膜表面と第1の膜表面の対向側にある第2の膜表面との間にある、約1nm未満である厚さを有する固体状態膜と、
第1及び第2の膜表面の間の膜厚を通して延在し、膜厚より大きい直径を有するナノポアと、
イオン溶液中の化学種を第1の膜表面においてナノポアに提供するための、第1の膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、
第1の膜表面から第2の膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するための、第2の膜表面から第2のリザーバまでの接続部と、
固体状態膜におけるナノポアを通るイオン溶液中の化学種の転位をモニタリングするために接続された電気回路と
を含む、ナノポアセンサ。
【請求項31】
ナノポアが、約1nmと約10nmとの間である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項32】
ナノポアが、約1nmと約5nmとの間である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項33】
ナノポアが、約3nm未満である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項34】
ナノポアが、約2.5nm未満である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項35】
ナノポアが、ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種に特有の直径と比べ約5%以下だけ大きい直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項36】
ポリマー分子を評価するための方法であって、
イオン溶液中に、評価すべきポリマー分子を提供することと、
イオン溶液中のポリマー分子を、実質的にベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通って、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面まで転位させることと、
グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れをモニタリングすることと
を含む方法。
【請求項37】
イオン電流の流れをモニタリングすることが、ナノポアを通るポリマー分子の転位を示す時間依存性イオン電流の流れの遮断を測定することを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ナノポアに電圧をかけて、ポリマー分子をナノポアを通って電気泳動的に転位させることをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項1】
グラフェンナノポアセンサであって、
実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン膜表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在するナノポアを含む、グラフェン膜と、
イオン溶液中の化学種を第1のグラフェン膜表面においてナノポアに提供するための、第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、
第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するための、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部と、
ナノポアの対向する両側に接続されている、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するための電気回路と
を含むグラフェンナノポアセンサ。
【請求項2】
電気回路が、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するために、第1のイオン溶液と第2のイオン溶液との間に接続されている、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項3】
電気回路が、ナノポアを通る時間依存性イオン電流の流れを測定するために接続された電流モニターを含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項4】
電流モニターが、ナノポアを通る化学種の転位を示す時間依存性イオン電流の流れの遮断を測定するために接続されている、請求項3に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項5】
ナノポアに電圧をかけて、ナノポアを通る化学種の転位を電気泳動的に引き起こすための、第1及び第2のイオン溶液のそれぞれに設けられた電極をさらに含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項6】
イオン溶液が、約2Mを超える塩含量を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項7】
イオン溶液が、約8を超えるpHを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項8】
イオン溶液がKClである、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項9】
ナノポアが、ナノポアが延在するグラフェン膜の第1の表面と第2の表面との間のグラフェン膜厚より大きい直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項10】
ナノポアが、約1nmと約10nmとの間である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項11】
ナノポアが、約1nmと約5nmとの間である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項12】
ナノポアが、約3nm未満である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項13】
ナノポアが、約2.5nm未満である直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項14】
グラフェン膜が、約2nm未満である厚さを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項15】
グラフェン膜が、約1nm未満である厚さを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項16】
グラフェン膜が、約0.7nm未満である厚さを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項17】
ナノポアが、ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種に特有の直径と比べ約5%以下だけ大きい直径を特徴とする、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項18】
グラフェン膜が、膜の縁部において膜フレーム構造体によって機械的に支持されている、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項19】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、生体分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項20】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、DNA分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項21】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、RNA分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項22】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、オリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項23】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、ポリマー分子を含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項24】
ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種が、ヌクレオチドを含む、請求項1に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項25】
グラフェンナノポアセンサであって、
実質的にベアの単層グラフェン膜であって、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面までグラフェン膜の厚さを通って延在し、約3nm未満であってグラフェン厚さを超える直径を有するナノポアを含むグラフェン膜と、
ナノポアの対向する両側に接続されている、グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れを測定するための電気回路と
を含むグラフェンナノポアセンサ。
【請求項26】
イオン溶液中のポリマー分子を第1のグラフェン膜表面においてナノポアに提供するための、第1のグラフェン膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、
第1のグラフェン膜表面から第2のグラフェン膜表面までナノポアを通ってポリマー分子及びイオン溶液が転位した後にポリマー分子及びイオン溶液を収集するための、第2のグラフェン膜表面から第2のリザーバまでの接続部と
をさらに含む、請求項25に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項27】
電流モニターが、ナノポアを通るポリマー分子の転位を示す時間依存性イオン電流の流れの遮断を測定するために接続されている、請求項25に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項28】
ナノポアに電圧をかけて、ナノポアの化学種の転位を電気泳動的に引き起こすための、第1及び第2のイオン溶液のそれぞれに設けられた電極をさらに含む、請求項26に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項29】
イオン溶液が、約2Mを超える塩含量及び約8を超えるpHを特徴とする、請求項25に記載のグラフェンナノポアセンサ。
【請求項30】
ナノポアセンサであって、
第1の膜表面と第1の膜表面の対向側にある第2の膜表面との間にある、約1nm未満である厚さを有する固体状態膜と、
第1及び第2の膜表面の間の膜厚を通して延在し、膜厚より大きい直径を有するナノポアと、
イオン溶液中の化学種を第1の膜表面においてナノポアに提供するための、第1の膜表面から第1のリザーバまでの接続部と、
第1の膜表面から第2の膜表面までナノポアを通って該化学種及びイオン溶液が転位した後に該化学種及びイオン溶液を収集するための、第2の膜表面から第2のリザーバまでの接続部と、
固体状態膜におけるナノポアを通るイオン溶液中の化学種の転位をモニタリングするために接続された電気回路と
を含む、ナノポアセンサ。
【請求項31】
ナノポアが、約1nmと約10nmとの間である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項32】
ナノポアが、約1nmと約5nmとの間である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項33】
ナノポアが、約3nm未満である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項34】
ナノポアが、約2.5nm未満である直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項35】
ナノポアが、ナノポアを通って転位するイオン溶液中の化学種に特有の直径と比べ約5%以下だけ大きい直径を特徴とする、請求項30に記載のナノポアセンサ。
【請求項36】
ポリマー分子を評価するための方法であって、
イオン溶液中に、評価すべきポリマー分子を提供することと、
イオン溶液中のポリマー分子を、実質的にベアの単層グラフェン膜におけるナノポアを通って、第1のグラフェン膜表面から第1のグラフェン表面の対向側にある第2のグラフェン膜表面まで転位させることと、
グラフェン膜におけるナノポアを通るイオン電流の流れをモニタリングすることと
を含む方法。
【請求項37】
イオン電流の流れをモニタリングすることが、ナノポアを通るポリマー分子の転位を示す時間依存性イオン電流の流れの遮断を測定することを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ナノポアに電圧をかけて、ポリマー分子をナノポアを通って電気泳動的に転位させることをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−505448(P2013−505448A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529921(P2012−529921)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/049238
【国際公開番号】WO2011/046706
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/049238
【国際公開番号】WO2011/046706
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
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