説明

高機能性トリアリールメタン化合物

【課題】高い鮮明性及び発色性を有し、耐熱堅牢性に優れた染料組成物を提供する。
【解決手段】例えば下式で例示される反応で得られるトリアリールメタン化合物及び該化合物を含む油性または水性染料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高機能性トリアリールメタン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアリールメタン系染料は非常に鮮明で発色性が高い事が特徴であり、バイオレット、ブルーあるいはグリーン色の色材として各種塗料、水性インキ、油性インキ、インクジェット用インキ、カラーフィルター用など幅広い用途で使用されている。一般に色材に要求される特性はそれぞれ用途によって異なるものの色相が鮮明で、高発色性を有し、着色物が光や熱等に対して堅牢である事がどのような用途においても多く要求される。トリアリールメタン系染料としては構造中に4級窒素等のカチオン基を有するカチオン性染料と、カチオン性染料構造にスルホン基などのアニオン基を導入し、アニオン性としたアニオン染料とが知られているが、いずれも発色性が優れる反面、耐光性、耐熱性、耐湿熱性、耐水性などの堅牢性が劣るという欠点がある。
【0003】
このため、トリアリールメタン系染料の鮮明性及び発色性を有し、且つ高堅牢な染料が要望されているが、これらの性能を兼ね備えた染料は見出されていない。特許文献1にはカチオン性トリアリールメタン化合物と塩素イオンやアリールスルホン酸イオンとの塩化合物が記載されているが、本発明者らの検討の結果、この特許文献に記載されているトリアリールメタン化合物は耐光性、耐熱性、耐水性が不十分であった。また特許文献2にはフッ素化アルキルスルホニル対イオンを有するトリアリールメタン系カチオン染料についての記載はあるが、具体的な化合物の例示は無く、また耐光性、耐熱性、耐湿熱性、耐水性等の堅牢性に関する記載もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−304766号公報
【特許文献2】特開平8−253705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のごとく、トリアリールメタン系染料の鮮明性及び発色性を有し、且つ耐光性、耐熱性、耐湿熱性、耐水性等の堅牢性に優れる新規なトリアリールメタン化合物並びに該化合物を用いた染料組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、カチオン性のトリアリールメタンと特定のアニオンとの塩化合物がトリアリールメタン系染料の鮮明性及び発色性を維持し、かつ従来に比べ飛躍的に耐光性、耐熱性、耐湿熱性、耐水性が向上する事を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)一般式(1)で表されるトリアリールメタン化合物
【化1】

(式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、C1−C30のアルキル基、フェニル基またはベンジル基を表し、R〜Rの内少なくとも1つはC7−C30のアルキル基を有する。R〜R20は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、C1−C6のアルキル基を表す。Xはビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンまたはトリストリフルオロメタンスルホニルメチドアニオンを表す)、
(2)式(1)中のR又はRの少なくとも一つがC7−C30のアルキル基を有する(1)に記載のトリアリールメタン化合物、
(3)Xがトリストリフルオロメタンスルホニルメチドアニオンである事を特徴とする(1)又は(2)に記載のトリアリールメタン化合物、
(4)(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のトリアリールメタン化合物と少なくとも1種以上の油性溶媒を含有する油性染料組成物、
(5)(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のトリアリールメタン化合物及び水を含有する水性染料組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトリアリールメタン化合物は、上記の通り鮮明性及び発色性に優れ、油性または水性染料組成物を形成して染料着色体に加工すると、従来品よりも堅牢性に優れた特性を示すものである。すなわち、本発明のトリアリールメタン化合物は染料着色体に利用でき、カラーフィルターやインクジェット用インキ等の幅広い用途に応用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のトリアリールメタン化合物は、前記式(1)で表される。
【0010】
本発明のトリアリールメタン化合物としては耐熱性、耐湿熱性及び耐水性などの堅牢性に優れる点で前記式(1)の化合物が好ましい。式(1)のR〜Rにおいて、C1−C30のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基(s−ブチル基)、イソブチル基、ペンチル基、1−エチルプロピル基、1−メチルブチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−ヘプチル基、シクロへキシル基、ヒドロキシプロピル基、2−スルホエチル基、カルボキシエチル基、シアノエチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、アラキル基、エイコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソアラキル基、イソエイコシル基、イソヘンイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基、イソペンタコシル基、イソヘキサコシル基、イソヘプタコシル基、イソオクタコシル基、イソノナコシル基、イソトリアコンチル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルヘプチル基、1−メチルヘプチル基、1−シクロヘキシルエチル基、1−ヘプチルオクチル基、2−メチルシクロへキシル基、3−メチルシクロへキシル基、4−メチルシクロへキシル基、2,6−ジメチルシクロへキシル基、2,4−ジメチルシクロへキシル基、3,5−ジメチルシクロへキシル基、2,5−ジメチルシクロへキシル基、2,3−ジメチルシクロへキシル基、3,3,5−トリメチルシクロへキシル基、4−t−ブチルシクロへキシル基、2−エチルヘキシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基等が挙げられる。なお、工業的には一般式(1)のR〜Rの中でもR又はRの少なくともいずれか1つがC7−C30のアルキル基であることが好ましく、2−ヘプチル又は2−メチルシクロヘキシル基であることが特に好ましい。
【0011】
一般式(1)のR〜Rにおいて、フェニル基またはベンジル基は置換基を有しても良く、その置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等の(C1−C5)アルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、スルホン酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等の(C1−C6)アルコキシ基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシ(C1−C5)アルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、ブトキシエチル基等の(C1−C5)アルコキシ(C1−C5)アルキル基、2−ヒドロキシエトキシ基等のヒドロキシ(C1−C5)アルコキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基等のアルコキシ(C1−C5)アルコキシ基、2−スルホエチル基、カルボキシエチル基、シアノエチル基等が挙げられる。
【0012】
一般式(1)のR〜R20において、C1−C6アルキル基は置換基を有しても良く、その置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロへキシル基、ヒドロキシプロピル基、2−スルホエチル基、カルボキシエチル基、シアノエチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
【0013】
一般式(1)のR〜R20において、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0014】
一般式(1)のR〜R20としては、水素原子、塩素原子、またはC1−C6の無置換のアルキル基が好ましい。
【0015】
本発明のトリアリールメタン化合物は、例えば、株式会社技報堂発行の細田豊著「理論製造染料化学」(781〜787頁)に記載された公知の合成法で得られる。
【0016】
本発明のトリアリールメタン化合物を塩交換する場合には、Xが塩素アニオン等である化合物を反応溶媒(例えば、水、またはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N,N−ジメチルホルアミド(以下DMFと略記)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略記)等の水溶性極性溶媒が挙げられ、これらの溶媒は単独、または混合してもよい。)に溶解し、対応する塩または酸を0.5〜3当量程度加え、所定温度(例えば0〜100℃)で攪拌し、容易に合成でき、析出した結晶をろ取する事により得られる。
【0017】
式(1)で示されるトリアリールメタン化合物の具体例を以下の表1に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【表1】

表1中、置換基Rについて、Meはメチル基を、Etはエチル基を、それぞれ表す。また、Xがαの場合はトリストリフルオロメタンスルホニルメチドアニオンを、βの場合はビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンをそれぞれ表す。
【0018】
本発明のトリアリールメタン化合物は、油性染料組成物、または水性染料組成物としては各種塗料、水性インキ、油性インキ、インクジェット用インキ、カラーフィルター用着色組成物に用いられる。油性染料組成物および水性染料組成物は、例えば普通紙、コート紙、プラスチックフィルム、プラスチック基板等の被着色材料に用いられる。また、本発明の染料組成物を被着色材料に付与する方法としては、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の各種印刷方法あるいはスピンコーター、ロールコーター等による塗工方法が挙げられる。
【0019】
本発明の油性または水性染料組成物は、本発明のトリアリールメタン化合物及び、油性染料組成物の場合は油溶性有機溶媒を、水性染料の場合は水性媒体を含有する。本発明の油性または水性染料組成物中、本発明のトリアリールメタン化合物の含有率は0.2〜40質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。また本発明の油性または水性染料組成物において、色相の調整などの目的で必要に応じて前記式(1)以外の色材を添加してもよい。添加できる色材としては、例えば酸性染料、反応性染料、直接性染料、カチオン染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散染料、ソルベント染料などの油溶性染料、有機顔料、カーボンブラック等が挙げられ、溶媒に溶解した状態あるいは分散した状態で添加される。
【0020】
本発明の水性染料組成物は、水性媒体に前記式(1)のトリアリールメタン化合物を分散させて調製する事ができる。水性媒体としては、水または水溶性有機溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレンエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等のアミン類;2−ピロリドン、NMP、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0021】
本発明の油性染料組成物は、少なくとも1種以上の油溶性有機溶媒に前記式(1)のトリアリールメタン化合物を溶解または分散させて調整する事ができる。用いられる油溶性有機溶媒としては、例えば、エタノール、ペンタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、テトラフルオロプロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のグリコール誘導体;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ブチルフェニルエーテル、ベンジルエーテル、ヘキシルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ブチル等のエステル類;アセトニトリル、DMF、ジメチルスルホキシド、スルホラン、NMP、2−ピロリドン等の極性有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
油性染料組成物に用いられる分散剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェートのアンモニウム、ポリオキシアルキルエーテル燐酸エステル塩など公知のアニオン界面活性剤、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、スチレン、スチレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、無水マレイン酸、無水マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体からなるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、またはこれらの塩等の高分子分散剤などが挙げられ、これらの1種以上を分散する色素化合物に対して10〜100質量%の範囲で使用するのが好ましい。またこれらの分散剤と併せて、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合物等の公知のノニオン系の界面活性剤やシリコーン系、アセチレン系の公知の消泡剤を必要に応じ、顔料分散時及び/または顔料分散化後に添加する事ができる。
【0023】
顔料を微粒子に分散する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いる方法が挙げられるが、これらの中でもサンドミル(ビーズミル)が好ましい。またサンドミル(ビーズミル)における顔料の粉砕においては、径の小さいビーズを使用する、ビーズの充填率を大きくする事等により粉砕効率を高めた条件で処理することが好ましく、更に粉砕処理後に濾過、遠心分離などで素粒子を除去することが好ましい。本発明の染料組成物にはその他の添加剤として表面調整剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等を含んでも良い。表面調整剤としては、ポリシロキサン系あるいはポリジメチルシロキサン系の界面活性剤、防腐・防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩等を、pH調整剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ金属類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の3級アミン類等が挙げられ、それぞれ必要に応じて添加する事ができる。
【0024】
また本発明の油性または水性染料組成物中には被着色体への色素の定着性を向上させる目的で、必要な範囲内で組成中の媒体と相溶性のあるポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系又はポリアクリル系樹脂を含有させる事が好ましい。また定着性を向上させる目的で、必要な範囲内でエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマーや重合開始剤などを含有させてもよい。本発明の油性または水性染料組成物は上記各成分を溶媒に溶解あるいは分散及び混合する事によって調製することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中、「%」は特定しない限り「質量%」を意味する。また、実施例にて得られた各種化合物の分解温度は、TG/DTAにより測定し、耐湿熱性の評価は染料着色体の色度(L値、a値、b値)を下記の色度測定装置により測定し評価した。測定機器名は以下の通りである。
1.TG/DTA(示唆熱重量同時測定):
セイコーインスツル(株)製商品名TG/DTA220
2.色度測定装置:(株)島津製作所製UV−3150
【0026】
実施例1 化合物No.1の合成
【化2】

(1)1−ブロモナフタレン(12.4g、0.06mol)と3−アミノヘプタン(7.6g、0.06mol)、ナトリウムt−ブトキシド(8.1g、0.08mol)、Pd2(dba)3(東京化成工業製(トリスジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、0.003eq.対1−ブロモナフタレン)、BINAP(東京化成工業製(±)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、0.008eq.対1−ブロモナフタレン)をトルエン120mlに溶解し、85℃で3時間撹拌した。その後室温に戻して反応液をカラムろ過し、濾液を減圧留去することで上記の化合物(100)(12.8g、94%)を得た。
【0027】
【化3】

(2)実施例1−(1)で得られた化合物(100)(4.8g、0.02mol)、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(6.5g、0.02mol)、オキシ塩化リン(3.4g、0.022mol)をトルエン8mlに溶解させた混合溶液を、60℃で4時間反応させた。室温に戻した後、水を加え分液し、有機層を減圧下で濃縮することで化合物(101)(11.3g、99%)を得た。
【0028】
(3)実施例1−(2)で得られた化合物(101)(3.0g、0.005mol)を水10mlとメタノール40mlの混合溶液に溶解し、攪拌しながら、DMF3mlとメタノール20mlの混合溶液にトリストリフルオロメタンスルホニウムメチドのセシウム塩2.8gを溶解させた溶液を加えた。室温で2時間撹拌した後、析出した結晶をろ取、水洗、乾燥し、青色の結晶(表1の化合物No.1)2.2gを得た(分解温度:258℃)。
【0029】
実施例2 化合物No.3の合成
【化4】

(1)1−ブロモナフタレン(10.0g、0.05mol)と2−メチルシクロへキシルアミン(6.0g、0.05mol)、ナトリウムt−ブトキシド(6.5g、0.07mol)、Pd(dba)(0.003eq.対1−ブロモナフタレン)、BINAP(0.008eq.対1−ブロモナフタレン)をトルエン120mlに溶解し、80℃で3時間撹拌した。その後、室温に戻して反応液をカラムろ過し、濾液を減圧留去することで上記式の化合物(102)(10.5g、91%)を得た。
【0030】
【化5】

(2)実施例2−(1)で得られた化合物(102)(9.3g、0.04mol)、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(11.50g、0.04mol)、オキシ塩化リン(6.0g、0.04mol)をトルエン50mlに溶解させた混合溶液を、60℃で3時間反応させた。室温に戻した後、水を加え分液し、有機層を減圧下で濃縮することで上記式の化合物(103)(22.8g、98%)を得た。
【0031】
(3)実施例2−(2)で得られた化合物(103)(3.0g、0.005mol)を水10mlとメタノール40mlの混合溶液に溶解し、攪拌しながら、DMF3mlとメタノール20mlの混合溶液にトリストリフルオロメタンスルホニウムメチドのセシウム塩2.8gを溶解させた溶液を加えた。3時間、60℃で加熱撹拌した後、析出した結晶をろ取、水洗、乾燥し、青色の結晶(表1の化合物No.3)3.2gを得た(分解温度:261℃)。
【0032】
実施例3 油性染料組成物及び染料着色体の作成
テトラフルオロプロパノール10部に、前記実施例で得られた、表1の化合物No.1、表1の化合物No.3、0.5部をそれぞれ溶解し、油性染料組成物を作成した。得られた油性染料組成物をポリカーボネート基盤にスピンコートし、80℃で30分乾燥し、染料着色体を作成した。
【0033】
なお、以下の表における比較例1は、下記式(104)で表されるBasic Blue 7を使用し、同様の着色体を作成した。
【化6】

耐湿熱性試験
上記の方法で得られた染料着色体を、85℃、85%RHの条件の恒温恒湿機中40時間放置した。試験前後の染料着色体を分光光度計でL値、a値、b値を、標準光としてC光源、2度視野角で測色し、下記式より色差を求めた。尚、色差が小さい程、色相の変化が少ないため優れている事を示す。
色差=[(試験前L値−試験後L値)+(試験前a値−試験後a値)+(試験前b値−試験後b値)1/2
耐湿熱試験における測色の測定値および色差を以下の表2乃至表4に示す。
【0034】
表1の化合物No.1の着色体の測色結果を以下の表2に示す。
(表2)
L値 a値 b値
試験前 84.47 −6.85 −24.87
試験後 84.93 −6.71 −24.13
試験前後差 −0.46 −0.14 −0.74
【0035】
表1の化合物No.3の測色結果を以下の表3に示す。
(表3)
L値 a値 b値
試験前 84.19 −7.48 −25.73
試験後 84.3 −7.2 −25.53
試験前後差 −0.07 0.28 −0.2
【0036】
比較例1の測色結果を以下の表4に示す。
(表4)
L値 a値 b値
試験前 76.85 −4.04 −38.17
試験後 94.48 −2.49 − 5.53
試験前後差 −17.63 −1.55 −32.64
【0037】
上記の表2乃至表4から化合物No.1、化合物No.3および比較例1の色差を求めた結果を下表5に示す。
(表5)
色 差
化合物No.1 0.9
化合物No.3 0.4
比較例1 37.1
【0038】
表5の結果から明らかなように、比較例1の染料着色体の試験前後の色差が37.1と非常に大きな値を示すのに対し、本発明の染料着色体は色差0.9及び0.4と非常に小さな値を示し、耐湿熱性に極めて優れていることが判る。
【0039】
以上のように本発明の前記式(1)で表されるトリアリールメタン化合物は耐湿熱性に極めて優れた特性を有するものであり、本発明のトリアリールメタン系染料はカラーフィルター用インキやインクジェット用インキ等、アプリケーションの幅が広がり、産業的な価値が高いと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールメタン化合物
【化1】

(一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、C1−C30のアルキル基、フェニル基またはベンジル基を表し、R〜Rの内少なくとも1つはC7−C30のアルキル基を有する。R〜R20は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、C1−C6のアルキル基を表す。Xはビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンまたはトリストリフルオロメタンスルホニルメチドアニオンを表す)。
【請求項2】
式(1)中のR又はRの少なくとも一つがC7−C30のアルキル基を有する請求項1に記載のトリアリールメタン化合物。
【請求項3】
がトリストリフルオロメタンスルホニルメチドアニオンである事を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトリアリールメタン化合物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトリアリールメタン化合物と少なくとも1種以上の油性溶媒を含有する油性染料組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトリアリールメタン化合物及び水を含有する水性染料組成物。