説明

高次波長板を含むマイクロディスプレイ・パネルのコントラスト補償

【課題】Oプレートとして構成され、かつ薄膜トランジスタ層を支持する高次波長板を有する液晶(LC)マイクロディスプレイのパネル・コントラストを改善するためのコントラスト補償器を提供すること。
【解決手段】このコントラスト補償器は、薄膜トランジスタ基板の複屈折と符号が反対の複屈折を有するOプレートとして構成された逆高次波長板を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、一般にコントラスト補償に関し、具体的には高次波長板を含む液晶マイクロディスプレイ・パネルのコントラスト補償に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶(LC)マイクロディスプレイは、投影システムで広範に見られ、例えばビジネス・プレゼンテーションおよび家庭用娯楽器具(例えば大画面テレビ)で使用される。一般に、これら比較的小型の表示装置(例えば、一般に対角線上で1.5インチ未満のもの)は、適当な表示サイズに投影映像を拡大する1つまたは複数の光学レンズと結合される。従来、LCマイクロディスプレイは、2つのタイプの技術(すなわち反射型マイクロディスプレイ(例えばシリコン上の液晶(LCoS))または透過型マイクロディスプレイ)のうち1つに基づくものであった。
【0003】
一般的な透過性LCマイクロディスプレイは、フロント透明板とバック透明板の間に挟まれた液晶材料の層(例えば、垂直整列(VA)モード、面内切替(IPS)モード、平面整列(PA)モード、あるいは、より一般的には90度ツイステッド・ネマチック(TN)モード)を含む。バック板はパターニングされた電極層を含むが、一方フロント板は共通電極層を含み、各共通電極層は、一般にインジウム錫オキサイド(ITO)などの透明材料から形成される。90度のTNモードLCが使用されるとき、フロント板およびバック板は、一般に、LC分子がらせん構造またはツイストで配置されるように互いに垂直に整列する整列層を含む。印加電圧が存在しないとき(すなわちオフ状態で)、ツイストされた機構は、直線状に偏光された入射光の偏光を約180度回転させる。十分に大きな印加電圧が存在するとき(すなわちオン状態で)、LC分子は、直線状に偏光された入射光の偏光が回転しないようにツイストを解消し始める。このLCセルは、一般に、偏光子と、平行な透過軸を有する(すなわち通常黒色の)検光子またはより一般的には垂直な透過軸を有する(すなわち通常白色の)検光子の間に配置される。
【0004】
市販のシステムでは、透過性LCマイクロディスプレイは通常能動マトリクス・システムを用いるが、このシステムでは、薄膜トランジスタ(TFT)のマトリクスが電極によって印加された電圧を制御する。より詳細には、各TFTは、各表示画素におけるLCの配向を制御するスイッチング要素として機能する。従来、能動TFT層は、ガラスのバック板上にシリコン(例えば、アモルファス・シリコン、ポリシリコン、または結晶シリコン)を堆積することにより形成されている。最近になって、シリコン層向けの基板としてサファイアを用いることの利点が認識されている。例えば、サファイアは、可視帯で光学的透明性を示す、単結晶シリコンの成長を助長する半導体であり、したがって製造の複雑さおよびコストを低減する。さらに、サファイアは電子および正孔の移動性が高く、それによって高速論理切替えが可能になるので、サファイアはTFT製造に望ましい。その上、サファイアは、高温ポリシリコンTFTで用いられる従来のガラス基板より高い熱伝導率を有し、したがって高輝度照明システムにおいて効率的な熱放散をもたらす。
【0005】
残念ながら、LC TFTの製造のために基板としてサファイアを使用すると、LCマイクロディスプレイのパネル・コントラスト比に対して悪影響があることが判明している。例えば、米国特許第7,480,017号では、Fisherらは、LCマイクロディスプレイにサファイアを使用すると、液晶材料を通過する光が偏光解消されてオン/オフ・コントラスト比が低下することを教示している。Fisherらは、サファイア基板を通過する光の偏光解消を補正するために、能動シリコン・バック板に対してワイヤ・グリッドまたは他の偏光子を組み込むことにより、コントラスト比を改善することを教示している。内部偏光子によってサファイア基板上に構築された透明なマイクロディスプレイのコントラストがかなり改善すると述べられているが、この改善は、光輝度の損失(例えば、内部偏光子は、楕円偏光を有するサファイア基板を介して伝送された光の一部分をフィルタリングする)という犠牲のもとに達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,480,017号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、コントラスト補償器に関し、これは、例えばサファイア板を有する液晶(LC)マイクロディスプレイのパネル・コントラストを改善するために使用することができる。このコントラスト補償器は高次波長板を含み、この高次波長板は、LC TFT(例えばサファイア)向けに使用される透明な半導体基板に見られる有効な波長帯域(例えば可視帯)および角度範囲(例えば±12度のコーン照明)にわたって、スペクトルおよび角度の線形リターダンスにおける変化を補償するように選択された厚さおよび対称性を有する。
【0008】
本発明の一態様によれば、第1の基板、第2の基板、および第1の基板と第2の基板の間に配置された液晶層を含み、その第1の基板が、Oプレートとして構成されかつ薄膜トランジスタ層を支持する第1の高次波長板を含む液晶マイクロディスプレイ・パネルと、第1の基板のスペクトルおよび角度の線形リターダンス分散を補償するための、Oプレートとして構成された第2の波長板を含み、その第2の高次波長板が、第1の高次波長板の複屈折と符号が反対の複屈折を有するリターダ補償器と、を備える液晶マイクロディスプレイが提供される。
【0009】
本発明のさらなる特徴および利点が、添付図面と一緒に以下の詳細な説明を解釈することから明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】透過性LCパネルの断面図である。
【図1B】図1Aに示された高次サファイア基板の構成を示す図である。
【図2】図2Aは高次サファイア基板を有するTNモードLCパネルに関する実験に基づく線形リターダンス・マップを示す図である。図2Bは高次サファイア基板を有する計算上のTNモードLCパネルに関する線形リターダンス・マップを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態によって高次サファイア基板と縦に連結したリターダ補償器の概略図である。
【図4】石英リターダ補償器および高次サファイア基板の、スペクトルおよび角度の線形リターダンスの曲線あてはめ結果を示す図である。
【図5】石英リターダ補償器および高次サファイア基板の両方に関するモデル化されたリターダンス・データを用いて、石英リターダ補償器および高次サファイア基板に関して計算された線形リターダンス・マップの定性的比較を示す図である。
【図6】図6Aは石英リターダ補償器および高次サファイア基板の両方に関するモデル化されたリターダンス・データを用いて、高次サファイア基板とカスケード接続された石英補償器に関して青色帯域で計算された有効リターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。図6Bは石英リターダ補償器および高次サファイア基板の両方に関するモデル化されたリターダンス・データを用いて、高次サファイア基板とカスケード接続された石英補償器に関して緑色帯域で計算された有効リターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。図6Cは石英リターダ補償器および高次サファイア基板の両方に関するモデル化されたリターダンス・データを用いて、高次サファイア基板とカスケード接続された石英補償器に関して赤色帯域で計算された有効リターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。
【図7】高次サファイア基板に関する実験に基づくリターダンス・データを用いて、石英リターダ補償器および高次サファイア基板に関する線形リターダンス・マップの定性的比較を示す図である。
【図8】図8Aは高次サファイア基板に関する実験に基づくリターダンス・データを用いて、高次サファイア基板とカスケード接続された石英補償器に関する青色帯域での有効リターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。図8Bは高次サファイア基板に関する実験に基づくリターダンス・データを用いて、高次サファイア基板とカスケード接続された石英補償器に関する緑色帯域での有効リターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。図8Cは高次サファイア基板に関する実験に基づくリターダンス・データを用いて、高次サファイア基板とカスケード接続された石英補償器に関する赤色帯域での有効リターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。
【図9】石英の層の厚さ、C軸極角、およびC軸方位角の範囲に関する計算されたコントラスト比を示すグラフである。
【図10】カスケード接続された機構に関する、方位角、極角、および厚さの公差を示す図である。
【図11】厚い複屈折結晶板におけるビーム・ウォークオフを示す概略図である。
【図12】高次のサファイア板および石英板に関する、ウォークオフ対C軸傾斜を示すグラフである。
【図13A】サファイアのC軸配向とTN LCの遅軸配向の16の可能な組合せを示す概略図である。
【図13B】リターダンス整合時のトリム・リターダの遅軸配向を示す概略図である。
【図13C】リターダンス不整合時のトリム・リターダの、可能性がある遅軸配向を示す概略図である。
【図14】本発明の一実施形態によって、トリム・リターダ、TNモードLC層、および高次サファイア基板と縦に連結したリターダ補償器の概略図である。
【図15】トリム・リターダが単一層のAプレートであるとき、トリム・リターダの可能な遅軸配向に関するコントラスト比対リターダ遅軸を示すグラフである。
【図16】モデル化されたリターダンス・データを用いて、石英補償器上のAプレートおよびTN/サファイア・パネルに関して計算された線形リターダンス・マップの定性的比較を示す図である。
【図17】モデル化されたリターダンス・データを用いて、青色帯域、緑色帯域、および赤色帯域で、石英補償器上のAプレートおよびTN/サファイア・パネルに関して計算された有効なリターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。
【図18】TN/サファイア・パネルに関する実験に基づくリターダンス・データを用いて、青色帯域、緑色帯域、および赤色帯域で、石英補償器上のAプレートおよびTN/サファイア・パネルに関して計算された有効なリターダンスおよびコノスコープ・リークを示す図である。
【図19A】交差軸構成の2つのサファイア板および平行構成のサファイア板/石英板に関する線形リターダンス・マップとコノスコープ・リーク・マップの比較を示す図である。
【図19B】交差軸構成の2つのサファイア板および平行構成のサファイア板/石英板に関する線形リターダンス・マップとコノスコープ・リーク・マップの比較を示す図である。
【図20】3つのパネルの透過性LCマイクロディスプレイ投影システムの光エンジンを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面の全体にわたって、同じ機構は同じ参照数字によって特定されることに留意されたい。
【0012】
一般に明状態での光輝度と暗状態での光輝度の比を意味するパネル・コントラスト比は、LCマイクロディスプレイの重要な特性である。従来の90度TN透過性型マイクロディスプレイでは、パネルが斜めに観察されるとき、パネル・コントラスト比がかなり低下する。視角によるコントラスト比の変化は、一般に視角特性と称される。
【0013】
透過性LCマイクロディスプレイのパネル・コントラスト比および/または視角特性を改善するために、しばしばリターダ補償器が使用される。リターダ補償器は、一般に、偏光子とLCセルの間および/または検光子とLCセルの間に配置される。リターダ補償器は、任意選択で、様々な物理的厚さ、液晶および偏光子の角度に対する光軸配向、または複屈折の符号をそれぞれ有する複屈折材料の複数の層を含むことになる。実際、効率的なコントラスト向上をもたらすために、リターダ補償器は、1つまたは複数のAプレート(例えば、その光学軸が要素の表面に対して平行な1軸の複屈折要素)、Cプレート(例えば、その光学軸が要素の表面に対して垂直な1軸の複屈折要素)、および/またはOプレート(例えば、その光学軸が要素の表面に対して斜角を有する1軸の複屈折要素)を含むことが多く、それらは、それぞれが正または負でよい。例えば、VAモードLCマイクロディスプレイで使用されるリターダ補償器は、面内リターダンスおよび面外リターダンスを有する傾斜したOプレートを含んでよく、後者は視界(FOV)向上に使用されるが、TNモードLCマイクロディスプレイで使用されるリターダ補償器は、面内リターダンス、面外リターダンスおよび循環リターダンスを示してよい。
【0014】
それぞれの場合で、リターダ補償器は、例えば暗状態のLC層が示す比較的小さいリターダンス(例えば約50nm未満であることが多い面内リターダンス)を補償するのに使用される。したがって、リターダ補償器は、トリム・リターダ補償器または単にトリム・リターダと称されることが多い。もともと、トリム・リターダはフィルムの補償として製作されたものである。例えば、トリム・リターダは、トリアセテート・セルロース(TAC)基板上のディスコティック層から成る富士フイルムのWideView (WV) film(商標)など、伸長した有機フォイルから製作されている。他の補償フィルムが、例えば、T.Bachelsら、「Novel Photo-aligned LC -Polymer Wide-View Film for TN Displays」、Eurodisplay 2002、10-3、183頁、J. Chenら、「Wide Viewing Angle Photoaligned Plastic Films for TN-LCDs」、SID 99、10-4、 頁、およびH. Moriら、「Novel Optical Compensation Method Based upon a Discotic Optical Compensation Film for Wide Viewing Angle LCDs」、SID 03、32.3、1058頁に論じられている。最近になって、トリム・リターダにおける構造複屈折性の薄膜コーティングを用いる利点が実現されており(例えば米国特許第7,170,574号および米国特許出願第20070070276号を参照されたい)、これらの両方を参照によって本明細書に組み込む。
【0015】
補償フィルムおよび/または薄膜コーティングにトリム・リターダンスを与えると、真のゼロ次波長板としてトリム・リターダを製作することが可能になる。一般に、ゼロ次波長板は必要な位相遅れのみをもたらす(すなわち、リターダがゼロ次の4分の1波長板であると、0.25波の位相遅れだけがもたらされる)。それと対照的に、高次波長板は、必要な位相遅れよりいくつかの固有値だけ大きい(例えば、全波長板については2πの整数倍大きく、あるいは4分の1波長板についてはπ/2の奇数整数倍大きい)相対的位相遅れをもたらす。原理的には、高次波リターダは、ゼロ次波リターダと同様に動作するはずである。例えば、10次の4分の1波長板(例えば5.25波)は、所与の波長に対して、ゼロ次の4分の1波長板(例えば0.25波)と同様に動作するはずである。しかし、実際上、高次波長板は、分散および温度依存性が大きいために、一般にトリム・リターダとして使用されていない。特に、分散が大きいと、可視帯内のすべての波長チャネルが適切に補償されるわけではなくなり、通常LCマイクロディスプレイ(例えば青色の460nm帯域、緑色の550nm帯域、および赤色の620nm帯域のそれぞれに対して1つ)以上のものを含む透過性LCDプロジェクタで特に問題がある。
【0016】
残念ながら、従来技術のトリム・リターダは、従来の透過性TNモードLCマイクロディスプレイ・パネルのコントラストを比較的広い帯域幅にわたって数百対1から十分により高いものへ改善することが証明されているが、LCマイクロディスプレイがサファイア半導体基板を含むとき、コントラスト比および/または視角特性をかなり改善することに成功していない。
【0017】
サファイア半導体基板は、可視帯で透明な複屈折結晶板である。たとえ、サファイア板の複屈折が比較的低い(例えば550nmで約0.008)場合でも、LCセルを挟むのに十分な支持をもたらすために必要な厚さ(例えば0.4mmから1mmの間の物理的厚さ)は、数マイクロメートルのリターダンスをもたらすことになる。
【0018】
さらに、サファイアのR面がTFT製造にしばしば選択されるので、サファイア半導体基板はOプレートとして構成されることが多い。R面は、板の法線に対して約57.6度でサファイアの光学軸整列またはC軸整列をもたらす結晶カットである。このOプレート構成は、C軸傾斜面に近い観察面での入射角の関数として大きなリターダンス傾斜が存在することを意味する。高次リターダンスによって、偶数および奇数のリターダンス次数で交番が生じ、垂直入射での有効リターダンスは可視帯内で0からπへ数回変化する。これらのリターダンス変化によって、達成可能なパネル・コントラストが低下し、具体的には視角特性が低下する。例えば、対応する線形リターダ軸が偏光子に対して平行/垂直に整列しないとき、交差偏光子のセットアップを通じて劣化が生じることになる。
【0019】
図1Aを参照すると、サファイア・バック板を内蔵する透過性LCパネルの断面が示されている。透過性LCパネル10は、サファイア・バック板14とカバー板16の間に挟まれたLC層12を含む。LC層12は、90度ツイスト・ネマチック(TN)モードLC、垂直整列(VA)モードLC、面内切替え(IPS)モードLC、または平面整合(PA)モードLCなどのLC材料から形成される。サファイア・バック板14は複屈折結晶板であり、これは、LC層12のLCディレクタの配向を制御するのに使用される能動マトリクス画素のアドレシング回路(図示せず)を支持する。カバー板16はガラス板である。任意選択で、LCモード次第で、透過性LCパネル10は、1つまたは複数の電極18A、18Bおよび1つまたは複数の整列層19A、19Bも含むことになる。一般に、透過性LCパネル10は、2つの偏光子20A、20Bの間に配置されることになる。2つの偏光子20A、20Bが、それらの透過軸が直交するように配向される場合、第1の偏光子20Aは一般に偏光子と称され、一方第2の偏光子20Bは検光子と称される。図1Bを参照すると、サファイア基板14のC軸は57.6度の極角で配向され(すなわち、そのC軸傾斜は基板の法線から57.6度である)、一方R面は板の表面と一致する。サファイア・バック板14のC軸は、偏光子20Aの透過軸に対して、一般に平行または垂直に整列する。
【0020】
図1Aに示されたものに類似のLCパネル10に関するFOVリターダンスの実験によるデータおよび計算されたデータが、それぞれ図2Aおよび図2Bに示されている。それぞれの場合で、LC層は、暗状態で約10nmの面内リターダンスを示すTNモードLCを含み、一方サファイア・バック板の厚さは約600マイクロメートルであった。計算されたデータを生成するのに用いられたモデルでは、サファイアの常光線屈折率nおよび異常光屈折率nは、それぞれ1.7706および1.7650であると想定され、波長550nmで−0.0081に等しい複屈折Δnを示す。可視帯にわたって全分散が利用された。サファイア・バック板の厚さは576.6マイクロメートルであった。この厚さで、サファイア・バック板は12次の波長板である。換言すれば、このサファイア・バック板は高次の負のOプレートである。有効リターダンスは、530nm波長の12次では45度(アンラップでは2205度)である。実験結果および計算結果の両方に関して、0次へラップしたリターダンスが入射の極角/方位角に対して急激に変化することは明白である。実験によると、垂直入射での平均の線形リターダンスは44.1度であった。計算では、垂直入射での平均の線形リターダンスは47.4度であった。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、カウンター複屈折基板を含み高次波長板でもあるリターダ補償器が、サファイア基板で導入されたリターダンスの波長分散および角度分散を低下させるのに使用され、したがって、サファイア・バック板を含む透過性TNモードLCマイクロディスプレイのコントラスト比および視角特性を改善する。
【0022】
図3を参照すると、サファイア基板14に対して反対の複屈折の符号を有する材料から形成されたカウンター複屈折板32(すなわち、サファイアが負の複屈折を示すため、複屈折板32は正の複屈折を有する)は、基板の法線に対して傾斜したC軸整列も有する(すなわち、複屈折板32は正のOプレートである)。複屈折板32は、そのC軸配向およびリターデイションの次数が、サファイア基板14のスペクトルおよび角度の線形リターダンス・プロファイルを実質的に補完するように製作される。したがって、複屈折板32のC軸がサファイア板14のC軸と同一の傾斜面に沿って整列するようにリターダ補償器30が整列するとき、2つの基板は、すべての波長および角度点で有効リターダンスをかなり(例えば理想的にはゼロへ)低下させるように協同して機能する。
【0023】
複屈折板32を製作するのに適当な材料の一例は石英である。石英結晶板は、正の複屈折を有し、サファイア結晶板とほぼ同一の複屈折分散を有する。したがって、C軸整列および石英基板の厚さを適切に選択すると、補償板32およびサファイア基板14は、動作のすべての光線角度およびすべての波長で、ほぼ等しく、かつ符号が反対のリターダンスをもたらすように協同して機能することになる。その結果、サファイア基板14の大きなリターダンスがシステム・コントラストに悪影響を及ぼすことがない。
【0024】
適当な石英層パラメータ(例えば厚さならびにC軸の方位角および極角)を求めるために、公称の石英補償板の波長および角度リターダンス・スペクトルは、公称のサファイア板のものと整合するように適合された。前述のように、このサファイア板の常光線屈折率nおよび異常光屈折率nは、それぞれ1.7706および1.7650であると想定され、波長550nmで−0.0081に等しい複屈折Δnを示した。公称のサファイア板のC軸傾斜は、基板の法線から57.6度であった。サファイア板の厚さは576.6マイクロメートルであった。石英の補償板については、常光線屈折率nおよび異常光屈折率nは、それぞれ1.5461および1.5554であると想定され、波長550nmで+0.0092に等しい複屈折Δnを示した。それぞれの場合で、可視帯にわたって全分散が利用された。
【0025】
図4を参照すると、石英板およびサファイア板のスペクトルのリターダンス分散(例えば左側のグラフ)および角度のリターダンス分散(例えば右側のグラフ)を、適当な石英パラメータと同時に整合させ得ることが確認される。例えば、石英の補償板が、基板の法線から約61.1度のC軸傾斜を有し、かつ約472.0マイクロメートルの物理的厚さを有すると、スペクトルおよび/または角度のリターダンス分散は、実質的に整合するはずであることが計算結果によって示されている。とりわけ、この厚さで、石英の補償板は12次の波長板である。
【0026】
基板の法線からのC軸配向が57.6度である厚さ576.6マイクロメートルのサファイア基板と板の法線からのC軸傾斜が61.1度である厚さ472.0マイクロメートルの石英補償板の定性的比較も、優れたコノスコープ整合を示した。例えば、図5で説明されるように、サファイア板(上)および石英板(下)に関して、計算された線形リターダンス(左側)、遅軸(中央)および循環リターダンス(右側)のコノスコープ図が示されている。各コノスコープ図は、波長522nmの入射光について、360度の方位角の面にわたって0度から12度の入射極角のリターダンス成分を示す。
【0027】
図6A、図6B、図6Cは、それぞれ、サファイア基板のC軸方位角が石英補償板のC軸方位角と平行なときの青色帯域(例えば波長458nm)、緑色帯域(例えば波長522nm)および赤色帯域(例えば波長624nm)における計算されたコントラストを示す。より詳細には、左側の図は、サファイア基板/石英補償板の組合せの有効線形リターダンス(すなわち、LC層および/または対応するトリム・リターダ補償器からのものなど他のリターデイション寄与を無視したもの)を示し、一方右側の図は、理想的交差偏光子の未加工の(例えば、システム基線によって重み付けされない)コントラストを示す。左側の図を参照すると、平均の垂直入射リターダンスは、青色帯域に関して2.8度、緑色帯域に関して3.2度、また赤色帯域に関して5.9度であり、複屈折補償がほぼ完全であることを示している。右側の図を参照すると、計算された2段コントラストの範囲は、青色帯域では約17,000から、緑色帯域では約29,000から、また赤色帯域では約28,000からである。換言すれば、サファイア・パネル基板および石英補償板から構成される2段システムのモデル化された単一通過コントラストは、緑色帯域および赤色帯域では20,000:1を上回って達成される。
【0028】
図7を参照すると、石英補償板パラメータは、サファイア基板14の実験によるリターダンス・データと整合するように適合された。実験データは、サファイア板のC軸面をX軸と平行に配向して収集された。実験によるスペクトル・データは破線で示されている。石英については計算で、サファイアについては実験で得られた、スペクトル・リターダンス分散(例えば左側のグラフ)および角度リターダンス分散(例えば右側のグラフ)も、実質的に整合させ得ることが明白である。図8A、図8B、および図8Cを参照すると、計算されたコントラストは、青色帯域(例えば波長458nm)、緑色帯域(例えば波長522nm)および赤色帯域(例えば波長624nm)で、それぞれ47,000、40,000および43,000であることが示されている。これらの、実験/モデルの組合せから計算されたコーン平均コントラストの結果は、モデルのみの結果よりかなり低く、青色帯域に関して17,000、緑色帯域に関して29,000、また赤色帯域関して28,000の計算されたコーン平均コントラストをもたらした。コーン・コントラストの低下は、サファイア基板の数値モデルにおける限界および/またはリターダンス計測学(すべての光線角度を石英基板のデータに完全に整合させることはできない)における誤差から生じる可能性がある。
【0029】
実際のプロジェクタ・システムでは、非理想の交差偏光子、LC/トリム・リターダの組合せ、および/またはサファイア基板/石英補償板の組合せから光漏れが生じる可能性がある。しかし、この大きな補償されたサファイア基板のコントラストは、LC層がそれ自体のリターダ(例えばトリム・リターダ)で、スタンド・アロンのトリム・リターダ組立体またはリターダ補償器30の一部として補完されるとき、達成することができるコントラストの上限が向上する。
【0030】
補償板32の厚さ(すなわちd)およびC軸配向(すなわち極角θおよび方位角φ)の公差を求めるために、公称の石英板に関して、青色帯域(例えば波長458nm)、緑色帯域(例えば波長522nm)および赤色帯域(例えば波長624nm)のコントラスト比を計算した。図9を参照すると、上のグラフは、厚さが469.0±2マイクロメートルの間で変化する石英板に関して計算されたコントラスト比を示し、中央のグラフは、C軸の傾斜角すなわち極角θが61.0±0.5の間で変化する石英板に関して計算されたコントラスト比を示し、また、下のグラフは、石英板が板の面内で理想的な整列から±1度だけ回転するときに計算されたコントラスト比を示し、ここで石英板のC軸とサファイア板は同一の傾斜面にある。基線コントラストを5,000:1と仮定すると、コントラスト比の計算結果は、緑色帯域におけるピーク・コントラストの50%超を維持するために、石英板の厚さの公差は±1%であるべきであり、チルト軸の公差は±0.5%であるべきであることを示す。方位角の公差に関して、計算されたコントラスト比は、石英のC軸傾斜面がサファイア傾斜面の±0.7度以内にあるべきであることを示す。
【0031】
図10に示されたコンタ図を参照すると、厚さdの誤差、極角θの誤差、および方位角φの誤差の間の関係が示されている。下の2つのグラフに示される方位角の公差は、一般的なベル形コントラストのロールオフに形を変える。上の図に示された極角誤差と基板厚さ誤差間の関係によって、補償石英板の傾斜角と厚さは、必要な面内リターダンスをもたらし、したがって改善されたコントラスト比をもたらすために、互いに依存することが確認される。具体的には、傾斜角がより大きいと、一般に板はより薄くなって面内リターダンス要件を満たす関係があり、一方、傾斜角がより小さいとより厚い板をもたらすことになる。
【0032】
上記に論じられた計算では、C軸が板の法線に対して約61度であるようにダイシングされた石英のOプレートは、TFT製造で使用されたサファイア基板と実質的に整合したスペクトルおよび角度のリターデイション変化をもたらし、このとき石英板は厚さ約475マイクロメートルであり、サファイア基板は約58度の傾斜角を有して厚さ約585マイクロメートルである。この厚さで、石英補償板は、λ=550nmにてアンラップで約2,200度の線形リターダンスをもたらす12次のリターダである。石英補償板のC軸面は、サファイア基板のC軸面にほぼ整列している。
【0033】
実質的に整合したスペクトルおよび角度のリターダンス変化をもたらすことに加えて、この2段の平行に整列した機構は画像ぼけ補償ももたらす。サファイア・バック板を含むTNモードLCについては、o波方向からの基板モード異常波のウォークオフは、厚さ585マイクロメートルの基板の場合、約2.5マイクロメートルである。したがって、入射光に対するLCセル10内のサファイア基板14の位置次第で、このウォークオフは、検光子20Bに伝送される2組の画像を生成してよい。1組の画像の検光子のあらゆる不完全な消光が、クロストーク(例えば画像ぼけ)をもたらすことになる。石英補償板32のC軸がサファイア基板14のC軸と同一の傾斜面内で整列するように石英補償板32を位置決めすると、石英補償板は反対方向のウォークオフをもたらすことが可能になる。図11は、比較的厚い結晶板(すなわち、ここでサファイア基板14は585マイクロメートルの公称厚さを有し、石英補償板は475マイクロメートルの公称厚さを有する)によるウォークオフを示す。図12を参照すると、石英板についてはサファイア基板より大きな偏向がある。しかし、石英板がサファイア基板より薄いので、横方向へのずれの合計は両方の板でほぼ等しい。結果として、2つの画像は再びまとめられ、検光子による1組の画像の完全な消光に対する感度が低下する。有利には、このぼけ補償によって、コントラスト比は、マイクロディスプレイがサファイア側またはガラス基板側のどちらから照射されるかということに影響されにくくなる。
【0034】
サファイア・パネル14および石英補償板32を含む2段補償システムがモデル化され、向上したコントラスト比をもたらすことが示された。より詳細には、高次の石英波長板が、透過性LCマイクロディスプレイにおけるTFTの製作向けに使用されるサファイアなどの透明な半導体基板に見られる有効な波長帯域(例えば可視帯)および角度範囲(例えばコーン照明の±12度)にわたって、スペクトルおよび角度の線形リターダンスの変化を解消することが示された。特に、2段補償システムは改善されたコントラストをもたらすことが示されたが、その一方で、前述の計算は、LCマイクロディスプレイおよび/またはトリム・リターダのLC材料の複屈折の性質からの影響に対処していない。
【0035】
オン状態で効率のよい特別な導波性をもたらすために、TN層12の遅軸は、一般に偏光子20Aまたは検光子20Bの透過軸に対して45度に整列される。図13Aを参照すると、偏光子および検光子の透過軸が、それぞれX軸およびY軸と平行なときに可能なTN遅軸の配向は、配向Z、Q、PおよびMによって表される。上記で論じられたように、サファイア・バック板14のC軸は、検光子20Bの透過軸に対して、一般に平行または垂直に整列し、N、E、S、およびWの配向をもたらす。したがって、サファイアのC軸の配向とLCの遅軸の配向には16通りの可能な組合せがある。これらの組合せの各コントラスト比はモデル化されており、表1に示されている。驚くべきことに、むき出しのTNパネルのコントラスト約120:1から130:1と、あまり最適でないパラメータの場合約80:1から90:1の間の差があることが判明した。
【0036】
【表1】

【0037】
特に、計算結果は、サファイア板のC軸が90度(すなわち配向N)で配向され、またTNパネルの遅軸が第4象限を実質的に2分する(すなわち−45度で配向され、これは配向Mに相当する)とき、±14度にわたるコーン照明の最高のパネル・コントラストが得られることを示す。実際、サファイア板のC軸が北へ(すなわち90度に)配向されるとき、パネルの第1象限、第2象限、第3象限および第4象限に遅軸を有するむき出しのTNパネルについて計算されたコントラスト比は、それぞれ約102:1、97:1、107:1および130:1である。換言すれば、第4象限に遅軸を有するLCパネルを設けると、22%から34%の間のより優れたコントラストをもたらす。
【0038】
むき出しパネルのコントラストを計算するのに使用されるモデルでは、サファイア基板14は、576.6マイクロメートルの厚さおよび面法線から57.6度のC軸傾斜を有する高次の負のOプレートとして構成される。LC層12は、特別な導波路としてオン状態(例えばドライブされていない状態)で断熱導波路をもたらすように設計された通常白色のTN90セルの一部であると想定される。印加電圧がない状態で、入射光の偏光はLC分子のツイスト角で回転するが、LC分子は、透過光が入射光の偏光に対して直交偏光を有して発せられるように円滑な90度のツイストを受ける。オフ状態すなわち暗状態では、印加電圧によって発生された静電界は、入射光の偏光がLCセルを通過する際に変化しないように、LCディレクタをセルの透過軸に沿って整列させる(例えばホメオトロピック配向)。オフ状態では全セルがホメオトロピック配向を有すると説明されることが多いが、セルの出口および入口の部分に近いLCディレクタは整列層を固定する力によって影響を受けるので、一般に、本当にホメオトロピックであるのはLCセルの内部または中央部分だけであることに留意されたい。モデルでは、暗状態におけるTNモードLC層のこの固有の複屈折は、緑色帯域(例えば波長550nm)における約10nmの残留面内リターダンスに相当すると想定される。
【0039】
前述のように、トリム・リターダ40は、暗状態におけるTNモードLCの残留面内リターダンスを補償するのに使用されることが多い。理論上、トリム・リターダ40は、暗状態でTN90パネルが示すのと同一の面内リターダンスを有するべきである。したがって、トリム・リターダの遅軸40Aが、LCパネルの遅軸12Aに対して直交する方位角の配向で構成されると、正味の効果は、入ってくる偏光に対して相対遅延がゼロになることである。しかし、実際上、製造公差(例えばデバイスの厚さなど)および/または運用上の変動(例えば温度、機械的応力など)によるリターダンスの変化に応じるために、トリム・リターダ40がLCパネルより高い面内リターダンスを有するように設計する方が一般的である。当業者に既知のように、面内リターダンスにおけるこの非整合により、公称の交差軸構成に対してトリム・リターダの遅軸40Aをオフセットさせる必要がある。換言すれば、トリム・リターダは、その方位角配向を、図13Bに示された交差軸構成(例えばこの構成ではφが約45度に等しい)から遠ざけて、4つの配向(例えばQ1P、Q1S、Q3P、Q3S)のうちの1つへ回転させることにより「合わせられる」。
【0040】
図14〜図18を参照すると、LCパネル層12からの複屈折の効果およびトリム・リターダ40を含むコントラスト補償がモデル化されている。このモデルでは、サファイア基板14は、576.6マイクロメートルの厚さおよび面法線から57.6度のC軸傾斜を有する高次の負のOプレートとして構成される。石英補償板32は、サファイア基板14のスペクトルおよび角度の変化の線形リターダンスと実質的に整合するように選択された厚さおよびC軸傾斜を有する高次の正のOプレートとして構成されるものと想定される。一般に、用語「高次」は、0より大きい次数、より一般的には約2より大きい次数を説明するのに用いられる。Oプレート・リターダ14、32のそれぞれの遅軸はXZ面と平行に整列する(すなわち、サファイア板14および石英板32の両方のC軸が約0度の方位角φで整列する)。LC層12は、特別な導波路としてオン状態(例えばドライブされていない状態)で断熱導波路をもたらすように設計された通常白色のTN90セルの一部であると想定される。TN90セルの整列層は、LC分子が光入力側から光出力側へ逆時計回り(CCW)に続くように配置される。TNモードLC層の遅軸12Aは、TN90パネルの第4象限をほぼ2分するように整列される。暗状態におけるTNモードLC層の固有の複屈折は、緑色帯域(例えば波長550nm)における約10nmの残留面内リターダンスに相当すると想定される。トリム・リターダ40は、約15nmの面内リターダンスをもたらす単一層のAプレートまたはOプレートであると想定される。トリム・リターダの遅軸40Aは、X軸から約25度CCW、またはY軸から約25度時計回り(CW)であるように合わせられる。より詳細には、トリム・リターダの遅軸40Aは、図13Cに示された4つの配向のうちの1つ(すなわちQ1P、Q1S、Q3P、Q3Sであり、ここでφは25度に等しい)で整列する。
【0041】
図15を参照すると、単一層のAプレート構成および単一層のOプレート構成の両方に関して、4つの配向(すなわちQ1P、Q1S、Q3P、Q3S)のそれぞれについて、青色帯域、緑色帯域、および赤色帯域の計算されたコントラスト比が示されている。より詳細には、図15は、トリム・リターダの遅軸が、P軸に近い第1象限(Q1P)にあるとき、S軸に近い第1象限(Q1S)にあるとき、P軸に近い第3象限(Q3P)にあるとき、およびS軸に近い第3象限(Q3S)にあるときの計算されたコントラスト比を示す。それぞれの場合で、計算されたコントラスト比は、Aプレートの場合の方がOプレートの場合より高い。さらに、P配向(すなわちQ3PおよびQ1P)が、わずかにより優れた性能を示した。特に、S軸に近い2つの解(すなわちQ1SとQ3S)に関するAプレートの解は同等であり、P軸に近い2つの解(すなわちQ1PとQ3P)は同等である。
【0042】
図16を参照すると、Aプレート・トリム・リターダおよび石英板に関して計算されたスペクトルのリターダンス分散(例えば左側のグラフ)および角度のリターダンス分散(例えば右側のグラフ)が、TNモードセル(すなわちTN層およびサファイア・パネルとしてモデル化されたもの)に関して計算されたものと実質的に整合され得ることが示されている。角度リターダンス分散のグラフは、赤色帯域、緑色帯域および青色帯域の中心波長での、C軸面に沿ったリターダンス曲線あてはめおよびC軸面に直交するリターダンス曲線あてはめを示す。
【0043】
図17は、図16で示された適合パラメータが石英板32およびAプレート40で補償されたサファイア・パネル14およびTNモードLC層12をモデル化するのに用いられたとき、それぞれ青色帯域(例えば波長460nm)、緑色帯域(例えば波長550nm)および赤色帯域(例えば波長620nm)における計算されたコントラストを示す。図の右側のコンタ図を参照すると、コントラスト比は、青色の波長に関して約340:1、緑色の波長に関して約510:1、また赤色の波長に関して約670:1であると計算される。パネル基板FOVおよびTN LC層の面内リターダンスは、十分に補償されているように見えるが、第4象限の辺りに一団となったいくらかの光漏れがある。この光漏れは、循環リターダンスの補償不足およびTN−LC面外リターダンスの補償不足から生じると考えられる。
【0044】
上記の計算では、石英板/Aプレートのパラメータは、計算された波長および角度のリターダンス・スペクトルと整合するように適合された。図18では、青色帯域(例えば波長460nm)、緑色帯域(例えば波長550nm)および赤色帯域(例えば波長620nm)の計算されたコントラストは、それぞれ石英板/Aプレートのパラメータが実験による波長および角度のスペクトルと整合するように適合されたときに得られたものである。右側を参照すると、実際のパネルのFOVデータは、青色帯域で約180:1、緑色帯域で約300:1、また赤色帯域で約430:1の計算された2つの状態のコントラストを示した。特に、第4象限で最大の漏れが生じる。
【0045】
前述のように、高次の石英補償板が、サファイア基板を有するTNモードLCマイクロディスプレイのコントラスト比をかなり改善することが示された。例えば、前述の公称設計では、サファイア板/石英板の組合せの場合、数万対1のコントラストが達成される。TN LC層の複屈折の効果がサファイア板の複屈折の効果とともに含まれるとき、またトリム・リターダの複屈折の効果が石英補償板の複屈折の効果とともに含まれるとき、緑色帯域で、計算されたむき出しパネルのコントラスト(例えば90:1)は約500:1に向上した。
【0046】
実際、透過性LCマイクロディスプレイでバック板として使用される高次のOプレートの複屈折より大きいが符号が反対の複屈折を有する高次のOプレート・リターダを含むリターダ補償器を設けると、他の補償方式と比較して改善されたコントラスト補償をもたらすことが判明した。例えば、サファイア基板を含む投影型ディスプレイのコントラスト比を改善するための手法の1つに、交差軸構成で、同一の厚さおよび傾斜角を有するもう1つのサファイア板を設けるものがある。この機構はサバール板をもたらし、したがって正味ゼロのリターダンスを示すはずであるが、コントラスト比の改善は、サファイア板に対して平行に高次波長板を整列させたものほど効率的でないことが判明した。図19Aは、交差軸サファイア板/サファイア板のコンタ図を示し、図19Bは、平行軸サファイア板/石英板のコンタ図を示している。交差軸構成の対角線のリターダンス帯域は、オフ軸コントラストを明らかに低下させる。特に、交差軸構成に関して計算されたコントラスト比は、わずか130:1であったが、平行軸構成に関して計算されたコントラスト比は33,600:1であった。
【0047】
高次の石英補償板が、サファイア・バック板(例えば、ピコプロジェクタを含む)を有する通常白色のTNモードLCマイクロディスプレイを利用する投影システムにおけるコントラストをかなり改善すると示されているが、高次の補償板は、他の材料で製作されてよく、かつ/または他のLCモードに基づく投影システムで使用されてよく、かつ/またはサファイア以外の材料から製作された高次リターダンスの半導体基板を内蔵すると予見される。さらに、高次の補償板は、システム・コントラストをさらに改善するために他のリターダ補償器(例えばトリム・リターダ)とともに使用されると予見される。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、高次リターダンス補償板32は、トリム・リターダ40に結合される。例えば、一実施形態では、トリム・リターダは、Aプレート、Cプレート、および/またはOプレートとして構成される高次リターダンス補償板上に堆積された1つまたは複数の複屈折または構造複屈折の薄膜コーティングを含む。高次リターダンス補償板がトリム・リターダを支持するために使用されるとき、プロジェクタ・システムは、たった1つの補償器組立体で高コントラストを有利に達成する。したがって、1つだけの補償器を回転させて合わせる必要があり、このように整列が簡単になる。さらに、2つの反射防止膜だけが使用される(すなわちリターダ補償器組立体の外面のそれぞれの上に1つ)。
【0049】
本発明の別の実施形態では、高次リターダンス補償板32およびトリム・リターダ40は、どちらもスタンド・アロンのリターダ要素として使用される。この実施形態では、高次リターダンス補償板32は高次半導体基板のC軸傾斜面を整合させるように合わせられ、一方トリム・リターダ40はLC層の暗状態リターダンスに対する補償を最適化するように合わせられる。この場合、4つの反射防止膜が用いられる。
【0050】
図20を参照すると、3つの透過性TNモードLCパネルおよび3つのリターダ補償器を含むマイクロディスプレイ投影システム向けの光学エンジンが示されている。光サブシステム100は、入力前段偏光子101a、101b、101c、リターダ補償器103a、103b、103c、TNモードLCパネル104a、104b、104cおよび出口のクリーンアップ偏光子105a、105b、105cを含む。光サブシステム100の中心要素はXキューブ110であり、ここで、3本の個別の光ビーム120a、120b、120cは収束光ビーム130として集められて発せられ、これが画面(図示せず)上に投影される。3本の個別の光ビームは、RGBチャネル・データを与える。一般に、緑色チャネルは第1の光ビーム120aに相当することが多く、その結果、これはXキューブの透過されたポートへ向けられる。各色のチャネルに関して、LCパネル104a/104b/104cは、1組の交差する偏光子の間に(例えば、それぞれ入力前段偏光子101a/101b/101cと出口クリーンアップ偏光子105a/105b/105cの間に)配置される。示された概略図では、入力前段偏光子101a、101b、101cの透過軸は水平に(描画する面と平行に)整列しており、一方、出口クリーンアップ偏光子105a、105b、105cの透過軸は垂直に整列している。緑色または「1つの」チャネルに相当する光サブシステム100のアームは、一般に2分の1波長板(HWP)106を含み、変調済の垂直に偏光された光を水平に偏光された光へ変換し、この光はXキューブの直角三角形の斜辺に対してP偏光された光として現われ、Xキューブを通って伝送される。あるいは、LCパネル104aがオン状態で入ってくる垂直の偏光を水平の偏光へ回転させる場合、HWP 106は、光サブシステム100のもう1つのアームに配置されてよい。リターダ補償器103a、103b、103cのそれぞれが、例示の目的で、それぞれ前段偏光子101a、101b、101cとLCパネル104a/104b/104cの間に配置して示されていることに留意されたい。他の実施形態では、リターダ補償器103a、103b、103cは、それぞれLCパネル104a/104b/104cと検光子105a、105b、105cの間に配置される。それぞれの場合で、各リターダ補償器103a、103b、103cは、TFT製造に使用されるLCマイクロディスプレイにおける透明な半導体基板の面内リターダンスおよび面外リターダンスを補償するように選択された厚さおよびC軸の整列を有する高次のOプレートを含む。光路長の差として表された面内リターダンスは、2つの面内屈折率に光学要素の物理的厚さを掛けたものの間の差を指す。面外リターダンスは、光学要素の厚さ方向(z方向)に沿った屈折率に光学要素の物理的厚さを掛けたものと、1つの面内屈折率(または面内屈折率の平均)に光学要素の物理的厚さを掛けたものとの差を指す。コーン・バンドルにおける垂直入射光線には面内リターダンスだけが見えるが、斜光線(すなわち、垂直ではないが基準のS面およびP面に沿うもの)およびスキュー光線(すなわち垂直でなく基準のS面およびP面から離れて入射するもの)を含む軸外光線は、面外リターダンスおよび面内リターダンスの両方を経験する。前述の高次リターダンス補償器は、高次リターダンスの透明な半導体基板の面内リターダンスおよび面外リターダンスの両方の効率的な補償をもたらす。LC層の面内リターダンス、面外リターダンス、および循環リターダンスを補償する全機能搭載型トリム・リターダと組み合わせて、コントラスト比はかなり改善される。一実施形態では、高次リターダンスのサファイア石英板である透明な半導体基板は、LCパネルの、光が入射する側104a/104b/104cまたはLCパネルの光が出る側104a/104b/104cに配置されることになる。
【0051】
もちろん、上記の実施形態は単なる実施例として提供されている。当業者には、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更形態、代替構成、および/または等価物が用いられるはずであることが理解されよう。したがって、本発明の範囲は、もっぱら添付の特許請求の範囲によって限定されるように意図されている。
【符号の説明】
【0052】
10 透過性LCパネル
12 LC層
12A LCパネルの遅軸
14 サファイア基板
16 カバー板
18A、18B 電極
19A、19B 整列層
20A、20B 偏光子
30 リターダ補償器
32 複屈折板
40 トリム・リターダ
40A トリム・リターダの遅軸
100 光サブシステム
101a、101b、101c 入力前段偏光子
103a、103b、103c リターダ補償器
104a、104b、104c TNモードLCパネル
105a、105b、105c 出口のクリーンアップ偏光子
106 2分の1波長板
110 Xキューブ
120a、120b、120c 光ビーム
130 収束光ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板、第2の基板、および前記第1の基板と前記第2の基板の間に配置された液晶層を含み、前記第1の基板が、Oプレートとして構成されかつ薄膜トランジスタ層を支持する第1の高次波長板を含む液晶マイクロディスプレイ・パネルと、
前記第1の基板のスペクトルおよび角度の線形リターダンス分散を補償するための、Oプレートとして構成された第2の高次波長板を含み、前記第2の高次波長板が、前記第1の高次波長板の複屈折と符号が反対の複屈折を有するリターダ補償器と、
を備える液晶マイクロディスプレイ。
【請求項2】
前記第2の高次波長板の厚さおよびC軸の傾斜角が、前記第2の高次波長板のスペクトルおよび角度の線形リターダンス分散が前記第1の高次波長板の前記スペクトルおよび角度の分散を実質的に打ち消すように選択される請求項1に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項3】
前記第1の高次波長板の前記C軸が、前記第2の高次波長板のC軸と同一の傾斜面で配向される請求項2に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項4】
前記液晶マイクロディスプレイ・パネルが偏光子と検光子の間に配置され、前記傾斜面が前記偏光子の透過軸および前記検光子の透過軸のうちの1つと実質的に平行である請求項3に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項5】
前記第1の高次波長板の前記C軸が、前記第2の高次波長板のC軸と同一の傾斜面で配向される請求項1に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項6】
前記第1の高次波長板が高次サファイア波長板を備える請求項1から5のいずれか一項に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項7】
前記第2の高次波長板が高次石英波長板を備える請求項1から5のいずれか一項に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項8】
前記第2の高次波長板が高次石英波長板を備える請求項6に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項9】
前記第1の高次波長板の厚さが少なくとも200マイクロメートルであり、前記第2の高次波長板の厚さが少なくとも200マイクロメートルである請求項8に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項10】
前記リターダ補償器が前記第2の高次波長板に結合されたトリム・リターダを備える請求項1から5のいずれか一項に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項11】
前記トリム・リターダが、前記第2の高次波長板上に堆積された薄膜複屈折層および薄膜構造複屈折層のうち少なくとも1つを備える請求項10に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項12】
前記薄膜複屈折層および前記薄膜構造複屈折層が、Aプレート、Cプレート、およびOプレートのうちの1つとして構成される請求項11に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項13】
前記薄膜複屈折層および前記薄膜構造複屈折層が、単一層のAプレートとして構成される請求項11に記載の液晶マイクロディスプレイ。
【請求項14】
前記リターダ補償器が前記第2の高次波長板に結合されたトリム・リターダを備える請求項8に記載の液晶マイクロディスプレイ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−15150(P2010−15150A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−156572(P2009−156572)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(502151820)ジェイディーエス ユニフェイズ コーポレーション (90)
【氏名又は名称原語表記】JDS Uniphase Corporation
【住所又は居所原語表記】430 N. McCarthy Boulevard, Milpitas, California, 95035, USA
【Fターム(参考)】