説明

高熱伝導ケーブルおよびその高熱伝導ケーブルを用いた内視鏡装置

【目的】ケーブルの排熱性を向上させる。
【構成】複数の芯線22を覆うように,第1のシールド31,中間シース32,第2のシールド33,絶縁用外皮チューブ34および絶縁層35が形成されている。絶縁用外皮チューブ34には高熱伝導フィラーが充填されており,高伝導フィラーが充填されていないフッ素樹脂の熱伝導率よりも高い。絶縁用外皮チューブ34の熱伝導率が高いので,そのチューブ34を通して排熱できる。しかも,絶縁層35が形成されているので,熱が周囲に拡散してしまうことを未然に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,高熱伝導ケーブルおよびその高熱伝導ケーブルを用いた内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
狭小空間に撮像素子を含む電子部品等の発熱体が高密度に配置されている内視鏡では,処置時の発熱による撮像素子のノイズ,人体組織の火傷などの問題があるので,排熱手段が必要である。内視鏡の先端部に含まれている撮像素子などの回路から発生した熱は,人体組織への影響を考慮すると,後方の基端側に排熱する必要がある。
【0003】
このようなものとして,先端にLEDを搭載した内視鏡において,LEDとケーブルとを熱伝導可能に接続し,LEDで発熱した熱を排出するものがある(特許文献1)。また,内視鏡先端部の発熱領域を冷却して,観察光源の高輝度化を図るもの(特許文献2),撮像素子から発生した熱を拡散するもの(特許文献3),プローブの内部での温度上昇を抑制するもの(特許文献4)などもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-83617号公報
【特許文献2】特開2010-263946号公報
【特許文献3】特開2011-24800号公報
【特許文献4】特開2005-103094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,特許文献1に記載のものでは,LEDで発生した熱をケーブルに使用している導電材料(金属線)のみで排熱しており,ケーブル構成部材である絶縁体は排熱性が低い。また,ケーブル単線のみの構成であるため,他の発熱部材からの熱を排熱するための熱容量が不足する可能性が残る。さらに,熱容量を増やそうとした場合,ケーブルが太くなり,内視鏡の挿入部の径が太くなる問題も懸念される。また,特許文献2から4に記載のものであっても,排熱が十分とは考えられない。
【0006】
この発明は,ケーブルの排熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による高熱伝導ケーブルは,1または複数の芯線を覆う絶縁用外皮チューブに絶縁性の高熱伝導フィラーが充填されており,上記絶縁用外皮チューブの熱伝導率は,フッ素樹脂の熱伝導率よりも高く,かつ上記絶縁用外皮チューブの表面に断熱層が形成されていることを特徴とする。
【0008】
この発明によると,芯線を覆う絶縁用外皮チューブには絶縁性の高熱伝導フィラーが充填されており,その熱伝導率は,フッ素樹脂の熱伝導率よりも高い。このために,絶縁用外皮チューブによる排熱性が高い。内視鏡などの利用した場合に,内視鏡の挿入部の先端部に含まれている回路により発生する熱を,効率良く基端側に排熱できる。とくに,絶縁用外皮チューブの表面には断熱層が形成されているから,高熱伝導ケーブルの周囲に熱が拡散されてしまうことを未然に防止でき,熱を,より効率よく基端側に排熱できるようになる。さらに,高熱伝導ケーブルを内視鏡に利用した場合には,断熱層により,被験者の体温を内視鏡の先端部に伝えてしまうことも防止できる。
【0009】
上記絶縁用外皮チューブの厚さと上記断熱層の厚さとかがほぼ同じであることが好ましい。
【0010】
上記芯線と上記絶縁用外皮チューブとの間に,1または複数の導電体のシールド層が形成されていてもよい。
【0011】
上記1または複数の導電体のシールド層は,たとえば,高熱伝導ケーブルの長手方向に放熱の指向性をもつグラファイト・シートである。
【0012】
上記絶縁用外皮チューブに充填される上記高熱伝導フィラーの割合は,たとえば,10vol%から70vol%である。
【0013】
体内に挿入される挿入部の先端部分に含まれている回路から出力される信号を,上記の高熱伝導ケーブルを通して伝送する内視鏡装置を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】内視鏡挿入部の先端部を示す断面図である。
【図2】高熱伝導ケーブル9の断面図である。
【図3】体積充填率と熱伝導率との関係を示している。
【図4】高熱伝導ケーブル9Aの断面図である。
【実施例】
【0015】
図1は,この発明の実施例を示すもので,内視鏡の挿入部の先端部1の断面図である。
【0016】
先端部1には,外部に露出しているレンズL(必要に応じてガラス・カバーが設けられているのはいうまでもない)を含むレンズ鏡胴2が含まれている。このレンズ鏡胴2内のレンズL等によって集光された検査対象を表わす光学像は,プリズム3で反射し,撮像素子4の受光面に結像する。
【0017】
撮像素子4から出力される画像信号は,回路基板6に実装されている回路7に入力し,所定の処理が行われて信号用導電線8に伝達される。信号用導電線8は,高熱伝導ケーブル9を構成する。撮像により得られた画像信号は,支持台10によって指示されている高熱伝導ケーブル9によって内視鏡挿入部の基端側に送信される。
【0018】
内視鏡挿入部の先端部1には,内視鏡挿入部の長手方向に沿って鉗子チャネル11も形成されている。
【0019】
内視鏡挿入部の先端部1には,撮像素子1,回路などが実装されているから,熱が発生する。先端部1に熱が発生すると,撮像素子1へのノイズの混入,人体組織が火傷するなどの問題がある。この実施例では,高熱伝導ケーブル9を用いて基端側に排熱させられる。
【0020】
図2は,高熱伝導ケーブル9の断面図である。
【0021】
高熱伝導ケーブル9の直径は,ほぼ1mmから1.5mmであるが,その他の直径であっても構わない。高熱伝導ケーブル9には,複数(1本でもよい)の芯線22が含まれている。芯線22は,直径が10μmから50μm程度の多数の銅線の束から構成されている。これらの複数の芯線22のそれぞれは,厚さが0.05mmから0.2mm程度の絶縁用フッ素樹脂のチューブ23で覆われている。絶縁用フッ素樹脂のチューブ23で覆われている芯線22が上述した信号用導電線8(図1参照)である。また,高熱伝導ケーブル9には,直径が10μmから50μm程度の多数の銅線の束から構成されているグランド用配線21も含まれている。
【0022】
これらのグランド用配線21および絶縁用フッ素樹脂のチューブ23で覆われている芯線22が第1のシールド(内シールド)31によって覆われている。第1のシールド31は,直径が10μmから50μm程度の多数の銅線の束から構成されているもので,グランド用配線である。第1のシールド31は,厚さ0.05mmから0.2mm程度のフッ素樹脂からなる絶縁用中間シース32によって覆われている。さらに,絶縁用中間シース32は,第2のシールド(外シールド)33によって覆われている。第2のシールド33も第1のシールド31と同様に,直径が10μmから50μm程度の多数の銅線の束から構成されているもので,グランド用配線である。この実施例では,第1のシールド31と第2のシールド33との二層シールドとなっているので,ノイズを効率良く除去できる。もっとも,第1のシールド31と第2のシールド33との二層シールドとせずに,いずれか一方のシールドのみが設けられてもよい。さらに,第1のシールド31と第2のシールド33とのいずれのシールドも設けられなくともよい。
【0023】
さらに,第2のシールド33は,厚さ0.05mmから0.2mm程度の絶縁用外皮チューブ34によって覆われている。この絶縁用外皮チューブ34は,絶縁用のフッ素樹脂から構成されている。絶縁用外皮チューブ34は,絶縁性の高熱伝導フィラーが充填(混練)されており,高熱伝導フィラーが充填されていないフッ素樹脂のチューブよりも熱伝導率が高くなっている。高熱伝導フィラーの平均粒径は,たとえば,5μmから20μm程度である。
【0024】
絶縁用外皮チューブには,熱伝導率がたとえば2.0W/mk以上となるよう,フッ素樹脂に高熱伝導フィラー(絶縁性フィラー)が充填される。高熱伝導フィラーには,たとえば,二酸化珪素,酸化アルミニウム,窒化アルミニウム,窒化シリコン,ダイアモンドなどがある。フッ素樹脂の熱伝導率が0.2(W/mk),二酸化珪素の熱伝導率が12(W/mk),酸化アルミニウムの熱伝導率が36(W/mk),窒化シリコンの熱伝導率が45(W/mk),炭化シリコンの熱伝導率が125(W/mk),窒化アルミニウムの熱伝導率が2000(W/mk),ダイアモンドの熱伝導率が2300(W/mk)である。これらの高熱伝導フィラーがフッ素樹脂に充填されることにより,熱伝導率が高くなることは理解できよう。
【0025】
さらに,絶縁用外皮チューブ34は,絶縁用外皮チューブ34の厚さとほぼ同じ厚さをもつ断熱層35によって覆われている。断熱層35は,フッ素樹脂にマイクロ・バルーンが充填されることにより構成される。絶縁用外皮チューブ34の外側から,マイクロ・バルーンが充填されているフッ素樹脂が塗布され,かつ硬化させられることにより,断熱層35が生成される。
【0026】
図2においては,分りやすくするために,第1のシールド31によって覆われている複数の芯線22同士または複数の芯線22とグランド用配線21との間に隙間ができているが,実際にはそのような隙間ができていないのはいうまでもない。
【0027】
図3は,体積充填率と熱伝導率との関係を示している。
【0028】
横軸が体積充填率であり,縦軸が熱伝導率である。二酸化珪素の関係を示すグラフG1,酸化アルミニウムの関係を示すグラフG2,窒化アルミニウムの関係を示すグラフG3およびダイアモンドの関係を示すグラフG4が示されている。
【0029】
体積充填率が大きくなるほど,熱伝導率が高くなるが,体積充填率が余り高くなりすぎると,フィラーが充填された樹脂の柔軟性が低くなる。このために,体積充填率は10vol%から70vol%程度が好ましい。
【0030】
図4は,他の実施例を示すもので,高熱伝導ケーブル9Aの断面図である。この図において,図2に示すものと同一物については同一符号を付して説明を省略する。
【0031】
図4に示す高熱伝導ケーブル9Aにおいては,第1のシールド31Aおよび第2のシールド33A(いずれか一方でもよい)が厚さ0.1mmから0.2mm程度の導電性シートから構成されている。導電性シートとしては,高熱伝導ケーブル9Aの長手方向に異方性をもっているグラファイト・シート,アルミ箔,銅箔などがある。銅線の熱伝導率は375(W/mk),長手方向に異方性をもったグラファイトの熱伝導率は1500(W/mk),銅線の熱伝導率は395(W/mk)であり,長手方向に異方性をもったグラファイト,銅箔の熱伝導率はいずれも銅線の熱伝導率よりも高いので,排熱効率が高くなる。また,アルミ箔の熱伝導率は273(W/mk)であり,銅線の熱伝導率よりも低いが,線を束ねた場合よりも断面積を増やすことができるので,第1のシールド31Aおよび第2のシールド33Aにアルミ箔が利用されることにより,排熱効率が高くなる。
【0032】
第1のシールド31Aおよび第2のシールド33Aの両方とも導電性シートを使用せずに,いずれか一方を使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 内視鏡挿入部の先端部
9,9A 高熱伝導ケーブル
22 芯線
34 絶縁用外皮チューブ
35 断熱層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の芯線を覆う絶縁用外皮チューブに絶縁性の高熱伝導フィラーが充填されており,上記絶縁用外皮チューブの熱伝導率は,フッ素樹脂の熱伝導率よりも高く,かつ上記絶縁用外皮チューブの表面に断熱層が形成されている,
高熱伝導ケーブル。
【請求項2】
上記絶縁用外皮チューブの厚さと上記断熱層の厚さとかがほぼ同じである,
請求項1に記載の高熱伝導ケーブル。
【請求項3】
上記芯線と上記絶縁用外皮チューブとの間に,1または複数の導電体のシールド層が形成されている,
請求項1または2に記載の高熱伝導ケーブル。
【請求項4】
上記1または複数の導電体のシールド層が,高熱伝導ケーブルの長手方向に放熱の指向性をもつグラファイト・シートである,
請求項3に記載の高熱伝導ケーブル。
【請求項5】
上記絶縁用外皮チューブに充填される上記高熱伝導フィラーの割合が,10vol%から70vol%である,
請求項1から4のうち,いずれか一項に記載の高熱伝導ケーブル。
【請求項6】
体内に挿入される挿入部の先端部分に含まれている回路から出力される信号を,請求項1から5のうち,いずれか一項に記載の高熱伝導ケーブルを通して伝送する,内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−66542(P2013−66542A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205998(P2011−205998)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】