説明

高硬度肉盛合金粉末

【課題】Co−Cr−W合金と同等以上の溶接割れ感受性と、Co−Cr−Mo−Si合金と同等以上の耐摩耗性を兼ね備えた高硬度肉盛合金粉末を提供すること。
【解決手段】0.5<C≦3.0mass%、0.5≦Si≦5.0mass%、10.0≦Cr≦30.0mass%、及び、16.0<Mo≦40.0mass%を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなり、40.0≦Mo+Cr≦70.0mass%である高硬度肉盛合金粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度肉盛合金粉末に関し、さらに詳しくは、各種内燃機関、自動車用エンジン、蒸気タービン、熱交換器、加熱炉等に用いられるバルブのフェース部の肉盛溶接などに用いられる高硬度肉盛合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
肉盛溶接とは、母材表面に金属を溶着させる溶接法をいう。肉盛溶接は、母材表面に耐摩耗性、耐食性等の特性を付与するために行われている。例えば、エンジンバルブのフェース部は、バルブシートと繰り返し接触するため、高い耐摩耗性が求められる。一方、耐摩耗性の高い材料は、一般に靱性が低いので、バルブ全体をこのような耐摩耗性の高い材料で作製するのは困難である。そのため、エンジンバルブに靱性の高い材料を用い、バルブのフェース部に耐摩耗性の高い材料を肉盛することが行われている。
【0003】
肉盛溶接法には種々の方法が知られているが、工程の自動化が求められる用途には、一般に、溶加材として合金粉末を用いたプラズマ粉末溶接法やレーザー粉末溶接法などが用いられる。また、肉盛合金には目的に応じて種々の材料が用いられるが、耐摩耗性の付与を目的として肉盛を行う場合、肉盛合金には、一般に、Co−Cr−W合金(例えば、ステライト(登録商標)#6)、Co−Cr−Mo−Si合金(例えば、トリバロイ(登録商標)400)などのCo基合金が用いられている。このような肉盛溶接用のCo基合金粉末に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、球形状をなし、酸素量が0.01〜0.50重量%でかつ窒素量が0.30重量%以下である粉末肉盛用Co基合金粉末が開示されている。
同文献には、酸素量を0.01重量%以下とし、窒素量を0.30重量%以下とすることによって、肉盛金属中のブローホールをなくすことができる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、重量基準で、C:2〜2.5%、Si:0.6〜1.5%、Ni:20〜25%、Cr:22〜30%、W:10〜15%、Al:0.0005〜0.05%、B:0.0001〜0.05%、及びO:0.005〜0.05%を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなるエンジンバルブ用肉盛溶接用粉末が開示されている。
同文献には、C、Cr、Wの含有量を一定値まで高めると、不活性ガスシールド溶接を用いた場合であっても浸炭効果と同様な効果を奏する点が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、肉盛溶接用の合金粉末ではないが、重量%で、Cr:20.0〜30.0%、W及び/又はMo:3.0〜16.0%、Si:0.5〜1.5%、Mn:0.01〜0.5%、C:0.1〜1.5%を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基耐熱合金製ディーゼルエンジン用副燃焼室口金が開示されている。
同文献には、合金組成を最適化することによって、高温耐酸化性及び耐熱衝撃性が向上する点が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、重量比で、Cr:10〜40%、Mo:10%超30%、W:1〜20%、Si:0.5〜5.0%、C:0.05〜3.0%、O:0.01〜0.1%、Al:0.001〜0.12%、Fe:30%以下、Ni:20%以下、Mn:3%以下を含有し、残部がCo及び不可避不純物(但し、Co量は30〜70重量%)からなるコバルト基盛金合金が開示されている。
同文献には、
(1)Feを増量することによって、靱性が向上し、かつ、耐摩耗性及び相手攻撃性が改善される点、
(2)Alを添加し、O含有量を規制することによって、盛金性が改善され、かつ、盛金部のブローホールの発生を抑制できる点、及び、
(3)さらにBを含有させることにより、外部からのOの侵入が防止され、盛金性が改善され、かつ、ビード形状が向上する点、
が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、肉盛溶接用の合金粉末ではないが、1.5C−29Cr−8.5Mo−Co合金、2.5C−33Cr−18Mo−Co合金、又は、2.2C−32Cr−1.3W−18Mo−Co合金からなるCo基鋸チップが開示されている。
同文献には、Co−Cr-W合金中のWの一部又は全部をMoに置換することにより、炭化物の形成が促進される点、及び、酸環境下での高い耐腐食性が付与される点が記載されている。
【0009】
肉盛合金には、目的に応じて、複数の特性が求められる場合がある。例えば、エンジンバルブのフェース部に肉盛を行う場合、肉盛合金には、耐摩耗性だけでなく、ある程度の延性も求められる。これは、肉盛合金の延性が低いと、肉盛時に割れが発生しやすくなり、製造性が低下するためである。
【0010】
上述したCo基合金の内、Co−Cr−W合金は、Cr系炭化物を硬化相とするものであり、延性が高く、溶接割れ感受性が良好である。しかしながら、Co−Cr−W合金は、耐摩耗性が相対的に低く、使用時の摩耗量が大きいという問題がある。
一方、Co−Cr−Mo−Si合金は、Laves相(Co3Mo2Si)を硬化相とするものであり、耐摩耗性に優れている。しかしながら、Co−Cr−Mo−Si合金は、延性が低く、肉盛時に割れが発生しやすいという問題がある。
また、肉盛溶接用のCo基合金に対してある種の元素(例えば、W)を過剰に加えた場合、合金粉末の延性低下や湯流れ性の低下が起こる場合がある。
さらに、Co−Cr−W合金と同等以上の溶接割れ感受性と、Co−Cr−Mo−Si合金と同等以上の耐摩耗性を兼ね備えた肉盛合金が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−033090号公報
【特許文献2】特開平02−092495号公報
【特許文献3】特開平07−126782号公報
【特許文献4】特開平05−084592号公報
【特許文献5】特開2001−123238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、Co−Cr−W合金と同等以上の溶接割れ感受性と、Co−Cr−Mo−Si合金と同等以上の耐摩耗性を兼ね備えた高硬度肉盛合金粉末を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、合金粉末の延性低下や湯流れ性の低下を抑制することが可能な高硬度肉盛合金粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、
0.5<C≦3.0mass%、
0.5≦Si≦5.0mass%、
10.0≦Cr≦30.0mass%、及び、
16.0<Mo≦40.0mass%、
を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなり、
40.0≦Mo+Cr≦70.0mass%
であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、Co−Cr−Mo−Si合金と同等以上の耐摩耗性と、Co−Cr−W合金と同等以上の溶接割れ感受性を示す。これは、
(1)Co−Cr−Mo−Si合金に対して所定量のCを添加することにより、マトリックス中にLaves相とCr系炭化物の双方が析出するため、
(2)Mo+Cr量を最適化することにより、硬化相の生成量が所定の範囲に保たれるため、
(3)Si量を制御することによりLaves相の析出量を制御でき、これによって、マトリックス中のMo固溶量を制御できるため、及び、
(4)Cr系炭化物にもMoが固溶するため、Cを含まない従来のCo−Cr−Mo−Si合金に比べて、マトリックス中のMo固溶量が減少するため、
と考えられる。
さらに、本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、実質的にWを含まないので、合金粉末の延性低下や湯流れ性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 高硬度肉盛合金粉末]
[1.1. 主構成元素]
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、以下のような元素を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0016】
(1) 0.5<C≦3.0mass%:
Cは、Crと結合して硬化相である炭化物を形成し、これによって耐摩耗性を向上させるために必要な元素である。このような効果を得るためには、C含有量は、0.5mass%超である必要がある。
一方、C含有量が過剰になると、炭化物の生成量が過剰となり、合金の靱性が低下する。従って、C含有量は、3.0mass%以下である必要がある。C含有量は、さらに好ましくは、2.0mass%以下である。
【0017】
(2) 0.5≦Si≦5.0mass%:
Siは、硬質相であるLaves相(Co3Mo2Si)を形成することで耐摩耗性を向上させるために重要な元素である。このような効果を得るためには、Si含有量は、0.5mass%以上である必要がある。Si含有量は、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、Si含有量が過剰になると、Laves相の生成量が過剰となり、合金の延性が低下する。従って、Si含有量は、5.0mass%以下である必要がある。Si含有量は、さらに好ましくは、2.5mass%以下である。
【0018】
(3) 10.0≦Cr≦30.0mass%:
Crは、Cr炭化物を形成し、これによって耐摩耗性を向上させるために必要な元素である。また、Crは、合金の高温酸化及び腐食に対する抵抗性を確保するために必須である。このような効果を得るためには、Cr含有量は、10.0mass%以上である必要がある。
一方、Cr含有量が過剰になると、炭化物の生成量が過剰となり、合金の延性が低下する。従って、Cr含有量は、30.0mass%以下である必要がある。
【0019】
(4) 16.0<Mo≦40.0mass%:
Moは、硬化相であるLaves相(Co3Mo2Si)を形成することで耐摩耗性を向上させるために重要な元素である。このような効果を得るためには、Mo含有量は、16.0mass%超である必要がある。Mo含有量は、さらに好ましくは、25.0mass%以上である。
一方、Mo含有量が過剰になると、Laves相の生成量が過剰となり、合金の延性が低下する。従って、Mo含有量は、40.0mass%以下である必要がある。Mo含有量は、さらに好ましくは、35.0mass%以下である。
【0020】
[1.2. 副構成元素]
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、上述した主構成元素に加えて、以下の1種又は2種以上の副構成元素をさらに含んでいてもよい。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0021】
[1.2.1. 脱酸元素]
(5) Ca≦0.03mass%:
(6) P≦0.03mass%:
Ca及びPは、いずれも合金溶製時に脱酸作用を有する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、延性が低下する。従って、Ca及びPの含有量は、それぞれ、0.03mass%以下にする必要がある。
【0022】
[1.2.2. 湯流れ性改善元素]
(7) Ni≦5.0mass%:
Niは、合金粉末の延性及び湯流れ性を向上させる作用があるため、必要に応じて添加しても良い。また、Niは、合金粉末製造時に1.0mass%以下ぐらいは不可避的に混入する可能性がある元素でもある。延性及び湯流れ性を向上させるためには、Ni含有量は、0.1mass%以上が好ましい。
一方、Ni含有量が過剰になると、合金粉末の延性が低下する。従って、Ni含有量は、5.0mass%以下にする必要がある。Ni含有量は、さらに好ましくは3.5mass%以下である。
【0023】
(8) Fe≦5.0mass%:
Feは、Oと結合して酸化物を形成し、合金粉末の潤滑性を向上させると共に湯流れ性を向上させる作用があるため、必要に応じて添加しても良い。また、Feは、合金粉末製造時に1.0mass%ぐらいは不可避的に混入する可能性のある元素でもある。
一方、Fe含有量が過剰になると、合金粉末の延性が低下するだけでなく、耐摩耗性も低下する。従って、Fe含有量は、5.0mass%以下にする必要がある。
【0024】
[1.3. 不可避的不純物]
下記の不可避的不純物は、粉末製造時に原料から過って多く混入する可能性がある元素である。過剰に混入すると、所望の粉末が得られないので、下記のように規制する必要がある。
(9) Mn≦1.0mass%:
Mnは、脱酸作用があるが、Mn含有量が1.0mass%を超えると、湯流れが悪くなり、溶接性が低下する。従って、Mn含有量は、1.0mass%以下にする必要がある。
【0025】
(10) Cu≦1.0mass%:
Cuは、合金の高温における酸化被膜の密着性を高める作用があり、それによって耐酸化性を向上させる作用があるが、Cu含有量が1.0mass%を超えると、合金の延性を劣化させる。従って、Cu含有量は、1.0mass%以下にする必要がある。
【0026】
(11) S≦0.03mass%:
Sは、硫化物を形成し、合金粉末の潤滑性を向上させる作用があるが、S含有量が0.03mass%を超えると、合金粉末の延性が低下する。従って、S含有量は、0.03mass%以下にする必要がある。
【0027】
(12) W<1.0mass%:
Wは、Crと共に炭化物を形成し、合金粉末の耐摩耗性を向上させる作用があるが、W含有量が1.0mass%以上になると、合金粉末の延性が低下すると共に、湯流れも悪くなる。従って、W含有量は、1.0mass%未満にする必要がある。
【0028】
(13) O≦0.1mass%:
Oは、酸化物を形成し、合金粉末の潤滑性を向上させる作用があるが、O含有量が0.1mass%を超えると、合金粉末の延性が低下する。従って、O含有量は、0.1mass%以下にする必要がある。
【0029】
(14) N≦0.1mass%:
Nは、窒化物を形成し、合金粉末の耐摩耗性を向上させる作用があるが、N含有量が0.1mass%を超えると、合金粉末の延性が低下する。従って、N含有量は、0.1mass%以下にする必要がある。
【0030】
[1.3. 成分バランス: Mo+Cr]
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、成分元素が上述の範囲にあることに加えて、さらにMo及びCrの総量が以下の範囲にある必要がある。
すなわち、Mo及びCrは、それぞれ、Laves相及びCr炭化物を形成する元素である。Mo+Crが少ないと、硬化相の生成量が減少し、合金粉末の耐摩耗性が低下する。従って、Mo+Cr量は、40.0mass%以上である必要がある。
一方、Mo+Cr量が過剰になると、硬化相の生成量が過剰となり、合金の延性が低下する。従って、Mo+Cr量は、70.0mass%以下である必要がある。Mo+Cr量は、さらに好ましくは、60.0mass%以下である。
【0031】
[2. 高硬度肉盛合金粉末の製造方法]
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、
(1)所定の組成となるように配合された原料を溶解し、
(2)溶湯をガス又は液体中に噴霧する、
ことにより製造することができる。
【0032】
[3. 高硬度肉盛合金粉末の作用]
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、Co−Cr−Mo−Si合金と同等以上の耐摩耗性と、Co−Cr−W合金と同等以上の溶接割れ感受性を示す。これは、
(1)Co−Cr−Mo−Si合金に対して所定量のCを添加することにより、マトリックス中にLaves相とCr系炭化物の双方が析出するため、
(2)Mo+Cr量を最適化することにより、硬化相の生成量が所定の範囲に保たれるため、
(3)Si量を制御することによりLaves相の析出量を制御でき、これによって、マトリックス中のMo固溶量を制御できるため、及び、
(4)Cr系炭化物にもMoが固溶するため、Cを含まない従来のCo−Cr−Mo−Si合金に比べて、マトリックス中のMo固溶量が減少するため、
と考えられる。
さらに、本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、実質的にWを含まないので、合金粉末の延性低下や湯流れ性の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0033】
(実施例1〜13、比較例1〜11)
[1. 試料の作製]
ガス噴霧によって、表1に示す組成を有する合金粉末を作製した。粉末粒度は、−80/+350メッシュであった。以下の条件でSUH35製の板材(厚さ15mm×幅70mm×長さ150mm)の表面に各合金粉末を肉盛溶接した。また、同様の条件でSUH35製のバルブ(100本)のフェース部に各合金粉末を肉盛溶接した。
肉盛条件(1層盛)
電流値: 105A、 粉末供給量: 12g/min
溶接速度: 50mm/min、 ウィービング量: 1mm
Ar流量: プラズマガス 1L/min
シールドガス 12L/min
パウダーガス 2.5L/min
【0034】
【表1】

【0035】
[2. 試験方法]
[2.1. ビッカース硬さ]
肉盛溶接された板材を溶接ビードに対してほぼ垂直に切断した。肉盛層断面の中心部のビッカース硬さを加重1kgf(9.8N)で7点測定した。最大値及び最小値を除く5点の平均値を算出した。
[2.2. 引張試験]
肉盛溶接された板材から、評点間が肉盛層のみからなる試験片を切り出した。評点間の寸法は、厚さ2mm×幅4mm×長さ10mmとした。この試験片を用いて、600℃で引張試験を行い、破断後の絞り値を測定した。
【0036】
[2.3. 溶接後の割れ観察]
バルブの肉盛部の外観を観察し、割れの有無を調査した。割れが見られなかった場合を「○」、割れ発生が5個未満である場合を「△」、割れが5個以上である場合を「×」とした。
[2.4. 単体摩耗試験後の摩耗量]
単体摩耗試験は以下の条件で行った。試験後のバルブとバルブシートの設置面の摩耗量を測定した。摩耗量が15μm未満である場合を「○」、摩耗量が15μm以上である場合を「×」とした。
試験時間: 10h
燃料: LPG
接触回数: 3000回/分
バルブ駆動: クランクシャフト
バルブ回転数: 10回/分
【0037】
[3. 結果]
表2に結果を示す。表2より、以下のことがわかる。
(1)トリバロイ(登録商標)400相当の組成を持つ比較例1は、高硬度であるが、絞りが低く、溶接後の割れも多い。
(2)ステライト(登録商標)#6相当の組成を持つ比較例2は、絞りが高く、溶接後の割れも認められなかったが、硬さが低く、摩耗量も多い。
(3)比較例3は、C含有量が少ないため、溶接後の割れはないが、摩耗量が大きい。一方、比較例4は、C含有量が過剰であるため、摩耗量は少ないが、溶接後の割れが多い。
(4)比較例5は、Si含有量が少ないため、溶接後の割れはないが、摩耗量が大きい。一方、比較例6は、Si含有量が過剰であるため、摩耗量は少ないが、溶接後の割れが多い。
(5)比較例7は、Mo含有量が多く、Cr含有量が少ないため、摩耗量は少ないが、溶接後の割れが多い。一方、比較例8、9は、Mo含有量が少なく、Cr含有量が過剰であるため、溶接後の割れはないが、摩耗量が大きい。
(6)比較例11は、Mo+Cr量が少ないため、溶接後の割れはないが、摩耗量が大きい。
(7)実施例1〜13は、いずれも各成分が最適化され、かつ、Mo+Cr量も最適化されているため、溶接後の割れが少なく、かつ摩耗量も少ない。
【0038】
(8)C含有量が2.0mass%を超える実施例5、6は、溶接後の割れが若干認められた。これに対し、他の成分を同等に維持したままC含有量を0.5mass%超2.0mass%以下にすると、摩耗量を同等に維持したまま、溶接後の割れをなくすことができる。
(9)Si含有量が2.5mass%を大きく超えた実施例12、13は、溶接後の割れが若干認められた。これに対し、他の成分を同等に維持したままSi含有量を1.0mass%以上2.5mass%以下にすると、摩耗量を同等に維持したまま、溶接後の割れをなくすことができる。
(10)Mo含有量が16.4mass%である実施例9は、ビッカース硬さが若干低い。また、Mo含有量が35mass%を超えた実施例10、11は、溶接後の割れが若干認められた。これに対し、他の成分を同等に維持したままMo含有量を25mass%以上35mass%以下にすると、摩耗量を同等に維持したまま、ビッカース硬さが上昇し、又は、溶接後の割れをなくすことができる。
(11)実施例6〜7、9〜11より、Mn、Cu等が不純物として若干混入しても、所望の特性が維持可能であることがわかる。
【0039】
【表2】

【0040】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る高硬度肉盛合金粉末は、各種内燃機関、自動車用エンジン、蒸気タービン、熱交換器、加熱炉等に用いられるバルブのフェース部の肉盛溶接に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5<C≦3.0mass%、
0.5≦Si≦5.0mass%、
10.0≦Cr≦30.0mass%、及び、
16.0<Mo≦40.0mass%、
を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなり、
40.0≦Mo+Cr≦70.0mass%
である高硬度肉盛合金粉末。
【請求項2】
Ca≦0.03mass%、及び、
P≦0.03mass%、
から選ばれる1種以上の元素をさらに含む請求項1に記載の高硬度肉盛合金粉末。
【請求項3】
Ni≦5.0mass%、及び、
Fe≦5.0mass%、
から選ばれる1種以上の元素をさらに含む請求項1又は2に記載の高硬度肉盛合金粉末。