説明

高粘度ポリオールのための粘度降下剤

本発明は、アルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルエポキシドの開環生成物に関する。この生成物は、高粘度ポリオールのための粘度調整剤として顕著に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカノールまたは水による、脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物に関する。これらの開環生成物は、高粘度ポリオールのための粘度調整剤(粘度降下剤)として極めて適している。
【背景技術】
【0002】
不飽和脂肪酸単位を含むトリグリセリドのエポキシドの開環生成物および不飽和脂肪酸単位を含む脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物は、以前から知られている。特に、アルコールによる上記エポキシドの開環生成物は周知である。対応するエポキシドは、不飽和脂肪酸単位を含むトリグリセリドまたは不飽和脂肪酸単位を含む脂肪酸メチルエステルのエポキシ化によって得られる。アルコールまたはポリオールによる上記エポキシドの開環において、エポキシド中に存在するオキシラン環が化学的に修飾されて、OH基およびエーテル基が隣接炭素原子に生成する。生成したOH基は、さらなる反応に、例えば、ポリウレタンを生成するイソシアネートとの反応に使用することができる。
【0003】
上記した開環生成物の使用の典型的な例が、欧州特許EP-B-259722に開示されている。この文献は、固体ポリウレタン材料の製造方法であって、分子あたりに少なくとも2個のイソシアネート基を含むイソシアネートおよび分子あたりに少なくとも2個のヒドロキシ基を含むアルコールを用いる注型による方法に関する。使用されるポリウレタン単位には、特に、エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応、および該アルコキシル化の前または後の該生成物の所望による熱処理によって得られるポリオールが含まれる。
【0004】
独国特許出願公開DE-A-4201343は、潤滑油の流動点を降下させるための、エポキシ化脂肪酸エステル、例えばエポキシオクタデカン酸メチル(エポキシ化オレイン酸メチルエステル)の開環生成物を記載している。
【0005】
英国特許GB877134は、三フッ化ホウ素の存在下に、不飽和脂肪酸およびそのエステルのエポキシドを重合させて、ポリエーテルを得ることを記載している。得られるポリマーは、鉱油の粘度指数および潤滑特性を改善するのに適している。
【0006】
欧州特許EP-B-259722に記載される特別な種類のエポキシド開環生成物、即ち、エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応、および該アルコキシル化の前または後の該生成物の所望による熱処理によって得られるポリオールは、通常は比較的高い粘度を有し、このことがその取扱い(例えば、撹拌、注入およびポンプ輸送すること)を、特に低温において困難にする(約20℃の温度においても困難であることが多い)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高粘度ポリオールのための、より具体的には上記したエポキシド開環生成物のための粘度調整剤を提供することであった。これらの粘度調整剤は、比較的少量で使用したときにも有効であろう。
さらに、本発明は、該粘度調整剤を用いて適度に低い粘度に調節した上記ポリオールを、ポリウレタンの製造においてポリイソシアネートと一緒に直ちに使用しうることを保証しようとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに、アルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物が、粘度調整剤として使用するのに適する特に低粘度の物質であることがわかった。特にこれらは、例えばポリウレタンの製造において使用される高粘度ポリオールのための粘度調整剤として適している。
【0009】
本発明は、高粘度ポリオールのための粘度調整剤(粘度降下剤)としての、アルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に従って粘度調整剤(粘度降下剤)として使用するアルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物を、以下において「ビスコモド(viscomod)」化合物(a)と称することもある。
【0011】
エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、および所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応によって得られる化合物を、特に、高粘度ポリオール、即ち化合物(a)を用いて粘度修飾される物質と称する。この種類の高粘度化合物を、以下において「ハイビスコ(high-visco)」ポリオール(b)と称することもある。
【0012】
ビスコモド化合物(a)
本発明に従って粘度調整剤として使用するアルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物を、以下においてビスコモド化合物(a)と称することもある。
【0013】
本発明において「脂肪酸メチルエステルのエポキシド」(e)とは、不飽和脂肪酸メチルエステルのエポキシ化によって得られる化合物であると解される。これらの化合物(e)をアルカノールおよび/または水と反応させたときに、(e)中に存在するオキシラン環が開き、ビスコモド化合物(a)が生成する。
【0014】
本発明おいて「アルカノール」とは、1〜20個の炭素原子(これらは飽和または不飽和、直鎖または分岐鎖であってよい)および1〜6個のOH基を含む基本的脂肪族骨格で存在する化合物であると解される。これに関連して明白な条件は、OH基の最大数がアルカノールの炭素原子の数によって制限されるということである。即ち、1個の炭素原子を含むアルカノールはメタノールのみであり、2個の炭素原子を含むアルカノールは1個または2個のOH基を含むことができる(エタノールまたはエタン-1,2-ジオール)などである。OH基の他に、アルカノールは、他の官能基を全く含まないのが好ましい。別の好ましい態様において、アルカノールは、分子あたりに1〜8個の炭素原子および多くとも3個のOH基を含む。分子あたりに1〜6個の炭素原子および1〜3個のOH基を含むアルカノール、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリコール、グリセロール、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
特に好ましいビスコモド化合物(a)は、800mPas以下、より具体的には400mPas以下のブルックフィールド粘度(25℃で測定)を有する。
【0015】
ハイビスコポリオール(b)
既に上記したように、ハイビスコポリオール(b)は、エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応、および該生成物の所望による熱処理によって得られる高粘度ポリオールである。
【0016】
ハイビスコポリオール(b)の製造に使用しうるエポキシ化トリグリセリド油は、従来技術から自体既知である。これらは、例えば、他の技術分野においていわゆる「エポキシ可塑剤」として使用されており、この目的で市販もされている。エポキシ化トリグリセリド油は、例えば触媒量の過酢酸または過ギ酸の存在下に、不飽和油[例えば、ダイズ油、ナタネ油、アマニ油、トール油、綿実油、ピーナツ油、パーム油、ヒマワリ油(古いおよび新しい植物由来)、菜種油または牛脚油]のエポキシ化によって得られる。トリグリセリドの脂肪酸単位のオレフィン性二重結合を、過酢酸の使用量に依存して、エポキシ化反応によって完全にまたは部分的にオキシラン環に変換する。好ましい不飽和の油は、ヨウ素価50〜200を有するトリグリセリドであり、これは、オレフィン性二重結合の高度のエポキシ化によって、エポキシド酸素含量が3〜10重量%であるエポキシ化物に変換される。4〜8重量%のエポキシド酸素含量を有するエポキシ化トリグリセリド油が特に好ましい。
【0017】
エポキシ化トリグリセリドまたはそのアルキルエステルの群からの特に好ましい物質は、以下の通りである:
・エポキシ化ダイズ油(例えば「Edenol D 81」、Cognis Deutschland GmbH & Co. KGの製品);
・エポキシ化アマニ油(例えば「Edenol B 316」、Cognis Deutschland GmbH & Co. KGの製品)。
【0018】
既に上記したように、一価および/または多価C1-8アルコールを、エポキシ化トリグリセリド油の開環に使用する。適するアルコールは、直鎖アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、グリコール、トリメチロールプロパン、ならびに、アルキル鎖において分岐したかまたは第二または第三炭素原子にヒドロキシル基を保持する上記アルコールの異性体、例えば、i-プロパノール、i-ブタノールまたは2-エチルヘキシルアルコールである。メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノールおよび2-エチルヘキシルアルコールからなる群からのアルコールを、エポキシ化トリグリセリド油および/またはそのアルキルエステルへの添加に使用するのが好ましい。これらのアルコールのなかで、メタノールが特に好ましい。
【0019】
従来技術から知られるように、エポキシ化トリグリセリド油への、1〜8個の炭素原子を含む一価および/または多価アルコールの付加は、酸性触媒の存在下に行うのが好ましい。適する酸性触媒は、例えば通常の無機酸、例えば濃硫酸などである。しかし、ルイス酸(例えば、三ハロゲン化ホウ素またはその誘導体)を酸性触媒として使用することもでき、また、反応を酸性イオン交換体の存在下に行うこともできる。酸性イオン交換体の使用が特に好ましいが、その理由は、それが反応混合物から触媒を除去する最適の可能性を与えるためである。開環触媒は、反応後に洗浄または沈殿によって除去するか、または中和後に反応生成物中に残すことができる。ナトリウムメチラート、またはより具体的にはジアルキルエタノールアミン、好ましくはジメチルまたはジエチルエタノールアミンによる中和(中和生成物は生成混合物中に残存する)が好ましい操作である。
【0020】
1.05〜10モル(好ましくは3〜10モル)のアルコール:1モルのエポキシド酸素であるアルコール:トリグリセリド油のモル比を、エポキシ化トリグリセリド油への一価および/または多価C1-8アルコールの付加のために調節する。これは、過剰のアルコールを通常は付加反応のために使用して、ほぼ全てのオキシラン環が開き、HO-C-C-OR基[式中、Rは、使用するC1-8アルコールのアルキル基である]に変換されることを確実にすることを意味する。
【0021】
自体既知の方法により、上記のようにして得られるポリオールが、過剰または未反応の物質を含まないようにすることができる。例えば、エポキシ化トリグリセリド油および/またはそのアルキルエステル中のオキシラン環を開くために使用するアルコールを、所望により減圧下での蒸留によって除去することができる。しかし、当分野で自体既知の他の精製方法を使用することもできる。
【0022】
1つの態様において、エポキシ化トリグリセリド油および/またはそのアルキルエステルとC1-8アルコールとの反応によって得られるポリオールを、プロピレンオキシドと反応させる。必要な条件は、当業者に知られている。アルキレンオキシドと、一価および/または多価C1-8アルコールで開環したエポキシ化トリグリセリド油および/またはそのアルキルエステルとのモル比は、プロポキシル化反応において、1〜10モルのプロピレンオキシド:1モルのエポキシド酸素の値に調節するのが好ましい。
【0023】
所望により、上記のようにして得られるポリオールを、熱処理に付すことができる。上記のようにポリオールの製造中にプロポキシル化を行うときには、熱処理または熱的な後反応を、プロポキシル化の前および/または後に行うことができる。しかし、プロポキシル化の後に行うのが好ましい。
【0024】
ポリオールの熱処理は、これによりその含水量を実質的にゼロまで低下させることができるので、即ち、ほとんど水を含まないポリオールが利用可能になるので有利である。
【0025】
本発明の使用
既に上記したように、成分(a)は、高粘度ポリオール(b)の粘度を調節するため、即ち低下させるために極めて適している。このようにして、化合物(b)の取扱いが容易になるだけでなく、(a)および(b)の混合物[化合物(a)は、通常は1〜20%の比較的少量でのみ化合物(b)に添加される]が、その比較的低い粘度のゆえにポリウレタンの製造時のポリイソシアネートとの反応のために、化合物(b)よりも適したものになる。
【0026】
化合物(a)の別の利点は、これらを、存在するOH基を介してポリウレタン中に導入しうることである。この意味において、これらを反応性希釈剤とみなすことができる。即ち、これらが1つまたはそれ以上のNCO反応性OH基を有するがゆえに、ポリウレタン反応のための反応成分という追加の機能を同時に発揮しうる、高粘度ポリオールのための希釈剤とみなすことができる。
【0027】
ポリウレタンの製造における使用
また本発明は、高粘度ポリオール(b)[好ましくは、エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、および所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応によって得られる化合物から選択される]とポリイソシアネートとの反応によるポリウレタンの製造方法であって、ポリオール(b)の粘度を、アルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物の添加[即ち、上記した化合物(a)の添加]によって調節することを特徴とする方法に関する。
【実施例】
【0028】
使用した物質
ビスコモド化合物(a)の群からの化合物
Sovermol 710:メタノールで開環した脂肪酸メチルエステルエポキシド(「Sovermol 710」、Cognis Deutschland GmbH & Co. KGの製品)
Sovermol 1102:エタンジオールで開環した脂肪酸メチルエステルエポキシド(「Sovermol 1102」、Cognis Deutschland GmbH & Co. KGの製品)
ハイビスコポリオール(b)の群からの化合物
Sovermol 1068:メタノールで開環した脂肪酸トリグリセリドエポキシド(「Sovermol 1102」、Cognis Deutschland GmbH & Co. KGの製品)
【0029】
粘度降下の実施例
比較例A
Sovermol 1068のブルックフィールド粘度を25℃(スピンドル21、6rpm)で測定したところ、3620mPasであった。
比較例B
Sovermol 710のブルックフィールド粘度を25℃(スピンドル21、6rpm)で測定したところ、70mPasであった。
比較例C
Sovermol 710のブルックフィールド粘度を25℃(スピンドル21、6rpm)で測定したところ、300mPasであった。
【0030】
実施例1
90重量部のSovermol 1068および10重量部のSovermol 710を一緒に混合した。混合物のブルックフィールド粘度(25℃/スピンドル21/6rpm)は2325mPasであった。
実施例2
90重量部のSovermol 1068および10重量部のSovermol 710を一緒に混合した。混合物のブルックフィールド粘度(25℃/スピンドル21/12rpm)は1508mPasであった。
実施例3
80重量部のSovermol 1068および20重量部のSovermol 1102を一緒に混合した。混合物のブルックフィールド粘度(25℃/スピンドル21/6rpm)は2575mPasであった。
実施例4
80重量部のSovermol 1068および20重量部のSovermol 1102を一緒に混合した。混合物のブルックフィールド粘度(25℃/スピンドル21/6rpm)は1858mPasであった。
【0031】
実施例1〜4から、化合物(a)の化合物(b)に対する粘度調節作用が優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度ポリオール(b)のための粘度調整剤(a)としての、アルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物の使用。
【請求項2】
粘度調整剤が、分子あたりに1〜6個の炭素原子および1〜3個のOH基を含むアルカノールによる、脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
アルカノールが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリコール、グリセロールおよびトリメチロールプロパンからなる群から選択される請求項2に記載の使用。
【請求項4】
粘度調整剤が、水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物である請求項1に記載の使用。
【請求項5】
高粘度ポリオール(b)が、エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、および所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応によって得られる化合物から選択される請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
高粘度ポリオール(b)とポリイソシアネートとの反応によるポリウレタンの製造方法であって、該ポリオール(b)の粘度を、アルカノールまたは水による脂肪酸メチルエステルのエポキシドの開環生成物の添加によって調節することを特徴とする方法。
【請求項7】
ポリオール(b)が、エポキシ化トリグリセリド油への一価C1-8アルコールの付加、および所望により精製した付加生成物とC2-4アルキレンオキシドとの所望による反応によって得られる化合物から選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2008−505231(P2008−505231A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519660(P2007−519660)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006742
【国際公開番号】WO2006/002812
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】