説明

高純度なリン系難燃剤の製造方法

【課題】下記一般式(1)で表されるリン化合物を用いて、高純度なリン系難燃剤を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるリン化合物を、α,β−不飽和カルボニル化合物、エナミン化合物、キノン化合物及びエポキシ基を有する化合物から選ばれる一種の化合物と反応させることである。


(式中X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示し、R1〜R10はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板や電子部品に用いられる電気絶縁材料、ソルダーレジスト材料、封止材、接着剤などの難燃剤として好適な高純度なリン系難燃剤の簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器、電子部品等に使用される樹脂は、火災の防止等の安全性の観点から、難燃性であることが望まれている。このため、上記樹脂として、これまで臭素化物を主とするハロゲン含有化合物が使用されてきた。ハロゲン含有化合物は優れた難燃性を有するが、燃焼の際に腐食性のハロゲン化水素等の有害な化合物を発生するおそれがあり、環境に与える影響が問題となっている。このような理由から、ハロゲン含有化合物に替わる難燃性樹脂としてリン含有化合物が検討されているが、リン酸エステル化合物を使用すると吸水性が悪化したり、加水分解によりリン酸が発生したり、樹脂性能を低下させるなどの問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために耐加水分解性を向上させた縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物が提案されている。しかしながら、これらのリン含有化合物を含む樹脂組成物等においては、樹脂組成物等が硬化するときや経時的にブリードが起こり、その結果、均一な難燃効果が得られないおそれがあり、また、硬化物の熱的、電気的、機械的特性等が低下するという問題があった。そこで、このような問題が解消された反応性リン系難燃剤が求められている。
【0004】
樹脂組成物に配合、あるいは樹脂原料として用いたときに充分な難燃性を付与し得る反応性リン系難燃剤として、下記一般式(a)のジアリールホスフィンオキサイドや、それから誘導される化合物群が有効であることが知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R1〜R10はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
ジアリールホスフィンオキサイドの1種であるジフェニルホスフィンオキサイドは、以下の反応式(b)で示されるような方法で製造することができる。しかし水相からの抽出効率が悪いと同時に、結晶性も悪いことから高純度のジフェニルホスフィンオキサイドを容易に得るのは困難であった。
【0007】
【化2】

【0008】
また、このような2置換のホスフィンオキサイド化合物は不安定であり、下記の反応式(c)の様に容易に不均化反応を起こしてしまう問題点もあった。
【0009】
【化3】

【0010】
特許文献4には、ジアリールホスフィンオキサイド化合物にケトン化合物を付加した化合物は、常温では安定であると同時に結晶性に優れることから容易に精製できることができ、しかも加熱により容易にジアリールホスフィンオキサイド化合物とケトン化合物に戻ることから、ジアリールホスフィンオキサイドの精製方法としては優れた方法として開示している。しかし特許文献4は、ジアリールホスフィンオキサイド化合物にケトン化合物を付加した化合物を用いて、難燃剤もしくは難燃樹脂として有用な高純度の材料に簡便に変換する方法については全く記載されていない。
【0011】
また、特許文献4と同様の方法で、特許文献5に下記(d)に示すリン化合物を安定化する方法が記載されているが、例えばそのアセトン付加物である式(e)に示す化合物は、安定性が高くて、高純度のリン系難燃剤に誘導するのは容易ではない。
【0012】
【化4】

【0013】
【特許文献1】特開昭63−313795号公報
【特許文献2】特公昭60−7640号公報
【特許文献3】特開平7−53580号公報
【特許文献4】米国特許3126416号公報
【特許文献5】特公平3−46478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は下記一般式(1)で表されるリン化合物を用いて、高純度なリン系難燃剤を簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記目的を達成するため、鋭意研究したところ、下記一般式(1)で表されるリン化合物を、α,β−不飽和カルボニル化合物、エナミン化合物、キノン化合物及びエポキシ基を有する化合物から選ばれる一種の化合物と反応させることにより、高純度なリン系難燃剤を簡便に製造する方法を見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0016】
【化5】

【0017】
(式中X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示し、R1〜R10はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明により、高純度なリン系難燃剤を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、下記一般式(1)で表されるリン化合物を、α,β−不飽和カルボニル化合物、エナミン化合物、キノン化合物及びエポキシ基を有する化合物から選ばれる一種の化合物と反応させることによる、高純度リン系難燃剤の製造方法を提供するものである。
【0020】
1.一般式(1)で表されるリン化合物
【化6】

【0021】
(式中X1及びX2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示し、R1〜R10は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0022】
1及びX2の炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。X1及びX2の炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。好ましいX1及びX2としては容易に反応系から除去できるように、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0023】
また、R1〜R10の炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基等を挙げることができ、R1〜R10の炭素数5〜10のシクロアルキル基の具体例としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、デカリル基等を挙げることができ、R1〜R10の炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。好ましいR1〜R10としては、リン含有率が高くすることができる水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)で表される好ましい化合物としては、下記の式(2)〜(5)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、リン含有量が高いことから目的とするリン系難燃剤のリン含有量を上げることができること、常温での安定性に優れる一方で、リン系難燃材料の製造に適した熱分解温度を有すること、発生するカルボニル化合物がアセトンであることから、反応系やリン系難燃剤から容易に除去できる特長を有する。
【0025】
【化7】

【0026】
前記一般式(1)で表されるリン化合物は、加熱により下記反応式(6)に示すように、容易に下記一般式(7)のジアリールホスフィンオキサイド化合物と、対応するカルボニル化合物とに分解する。
【0027】
【化8】

【0028】
(一般式(7)中のR1〜R10は一般式(1)におけるものと同じである。)
反応式(6)で表される熱分解の温度としては、60〜180℃が好ましく、より好ましくは80〜160℃である。60℃より低ければ反応時間が長くなりすぎて経済的ではない。180℃より高くなると、反応の制御が困難となる。
【0029】
2.α,β−不飽和カルボニル化合物
α,β−不飽和カルボニル化合物は、一般式(1)で表されるリン化合物と例えば下記反応式(8)のように反応する。
【0030】
【化9】

【0031】
(反応式(8)においてR1〜R10は式(1)と同一、R11は有機基を示す。)
α,β−不飽和カルボニル化合物の具体例としては(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのエチレンオキシド4モル付加ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド4モル付加ジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド化合物、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン等のビニルケトン化合物、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸およびそのエステル化物、イタコン酸無水物、マレイン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸無水物等を挙げることができる。また、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系共重合体も同様に例示される。好ましいα,β−不飽和カルボニル化合物の具体例としてはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0032】
溶剤は使用してもしなくても良いが、使用する場合の好ましい溶剤としては、ケトン系化合物とアルデヒド化合物を除けば、任意の一般的な溶剤を選択することができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,3−ジオキソラン、1,4-ジオキサン、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を例示することができる。
【0033】
反応を促進させる触媒は加えても加えなくても良いが、加える場合には、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等のアミン類;アミン類の酸付加物;テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩;アミド類;イミダゾール類;ピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩やスルホニウム塩;スルホン酸類;有機金属塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記反応触媒の使用量は、反応原料の合計質量に対して、通常0.005〜3.0質量%程度となるように設定する。反応触媒の使用量が0.005質量%以上であると、反応が充分促進され、3.0質量%以下であると、反応の促進効果と経済性のバランスが良好となる。反応触媒の使用量は、好ましくは、0.05〜1.0質量%である。
【0035】
また、反応中におけるラジカル重合を防止するために、重合禁止剤や分子状酸素を添加することが好ましい。上記重合禁止剤としては特に限定されず、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、メトキノン、p−t−ブチルカテコール、2−t−ブチルハイドロキノン、トルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、メトキシハイドロキノン、フェノチアジン、メチルベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルベンゾキノン及び4−ヒドロキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記分子状酸素としては特に限定されず、例えば、空気、及び空気と窒素等の不活性ガスとの混合ガス等が挙げられる。分子状酸素は、いわゆるバブリングによって反応系に吹き込むようにして用いればよい。反応系において、原料であるα,β−不飽和カルボニル化合物のラジカル重合を充分に防止する観点から、重合禁止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
【0037】
反応式(8)における好ましい反応温度としては60〜150℃、より好ましい温度としては80〜140℃である。60℃より低いと反応時間が長くなりすぎ、150℃より高いと反応の制御が難しく、安定的に目的物が得られない。
【0038】
反応式(8)における好ましい反応時間としては2〜50時間、より好ましい時間としては3〜30時間である。3時間未満であると未反応物が残り、50時間を越えると反応時間が長すぎて経済的ではない。
このようなα,β−不飽和カルボニル化合物との付加物は、特に(メタ)アクリロイル基も同時に有する場合、ソルダーレジスト用途に好適に使用することができる。
【0039】
3.エナミン化合物
エナミン化合物はα,β−不飽和カルボニル化合物と同様に、一般式(1)で表されるリン化合物と例えば下記反応式(9)のように反応する。
【0040】
【化10】

【0041】
(反応式(9)においてR1〜R10は式(1)と同一、R12は有機基を示す。)
エナミン化合物の具体例としては、下記式(10)〜(15)に示されるような化合物が例示される。これらの化合物は、サリチルアルデヒドへのアミン化合物が付加、さらに脱水反応によって得られる化合物であり、さらにアルデヒド化合物、アミン化合物は任意に選択することができる。
【0042】
【化11】

【0043】
式(10)〜式(15)の化合物は、下記反応式(16)で示されるように、式(1)で示される化合物、例えば式(2)の化合物と反応させ、さらにパラホルムアルデヒドと反応させることによりベンゾオキサジン環を有する化合物を製造することができる。ベンゾオキサジン環を有する化合物は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂と反応することができるため、特にプリント配線板用の難燃剤として有用である。
【0044】
【化12】

【0045】
4.キノン化合物
キノン化合物は一般式(1)で表されるリン化合物と、例えば下記反応式(17)のように反応し、フェノール性水酸基を有する化合物を生成する。
【0046】
【化13】

【0047】
(反応式(17)においてR1〜R10は式(1)と同一である。)
キノン化合物の具体例としては、1,4−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン等が挙げられる。
【0048】
上記反応は不活性溶媒に溶解または分散して行われ、好ましい溶剤としては例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0049】
反応式(17)の反応温度としては60〜160℃が好ましく、より好ましくは70〜150℃である。60℃より低いと反応時間が長くなりすぎ、160℃を越えると急激に反応が進み、反応の制御が難しくなる。
反応式(17)における好ましい反応時間としては1〜20時間、より好ましい時間としては2〜10時間である。2時間未満であると未反応物が残り、20時間を越えると反応時間が長すぎて経済的ではない。
【0050】
反応式(17)によって得られる好ましい化合物としては下記化合物(18)及び(19)が示される。
【0051】
【化14】

【0052】
これらの化合物はそのまま難燃剤として使用しても構わないし、さらに特開平5−214070号公報に記載されているようにエポキシ樹脂と反応させて含リンエポキシ樹脂とすることができる。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂等のグリシジエルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、及びテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂等が挙げられ、プリント配線板、銅箔と基板との接着剤等の用途で特に有用である。
【0053】
5.エポキシ基を有する化合物
エポキシ基を有する化合物は、一般式(1)で表されるリン化合物と例えば下記反応式(20)のように反応する。
【0054】
【化15】

【0055】
(反応式(20)においてR1〜R10は式(1)と同一、R13は有機基を示す。)
エポキシ基を有する化合物の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート及び4−(2,3−エポキシプロピル)ブチル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基とエチレン性不飽和基を有する化合物等を例示することができる。エポキシ基を有する化合物の具体例としては前記エポキシ樹脂も含まれる。このエポキシ樹脂との反応生成物はプリント配線板、銅箔と基板との接着剤等の用途で特に有用である。
【0056】
反応式(20)における好ましい反応温度としては60〜180℃、より好ましい温度としては80〜150℃である。60℃より低いと反応時間が長くなりすぎ、180℃より高いと反応の制御が難しく、安定的に目的物が得られない。
反応式(20)における好ましい反応時間としては3〜20時間、より好ましい時間としては5〜15時間である。3時間未満であると未反応物が残り、20時間を越えると反応時間が長すぎて経済的ではない。
【0057】
上記2〜5以外にも例えばファインケミカル Vol.34 No.8 65〜67ページ(2005年刊行)に記載されている9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドと同じ反応を行うことができる。
【0058】
本発明において、一般式(1)で表されるリン化合物の熱分解反応と、α,β−不飽和カルボニル化合物、エナミン化合物、キノン化合物及びエポキシ基を有する化合物から選ばれる一種の化合物と熱分解生成物であるジアリールホスフィンオキサイドとの反応を同一の反応容器内で同時に行う。両反応ステップを個々に行うよりも、同時に行った方が反応時間が短くて済み、作業も簡便化されることからより経済的な製造方法である。
【0059】
さらに、一般式(1)で表されるリン化合物を熱分解することにより、一般式(7)のジアリールホスフィンオキサイドを個別に取り出して使用するよりも高純度で反応に供することができ、本発明の製造方法によって高純度なリン系難燃剤を製造できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
<分析方法>
・GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析条件
カラム:Shodex KF−805、KF−803、KF−802(昭和 電工株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1mL/分
検出器:RI(屈折率)
・HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析条件
カラム:Shodex 5C8 4E(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル/水=2/1(容積比) 2mmol/L過塩素酸 テトラ−n−ブチルアンモニム
検出器:UV(紫外吸光度)
【0061】
<合成例>
合成例1 式(2)の化合物の合成例
冷却器、乾燥管、温度計、窒素導入管、攪拌機を装着した1リットル容4つ口フラスコに三塩化リン 80.0g(0.580mol)、無水塩化アルミニウム 81.3g(0.609mol)、無水ベンゼン 113.1g(1.45mol)を仕込み激しく攪拌した。反応液は徐々に加温し、100℃に到達するまでの5時間加熱還流を行った。そのまま100℃で5時間反応させた後、反応液を放冷し、過剰のベンゼンを減圧下留去した。さらに4つ口フラスコ内に塩化メチレン200mLを加え残留物を分散した。残留物は15%濃度の塩酸水溶液 350mLに攪拌しながら徐々に投入し、さらに攪拌を30〜35℃に加熱しながら5時間行い、過剰の塩酸を除いた。次に固形分を濾過して除き、濾液からさらに水層を除去した。得られた有機層から塩化メチレンを減圧留去した結果、ジフェニルホスフィンオキサイドを含む黄色高粘度液体72.6gが得られた。これに無水アセトン約500mLを加え、2時間加熱還流した結果、白色の沈殿が生成した。
生成物は濾過、水で丁寧に洗浄後、40〜50℃で減圧乾燥し、式(2)の化合物87gを得た(収率57.6%)。HPLCによる純度は99.1%であった。
【0062】
比較合成例1
1リットル容ナスフラスコに9,10−ジヒドロ−9−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名 SANKO HCA)216g(1.0mol)、アセトン 290g(5.0mol)を仕込み、冷却器を付した後、加熱還流3時間行った。生成した白色沈殿を濾過、アセトンで洗浄した後、40℃で減圧乾燥を行って、232.9gの式(e)の化合物を得た(収率85%)。HPLCによる純度は99.2%であった。
【0063】
実施例1 α,β−不飽和カルボニル化合物との反応
冷却器、温度計、空気導入管、攪拌機を付した200mL容4つ口フラスコにトリメチロールプロパントリアクリレート59.2g(0.20mol)、式(2)の化合物 46.8g(0.18mol)、メトキノン 0.10gを仕込み、空気を吹き込みながら100℃で4時間、120℃で8時間反応させてジフェニルホスフィンオキサイド化合物が付加したトリメチロールプロパントリアクリレートを得た。GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により分析した結果、式(2)の化合物の残存量は、反応開始時点と比較し、1%未満であった。
【0064】
実施例2 エナミン化合物との反応
冷却器、温度計、窒素導入管、攪拌機を付した1000mL容4つ口フラスコにp−アミノフェノール109g(1.0mol)、2−ヒドロキシベンズアルデヒド122g(1.0mol)、477gの2−プロパノール(沸点82.4℃)を仕込み、還流下で脱水しながら3時間反応させることで、式(13)のエナミン化合物を得た。次いで、式(2)の化合物 260g(1.0mol)を投入、還流下で3時間付加反応を行った。次に、パラホルムアルデヒド 30g(1.0mol)を投入し還流下で6時間付加・脱水反応を行った。最後に2−プロパノールを減圧溜去し、下記式(21)の構造を有する褐色固体のベンゾオキサジン環を有する化合物を得た。GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により分析した結果、式(2)の化合物の残存量は、反応開始時点と比較し、1%未満であった。
【0065】
【化16】

【0066】
実施例3 キノン化合物との反応
冷却器、乾燥管、温度計、アルゴンガス導入管、攪拌機を付した1リットル容の4つ口フラスコに、式(2)の化合物 128.8g(0.495mol)、エチレングリコールモノエチルエーテル 250mLを加えた。70℃まで徐々に加温した後、1,4−ナフトキノン 74.9g(0.474mol)を1時間かけて投入した。さらに125℃まで昇温した後、その温度で2時間反応を行った。放冷後濾過した後、エチレングリコールモノエチルエーテル、メタノールの順で洗浄した後、40℃で減圧乾燥を行うことにより、式(19)の化合物138g(収率81%)を得た。
【0067】
実施例4 エポキシ化合物との反応
冷却器、温度計、窒素ガス導入管、攪拌機を付した1リットル容の4つ口フラスコにクレゾールノボラック型エポキシ樹脂N−680(大日本インキ工業株式会社製 エポキシ当量210) 400gを仕込み、窒素雰囲気下で110℃まで加熱した。さらに式(2)の化合物を攪拌しながら82g(0.315mol)加えた後、150℃まで昇温し、その温度を3時間維持した。冷却後、エポキシ当量 292のリン含有エポキシ樹脂を得た。HPLCより分析した結果、式(2)の化合物の残存率は、反応初期と比較して1%未満であった。
【0068】
比較例1 α,β−不飽和カルボニル化合物との反応
冷却器、温度計、空気導入管、攪拌機を付した200mL容4つ口フラスコにトリメチロールプロパントリアクリレート59.2g(0.1mol)、式(e)の化合物 49.4g(0.18mol)、メトキノン 0.10gを仕込み、空気を吹き込みながら100℃で4時間、120℃で8時間反応させたが、式(e)の化合物が白色沈殿状に残っていた。反応液を濾過して式(e)の化合物の回収量を測定した結果42.5gであった。よってほとんど反応は進行しなかったことが確認された。
【0069】
実施例に示したように、難燃剤とて活用できるリン化合物を簡便に製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電子回路基板や電子部品に用いられる電気絶縁材料、ソルダーレジスト材料、封止材、接着剤などの難燃剤として好適な高純度のリン系難燃剤を簡便な製造方法を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるリン化合物を、α,β−不飽和カルボニル化合物、エナミン化合物、キノン化合物及びエポキシ基を有する化合物から選ばれる一種の化合物と反応させることによる、高純度リン系難燃剤の製造方法。
【化1】

(式中X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示し、R1〜R10はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)のリン化合物が下記一般式(2)又は(3)で示されることを特徴とする請求項1記載の高純度リン系難燃剤の製造方法。
【化2】

【請求項3】
反応温度が60〜180℃である請求項1又は2に記載の高純度リン系難燃剤の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるリン化合物を1,4−ベンゾキノン又は1,4−ナフトキノンと反応させる請求項1〜3のいずれかに記載の高純度リン系難燃剤の製造方法。

【公開番号】特開2009−35597(P2009−35597A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199264(P2007−199264)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】