説明

高純度三塩化ホウ素及びその製造方法

【課題】 ホスゲンと塩素の両方を同時に低減させた、高純度の三塩化ホウ素の製造方法を提供する。
【解決手段】 20〜32質量%のホウ酸水溶液に活性炭を加え、活性炭にホウ酸を担持させる工程;前記ホウ酸担持活性炭を加熱しながら不活性ガスと接触させ、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担持活性炭を得る工程;前記三酸化二ホウ素担持活性炭を塩素ガスと反応させ、三塩化ホウ素を得る工程;及び前記三塩化ホウ素をホウ化炭素化合物と反応させる工程;を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害なホスゲン及び塩素ガスの含有量が低減された高純度三塩化ホウ素及びその製造方法に関する。本発明で得られる高純度三塩化ホウ素は、例えば、アルミニウム配線のドライエッチングガスとして有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、高純度三塩化ホウ素の製造方法として、例えば特許文献1には、気体状の粗三塩化ホウ素を100〜400℃に加熱した活性炭と接触させて、粗三塩化ホウ素中に含有されるホスゲン、ハロゲン化炭化水素等の不純物を分解・吸着除去する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、複雑な精製工程が必要な上に、ホスゲンは0.1ppm以下と十分に低減できるものの、塩素は2ppm以下であるため、十分な結果は得られておらず、ホスゲンと塩素の両方を同時に低減させる工業的な製法としては問題があった。
【特許文献1】特開平10−265216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の抱える問題点を解決し、簡便な方法によって、有害なホスゲン及び塩素ガスの含有量が同時に低減された高純度三塩化ホウ素及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、ホスゲンの含有量が0.2質量ppm未満であり、且つ塩素の含有量が1.0質量ppm未満であることを特徴とする、高純度三塩化ホウ素によって解決される。また、本発明の高純度三塩化ホウ素は、(A)20〜32質量%のホウ酸水溶液に活性炭を加え、活性炭にホウ酸を担持させる工程;(B)前記ホウ酸担持活性炭を加熱しながら不活性ガスと接触させ、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担持活性炭を得る工程;(C)前記三酸化二ホウ素担持活性炭を塩素ガスと反応させ、三塩化ホウ素を得る工程;及び(D)前記三塩化ホウ素をホウ化炭素化合物と反応させる工程;を含む方法によって得られる。
【発明の効果】
【0005】
本発明の方法により、簡便な方法によって、有害なホスゲン及び塩素ガスの含有量が低減された高純度三塩化ホウ素を製造することができる。また、本発明で得られる高純度三塩化ホウ素は、例えば、アルミニウム配線のドライエッチングガスとして有用な化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の高純度三塩化ホウ素は、以下の四つの工程を含む方法によって製造することができる:
(A)20〜32質量%のホウ酸水溶液に活性炭を加え、活性炭にホウ酸を担持させる工程;
(B)前記ホウ酸担持活性炭を加熱しながら不活性ガスと接触させ、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担持活性炭を得る工程;
(C)前記三酸化二ホウ素担持活性炭を塩素ガスと反応させ、三塩化ホウ素を得る工程;及び
(D)前記三塩化ホウ素をホウ化炭素化合物と反応させる工程;
【0007】
より詳細には、以下の工程である:
(A)20〜32質量%のホウ酸水溶液を80〜100℃で調整した後、活性炭を加えてホウ酸を活性炭に担持させ、次いで、水分を除去して乾燥させることにより、活性炭へのホウ酸の担持割合が20〜34%であるホウ酸担持活性炭を製造する工程(含浸工程);
(B)ホウ酸を含浸させた活性炭を脱水装置に充填し、脱水装置の下部温度を550〜800℃になるように加熱しつつ、装置の下部から不活性ガスを脱水装置に流通させ、装置の上部から水蒸気を同伴させた、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担持活性炭を抜き出すことにより三酸化二ホウ素担持活性炭を製造する工程(無水化工程);
(C)三酸化二ホウ素担持活性炭を充填した反応装置の下部より塩素ガスを供給しながら、三酸化二ホウ素担持活性炭と塩素との反応を500〜680℃で行い、三塩化ホウ素を製造する工程(反応工程);及び
(D)三塩化ホウ素中に含まれるホスゲン及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩素化合物とホウ化炭素化合物とを反応させて、高純度三塩化ホウ素を得る工程(精製工程)。
【0008】
(A)含浸工程
本発明の含浸工程(A)は、飽和ホウ酸水溶液を80〜100℃で調整した後、活性炭を加えてホウ酸を担持させ、次いで、水分を除去して乾燥させて、活性炭へのホウ酸の担持割合が20〜34%である三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭を製造する工程である。ここで、ホウ酸担持量は、ホウ酸水溶液と活性炭の混合量によって制御し、ホウ酸水溶液の量が多くするか、ホウ酸水溶液の濃度を高くすることによって、ホウ酸の担持割合を大きくすることができる。
【0009】
本発明の含浸工程(A)における活性炭へのホウ酸の担持割合が20〜34%であるホウ酸担持活性炭は、例えば、20〜32質量%のホウ酸水溶液を80〜100℃、好ましくは90〜100℃、より好ましくは95〜98℃で調整した後、活性炭を加えてホウ酸を担持させ、次いで、常圧又は減圧にて水分を除去して乾燥させることによって得られる。
【0010】
本発明で使用する活性炭としては、一般的に市販されている活性炭が使用できるが、活性炭の粒径は、好ましくは2〜10mmの粒状のものが好適に使用される。
【0011】
本発明の含浸工程(A)において使用する20〜32質量%のホウ酸水溶液とは、ホウ酸を、80〜100℃、好ましくは90〜100℃、より好ましくは95〜98℃で水に十分に溶解させて調製した水溶液である。前記の20〜32質量%のホウ酸水溶液は、市販品又は通常の方法で調製したものを使用することができる。
【0012】
本発明における含浸方法としては、特に限定されないが、20〜32質量%のホウ酸水溶液を調製した後、活性炭と水中で混合することで担持させる方法が好適に適用される。
【0013】
本発明の含浸工程(A)によって調製したホウ酸が担持した活性炭を含むホウ酸水溶液から水分を除去して乾燥させることによって、活性炭へのホウ酸の担持割合が20〜34%であるホウ酸担持活性炭が製造でき、これを原料として三塩化ホウ素を製造する。乾燥温度は、好ましくは150〜200℃である。
【0014】
(B)無水化工程
本発明の無水化工程(B)は、含浸工程(A)で得られたホウ酸を含浸させた活性炭を脱水装置に充填し、脱水装置の下部温度を550〜800℃になるように加熱しつつ、装置の下部から不活性ガスを脱水装置に流通させ、装置の上部から水蒸気を同伴させた、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担活性炭を抜き出すことにより、三酸化二ホウ素担持活性炭を製造する工程である。
【0015】
本発明のメタホウ酸を実質的に含まないことを特徴とする三酸化二ホウ素担持活性炭は、例えば、含浸工程(A)で得られたホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、脱水装置の下部温度を550〜800℃になるように加熱しつつ、装置の下部から不活性ガスを脱水装置に流通させ、装置の上部から水蒸気を同伴させた、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担持活性炭を抜き出すことによって製造される。本発明においては、不活性ガスによる水蒸気の同伴によって、メタホウ酸がほぼゼロの三酸化二ホウ素を得ることができる。なお、装置の下部温度とは、実質的に脱水処理が完了した時の温度を意味し、抜き出す配管は、ホウ酸結晶が詰まるのを防ぐために、例えば、150〜200℃に加熱しておくことが好ましい。
【0016】
(C)反応工程
本発明の反応工程(C)は、三酸化二ホウ素担持活性炭を充填した反応装置の下部より塩素ガスを供給しながら、三酸化二ホウ素担持活性炭と塩素との反応を500〜680℃で行い、三塩化ホウ素を製造する工程である。
【0017】
本発明の反応工程(C)は、反応装置に三酸化二ホウ素担持活性炭を充填し、装置下部より塩素ガスを供給しながら、例えば、無水化工程(B)で得られた三酸化二ホウ素担持活性炭と塩素とを接触させながら反応させる等の方法によって行われる。このときの塩素の供給速度は、好ましくは6〜12kg/h、より好ましくは8〜10kg/hである。また、反応温度は、好ましくは500〜680℃、より好ましくは580〜650℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0018】
反応工程で使用する塩素ガスは、塩素ガスそのまま、あるいは不活性ガス、例えば、窒素やアルゴン等、で希釈されていても良く、また、その使用量は、三酸化二ホウ素担持活性炭の1kgに対して、塩素として、好ましくは0.3〜1kg、より好ましくは0.5〜0.9kgである。
【0019】
なお、反応によって三酸化二ホウ素担持活性炭が消費されていくが、消費された三酸化二ホウ素担持活性炭を反応装置に逐次供給しながら反応を行うのが望ましい。また、本発明の反応工程において使用する反応装置の大きさは、生産量等に応じて適宜選択され、その内部の材質は、三塩化ホウ素、塩素、塩素ガスや水分により腐食を受けないもの、例えばインコネル等の高耐食合金であることが望ましい。
【0020】
(D)精製工程
本発明の精製工程(D)は、反応工程(C)で得られた三塩化ホウ素中に含まれるホスゲン及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩素化合物とホウ化炭素化合物とを反応させることによって、高純度三塩化ホウ素を得る工程である。
【0021】
本発明で使用する三塩化ホウ素は、反応工程(C)において、三酸化二ホウ素と塩素との反応によって得られたものであり、通常、ホスゲンを50〜900質量ppm、塩素を2質量ppm以上含んでいる(特許文献1)。
【0022】
本発明の精製工程(D)で使用するホウ化炭素としては、例えば、四ホウ化炭素が好適に使用されるが、一般的にボロンカーバイドという名称で製造販売されているものを使用することができ、僅かな量の金属、例えば、1%以下の鉄等、が混入していても良い。
【0023】
本発明の精製工程(D)で使用する反応装置は、例えば、インコネル等の腐食に耐え得る材質が好適に用いられ、反応装置の大きさは、生産量等に応じて適宜選択される。
【0024】
本発明の精製工程(D)においては、例えば、反応装置にホウ化炭素化合物を充填し、装置上部より三塩化ホウ素を供給しながら、ホウ化炭素化合物と三塩化ホウ素とを接触させながら反応させる等の方法によって行われる。このときの三塩化ホウ素の供給速度は、好ましくは5〜50kg/h、より好ましくは15〜30kg/hである。また、反応温度は、好ましくは500〜720℃、より好ましくは550〜650℃であり、反応圧力は特に制限されない。精製工程(D)によって、ホスゲンの含有量が0.2質量ppm未満、塩素の含有量が1.0質量ppm未満である高純度三塩化ホウ素を得ることができる。なお、高純度領域におけるホスゲン含有量及び塩素含有量の分析は、市販のガス検出器のほか、固体に吸着させてその重量差により分析、ガスクロマトグラフィー分析により行うことができる。中でも、ガスクロマトグラフィーによる分析が好適に使用される。
【実施例】
【0025】
以下に本発明について具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1(高純度三塩化ホウ素の合成)
(A)含浸工程(ホウ酸担持活性炭の合成)
グラスライニングをした容器に水113Lを加えて80℃まで加熱した後、ホウ酸38kgを加えて完全に溶解させて25質量%のホウ酸水溶液を得た。次いで、このホウ酸水溶液に活性炭(クラレケミカル社製;4GS)92kgを加え、活性炭にホウ酸を担持させた後、200℃で水を除去して乾燥させ、ホウ酸の担持割合が28%である三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭128kgを得た。
【0027】
(B)無水化工程(三酸化二ホウ素担持活性炭の合成)
実施例1と同様にして合成したホウ酸の担持割合が28%である活性炭をガス導入口及びガス導出口を備えた脱水装置に充填し、脱水装置の下部温度550〜800℃に加熱した。なお、脱水装置の下部温度は、脱水処理が完了した時の温度である。次いで、装置の下部から不活性ガス(窒素)を脱水装置に流通させながら、装置の上部から水蒸気を同伴させた、メタホウ酸を実質的に含まない三塩化二ホウ素担持活性炭を抜き出すことにより、三酸化二ホウ素担持活性炭を得た。このとき、抜き出す配管温度を150〜200℃とした。
【0028】
(C)反応工程(三塩化ホウ素の合成)
ガス導入口及び導出口を備えた内容積20Lの耐腐食性反応装置に、三酸化二ホウ素担持活性炭を充填し、装置下部より塩素ガスを8〜10kg/hで供給しながら、三酸化二ホウ素と塩素との反応を600〜630℃で12時間を行った。反応終了後、ホスゲン87.5質量ppm及び塩素10質量ppmを含む三塩化ホウ素が、塩素供給量基準で反応収率99%以上生成していた。
【0029】
(D)精製工程(高純度三塩化ホウ素の合成)
ガス導入口及び導出口を備えた内容積20Lの耐腐食性反応装置に、四ホウ化炭素(デカボロン;電気化学工業社製)12kgを充填し、装置上部より工程(C)で得られたホスゲン87.5質量ppm及び塩素10質量ppmを含む三塩化ホウ素を20kg/hで供給しながら、三塩化ホウ素中の塩素化合物と四ホウ化炭素とを580〜620℃で反応させた。得られたガスを、高沸点化合物を除去するために蒸留精製したところ、高純度の三塩化ホウ素が三塩化ホウ素供給量に対してほぼ定量的に得られた。なお、得られた三塩化ホウ素をガスガスクロマトグラフィー分析したところ、ホスゲンの含有量が0.2質量ppm未満であり、且つ塩素の含有量が1.0質量ppm未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、高純度三塩化ホウ素及びその製造方法に関し、本発明の方法で得られる高純度三塩化ホウ素は、例えば、アルミニウム配線のドライエッチングガスとして有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスゲンの含有量が0.2質量ppm未満、塩素の含有量が1.0質量ppm未満である、ことを特徴とする高純度三塩化ホウ素。
【請求項2】
(A)20〜32質量%のホウ酸水溶液に活性炭を加え、活性炭にホウ酸を担持させる工程;
(B)前記ホウ酸担持活性炭を加熱しながら不活性ガスと接触させ、メタホウ酸を実質的に含まない三酸化二ホウ素担持活性炭を得る工程;
(C)前記三酸化二ホウ素担持活性炭を塩素ガスと反応させ、三塩化ホウ素を得る工程;及び
(D)前記三塩化ホウ素をホウ化炭素化合物と反応させる工程;
を含むことを特徴とし、それにより、ホスゲンの含有量が0.2質量ppm未満、塩素の含有量が1.0質量ppm未満である三塩化ホウ素を得る、高純度三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項3】
工程(A)で得られるホウ酸担持活性炭が、活性炭へのホウ酸の担持割合が20〜34%であるホウ酸担持活性炭である、請求項2記載の高純度三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項4】
工程(B)が、脱水装置の下部を550〜800℃で加熱しつつ、装置の下部から不活性ガスを流通させ、装置の上部から水蒸気を同伴させた、三酸化二ホウ素担持活性炭を抜き出すことにより行う、請求項2又は3記載の高純度三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項5】
工程(C)が、三酸化二ホウ素担持活性炭を充填した反応装置の下部より塩素ガスを供給しながら、500〜680℃で反応させる、請求項2〜4のいずれか1項記載の高純度三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項6】
工程(D)のホウ化炭素化合物が四ホウ化炭素である、請求項2〜5のいずれか1項記載の高純度三塩化ホウ素の製造方法。

【公開番号】特開2010−111550(P2010−111550A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287020(P2008−287020)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)