説明

高耐差圧性能とゲル状異物除去性能を有するフィルター

【課題】脈圧や高差圧が生じるような粘性流体の濾過において、濾過精度が差圧により変化したり、フィルター寿命が短くなる問題を解消すると共に、脈圧や高差圧が生じても、柔らかいゲル状固形物を捕捉し得るフィルターを提供する。
【解決手段】熱圧着処理して空隙率50〜80%とした極細繊維からなら第一の主濾過不織布と、熱圧着処理していない空隙率80%以上の第二の主濾過不織布とを積層したフィルターを、前記主濾過不織布よりも平均流量孔径の大きい補助濾過不織布シートで挟持し、前記第二の主濾過不織布は、空隙率が前記第一の主濾過不織布の1.2倍以上となるようにし、高耐差圧性とゲル状異物除去性能を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脈圧、高差圧下でも安定した濾過精度が得られる高耐差圧性能を有し、ゲル状異物の除去に適したフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
微細なゲル状の固形物の濾過には、その主濾過不織布に、極細繊維が使用されている。この主濾過不織布としては、一般的には、熱溶融紡糸法等にて製造された10μm以下の繊維で構成された不織布を主濾過不織布とすることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、熱溶融紡糸法等によって製造された不織布は、繊維強度が弱く、繊維同士も強固に熱溶着されていないため、脈圧や高差圧が生じるような濾過では、濾過不織布の目開きや圧密化現象が生じる。そのため、高差圧が生じるような粘性流体の濾過では、濾過不織布の目開きや圧密化の現象が起こり、結果として濾過精度が差圧により変化したり、フィルター寿命が短くなる問題を引き起こす。
【0004】
また、柔らかいゲル状固形物は、濾過の際に生じる脈圧や高差圧により、その形状が変化するため、濾過不織布をすり抜けるという現象が生じ易い。従って、濾過不織布の目開きとゲル状固形物の形状変化により、特にゲル状の固形物は、フィルターで捕捉し難い問題があった。
【0005】
この発明は、このような点に着目してなされたものであり、脈圧や高差圧が生じるような粘性液体の濾過において、濾過精度が差圧により変化したり、フィルター寿命が短くなる問題を解消したフィルターを提供することを目的とする。
【0006】
またこの発明は、脈圧や高差圧が生じても、柔らかいゲル状固形物を支障なく捕捉し得るフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に沿う本発明のフィルターは、圧着処理して空隙率50〜80%とした極細繊維からなる第一の主濾過不織布と、圧着処理していない空隙率80%以上の第二の主濾過不織布とを積層したフィルターを、前記主濾過不織布よりも平均孔径の大きい補助濾過不織布シートで挟持してなり、前記第二の主濾過不織布は、空隙率が前記第一の主濾過不織布の1.2倍以上であることを特徴とする。
前記第二の主濾過不織布が、単一若しくは2種類以上の異なる繊維径の不織布を積層してなるようにするのが良く、特に2種類以上の異なる繊維径の不織布を積層してなるのが、高耐差圧性とゲル状異物の除去に極めて効果的である(請求項2)。
【0008】
前記第一の主濾過不織布の目付量が、前記第一の主濾過不織布と前記第二の主濾過不織布の合計の10〜40%であるのが、ゲル状固形物を濾過するフィルターとして好適である(請求項3)。
【0009】
前記第一の主濾過不織布の目付量が、前記第一の主濾過不織布と前記第二の主濾過不織布の合計の30〜60%であるのが高耐差圧性能を有するフィルターとして好適である(請求項4)。
前記主濾過不織布の繊維径は、20μm〜0.1μmであり、前記第二の主濾過不織布の繊維径は、前記第一の主濾過不織布の繊維径の4倍〜0.5倍とするのがゲル状固形物を濾過するフィルターとして好適である(請求項5)。
【0010】
前記主濾過不織布の目付量が、400〜1000g/mであるのがゲル状固形物を濾過するフィルターとして好適である(請求項6)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧力変動によっても良好な濾過精度を維持すると共に、フィルターとゲル状異物の変形により従来のフィルターでは捕捉し得なかったゲル状異物を効果的に捕捉できるという、この種従来のフィルターには、全く見られない絶大な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明の実施の形態を、説明する。
【0013】
本発明に使用する不織布の材質は、特に限定されない。ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維から熱溶融紡糸法にて製造された、好ましくは20μm〜0.1μmの繊維径の極細繊維が好適に使用される。
【0014】
本発明に使用する第一の主濾過不織布は、極細繊維をカレンダー加工等により熱圧着処理して空隙率50〜80%としたものである。空隙率がこれより小さいと、濾過寿命が悪くなるし、これより大きいと、耐差圧性能及びゲル状異物捕捉性能が劣るようになる。空隙率を85%とすると、他の条件を満たしていても、ゲル状異物は完全に捕捉し得ないことは、実験により確認されている。
【0015】
本発明に使用する第二の主濾過不織布は、圧着処理していない空隙率80%以上の不織布である。空隙率がこれより小さいと、目詰まりし易くなる。第二の主濾過不織布の空隙率の上限は、特に限定されないが、最高97〜98%の市販品が支障なく使用できる。
本発明の第二の主濾過不織布は、空隙率が第一の主濾過不織布の1.2倍以上である。これより差が小さいと、耐差圧性能が悪化する。上限は特に限定されないが、第二の主濾過不織布の空隙率の上限が現在では最高97〜98%であるので、2倍未満である。
第二の主濾過不織布は、単一若しくは2種類以上の異なる繊維径の不織布を多層に積層してなるものであり、特に2種類以上の異なる繊維径の不織布を多層に積層してなるものを使用するのが、良好な耐差圧性能及びゲル状異物捕捉性能が得られることから好ましい。
上記主濾過不織布を挟持する補助濾過不織布シートとしては、前記主濾過不織布よりも平均孔径の大きい網状のこの種目的に使用される公知の不織布を使用すればよい。
【0016】
ゲル状固形物を濾過するフィルターとしては、前記第一の主濾過不織布の目付量が、前記第一の主濾過不織布と前記第二の主濾過不織布の合計の10〜40%とするのが良い。この範囲より小さいと、ゲル状異物の捕捉能が低下し、大きいとフィルターの濾過寿命が低下する。0.5μmのゲル状固形物の除去には、32%、0.8μmのゲル状固形物の除去には、12%で、それぞれ優れたゲル状異物除去効果が実験により確認されている。
【0017】
耐差圧性能を有するフィルターとしては、前記第一の主濾過不織布の目付け量が、前記第一の主濾過不織布と前記第二の主濾過不織布の合計の30〜60%とするのが、良好な濾過精度が得られることから好ましい。これより小さいと耐差圧性能が劣るようになり、これより大きいと目詰まりし易くなる。
前記主濾過不織布の繊維径は、20μm〜0.1μmであり、前記第二の主濾過不織布の繊維径は、前記第一の主濾過不織布の繊維径の4倍〜0.5倍とするのがゲル状固形物を濾過するフィルターとして好適である。6倍以上とすると、他の条件を満たしていても、ゲル状固形物の捕捉能が低下することが実験により確認されている。
【0018】
前記主濾過不織布の目付量が、400〜1000g/mであるのがゲル状固形物を濾過するフィルターとして好適である。これより小さいと、ゲル状固形物が漏れ易くなり、これ以上だとフィルターのプリーッ形状が形成できない。0.8μmのゲル状固形物の除去には、444g/mで、0.5μmのゲル状固形物の除去には、417g/mで、それぞれ優れたゲル状異物除去効果が実験により確認されている。また、0.5μmのゲル状固形物の除去に、260g/mでゲル状固形物の流出が実験により確認されている。
【0019】
本発明のフィルターは、プリーッフィルター、デプスフィルター等のカートリッジフィルターとして好適に使用される。
【0020】
ポリプロピレン極細繊維を使用して、次表1に記載のように、0.5μmと0.8μmのゲル状固形物除去用フィルターを製造した。表1の上下方向が、通液方向である。
【0021】
【表1】

第一の主濾過不織布と第二の主濾過不織布の合計の目付量は、0.5μmフィルターの場合は、417g/mであり、0.8μmフィルターの場合は、444g/mである。
【0022】
次表2に記載の従来のデプスプリーッフィルターと本発明の高耐差圧フィルターについて、差圧毎の濾過精度と除去効率を測定した。結果を図1及び図2に示す。
【0023】
【表2】

従来の20μmカット径フィルターは、第一の主濾過不織布の目付量が全体の目付量に占める割合は、25%であるが、上記高耐差圧フィルターは、50%である。
【0024】
従来の20μmカット径フィルターは、第一と第二の主濾過不織布の繊維径の割合が、1.1〜3.6倍であるが、上記高耐差圧フィルターは、0.92倍である。
【0025】
図1の結果から、明らかなように、従来のデプスプリーッフィルターは、差圧毎の濾過精度のバラツキが大きいが、本発明の高耐圧フィルターは、差圧毎の濾過精度のバラツキが小さい。
【0026】
また、図2の結果から、明らかなように、従来のデプスプリーッフィルターは、圧力上限値(A)と圧力下限値(B)の線で示しように、圧力が上昇すると、濾過効率上限値(C)と濾過効率下限値(D)の線で示すように、プリーッフィルターの除去効率が低下するが、本発明の高耐圧フィルターは、圧力上限値(A)と圧力下限値(B)の線で示しように圧力が上昇しても、濾過効率上限値(C)と濾過効率下限値(D)の線で示すように、プリーッフィルターの除去効率は低下せず、逆に上昇する。
【0027】
塗工液の塗工工程における濾過にプリーッフィルターを使用し、塗工すると、塗工後にゲル状異物の流出が起因と推測される点欠陥の基板不良が発生する。
【0028】
脈動の加わる間欠運転においても、ゲル除去性能を維持できるフィルターが強く求められている。そこで、次表3に記載の0.5μmカット径フィルターと本発明の0.5μmカット径ゲル状異物除去フィルターについて、ろ過性精度の経時変化とゲル状異物の除去率の変化を、図3に示す間欠運転での試験方法で測定した。
【0029】
試験条件は、図3に示すように、濾過方式:間欠濾過、1サイクル:通液15秒、停止5秒、流量:0.5リットル/分、サンプルサイズ:小型カプセルフィルターで、ポンプのON/OFFにより間欠運転での濾過試験を実施した。
【0030】
水溶性ポリマーにて合成したゲル状粒子のみを純水(RO水)に分散させた溶液中の試験用ゲル状粒子の粒度分布を求めた。結果は、図4に示す通りであった。
【0031】
【表3】


従来の0.5μmカット径フィルターは、第一の主濾過不織布の目付量が全体の目付量に占める割合は、27%であるが、上記0.5μmカット径ゲル状異物除去フィルターフィルターは、32%である。
【0032】
従来の0.5μmカット径フィルターは、第一と第二の主濾過不織布の繊維径の割合が、7〜13倍であるが、上記0.5μmカット径ゲル状異物除去フィルターは、2〜3倍である。
【0033】
図4に示す試験用ゲル状粒子を使用し、表3に記載のフィルターを使用して、図3に示す条件で間欠運転での濾過試験を実施した。結果を図5及び図6に示す。
【0034】
図5の結果から明らかなように、従来のフィルターは、処理量と共にゲル状異物の除去率は低下するが、 図6の結果から明らかなように、本発明のゲル状異物除去フィルターは、処理量に対するゲル状異物の除去率は安定している。
【0035】
また、図7(A)の結果から、明らかなように、本発明のフィルターは、目詰まりを起こしてもゲル状異物は全く流出しないが、従来のフィルターは、目詰まりに対してゲル状異物の除去率が悪化する。また、図7(B)の結果から、明らかなように、従来のデプスプリーッフィルターは、圧力が上昇するとフィルターの除去効率が低下するが、本発明の高耐圧フィルターは、圧力が上昇してもフィルターの除去効率は低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来のデプスプリーッフィルターと本発明の高耐圧フィルターについて、差圧毎の濾過精度を測定したグラフである。
【図2】従来のデプスプリーッフィルターと本発明の高耐圧フィルターについて、経過時間に伴って圧力上昇と濾過精度との関係を示すグラフである。
【図3】間欠運転での試験方法を示す図である。
【図4】本発明の試験に使用したゲル状粒子の粒度分布を示す図である。
【図5】従来のデプスプリーッフィルターについての間欠運転での濾過精度の経時変化を示す図である。
【図6】本発明の高耐圧フィルターについての間欠運転での濾過精度の経時変化を示す図である。
【図7】従来のデプスプリーッフィルターと本発明の高耐圧フィルターについて、(A)処理量と粒子除去率の変化を示すグラフ、(B)差圧と粒子除去率の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧着処理して空隙率50〜80%とした極細繊維からなら第一の主濾過不織布と、圧着処理していない空隙率80%以上の第二の主濾過不織布とを積層したフィルターを、前記主濾過不織布よりも平均孔径の大きい補助濾過不織布シートで挟持してなり、前記第二の主濾過不織布は、空隙率が前記第一の主濾過不織布の1.2倍以上であることを特徴とする前記第二の主濾過不織布から前記第一の主濾過不織布の方向に通液する高耐差圧性能とゲル状異物除去性能を有するフィルター。
【請求項2】
前記第二の主濾過不織布は、単一若しくは2種類以上の異なる繊維径の不織布を積層してなる請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記第一の主濾過不織布の目付量が、前記第一の主濾過不織布と前記第二の主濾過不織布の合計の10〜40%である請求項1又は2記載のゲル状異物除去性能を有するフィルター。
【請求項4】
前記第一の主濾過不織布の目付量が、前記第一の主濾過不織布と前記第二の主濾過不織布の合計の30〜60%である請求項1又は2記載の高耐差圧性能を有するフィルター。
【請求項5】
前記主濾過不織布の繊維径は、20μm〜0.1μmであり、前記第二の主濾過不織布の繊維径は、前記第一の主濾過不織布の繊維径の4倍〜0.5倍である請求項1〜3のいずれかに記載のゲル状異物除去性能を有するフィルター。
【請求項6】
前記主濾過不織布の目付量が、400〜1000g/mである請求項1〜3及び5のいずれかに記載のゲル状異物除去性能を有するフィルター。















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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