説明

高耐水和性、高流動性酸化マグネシウムの製造方法

【目的】 本発明は、流動性が高く作業性に優れるとともに、十分な熱伝導性改良に必要な樹脂への高充填を可能ならしめる2次粒子径と嵩密度を有し、かつ高耐水和性の酸化マグネシウムを従来の方法よりもより低温焼成で製造する方法を提供する。
【構成】 工程(A)および(B)からなる高耐水和性、高流動性酸化マグネシウムの製造方法、(A) 平均1次粒子径および平均2次粒子径が2μm以下、BET比表面積が1〜20m2/gの高分散性水酸化マグネシウムを約1100〜1600℃で焼成する工程、(B) 該焼成物を平均2次粒子径約20μm以下に粉砕分級する工程。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高耐水和性、高流動性酸化マグネシウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、高融点(約2800℃)、高電気絶縁性、低誘電体損失、高透光性、高熱伝導性、無毒性、塩基性等の酸化マグネシウム本来の物性に、高耐水和性、高流動性を付加し、樹脂の熱伝導性改良剤、耐熱材料、電気絶縁材料、シーズヒータ充填剤、光学材料、研磨材等に有用な酸化マグネシウムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】酸化マグネシウムは軽焼焼成酸化マグネシウム(約600〜900℃)と死焼焼成酸化マグネシウム(約1100〜1500℃)とに分類される。前者は酸化マグネシウムの酸およびハロゲンの中和に対する優れた化学的活性を利用するものであり、その代表的な用途としては例えばクロロプレン、ハイパロン等のハロゲン化ゴムの受酸剤がある。後者は酸化マグネシウムの優れた物理的性質、即ち高融点(約2800℃)、高温における高電気絶縁性、広い波長域に亙る透光性、高熱伝導性等を利用した耐熱容器、耐熱部品、断熱材、IC基板、レンズ、ナトリウムランプ容器、シーズヒーター、樹脂等の充填材、研磨材等に用いられる。 しかし酸化マグネシウムは水または水蒸気により徐々に侵されて水酸化マグネシウムに変化(水和)し、上記した種々の優れた物理的性質が失われるという問題点があり、その利用範囲を狭めている。
【0003】この問題点を改良するため、特開昭第61ー85474号公報は、1600℃以上溶融温度(2800℃)未満で焼成する方法を提案している。また特開昭第61ー36119号公報は、水溶性マグネシウム塩を含む水溶液に、マグネシウム1当量に対し1〜3.5当量のアンモニアを水酸化マグネシウムの種の存在下に反応させ、平均2次粒子径5〜500μmの見掛上球形の凝集体からなる水酸化マグネシウムを合成し、これを1200〜2000℃で焼成する方法を提案している。特開昭第62ー288114号公報および特開昭第63ー45117号公報は、酸化マグネシウム微粉末を有機シリケート化合物で表面処理後熱処理して酸化マグネシウムの粒子表面にシリカの被膜を形成させる方法を提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし1600℃以上酸化マグネシウムの溶融温度未満で焼成する方法では、焼成温度の割には酸化マグネシウムの結晶成長が悪く、しかも焼成により大きな塊となり、強度の粉砕を必要とするため、せっかく成長した酸化マグネシウムの単結晶が破壊され、結晶表面に種々の格子欠陥を生ずる。このため、満足できる耐水和性を示さず、同時に外形が不定形となり、流動性も悪く、樹脂への高充填を困難ならしめるという問題がある。
【0005】水溶性マグネシウム塩水溶液と所定量のアンモニアとを水酸化マグネシウムの種の存在下に反応させ、ついで1200〜2000℃で焼成する方法により得られた酸化マグネシウムは、流動性と樹脂への充填性は、粉末品に比して改良されている。なお、粉末品とは、機械的粉砕で得られる平均粒子径約10〜20μm以下の外形が不定形である粗い粒子(球形でない)である。しかし焼成前の水酸化マグネシウムが比較的大きな結晶であり、しかも鱗片状外形をしているため、焼結性は粉末水酸化マグネシウムの場合よりも改良されてはいるが満足できるものではなく、また高温焼成を必要とする。また凝集体内部だけでなく凝集体同志が結合するため、強度の粉砕を必要とし、このためほぼ球形の元の2次凝集体も同時に破壊されるとともに、結晶表面の欠陥部分が増加し、その結果耐水和性が不十分であるという問題を有している。
【0006】酸化マグネシウム微粉末を有機シラン化合物で表面処理して酸化マグネシウムの粒子表面にシラン化合物の被膜を形成させる方法は、酸化マグネシウムの表面をシラン化合物で被膜するので、単位面積当たりの耐水和性は酸化マグネシウムそれ自体よりも改良された酸化マグネシウムを提供する。しかし、表面積が大きいため耐水和性が不十分であり、また表面積が約5〜20m2/gと大きいことに起因して多くの有機シランが必要となるので、経済的でないことは勿論、酸化マグネシウムの優れた熱伝導性を低下させるという問題点を有している。
【0007】本発明は、上記従来の技術が有していた課題を解決し、流動性が高く作業性に優れるとともに、十分な熱伝導性改良に必要な樹脂への高充填を可能ならしめる2次粒子径と嵩密度を有し、かつ高耐水和性の酸化マグネシウムを従来の方法よりもより低温焼成で製造する方法を提供する。さらには上記高耐水和性酸化マグネシウムを有機シラン処理することにより、一層優れた耐水和性を有すると共に、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーンゴム等への高充填が可能であり、また酸化マグネシウムと樹脂との親和性が増し、樹脂本来の機械的強度、電気的性質を低下させずに十分なねつ伝導性を付与できる酸化マグネシウムの製造方法を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、(A) 平均1次粒子径および平均2次粒子径が2μm以下、BET比表面積が1〜20m2/gの高分散性水酸化マグネシウムを約1100〜1600℃で焼成する工程、(B) 該焼成物を平均2次粒子径約20μm以下に粉砕分級する工程とからなる高耐水和性、高流動性酸化マグネシウムの製造方法を提供する。さらに本発明は、上記の製造方法で得られた酸化マグネシウムを、シランカップリング剤、アルコールおよび水の混合液と接触処理後、80〜90℃で乾燥して、酸化マグネシウムの表面に有機シラン層を形成させることからなるさらに優れた高耐水和性酸化マグネシウムの製造方法を提供する。この酸化マグネシウムは高流動性、高充填性を有する。
【0009】本発明は、高分散性水酸化マグネシウムを所定の温度で焼成し、ついで該焼成物の結晶を実質的に破壊しないように所定粒径に粉砕分級することにより、高流動性、高充填性、高耐水和性を有する酸化マグネシウムが得られることを見いだし完成されたものである。
【0010】上記(A)工程で使用される高分散性水酸化マグネシウムの合成は、水溶性マグネシウム塩1当量に対しアルカリ性物質0.95当量以下特に好ましくは0.5〜0.90当量を、40℃以下特に好ましくは30℃以下で混合して反応させ、その後反応物を反応母液とともに約5〜30kg/cm2の加圧下に約0.5〜数時間加熱させて行う。得られる水酸化マグネシウムは、平均2次粒子径2μm以下、BET比表面積1〜20m2/g、板状結晶の直径約0.3〜2.0μm、厚さ0.1〜0.5μmである高分散性の単結晶である。上記水酸化マグネシウムの合成条件を適宜選択することにより、特に好ましい水酸化マグネシウムとして平均2次粒子径1.0μm以下、BET比表面積5〜10m2/g、板状結晶の直径および厚さがそれぞれ0.5〜1.0μm、0.2〜0.4μmである高分散性の単結晶を得ることもできる。
【0011】上記(A)工程で用いる水溶性マグネシウム塩としては、例えば塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等の水溶性のマグネシウム塩を例示できる。アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アンモニア等を例示できる。アルカリ性物質の当量比と温度がそれぞれ0.95当量、40℃を超えると目的物質である高分散性の水酸化マグネシウムは得られず、凝集性の強い、従って2次粒子径の大きな水酸化マグネシウムとなり、本発明の利点の1つである低温焼結性の酸化マグネシウムを得ることができない。
【0012】本発明の(A)工程である水酸化マグネシウムの焼成工程は、約1100〜1600℃好ましくは約1100〜1300℃で約0.5〜数時間、大気、酸素、窒素等の雰囲気中でロータリーキルン、トンネル炉、マッフル炉等の焼成装置を用いて行う。焼成温度が上記範囲よりも低いと耐水和性が不十分となり、また上記範囲よりも高いと硬くなり過ぎて強度の粉砕が必要となり、結晶の外形が損なわれて流動性が悪化し、耐水和性もそれ以下の温度の焼成物に比して殆ど向上しない。
【0013】本発明の(B)工程である焼成物の粉砕分級工程では、ボールミル、らいかい機等により、約数10分〜数時間粉砕処理し、つぎに気流分級機、スクリーン分級機等により平均2次粒子径20μm以下の分級品を得る。(B)工程では(A)工程で得られた焼成物の結晶を実質的に破壊しない程度の時間粉砕を進める。該焼成物は焼成温度を適宜選択することにより、上記した粉砕手段を特に採用するまでもなく、例えば篩別機を通すだけで単結晶の大きさまで砕くこともできる柔らかいものを得ることもできる。本発明の(A)〜(B)工程を経た、すなわち高分散性の水酸化マグネシウムを、低温焼成を経て粉砕することにより得られた酸化マグネシウムは、平均2次粒子径20μm以下に分級される。
【0014】本発明の(A)工程を経た酸化マグネシウムは、粉砕が容易であり、高水準の耐水和性を示す。またこの酸化マグネシウムは、ほぼ球形に近い粒子で、2次平均粒子径が約0.5〜20μm、好ましくは約1.0〜20μmとすることもでき、嵩密度は約0.5g/cm3以上であるので、樹脂に対して十分な熱伝導性を付与するに必要な量を充填することができ、セラミック成形時の作業性にも優れている。焼成粉砕物内部の個々の単結晶の粒子径は約0.5〜10μmであり、BET比表面積は2m2/g以下である。
【0015】この酸化マグネシウムにさらに高水準の耐水和性を付与するには、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコールと、シランカップリング剤および少量の水とからなる混合液を接触させ、ついで80〜90℃で乾燥するとよい。使用するシランカップリング剤は、R’Si(OR)3の構造式で示され、R’としてはアミノ基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基およびメタクリロキシ基等が例示され、ORとしては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が例示される。
【0016】得られた酸化マグネシウムは、本発明の(B)工程で得られた粉砕焼成物の表面に露出した酸化マグネシウムの結晶表面を有機シラン層により被覆するため、耐水和性はより一層向上する。また、シランカップリング剤で処理していない酸化マグネシウムに比して樹脂との親和性が増すため、樹脂への高充填ができ、機械的強度、電気的特性が向上する。シランカップリング剤による表面被覆量は、酸化マグネシウムに対し、約0.1〜3重量%、好ましくは約0.2〜2.0重量%である。本発明によればアルコキシシランにより表面被覆される焼成粉砕物個々の単結晶のBET比表面積は2m2/g以下であるから、酸化マグネシウム粉末をシラン被覆する従来の技術と比較してより少量のシランカップリング剤量で高い耐水和性を達成できるとともに、必要なシランカップリング量を低減できるため、熱伝導性等の酸化マグネシウム本来の優れた物理的特徴を殆ど損なうことがない。アルコールに共存させる少量の水は、シランカップリング剤の酸化マグネシウム表面との反応性を高める点で有用である。
【0017】以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。以下の実施例において、休止角(安息角)は小西製作所製FK型安息角測定器を用いて測定した。
実施例11.5モル/リットルの塩化マグネシウムと0.5モル/リットルの塩化カルシウムを含有するイオン苦汁20リットルを容量50リットルのステンレス製円筒形撹拌機付き反応槽に入れ、ジャケットで約25℃に調節した。約25℃、40モル/リットルの水酸化ナトリウム7.4リットル(塩化マグネシウムに対し0.8当量に相当する)を、撹拌しながら約5分間で全量加え、さらに約5分間撹拌した。その後撹拌しながら90℃まで昇温し、その温度で約2時間保持した。続いて減圧濾過法により脱水水洗した。
【0018】得られた水酸化マグネシウムはBET比表面積7.0m2/g、マイクロトラック法で測定した平均2次粒子径0.70μm、Mg(OH)299.6重量%、CaO0.02重量%であった。該水酸化マグネシウムを走査型電子顕微鏡で観察すると、水酸化マグネシウムの外形は六角板状で、結晶は長さ0.3〜2.0μm、厚さ0.1〜0.3μm(図1、倍率1000倍、図2R>2、倍率10,000倍)であった。この水酸化マグネシウムを、カンタル炉で1150℃、1250℃および1300℃でそれぞれ2時間焼成した。1150℃および1250℃の焼成物は、手で砕ける程度の柔らかさであった。焼成物をボールミルにより0.5〜1時間粉砕処理した後、気流分級機で粗粒を除いた。マイクロトラック法により測定した平均2次粒子径約2μm、最大粒子径16μmであり、走査型電子顕微鏡で観察するとほぼ粒状の酸化マグネシウムであった(図3、倍率1000倍)。1150℃、1250℃および1300℃焼成物の物性を表1に示す。
【0019】
表1 結晶 BET 見掛け 焼成温度 粒子径 比表面積 比重 μm 2/g g/cc 1150 0.5〜1.0 2.0 0.43 1250 1.0〜1.5 1.5 0.77 1300 1.0〜5.0 1.3 0.91
【0020】
表1(続)
焼成温度 耐水和性 休止角 MgO含量 重量% 重量% 1150 9.21 44° 99.4 1250 6.83 44° 99.5 1300 5.36 44° 99.8注:1)結晶粒子径:電子顕微鏡により測定2)見掛け比重:JIS−K6224により測定3)耐水和性:試料の2.5倍(重量比)の水と混合後、105℃で2.5時間乾燥した後の重量増加%を測定4)休止角:角度が小さい程流動性が高いことを示す。酸化マグネシウム粉末は約59°である。
【0021】実施例2実施例1で得られた酸化マグネシウム100kgを三井三池化工機(株)製ヘンシェルミキサーに投入し、撹拌下に、ビニルトリエトキシシラン1.0kg、エチルアルコール2.5リットル、および水0.28リットルの混合液を徐々に噴霧添加し、5分間充分に撹拌した後、熱風乾燥機により90℃で2時間乾燥した。得られたシラン処理酸化マグネシウムの物性を表2に示す。
【0022】
表2 焼成温度 耐水和性 SiO2含量 MgO含量 重量% 重量% 重量% 1150 1.45 0.26 99.0 1250 1.19 0.28 99.1 1300 0.61 0.27 99.2
【0023】比較例1BET比表面積40m2/g、平均2次粒子径4.8μmの水酸化マグネシウム粉末を、カンタル炉により1400℃で2時間焼成後、ボールミルで約6時間粉砕した。この物の耐水和性は28重量%、休止角は59°であった。この酸化マグネシウムを実施例2と同じ条件でシラン処理した後の耐水和性は15.2重量%であった。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、高耐水和性の酸化マグネシウムが得られる酸化マグネシウムの製造方法が提供される。さらに本発明によれば、高流動性の酸化マグネシウムが得られる酸化マグネシウムの製造方法が提供される。本発明によれば、樹脂に熱伝導性を付与するに十分な量を高充填できる酸化マグネシウムの製造方法が提供される。本発明によればさらに、ほぼ球形に近く、2次粒子径が約0.5〜20μm、嵩密度が約0.5g/cm3以上である酸化マグネシウムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は実施例1で得られた水酸化マグネシウム造粒物の1000倍走査型電子顕微鏡写真(結晶の構造)、図2は同じく10,000倍の走査型電子顕微鏡写真(結晶の構造)、図3は実施例1で得られた酸化マグネシウムの1,000倍走査型電子顕微鏡写真(結晶の構造)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 工程(A)および(B)からなる高耐水和性、高流動性酸化マグネシウムの製造方法、(A) 平均1次粒子径および平均2次粒子径が2μm以下、BET比表面積が1〜20m2/gの高分散性水酸化マグネシウムを約1100〜1600℃で焼成する工程、(B) 該焼成物を平均2次粒子径約20μm以下に粉砕分級する工程。
【請求項2】 請求項1記載の酸化マグネシウムを、シランカップリング剤、アルコールおよび水の混合液と接触後、80〜90℃で乾燥して、酸化マグネシウムの表面にシラン層を形成することからなる高耐水和性、高流動性酸化マグネシウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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