説明

高血糖症に起因する疾患の予防又は治療剤

本発明は、広範な糖質吸収阻害作用を発現し、また通常の食事におけるフルクトースの摂取に基づく血糖降下作用を兼備し、卓越した血糖降下作用を発揮することができる、高血糖症に起因する疾患(例えば、糖尿病、耐糖能異常、糖尿病性合併症、肥満症)の予防又は治療剤として好適な、選択的なSGLT1阻害薬(例えば、GLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬)を有効成分として含有する医薬組成物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、選択的なナトリウム依存性グルコース輸送担体(以下SGLTと称する)1阻害薬を有効成分として含有する、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療剤に関するものである。
更に詳しく述べれば、本発明は、例えば、促進拡散型グルコース輸送担体(以下GLUTと称する)2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬等の、小腸からのフルクトース吸収を阻害する活性を実質的に示さないSGLT1阻害薬を有効成分として含有する、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療剤に関するものである。
【背景技術】
近年の糖尿病患者数の急増、および大規模臨床試験により証明された厳密な血糖コントロールの必要性を背景に(例えば、下記文献1〜3参照)、糖尿病治療薬として種々の薬剤が開発又は使用されている。例えば、食後高血糖の是正には、小腸における炭水化物の消化を抑制することにより糖質吸収を遅延させる薬剤である、アカルボース、ミグリトール、ボグリボース等のα−グルコシダーゼ阻害薬が現在使用されており、これらの薬剤を2型糖尿病患者に投与した場合、有意に血糖値やHbA1Cが低下したことが報告されている(例えば、下記文献4〜6参照)。また、その一つであるアカルボースは、耐糖能異常者に適用することにより、糖尿病の発症を予防又は遅延させる効果があることが報告されている(例えば、下記文献7参照)。しかしながら、食事中の糖質構成の変化に伴い、最近ではグルコース等の単糖を直接摂取する機会が増加しているが、α−グルコシダーゼ阻害薬は、単糖に対して吸収阻害作用を示さないため(例えば、下記文献8参照)、更に広範な糖質吸収阻害作用を有する薬剤の開発が嘱望されている。
糖質の吸収を司る小腸には、SGLT1が存在することが知られている。また、ヒトSGLT1に先天的異常がある機能不全の患者では、グルコース及びガラクトースの吸収が不良となることが報告されており(例えば、下記文献9〜11参照)、SGLT1はグルコースとガラクトースの吸収に関与することが確認されている(例えば、下記文献12及び13参照)。更に、糖尿病症状では、一般的に糖質の消化・吸収が亢進しており、例えば、OLETFラットやストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルラットにおいてSGLT1のmRNAやタンパクが増加し、グルコース等の吸収が亢進していることが確認されている(例えば、下記文献14及び15参照)。また、ヒト小腸において、SGLT1のmRNAやタンパクが高発現していることが確認されている(例えば、下記文献16参照)。それ故、SGLT1阻害薬は小腸でのグルコース等の糖質吸収を阻害して血糖値の上昇を抑制することができ、特には、上記作用機作に基づき糖質吸収を抑制または遅延させて食後高血糖の是正に有用であると考えられる。
フロリジンは、SGLT阻害剤として広く知られている。また、フロリジンには、尿糖排泄を促進することにより血糖値を低下させる作用があることが知られているが(例えば、下記文献17〜20参照)、消化管内でβ−グルコシダーゼにより素早く分解されるため、この作用は経口投与では認められていない(例えば、下記文献21及び22参照)。
フルクトースは、生理的条件を越えた高用量では脂質、プリン及び銅の代謝に悪影響を及ぼすことが知られているが(例えば、下記文献23参照)、近年、ヒト、イヌ及びラットにおいて、少量のフルクトース摂取により食後高血糖が抑制されることが報告された(例えば、下記文献24〜28参照)。この作用は、肝でのグルコース取り込み及びグリコーゲン蓄積の促進、並びに糖産生の抑制に基づくものであると考えられている(例えば、下記文献24,25,27,29参照)。詳述すると、第一に、消化管より吸収されたフルクトースが肝細胞内に取り込まれ、フルクトキナーゼによりフルクトース−1−リン酸に変換されて核内に移行する。核内にはグルコキナーゼが、調節タンパク質及びフルクトース−6−リン酸と結合して非活性な状態で存在している。この酵素は糖尿病患者において減少していることが知られている。フルクトース−1−リン酸は、グルコキナーゼ複合体のフルクトース−6−リン酸と置換し、これに伴い調節タンパク質が外れて活性化したグルコキナーゼが細胞質に移行し、取り込まれたグルコースをグルコース−6−リン酸に変換する。このようにしてグルコースの利用が亢進した結果、肝へのグルコースの取り込みが増大する(例えば、下記文献23参照)。また、ヒト又はイヌのフルクトースを添加したブドウ糖負荷試験において、血漿中インスリン濃度が減少したことが報告されている(例えば、下記文献24及び26参照)。以上の如く、少量のフルクトースは、肝でのグルコースの取り込み及びグリコーゲン蓄積を促進し、並びにインスリン分泌を抑制させるため、糖尿病患者における血糖値の低下作用に加え、糖尿病患者で低下しているグリコーゲン合成の改善、食後高血糖による大血管障害のリスク低減や疲弊した膵臓の保護などの効果を発揮すると考えられる。
本発明で解決しようとする課題は、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療に好適である、小腸において広範な糖質吸収阻害作用を有する新規な薬剤を開発することである。
フロリジンは、上述の如く、SGLT阻害作用を有する薬剤であるが、消化管内でβ−グルコシダーゼにより素早く分解されてフロレチンを生成させ(例えば、下記文献30及び31参照)、このフロレチンがGLUTを阻害することが知られている(例えば、下記文献32参照)。このように、フロリジンは、消化管内ではSGLT阻害作用のみならず、GLUT阻害作用も有している。また、小腸上皮細胞においては、小腸管腔側の刷子縁膜にはGLUT5が、毛細血管側の基底側壁部細胞膜にはGLUT2が局在しており、これらのGLUTは小腸におけるフルクトースの吸収に関与していることが知られている(例えば、下記文献33参照)。
本発明は、フルクトース摂取による効果を発現し、高血糖症に起因する疾患に対して有用である、選択的なSGLT1阻害薬を有効成分として含有する新規な予防又は治療剤を提供するものである。
文献1:The Diabetes Control and Complications Trial Research Group,「N.Engl.J.Med.」,1993年9月,第329巻,第14号,p.977−986;
文献2:UK Prospective Diabetes Study Group,「Lancet」,1998年9月,第352巻,第9131号,p.837−853;
文献3:富永真琴,「内分泌・糖尿病科」,2001年11月,第13巻,第5号,p.534−542;
文献4:宮下洋、他8名,「糖尿病」,1998年,第41巻,第8号,p.655−661;
文献5:坂本信夫、他6名,「臨床と研究」,1990年,第61巻,第1号,p.219−233;
文献6:船間敬子、他8名,「薬理と治療」,1997年,第25巻,第8号,p.2177−2186;
文献7:Jean−Louis Chiasson、外5名,「Lancet」,2002年6月,第359巻,第9323号,p.2072−2077;
文献8:小高裕之、外3名,「日本栄養・食糧学会誌」,1992年,第45巻,p.27;
文献9:馬場忠雄、外1名,「別冊日本臨床 領域別症候群シリーズ」,1998年,第19号,p.552−554;
文献10:笠原道弘、外2名,「最新医学」,1996年1月,第51巻,第1号,p.84−90;
文献11:土屋友房、外1名,「日本臨牀」,1997年8月,第55巻,第8号,p.2131−2139;
文献12:金井好克,「腎と透析」,1998年12月,第45巻,臨時増刊号,p.232−237;
文献13:E.Turk、外4名,「Nature」,1991年3月,第350巻,p.354−356;
文献14:Y.Fujita、外5名,「Diabetologia」,1998年,第41巻,p.1459−1466;
文献15:J.Dyer、外5名,「Biochem.Soc.Trans.」,1997年,第25巻,p.479S;
文献16:J.Dyer、外4名,「Am.J.Physiol.」,2002年2月,第282巻,第2号,p.G241−G248;
文献17:O.Blondel、外2名,「Metabolism」,1990年,第39巻,p.787−793;
文献18:A.Khan、外1名,「Am.J.Phisiol.」,1995年,第269巻,p.E623−E626;
文献19:A.Krook、外6名,「Diabetes」,1997年,第46巻,p.2110−2114;
文献20:L.Rossetti、外2名,「Diabetes Care」,1990年,第13巻,p.610−630;
文献21:P.Malathi、外1名,「Biochim.Biophys.Acta」,1969年,第173巻,p.245−256;
文献22:K.Tsujihara、外6名,「Chem.Pharm.Bull.(Tokyo)」,1996年,第44巻,p.1174−1180;
文献23:M.Watford,「Nutr.Rev.」,2002年8月,第60巻,p.253−264;
文献24:M.Shiota、外6名,「Diabetes」,2002年,第51巻,p.469−478;
文献25:M.Shiota、外4名,「Diabetes」,1998年,第47巻,p.867−873;
文献26:M.C.Moor、外3名,「Diabetes Care」,2001年,第24巻,p.1882−1887;
文献27:M.Hawkins、外5名,「Diabetes」,2002年,第51巻,p.606−614;
文献28:B.W.Wolf、外5名,「J.Nutr.」,2002年,第132巻,p.1219−1223;
文献29:K.F.Petersen、外4名,「Diabetes」,2001年,第50巻,p.1263−1268
文献30:P.Malathi、外1名,「Biochim.Biophys.Acta」,1969年,第173巻,p.245−256;
文献31:K.Tsujihara、外6名,「Chem.Pharm.Bull.(Tokyo)」,1996年,第44巻,p.1174−1180;
文献32:C.P.Corpe、外5名,「Pflugers Arch.−Eur.J.Physiol.」,1996年,第432巻,p.192−201;
文献33:高田邦昭,「Bio.Clinica」,1999年,第14巻,第10号,p.893−898
【発明の開示】
本発明者らは、フルクトース摂取による効果を発現する、広範な糖質吸収阻害作用を有する新規な薬剤を見出すべく鋭意研究した結果、選択的なSGLT1阻害薬が優れた血糖降下作用を発揮し、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療に好適であるという驚くべき知見を得、本発明を成すに至った。
具体的には、本発明は、
1)選択的なSGLT1阻害薬を有効成分として含有する、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療剤;
2)GLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬を有効成分として含有する、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療剤;
3)投与形態が経口剤である、前記1)又は2)の予防又は治療剤;
4)高血糖症に起因する疾患が糖尿病である、前記1)〜3)の何れかの予防又は治療剤;
5)糖尿病が食後高血糖である、前記4)の予防又は治療剤;
6)高血糖症に起因する疾患が耐糖能異常(IGT)である、前記1)〜3)の何れかの予防又は治療剤;
7)高血糖症に起因する疾患が糖尿病性合併症である、前記1)〜3)の何れかの予防又は治療剤;
8)高血糖症に起因する疾患が肥満症である、前記1)〜3)の何れかの予防又は治療剤;
9)選択的なSGLT1阻害薬を有効量投与することからなる、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療方法;
10)選択的なSGLT1阻害薬がGLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬である、前記9)の予防又は治療方法;
11)投与形態が経口剤である、前記9)又は10)の予防又は治療方法;
12)高血糖症に起因する疾患が糖尿病である、前記9)〜11)の何れかの予防又は治療方法;
13)糖尿病が食後高血糖である、前記12)の予防又は治療方法;
14)高血糖症に起因する疾患が耐糖能異常(IGT)である、前記9)〜11)の何れかの予防又は治療方法;
15)高血糖症に起因する疾患が糖尿病性合併症である、前記9)〜11)の何れかの予防又は治療方法;
16)高血糖症に起因する疾患が肥満症である、前記9)〜11)の何れかの予防又は治療方法;
17)高血糖症に起因する疾患の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、選択的なSGLT1阻害薬の使用;
18)選択的なSGLT1阻害薬がGLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬である、前記17)の使用;
19)医薬組成物が経口剤である、前記17)又は18)の使用;
20)高血糖症に起因する疾患が糖尿病である、前記17)〜19)の何れかの使用;
21)糖尿病が食後高血糖である、前記20)の使用;
22)高血糖症に起因する疾患が耐糖能異常(IGT)である、前記17)〜19)の何れかの使用;
23)高血糖症に起因する疾患が糖尿病性合併症である、前記17)〜19)の何れかの使用;
24)高血糖症に起因する疾患が肥満症である、前記17)〜19)の何れかの使用;等に関するものである。
本発明において、選択的なSGLT1阻害薬とは、有効成分又は/及びその代謝物が小腸からのフルクトース吸収を阻害する活性を実質的に示さず、SGLT1阻害作用を発揮する薬剤を意味する。フルクトース吸収を阻害する活性とは、例えば、GLUT2阻害作用、GLUT5阻害作用等を挙げることができる。選択的なSGLT1阻害薬としては、具体的には、実施例1又は2記載の化合物、その薬理学的に許容される塩、若しくはそれらの水和物を挙げることができるが、本発明には上記活性を有するその他の化合物も含まれる。ヒト及びその他の哺乳動物におけるSGLT1阻害作用の評価は、下記実施例3記載の試験方法又はそれに準拠した方法により実施することができる。同様に、GLUT2阻害作用及びGLUT5阻害作用の評価は、下記文献33及び34記載の試験方法又はそれに準拠した方法により実施することができる。
本発明において、高血糖症に起因する疾患とは、糖尿病(特には食後高血糖)、耐糖能異常(IGT)、空腹時血糖異常(IFG)、糖尿病性合併症(例えば、網膜症、神経障害、腎症、潰瘍、大血管症)、肥満症、高インスリン血症、高脂質血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、脂質代謝異常、アテローム性動脈硬化症、高血圧、うっ血性心不全、浮腫、高尿酸血症、痛風等の疾患を挙げることができる。
第一に、本発明者らは、既存のSGLT阻害薬としてフロリジン、SGLT1阻害薬として本発明の実施例2記載の化合物を用いて、フルクトース負荷試験を実施し、フルクトースの消化管内の残存量を確認した。その結果、フロリジンがフルクトースの吸収を有意に阻害するのに対し、本発明の化合物はフルクトース吸収阻害活性を実質的に示さないことが判った。
次に、本発明者らは、フルクトース摂取による効果の有無を検討するために、2型糖尿病のモデル動物であるZucker fatty fa/faラットを用いて下記の通り試験を実施した。試験薬物としては、α−グルコシダーゼ阻害薬としてアカルボースとミグリトール、SGLT阻害薬としてフロリジン、並びにSGLT1阻害薬として本発明の下記実施例1及び2記載の化合物を用いた。フルクトース存在群には、通常の食事中における炭水化物の比率に相当する、デンプン:ショ糖:乳糖(6:3:1)の混合炭水化物を負荷した(例えば、下記文献35参照)。他方、フルクトース非存在群には、消化管内においてフルクトースとグルコースに分解される二糖類であるショ糖のグルコース相当分をデンプンと置き換えたものを負荷し、比較検討した。その結果、α−グルコシダーゼ阻害薬及びフロリジンでは、ショ糖添加炭水化物負荷時にショ糖非添加炭水化物負荷と比較して血漿グルコース濃度の低下は認められなかったのに対し、本発明の化合物では有意な低下が認められた。これらの事から、GLUT2及びGLUT5に対して阻害作用を示さない選択的なSGLT1阻害薬は、フルクトース摂取により有意に血漿グルコース濃度を低下させることが判った。他方、α−グルコシダーゼ阻害薬ではショ糖の分解を抑制することによりフルクトースの摂取が阻害されるため、またフロリジンでは消化管内での分解により産生するフロレチンのGLUT阻害活性によりフルクトースの吸収が阻害されるため、血漿中グルコース濃度の改善は全く認められなかった。
以上の事から、選択的なSGLT1阻害薬を有効成分として含有する医薬組成物は、広範な糖質吸収阻害作用に加えて、通常の食事におけるフルクトースの摂取に基づく上述の効果を兼備しており、卓越した血糖降下作用を発揮することができる。それ故、本発明の医薬組成物は、高血糖症に起因した上記の各種疾患に対する予防又は治療剤として極めて好適である。
また、本発明の医薬組成物においては、有効成分として選択的なSGLT1阻害薬の他に、フルクトース吸収を実質的に阻害しないその他の血糖降下薬及び/又は糖尿病性合併症治療薬を適宜配合し、若しくは組合わせて同時に又は間隔をずらして併用することができる。本発明の化合物と配合又は組合わせて使用することができる血糖降下薬としては、例えば、インスリン感受性増強薬(塩酸ピオグリタゾン、マレイン酸ロシグリタゾン等)、SGLT2阻害薬、ビグアナイド薬(塩酸メトホルミン、塩酸ブホルミン等)、インスリン分泌促進薬(トルブタミド、アセトヘキサミド、トラザミド、グリクロピラミド、グリブゾール、グリブリド/グリベンクラミド、グリクラジド、ナテグリニド、レパグリニド、ミチグリニド、グリメピリド等)、インスリン製剤等を挙げることができる。また、糖尿病性合併症治療薬としては、例えば、アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット等)、ナトリウムチャンネルアンタゴニスト(塩酸メキシレチン等)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(塩酸イミダプリル、リシノプリル等)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタンカリウム、イルベサルタン等)、止瀉薬又は瀉下薬(ポリカルボフィルカルシウム、タンニン酸アルブミン、次硝酸ビスマス等)等を挙げることができる。
本発明において使用される医薬組成物としては、種々の剤形の医薬組成物を使用することができるが、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤等の経口の医薬組成物が好ましい。また、本発明の医薬組成物には、消化管粘膜付着性製剤、胃滞留型製剤等を含む徐放性製剤(例えば、下記文献36〜39参照)も含まれる。
これらの医薬組成物は、その剤型に応じ調剤学上使用される手法により適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤などの医薬品添加物と適宜混合または希釈・溶解し、常法に従い調剤することにより製造することができる。また、他の薬剤と組合わせて使用する場合は、それぞれの活性成分を同時に或いは別個に上記同様に製剤化することにより製造することができる。
本発明の医薬組成物における選択的なSGLT1阻害薬の投与量は、対象となる患者の性別、年齢、体重、疾患および治療の程度などにより適宜決定される。例えば、実施例1又は2記載の化合物は、経口投与の場合は概ね成人1日当たり0.1〜1000mgの範囲内で、一回または数回に分けで適宜投与することができる。また、その他の薬剤と組合わせて使用する場合、本発明の化合物の投与量は、他の薬剤の投与量に応じて減量することができる。
文献33:Christopher P.Corpe、他5名,「Pflugers Arch.−Eur.J.Physiol.」,1996年,第432巻,p.192−201;
文献34:Mueckler M、他5名,「J.Biol.Chem.」,1994年,第269巻,第27号,p.17765−17767;
文献35:武藤泰敏,「消化・吸収−消化管機能の調節と適応−」,1988年,第一出版株式会社,p.228;
文献36:国際公開第WO99/10010号パンフレット;
文献37:国際公開第WO99/26606号パンフレット;
文献38:国際公開第WO98/55107号パンフレット;
文献39:国際公開第WO01/97783号パンフレット
【図面の簡単な説明】
第1図は、フルクトース摂取による各種薬物のグルコース低下作用を示したグラフである。縦軸はショ糖非添加炭水化物負荷時に対するショ糖添加炭水化物負荷時におけるグルコースの血漿中濃度下面積の割合(%)、横軸は薬物の種類を表す。薬物は、左から実施例1記載の化合物、実施例2記載の化合物、アカルボース、ミグリトール、フロリジンを示す。尚、図中の*はP<0.05を、**はP<0.01を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の内容を以下の実施例および試験例でさらに詳細に説明するが、本発明はその内容に限定されるものではない。
参考例1
3,5−ジメトキシ−2−(4−ニトロベンゾイル)トルエン
3,5−ジメトキシトルエン(8g)と4−ニトロベンゾイルクロリド(10.7g)の塩化メチレン(150mL)溶液に氷冷下塩化アルミニウム(7.36g)を加え、室温で14時間撹拌した。反応混合物に氷水を加えた後、混合物を1mol/L塩酸中に注ぎ、有機層を分取した。有機層を1mol/L塩酸、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をn−ヘキサンで処理し、析出した結晶をろ取し、減圧下乾燥することにより標記化合物(8.72g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
2.19(3H,s),3.6(3H,s),3.86(3H,s),6.36(1H,d,J=1.9Hz),6.43(1H,d,J=1.9Hz),7.92(2H,d,J=9.2Hz),8.26(2H,d,J=9.2Hz)
参考例2
5−ヒドロキシ−3−メチル−2−(4−ニトロベンゾイル)フェノール
3,5−ジメトキシ−2−(4−ニトロベンゾイル)トルエン(8.65g)の塩化メチレン(140mL)溶液に氷冷下三臭化ホウ素(6.79mL)を加え、40℃に昇温し、15時間撹拌した。反応混合物に氷水を加え、有機層を分取した。有機層を1mol/L塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=7/1〜3/1)で精製して標記化合物(6.3g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.85(3H,s),5.83(1H,s),6.2−6.3(1H,m),6.36(1H,d,J=2.6Hz),7.7−7.8(2H,m),8.25−8.4(2H,m),10.98(1H,s)
参考例3
5−メトキシカルボニルオキシ−3−メチル−2−(4−ニトロベンジル)フェノール
5−ヒドロキシ−3−メチル−2−(4−ニトロベンゾイル)フェノール(1.65g)およびトリエチルアミン(2.1mL)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液に氷冷下クロロぎ酸メチル(1.03mL)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去することにより3,5−ジメトキシカルボニルオキシ−2−(4−ニトロベンゾイル)トルエン(2.37g)を得た。これをテトラヒドロフラン(20mL)−水(20mL)に懸濁し、氷冷下水素化ホウ素ナトリウム(921mg)を加え、室温で2時間撹拌した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ジエチルエーテルで抽出した。抽出液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製して標記化合物(1.62g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
2.23(3H,s),3.91(3H,s),4.1(2H,s),5.1−5.25(1H,brs),6.5−6.6(1H,m),6.6−6.7(1H,m),7.3(2H,d,J=9.1Hz),8.1(2H,d,J=9.1Hz)
参考例4
5−メトキシカルボニルオキシ−3−メチル−2−(4−ニトロベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド
5−メトキシカルボニルオキシ−3−メチル−2−(4−ニトロベンジル)フェノール(1g)および2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−1−O−トリクロロアセトイミドイル−α−D−グルコピラノース(2.02g)の塩化メチレン(30mL)溶液に氷冷下三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(0.2mL)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物を水中に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=2/1〜3/2)で精製して標記化合物(1.93g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.75(3H,s),2.0(3H,s),2.04(3H,s),2.08(3H,s),2.19(3H,s),3.8−4.05(5H,m),4.05−4.2(2H,m),4.24(1H,dd,J=12.5Hz,6.1Hz),5.05−5.2(2H,m),5.2−5.35(2H,m),6.75−6.9(2H,m),7.21(2H,d,J=8.6Hz),8.1(2H,d,J=8.6Hz)
参考例5
2−(4−アミノベンジル)−5−メトキシカルボニルオキシ−3−メチルフェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド
5−メトキシカルボニルオキシ−3−メチル−2−(4−ニトロベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(0.61g)の酢酸エチル(7mL)溶液に10%パラジウム炭素粉末(0.2g)を加え、水素雰囲気下室温で13時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液の溶媒を減圧下留去して標記化合物(0.58g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.67(3H,s),1.99(3H,s),2.04(3H,s),2.09(3H,s),2.17(3H,s),3.5(2H,brs),3.73(1H,d,J=15.4Hz),3.8−3.95(4H,m),3.97(1H,d,J=15.4Hz),4.1−4.2(1H,m),4.24(1H,dd,J=11.9Hz,6.0Hz),5.0−5.2(2H,m),5.2−5.35(2H,m),6.5−6.6(2H,m),6.75−6.85(4H,m)
【実施例1】
5−ヒドロキシ−3−メチル−2−{4−〔3−(3−ピリジルメチル)ウレイド〕ベンジル}フェニル β−D−グルコピラノシド
2−(4−アミノベンジル)−5−メトキシカルボニルオキシ−3−メチルフェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(0.25g)およびピリジン(0.043mL)の塩化メチレン(10mL)溶液にクロロぎ酸4−ニトロフェニル(90mg)を加え、室温で12時間撹拌した。反応混合物に3−アミノメチルピリジン(0.045mL)およびトリエチルアミン(0.11mL)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮後、残渣をメタノール(8mL)に溶解し、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液、0.39mL)を加え、室温で2時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮後、残渣をODS固相抽出法(洗浄溶媒:蒸留水、溶出溶媒:メタノール)およびVARIAN社製BOND ELUT−SCX(溶出溶媒:メタノール)で順次精製することにより標記化合物(0.17g)を得た。
H−NMR(CDOD)δppm:
2.11(3H,s),3.3−3.5(4H,m),3.65−3.75(1H,m),3.8−3.95(2H,m),4.07(1H,d,J=15.4Hz),4.41(2H,s),4.8−4.9(1H,m),6.32(1H,d,J=2.2Hz),6.56(1H,d,J=2.2Hz),7.04(2H,d,J=8.7Hz),7.17(2H,d,J=8.7Hz),7.4(1H,dd,J=7.8Hz,5.1Hz),7.75−7.85(1H,m),8.35−8.45(1H,m),8.45−8.55(1H,m)
参考例6
〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メタノール
4−ブロモ−3−メチルフェノール(3g)のN,N−ジメチルホルムアミド(16mL)溶液に炭酸セシウム(5.75g)、ベンジル2−ブロモエチルエーテル(2.66mL)および触媒量のヨウ化ナトリウムを加え、室温で16時間撹拌した。反応混合物を水中に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去することにより4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−1−ブロモ−2−メチルベンゼンを得た。これをテトラヒドロフラン(80mL)に溶解し、−78℃アルゴン雰囲気下n−ブチルリチウム(2.66mol/Ln−ヘキサン溶液、6.63mL)を加え、5分間撹拌した。反応混合物にN,N−ジメチルホルムアミド(3.09mL)を加え、0℃に昇温し、1時間撹拌した。反応混合物を水中に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去することにより4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルベンズアルデヒドを得た。これをエタノール(40mL)に溶解し、水素化ホウ素ナトリウム(607mg)を加え、室温で3時間撹拌した。反応混合物にメタノールを加え、減圧下濃縮した後、残渣に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=6/1〜1.5/1)で精製して標記化合物(3.34g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.39(1H,t,J=5.8Hz),2.35(3H,s),3.8−3.85(2H,m),4.1−4.2(2H,m),4.6−4.65(4H,m),6.73(1H,dd,J=8.2Hz,2.6Hz),6.78(1H,d,J=2.6Hz),7.22(1H,d,J=8.2Hz),7.25−7.4(5H,m)
参考例7
4−{〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−1,2−ジヒドロ−5−イソプロピル−3H−ピラゾール−3−オン
〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メタノール(3.34g)のテトラヒドロフラン(22mL)溶液に氷冷下トリエチルアミン(1.97mL)およびメタンスルホニルクロリド(1.04mL)を加え、1時間撹拌後、不溶物をろ去した。得られたメシル酸〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチルのテトラヒドロフラン溶液を、水素化ナトリウム(60%、564mg)および4−メチル−3−オキソ吉草酸エチル(2.13g)のテトラヒドロフラン(40mL)懸濁液に加え、8時間加熱還流した。反応混合物に1mol/L塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残渣のトルエン(5mL)溶液にヒドラジン1水和物(1.79mL)を加え、100℃で一晩撹拌した。反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:塩化メチレン/メタノール=40/1〜15/1)で精製して標記化合物(3.72g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.1(6H,d,J=6.9Hz),2.3(3H,s),2.75−2.9(1H,m),3.6(2H,s),3.75−3.85(2H,m),4.05−4.15(2H,m),4.62(2H,s),6.64(1H,dd,J=8.5Hz,2.5Hz),6.74(1H,d,J=2.5Hz),6.94(1H,d,J=8.5Hz),7.25−7.4(5H,m)
参考例8
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール
4−{〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−1,2−ジヒドロ−5−イソプロピル−3H−ピラゾール−3−オン(3.72g)、アセトブロモ−α−D−グルコース(6.03g)およびベンジルトリ(n−ブチル)アンモニウムクロリド(1.52g)の塩化メチレン(18mL)溶液に5mol/L水酸化ナトリウム水溶液(5.9mL)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物をアミノプロピルシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=1/1〜1/3)で精製後、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=1/2〜1/3)で精製して標記化合物(4.33g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.05−1.15(6H,m),1.81(3H,s),1.99(3H,s),2.02(3H,s),2.06(3H,s),2.25(3H,s),2.7−2.85(1H,m),3.5(1H,d,J=16.6Hz),3.59(1H,d,J=16.6Hz),3.75−3.9(3H,m),4.05−4.2(3H,m),4.3(1H,dd,J=12.2Hz,4.1Hz),4.62(2H,s),5.1−5.3(3H,m),5.55(1H,d,J=8.0Hz),6.6(1H,dd,J=8.5Hz,2.5Hz),6.71(1H,d,J=2.5Hz),6.8(1H,d,J=8.5Hz),7.25−7.4(5H,m)
参考例9
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール(4.33g)をメタノール(24mL)に溶解し、10%パラジウム炭素粉末(800mg)を加え、水素雰囲気下室温で8時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液の溶媒を減圧下留去することにより標記化合物(3.7g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.1−1.2(6H,m),1.83(3H,s),1.99(3H,s),2.02(3H,s),2.06(3H,s),2.26(3H,s),2.75−2.9(1H,m),3.51(1H,d,J=16.9Hz),3.59(1H,d,J=16.9Hz),3.8−3.85(1H,m),3.9−3.95(2H,m),4.0−4.1(2H,m),4.11(1H,dd,J=12.5Hz,2.5Hz),4.28(1H,dd,J=12.5Hz,4.1Hz),5.1−5.3(3H,m),5.55(1H,d,J=7.9Hz),6.6(1H,dd,J=8.3Hz,2.7Hz),6.71(1H,d,J=2.7Hz),6.82(1H,d,J=8.3Hz)
参考例10
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−アジドエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール(1g)の塩化メチレン(10mL)溶液にトリエチルアミン(0.34mL)およびメタンスルホニルクロリド(0.15mL)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物を0.5mol/L塩酸中に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去することにより3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−5−イソプロピル−4−({4−〔2−(メタンスルホニルオキシ)エトキシ〕−2−メチルフェニル}メチル)−1H−ピラゾールを得た。これをN,N−ジメチルホルムアミド(7mL)に溶解し、アジ化ナトリウム(0.31g)を加え、100℃で3時間撹拌した。反応混合物を水中に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=2/3〜1/2)で精製して標記化合物(0.79g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.05−1.2(6H,m),1.82(3H,s),2.0(3H,s),2.02(3H,s),2.06(3H,s),2.27(3H,s),2.75−2.9(1H,m),3.45−3.65(4H,m),3.8−3.9(1H,m),4.05−4.15(3H,m),4.29(1H,dd,J=12.2Hz,4.2Hz),5.1−5.3(3H,m),5.56(1H,d,J=7.7Hz),6.6(1H,dd,J=8.3Hz,2.6Hz),6.71(1H,d,J=2.6Hz),6.82(1H,d,J=8.3Hz)
参考例11
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−アミノエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−アジドエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール(0.79g)のテトラヒドロフラン(8mL)溶液に10%パラジウム炭素粉末(50mg)を加え、水素雰囲気下室温で1時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液の溶媒を減圧下留去することにより標記化合物(0.75g)を得た。
H−NMR(CDCl)δppm:
1.05−1.15(6H,m),1.82(3H,s),2.0(3H,s),2.02(3H,s),2.06(3H,s),2.26(3H,s),2.75−2.85(1H,m),3.0−3.1(2H,m),3.5(1H,d,J=16.3Hz),3.59(1H,d,J=16.3Hz),3.8−3.9(1H,m),3.9−4.0(2H,m),4.12(1H,dd,J=12.4Hz,2.4Hz),4.29(1H,dd,J=12.4Hz,4.0Hz),5.15−5.3(3H,m),5.55(1H,d,J=7.9Hz),6.59(1H,dd,J=8.5Hz,2.6Hz),6.7(1H,d,J=2.6Hz),6.81(1H,d,J=8.5Hz)
【実施例2】
3−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−グアニジノエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール
3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−{〔4−(2−アミノエトキシ)−2−メチルフェニル〕メチル}−5−イソプロピル−1H−ピラゾール(0.6g)のテトラヒドロフラン(5mL)−N,N−ジメチルホルムアミド(1mL)溶液にN−(ベンジルオキシカルボニル)−1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン(1.89g)を加え、60℃で20時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=1/1〜酢酸エチル〜酢酸エチル/エタノール=10/1)で精製して3−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−4−({4−〔2−(N’−ベンジルオキシカルボニルグアニジノ)エトキシ〕−2−メチルフェニル}メチル)−5−イソプロピル−1H−ピラゾール(0.31g)を得た。これをメタノール(6mL)に溶解し、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液、0.023mL)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、残渣をODS固相抽出法(洗浄溶媒:蒸留水、溶出溶媒:メタノール)で精製することにより4−({4−〔2−(N’−ベンジルオキシカルボニルグアニジノ)エトキシ〕−2−メチルフェニル}メチル)−3−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−5−イソプロピル−1H−ピラゾール(0.2g)を得た。これをメタノール(3mL)に溶解し、10%パラジウム炭素粉末(50mg)を加え、水素雰囲気下室温で1時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液の溶媒を減圧下留去することにより標記化合物(0.15g)を得た。
H−NMR(CDOD)δppm:
1.05−1.15(6H,m),2.3(3H,s),2.75−2.9(1H,m),3.25−3.4(4H,m),3.55(2H,t,J=5.0Hz),3.6−3.75(3H,m),3.75−3.85(1H,m),4.06(2H,t,J=5.0Hz),5.02(1H,d,J=7.0Hz),6.65(1H,dd,J=8.5Hz,2.6Hz),6.75(1H,d,J=2.6Hz),6.88(1H,d,J=8.5Hz)
【実施例3】
ラットSGLT1活性阻害作用確認試験
1)ラットSGLT1のクローニングおよび発現ベクターへの組み換え
Kasaharaらにより報告されたラットのSGLT1遺伝子(ACCESSION:M16101)の111番から2203番までの塩基配列を,ラット腎臓のcDNA(QUICK−Clone(登録商標)cDNA;Clontech)を鋳型に用いてPCR法により増幅し、pCMV−Script(Stratagene)のSrfI部位に挿入した。挿入したDNAの塩基配列は、報告されている塩基配列とアミノ酸レベルで一致していた。
2)ラットSGLT1安定発現株の樹立
ラットSGLT1発現ベクターをMluIで消化して直鎖状DNAとした後、CHO−K1細胞にリポフェクション法(Superfect Transfection Reagent:QIAGEN)にて導入した。1mg/mL G418(LIFE TECNOLOGIES)にてネオマイシン耐性細胞株を得、後述する方法にてメチル−α−D−グルコピラノシドの取り込み活性を測定した。最も強い取り込み活性を示した株を選択してCrS1とし、以後、200μg/mLのG418存在下で培養した。
3)メチル−α−D−グルコピラノシド(α−MG)取り込み阻害活性の測定
96穴プレートにCrS1を3×10個/穴で播種し、200μg/mLのG418存在下で2日間培養した後に取り込み実験に供した。取り込み用緩衝液(140mM塩化ナトリウム、2mM塩化カリウム、1mM塩化カルシウム、1mM塩化マグネシウム、10mM2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸、5mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む緩衝液pH7.4)には、非放射ラベル体(Sigma)と14Cラベル体(Amersham Pharmacia Biotech)のα−MGを最終濃度が1mMとなるように混和して添加した。試験化合物はジメチルスルフォキシドに溶解した後、蒸留水にて適宜希釈して1mMα−MGを含む取り込み用緩衝液に添加し、阻害活性測定用緩衝液とした。対照群用には試験化合物を含まない測定用緩衝液を、基礎取り込み測定用には塩化ナトリウムに替えて140mMの塩化コリンを含む基礎取り込み測定用緩衝液を調製した。培養したCrS1の培地を除去し、前処置用緩衝液(α−MGを含まない基礎取り込み用緩衝液)を1穴あたり180μL加え、37℃で10分間静置した。同一操作をもう1度繰り返した後、取り込み用緩衝液を除去し、測定用緩衝液および基礎取り込み用緩衝液を1穴当たり75μLずつ加え37℃で静置した。1時間後に測定用緩衝液を除去し、1穴当たり180μLの洗浄用緩衝液(10mM非ラベル体α−MGを含む基礎取り込み用緩衝液)で2回洗浄した。1穴当たり75μLの0.2mol/L水酸化ナトリウムで細胞を溶解し、その液をピコプレート(Packard)に移した。150μLのマイクロシンチ40(Packard)を加えて混和し、マイクロシンチレーションカウンター トップカウント(Packard)にて放射活性を計測した。対照群の取り込みから基礎取り込み量を差し引いた値を100%として、試験化合物の各濃度におけるメチル−α−D−グルコピラノシドの取り込み量を算出した。試験化合物がメチル−α−D−グルコピラノシドの取り込みを50%阻害する濃度(IC50値)を、ロジットプロットにより算出した。その結果は表1の通りである。

試験例1
SGLT1阻害薬のフルクトース吸収に対する影響
Wistar系雄性ラット(8週齢)に、実施例2(0.3mg/kg)またはフロリジン(40または100mg/kg)を経口投与し、その直後にフルクトースを0.2g/kg負荷した。30分後に、エーテル麻酔下で放血致死させ、速やかに胃および小腸を摘出し、それぞれ10mLの冷やした生理食塩水で内容物を洗い出した。フルクトース測定キット(D−グルコース/D−フルクトース;ロッシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いてフルクトース濃度を測定し、消化管内残存量を算出して投与量に対する割合で示した。統計処理は、対照群に対してT検定にて行った。結果は表2の通りである。尚、表中の**はP<0.01を、***はP<0.001を表す。

試験例2
SGLT1阻害薬、SGLT阻害薬とα−グルコシダーゼ阻害薬のショ糖含有混合炭水化物負荷への影響
Zucker fa/faラット(15〜17週齢)を1晩絶食した後、SGLT1阻害薬(実施例1記載の化合物,0.5mg/kg;実施例2記載の化合物,0.3mg/kg)、α−グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース,5mg/kg;ミグリトール,5mg/kg)、またはSGLT阻害薬(フロリジン,100mg/kg)を経口投与した。その直後にショ糖添加混合炭水化物(デンプン:ショ糖:乳糖=6:3:1)またはショ糖非添加混合炭水化物(デンプン:乳糖=7.5:1)を1.6gグルコース/kgで負荷した。0、0.5、1、2、3時間後に採血し、血漿を分離して血漿中グルコース濃度を定量した。台形法にて0から3時間目までのグルコース血中濃度下面積を算出した。統計処理は、それぞれの薬物毎にショ糖非添加混合炭水化物負荷群とショ糖添加混合炭水化物負荷群をT検定にて行った。結果は第1図に示す通りである。
【産業上の利用可能性】
本発明の選択的なSGLT1阻害薬を有効成分として含有する医薬組成物は、広範な糖質吸収阻害作用に加えて、通常の食事におけるフルクトースの摂取に基づく上述の効果を兼備しており、卓越した血糖降下作用を発揮することができる。それ故、本発明の医薬組成物は、高血糖症に起因する上記の各種疾患に対する予防又は治療剤として極めて好適である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的なSGLT1阻害薬を有効成分として含有する、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療剤。
【請求項2】
有効成分がGLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬である、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
投与形態が経口剤である、請求項1又は2記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
高血糖症に起因する疾患が糖尿病である、請求項1〜3の何れかに記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
糖尿病が食後高血糖である、請求項4記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
高血糖症に起因する疾患が耐糖能異常である、請求項1〜3の何れかに記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
高血糖症に起因する疾患が糖尿病性合併症である、請求項1〜3の何れかに記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
高血糖症に起因する疾患が肥満症である、請求項1〜3の何れかに記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
選択的なSGLT1阻害薬を有効量投与することからなる、高血糖症に起因する疾患の予防又は治療方法。
【請求項10】
選択的なSGLT1阻害薬がGLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬である、請求項9記載の予防又は治療方法。
【請求項11】
投与形態が経口剤である、請求項9又は10記載の予防又は治療方法。
【請求項12】
高血糖症に起因する疾患が糖尿病である、請求項9〜11の何れかに記載の予防又は治療方法。
【請求項13】
糖尿病が食後高血糖である、請求項12記載の予防又は治療方法。
【請求項14】
高血糖症に起因する疾患が耐糖能異常である、請求項9〜11の何れかに記載の予防又は治療方法。
【請求項15】
高血糖症に起因する疾患が糖尿病性合併症である、請求項9〜11の何れかに記載の予防又は治療方法。
【請求項16】
高血糖症に起因する疾患が肥満症である、請求項9〜11の何れかに記載の予防又は治療方法。
【請求項17】
高血糖症に起因する疾患の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、選択的なSGLT1阻害薬の使用。
【請求項18】
選択的なSGLT1阻害薬がGLUT2及び/又はGLUT5阻害作用を実質的に示さないSGLT1阻害薬である、請求項17記載の使用。
【請求項19】
医薬組成物が経口剤である、請求項17又は18記載の使用。
【請求項20】
高血糖症に起因する疾患が糖尿病である、請求項17〜19の何れかに記載の使用。
【請求項21】
糖尿病が食後高血糖である、請求項20記載の使用。
【請求項22】
高血糖症に起因する疾患が耐糖能異常である、請求項17〜19の何れかに記載の使用。
【請求項23】
高血糖症に起因する疾患が糖尿病性合併症である、請求項17〜19の何れかに記載の使用。
【請求項24】
高血糖症に起因する疾患が肥満症である、請求項17〜19の何れかに記載の使用。

【国際公開番号】WO2004/050122
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556904(P2004−556904)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015503
【国際出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(000104560)キッセイ薬品工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】