説明

高負荷伝動ベルトおよびその製造方法

【課題】ブロックの成形と同時にセンターベルトへの装着を行うことができ、且つ、伝達能力も高くて騒音の問題も少なく、センターベルトへの負担の少ない高負荷伝動ベルトを提供する。
【解決手段】断面円形のセンターベルト3の長手方向に沿って円形の開口部6を有する複数のブロック2が成形装着されており、ブロック2は左右両側にベルト長手方向に突出する接触部7を有し、隣り合うブロック2同士が互いに前記接触部7にて接触した高負荷伝動ベルト1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを固定した高負荷伝動ベルトおよびその製造方法に係り、より効率のよい動力の伝達を行うことができ、センターベルトの強度が求められない高負荷伝動ベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置に使用するベルトは、プーリのV溝幅を変えることによってプーリに巻きかかる有効径を変化させ変速比を調節する様な変速プーリに巻き掛けて使用するものであり、プーリからの側圧が大きくなるのでベルトは大きな側圧に耐えるものでなくてはならない。また、無段変速の用途以外にも通常のゴムベルトでは寿命が短くなりすぎるような高負荷伝動の用途には特別に高負荷に耐えうるようなベルトを用いる必要がある。
【0003】
そのようなベルトとして使用されるものの中に、センターベルトにブロックを固定してベルト幅方向の強度を高めた引張伝動式の高負荷伝動ベルトがあり、具体的な構成としては、心線をゴムなどのエラストマー中に埋設したセンターベルトにボルトやリベットなどの止着材を用いてセンターベルトに使用しているエラストマーよりも比較的硬質のエラストマーからなるブロックを止着固定したものがある。
【0004】
このような引張伝動式の高負荷伝動ベルトの製造において、センターベルトに多数のブロックを装着する作業が必要となる。特許文献1や特許文献2に開示されるようなベルトはブロックを成形する際に同時にセンターベルトへの装着も行うことができるので、前記のような作業をする必要がない。
【0005】
【特許文献1】実開平6−83336号公報
【特許文献2】特開2003−202054号公報
【特許文献3】特開平1−247841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これら特許文献1や特許文献2に記載されたようなベルトの場合、ブロック同士の間にブロックを成形に使用する金型の厚み分の隙間がどうしてもできてしまう。そのためにベルト自身の負荷の限界が低くなったり、場合によっては騒音の原因となるなどの欠点につながったりする場合も考えられる。
【0007】
そこで本発明はこのような問題を解決してブロックの成形と同時にセンターベルトへの装着を行うことができ、且つ、伝達能力も高くて騒音の問題も少なく、センターベルトへの負担の少ない高負荷伝動ベルトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために本発明の請求項1では、断面円形のセンターベルトの長手方向に沿って円形の貫通孔を有する複数のブロックが成形装着されており、ブロックは左右両側にベルト長手方向に突出する接触部を有し、隣り合うブロック同士が互いに前記接触部にて接触していることを特徴とする。
【0009】
請求項2は、センターベルトには他の部分よりも径が大きいもしくは小さい嵌合部が形成されており、該嵌合部にてセンターベルトとブロックと嵌合してなる高負荷伝動ベルトである。
【0010】
請求項3では、センターベルトとセンターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトの製造方法において、断面円形のセンターベルトに所定ピッチで樹脂製のブロックを前後のブロック同士が緩衝しないようにセンターベルトを中心軸として角度をずらせた状態で射出成形し、一方該ブロックには左右両側にベルト長手方向に突出する接触部を形成しており、センターベルトを中心にブロックを回転させて正規の角度に調整することによって前記接触部で前後のブロック同士を接触させてなることを特徴とする。
【0011】
請求項4は、センターベルトには他の部分よりも径が大きいもしくは小さい嵌合部が形成されており、該嵌合部にてセンターベルトとブロックと嵌合してなる請求項3記載の高負荷伝動ベルトの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1または請求項3といった構成を採ることによって、ブロックの成形の際に同時にブロックをセンターベルトに装着することができるのでベルトの製造に要する手間やコストを削減することができ、しかも前後のブロック同士を接触させることができ、ベルト側面においてブロック同士の隙間がなくなるので、騒音の発生を少なくすることができるとともにベルトの伝達能力を高いものとすることができる。
【0013】
請求項2および請求項4ではブロックとセンターベルトとが嵌合部によって嵌合されており、ベルト長手方向の大きな負荷に対しても十分な耐久性を持ち、より寿命の長いベルトとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明方法により製造されるセンターベルトを用いた高負荷伝動ベルト1の一例を示す斜視概略図であり、図2はセンターベルトの断面図である。本発明の高負荷伝動ベルト用センターベルトの製造方法にて製造されるセンターベルトを用いる高負荷伝動ベルト1は、ゴム4内にロープ状の心体5をスパイラル状に埋設してなる断面円形のセンターベルト3と、該センターベルト3の長手方向に沿って複数のブロック2が設けられている。センターベルト3は複数のブロック2のベルト進行方向前後面の中央部に有する円形の開口部6を貫通してブロック2を連結している。また、ブロック2前面の左右両側にベルト長手方向に突出する接触部7を有しており、前後のブロック2同士が該接触部7で接触して側面においてブロック2の間隔がないベルト1となっている。
【0015】
このベルト1の製造には次のようにセンターベルトを金型内にセットした状態で樹脂を射出成形してブロックを成形するとともにセンターベルトに装着するといった方法が採られる。
【0016】
このようにブロックを成形するとともにセンターベルト装着する高負荷伝動ベルトの製造するにあたり、図3および図4に示すように一対の金型30、31を用い、その金型30、31にはセンターベルト保持部32を有するとともに、一対の金型30、31が合さった状態でブロック2を成形するためのキャビティ33を形成するようになっており、センターベルト3を前記センターベルト保持部32にセットした状態で金型30、31内のキャビティ33に樹脂を射出する。
【0017】
キャビティ33はセンターベルト保持部32にセンターベルト3を嵌め込んだ状態でセンターベルト3を取り囲むように配置されており、キャビティ33でブロック2を成形するとセンターベルト3が貫通したかたちでブロックが形成されるとともにセンターベルトに装着された状態になる。
【0018】
以上のような方法を採ることによって、ブロック2を成形すると同時にセンターベルト3にブロック2を取り付けることができる。
【0019】
従来、このような高負荷伝動ベルトの製造においてはセンターベルト3を製造し、別途ブロック2を製造した上でセンターベルト3にブロック2を一つ一つ嵌め込んでいく作業を行っており、特にブロック2をセンターベルト3に嵌め込んでいく作業に多くに時間をとられていたが、上記のような製造方法を採ることによって、ブロック2をセンターベルト3の所定位置に成形しているので、ブロック2を成形し終わった時点でブロック2はセンターベルト3に嵌め込まれた状態となるので、改めてブロック2をセンターベルト3に嵌め込むといった作業が不要になるので、製造に要する時間を大幅に短縮することができるものである。
【0020】
また、本発明のベルトではブロックの前面の左右両側にベルト長手方向に突出する接触部を有しているが、ブロックの成形の際には前後のブロックでセンターベルトを中心軸として角度をずらせて成形し該接触部を含めて前後のブロックが接触しない位置とすることで金型での成形を可能としており、成形が終わって金型から取り出した後にブロックをセンターベルトの周りで回転させて角度を調整し所定の角度にする。そうすることで接触部において前後のブロックが接触した状態とすることができる。図4では前後のブロックで90°の角度の差をつけて成形している。
【0021】
センターベルト3は断面円形の円筒形状であるが、ブロック2を装着する位置において他の部分と比べて径を小さく絞ったもしくは大きく設定した嵌合部8を形成してもよい。そのようなセンターベルト3を用いて金型にセットしてブロックを成形するとブロック側にもその形状に合わせた嵌合部9が形成されてブロックとセンターベルト間のベルト長手方向の相対的な動きを規制することができる。この嵌合部8、9の形状は図面では円形に突出したものを示しているが、この形状に限られるものではなく、三角形状に突出するものや径を絞ったものでもよい。但し、このベルトを製造する際にセンターベルト3を中心にブロック2を回転させる必要があるので横断面が円形になるものでなければならない。
【0022】
図4に示す例では、金型30、31に設けられたキャビティ33は5箇所であり、一度に成形できるブロックの数は10個である。よって10個のブロックを成形した後に金型から一度ベルトを取り外してブロック10個分を図4中の矢印方向に回転させて次の位置にブロック2を成形できるようにして再度金型30、31に装着し、次の位置に10個のブロック2を成形する。このような操作を繰り返してベルト全周のブロック2全部を成形することができる。
【0023】
ブロック2を成形するキャビティ33以外のところではセンターベルト3は固定する必要がなく、金型を閉じる時のベルトの逃げ場所としてベルトの概略形状よりやや広い通路34が形成されている。
【0024】
それぞれのキャビティ33にはブロックの上側中央付近に射出成形のゲート35を配置しており、溶融した樹脂を射出することによってブロック1を形成するものである。ブロックの成形が完了したら金型30、31を開いてブロック2を金型から脱型する。脱型には金型から突出するイジェクトピンを用いて行うことができる。
【0025】
金型から脱型したベルトは、図5に示すように前後のベルトで90°の角度の差をつけて成形しているので脱型後に1つおきにブロックを図6に示すように回転させて揃え、前後のブロック2が接触部7で接触するようにしてベルトが完成する。
【0026】
以上の説明ではブロック2の成形は一度に10個を成形し、順送り的に全数を成形して高負荷伝動ベルト1を完成させているが、ブロック2の全数と同じ数のキャビティを有する金型を用いて一度に全部を成形しても構わない。
【0027】
ブロック2のベルト前後面において幅方向の両側には接触部7が設けられており、前後のブロック2はこの接触部7で接触している。よってベルト側面において前後のブロック2間には隙間がない状態となっていることから、ベルトの走行時における騒音の発生を防止することができるとともにベルトとプーリ間のすべりの発生も低減することができ、伝達性能は高いものとすることができる。
【0028】
更に、前後のブロック2が接触していることによって、このベルトを走行させて動力を伝達する際に駆動プーリと従動プーリ間で張り側では引張伝動が行われるとともに緩み側ではブロックがベルト走行方向の前のブロックを押すことによって伝動を行う圧縮伝動を行うことができる。引張伝動と圧縮伝動の両方で動力伝達を行うことができるので、伝達性能が高くなりまたセンターベルトを構成する心線への負担も少なくなるのでセンターベルトの切断といった故障の低減につながり、心線の強度を下げることもできるのでコストメリットも期待できる。
【0029】
図7は本発明の別の例に係る図2に相当する断面図であり、この例では接触部7の前面に半円筒形のガイド凸部10が突出しているとともに後面にガイド凸部と嵌りあうガイド凹部11が設けられている。ブロック2の成形後にずらせていた角度を正規の角度に調整した時にこのガイド凸部10とガイド凹部11が嵌りあい前後隣り合うブロック2同士で互いに動きを規制してベルト走行中のブロック2の姿勢を安定させ、騒音の発生や伝動効率の低下を防止することができる。ブロック2の成形後に回転させて前後のブロックを接触させる際の障害にならないようガイド凸部10の形状は円筒形としてその曲率半径は0.5〜3.0mm程度とすることが好ましい。
【0030】
図8は更に別の例に係る図2に相当する断面図であり、ブロック2に設ける接触部7はベルト進行方向の前側に設けるだけでなく、後側にも併せて設けたもの、また図示はしないが前後両面に設けたものでもよく、更にはブロックの上下両側に接触部7を設けることによって前後のブロック2を接触させるようにしたものでも構わない。
【0031】
このような射出成形でブロックを成形する場合に用いられる素材の樹脂として用いることができるのは、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等の合成樹脂が用いられるが、中でも低摩擦係数で耐摩耗性に優れ、剛性があるとともに曲げに対しても弾力性を有しており、簡単に破損してしまうことのない樹脂がよく、ポリアミド樹脂なかでも4,6−ナイロンが好ましいといえる。
【0032】
本発明では前述のようにブロックを形成する合成樹脂中に繊維状の補強材やウィスカ状の補強材を配合することは可能であり、繊維状の補強材は15〜40重量%の範囲で配合する。15重量%未満であると補強効果が少なくブロックの耐摩耗性が十分でないなどの問題があり、40重量%を超えると樹脂への配合が困難になったり射出成形が困難になったりするなどの問題があるので好ましくない。合成樹脂に配合する繊維状補強材としては、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。繊維状補強材として上記の有機繊維のほかにも酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカなどの無機繊維を配合してもよい。これらの他に、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素系樹脂から選ばれてなる少なくとも一つを混入することによってもブロック2の潤滑性を向上させることができる。フッ素系樹脂としては、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化エチレンプロピレンエーテル(PFPE)、4フッ化エチレン6フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、ポリフッ化アルコキシエチレン(PFA)等が挙げられる。
【0033】
センターベルト3のゴム4として使用されるものは、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴムなどの単一材またはこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンゴム等が挙げられる。そして、心線5としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、スチールワイヤ等から選ばれたロープが用いられる。また、心線5はロープを埋設したもの以外にも、上記の繊維の織布、編み布や金属薄板等を使用することもできる。また、嵌合部を有するセンターベルトの上下面にはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などからなる織布や編布にRFL処理液やゴム糊などを被覆することによって接着処理したものが積層されている。
【0034】
また、ブロック2を成形した後にセンターベルト3を中心に回転させてブロック2の角度を合わせる工程があることからセンターベルト3の表面にフッ素樹脂や炭素系の滑剤をコーティングしたり含浸させたりしてもよい。更に繊維を表面に配置することによって滑りをよくするといった手段を採ることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
自動車や自動二輪車、農業機械の無段変速装置など、プーリの有効径が変化し大きなトルクを伝達するようなベルトの製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の高負荷伝動ベルトの要部斜視図である。
【図2】本発明の高負荷伝動ベルトの側断面図である。
【図3】本発明の製造方法で用いられる製造装置の概要斜視図である。
【図4】金型を開いたところから見た正面図である。
【図5】ブロックを成形した直後のベルトの要部平面図である。
【図6】ブロックを回転させる様子を示す断面図である。
【図7】高負荷伝動ベルトの別の例を示す図2に相当する側断面図である。
【図8】高負荷伝動ベルトの更に別の例を示す図2に相当する側断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 高負荷伝動ベルト
2 ブロック
3 センターベルト
4 ゴム
5 心線
6 開口部
7 接触部
8 嵌合部
9 嵌合部
10 ガイド凸部
11 ガイド凹部
30 金型
31 金型
32 センターベルト保持部
33 キャビティ
34 通路
35 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円形のセンターベルトの長手方向に沿って円形の貫通孔を有する複数のブロックが成形装着された高負荷伝動ベルトにおいて、ブロックは左右両側もしくは上下両側にベルト長手方向に突出する接触部を有し、隣り合うブロック同士が互いに前記接触部にて接触していることを特徴とする高負荷伝動ベルト。
【請求項2】
センターベルトには他の部分よりも径が大きいもしくは小さい嵌合部が形成されており、該嵌合部にてセンターベルトとブロックとを嵌合してなる請求項1記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項3】
センターベルトとセンターベルトの長手方向に沿って複数のブロックを設けた高負荷伝動ベルトの製造方法において、断面円形のセンターベルトに所定ピッチで樹脂製のブロックを前後のブロック同士が緩衝しないようにセンターベルトを中心軸として角度をずらせた状態で射出成形し、一方該ブロックには左右両側にベルト長手方向に突出する接触部を形成しており、センターベルトを中心にブロックを回転させて正規の角度に調整することによって前記接触部で前後のブロック同士を接触させてなることを特徴とする高負荷伝動ベルトの製造方法。
【請求項4】
センターベルトには他の部分よりも径が大きいもしくは小さい嵌合部が形成されており、該嵌合部にてセンターベルトとブロックとを嵌合してなる請求項3記載の高負荷伝動ベルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−170240(P2006−170240A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359722(P2004−359722)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)