説明

高透明度のブレンドイオノマー組成物およびそれを含む物品

イオノマーブレンド組成物は、第1のイオノマーおよび第1のイオノマーと異なる第2のイオノマーのブレンドを含む。第1のイオノマーは、約10〜約4000g/10分の溶融流量を有しかつα−オレフィンの共重合単位および約20〜約30重量%のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位を含む第1の前駆体酸コポリマーから誘導される。さらに、第1の前駆体酸は、約40%〜約90%のレベルまで中和されて、約0.7〜約25g/10分のMFR、および示差走査熱分析(DSC)により測定される場合に約3.0j/g未満のまたは検出不可能な凍結エンタルピーを有するナトリウムイオノマーを形成する。様々な物品が、このイオノマーブレンド組成物を含み得る、またはこのイオノマーブレンドから例えば射出成形により製造され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第120条に基づき、2008年12月30日に出願された米国仮特許出願第61/141,504号への優先権を主張しており、これはその全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、イオノマー組成物に、およびイオノマー組成物から作製された物品、たとえば射出成型物品に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明に係る技術分野の最新技術をより完全に説明するために、いくつかの特許および刊行物を、本明細書において引用する。これらの特許および刊行物のそれぞれの開示全体が、参照により本明細書に援用される。
【0004】
イオノマーは、α−オレフィンの共重合残基とα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合残基とを含む酸コポリマーである、前駆体または親ポリマーのカルボン酸基を部分的または完全に中和することにより製造されるコポリマーである。射出成形法によりイオノマーから作製された様々な物品が、我々の日常生活において使用されてきた。
【0005】
例えば、イオノマーカバーを有するゴルフボールが、射出成形により製造されてきた。例えば、米国特許第4,714,253号明細書;米国特許第5,439,227号明細書;米国特許第5,452,898号明細書;米国特許第5,553,852号明細書;米国特許第5,752,889号明細書;米国特許第5,782,703号明細書;米国特許第5,782,707号明細書;米国特許第5,803,833号明細書;米国特許第5,807,192号明細書;米国特許第6,179,732号明細書;米国特許第6,699,027号明細書;米国特許第7,005,098号明細書;米国特許第7,128,864号明細書;米国特許第7,201,672号明細書;ならびに米国特許出願公開第2006/0043632号明細書;米国特許出願公開第2006/0273485号明細書;および米国特許出願公開第2007/028069号明細書を参照されたい。
【0006】
イオノマーはまた、射出成形中空品(例えば、容器)を製造するためにも使用されてきた。例えば、米国特許第4,857,258号明細書;米国特許第4,937,035号明細書;米国特許第4,944,906号明細書;米国特許第5,094,921号明細書;米国特許第5,788,890号明細書;米国特許第6,207,761号明細書;および米国特許第6,866,158号明細書;米国特許出願公開第2002/0180083号明細書;米国特許出願公開第2002/0175136号明細書;および米国特許出願公開第2005/0129888号明細書、欧州特許第1816147号明細書および欧州特許第0855155号明細書、ならびにPCT特許国際公開第2004/062881号パンフレット;国際公開第2008/010597号パンフレット;および国際公開第2003/045186号パンフレットを参照されたい。
【0007】
射出成形によって製造された容器は、多くの場合、厚肉構造を有する。イオノマーがそうした射出成形容器を形成する際に用いられる場合、その壁の厚さのせいで、光学特性が損なわれ得る。イオノマー組成物で作製され、改善された光学特性を有する容器を開発する必要が、特に化粧品業界においてある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本明細書においては、イオノマーブレンドを含む組成物が提供される。このイオノマーブレンドは、そのイオノマーブレンドの総重量に基づき、約5〜約95重量%の第1のイオノマーおよび約95〜約5重量%の第2のイオノマーを含む。また、このイオノマーブレンドは、そのイオノマーブレンド中の中和されているカルボン酸基および中和されていないカルボン酸基の総数に基づき、10%〜90%の中和レベルを有する。
【0009】
第1のイオノマーは、第1の前駆体酸コポリマーの中和生成物であり、第1の前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素原子を有する第1のα−オレフィンの共重合単位と、その第1の前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有する第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含む。第1の前駆体酸コポリマーはまた、約70〜約1000g/10分の溶融流量を有する。約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつナトリウムカチオンから実質的になるカチオンを含む場合、第1の前駆体酸コポリマーはナトリウムイオノマーを生成する。このナトリウムイオノマーは、約0.7〜約25g/10分の溶融流量(MFR)、およびASTM D3418に準拠して示差走査熱分析(DSC)により測定される場合に検出不可能な、または約3.0j/g未満の凍結エンタルピーを有する。
【0010】
第2のイオノマーは、第1の前駆体酸コポリマーと異なる第2の前駆体酸コポリマーの中和生成物である。第2の前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素原子を有する第2のα−オレフィンの共重合単位と、その第2の前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約18〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有する第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含む。第2のα−オレフィンは、第1のα−オレフィンと同じかまたは異なってもよく、第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と同じかまたは異なってもよい。同様に、第2のα−オレフィンまたは第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量は、第1のα−オレフィンまたは第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量と同じかまたは異なってもよい。第2の前駆体酸コポリマーは、約60g/10分以下の溶融流量を有し、第2のイオノマーは、イオノマーブレンドの中和レベルで約10g/10分以下の溶融流量を有する。第2のイオノマーは、イオノマーブレンドの中和レベルで、同中和レベルでの第1のイオノマーの溶融流量と異なる溶融流量を有する。
【0011】
さらに、この組成物を含む、またはこの組成物から製造された物品(例えば、射出成形品)が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の定義は、特定の場合において別段の限定がない限り、本明細書の全体にわたって使用される用語に適用される。
【0013】
本明細書で使用される科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されている意味を有する。矛盾がある場合は、本明細書における定義をはじめとして、本明細書が優先される。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含有(する)」、「特徴とする」、「有する(has)」、「有する(having)」、またはそれらのいかなる他の変形も、非排他的な包含を対象として含むことが意図される。例えば、列挙された構成要素を含むプロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそれらの構成要素だけに限定されるわけではなく、明示的に列挙されていない他の構成要素、またはそのようなプロセス、方法、物品もしくは装置に固有の他の構成要素を包含し得る。
【0015】
移行句「からなる」は、クレームにおいて特定されていないあらゆる構成要素、工程または成分を除外し、記載された材料(通常それらと関連する不純物を除く)以外の材料の包含に対してクレームを閉鎖する。句「からなる(consists of)」は、プリアンブルの直後ではなくクレームのボディの項目(clause)中に現れる場合、その項目に示された構成要素のみを限定し、他の構成要素がそのクレーム全体から除外されることはない。
【0016】
移行句「から実質的になる(consisting essentially of)」は、クレームの範囲を、特定された材料または工程、および特許請求される発明の1つまたは複数の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料または工程に限定する。「から実質的になる」のクレームは、「からなる」形式で書かれた閉鎖クレームと、「含む(comprising)」形式で作成された完全開放クレームとの間の中立的立場をとる。本明細書に規定されるような任意選択による添加剤であって、そのような添加剤について適切なレベルで、かつ微量の不純物は、用語「から実質的になる」によって組成物から除外されない。
【0017】
組成物、プロセス、構造、または組成物、プロセスもしくは構造の一部が、本明細書において、開放型の用語(例えば「含む(comprising)」)を用いて記載される場合、別段の指定がない限り、この記載は、その組成物、プロセス、構造、またはその組成物、プロセスもしくは構造の一部の構成要素「から実質的になる(consists essentially of)」または「からなる(consists of)」実施形態も包含する。
【0018】
冠詞「a」および「an」は、本明細書に記載される組成物、プロセスまたは構造の、種々の構成要素および構成要件と関連付けて使用され得る。これは単に、便宜上、その組成物、プロセスまたは構造の一般的な意味を与えるためのものにすぎない。そのような記載は、それらの構成要素または構成要件のうちの「1種または少なくとも1種」を包含する。さらに、本明細書で使用される場合、これらの単数冠詞はまた、複数形が除外されることが具体的な文脈から明らかでない限り、複数の構成要素または構成要件の記載も包含する。
【0019】
用語「約」は、量、大きさ、配合、パラメータ、ならびに他の数量および性質が、厳密ではなく、かつ厳密である必要がなく、むしろ許容差、換算係数、四捨五入、測定誤差など、および当業者に公知の他の因子を反映して、おおよそでよく、かつ/または所望される通りより大きくてもより小さくてもよいことを意味している。概して、量、大きさ、配合、パラメータ、または他の数量もしくは性質は、明示的にそのようなものであることが示されていようといまいと「約」または「おおよそ」である。
【0020】
用語「または(もしくは)」は、本明細書で使用される場合、包含的である。すなわち、句「AまたはB」は、「A、B、またはAおよびBの両方」を意味する。より具体的には、条件「AまたはB」は、以下のうちのいずれか1つにより満たされる:Aが真(または存在する)かつBが偽(または存在しない);Aが偽(または存在しない)かつBが真(または存在する);またはAおよびBの両方が真(または存在する)。排他的な「または」は、本明細書において、例えば「AまたはBのいずれか」および「AまたはBのうちの一方」などの用語により明示される。
【0021】
また、本明細書で示される範囲は、別段の明示的な指定がない限り、その端点を含む。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、ある範囲、1つ以上の好ましい範囲、または上の好ましい値および下の好ましい値の列記として与えられる場合、これは、任意の上方の範囲限界または好ましい値と、任意の下方の範囲限界または好ましい値との任意の対から形成される全ての範囲を、そのような対が別個に開示されているか否かに関わらず、具体的に開示するものとして理解されるべきである。発明の範囲は、ある範囲を規定する際に記載される具体的な値に限定されない。
【0022】
本明細書において、用語「当業者に公知の」、「慣用の」または同義の語句と共に、材料、方法、または機械が記載される場合、この用語は、本願出願時に慣用の材料、方法、および機械が、この記載により包含されることを示す。また、現在のところは慣用されていないが、類似の目的のために好適であると当該技術分野において認められるようになるであろう材料、方法、および機械も包含する。
【0023】
別段の指定がない限り、全ての百分率、部、比、および類似の量は、重量により定義される。
【0024】
限定された状況下で別段の指定がない限り、全ての溶融流量は、ASTM法D1238に準拠して190℃のポリマー溶融温度にて2.16kg荷重下で測定される。さらに、溶融流量(MFR)、メルトフローインデックス(MFI)およびメルトインデックス(MI)という用語は同義であり、本明細書において相互交換可能に使用される。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「コポリマー」は、2種以上のコモノマーの共重合の結果もたらされる共重合単位を含むポリマーをいう。これに関連して、コポリマーは、それを構成するコモノマーまたはそれを構成するコモノマーの量に関連して、本明細書において記載され得る(例えば、「エチレンおよび15重量%のアクリル酸を含むコポリマー」または類似の記載)。そのような記載は、コモノマーを共重合単位と呼ばない点;コポリマーの慣用の命名法(例えば、国際純正・応用化学連合(IUPAC)命名法)を含まない点;プロダクト−バイ−プロセスの用語を使用しない点;または別の理由で、非公式と見なされ得る。しかしながら、本明細書で使用される場合、コポリマーについてのそれを構成するコモノマーまたはそれを構成するコモノマーの量に関連しての記載は、そのコポリマーが、特定されたコモノマーの共重合単位を(量が特定されている場合はその特定された量で)含有することを意味する。当然の帰結として、コポリマーは、限定された状況においてそのようなものであることが明示的に示されていなければ、所与のコモノマーを所与の量で含有する反応混合物の生成物ではないということになる。
【0026】
用語「ジポリマー」は、2種のモノマーから実質的になるポリマーをいい、用語「ターポリマー」は、3種のモノマーから実質的になるポリマーをいう。
【0027】
用語「酸コポリマー」は、本明細書で使用される場合、α−オレフィンの共重合単位と、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含み、かつ他の好適な1種または複数種のコモノマー(例えば、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル)の共重合単位を含んでいてよいポリマーをいう。
【0028】
用語「(メタ)アクリル」は、単独または組み合わせた形態(例えば、(メタ)アクリレート」)で、本明細書で使用される場合、アクリルまたはメタクリルであること(例えば、「アクリル酸またはメタクリル酸」または「アルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレート」)をいう。
【0029】
用語「ブレンド」は、本明細書で使用される場合、用語「組み合わせ」と同義である。すなわち、特定の状況下で別段の指定がない限り、用語「ブレンド」は、それが指す組成物の形態について何ら言外の意味を有さない。
【0030】
最後に、用語「イオノマー」は、本明細書で使用される場合、カルボン酸塩(例えば、アンモニウムカルボキシレート、アルカリ金属カルボキシレート、アルカリ土類カルボキシレート、遷移金属カルボキシレート、および/またはそのようなカルボキシレートの組み合わせ)であるイオン基を含むポリマーをいう。そのようなポリマーは、一般的に、本明細書で規定されるような酸コポリマーである前駆体または親ポリマーのカルボン酸基を、例えば塩基との反応により、部分的または完全に中和することによって製造される。本明細書で使用されるようなアルカリ金属イオノマーの例には、亜鉛/ナトリウム混合イオノマー(すなわち、亜鉛/ナトリウムで中和されている混合イオノマー)(例えば、共重合メタクリル酸単位のカルボン酸基の全部もしくは一部が亜鉛カルボキシレートおよびナトリウムカルボキシレートの形態にある、エチレンとメタクリル酸とのコポリマー)がある。
【0031】
本明細書において、イオノマーブレンドを含む、またはイオノマーブレンドから作製された組成物が提供される。このイオノマーブレンドは、第1のイオノマーおよび第2のイオノマーを含む。このイオノマーブレンドは、そのイオノマーブレンドの総重量に基づき、約5〜約95重量%の第1のイオノマーおよび約5〜約95重量%の第2のイオノマー、または約60〜約95重量%の第1のイオノマーおよび約5〜約40重量%の第2のイオノマー、または約70〜約90重量%の第1のイオノマーおよび約10〜約30重量%の第2のイオノマー、または約70〜約80重量%の第1のイオノマーおよび約20〜約30重量%の第2のイオノマーを含み得る。
【0032】
第1のイオノマーは、2個〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンの共重合単位と、3個〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含む、第1の前駆体酸ポリマーのイオン性の中和された誘導体である。好ましくは、前駆体酸コポリマーは、前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%、または約20〜約25重量%の共重合カルボン酸を含む。共重合α−オレフィンの量は、共重合カルボン酸および他のコモノマー(含まれる場合)の量を、前駆体酸コポリマー中のそれらのコモノマーの重量百分率の合計が100重量%となるように補完する。
【0033】
第1の前駆体酸コポリマーは、ASTM法D1238に準拠して190℃のポリマー溶融温度にて2.16kg荷重下で測定される場合に、約70〜約1000g/10分、または約100〜約500g/10分、または約150〜約400g/10分、または約200〜約350g/10分の溶融流量(MFR)を有し得る。
【0034】
さらに、第1の前駆体酸コポリマーのカルボキシレート基が約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつその対イオンがナトリウムカチオンから実質的になる場合、ナトリウムイオノマーが生成される。このナトリウムイオノマーは、MettlerまたはTAにより製造されたDSC装置(例えば、Universal V3.9Aモデル)を使用して、ASTM法D3418に準拠して示差走査熱分析(DSC)により測定される場合に、検出不可能なまたは約3j/g未満もしくは約2j/g未満の凍結エンタルピーを有する。用語「検出不可能な」は、この文脈で使用される場合、DSC曲線に何ら識別可能な変曲を生じない凍結エンタルピーを指す。また、ピーク高さが非常に低く、半分の高さでのピーク幅が相対的に広いことがあり、そのため、DSCトレースからベースラインが差し引かれた場合に小さな積分面積を有する幅広いピークが検出不可能または認識不可能なことがある。一般的に、ASTM D3418に従う場合、0.2j/gを下回る凍結エンタルピーは、検出不可能である。
【0035】
ブレンド組成物中の第2のイオノマーは、2個〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンの共重合単位と、約18〜約30重量%、または約20〜約25重量%、または約21〜約24重量%の、3個〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含む第2の前駆体酸コポリマーの、イオン性の中和された誘導体である。第2の前駆体酸コポリマーのα−オレフィンまたはα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、独立して、第1の前駆体酸コポリマーのα−オレフィンまたはα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と同じかまたは異なってもよい。同様に、第2の前駆体酸コポリマーのα−オレフィンの共重合単位またはα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位の量は、独立して、第1の前駆体酸コポリマーのα−オレフィンの共重合単位またはα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位の量と同じかまたは異なってもよい。また、第2の前駆体酸コポリマーは、ASTM法D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、約60g/10分以下、または約45g/10分以下、または約30g/10分以下、または約25g/10分以下の範囲内にあり得る溶融流量(MFR)を有する。
【0036】
ブレンド組成物において使用される第2のイオノマーを得るために、第2の前駆体酸コポリマーは、第2の前駆体酸コポリマーのカルボン酸基の水素原子の約10%〜約35%、または約15%〜約30%がカチオン、好ましくは金属カチオンにより置換されているイオノマーをもたらすように、1種以上のカチオン含有塩基で中和され得る。すなわち、この酸基は、非中和の第2の前駆体酸コポリマーについて算出または測定される場合の第2の前駆体酸コポリマーの総カルボン酸含有量に基づき、約10%〜約35%、または約15%〜約30%のレベルまで中和される。このようにして得られた第2のイオノマーは、ASTM法D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、約10g/10分以下、または約5g/10分以下、または約3g/10分以下のMFRを有する。しかしながら、当業者は、ブレンド中の2つのイオノマーの中和レベルは、そのイオノマーブレンド中の酸および塩基の総当量数により決定される共有される中和レベルに経時的に平衡するということを承知している。第2のイオノマーは、イオノマーブレンドの中和レベルで、同中和レベルでの第1のイオノマーのMFRと異なるMFRを有する。
【0037】
第1および第2の前駆体酸コポリマー中に含まれる好適なα−オレフィンコモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなど、およびそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、α−オレフィンはエチレンである。
【0038】
第1および第2の前駆体酸コポリマーにおける使用に好適なα,β−エチレン性不飽和カルボン酸コモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、モノメチルマレイン酸、およびそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのうちの2種以上の組み合わせから選択される。
【0039】
第1および第2の前駆体酸コポリマーの各々は、独立して、他のコモノマー(例えば、2個〜10個の炭素原子もしくは3個〜8個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸、またはその誘導体)の共重合単位をさらに含み得る。この場合もまた、他のコモノマーの存否、その他のコモノマーの正体、およびその他のコモノマーの量は、第1および第2の前駆体酸コポリマーについて、同じかまたは異なってもよく、独立して選択される。好適な酸誘導体としては、酸無水物、アミド、およびエステルが挙げられる。一部の好適な前駆体酸コポリマーは、不飽和カルボン酸のエステルをさらに含む。不飽和カルボン酸の好適なエステルの例としては、2008年10月31日に出願された米国仮特許出願第61/110,302号明細書および2008年11月25日に出願された米国仮特許出願第61/117,645号明細書(代理人整理番号PP0019)に示されているエステルが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいコモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、酢酸ビニル、およびそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。1つの好ましいイオノマーブレンドにおいて、第1または第2の前駆体酸コポリマーは、他のコモノマーを組み込んでいない。
【0040】
本明細書に記載されるイオノマー組成物において有用なイオノマーを得るために、前駆体酸コポリマーは、前駆体酸コポリマー中のカルボン酸基が反応してカルボキシレート基を形成するように塩基で中和される。好ましくは、前駆体酸コポリマーは、非中和の前駆体酸コポリマーについて算出または測定される場合の前駆体酸コポリマーの総カルボン酸含有量に基づき、約20%〜約90%、または約30%〜約90%、または約35%〜約90%、または約40%〜約90%、または約40%〜約70%、または約43%〜約60%のレベルまで中和される。
【0041】
任意の安定なカチオンおよび2種以上の安定なカチオンの任意の組み合わせが、第1および第2のイオノマー中のカルボキシレート基に対する対イオンとして好適であると考えられる。例えば、二価および一価のカチオン(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および一部の遷移金属のカチオン)が使用され得る。1つの好ましいイオノマーブレンドにおいて、二価イオン(例えば、亜鉛カチオン)が使用される。別の好ましいイオノマーブレンドにおいて、一価カチオン(例えば、ナトリウムカチオン)が使用される。さらに別の好ましいイオノマーブレンドにおいて、第1または第2のイオノマーを得るために使用されるイオン含有塩基は、ナトリウムイオン含有塩基である。
【0042】
第1および第2の前駆体酸コポリマーは、上記で引用された米国仮特許出願第61/110,302号明細書および米国仮特許出願第61/117,645号明細書に詳細に記載される方法によって合成され得る。概して、本明細書に記載される第1および第2のイオノマーを得るために、重合反応の間、反応器内容物は、実質的に反応器の全体にわたって単一の相が存在することになるような条件下で維持されるべきである。これは、米国特許第5,028,674号明細書に記載されるように、反応器温度を調節することにより、または反応器圧力を調節することにより、または共溶媒の添加により、またはこれらの技術の任意の組み合わせにより達成され得る。第1の前駆体酸コポリマーについての好ましい例は、十分に単一相域内にある条件下で合成される。慣用の手段が、実質的に反応器の全体にわたって単一の相が維持されているか否かを決定するために用いられ得る。例えば、Haschらは、「High−Pressure Phase Behavior of Mixtures of Poly(Ethylene−co−Methyl Acrylate) with Low−Molecular Weight Hydrocarbons」,Journal of Polymer Science:Part B:Polymer Physics,Vol.30,1365−1373(1992)において、単一相状態と多相状態との間の境界の決定に使用され得る曇り点測定について記載している。
【0043】
ブレンド組成物において使用される第1および第2のイオノマーを得るために、第1および第2の前駆体酸コポリマーの各々は、任意の慣用の手順(例えば、米国特許第3,404,134号明細書および米国特許第6,518,365号明細書に記載される手順)により中和され得る。イオノマーブレンドは、第1のイオノマーおよび第2のイオノマーを組み合わせる、またはブレンドすることにより得られ得る。イオノマーブレンドを得る他の方法は、当業者には明らかである。例えば、第1の前駆体酸コポリマーおよび第2の前駆体酸コポリマーは、所望のレベルへの中和の前にブレンドされ得る。代替例において、第1および第2の前駆体酸コポリマーから誘導された他のイオノマーがブレンドされ得、または一方のイオノマーおよび一方の前駆体酸コポリマーがブレンドされ得、そしてこの中間ブレンドの中和レベルは、イオノマーブレンドに所望されるレベルへ上方または下方に調節され得る。
【0044】
イオノマーブレンドは、扱いにくい生成物、すなわち溶融物の状態で加工し得ない生成物をもたらさない、0.01%と100.00%の間の任意のレベルまで中和され得る。好ましくは、イオノマーブレンドは、10%〜90%、15%〜90%、10%〜70%、15%〜70%、10%〜60%、または15%〜60%のレベルまで中和される。イオノマーブレンドの溶融流量は、そのブレンドの中和レベルでの第1および第2のイオノマーの溶融流量により規定される範囲内にあると予想される。
【0045】
本明細書に記載されるイオノマーブレンド組成物は、当該技術分野において公知の任意の好適な添加剤をさらに含有し得る。そのような添加剤としては、可塑剤、加工助剤、流れ向上性添加剤(flow enhancing additive)、流れ低下性添加剤(flow reducing additive)(例えば、有機過酸化物)、滑剤、顔料、染料、蛍光増白剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、成核剤、粘着防止剤(例えば、シリカ)、熱安定剤、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、UV吸収剤、UV安定剤、分散剤、界面活性剤、キレート化剤、カップリング剤、接着剤、プライマー、強化添加物(例えば、ガラス繊維)、充填剤など、および2種以上の慣用の添加剤の混合物または組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加剤は、例えば、Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,5th Edition,John Wiley & Sons(New Jersey,2004)に記載されている。
【0046】
これらの慣用の成分は、それらが組成物の基本的かつ新規な特徴を損なわず、組成物の性能、または組成物から調製される物品の性能に著しく悪影響を与えない限り、概して0.01〜15重量%、好ましくは0.01〜10重量%の量でその組成物中に含まれ得る。これに関し、そうした添加剤の重量百分率は、本明細書に規定される熱可塑性組成物の総重量百分率中に含まれない。典型的に、多くのそうした添加剤は、イオノマー組成物の総重量に基づき0.01〜5重量%で含まれ得る。
【0047】
組成物へのそうした慣用の成分の任意選択による組み込みは、任意の公知の方法により実施され得る。この組み込みは、例えば、ドライブレンディングにより、または異なる成分の混合物を押出すことにより、またはマスターバッチ技術によるなどして実施され得る。この場合もまた、Kirk−Othmer Encyclopediaを参照されたい。重要な添加剤は、熱安定剤、UV吸収剤およびヒンダードアミン光安定剤の3種である。これらの添加剤は、2008年12月31に出願された米国仮特許出願第61/141,940号明細書(代理人整理番号PP0055)に詳細に記載されている。
【0048】
さらに、本明細書に記載されるイオノマーブレンド組成物を含む物品が提供される。上記で引用された米国仮特許出願第61/110,302号明細書および米国仮特許出願第61/117,645号明細書に記載されるように、ブレンド組成物において使用される第1のイオノマーを使用して、改善された光学特性を有する物品(例えば、フィルムもしくはシートまたは成形品)を形成し得る。驚くことに、この改善された光学特性は、その物品を得た際の冷却速度の影響を受けないということが見出された。しかしながら、第1の前駆体酸コポリマーは相対的に高いMFR(約70〜約1000g/10分)を有するため、第1のイオノマーの靱性は、最終用途によっては不十分であり得る。第1のイオノマーを、相対的により低いMFR(約60g/10分以下)を有する第2の前駆体酸コポリマーから誘導される第2のイオノマーとブレンドすることにより、イオノマーブレンド組成物は、第1のイオノマーと比較して改善されたレベルの靱性を有する。
【0049】
また、ポリマーブレンドの曇り度レベルは、多くの場合、そのブレンド中のどのポリマー成分の曇り度レベルよりも高い。したがって、本明細書に記載されるイオノマーブレンド組成物は、第1および第2のイオノマーの曇り度レベルより高い曇り度レベルを有すると予想される。しかしながら、さらに驚くことに、本明細書に記載されるイオノマーブレンドは、第2のイオノマーの曇り度レベルより低い曇り度レベルを有する。さらに、イオノマーブレンドは、第1または第2のイオノマーのいずれの曇り度レベルよりも低い曇り度レベルを示し得る。
【0050】
次に本明細書において提供される物品の説明に戻ると、本物品は、任意の形状または形態(例えば、フィルムもしくはシート、または成形品)であり得る。
【0051】
物品は、フィルムまたはシートであってもよく、任意の慣用の方法(例えば、浸漬被覆、溶液流延、積層、溶融押出、ブローンフィルム(blown film)、押出被覆、タンデム押出被覆)により、または当業者に公知の他の任意の手順により調製され得る。このフィルムまたはシートは、好ましくは溶融押出、溶融同時押出、溶融押出被覆、ブローンフィルムにより、またはタンデム溶融押出被覆法により形成される。
【0052】
あるいは、本明細書に記載されるイオノマーブレンド組成物を含む物品は、成形品であり、任意の慣用の成形法(例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形、吹込成形、射出吹込成形、射出延伸吹込成形、押出吹込成形など)により調製され得る。物品はまた、例えば圧縮成形により形成されたコアが射出成形によってオーバーモールドされる場合のように、これらの方法のうちの2つ以上の組み合わせによっても形成され得る。
【0053】
これらの加工方法についての情報は、例えばKirk Othmer Encyclopedia、the Modern Plastics Encyclopedia,McGraw−Hill(New York,1995)、またはWiley Encyclopedia of Packaging Technology,2d edition,A.L.Brody and K.S.Marsh,Eds.,Wiley−Interscience(Hoboken,1997)などの参考図書において見出され得る。
【0054】
別の代替において、本明細書に記載されるイオノマーブレンド組成物を含む物品は、少なくとも約1mmの最小厚さ(すなわち、物品の最小寸法での厚さ)を有する射出成形品である。好ましくは、射出成形品は、約1mm〜100mm、または2mm〜100mm、または3〜約100mm、または約3〜約50mm、または約5〜約35mmの厚さを有し得る。
【0055】
さらに別の代替において、本物品は、多層構造の形態の射出成型品(例えば、オーバーモールド成形品(over−molded article))であり、その多層構造の少なくとも1層は、上記のイオノマー組成物を含むかまたは上記のイオノマー組成物から実質的になり、その層は、少なくとも約1mmの最小厚さを有する。好ましくは、多層物品のその少なくとも1層は、約1mm〜100mm、または2mm〜100mm、または3〜約100mm、または約3〜約50mm、または約5〜約35mmの厚さを有する。
【0056】
さらに別の代替において、本物品は、シート、容器(例えば、ボトルまたはボウル)、キャップもしくはストッパー(例えば、容器用のもの)、トレー、医療用デバイスもしくは器具(例えば、自動またはポータブル細動除去器ユニット)、ハンドル、ノブ、押ボタン、装飾用品、パネル、コンソールボックス、または履物部材(例えば、ヒールカウンター(heel counter)、先心、またはソール)の形態の射出成形品である。
【0057】
さらに別の代替において、本物品は、さらなる造形工程における使用のための、射出成形された中間物品である。例えば、この物品は、容器(例えば、化粧品容器)を形成するための吹込成形工程における使用に適したプレフォームまたはパリソンであり得る。この射出成形中間物品は、多層構造(例えば、の多層構造)の形態であり得、したがって、多層壁構造を有する容器をもたらし得る。
【0058】
射出成形は、周知の成形法である。本明細書に記載される物品が射出成形品の形態である場合、その物品は、任意の好適な射出成形法により製造され得る。好適な射出成形法としては、例えば、同時射出成形およびオーバーモールド成形が挙げられる。これらの方法は、ツーショット(two−shot)またはマルチショット(multi−shot)成形法と呼ばれることもある。
【0059】
射出成形品がオーバーモールド成形法により製造される場合、イオノマー組成物は、支持材料、オーバーモールド材料、または両方として使用され得る。特定の物品において、オーバーモールド成形法が使用される場合、本明細書に記載されるイオノマー組成物は、ガラス、プラスチックまたは金属の容器上にオーバーモールドされ得る。また、イオノマー組成物は、他の任意の物品(例えば、家庭用品、医療用デバイスもしくは器具、電子デバイス、自動車部品、建築物、スポーツ用品など)の上にオーバーモールドされて、ソフトな触感のかつ/または保護的なオーバーコーティングを形成し得る。オーバーモールド材料が本明細書に記載されるイオノマー組成物を含む場合、イオノマーのメルトインデックスは、ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、好ましくは、0.75から約35g/10分までである。
【0060】
吹込成形の一形態(例えば、射出吹込成形、射出延伸吹込成形および押出吹込成形など)を組み込んだ加工方法において、および本イオノマー組成物を含む支持体または単層物品において、イオノマー組成物は、好ましくは、亜鉛カチオンを有するイオノマーを含む。しかしながら、オーバーモールド成形材料がイオノマー組成物を含む場合は、イオノマーは任意の好適なカチオンを含み得る。同様に好ましくは、前駆体酸コポリマーは、ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、好ましくは200〜500g/10分のメルトインデックスを有する。また、イオノマーは、ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、好ましくは約0.1〜約2.0g/10分または約0.1〜約35g/10分のメルトインデックスを有する。より具体的には、支持体がイオノマーを含む場合、イオノマーは、好ましくは約0.5〜約4g/10分のメルトインデックスを有する。しかしながら、オーバーモールド成形材料がイオノマーを含む場合は、イオノマーは、好ましくは0.1g/10分から、または0.75g/10分から、または4g/10分から、または5g/10分から、約35g/10分までのメルトインデックスを有する。
【0061】
イオノマーブレンド組成物は、約120℃〜約250℃、または約130℃〜約210℃の溶融温度で成形され得る。概して、約69〜約110MPaの圧力による低〜中程度の充填速度(fill rate)が使用され得る。金型温度は、約5℃〜約50℃、好ましくは5℃〜20℃、より好ましくは5℃〜15℃の範囲内にあり得る。当業者であれば、特定の種類の物品を製造するために必要とされる適切な成形条件を、イオノマーブレンドの組成および使用されるべき方法の種類に基づき決定し得る。
【0062】
以下の実施例は、さらに詳細に本発明を説明するために提供される。これらの実施例は、本発明を実施するために現在企図されている好ましい態様を示すものであり、本発明を例示することが意図され、本発明を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0063】
実施例E1〜E3および比較例CE1およびCE2:
以下の実施例において、2種のイオノマー樹脂(ION AおよびION B)およびそれらのブレンドでポリマーシートを形成し、今度はそれを、積層品の形成に使用した。
【0064】
具体的には、ION Aは、21.7重量%のメタクリル酸の共重合単位を含むエチレンおよびメタクリル酸のコポリマーであり、ナトリウムイオン含有塩基で26%中和されており、1.8g/10分(ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合)のMFRを有していた。中和前のION Aの前駆体エチレンメタクリル酸コポリマーのMFRは、23g/10分(190℃および2.16kg)であった。ION Bは、21.7重量%のメタクリル酸の共重合単位を含むエチレンおよびメタクリル酸のコポリマーであり、ナトリウムイオン含有塩基で53%中和されており、2.5g/10分(190℃および2.16kg)のMFRを有していた。中和前のION Bの前駆体エチレンメタクリル酸コポリマーのMFRは、350g/10分(190℃および2.16kg)であった。
【0065】
ION AおよびION Bの2種のイオノマー樹脂の各々の調製において、前駆体酸コポリマーを、断熱連続攪拌オートクレーブにおいて、以下を除き、米国特許第5,028,674号明細書の実施例1に記載される手順に実質的に従ってフリーラジカル重合により生成した:(1)エチレンとメタクリル酸の比率および開始剤の流量を制御することにより、反応器条件を、約200℃〜約260℃の温度、および170と240MPaの間の圧力で維持した;(2)プロパンテロゲンを反応器に供給しなかった;(3)反応器中のメタノールの総濃度を、エチレン、メタクリル酸、メタノールおよび開始剤溶液の総供給量に基づき、約2〜5mol%で維持した;(4)系を安定した状態で維持し、反応器を通って流れる材料の滞留時間を約5秒〜2分とした。また、合成されることになる個々の酸コポリマーに応じ、2つの異なるフリーラジカル開始剤、すなわちtert−ブチルペルアセテートまたはtert−ブチルペルオクトエート(peroctoate)のうちの一方を使用した。tert−ブチルペルアセテートが開始剤である場合(ION Bのための前駆体酸コポリマーの調製などの場合)は、それを、50%の濃度で無臭ミネラルスピリット中の溶液として利用した。tert−ブチルペルオクトエートが開始剤である場合(ION Aのための前駆体酸コポリマーの調製などの場合)は、それを、無臭ミネラルスピリット中90%の濃度で混合物として利用した。イオノマーを、溶融温度を200℃〜270℃に設定した高剪断溶融混練条件下の一軸スクリュー押出機において、または米国特許第6,518,365号明細書の実施例1に記載された一般的方法を用い、エチレンとメタクリル酸との前駆体コポリマーを水酸化ナトリウム溶液で部分的に中和することにより得た。
【0066】
さらに、イオノマーまたはイオノマーブレンドのそれぞれを、表1に示された温度プロファイルに基づき25mm直径Killion押出機に供給し、その後押出しにより流延してポリマーシートにした。スクリュー速度を最大押出量に調節することによりポリマー押出量を制御し、押出機により公称ギャップ2mmの150mmスロットダイに供給し、10℃と15℃の間の温度で維持され1〜2rpmで回転する200mm直径の磨きクロム冷却ロール上にキャストシートを供給した。次いで、公称厚さ0.76mm(30ミル)のシートを取り外し、300×300mm平方に切り分けた。
【0067】
これらのイオノマーシートを、ガラス積層品を形成するための中間シートとして使用した。焼きなましガラスシート(100×100×3mm)を、脱イオン水中リン酸三ナトリウム(5g/L)の溶液で50℃にて5分間洗浄し、次いで、脱イオン水で十分にすすぎ、乾燥させた。各イオノマーの3枚のシート(厚さ約0.76mm)を1つに積み重ね、2片のガラスシートの間に挟んで、総厚さ約180ミル(2.28mm)の中間層を有するプレ積層集成体(pre−lamination assembly)を形成した。イオノマーシートの水分レベルを、周囲条件(約35%RH)へのそれらの曝露を最小限に抑えることにより0.06重量%未満に維持した。このプレ積層集成体を、数か所にポリエステルテープを貼り付けることにより固定して、各層とガラスシートとの相対的な配置を維持した。ナイロン布ストリップを集成体の周囲に巻いて、層内からの空気の除去を促進した。
【0068】
プレ積層集成体を、ナイロン減圧バッグの中に入れ、封止した。真空ポンプに接続し、バッグに詰めた集成体内の空気を、バッグ内の気圧を50絶対ミリバール未満まで下げることにより実質的に除去した。次いで、バッグに詰めた集成体を、対流エアオーブンで120℃まで加熱し、この条件で30分間維持した。冷却ファンを使用して集成体を周囲温度近くまで冷却した後、真空源との接続を断ち、バッグを取り除いて、十分に予備プレスされたガラスおよび中間層の集成体を得た。周囲を気密封止したにもかかわらず、集成体のいくつかの領域は、これらの領域における気泡の存在により示されるように、完全には密着していなかった。
【0069】
この予備プレス集成体をエアオートクレーブに入れ、温度および圧力を15分かけて周囲から135℃および13.8バールまで上昇させた。この集成体をこの条件で30分間維持した後、結果として生じた積層品を、周囲圧力で室温まで急いで冷却(すなわち2.5℃/分の冷却速度A)した。このように得られた積層品を、Haze−gard Plus透過率計(BYK−Gardner,(Columbia,MD))を用い、ASTM D1003に準拠して、曇り度について試験した。この測定後、同じ積層品をオーブンで120℃まで加熱し、そのような温度で2〜3時間維持し、その後、それを室温までゆっくり冷却(すなわち0.1℃/分の冷却速度B)し、次いで、曇り度について再度試験した。曇り度の結果は、下の表2に報告されている。
【0070】
表1

【0071】
表2

* ION AのMFRとION BのMFRの重み付け比としてブレンドのMFRを算出した。
【0072】
実施例E4〜E7および比較例CE3
実施例E4〜E7および比較例CE3の各々において、500×500mmの寸法を有する弾道抵抗性(ballistic resistant)積層品を、表3に列記される積層成分層(component laminate layer)を用いて調製した。まず、各積層品の成分層を積み重ねて、プレ積層集成体(pre−lamination assembly)を形成した。このプレ積層集成体は、実施例E4〜E7の各々においてはPETフィルム層または比較例CE3においてはポリカーボネートシート層を覆うガラスカバーシートも備えた。次いで、このプレ積層集成体を減圧バッグに入れ、これを封止した。真空を適用して、この減圧バッグから空気を除去し、集成体層間に含まれる全ての空気を除去した。次いで、この集成体を、エアオートクレーブ中200psig(14.3バール)の圧力下で、135℃でのオートクレーブ処理に60分間供した。オートクレーブにさらなる空気を全く入れずに、オートクレーブ内部の空気を冷却した。20分の冷却後(または空気温度が約50℃未満になったとき)、過剰圧力を抜き、積層集成体の入った減圧バッグをオートクレーブから取り出した。次いで、減圧バッグの真空状態を解除した。結果として生じた積層品を減圧バッグから取り出し、ガラスカバーシートを最終積層品から取り外した。
【0073】
この積層品を、欧州規格EN 1063、レベルBR4に準拠した弾道試験(ballistic testing)に供した。試験条件を以下に列記する:
−武器の種類:拳銃;
−口径:0.44 Remington Magnum;
−弾丸の種類:完全銅合金被甲、平頭、軟芯(鉛);
−弾丸の質量:15.6+0.1g;
−試験距離:5.00+0.5m;
−弾丸速度:440+10m/秒;
−打撃数:3;および
−打撃間隔:120+10mm。
【0074】
弾道試験の結果を表3に示す。
【0075】
表3

【0076】
(表3続き)

表3の注釈:
1. 焼きなましガラス;
2. E.I. du Pont de Nemours and Company (Wilmington, Delaware) から市販されているButacite(登録商標) ポリ(ビニルブチラール) シート;
3. 実施例E3において使用されたイオノマー樹脂;
4. 一方の面に米国特許第7,189,457号明細書に記載されるようなポリ(アリルアミン) ベースのプライマーが下塗され、他方の面に欧州特許第157030号明細書に記載されるような耐摩耗性ハードコートが塗布された、DuPont Teijin Filmsから市販されているMelinex(登録商標)フィルム (厚さ0.18 mm)。
【0077】
本発明の好ましい実施形態のうちの幾つかを上記で説明し、具体的に例示してきたが、本発明をそのような実施形態に限定することを意図するものではない。以下の特許請求の範囲に示される本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の変更が加えられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオノマーブレンドを含む組成物であって、前記イオノマーブレンドは、前記イオノマーブレンドの総重量に基づき、約5〜約95重量%の第1のイオノマーおよび約95〜約5重量%の第2のイオノマーを含み、前記イオノマーブレンドは、前記イオノマーブレンド中の中和されているカルボン酸基および中和されていないカルボン酸基の総数に基づき10%〜90%の中和レベルを有し:
(A)前記第1のイオノマーは、第1の前駆体酸コポリマーの中和生成物であり;そしてi)前記第1の前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素原子を有する第1のα−オレフィンの共重合単位を含み、さらに、前記第1の前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有する第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位を含み;ii)前記第1の前駆体酸コポリマーは、約70〜約1000g/10分の溶融流量を有し;かつiii)前記第1の前駆体酸コポリマーは、約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつナトリウムカチオンから実質的になる対イオンを含む場合、ナトリウムイオノマーを生成し;そして前記ナトリウムイオノマーは、約0.7〜約25g/10分の溶融流量、およびASTM D3418に準拠して示差走査熱分析(DSC)により測定される場合に検出不可能な、または約3.0j/g未満の凍結エンタルピーを有し;
(B)前記第2のイオノマーは、第2の前駆体酸コポリマーの中和生成物であり、i)前記第2の前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素原子を有する第2のα−オレフィンの共重合単位;および前記第2の前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約18〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有する第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位を含み;前記第2のα−オレフィンは、前記第1のα−オレフィンと同じかまたは異なってもよく;前記第2のα−オレフィンの量は、前記第1のα−オレフィンの量と同じかまたは異なってもよく;前記第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と同じかまたは異なってもよく;かつ前記第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量は、前記第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量と同じかまたは異なってもよく;ii)前記第2の前駆体酸コポリマーは、約60g/10分以下の溶融流量を有し;かつiii)前記第2のイオノマーは、前記イオノマーブレンドの前記中和レベルで約10g/10分以下の溶融流量を有し;そして前記イオノマーブレンドの前記中和レベルでの前記第2のイオノマーの溶融流量は、同中和レベルでの前記第1のイオノマーの溶融流量と異なり;そして
(C)前記溶融流量は、ASTM法D1238に準拠して、190℃のポリマー溶融温度にて2.16kg荷重下で測定される
組成物。
【請求項2】
前記第1の前駆体酸コポリマーが約150〜約400g/10分の溶融流量を有し、前記第2の前駆体酸コポリマーが約30g/10分以下の溶融流量を有するか;または前記第1の前駆体酸コポリマーが、約20〜約25重量%の前記第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位を含み;かつ前記第2の前駆体酸コポリマーが、約20〜約25重量%の前記第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位を含み;かつ前記第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸が、前記第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と同じかもしくは異なってもよく;かつ前記第2のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量が、前記第1のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量と同じかもしくは異なってもよいか;または前記イオノマーブレンドの前記中和レベルが約15%〜約70%であり、前記イオノマーブレンドがカルボキシレート基およびカチオンを含み、かつ前記カチオンがナトリウムカチオンから実質的になるか;または前記イオノマーブレンドの前記中和レベルで、前記第1のイオノマーが約0.7〜約10g/10分の溶融流量を有し、かつ前記第2のイオノマーが約5g/10分以下の溶融流量を有するか;または前記イオノマーブレンドが、約60〜約95重量%の前記第1のイオノマーおよび約5〜約40重量%の前記第2のイオノマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の組成物を含む、または請求項1もしくは請求項2に記載の組成物から製造された物品。
【請求項4】
前記物品が、浸漬被覆、溶液流延、積層、溶融押出、ブローンフィルム、押出被覆、およびタンデム押出被覆からなる群より選択される方法によって調製されたフィルムもしくはシートである;または前記物品が、圧縮成形、射出成形、押出成形、および吹込成形からなる群より選択される方法によって調製された成形品である、請求項3に記載の物品。
【請求項5】
前記物品が、少なくとも約1mmの最小厚さを有する射出成形品である;または前記物品が、請求項1に記載の組成物から実質的になる層を少なくとも1層有する多層構造を有する射出成形品であり、前記少なくとも1層が、少なくとも約1mmの最小厚さを有する、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記物品が、シート、容器、キャップもしくはストッパー、トレー、医療用デバイスもしくは器具、ハンドル、ノブ、押ボタン、装飾用品、パネル、コンソールボックス、または履物部材である、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記物品が、同時射出成形;オーバーモールド成形;射出吹込成形;射出延伸吹込成形、および押出吹込成形からなる群より選択される方法によって製造される、請求項5に記載の物品。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物から実質的になり、約1〜約100mmの厚さを有する、射出成形により調製された物品。

【公表番号】特表2012−514101(P2012−514101A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544433(P2011−544433)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/062940
【国際公開番号】WO2010/077429
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】