説明

高速微小粒子を捕獲する装置、衛星、及び方法

【課題】スペースデブリの限界粒径破片などの高速微小粒子を効率的に回収または破砕する。
【解決手段】スペースデブリなどの高速微小粒子(6)を捕獲する装置は、第1の捕獲用面材である前面側捕獲用面材(3)と、少なくとも1枚の更なる捕獲用面材である背面側捕獲用面材(4)とを備え、前記捕獲用面材(3、4)は、互いに略々平行に配設され、且つ、互いに法線方向に離隔して配設されている。この装置は衛星として構成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスペースデブリ(宇宙ゴミ)などの高速微小粒子を捕獲する装置に関する。本発明は更に、かかる装置を備えた衛星、及び、スペースデブリなどの高速微小粒子を捕獲する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間の利用が始まってから長年月が経ち、益々その利用度が増大しているために、これまでに数多くのスペースデブリが発生しており、その発生したスペースデブリによって衛星や有人宇宙ミッションが危険に曝されている。最大の危険要因は、粒径が1mm〜数cmの限界粒径破片と呼ばれているスペースデブリである。限界粒径破片は、衛星を貫通し、また宇宙ステーションの装甲板をも貫通するだけの強力な貫通能力を持ち得るものでありながら、粒径が小さいため地上からの検出が不可能であり、そのため衛星や宇宙ステーションに回避飛行を行わせることができない。限界粒径破片は、個数に関しては、それより寸法の大きな破片よりはるかに多く存在している。
【0003】
The Economist誌のウェブサイトに掲載されている記事(http://www.economist.com/ node/15814409?story_id=15814409)に、Lappas氏の提案が紹介されている。同氏の提案は、故障した衛星をソーラーセイルを用いて処分するというものであり、即ち、ソーラーセイルに入射する輻射を利用して衛星の進路を大気圏の方へ導いて、衛星を大気圏へ再突入させ、それによって、故障した衛星をできるだけ早く跡形もなく消滅させるというものである。ただし、このプロセスが完了するまでには、数年にも亘る長期間を要することがあり、その間、そのソーラーセイルは、夫々に軌道上を飛行している顕微鏡的な破片を捕獲する役割を担うことになる。しかるに、その場合に、極めて薄い材料で製作されているソーラーセイルは、限界粒径破片が衝突したときに破断して二次的な微小粒子を放出することがあり、放出された微小粒子はそれ自体が限界粒径破片として軌道上を周回し始めるという不都合がある。更に加えて、この提案によれば、ソーラーセイルを利用したスペースデブリの回収が行われるのはミッションの終了後であり、従って、この提案の方法では、スペースデブリの除去を即時に実行することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、スペースデブリの限界粒径破片などの高速微小粒子を効率的に回収または破砕することのできる装置を提供することにある。また更なる目的は、かかる装置を装備した衛星を提供することにある。また第3の目的は、かかる衛星を用いて高速微小粒子を捕獲する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の目的のうち、装置に関する目的は、請求項1に記載した特徴により達成される。
【0006】
本発明に係るスペースデブリなどの高速微小粒子を捕獲する装置は、第1の捕獲用面材である前面側捕獲用面材と、少なくとも1枚の更なる捕獲用面材である背面側捕獲用面材とを備え、前記捕獲用面材は、互いに略々平行に配設され、且つ、互いに法線方向に離隔して配設されている。
【0007】
互いに離隔して互いに平行に配設された2枚の捕獲用面材によって構成された本発明に係る装置の二層構造によれば、第1の捕獲用面材である前面側捕獲用面材に衝突した微小粒子は、その衝突領域を穿孔して貫通するものの、その際に破砕されて多数の破片粒子になる。それら破片粒子は背面側捕獲用面材へ向かって飛散する円錐状破片群を形成する。2枚の捕獲用面材を離隔させてあるため、それら破片粒子は背面側捕獲用面材に衝突する時点では大面積の領域に分散しており、そのため背面側捕獲用面材は、高速微小粒子から発生したそれら破片粒子を捕獲することができる。
【0008】
いわゆる超限界粒径の微小粒子や、特に低速の微小粒子などは、第1の捕獲用面材に衝突した際の減速及び/または破片化が不十分であることがあり、そのため背面側捕獲用面材までも穿孔貫通することがあり得るが、ただしそのような場合であっても、その微小粒子は背面側捕獲用面材に衝突したときに、大きく減速され、或いは、高い確率をもって更に破片化される。そのため、捕獲されずに貫通して飛散した破片があったとしても、そのような破片は減速されることで大気圏へ再突入が促進されるため、そのような場合にも、その破片のスペースデブリとしての危険性は効果的に軽減されている。
【0009】
前記前面側捕獲用面材の製作材料は、前記背面側捕獲用面材の製作材料と比べて、より内部音速の大きな材料とすることが好ましい。「バンパー」とも呼ばれる前記前面側捕獲用面材をこのように構成することによって、前記前面側捕獲用面材を、非常に軽量でありながら、衝突する高速微小粒子を最適に破片化するものとすることができる。
【0010】
またその場合に、前記背面側捕獲用面材の製作材料は、セラミックで強化した繊維を含有する材料とすると有利である。セラミックで強化した繊維は、衝突する高速微小粒子を破片化する上で特に効果的に機能する。前記前面側捕獲用面材の厚さの大小は、衝突する高速微小粒子を破片化する性能にはさほどの影響を及ぼさない。ただし、前記前面側捕獲用面材は、衝突した高速微小粒子をそのまま穿孔貫通させるのではなく、その衝突に際して高速微小粒子を確実に破片化することができるだけの、十分な厚さを有するものとすべきである。
【0011】
前記背面側捕獲用面材の製作材料は、前記前面側捕獲用面材の製作材料と比べて、より弾性の大きな材料とすることが好ましい。「キャッチャー」とも呼ばれる前記背面側捕獲用面材は、高速微小粒子が前記前面側捕獲用面材に衝突することにより生成される破片を捕獲し得るものとすべきであり、そのためには、前記背面側捕獲用面材の製作材料を、前記前面側捕獲用面材の製作材料と比べて、より靱性の大きな材料とすることが好ましい。
【0012】
またその場合に、前記背面側捕獲用面材の製作材料を、アラミド繊維を含有する材料とすることが好ましく、その種の繊維の具体例としては、例えばケブラー(kevlar(登録商標))と呼ばれている繊維などがある。
【0013】
更に、前記背面側捕獲用面材の厚さは、前記前面側捕獲用面材の厚さと比べて、より大きな厚さとすると有利である。前記前面側捕獲用面材が破片化層として機能するのに対して、前記背面側捕獲用面材は捕獲層として機能するものであり、そのためには、前記背面側捕獲用面材を、前記前面側捕獲用面材と比べて、より厚く、より弾性の大きなものとするのがよい。
【0014】
更なる捕獲用面材を、破片化層及び/または捕獲層として備えるようにするのもよく、それによって前記装置の性能を更に強化することができる。ただし、最適化解析によって判明したところによれば、その更なる捕獲用面材を、中間捕獲用面材として装備した場合には、即ち、前記前面側捕獲用面材と前記背面側捕獲用面材との間に配設した場合には、質量の点で最適とはならず、なぜならば、前後の捕獲用面材の間の離隔距離を大きく取ることが、破片を広い領域に分散させる上で重要だからである。そのため、更なる捕獲用面材を付加するよりも、むしろ、その付加によって増大する分の質量を、前記背面側捕獲用面材の厚さ及び弾性を増大させるために振り向ける方が有意義である。また、そうすることによって、同一の質量で高速微小粒子の捕獲性能を格段に高めることができる。
【0015】
前記複数の捕獲用面材の各々を非剛性体で形成し、それら非剛性体の各々が、互いに離隔した第1の支持構成体の側面と第2の支持構成体の側面とによって保持されているようにすると特に有利である。この構成とすることで、前記装置を宇宙空間へ輸送することが容易になる。
【0016】
またその場合に、前記第1及び第2の支持構成体の各々を1本ずつの巻芯体で構成し、それら2本の巻芯体のうちの少なくとも一方を、前記複数の捕獲用面材の展張平面に対して平行に延在する軸心を中心として回転可能であるようにし、その巻芯体の回転によって前記複数の捕獲用面材が前記巻芯体に巻取られまた前記巻芯体から繰出されるようにすると有利である。これによって、前記複数の捕獲用面材を巻付けてコンパクトにした状態で前記装置を積載して宇宙空間へ輸送し、その輸送後に宇宙空間において前記捕獲用面材を繰出して展張することが可能になる。
【0017】
この構成とする場合には更に、前記2本の巻芯体の各々が前記複数の捕獲用面材の展張平面に対して平行に延在する夫々の軸心を中心として回転可能であるようにし、それら巻芯体の回転によって前記複数の捕獲用面材が前記2本の巻芯体に巻取られまた前記2本の巻芯体から繰出されるようにし、そして、前記2本の巻芯体の夫々の前記軸心が好ましくは互いに平行に延在しているようにすると、特に有利である。この構成とすることで、打ち上げ時には、前記複数の捕獲用面材を巻物形の古文書のごとき形態で前記2本の巻芯体に巻付けて、省スペース状態として前記装置を宇宙空間へ輸送し、そして宇宙空間において前記捕獲用面材を繰出して展張することが可能になる。
【0018】
前記複数の目的のうち、衛星に関する目的は、請求項10に記載したように本発明に係る高速微小粒子を捕獲する装置を少なくとも1つ備えた衛星により達成される。尚、本発明に係る装置を衛星に備えるに際しては、本発明に係る装置を衛星に搭載するようにしてもよく、或いは、本発明に係る装置そのものを衛星として構成するようにしてもよい。
【0019】
これに関して、前記衛星のナビゲーション装置、通信装置、及び制御用コンピュータが前記支持構成体の中に装備されているようにし、また、前記支持構成体が前記衛星の姿勢制御のための制御装置を備えているようにすると有利である。この実施の形態によれば、実質的に電力供給及び制御を担当している諸装置が、前記支持構成体の中に、またより具体的には前記2本の巻芯体の一方もしくは両方の中に装備され、それによって、装置全体が1つの衛星として構成される。
【0020】
前記支持構成体が電力供給のための太陽電池を備えているようにし、前記捕獲用面材が繰出された状態にあるときに該太陽電池が日射にさらされるようにしておくとよい。そうすることで、打ち上げ時に前記衛星に搭載しておく電源装置を、前記装置が前記捕獲用面材の繰出し及び展張を行うのに必要な僅かな電力を供給するだけの小型の蓄電装置とすることができる。前記捕獲用面材が前記巻芯体から繰出されたならば、好ましくは前記衛星の姿勢とは無関係に方向を定めることのできる前記太陽電池が日射にさらされることにより、前記衛星を作動させるために必要な電力を供給することが可能になる。
【0021】
本発明に係る前記衛星が、巻芯体で構成された支持構成体を少なくとも1つ備えているようにし、前記巻芯体が少なくとも1つの駆動装置を備えているようにし、該駆動装置が該巻芯体をその長手軸心を中心として回転させることができるように構成されているようにすると特に有利である。該駆動装置は、前記巻芯体からの前記捕獲用面材を繰出すプロセスを実行し得るものである。
【0022】
またその場合に、前記駆動装置が、少なくとも1つの磁気トルカ、及び/または、少なくとも1つの推力ノズルにより構成されているようにすると有利である。特に、前記2本の巻芯体の各々に1つずつ、合計2つの磁気トルカを装備して、それら2つの磁気トルカが互いに斥力を及ぼし合うようにするならば、それによって、前記2本の巻芯体に巻付けられている前記捕獲用面材を繰出すプロセスを簡明な形態で実行することが可能となる。
【0023】
前記複数の目的のうち、方法に関する部分の目的は、請求項15に記載した方法により達成される。
【0024】
本発明に従って構成された衛星を用いてスペースデブリなどの高速微小粒子を捕獲する本発明に係る方法においては、前記衛星を飛行経路に沿って飛行させ、該飛行経路は、好ましくは捕獲しようとする前記高速微小粒子の軌道に一致する経路であり、その飛行方向は、好ましくは前記高速微小粒子の飛行方向に対して逆方向であり、その飛行に際して、前記飛行経路の延在方向が前記前面側捕獲用面材の法線方向となるように前記衛星の姿勢を定めるようにする。この方法によれば、前記装置の質量を可及的に低減しつつ、高速微小粒子を捕獲する性能を可及的に高めることができ、これが可能であるのは、前記装置の前記2つの支持構成体の間に前記捕獲用面材が展張され、その展張された前記捕獲用面材の延展方向が、捕獲することになる高速微小粒子の飛行方向に対して直交する方向となるからである。また、そのためには、前記衛星の飛行方向が、捕獲することになるスペースデブリ微小粒子の飛行方向に対して平行で、その飛行方向に対して逆方向となるようにすべきである。
【0025】
以上のことは、重力により前記衛星の運動が安定化されることによって達成されるものである。前記衛星の合計質量のうちの大部分は、前記支持構成体ないし前記巻芯体で構成される2つの端部構成体の質量によるものである。それら2つの端部構成体は、例えば織物層などで構成される前記捕獲用面材により互いに連結されているため、それら2つの端部構成体の角速度は互いに等しくなっている。そのため、軌道の中心から遠い側に位置する方の端部構成体の質量にとっては、その角速度は僅かに過大であり、遠心力が重力より大きくなっている。従って、その端部構成体の質量は、軌道の中心から離れる方向へ引っ張られている。一方、軌道の中心に近い側に位置する方の端部構成体の質量にとっては、その逆になり、その端部構成体の質量は下方へ、即ち地球の方向へ引っ張られている。これによって、それら2つの端部構成体は、前記捕獲用面材に対して余計な作用を及ぼすことなく、前記捕獲用面材を展張しており、且つ、前記捕獲用面材の延展方向を適切に維持している。尚、そのためには、前記捕獲用面材の長さ寸法を、即ち、それら2つの端部構成体の間を延展する前記捕獲用面材の延展寸法Lを、前記捕獲用面材の幅寸法Wよりかなり大きな寸法に定めるのがよい。更に、前記捕獲用面材の幅寸法Wは、打ち上げロケットのペイロード収容部カバーの大きさによっても制限される。そのため、それらの寸法の実用値としては、W=4m、及び、L=40mとするのが適当であることが判明している。
【0026】
特許請求の範囲、明細書、及び図面に使用している参照符号は、本発明の理解を容易にすることを目的としたものであって、保護範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る装置の模式的斜視図である。
【図2】(A)及び(B)は、高速微小粒子が衝突したときの2枚の捕獲用面材の作用を説明するための図である。
【0028】
図1に模式図で示したのは、本発明に係る、高速微小粒子を捕獲する装置である。この装置は、第1の巻芯体1と、第2の巻芯体2と、前面側捕獲用面材3と、背面側捕獲用面材4とを備えている。2枚の捕獲用面材3、4は、非剛体で構成されるものであり、より具体的には、例えば、織布から成る帯体や、フィルムから成る帯体などで構成される。背面側捕獲用面材4は、セラミックで強化した繊維を含有する材料とすることができ、またはアラミド繊維を含有する材料とすることができる。2本の巻芯体1、2は、後に詳述する機構によって、互いに逆方向に付勢されるようにしてあり、それによって捕獲用面材3、4が、それら2本の巻芯体1、2の間に展張されるようにしてある。それゆえ2本の巻芯体1、2は、その各々が、この装置の支持構成体を構成するものとなっている。
【0029】
2枚の捕獲用面材3、4は、その各々が、両側縁に1本ずつの引張ロープ30、32、40、42を備えており、それら引張ロープの各々は、その一端が第1の巻芯体1に止着され、その他端が第2の巻芯体2に止着されている。これによって、第1の捕獲用面材3は対応する2本の引張ロープ30、32の間に横方向に延展し、また、第2の捕獲用面材4も対応する2本の引張ロープ40、42の間に横方向に延展している。更に、各々の引張ロープ30、32、40、42は、それらの両端が捕獲用面材3、4の上縁及び下縁を超えて延出しており、そのため、この装置が図1に示した展張状態にあるときには、巻芯体1、2は捕獲用面材3、4に覆われることなく露出している。
【0030】
各々の巻芯体1、2は、その中央に中央円筒部10、20を備えており、この中央円筒部は閉じた殻体の形状に形成されている。また、各々の巻芯体1、2は、その両端に1つずつの端部円板部12、14、22、24を備えている。そして、中央円筒部10、20と端部円板部12、14、22、24との間を、担持板部16、18、26、28が延在しており、それら担持板部16、18、26、28には太陽電池17、19、27、29が装備されている。担持板部16、18、26、28は、それらの両側面が、中央円筒部10、20と端部円板部12、14、22、24との間を延展しており、太陽電池はそのような両側面のうちの片面に装備してもよく、両面に装備してもよい。
【0031】
端部円板部12、14、22、24は円板形の端部形成部であり、それら端部形成部はその外周に捕獲用面材3、4の引張ロープ30、32、40、42を巻付けることができる巻取リールとして構成されている。中央円筒部10、20は、その外径寸法を端部円板部12、14、22、24の外径寸法と略々同一にしてあり、これによって、各々の捕獲用面材3、4を構成している織布やフィルムから成る帯体を巻芯体1、2の外周に巻付ける際に、それら巻芯体1、2の端部円板部12、14、22、24及び中央円筒部10、20が、それら帯体を案内及び支持する機能を提供するようにしてある。
【0032】
図1に示した具体例では装置それ自体が衛星として構成されており、その衛星の様々なサブシステムが中央円筒部10、20の中に装備されている。ここでいう衛星の様々なサブシステムとは、衛星の種々の作動機構であって、例えば、ナビゲーション装置、通信装置、制御用コンピュータ、それに蓄電装置などを含むものである。更に加えて、2本の巻芯体の夫々の中央円筒部10、20の各々に1つずつの磁気トルカが装備されており、それら磁気トルカは、2本の巻芯体1、2の各々の回転軸心X1、X2に対して平行に配設されている。それら磁気トルカは各々が磁界を発生するものであり、第1の磁気トルカが発生する磁界と、第2の磁気トルカが発生する磁界とが、互いに逆向きとなるようにすることで、それら2つの磁界の相互作用によってそれら2つの磁気トルカが、またひいては2本の巻芯体1、2が、図中に2つの矢印A、Bで示したように、各々の回転軸心X1、X2を中心として互いに逆の回転方向に回転するようにしてある。そして、2本の巻芯体1、2が矢印A、Bで示したように回転することによって、それら巻芯体1、2の周囲に2枚の捕獲用面材3、4が巻取られる。ただし、2つの磁気トルカは、2本の巻芯体1、2を矢印A、Bとは逆の回転方向に回転させるように作動させることも可能であり、それによって、巻芯体1、2から捕獲用面材3、4が繰出される。
【0033】
更に、この装置は、推力ノズルとして構成された制御ノズル50、52、54、56を備えている。それら制御ノズル50、52、54、56は、この装置の少なくとも一方の側縁の端部円板部12、22に装備され、また、各々の端部円板部12、22の周縁部に2つずつの制御ノズルが互いに逆向きに配設されるものであり、それら制御ノズル50、52、54、56によって衛星の姿勢制御を実行できるようにしている。一方の端部円板部12に配設された2つの制御ノズル50、52は、この端部円板部12の外周の接線方向に、互いに逆向きに取付けられており、同様に、他方の端部円板部22に配設された2つの制御ノズル54、56も、この端部円板部22の外周の接線方向に、互いに逆向きに取付けられている。更に加えて、それら制御ノズル50、52、54、56は、それらが取付けられている2本の巻芯体1、2を、矢印A、Bで示した回転方向に、即ち互いに逆の回転方向に回転駆動することができるように配設されており、そのように回転駆動することによって、巻芯体1、2の周囲に捕獲用面材3、4を巻取ることができる。尚、図1に示した具体例では、制御ノズルは各々の巻芯体1、2の一方の端部にだけ装備されているが、それら巻芯体1、2の他方の端部にも、同様の形態で制御ノズルを装備するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0034】
図2Aは、図1に示した本発明に係る装置の捕獲用面材3、4部分を矢印IIの方向から見た断面を示した側面図であり、高速微小粒子6が前面側捕獲用面材3に衝突した瞬間を図示したものである。同図から明らかなように、微小粒子6は衝突領域において捕獲用面材3を穿孔貫通しており、また、捕獲用面材3に衝突した際に破砕されている。この衝突によって微小粒子6が持っていた運動エネルギは減少するが、それでもなお、この衝突により生成された微小粒子6の破片60は、背面側捕獲用面材4へ向かって飛散し得るだけの十分な運動エネルギを持っている。
【0035】
微小粒子6が前面側捕獲用面材3に衝突して破砕され、多数の破片60になることにより、前面側捕獲用面材3の背後に図2Bに示したような円錐状破片群62が生成される。それら破片60の速度は衝突前の微小粒子6の速度と比べて減速されており、しかも個々の破片60の質量は衝突前の微小粒子6の質量と比べて格段に小さいことから、個々の破片60が持っている運動エネルギは、前面側捕獲用面材3に衝突する前に微小粒子6が持っていた運動エネルギよりはるかに小さい。更に、円錐状破片群62が生成されるため、多数の破片60が第2の捕獲用面材(背面側捕獲用面材)4に衝突するときの衝突領域の面積は、微小粒子6が第1の捕獲用面材(前面側捕獲用面材)3に衝突したときの衝突領域の面積より拡大している。そのため、個々の破片60が第2の捕獲用面材4に及ぼす衝撃は、微小粒子6が第1の捕獲用面材3に及ぼした衝突作用よりはるかに小さい。また、第2の捕獲用面材4の製作材料は、第1の捕獲用面材3の製作材料と比べて、より弾性の大きな材料としてあり、更に、第2の捕獲用面材4の厚さは、第1の捕獲用面材3の厚さと比べて、より大きな厚さとしてあるため、個々の破片60は、第2の捕獲用面材4を穿孔通過することなく、第2の捕獲用面材4によって捕獲される。
【0036】
更に、多数の破片60の集合体である円錐状破片群62の直径が、それら破片60が背面側捕獲用面材4に衝突するまでの間に確実に十分に拡大しているようにするには、2枚の捕獲用面材3、4の間の距離Dを約50cmとすると効果的であることが確認されている。またそうする場合には、端部円板部12、14、22、34の直径を約50cmとすればよい。この50cmという寸法は、輸送用ロケットに確保しなければならないペイロード容積をできるだけ小さくするという条件と、2枚の捕獲用面材3、4の間の距離をできるだけ大きくするという条件との兼ね合いを考慮した、妥当な寸法である。
【0037】
本発明に係る装置の防護性能(防護性能は捕獲可能な微小粒子の最大粒径で表される)にとっては、2枚の捕獲用面材3、4の間の距離Dの二乗値が重要な決定要因となる。衛星として構成された本発明に係る装置の1つの設計例では、その装置の幅寸法をW=4mとし、2本の巻芯体1、2の軸心間距離であるその装置の長さ寸法をL=40mとし、更に、2枚の捕獲用面材3、4の間の距離をD=0.5mとしている。
【0038】
衛星として構成された本発明に係る装置を用いて地球近傍軌道上のスペースデブリ微小粒子を回収する場合には、質量に対する表面積の比が大きいことから、地球近傍軌道上になお存在している残留大気による比較的強力な減速作用を受けることになる。この減速作用を受けることによって、衛星として構成された本発明に係る装置は、確実にスペースデブリ・ガイドラインに従って機能するものとなっており、即ち、その衛星は、適当な期間の経過後には確実に大気中に再突入することになる。
【0039】
この衛星は、以下の2通りの利用法で利用することができる。
a)予防的利用法:
予めこの衛星を打ち上げて、高速微小粒子(スペースデブリ)に衝突される確率の大きな軌道に投入しておく利用法である。この利用法は特に、太陽同期軌道をはじめとする低高度地球周回軌道などに適用されるものである。
b)対処的利用法:
軌道上で大規模な破片化が発生したならば、それに応じてこの衛星を打ち上げるようにする利用法である。大規模な破片化が発生するのは、例えば衛星の爆発が発生したとき、それに、衛星どうしの衝突が発生したときなどである。このような大規模な破片化により生成された多数の微小粒子は、その衛星の爆発ないし衝突の発生直後の数日間は、その衛星の軌道上の2箇所のノード領域に反復して集合する。それら2つのノード領域のうちの一方のノード領域は、その爆発ないし衝突が発生した領域そのものであり、また他方のノード領域は、地球を中心として一方のノード領域の丁度反対側に位置するノード領域である。それゆえこの対処的利用法では、本発明に係る衛星を、いずれか一方のノード領域の近傍を通過する確率ができるだけ大きくなるような周回軌道に投入する。この目的に適した周回軌道としては、例えばモルニヤ軌道と同等の離心軌道などがある。
【0040】
本発明に係る装置によれば、また特に同装置を独立した衛星として構成した場合には、質量に対する表面積の比が大きいために、限界粒径のスペースデブリ微小粒子の回収が、ないしは破砕及び減速が、非常に効率的に行われる。更に、具体的な構成例として図面に示した上述の衛星は、製造が容易であり、製造コスト的にも優れたものである。更に、質量に対する表面積の比が大きいことは、衛星を自動的に大気に再突入させることにも役立っている。
【0041】
以上に述べた実施の形態は、本発明の中核概念を総括的に説明することのみを目的として提示したものであって、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。本発明に係る装置は、保護範囲の枠内において、上述の実施の形態とは異なった様々な形態で実施することも可能である。特に、本発明に係る装置は、特許請求の範囲に記載した様々な特徴を任意に組合せて採用した装置とすることができる。
【0042】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中の参照符号は、本発明の理解を容易にすることを目的としたものであって、保護範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0043】
1 第1の巻芯体(第1の支持構成体)
2 第2の巻芯体(第2の支持構成体)
3 前面側捕獲用面材
4 背面側捕獲用面材
6 高速微小粒子
10、20 中央円筒部
12、14、22、24 端部円板部
16、18、26、28 担持板部
17、19、27、29 太陽電池
30、32、40、42 引張ロープ
50、52、54、56 制御ノズル
60 破片
62 円錐状破片群
X1、X2 回転軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペースデブリなどの高速微小粒子(6)を捕獲する装置において、
−第1の捕獲用面材である前面側捕獲用面材(3)と、
−少なくとも1枚の更なる捕獲用面材である背面側捕獲用面材(4)とを備え、
−前記捕獲用面材(3、4)は、互いに略々平行に配設され、且つ、互いに法線方向に離隔して配設されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記前面側捕獲用面材(3)の製作材料は、前記背面側捕獲用面材(4)の製作材料と比べて、より内部音速の大きな材料であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記背面側捕獲用面材(4)の製作材料は、セラミックで強化した繊維を含有する材料であることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記背面側捕獲用面材(4)の製作材料は、前記前面側捕獲用面材(3)の製作材料と比べて、より弾性の大きな材料であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の装置。
【請求項5】
前記背面側捕獲用面材(4)の製作材料は、アラミド繊維を含有する材料であることを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記背面側捕獲用面材(4)の厚さは、前記前面側捕獲用面材(3)の厚さと比べて、より大きな厚さであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の装置。
【請求項7】
前記複数の捕獲用面材(3、4)の各々が非剛性体で形成されており、それら非剛性体の各々が、互いに離隔した第1の支持構成体(1)と第2の支持構成体(2)との対向面によって保持されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の装置。
【請求項8】
前記第1及び第2の支持構成体(1、2)の各々が1本ずつの巻芯体で構成され、それら2本の巻芯体のうちの少なくとも一方は、前記複数の捕獲用面材(3、4)の展張平面に対して平行に延在する軸心(X1、X2)を中心として回転可能であり、その巻芯体の回転によって、前記複数の捕獲用面材(3、4)が前記巻芯体に巻取られまた前記巻芯体から繰出されることを特徴とする請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記2本の巻芯体の各々は、前記複数の捕獲用面材(3、4)の展張平面に対して平行に延在する夫々の軸心(X1、X2)を中心として回転可能であり、それら巻芯体の回転によって、前記複数の捕獲用面材(3、4)が前記2本の巻芯体に巻取られまた前記2本の巻芯体から繰出され、前記2本の巻芯体の夫々の前記軸心(X1、X2)は好ましくは互いに平行に延在していることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項記載の高速微小粒子を捕獲する装置を少なくとも1つ備えた衛星。
【請求項11】
請求項1乃至6の何れか1項記載の高速微小粒子を捕獲する装置を少なくとも1つ備えた衛星であって、前記衛星は、巻芯体で構成された支持構成体(1、2)を少なくとも1つ備えており、該巻芯体は少なくとも1つの駆動装置を備えており、該駆動装置は該巻芯体をその長手軸心(X1、X2)を中心として回転させることができるように構成されていることを特徴とする衛星。
【請求項12】
前記駆動装置は、少なくとも1つの磁気トルカ、及び/または、少なくとも1つの推力ノズル(50、52、54、56)により構成されていることを特徴とする請求項11記載の衛星。
【請求項13】
前記衛星のナビゲーション装置、通信装置、及び制御用コンピュータが、前記支持構成体(1、2)の中に装備されており、前記支持構成体(1、2)は、前記衛星の姿勢制御のための制御装置を備えていることを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項記載の高速微小粒子を捕獲する装置を少なくとも1つ備えた、または請求項11若しくは12記載の衛星。
【請求項14】
前記支持構成体(1、2)は電力供給のための太陽電池(17、19、27、29)を備えており、前記捕獲用面材(3、4)が繰出された状態にあるときに該太陽電池が日射にさらされるようにしてあることを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項記載の高速微小粒子を捕獲する装置を少なくとも1つ備えた、または請求項11〜13の何れか1項記載の衛星。
【請求項15】
請求項10乃至14の何れか1項記載の衛星を用いてスペースデブリなどの高速微小粒子(6)を捕獲する方法において、
前記衛星を飛行経路に沿って飛行させ、該飛行経路は、好ましくは前記微小粒子(6)の軌道に一致する経路であり、その飛行方向は、好ましくは前記微小粒子(6)の飛行方向に対して逆方向であり、その飛行に際して、前記飛行経路の延在方向が前記前面側捕獲用面材(3)の法線方向となるように前記衛星の姿勢を定める、
ことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−6588(P2012−6588A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138126(P2011−138126)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(500466717)アストリウム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (34)