説明

高速DNAポリメラーゼを用いた高速リアルタイムPCR

【課題】伸長性の優れたDNAポリメラーゼを高速PCRに用いることにより、より短時間での遺伝子検出を可能とする。
【解決手段】10℃/秒以上、好ましくは15℃/秒以上の温度変化で実行される高速リアルタイムPCRにおいて、100塩基/秒以上のDNA合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを使用することを特徴とする高速リアルタイムPCRによる遺伝子の増幅方法。特にKOD DNAポリメラーゼを用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の研究やその応用に重要な核酸増幅技術、特にリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に関する。具体的には、遺伝子発現解析や塩基多型解析等に際して有用な高速リアルタイムPCRによる遺伝子の増幅方法ならびにそのための組成物に関する。さらに本発明は、研究のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼを用いた鋳型核酸からのDNAの合成は、分子生物学の分野において、シーケンシング法や核酸増幅法等、様々な方法に利用・応用されている。PCR法による遺伝子増幅方法は、標的核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、一対のプライマー及びDNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、および伸長からなるサイクルを25〜40サイクル繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる標的核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法として広く用いられている(非特許文献1)。
【0003】
PCRの普及により、様々な周辺技術が開発されている。例えば、「ホットスタートPCR」は、高温になって初めて活性を有するようにDNAポリメラーゼを修飾することにより、試薬調製時の低温での非特異反応を抑制する技術である。また、「リアルタイムPCR」は、蛍光色素を用いて、PCRの増幅産物をリアルタイムで検出する技術である。
【0004】
中でも、リアルタイムPCRは反応後に電気泳動することなく、簡便に核酸の微量検出や定量を行えることが有用な特長の一つであり、研究分野のみならず、遺伝子診断、臨床診断といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等において、広く利用されている。PCRを用いた増幅は鋳型となる核酸のコピー数が多いと短時間で一定の強度に達し、少ないと長い時間を要する。そのため、蛍光を用いて増幅の経時変化を測定できるリアルタイムPCRでは、一定強度まで達する増幅回数を濃度既知の核酸と濃度未知の核酸で比較することで、鋳型核酸の定量が可能となる。
【0005】
リアルタイムPCRの蛍光の検出方法には、二本鎖DNAに結合する蛍光色素を使用するインターカレーター法と、遺伝子産物に特異的に結合する蛍光プローブを使用するハイブリダイゼーション法がある。
前者の一例としてSYBR(登録商標)Greenと呼ばれる蛍光色素が広く使用されている。SYBR(登録商標)Greenは、二本鎖DNAに結合する蛍光色素はあらゆる配列に対して利用することができるため汎用性が高いが、プライマーの二量化などの非特異的な増幅産物にも結合し、不正確な測定値を得る可能性もある。
逆に、TaqManプローブ及びFRETプローブに代表されるハイブリダイゼーション法は、遺伝子産物によって、それぞれ特異的な配列をもつ蛍光プローブを作成する必要があるが、任意の配列を特異的に定量できる利点がある。
最近では、伸長したときのみ蛍光を発するプライマーを用いた、インターカレーター法とハイブリダイゼーション法の間をとったような技術であるLUXプラーマー法も開発され、安価で感度のよい検出が可能となっている。
【0006】
現在、遺伝子診断などの多サンプルの測定を必要とする産業用途では反応時間の短縮が強く求められている。反応時間を短縮するため、様々なPCR機器が改良ならびに開発されてきている。ロシュ・ダイアグノスティックス社のライトサイクラー(登録商標)は市販されているサーマルサイクラーの中では最速であり、空気を使って温度制御をする方法をとっている。今までのブロックサイクラーに比べ、格段に温度変化にかかる時間が短くなり、通常2時間程度かかる30〜40サイクルのPCR時間を30分まで短縮している。
【0007】
このように温度変化が高速化されると、PCRの反応時間はもはや機器の温度変化ではなく、主にPCRの反応自体に制約されるようになっている。現在、通常のPCRを行う酵素としては、真性細菌由来のPolI型酵素であるTaqやTth DNAポリメラーゼ、アーキア(超高熱始原菌)由来のα型酵素であるKODやPfu DNAポリメラーゼなどが使用され、また、これら2種類を混合した酵素もよく使用されている。しかし、高速PCRを行う際には伸長速度の差が反応時間に大きく影響するため、TaqやPfu DNAポリメラーゼよりも、伸長性に優れる酵素を使用することが必要になっている。実際、伸長性が優れるKOD DNAポリメラーゼを用いた高速PCRの検討がなされており、TaqやPfu DNAポリメラーゼを用いるよりも反応時間を短縮できている(特許文献1)。
【0008】
しかし、リアルタイムPCRで使われる酵素としては、Hot Start法など、様々な応用研究が行われているTaq DNAポリメラーゼを使用することが多い。
例外的に、逆転写反応を同時に行えるTth DNAポリメラーゼなどのリアルタイムPCR試薬も存在するが、Taq DNAポリメラーゼ以外の酵素を使った例は少ない(特許文献2)。
リアルタイムPCRでは比較的短いDNAを増幅するため、ブロックサイクラーの温度変化にはTaq DNAポリメラーゼで十分、対応できていた。しかし、高速で温度変化を行えるリアルタイムPCR機器の開発も進んできており、高速リアルタイムPCRに適したPCR酵素の検討も必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−0328709号
【特許文献2】米国特許第6569627号
【特許文献3】特許第3487394号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Science Vol.230,p1350−1354(1985年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、リアルタイムPCRは研究分野のみならず、遺伝子診断、臨床診断といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等において、広く利用されている。多サンプルの処理が必要なこれらの産業用途では反応時間の短縮が強く望まれている。そのような中、伸長性の優れたDNAポリメラーゼの高速PCRへの検討が行われている。
しかし、温度変化を高速で行うリアルタイム機器の開発が遅れたこと、また、リアルタイムPCRでは増幅するDNAが比較的短くブロックサイクラーの温度変化の条件ではTaq DNAポリメラーゼで十分、機能できていたことがあり、高速PCRでの検討に比べ、高速リアルタイムPCRでそれらのDNAポリメラーゼを使った検討はほとんどなされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、伸長速度の高いDNAポリメラーゼ、具体的には100塩基/秒以上、好ましくは130塩基/秒以上のデオキシリボ核酸(DNA)合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを使って、リアルタイムPCRの反応時間の短縮を目指した。
熱サイクルの時間を限界まで短くした条件において、一般にリアルタイムPCRに用いられているTaq DNAポリメラーゼでは鋳型DNAを短い時間で完全に伸長できず、増幅曲線がなだらかになり、PCR効率が落ちる。しかし、短い時間で鋳型DNAを完全に増幅できる、特に100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを用いて鋭意検討を行った結果、Taq DNAポリメラーゼと比べ、短い反応時間できれいな増幅曲線が得られ、かつ優れたPCR効率および定量性を示すことが確認でき、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のような構成からなる。
項1.10℃/秒以上の温度変化で実行される高速リアルタイムPCRにおいて、100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸(DNA)合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを使用することを特徴とする高速リアルタイムPCRによる遺伝子の増幅方法。
項2.高速リアルタイムPCRが、20℃/秒以上の温度変化で実行されることを特徴とする項1に記載の遺伝子の増幅方法。
項3.前記耐熱性DNAポリメラーゼがファミリーBに属するものであることを特徴とする項1または2に記載の遺伝子の増幅方法。
項4.前記耐熱性DNAポリメラーゼが、以下の(a)もしくは(b)いずれかであることを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の遺伝子の増幅方法。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼ活性を有する蛋白質
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠損、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつDNAポリメラーゼ活性を有する蛋白質
項5.前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列における141、143、210および311番目のアミノ酸の少なくとも1つを他のアミノ酸に置換されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子の増幅方法。
項6.前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列と70%以上のホモロジーを有することを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の遺伝子の増幅方法。
項7.前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上のホモロジーを有することを特徴とする項6に記載の遺伝子の増幅方法。
項8.前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列と90%以上のホモロジーを有することを特徴とする項6に記載の遺伝子の増幅方法。
項9.100塩基/秒以上のDNA合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを含むことを特徴とする高速リアルタイムPCR用組成物。
項10.前記耐熱性DNAポリメラーゼがファミリーBに属するものであることを特徴とする項9に記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
項11.前記耐熱性DNAポリメラーゼがKOD DNAポリメラーゼであることを特徴とする項9または10に記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
項12.前記耐熱性DNAポリメラーゼがKOD DNAポリメラーゼの変異体であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
項13.耐熱性DNAポリメラーゼおよび蛍光物質が含有される反応用緩衝液を含んでなることを特徴とする項9〜12のいずれかに記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高速リアルタイムPCRにおいて、反応時間をさらに短縮することを可能とした。研究分野での応用を始め、遺伝子診断などの法医学分野、あるいは食品や環境中の微生物検査等において、広く利用することができる。特に多サンプルの処理が必要な産業用途での利用が大いに期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1において、高速リアルタイムPCRを行った結果を示す図である。
【図2】実施例2において、高速リアルタイムPCRを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における、高速リアルタイムPCRによる遺伝子の増幅方法とは、10℃/秒以上の温度変化で実行されることを特徴とするリアルタイムPCRにおいて、100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸(DNA)合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを使用することを特徴とするものである。
【0017】
上記の要件を満たしている耐熱性DNAポリメラーゼとして、現在市場にて購入できるものは、KOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、PrimeSTAR(登録商標)DNAポリメラーゼ(TaKaRa)などが挙げられる。
本発明においては、100塩基/秒以上のDNA合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼであればよく、上記のDNAポリメラーゼに特に限定されるものではないが、なかでもKOD DNAポリメラーゼが特に好ましい。
【0018】
本発明で使用するDNAポリメラーゼは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するものが好ましい。また、それらのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠損、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を有する変異体であってもよく、特に限定されない。
該変異体は、公知の技術方法による特定部位への変異導入により改変されたものであってもよい。該変異体としては、例えば、配列番号1記載のアミノ酸配列における141、143、210および311番目のアミノ酸のうちの少なくとも1つを他のアミノ酸に置換されたものが挙げられる。
その一例としては、配列番号1の141番目のアスパラギン酸をアラニンに置換した酵素、配列番号1の143番目のグルタミン酸をアラニンに置換した酵素、配列番号1の141番目のアスパラギン酸と143番目のグルタミン酸をアラニンに置換した酵素、配列番号1の210番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換した酵素、配列番号1の311番目のチロシンをフェニルアラニンに置換した酵素などがあげられる。
なかでも、配列番号1における210番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換されたものがより具体的な好適例として示されるが、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明で使用するDNAポリメラーゼは、配列番号1に記載のアミノ酸配列と70%以上のホモロジーを有するものであることが好ましい。また、より好ましくは80%以上のホモロジーを有するもの、さらに好ましくは90%以上のホモロジーを有するものが挙げられる。
ここでのホモロジーの計算には、GENETYX、DNAsisなどのアミノ酸配列の相同性を調べる遺伝情報処理ソフトが用いられるが、特に限定されるものではない。
【0020】
本発明における高速リアルタイムPCRとは、10℃/秒以上、好ましくは15℃/秒以上、更に好ましくは20℃/秒以上の速度の温度変化で実行されるリアルタイムPCRであることを特徴とする。
本発明において用いることができるPCR機器としては、ロシュ・ダイアグノスティックス社のライトサイクラー(登録商標)、アプライドバイオシステムズ社のApplied Biosystems 7900HT(登録商標)、バイラッドラボラトリー社のiCycler iQ(登録商標)及び、TaKaRa社のSmart Cycler System(登録商標)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明における高速リアルタイムPCRとは、変性、アニール、及び伸長の時間を限りなく短くしたものであり、増幅反応を30分以内、好ましくは25分以内、更に好ましくは20分以内で終わらせることを特徴とする。
【0022】
本発明における高速リアルタイムPCRは、蛍光物質を用いて増幅産物を検出することを特徴とする。
検出方法としてはSYBR(登録商標)Greenなどの二本鎖DNAに結合する蛍光色素を添加するインターカレーター法や、TaqMan(登録商標)プローブ、FRETプローブ、Lionプローブ、及びサイクリングプローブなどを使用するハイブリダイゼーション法、蛍光プライマーを使用するLUXプライマー法などが挙げられるが、増幅産物をリアルタイムに検出できる方法であればよく、特に限定されない。
【0023】
本発明における高速リアルタイムPCR組成物とは、耐熱性DNAポリメラーゼ、鋳型となる核酸、1種以上のオリゴヌクレオチドプライマー、1種以上のデオキシヌクレオチド三リン酸又は、デオキシヌクレオチド三リン酸の誘導体、緩衝剤、及び塩よりなる群のうち少なくとも1つを含有することが好ましい。
ここで緩衝剤としては、例えば、トリス(TRIS)、トリシン(TRICINE)、ビス−トリシン(BIS−TRICINE)、へペス(HEPES)、モプス(MOPS)、テス(TES)、タプス(TAPS)、ピペス(PIPES)、及びキャプス(CAPS)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0024】
本発明における高速リアルタイムPCR組成物は、さらに必要により、耐熱性DNAポリメラーゼと反応用緩衝液を、各々別々のチューブに入れていてもよい。
本発明の高速リアルタイムPCR組成物は、さらに必要により、DNAポリメラーゼ用の反応バッファー、基質である4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs;dATP、dCTP、dTTPおよびdGTPの混合物)溶液などを含んでいてもよい。
【0025】
反応バッファーとしては、トリス−塩酸緩衝液、トリス−硫酸緩衝液、トリシン緩衝液などが挙げられる。濃度としては、10〜200mM程度が好ましく、20〜100mM程度がより好ましい。pHとしては、7.0〜9.5程度の範囲が好ましく、7.5〜9.0程度の範囲がより好ましい。
また、反応バッファー中には、1.0〜5mM、好ましくは1.5〜2.5mM程度の濃度でMg2+を含むことが好ましい。更には、KClを含んでいてもよい。
また、必要に応じて、界面活性剤を含んでいてもよい。
反応バッファーを含む構成である場合、5倍から20倍程度の濃度、好ましくは10倍程度の濃度に濃縮されたストック液として含まれることが好ましい。
【0026】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼとして、KOD(exo−)DNAポリメラーゼを用いた。
本発明において、デオキシリボ核酸合成速度とは単位時間当たりのDNAの合成数をいう。その測定法はDNAポリメラーゼの反応液(20mM Tris−HCl(pH7.5), 8mM塩化マグネシウム、7.5mM ジチオスレイトール、100 μg/ml BSA, 0.1mM dNTP, 0.2μCi [α−32P]dCTP)を、プライマーをアニーリングさせたM13mp181本鎖DNAと75℃で反応させる。反応停止は等量の反応停止液(50mM 水酸化ナトリウム、10mM EDTA, 5% フィコール、0.05% ブロモフェノールブルー) を加えることにより行う。上記反応にて合成されたDNAをアルカリアガロースゲル電気泳動にて分画した後、ゲルを乾燥させオートラジオグラフィーを行う。DNAサイズマーカーとしてはラベルしたλ/HindIIIを用いる。このマーカーのバンドを指標として合成されたDNAのサイズを測定することによって、デオキシリボ核酸合成速度を求める。
KOD(exo−)DNAポリメラーゼは、特許第3487394号公報(特許文献3)に記載されている、3’−5’エキソヌクアーゼ活性を改変前の酵素に比べて、5%以下にまで抑えたDNAポリメラーゼであり、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列における210番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換したものである。
【0028】
このKOD(exo−)DNAポリメラーゼを用いて高速リアルタイムPCRを行うことにより、従来リアルタイムPCRに使用されるTaq DNAポリメラーゼとの有意性を確認した。
具体的には、humanアクチンの188bpを標的とした増幅をライトサイクラー(登録商標)2.0(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて測定し、その増幅曲線およびPCR効率を比較した。
【0029】
PCRバッファーはKOD Dash(TOYOBO)添付のものを用い、原液 1/30000倍希釈 SYBR(登録商標)Green I、0.2mM dNTPs、188bpのDNA(アクチンの一部)を増幅するべく配列番号2及び3に記載の塩基配列からなるプライマー対0.2μMを使用した。
20μlの反応液中にホットスタート用の抗体(特許第3968606号公報)0.2μgを混合したKOD(exo−)DNAポリメラーゼ0.25Uを用い、鋳型にはHuman RNA 1μgをReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Kit(TOYOBO)100μlで逆転写してできた産物の1〜10倍希釈したものを使用した。
Taq DNAポリメラーゼの比較にはLightCycler(登録商標)DNA Master SYBR(登録商標)Green I(ロシュ)を使い、上記と同様のプライマー対、鋳型を用いた。PCRの反応は、以下の表1及び表2に示すような組成を用いて行った。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
温度変化を10℃/秒以上、好ましくは20℃/秒以上で行い、95℃、2分の前反応後、94℃,0秒−55℃,0秒−74℃,0分の反応を55サイクル繰り返すスケジュールで、リアルタイムPCRを行った。
その増幅曲線、及びCt値を図1及び表3に示した。従来汎用的に用いられている、Taqポリメラーゼのなだらかに上がっていく増幅曲線に対し、KOD(exo−)の方では、きれいなシグモイド型の増幅曲線が確認された。鋳型量とCt値との関係からも、KOD(exo−)を用いる方が、より高感度に精度も高い測定が可能であることが確認された。また、Ct値から算出されたslopeからKOD(exo−)の方がPCR効率にも優れることが明らかになった。ここでCt値はライトサイクラー(登録商標)2.0が自動で算出してきたCt値を用いた。
【0033】
【表3】

【実施例2】
【0034】
ターゲットDNAをさらに長くした高速リアルタイムPCRにおいて、KOD(exo−)DNAポリメラーゼと、従来リアルタイムPCRに使用されているTaq DNAポリメラーゼとの伸長速度の差を確認した。
具体的にはhumanグロビンの582bpを標的とした増幅を、ライトサイクラー(登録商標)2.0(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて測定し、その増幅曲線を比較した。
【0035】
PCRバッファーはKOD Dash(TOYOBO)添付のものを用い、原液 1/30000倍希釈 SYBR(登録商標)Green I、0.2mM dNTPs、582bp(アクチンの一部)のターゲットDNAを増幅するべく配列番号4及び5に記載の塩基配列からなるプライマー対0.2μMを使用した。
20μlの反応液中にホットスタート用の抗体(特許第3968606号公報に記載)0.4μgを混合したKOD(exo−)DNAポリメラーゼ0.5Uを用い、鋳型にはhuman Genomic DNA(Roche)50ng、5ng、500pg、および50pgをそれぞれ使用した。
Taq DNAポリメラーゼの比較にはLightCycler(登録商標) FastStart DNA MasterPLUS SYBR(登録商標)Green I(ロシュ)を使い、上記と同様のプライマー対、鋳型を用いた。PCRの反応は、以下の表4及び表5に示すような組成を用いて行った。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
温度変化を10℃/秒以上、好ましくは20℃/秒以上で行い、95℃、2分の前反応後、94℃,0秒−55℃,0秒−74℃,0分の反応を55サイクル繰り返すスケジュールで、リアルタイムPCRを行った。
比較のために用いたLightCycler(登録商標) FastStart DNA MasterPLUS SYBR(登録商標) Green Iでは、Taq DNAポリメラーゼがホットスタート用に化学修飾されている。そのため、比較のLightCycler FastStart DNA MasterPLUS SYBR Green IではPCRの前処理を10分行った。測定の結果を図2、表6に示した。
従来汎用されているTaq DNAポリメラーゼを用いると非特異的な増幅が起こり、鋳型の濃度に依存的な増幅が見られないところ、KOD(exo−)DNAポリメラーゼでは、鋳型の濃度に依存した増幅が確認された。本発明は、長鎖のターゲット遺伝子の増幅においても十分に適用できることが確認された。
【0039】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、リアルタイムPCRを用いた、従来報告されている方法よりも短時間での検出が可能になる。この高速リアルタイムPCRの実施方法は、分子生物学等における研究分野での応用を始め、遺伝子診断などの法医学分野、あるいは食品や環境中の微生物検査等において、広く利用することができる。特に、多サンプルの迅速な処理が必要な産業用途での利用が大いに期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10℃/秒以上の温度変化で実行される高速リアルタイムPCRにおいて、100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸(DNA)合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを使用することを特徴とする高速リアルタイムPCRによる遺伝子の増幅方法。
【請求項2】
高速リアルタイムPCRが、20℃/秒以上の温度変化で実行されることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子の増幅方法。
【請求項3】
前記耐熱性DNAポリメラーゼがファミリーBに属するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の遺伝子の増幅方法。
【請求項4】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが、以下の(a)もしくは(b)いずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子の増幅方法。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼ活性を有する蛋白質
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠損、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつDNAポリメラーゼ活性を有する蛋白質
【請求項5】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列における141、143、210および311番目のアミノ酸の少なくとも1つを他のアミノ酸に置換されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子の増幅方法。
【請求項6】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列と70%以上のホモロジーを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遺伝子の増幅方法。
【請求項7】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上のホモロジーを有することを特徴とする請求項6に記載の遺伝子の増幅方法。
【請求項8】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが配列番号1記載のアミノ酸配列と90%以上のホモロジーを有することを特徴とする請求項6に記載の遺伝子の増幅方法。
【請求項9】
100塩基/秒以上のDNA合成速度を有する耐熱性DNAポリメラーゼを含むことを特徴とする高速リアルタイムPCR用組成物。
【請求項10】
前記耐熱性DNAポリメラーゼがファミリーBに属するものであることを特徴とする請求項9に記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
【請求項11】
前記耐熱性DNAポリメラーゼがKOD DNAポリメラーゼであることを特徴とする請求項9または10に記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
【請求項12】
前記耐熱性DNAポリメラーゼがKOD DNAポリメラーゼの変異体であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高速リアルタイムPCR用組成物。
【請求項13】
耐熱性DNAポリメラーゼおよび蛍光物質が含有される反応用緩衝液を含んでなることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の高速リアルタイムPCR用組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate