説明

高電圧電子機器用ケーブル

【課題】細径で、かつ優れた耐電圧特性を有する高電圧電子機器用ケーブルを提供する。
【解決手段】線心部11外周に、内部半導電層14、高圧絶縁体15、外部半導電層16、遮蔽層17、およびシース18を順に備える高電圧電子機器用ケーブルであって、高圧絶縁体15が、次式で求められる温度依存性パラメータDが1.0以下である絶縁性組成物で構成されている。
=log R23℃−log R90℃
(但し、R23℃は23℃における体積抵抗率(Ω・cm)、R90℃は90℃における体積抵抗率(Ω・cm)である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用CT(computerized tomography)装置やレントゲン装置などの高電圧電子機器に用いられるケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用CT装置やレントゲン装置などの高電圧電子機器用として高電圧直流電圧が課電されるケーブルにおいては、(i)外径が細く軽量であること、(ii)可撓性が良好で移動・屈曲に耐えられること、(iii)静電容量が小さく、高電圧の繰り返し課電に追従できること、(iv)X線管球部の発熱に耐え得る耐熱性を有することなどが要求される。
【0003】
従来、かかる高電圧電子機器用ケーブル(例えば、レントゲンケーブル)としては、低圧線心の2条と裸導体の1〜2条とを撚り合わせ、この上に内部半導電層を設け、さらにこの上に、高圧絶縁体、外部半導電層、遮蔽層およびシースを順に設けてなるものが知られている。高圧絶縁体には、軽量で柔軟性があり、かつ電気特性が比較的良好なEPゴム(エチレンプロピレンゴム)をベースとした組成物が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、最近では、低誘電率(2.3程度)のEPゴム組成物が実用化され、これを高圧絶縁体の材料として用いて、より細径で静電容量の小さい高電圧電子機器用ケーブルが開発されてきている。
【0005】
しかしながら、これらの従来のEPゴム組成物は体積抵抗率の温度依存性が大きく、温度が上昇すると体積抵抗率が大きく低下するため、耐電圧特性が十分ではないという問題があった。すなわち、上記ケーブルにおいては、通電により導体温度が上昇すると、その近傍の高圧絶縁体の温度が上昇するが、高圧絶縁体には電気抵抗率の温度依存性の大きいEPゴム組成物が使用されているため、導体近傍の高圧絶縁体の体積抵抗率が低下する。その結果、外部半導電層と高圧絶縁体との界面付近に電界が集中し、絶縁破壊が生じやすくなる。この現象は交流電力ケーブルでも生ずるが、高電圧電子機器用ケーブルのような直流電力ケーブルの場合に特に大きな問題となる。そして、低誘電率のEPゴム組成物に使用により細径化を図ったケーブルでは、高圧絶縁体の厚さが薄いため、さらに大きな問題となる。このため、体積抵抗率の温度依存性の小さい絶縁材料が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−245866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、体積抵抗率の温度依存性が小さい絶縁材料を使用することにより、細径であっても優れた耐電圧特性を有する高電圧電子機器用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様である高電圧電子機器用ケーブルは、線心部外周に、内部半導電層、高圧絶縁体、外部半導電層、遮蔽層、およびシースを順に備える高電圧電子機器用ケーブルであって、前記高圧絶縁体が、次式で求められる温度依存性パラメータDが1.0以下である絶縁性組成物で構成されていることを特徴とする。
=log R23℃−log R90℃
(但し、R23℃は23℃における体積抵抗率(Ω・cm)、R90℃は90℃における体積抵抗率(Ω・cm)である。)
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、R23℃が1.0×1014Ω・cm以上1.0×1018Ω・cm以下であるものである。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、前記高圧絶縁体が、オレフィン系ポリマー100質量部に対し、比表面積が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカを0.5質量部以上10質量部以下含有する絶縁性組成物で構成されているものである。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、乾式シリカの平均一次粒径が、7nm以上20nm以下であるものである。
【0012】
本発明の第5の態様は、第3の態様または第4の態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、乾式シリカの4%水分散液のpHが、4以上4.5以下であるものである。
【0013】
本発明の第6の態様は、第3の態様乃至第5の態様のいずれかの態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、乾式シリカは、フュームドシリカであるものである。
【0014】
本発明の第7の態様は、第3の態様乃至第6の態様のいずれかの態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、オレフィン系ポリマーは、エチレンプロピレンゴムを含むものである。
【0015】
本発明の第8の態様は、第3の態様乃至第7の態様のいずれかの態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、オレフィン系ポリマーが架橋されているものである。
【0016】
本発明の第9の態様は、第1の態様乃至第8の態様のいずれかの態様である高電圧電子機器用ケーブルにおいて、外径が10mm以上70mm以下の細径高電圧電子機器用ケーブルであるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、細径であっても優れた耐電圧特性を有する高電圧電子機器用ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の高電圧電子機器用ケーブルの一実施形態を示す横断面図である。
【図2】本発明の高電圧電子機器用ケーブルの他の実施形態を示す横断面図である。
【図3】本発明の高電圧電子機器用ケーブルのさらに他の実施形態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る高電圧電子機器用ケーブルを示す横断面図である。
【0021】
図1において、11は、線心部を示しており、この線心部11は、低圧線心12の2条と、低圧線心12の外径と同径かもしくはそれより小径の高圧線心13の2条とを撚り合わせて構成されている。低圧線心12は、例えば直径0.35mmのすずめっき軟銅線を19本集合撚りしてなる断面積が1.8mmの導体12aと、この導体12a上に設けられた、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂からなる、例えば厚さが0.25mmの絶縁体12bとから構成される。また、高圧線心13は、例えば直径0.18mmのすずめっき軟銅線を50本集合撚りしてなる断面積が1.25mmの裸導体13aから構成される。裸導体13a上には、場合により、半導電性の被覆が設けられていてもよい。
【0022】
この線心部11の外周には、内部半導電層14、高圧絶縁体15および外部半導電層16が順に設けられている。内部半導電層14および外部半導電層16は、例えばナイロン基材、ポリエステル基材などからなる半導電性テープの巻き付け、および/または、半導電性エチレンプロピレンゴムなどの半導電性ゴム・プラスチックの押出被覆により形成されている。
【0023】
また、高圧絶縁体15は、オレフィン系ポリマー100質量部に対し、窒素ガス吸着法(BET法)による比表面積が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカを0.5〜10質量部含有する絶縁性組成物で構成されている。
【0024】
オレフィン系ポリマーとしては、エチレン・プロピレン共重合体(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)などのエチレンプロピレンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリイソブチレンなどが例示される。また、メタロセン触媒によりエチレンにプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィンや環状オレフィンなどを共重合させたものなども使用することができる。これらは単独または混合して使用される。オレフィン系ポリマーとしては、なかでもエチレン・プロピレン共重合体(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)などのエチレンプロピレンゴムが好ましく、その他のオレフィン系ポリマーはエチレンプロピレンゴムとの併用成分としての使用が好ましい。オレフィン系ポリマーは、エチレンプロピレンゴムであることがより好ましく、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)であることがより一層好ましい。エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)の具体例としては、三井EPT(三井化学社製 商品名)、エスプレンEPDM(住友化学社製 商品名)などが挙げられる。
【0025】
また、乾式シリカは、比表面積(BET法)が150m/g以上250m/g以下の範囲のものであれば、特に制限なく使用される。このような乾式シリカを配合することにより、温度依存性の小さい絶縁特性(特に、体積抵抗率)を有する絶縁性組成物が得られる。乾式シリカの比表面積(BET法)は、180m/g以上220m/g以下であることが好ましく、190m/g以上210m/g以下であることがより好ましく、200m/gであるとより一層好ましい。
【0026】
また、乾式シリカの平均一次粒径は7nm以上20nm以下であることが好ましく、10nm以上15nm以下であることがより好ましい。すなわち、乾式シリカの平均一次粒径が上記範囲外では、分散し難い状態となり所望の体積抵抗率が得られない。この乾式シリカの平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡による測定によって求められる。
【0027】
さらに、乾式シリカの4%水分散液のpHが4以上4.5以下であることが好ましい。すなわち、上記範囲外では絶縁体の架橋阻害が発生し、耐熱性や機械的特性を十分に向上させることができないおそれがあるだけでなく、所望の絶縁体を得ることができないために所望の体積抵抗率を得ることができないおそれがある。
【0028】
上述したように、この乾式シリカの配合量は、オレフィン系ポリマー100質量部に対し、0.5質量部以上10質量部以下であり、好ましくは1質量部以上5質量部以下である。配合量が上記範囲未満であるか、または上記範囲を超えると、組成物の体積抵抗率の温度依存性が大きくなって、ケーブルの耐電圧特性を改善することができないおそれがある。
【0029】
本発明において使用される乾式シリカの好ましい具体例としては、例えば日本アエロジル社から市販されている、比表面積(BET法)200m/g、平均一次粒径12nm、4%水分散液のpHが4.2のフュームドシリカのアエロジル200(商品名)などが挙げられる。
【0030】
高圧絶縁体15は、上記オレフィン系ポリマーに乾式シリカを混合して絶縁性組成物を調製し、得られた絶縁性組成物を内部半導電層14上に押出被覆するか、あるいはテープ状に成形したものを巻き付けることにより形成される。オレフィン系ポリマーと乾式シリカとの混合方法は、特に限定されるものではなく、例えばバンバリーミキサー、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラなどの通常の混練機を用いて均一に混練する方法を用いることができる。
【0031】
なお、絶縁性組成物は、被覆後もしくは成形後にポリマー成分を架橋させることが、耐熱性や機械的特性を向上させる観点から好ましい。架橋方法は、予め絶縁性組成物に架橋剤を添加しておき、成形後に架橋させる化学架橋法や、電子線照射による電子線架橋法などを用いることができる。化学架橋法を行う場合に用いる架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチルー2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルー2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0032】
架橋の度合いは、ゲル分率で50%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。ゲル分率が上記範囲未満であると、耐熱性や機械的特性を十分に向上させることができない。このゲル分率は、JIS C 3005に規定の架橋度試験方法に基づき測定される。
【0033】
また、絶縁性組成物には、上記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、乾式シリカ以外の無機充填剤、加工助剤、架橋助剤、難燃剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、その他の添加剤を配合することができる。
【0034】
絶縁性組成物は、次式(1)で求められる温度依存性パラメータDが1.0以下であり、好ましくは0.5以下である。温度依存性パラメータDが上記範囲を超えると、ケーブルの耐電圧特性を十分に改善することができない。
=log R23℃−log R90℃ …(1)
(但し、R23℃は23℃における体積抵抗率(Ω・cm)、R90℃は90℃における体積抵抗率(Ω・cm)である。これらの体積抵抗率は、JIS K 6271に規定する二重リング電極法により測定される。)
ここで、23℃における体積抵抗率R23℃は、1.0×1014Ω・cm以上1.0×1018Ω・cm以下であることが好ましい。23℃における体積抵抗率R23℃が、1.0×1014Ω・cm未満では所望の絶縁機能を得ることは困難であり、特に外径が10mm以上70mm以下の細径高電圧電子機器用ケーブルを得るためには、上記範囲の体積抵抗率を有することが必要となる。
【0035】
また、絶縁性組成物は、JIS K 6253により測定されるタイプAデュロメータ硬さが、90以下であることが好ましい。より好ましくは80以下であり、65以下であるとより一層好ましい。タイプAデュロメータ硬さが90を超えると、ケーブルの可撓性および取り扱い性が低下する。
【0036】
また、絶縁性組成物は、高圧シェーリングブリッジ法により、1kV、周波数50Hzの条件で測定される誘電率が、2.8以下であることが好ましい。より好ましくは2.6以下であり、2.4以下であるとより一層好ましい。誘電率が2.8を超えると、ケーブルの細径化が困難になる。
【0037】
内部半導電層14の外径は、例えば5.0mmとされ、高圧絶縁体15および外部半導電層16は、それぞれ、例えば3.0mm厚さおよび0.2mm厚さに被覆される。
【0038】
そして、外部半導電層16上には、例えばすずめっき軟銅線の編組からなる厚さ0.3mmの遮蔽層17が設けられ、さらに、その上に例えば軟質塩化ビニル樹脂の押出被覆により厚さ1.0mmのシース18が設けられている。
【0039】
このように構成される高電圧電子機器用ケーブルにおいては、高圧絶縁体15が、オレフィン系ポリマーに対し、比表面積(BET法)が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカを特定の割合で含有する絶縁性組成物で構成されているので、細径であっても、良好な耐電圧特性を備えることができる。
【0040】
これは、比表面積(BET法)が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカの使用により、組成物の体積抵抗率の温度依存性が低下した結果、ケーブルの耐電圧が向上したからと考えられる。
【0041】
図2および図3は、それぞれ本発明の高電圧電子機器用ケーブルの他の実施形態を示す横断面図である。
【0042】
図2に示す高電圧電子機器用ケーブルは、線心部11が、低圧線心12の2条と、、低圧線心12の外径と同径かもしくはそれより小径の高圧線心13の1条とを撚り合わせて構成されている以外は、図1に示す高電圧電子機器用ケーブルと同様に構成されている。低圧線心12は、例えば直径0.35mmのすずめっき軟銅線を19本集合撚りしてなる断面積が1.8mmの導体12aと、この導体12a上に設けられた、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂からなる、例えば厚さが0.25mmの絶縁体12bとから構成される。また、高圧線心13は、例えば直径0.18mmのすずめっき軟銅線を50本集合撚りしてなる断面積が1.25mmの裸導体13aと、この裸導体13a上に、例えば半導電性エチレンプロピレンゴムテープの巻き付けにより形成された半導電性の被覆13bとから構成される。高圧線心13は、裸導体13aのみで構成されていてもよい。
【0043】
また、図3に示す高電圧電子機器用ケーブルは、いわゆる単心型ケーブルの例であり、線心部11が裸導体13aのみで構成され、線心部11(裸導体13a)上に、内部半導電層14、高圧絶縁体15、外部半導電層16、遮蔽層17およびシース18を順に設けた構成となっている。
【0044】
これらの高電圧電子機器用ケーブルにおいても、前述した実施形態と同様、細径であっても、良好な耐電圧特性を備えることができる。
【0045】
以上、本発明の高電圧電子機器用ケーブルの実施形態を説明してきたが、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であらゆる変形や変更が可能である。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で用いた乾式シリカの物性値の測定方法は次の通りである。
【0047】
[比表面積(BET法)]
DIN66131に基づく窒素ガス吸着量にて測定した。
[pH]
試料に蒸留水を加えホモミキサーにて攪拌した分散液のpH値を、ガラス電極pH計で測定した。
[平均一次粒径]
透過型電子顕微鏡にて測定した。
【0048】
実施例1
直径0.35mmのすずめっき軟銅線を19本集合撚りしてなる断面積が1.8mmの導体上にポリテトラフルオロエチレンからなる厚さ0.25mmの絶縁体を被覆した低圧線心2条と、直径0.18mmのすずめっき軟銅線を50本集合撚りしてなる断面積が1.25mmの裸導体からなる高圧線心2条とを撚り合わせ、その外周にナイロン基材からなる半導電性テープを巻き付けて厚さ約0.5mmの内部半導電層を設けた。
【0049】
この内部半導電層上に、EPDM(三井化学社製 商品名 三井EPT#1045)100質量部、比表面積(BET法)200m/g、pH4.2、平均一次粒径12nm;乾式シリカ(a)と表記)0.5質量部およびジクミルパーオキサイド(DCP)2.5重量部をミキシングロールにより均一に混練して調製した絶縁性組成物を押出被覆し、次いで加熱架橋して厚さ2.7mmの高圧絶縁体を形成し、さらに、その上にナイロン基材からなる半導電性テープを巻き付けて厚さ約0.15mmの外部半導電層を設けた。この外部半導電層上に、すずめっき軟銅線編組からなる厚さ0.3mmの遮蔽層を設け、その外側に軟質塩化ビニル樹脂シースを押出被覆して外径13.2mmの高電圧電子機器用ケーブル(レントゲンケーブル)を製造した。
【0050】
実施例2、3、比較例1〜4
高圧絶縁体の形成材料の組成を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして高電圧電子機器用ケーブルを製造した。なお、乾式シリカ(a)以外に用いた乾式シリカは次の通りである。
乾式シリカ(b):比表面積(BET法)100m/g、pH4.2、平均一次粒径 10nm
乾式シリカ(c):比表面積(BET法)300m/g、pH4.0、平均一次粒径 12nm
【0051】
上記各実施例および比較例で得られた高電圧電子機器用ケーブルについて、下記に示す方法で静電容量および耐電圧特性を測定乃至評価した。
【0052】
[静電容量]
高圧シェーリングブリッジ法により、1kV、周波数50Hzの条件で測定した。
[耐電圧特性]
直流電圧200kVを10分間印加し、絶縁破壊しなかった場合を合格(○)、絶縁破壊した場合を不合格(×)と判定した。
【0053】
これらの結果を、高圧絶縁体の物性(体積抵抗率(23℃および90℃)、温度依存性パラメータD、硬さ、誘電率)とともに表1に示す。なお、高圧絶縁体の物性の測定方法は次の通りである。
【0054】
[体積抵抗率、温度依存性パラメータD
ケーブルの製造とは別に厚さ0.5mmのシート試料を作製し、JIS K 6271に規定する二重リング電極法に基づき、直流500Vの電圧を印加し、1分後の電流値を測定して、体積抵抗率を求めた。90℃の体積抵抗率については、試料全体が均一に90℃になるように、試料を同温度に5分間以上保持してから測定した。測定は5回行い、その平均値を求めた。また、このようにして求めた23℃および90℃における体積抵抗率の対数log R23℃およびlog R90℃を求め、前述した式(1)により温度依存性パラメータDを算出した。
【0055】
[硬さ]
ケーブルの製造とは別に厚さ2mmのシート試料を作製し、JIS K 6253のタイプAデュロメータにより測定した。
【0056】
[誘電率]
ケーブルの製造とは別に厚さ0.5mmのシート試料を作製し、高圧シェーリングブリッジ法により、1kV、周波数50Hzの条件で測定した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、比表面積が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカを0.5〜10質量部配合した絶縁性組成物で高圧絶縁体を形成した実施例では、ケーブル外径11.5mmという細径にもかかわらず、良好な耐電圧特性を有しており、かつ、NEMA規格(XR7)の要求性能を満たす静電容量を有していた(NEMA規格(XR7)の静電容量は、0.187μF/km以下)。これに対し、上記乾式シリカを過少配合または過剰配合した比較例1〜4では、耐電圧特性が不十分であり、また、比表面積が上記範囲外にあるシリカを用いたケーブルでは、その配合量に拘わらず、耐電圧特性が不十分であった。
【0059】
このように、本発明においては、高圧絶縁体をオレフィン系ポリマーに窒素ガス吸着法による比表面積が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカを特定の割合で含有する絶縁性組成物で構成したことにより、細径で、静電容量が小さく、かつ十分な絶縁性能を備える高電圧電子機器用ケーブルを得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
11…線心部、12…高圧線心、12a…裸導体、12b…半導電性の被覆、13…低圧線心、13a…裸導体、13b…絶縁体、14…内部半導電層、15…高圧絶縁体、16…外部半導電層、17…遮蔽層、18…シース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線心部外周に、内部半導電層、高圧絶縁体、外部半導電層、遮蔽層、およびシースを順に備える高電圧電子機器用ケーブルであって、
前記高圧絶縁体が、次式で求められる温度依存性パラメータDが1.0以下である絶縁性組成物で構成されていることを特徴とする高電圧電子機器用ケーブル。
=log R23℃−log R90℃
(但し、R23℃は23℃における体積抵抗率(Ω・cm)、R90℃は90℃における体積抵抗率(Ω・cm)である。)
【請求項2】
23℃が1.0×1014Ω・cm以上1.0×1018Ω・cm以下であることを特徴とする請求項2記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項3】
前記高圧絶縁体が、オレフィン系ポリマー100質量部に対し、比表面積が150m/g以上250m/g以下の乾式シリカを0.5質量部以上10質量部以下含有する絶縁性組成物で構成されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項4】
乾式シリカの平均一次粒径が、7nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項3記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項5】
乾式シリカの4%水分散液のpHが、4以上4.5以下である請求項3または4記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項6】
乾式シリカは、フュームドシリカであることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項7】
オレフィン系ポリマーは、エチレンプロピレンゴムを含むことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項8】
オレフィン系ポリマーが架橋されていることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項記載の高電圧電子機器用ケーブル。
【請求項9】
外径が10mm以上70mm以下の細径高電圧電子機器用ケーブルであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の高電圧電子機器用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−4041(P2012−4041A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139743(P2010−139743)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)