説明

高電界陽極酸化装置

本発明は、金属の表面にナノ構造体を形成するための高電界陽極酸化装置に関するものであって、電解液内に金属陽極と相対電極を浸漬し、金属を電気化学的に酸化させて表面にナノ構造体を形成する陽極酸化装置において、電解液中の金属陽極と相対電極との間に一定のパターンの電圧を印加する電源供給手段と、前記電極および電解液の温度が一定に維持されるように制御する温度制御手段と、前記電源供給手段で供給された電圧によって発生する電流を測定し、電流値に応じて電解質の濃度を調節することにより、電流を一定の水準に維持する反応速度調節手段とを含んでなることを特徴とする、高電界陽極酸化装置を技術的要旨とする。よって、本発明は、高電界陽極酸化によって発生しうる金属の急速な溶解または酸化膜の絶縁破壊によるナノ構造体の破損を予防することができるうえ、ナノ構造体の成長速度を制御することができるようにすることにより、ナノ構造体の生産性を大きく向上させるという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面にナノ構造体を形成するための高電界陽極酸化装置に係り、特に、陽極酸化反応温度と反応速度の制御によってナノ構造体の破損を予防し且つその成長速度を制御することのできる、高電界陽極酸化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極酸化法は、金属の表面処理技術の一つであって、金属の表面に酸化膜を形成して腐食を予防し、或いは金属表面を彩色するために広く用いられてきたが、最近では、ナノドット、ナノ線、ナノチューブ、ナノ棒などのナノ構造体を直接形成させるか或いはナノ構造体の形成のための鋳型を製造する方法として大きく活用されている。
【0003】
このような陽極酸化によってナノ構造体を形成することが可能な金属としてはAl、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Wなどが知られており、特に、アルミニウム陽極酸化膜は、製造が容易であり、フッ素イオンを使用する他の金属とは異なり電解質の取扱いが比較的安全であるうえ、ナノ気孔および厚さの制御が容易であるため、ナノ技術の研究に多く活用されてきた。
【0004】
アルミニウムは、硫酸、シュウ酸またはリン酸などの電解質を含む水溶液で電気化学的に陽極酸化させると、表面に厚い陽極酸化膜が形成されるが、この膜は、規則的な間隔を有する気孔が外部表面から内部金属方向に成長した多孔層(porous layer)と、アルミニウム/アルミニウム酸化物の境界でアルミニウムの酸化と酸化膜の流動(J. E. Houser, et al., Nat Mater. 8, 415-420(2009))によって連続的な気孔が形成される境界層(barrier layer)とから構成される。
【0005】
このような多孔層と境界層の構造、すなわち気孔間の間隔(Dint)、気孔サイズおよび境界層の厚さなどは、電解質の種類や温度とは殆ど関係なく、印加された電圧に応じて支配的に決定されることが知られている。
【0006】
アルミニウムの陽極酸化には比較的低い電圧で時間当たり数μm程度の低い膜成長速度を有する軟質陽極酸化(mild anodization)と、比較的高い電圧で時間当たり数十μmの膜成長速度を有する硬質陽極酸化(hard anodization)が知られているが、本発明で定義する高電界陽極酸化(high-field anodization)は、伝統的なアルミニウム表面処理産業における硬質陽極酸化とは異なり、高い電圧で高速にて気孔の成長と配列が行われる陽極酸化の特定の条件に定義することができる。ナノ構造体の形成に関連して重要な特徴の一つである自己整列(self-ordering)が起こる代表的な軟質陽極酸化と高電界陽極酸化は、表1のとおり知られている。表1は、自己整列が起こる軟質陽極酸化および高電界陽極酸化の条件を示す。
【0007】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願EP 1884578A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Masuda, et al., J. Electrochem. Soc. 144, L127-L130(1997).
【非特許文献2】H. Masuda, et al., Science 268, 1466-1468(1995).
【非特許文献3】H. Masuda, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 37, L1340-L1342(1998).
【非特許文献4】S. Chu, et al., Adv. Mater. 17, 2115-2119(2005).
【非特許文献5】K Schwirn, et al., ACS nano 2, 302-310(2008).
【非特許文献6】W. Lee, et al., Nat. Mater. 5, 741-747(2006).
【0010】
アルミニウムナノ構造体で最も重要な因子である気孔間の間隔(interpore distance、Dint)は、軟質陽極酸化では約2.5nm/V、高電界陽極酸化では約2.0nm/Vであると知られている。ナノ構造体の生産速度に関連した酸化膜成長速度において、軟質陽極酸化の場合、電流密度が一定に低い値(数mA/cm)を示すので、金属/酸化膜の界面における急激な温度上昇がないため、一般な二重ジャケットセルなどの簡単な冷却手段のみでも膜の絶縁破壊を防止することができるが、高電界陽極酸化の場合、初期電流密度が非常に大きく(数百mA/cm)電極の温度が急激に上昇するので、冷却のために大きい電解槽を用いるか(S. Chu, et al., Adv. Mater. 17, 2115-2119(2005))、或いはアルミニウムの下部に冷却板を取り付ける追加手段を使用しなければならない(W. Lee. et al., Nat. Mater. 5, 741-747(2006))。また、高電界陽極酸化のために高い電圧(〜700V)を印加する場合、絶縁破壊を防止するためには一般に用いられる0.1〜0.5モルより一層低い濃度の電解質を使用する方法も知られている(C. A. Grims, et al., US Patent Application 20030047505A1, filed Sep. 13, 2002)。
【0011】
一般に、アルミニウム陽極酸化膜の気孔整列性を向上させるために、2段階の陽極酸化法(H. Masuda, et al., Science 268, 1466-1468(1995))を使用することができるが、軟質陽極酸化では、酸化膜の成長が遅いので、第1段階で形成された酸化膜を除去し、第2段階の酸化を経て、取り扱いし易い陽極酸化へのメンブレインを製造するためには1日以上の時間がかかる。これに対し、高電界陽極酸化では、初期電流が大きくて数十分以内に気孔の整列がなされるので、気孔の整列性に優れたナノメンブレインを得るのにも有用な方法である。
【0012】
このように成長した陽極酸化膜をメンブレインに製造するためには残存するアルミニウムと境界層を除去しなければならないが、それらの除去方法として電気化学的方法と化学的方法が活用されている。まず、電気化学的方法としては、電圧低減法(voltage reduction)、電流低減法(current reduction)または電気化学的還元法を用いて境界層を除去した後、アルミニウムを選択的に溶出させる方法と、パルス分離法(pulse detachment)でアルミニウムから酸化膜を分離した後、境界層を適切に溶出させる方法があり、化学的方法としては、アルミニウムを選択的に溶解させた後、境界層を溶出させる方法が知られている。また、境界層を化学的に分離する過程を適切に活用してメンブレインの気孔サイズを大きくすることができ、化学的・物理的方法によって気孔壁に適切なコーティング膜を被覆して気孔サイズを減らすこともできる。
【0013】
このように気孔間の間隔および気孔サイズの調節が容易であるうえ、その形態が均一なナノ気孔を有するナノ構造体の応用が爆発的に増加しているが、これに対し、その大部分は実験室レベルで軟質陽極酸化した膜を基礎研究に活用しているレベルに止まっており、高速生産または量産のための高電界陽極酸化用工程および装置の開発は足りない実情である。高電界陽極酸化を用いて気孔の整列性に優れたナノ構造体を製造するためには、反応界面の温度を一定に維持すること、および電解質の濃度を低い濃度から始めることが必要であるが、このような場合、反応速度が著しく遅くて十分な成長速度が得られないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、ナノ構造体の高速生産で最も大きい問題点となっている酸化膜の絶縁破壊と生産速度の低下問題を温度と反応速度の制御によって解消し、ナノ構造体の破損を予防し、その成長速度を制御することのできる、高電界陽極酸化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、電解液内に金属陽極と相対電極を浸漬し、金属を電気化学的に酸化させて表面にナノ構造体を形成する陽極酸化装置において、電解液中の金属陽極と相対電極との間に一定のパターンの電圧を印加する電源供給手段と、前記電極および電解液の温度が一定に維持されるように制御する温度制御手段と、前記電源供給手段で供給された電圧によって発生する電流を測定し、電流値に応じて電解質の濃度を調節することにより、電流を一定の水準に維持する反応速度調節手段とを含んでなることを特徴とする、高電界陽極酸化装置を技術的要旨とする。
【0016】
また、前記陽極酸化する金属陽極の材料は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Wおよびこれらの合金のいずれか一つであり、必要に応じて熱処理、電解研磨または化学研磨の前処理が行われることが好ましい。
【0017】
また、前記相対電極はチューブ状に形成されることが好ましく、前記チューブ状に形成された相対電極の内部に冷却水が流れるようにして電解液を冷却できるようにすることが好ましい。
【0018】
また、前記電源供給手段は、直流、交流、パルスおよびバイアスのうちいずれか一つの電圧またはこれらの組み合わせを前記金属陽極と前記相対電極との間に印加し、ナノ構造体の気孔間の間隔に合わせて電圧を制御することができるように形成されることが好ましい。
【0019】
また、前記温度制御手段は、前記金属陽極の後面に接触して設けられ、温度センサーと冷却手段を備え、必要に応じて一定温度の維持のために加熱手段を共に備えることが好ましい。また、前記温度制御手段は、電解液の温度を低めるために電解液冷却手段をさらに備えることが好ましい。
【0020】
また、前記反応速度調節手段は、前記電源供給手段で供給される電圧によって前記金属陽極と前記相対電極との間に発生する電流を測定する計測手段と、前記計測手段によって、予め設定した電流値より低い電流が測定される場合には開放され、高い電流が測定される場合には閉鎖される高濃度電解液供給手段とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上述した手段を備えた本発明に係る高電界陽極酸化装置は、高電界陽極酸化によって発生しうる金属の急速な溶解または酸化膜の絶縁破壊によるナノ構造体の破損を予防することができるうえ、ナノ構造体の成長速度を制御することができるようにすることにより、ナノ構造体の生産性を大きく向上させるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明に係る高電界陽極酸化装置の構成図である。
【図2】図2は電解研磨前処理時の電圧−電流−温度曲線およびこれによるアルミニウム母材の表面を示す図である。
【図3】図3は1次高電解陽極酸化時の電圧−電流−温度曲線およびこれにより形成された酸化膜の形状を示す図である。
【図4】図4は本発明に係る反応速度調節手段を用いた2次高電界陽極酸化時の電圧−電流−温度曲線およびこれによる酸化膜の形状を示す図である。
【図5】図5はパルス分離法によって分離された酸化膜の形状を示す図である。
【図6】図6は境界層を除去し気孔を拡張したナノ構造体の最終形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、高電界陽極酸化膜を用いてナノ気孔構造が規則的に整列されている金属酸化物ナノ構造体を製造するための高電界陽極酸化装置に関する。本発明の高電界陽極酸化装置は、酸化させようとする金属と相対電極との間に一定のパターンの電圧を印加する電源供給手段と、電極および電解液の温度が一定に維持されるように制御する温度制御手段と、前記電源供給手段で供給された電圧によって発生する電流を測定し、電流値に応じて電解質の濃度を調節することにより、電流を一定の水準に維持する反応速度調節手段とから構成される。
【0024】
このような手段を備えた本発明に係る高電界陽極酸化装置は、高電界陽極酸化によって発生しうる金属の急速な溶解または酸化膜の絶縁破壊によるナノ構造体の破損を予防することができるうえ、ナノ構造体の成長速度を制御することができるようにすることにより、ナノ構造体の生産性を大きく向上させるという利点がある。
【0025】
前記陽極酸化する金属陽極の材料としては、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Wおよびこれらの合金などがあり、必要に応じて熱処理、電解研磨または化学研磨などの前処理を介して均一な組織と平坦な表面を作って使用する。また、前記相対電極である陰極の材料としては、炭素系物質や金属などの導電性材質、例えば白金、黒鉛、炭素ナノチューブ、カーボンブラックおよびステンレス鋼などの材料を使用する。
【0026】
前記電解液は、陽極材料に応じて可変的であり、アルミニウムの場合には硫酸、シュウ酸、リン酸、クロム酸水溶液またはこれらの混合水溶液を使用し、温度を零下に低めなければならない場合にはエチレングリコールなどの溶液と混合して使用することができる。また、TiまたはZr金属の場合、フッ素イオンを電解質として用いる非水系有機溶液などを使用することができる。
【0027】
前記電源供給手段は、直流、交流、パルスおよびバイアス電圧を前記金属陽極と相対電極との間に印加して金属陽極の表面に酸化膜を形成させ、製造しようとするナノ構造体の気孔間の間隔に合わせて電圧を印加することができなければならないが、直流電圧を基準として250V以下、パルス電圧を基準として700V以下の電圧容量と当該金属の単位面積(cm)当たり500mA以上の電流容量を持つようにする。
【0028】
前記温度制御手段は、前記金属陽極の後面に接触して金属陽極の温度が基準値以上に上昇することを防止するための温度センサーと冷却手段を備えたもので、必要に応じて一定温度の維持のために加熱手段を共に備えることもできる。また、必要に応じて陰極反応によって上昇しうる電解液の温度を低めるために電解液冷却手段を備えることもできる。前記電解液冷却手段は後述する相対電極の内部に冷却水を供給することもできる。
【0029】
前記反応速度調節手段は、前記電源供給手段で供給される電圧によって前記金属陽極と相対電極との間に発生する電流を測定するアナログまたはデジタル計測手段と、この計測手段によって、使用者が予め設定した電流値より低い電流が測定される場合には開放され、高い電流が測定される場合は閉鎖される高濃度電解液供給手段とから構成される。これにより、電流値を一定の水準に維持することにより、高電界による金属の急激な溶解または酸化膜の絶縁破壊を防止することができるが、このために、初期に低い濃度の電解質で電圧を印加することが好ましい。
【0030】
本発明に係る高電界陽極酸化装置の実施例では、シュウ酸溶液で280nmの気孔間の間隔を有するナノメンブレインを製造するために、次のように装置を構成し、メンブレインを製造した。
【0031】
図1は垂直型陽極酸化セルに適用した高電界陽極酸化装置の構成図である。図示の如く、垂直型陽極酸化セル10は、一般に、電極から気体の発生が多い場合に使用する形態であって、電源供給手段100の(+)端子に連結された金属支持体16上に陽極13を設け、陰極14を陰極リード線15を介して電源供給手段100の(−)端子に連結した構造であるが、電解槽11と陽極13との間にはOリング18を取り付け、電解液12が外部に漏れないように構成し、攪拌のためにインペラなどの攪拌手段17を含んでいる。
【0032】
前記電源供給手段100で供給される電圧によって陽極13における酸化膜形成反応と、陰極14における還元反応(水の電解など)によって各電極/電解質界面の温度が上昇するおそれがあり、特に陽極13の温度が一定の温度以上に上昇すると気孔の整列度が悪くなるので、アルミニウムの高電界陽極酸化では温度を0℃に維持しなければならないが、このために、陽極13の下部にある金属支持体16の下部に冷却台19を設置した。前記冷却台19は、温度制御手段200の冷却手段220である循環器(circulator)から低温(0℃以下)の液体の供給を受けて金属支持体16の下部を冷却させ、熱伝導によって陽極13の熱を吸収する。このために、金属支持体16は熱伝導度に優れた銅板を使用することが好ましい。
【0033】
高電界陽極酸化の初期での如く、陽極13から発生する熱が過度に大きい場合には、より精巧な温度制御のためには循環器の温度をさらに低める代わりに、金属支持体16の内部に温度センサー210と加熱手段230を設置して冷却と加熱の組み合わせで0℃に維持させると、過度な熱発生の際に加熱手段230を中止させて急速な冷却が可能である。このような手段は、製造しようとするナノ構造体の広さが大きくなる場合の温度制御にさらに有用な形態である。
【0034】
また、電解液の温度を低めるために相対電極として一般に使われる白金網陰極14の代わりに金属チューブを使用して内部に冷却水を流し、或いは高濃度電解液供給手段320で電解液12の温度を低める方法も可能である。前記チューブ状の相対電極の内部に冷却水が供給されるが、前記冷却水は前記温度制御手段の電解液冷却手段によって供給される。
【0035】
したがって、前記温度制御手段200は、金属支持体16を冷却して陽極13の熱を吸収すると同時に、電解液冷却手段によって相対電極の内部に冷却水を供給して電解液の温度を低める役割を果たす。
【0036】
一方、気孔の整列性に優れたナノ構造体を得るためには、初期酸化で生成された酸化膜を除去し、電圧を直接印加する2段階の陽極酸化法を適用し、或いは予め表面に規則的なパターンを作るインプリント法を適用しなければならないが、1次陽極酸化で使用する高濃度の電解液(一般に、シュウ酸の場合には0.3モル)で2次陽極酸化を施すと、大部分が急速な溶解または膜の絶縁破壊によりナノ構造体の破損をもたらす。かかる問題は、電解質が100分の1程度に希釈された電解液の中で2次陽極酸化を施して抑制することができるが、この際、初期電流も低く、持続的に減少して所望の成長速度を得ることができない場合をもたらす。
【0037】
前記反応速度調節手段300は、かかる問題点を解決するためのもので、前記計測手段310で測定された電流値から所定の電流値以上に維持することができるように調節し、前記高濃度電解液供給手段320によって高濃度の電解液を供給する。すなわち、前記高濃度電解液供給手段320は、計測手段310によって、使用者が予め設定した電流値より低い電流が測定される場合には開放され、高い電流が測定される場合には閉鎖されるように形成される。これにより、電流値を一定の水準に維持することにより、高電界による金属の急激な溶解または酸化膜の絶縁破壊を防止することができるが、このために、初期に低い濃度の電解質で電圧を印加することが好ましい。
【0038】
図2は純度99.999%のアルミニウムディスクを体積比1:4の過塩素酸とエタノールの混合溶液で5分間電解研磨した試片の写真(図2a)と、このときの電圧、電流および試片温度の変化様相(図2b)を示した。
【0039】
図3は電解研磨された試片を試片温度0℃、0.3モルのシュウ酸溶液条件で白金陰極に対して0Vから140Vまで電圧を上昇させた後、30分間維持させた1次陽極酸化膜の写真(図3a)、このときの電圧、電流および試片温度の変化様相(図3b)、酸化膜上部の初期気孔に対するSEM写真(図3c)、酸化膜の下部である境界層に対するSEM写真(図3d、塩化銅と塩酸との混合溶液でアルミニウムを選択的に除去)、酸化膜を除去し、パターニングされた表面のみを残したアルミニウムの表面写真(図3e、クロム酸とリン酸との混合溶液でアルミナ膜を選択的に除去)およびSEM写真(図3f)を示した。図3bにおいて、約80〜90Vの電圧区間で急激に膜が形成され始めて最大電流値を示した後、140Vの一定の電圧に到達すると、電解質の拡散制御機構による急激な電流減少が現れ、140Vを維持する区間で持続的に電流が減少しながら気孔の整列が起こる。このような気孔の整列性は1次陽極酸化時間が長ければ長いほど良くなることが知られている。
【0040】
図4は1次陽極酸化の後にアルミナ酸化膜を選択的に除去した試片に対して試片温度0℃、初期濃度0.003モルのシュウ酸溶液で140Vを直接印加しながら電流値を15mA/cmに設定し、この電流値より低くなると高濃度電解液を供給するようにした場合の2次陽極酸化膜の写真(図4a)と、このときの電圧、電流および試片温度の変化様相(図4b)を示した。図4bの初期電流値は60mA/cmから急速に減少して高濃度電解質の供給がない場合に軟質陽極酸化レベルに減少するが、図4bに示すように、電解質を供給する時点に電流が増加するので、反応速度を制御することができるうえ、時間に応じて一定に又は可変的に成長速度を制御することができる。
【0041】
図5は2次陽極酸化の後に形成された酸化膜を体積比1:1の過塩素酸とエタノールの混合溶液で150Vの電圧でパルス分離法によって分離させた酸化膜の写真(図5a)、傾斜角度で撮ったSEM写真(図5b)、および断面全体のSEM写真(図5c)を示した。1次陽極酸化によって形成されたパターンに合わせて気孔が成長して時間当たり約30μmの膜が形成されたことが分かる。
図6は5%リン酸溶液で数分間境界層を除去し気孔を拡張した最終メンブレインの写真(図6a)とSEM写真(図6b)を示した。
【0042】
このように、本発明の方法および装置は、ナノメンブレインの製造だけでなく、母材から酸化膜を分離しないナノテンプレートおよびこのような方法で製造されるナノ気孔体、ナノ線およびナノチューブの製造にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、金属の表面にナノ構造体を形成するための高電界陽極酸化装置に関し、陽極酸化反応温度と反応速度の制御によってナノ構造体の破損を予防し成長速度を制御することのできる高電界陽極酸化装置に関する。
【符号の説明】
【0044】
10:陽極酸化セル
11:電解槽
12:電解液
13:陽極
14:陰極
15:陰極リード線
16:金属支持体
17:攪拌手段
18:Oリング
19:冷却台
100:電源供給手段
200:温度制御手段
210:温度センサー
220:冷却手段
230:加熱手段
300:反応速度調節手段
310:計測手段
320:高濃度電解液供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化セル(10)の電解液(12)に金属陽極(13)と相対電極を浸漬し、金属を酸化させて表面にナノ構造体を形成する陽極酸化装置において、
電解液(12)中の金属陽極(13)と相対電極との間に一定のパターンの電圧を印加する電源供給手段(100)と、
前記電極および電解液(12)の温度が一定に維持されるように制御する温度制御手段(200)と、
前記電源供給手段(100)で供給された電圧によって発生する電流を測定し、電流値に応じて電解質の濃度を調節することにより、電流を一定の水準に維持する反応速度調節手段(300)とを含んでなることを特徴とする高電界陽極酸化装置。
【請求項2】
前記陽極酸化する金属陽極(13)の材料は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Nb、Wおよびこれらの合金のうちいずれか一つであり、必要に応じて熱処理、電解研磨または化学研磨の前処理が行われることを特徴とする請求項1に記載の高電界陽極酸化装置。
【請求項3】
前記相対電極はチューブ状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の高電界陽極酸化装置。
【請求項4】
前記チューブ状に形成された相対電極の内部に冷却水が流れるようにして電解液を冷却させることを特徴とする請求項3に記載の高電界陽極酸化装置。
【請求項5】
前記電源供給手段(100)は、直流、交流、パルスおよびバイアスのうちいずれか一つの電圧またはこれらの組み合わせを前記金属陽極(13)と前記相対電極との間に印加し、ナノ構造体の気孔間の間隔に合わせて電圧を制御することができるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の高電界陽極酸化装置。
【請求項6】
前記温度制御手段(200)は、前記金属陽極(13)の後面に接触して設けられ、温度センサー(210)と冷却手段(220)を備えるもので、必要に応じて一定温度の維持のために加熱手段(230)を共に備えることを特徴とする請求項1に記載の高電界陽極酸化装置。
【請求項7】
前記温度制御手段(200)は、電解液(12)の温度を低めるために電解液冷却手段をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の高電界陽極酸化装置。
【請求項8】
前記反応速度調節手段(300)は、前記電源供給手段(100)で供給される電圧によって前記金属陽極(13)と前記相対電極との間に発生する電流を測定する計測手段(310)と、前記計測手段(310)によって、予め設定した電流値より低い電流が測定される場合には開放され、高い電流が測定される場合には閉鎖される高濃度電解液供給手段(320)とを含んでなることを特徴とする請求項1に記載の高電界陽極酸化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−505315(P2012−505315A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534411(P2011−534411)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007268
【国際公開番号】WO2011/040679
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(507296791)コリア エレクトロテクノロジー リサーチ インスティテュート (24)