説明

高Cr継目無鋼管の製造方法

【課題】従来技術では、被加工材が高Cr鋼である場合、ピアサー穿孔工程における材料割れやヘゲ、カブレ疵発生とプラグミル圧延工程における焼付き発生とを両方とも防止する製造方法を提供する。
【解決手段】プラグミル3Bの入側に、該入側を通過中の管体11を全長に亘って誘導加熱する誘導加熱装置8を設置し、第1加熱の温度を1100〜1250℃の範囲とし、次いで前記穿孔に次ぐ第1段階の延伸圧延後、前記誘導加熱装置8にて前記管体11の温度を30〜180℃上昇させて、1030℃以上の管体温度で第2段階の延伸圧延を開始することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高Cr継目無鋼管の製造方法に関し、詳しくは、Crを12質量%以上含有する継目無鋼管である高Cr継目無鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管は、一般に、連続鋳造機で大断面角形状のブルーム鋳片を鋳造し、加熱後、分塊圧延機、ブルーミングミルおよびビレッティングミル等で熱間圧延して断面丸形状のビレットすなわち丸ビレットとなし、あるいは、連続鋳造機で丸ビレットを鋳造し、これらの丸ビレットを素形態とする被加工材に用い、製管工場にて前記被加工材に、穿孔圧延、およびこれに後続する延伸圧延、さらに定径圧延等を施すことにより製造される。
【0003】
製管工場における継目無鋼管用の一般的な圧延設備列としては、図2に示す従来例が挙げられる。
従来例の圧延設備列は、図2に示される様に、丸ビレット10を高温(1100〜1300℃程度)に加熱する第1加熱を行う回転炉1等の第1加熱炉と、次いで前記加熱後の丸ビレット10を穿孔用プラグにて穿孔して管体11となすプラグ穿孔型のピアサー2Aと、次いで前記穿孔してなる管体11にプラグによる管内面拘束下で全3段階の延伸圧延を順次施す手段として、第1段階用のエロンゲータ3Aと、第2段階用のプラグミル3Bと、第3段階用のリーラー3Cと、次いで前記第3段階の延伸圧延後の管体11を再加熱(900〜1100℃程度)する再加熱炉4と、次いで前記再加熱後の管体11を定径圧延する一群の圧延機からなるサイザー5Aとを有する。
【0004】
尚、前記定径圧延後の管体11は、必要に応じて所定長さに切断後、クーリングベッド(図示省略した)へ搬送され、冷却される。
継目無鋼管の品質向上に関して、特許文献1には、中空素管(前記管体11に該当)の内面をプラグで拘束しつつ延伸圧延する時の材料温度(加工温度)が長手方向に不均一となり、そのため製品の長手方向品質ばらつきが大きくなるのを抑制するために、素形態が丸ビレットである被加工材を、加熱した後、穿孔圧延して中空素管となし、引き続き前記中空素管の内面をプラグで拘束しつつ延伸圧延し、次いで再加熱した後、定径圧延し、次いで冷却して継目無鋼管となす継目無鋼管の製造方法において、前記被加工材の延伸圧延前に、該延伸圧延(エロンゲータ圧延→プラグミル圧延→リーラー圧延の各々)の直前の被加工材の長手方向の先端が後端よりも30〜400℃高い温度となるように、(誘導加熱にて)加熱する旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−098354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然しながら、上述の従来技術では、高Cr鋼(Cr:12質量%以上を含有する鋼)の丸ビレットを出発素材としたとき、回転炉加熱工程の加熱温度が高すぎる(1250℃超である)と、δフェライトが現れて、ピアサー穿孔工程で材料割れやヘゲ、カブレ疵が発生する。そこで、δフェライトを生成させないために前記加熱温度を下げる(1250℃以下とする)と、プラグミル圧延工程の圧延温度が下がり過ぎ、管体に圧延ロールや管案内工具(ガイド、シュー等)との焼付き疵が多発する。
【0007】
即ち、従来技術では、被加工材(穿孔前は丸ビレットであり、穿孔後は管体である)が高Cr鋼である場合、ピアサー穿孔工程における材料割れやヘゲ、カブレ疵発生とプラグミル圧延工程における焼付き発生とを両方とも防止する事が困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは前記課題を解決する為に鋭意検討し、その結果、前記プラグミルの入側に、該入側を通過中の管体を全長に亘って誘導加熱する誘導加熱装置を設置し、特定の条件で運用すれば前記課題を解決できるという知見を得て、本発明を成した。
即ち本発明は以下の通りである。
(1)丸ビレットを加熱する第1加熱を行う回転炉等の第1加熱炉と、次いで前記加熱後の丸ビレットを穿孔して管体となすピアサーと、次いで前記穿孔してなる管体に全3段階の延伸圧延を順次施す手段として、第1段階用のエロンゲータと、第2段階用のプラグミルと、第3段階用のリーラーと、次いで前記第3段階の延伸圧延後の管体を再加熱する再加熱炉と、次いで前記再加熱後の管体を定径圧延する一群の圧延機からなるサイザーとを有し、さらに前記プラグミルの入側に、該入側を通過中の管体を全長に亘って誘導加熱する誘導加熱装置を設置してなる継目無鋼管用の圧延設備列を用いてCrを12質量%以上含有する継目無鋼管である高Cr継目無鋼管を製造する方法であって、
前記第1加熱の温度を1100〜1250℃の範囲とし、次いで前記穿孔に次ぐ前記第1段階の延伸圧延後、前記誘導加熱装置にて前記管体の温度を30〜180℃上昇させて、1030℃以上の管体温度で前記第2段階の延伸圧延を開始することを特徴とする高Cr継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被加工材(穿孔前は丸ビレットであり、穿孔後は管体である)が高Cr鋼であっても、ピアサー穿孔工程における材料割れやヘゲ、カブレ疵発生とプラグミル圧延工程における焼付き発生とを両方とも防止する事が容易にできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明例に用いた圧延設備列を示す概略図である。
【図2】従来例の圧延設備列を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明例に用いた圧延設備列を示す概略図である。図1において、8は誘導加熱装置であり、図2の従来例と同一又は相当部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
本発明例における誘導加熱装置8はトンネル式であって、プラグミル3Bの入側に設置され、該入側を通過中の管体11を全長に亘って誘導加熱する。この誘導加熱により、プラグミル入側の管体温度を従来よりも高くする事ができる。従って、高Cr鋼の被圧延材に対し、プラグミル3Bにおいて、入側の管体温度を高める事で管体表面のスケール量を増す事ができ、又、圧延荷重を減らす事ができるので、高Cr鋼に特有なロールやガイド等の工具と管体とのメタルタッチによる焼付きを防止でき、以て製品表面疵の発生が減少する。
【0012】
又、誘導加熱装置8の設置により、上述の通りプラグミル入側で管体温度を高めることができる為、高Cr鋼の被圧延材に対し、回転炉加熱工程での加熱温度を1250℃以下に下げてδフェライトの生成を抑制し、以てピアサー穿孔工程での材料割れやヘゲ、カブレ疵発生を減少させることができる。
従って、ピアサー穿孔工程における材料割れやヘゲ、カブレ疵発生とプラグミル圧延工程における焼付き発生とを両方とも防止する事が容易にできるようになる。
【0013】
発明者らの調査によると、回転炉1による高Cr鋼丸ビレットの加熱温度はδフェライト生成抑制のために1100〜1250℃の温度範囲が必要であるが、該温度範囲で加熱すると、従来ではプラグミル3B入側の管体温度は、前記焼付きが起こらない温度範囲の下限(Tcと記す。Tc≒1030℃)よりも30℃以上低くなる事が多い。よって、かかる温度低下を補償するために、誘導加熱装置8は、該誘導加熱による管体11の温度上昇量(ΔTと記す)が30℃以上となる誘導加熱能力を有するものである事が必要である。但し、前記誘導加熱能力に係るΔTは、これを180℃超としても焼付き防止効果が飽和し、設備費、電力費が嵩むだけとなるから、より好ましくは、30℃以上180℃以下である。
【実施例】
【0014】
図1の圧延設備列を用い、被加工材=Cr:12.0質量%を含有する鋼、回転炉加熱温度=1180℃、誘導加熱装置による管体温度上昇量ΔT=100℃、第2段階の延伸圧延開始温度=1030℃、再加熱炉温度=1000℃として、継目無鋼管を160本製造し、ケースA(本発明例)とした。
又、図2の圧延設備列を用い、被加工材=同上、回転炉加熱温度=同上、第2段階の延伸圧延開始温度=1000℃、再加熱炉温度=同上として、継目無鋼管を210本製造し、ケースB(比較例)とした。
【0015】
ケースAとケースBとで、材料割れ、ヘゲ、カブレ疵発生本数率、及び、焼付き発生本数率を比較したところ、ケースAでは、材料割れ、ヘゲ、カブレ疵発生本数率はケースBと同程度に低い値であったが、焼付き発生本数率はケースBを100とした相対値で1.8と、ケースBに比べて格段に低い値であった。
【符号の説明】
【0016】
1 回転炉(第1加熱炉)
2A ピアサー(プラグ穿孔型)
3A エロンゲータ
3B プラグミル
3C リーラー
4 再加熱炉
5A サイザー
8 誘導加熱装置
10 丸ビレット(穿孔前の被加工材)
11 管体(穿孔後の被加工材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸ビレットを加熱する第1加熱を行う回転炉等の第1加熱炉と、次いで前記加熱後の丸ビレットを穿孔して管体となすピアサーと、次いで前記穿孔してなる管体に全3段階の延伸圧延を順次施す手段として、第1段階用のエロンゲータと、第2段階用のプラグミルと、第3段階用のリーラーと、次いで前記第3段階の延伸圧延後の管体を再加熱する再加熱炉と、次いで前記再加熱後の管体を定径圧延する一群の圧延機からなるサイザーとを有し、さらに前記プラグミルの入側に、該入側を通過中の管体を全長に亘って誘導加熱する誘導加熱装置を設置してなる継目無鋼管用の圧延設備列を用いてCrを12質量%以上含有する継目無鋼管である高Cr継目無鋼管を製造する方法であって、
前記第1加熱の温度を1100〜1250℃の範囲とし、次いで前記穿孔に次ぐ前記第1段階の延伸圧延後、前記誘導加熱装置にて前記管体の温度を30〜180℃上昇させて、1030℃以上の管体温度で前記第2段階の延伸圧延を開始することを特徴とする高Cr継目無鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−99781(P2013−99781A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202875(P2012−202875)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)