説明

魚釣り用リールのスプール

【課題】質量を増加させることなく、強度、耐久性、糸放出性及び意匠性の向上させることが可能な魚釣り用リールのスプールを提供することにある。
【解決手段】スプール8は、前方側フランジ21と、後方側フランジ22と、前方側フランジ21と後方側フランジ22との間に設けられ、釣り糸が巻回される糸巻回部23とを備える樹脂製のスプール本体15と、スプール本体15の外表面に形成される金属製の層部25とを備える。層部25は、前方側フランジ21の外表面に設けられる第1の層形成部26と、糸巻回部23の外表面に設けられ、第1の層形成部26の厚さT1より厚さT2が薄い第2の層形成部27とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣り用リールのスプールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣り用リールは、操作性、保持性等を向上させるため、軽量化が求められている。このため、金属に代えて樹脂から形成したスプールを備える魚釣り用リールが用いられている。しかし、樹脂製のスプールは、金属製のスプールに比べて耐久性が低下する。このため、スプールに巻回される釣り糸と摩擦接触等することにより、スプールの外表面が損傷し易い。
【0003】
特許文献1には、樹脂製のスプール母材の外表面に金属製の皮膜層が形成されたスプールが開示されている。このスプールでは、皮膜層を設けることにより、スプールの耐久性が向上するとともに、意匠性(外観光沢)、表面平滑度を向上させている。
【0004】
特許文献2には、前方側フランジと後方側フランジとの間に糸巻回部が設けられた樹脂製のスプール本体を備えるスプールが開示されている。このスプールでは、スプール本体の前方側フランジの外表面に、金属製のカバーが固着されている。カバーはカーリング加工により、スプール本体の前方側フランジに固着される。また、カバーの外表面には、セラミックコーティング層が設けられている。以上のようにして、前方側フランジの表面硬度を向上させている。
【0005】
特許文献3には、後方側フランジの前方側に糸巻回部が設けられる樹脂製のスプール本体を備えるスプールが開示されている。このスプールでは、スプール本体の外表面に金属層が設けられている。また、スプール本体の前方側に、前方側フランジが取付けられている。前方側フランジは、スプール本体とは別部材であり、硬質材料から形成されている。前方側フランジの外表面には、超硬質コーティング処理が施されている。以上のようにして、スプールの表面強度、耐久性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−206284号公報
【特許文献2】特開平9−121728号公報
【特許文献3】特開2000−209986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のスプールでは、前方側フランジの外径が糸巻回部の外径より大きい。このため、前方側フランジには、物等が当たり易い。前方側フランジの外表面には、金属製の皮膜層が設けられているが、糸巻回部等のその他の部分に比べ強度を向上させる処理が施されているわけではない。したがって、物等が当たる頻度が高いため、前方側フランジは凹み易い。
【0008】
上記特許文献2のスプールでは、前方側フランジの後端部のカバーとスプール本体との間に隙間、段差等が形成される。この隙間、段差には、糸巻回部から放出される釣り糸が引っ掛かり易い。隙間、段差に釣り糸が引っ掛かることにより、釣り糸を放出する際の抵抗が大きくなる。また、前方側フランジに固着されるカバーは金属製であるため、スプールの質量が増加する。さらに、前方側フランジにカバーを固着する際のカーリング加工により、カバーの外表面のセラミックコーティング層が引き延ばされる。これにより、セラミックコーティング層の意匠性(外観光沢)が低下したり、セラミックコーティング層の外表面の摩擦係数が増加したりする。
【0009】
上記特許文献3のスプールでは、前方側フランジがスプール本体とは別部材で、硬質材料から形成されている。このため、前方側フランジの質量が増加する。また、前方側フランジをスプール本体に取付けるためのナット等の部品が必要となる。このため、スプールの質量が増加してしまう。
【0010】
本発明は上記課題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、質量を増加させることなく、強度、耐久性、糸放出性及び意匠性を向上させることが可能な魚釣り用リールのスプールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のある態様の魚釣り用リールのスプールは、前方側フランジと、後方側フランジと、前記前方側フランジと前記後方側フランジとの間に設けられ、釣り糸が巻回される糸巻回部とを備える樹脂製のスプール本体と、前記スプール本体の外表面に形成される金属製の層部と、を具備し、前記層部は、前記前方側フランジの外表面に設けられる第1の層形成部と、前記糸巻回部の外表面に設けられ、前記第1の層形成部より厚さが薄い第2の層形成部とを備えることを特徴とする。
【0012】
この魚釣り用リールのスプールでは、前記層部は、メッキ層と、前記メッキ層より外層側に設けられ、前記第1の層形成部の最外層となる物理蒸着層とを備えることが好ましい。
また、前記メッキ層は、前記第1の層形成部に設けられる第1のメッキ層形成部と、前記第2の層形成部に設けられ、前記第1のメッキ層形成部より厚さが薄い第2のメッキ層形成部とを備えることが好ましい。
さらに、前記前方側フランジは、前記糸巻回部側の後端面に設けられ、内周側を外周側より高く形成する段部を備え、前記物理蒸着層は、前記第1の層形成部と前記第2の層形成部との間に設けられ、外周側から前記段部に突き当たる端部を備えることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上述のスプールでは、前方側フランジの外表面に設けられる第1の層形成部の厚さを、糸巻回部の外表面に設けられる第2の層形成部の厚さより厚くしているため、第1の層形成部の剛性、強度が向上する。これにより、物等が当たった際に、前方側フランジを凹み難い構成にすることができる。また、前方側フランジに釣り糸が摩擦接触した際にも、前方側フランジが損傷し難い構成にすることができる。
【0014】
また、上述のスプールでは、前方側フランジの外表面にカバー等の別部材を取付ける構成ではないため、前方側フランジと糸巻回部との間に、釣り糸が引っ掛かり易い段差、隙間等も形成されない。このため、釣り糸放出時に、釣り糸が引っ掛かり難く、糸放出性を向上させることができる。
【0015】
また、上述のスプールでは、スプール本体が樹脂材料から形成されている。また、金属製の層部は、負荷が掛かりやすい前方側フランジの外表面に設けられる第1の層形成部のみ厚く形成している。すなわち、負荷が掛かり難く、釣り糸が摩擦接触し難い糸巻回部の外表面に設けられる第2の層形成部等は薄く形成されている。これにより、負荷に対する強度のバランスが優れた軽量のスプールを提供することができる。
【0016】
また、上述のスプールでは、第1の層形成部の最外層として、物理蒸着層が形成されている。このため、釣り糸放出時に前方側フランジに釣り糸が摩擦接触した際に、釣り糸と物理蒸着層との間の摩擦抵抗が小さくなる。これにより、糸放出性をより向上させることができる。
【0017】
また、上述のスプールのメッキ層では、第1のメッキ層形成部の厚さに比べ第2のメッキ層形成部の厚さを薄くしている。これにより、第1の層形成部の厚さより第2の層形成部の厚さが薄くなっている。メッキ層は、物理蒸着層に比べ、強度、弾性率が高く、形成するコストが低い。また、メッキ層は、複数の層から構成することが容易で、厚さの調整もし易い。したがって、メッキ層に第1のメッキ層形成部及び第2のメッキ層形成部を設けて、メッキ層の厚さを調整することにより、第1の層形成部と第2の層形成部との間で層部の厚さの調整を行い易くすることができる。
【0018】
さらに、上述のスプールでは、前方側フランジの糸巻回部側の後端面に、内周側が外周側より高い段部が形成されている。そして、物理蒸着層の端部が、外周側から段部に突き当たっている。これにより、釣り糸放出時に釣り糸が物理蒸着層の端部に引っ掛かり難くなる。したがって、糸放出性がより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣り用スピニングリールを示す概略図。
【図2】第1の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す側面図。
【図3】第1の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す断面図。
【図4】図2の矢印Z1の方向からスプール本体を視た矢視図。
【図5】図2のV−V線上で矢印Z2の方向からスプール本体を視た矢視図。
【図6】第1の実施形態に係るスプール本体の前方側フランジを示す断面図。
【図7】第1の実施形態に係るスプール本体の糸巻回部を示す断面図。
【図8】(A)は図6のX1の範囲を拡大して示す断面図、(B)は図7のY1の範囲を拡大して示す断面図。
【図9】第1の実施形態に係るスプール本体の電解メッキ処理時の状態を示す斜視図。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す側面図。
【図11】図10の矢印Z3の方向からスプール本体を視た矢視図。
【図12】第2の実施形態に係るスプール本体の前方側フランジを示す断面図。
【図13】第2の実施形態に係るスプール本体の糸巻回部を示す断面図。
【図14】(A)は図12のX2の範囲を拡大して示す断面図、(B)は図13のY2の範囲を拡大して示す断面図。
【図15】本発明の第3の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す側面図。
【図16】第3の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す断面図。
【図17】第3の実施形態に係るスプール本体の前方側フランジを示す断面図。
【図18】図17のX3の範囲を拡大して示す断面図。
【図19】本発明の第4の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す側面図。
【図20】第4の実施形態に係るスプール本体の後方側フランジを示す断面図。
【図21】第4の実施形態に係るスプール本体のスカート部を示す断面図。
【図22】本発明の第5の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す側面図。
【図23】第5の実施形態に係るスプールのスプール本体を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図1乃至図9を参照して説明する。図1は、魚釣り用スピニングリール1を示す図である。図1に示すように、魚釣り用スピニングリール1は、リール本体2を備える。リール本体2には、釣竿(図示しない)に取付けられる脚部3が設けられている。また、リール本体2には、ハンドル4が回転可能に取付けられている。
【0021】
リール本体2の内部には、ハンドル4を回転することにより回転するドライブギア5が設けられている。ドライブギア5には、ピニオンギア6が噛合されている。ピニオンギア6には、スプール軸7が軸方向に挿通されている。スプール軸7には、釣り糸(図示しない)が巻回されるスプール8が回転可能に取付けられている。
【0022】
ピニオンギア6には、ピニオンギア6と一体に回転可能なロータ9が取付けられている。ロータ9は、対向した状態で設けられる一対のアーム部10A,10Bを備える。アーム部10Aには揺動アーム11Aが、アーム部10Bには揺動アーム11Bがそれぞれ取付けられている。揺動アーム11Aにはベール12の一端が、揺動アーム11Bにはベール12の他端が連結されている。これにより、釣り糸放出状態と釣り糸巻回状態との間で回動可能にベール12が支持されている。また、揺動アーム11Aには、釣り糸案内機構であるラインローラ13が設けられている。
【0023】
また、ドライブギア5には、オシレーティング機構14が係合されている。ドライブギア5が回転することにより、オシレーティング機構14はスプール軸7を軸方向に移動させる。
【0024】
釣り糸を巻回する際には、ハンドル4を回転させることにより、ドライブギア5及びピニオンギア6を介してロータ9が回転する。また同時に、ハンドル4の回転動作がドライブギア5及びオシレーティング機構14を介してスプール軸7に伝達され、スプール軸7が軸方向に移動する。ロータ9の回転及びスプール軸7の移動により、ラインローラ13を介して釣り糸がスプール8に片寄ることなく均等に巻回される。
【0025】
スプール8は、スプール本体15と、スプール本体15の前方側に取付けられるスプールキャップ16とを備える。スプールキャップ16には、ドラグノブ17が設けられている。スプール8の内部には、ドラグ機構(図示しない)が設けられている。ドラグノブ17を回転することにより、ドラグ機構を介して、釣り糸放出時のドラグ力が所望の値に調整される。なお、本実施形態では、ドラグノブ17がスプール8の前端に設けられるフロントドラグ方式であるが、これに限るものではない。例えば、リアドラグ方式、ロータドラグ方式のドラグ機構が設けられてもよい。
【0026】
図2乃至図5は、スプール本体15を示す図である。スプール本体15は、ポリアミド樹脂、ガラス繊維強化又はカーボン繊維強化ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ等の樹脂材料から形成されている。図2乃至図5に示すように、スプール本体15は、前方側フランジ21と、後方側フランジ22とを備える。前方側フランジ21と後方側フランジ22との間には、釣り糸が巻回される糸巻回部23が設けられている。糸巻回部23の外径は、前方側フランジ21の外径及び後方側フランジ22の外径より小さい。また、後方側フランジ22の後方側には、スカート部24が設けられている。
【0027】
図6は前方側フランジ21の構成を示す図であり、図7は糸巻回部23の構成を示す図である。図8の(A)は図6のX1の範囲の拡大図であり、(B)は図7のY1の範囲の拡大図である。図8(A)(B)に示すように、スプール本体15の外表面には、金属製の層部25が形成されている。層部25は、前方側フランジ21の外表面に設けられる第1の層形成部26と、糸巻回部23の外表面に設けられ、第1の層形成部26の厚さT1より厚さT2が薄い第2の層形成部27とを備える。第1の層形成部26は図6のAで示す範囲に設けられ、第2の層形成部27は図7のBで示す範囲に設けられている。第1の層形成部26と第2の層形成部27との間には、第1の層形成部26から第2の層形成部27に向かって厚さが薄くなっている(図6のCで示す範囲)。
【0028】
ここで、第1の層形成部26の厚さT1は、第2の層形成部27の厚さT2の2倍〜12倍であることが好ましい。特に、第1の層形成部26の厚さT1は、80μm〜400μmであることが好ましく、100μm〜300μmであることがより好ましい。第1の層形成部26は外径の大きい前方側フランジ21に位置するため、厚さT1が400μmより大きい場合、質量が増加するだけでなく、スプール軸7回りの慣性モーメントが増加し、ドラグ機構のレスポンスが低下する。また、第2の層形成部27の厚さT2は、10μm〜40μmであることが好ましい。
【0029】
図8(A)(B)に示すように、層部25は、メッキ層30を備える。また、図8(A)に示すように、第1の層形成部26は、メッキ層30より外層側に設けられる物理蒸着層31を備える。メッキ層30は、ニッケル層32と、銅層33と、ニッケル層34と、クロム層35とから構成されている。メッキ層30では、内層側からニッケル層32、銅層33、ニッケル層34、クロム層35の順に配置されている。ニッケル層32は、無電解メッキ処理により形成される。銅層33、ニッケル層34及びクロム層35は、電解メッキ処理により形成されている。
【0030】
メッキ層30は、第1の層形成部26に設けられる第1のメッキ層形成部36と、第2の層形成部27に設けられる第2のメッキ層形成部37とを備える。第2のメッキ層形成部37では、第1のメッキ層形成部36に比べて、銅層33及びニッケル層34の厚さが薄くなっている。すなわち、第1のメッキ層形成部36の厚さTM1に比べ、第2のメッキ層形成部37の厚さTM2は、薄くなっている。このため、第1の層形成部26の厚さT1よりも第2の層形成部27の厚さT2が薄くなっている。なお、メッキ層30は、単一の層から構成されても、複数の層から構成されてもよいが、複数の層から構成されることが好ましい。また、メッキ層30が3つ以上の層から構成される場合、中間層(本実施形態では銅層33、ニッケル層34)の厚さを変化させることにより、第1のメッキ層形成部36の厚さTM1より第2のメッキ層形成部37の厚さTM2より薄くすることが好ましい。これにより、寸法の安定性、及び、スプール8の表面形状(例えば、溝形状の精度等)の安定性が向上し、釣り糸の巻ズレ防止、水分の放出性等のスプール8として要求される品質が向上する。
【0031】
図9は、電解メッキ処理を説明する図である。図9に示すように、電解メッキ処理時には、プラス電極41A及びマイナス電極41Bが用いられる。マイナス電極41Bは、治具42を備える。治具42は、スプール本体15のスカート部24の内部に設けられる接触部43と接している。この際、スプール本体15の接触部43には、下地となるメッキ層(図示しない)が形成されている。プラス電極41Aは、スプール本体15の前方側フランジ21の近傍に配置されている。これにより、プラス電極41Aの近傍の前方側フランジ21では、形成される層の厚さが厚くなる。以上のように、電解メッキ処理により、前方側フランジ21で銅層33、ニッケル層34の厚さを厚くすることが可能となる。なお、図9ではプラス電極41Aは板状に形成されているが、前方側フランジ21を覆う形状に形成されることが好ましい。また、プラス電極41Aを複数設け、それぞれのプラス電極41Aを前方側フランジ21の近傍の適切な位置に配置することも好ましい。
【0032】
物理蒸着層31は、第1の層形成部26の最外層となる。物理蒸着層31は、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD)により、形成される。物理蒸着層31は、第2の層形成部27には設けられていない。すなわち、図6のAで示す範囲に物理蒸着層31が設けられている。第1の層形成部26と第2の層形成部27との間には、物理蒸着層31の一方の端部が設けられている。物理蒸着層31は、薄く形成され、特に厚さが0.1μm〜5μmであることが好ましい。これにより、釣り糸放出時に釣り糸が第1の層形成部26と第2の層形成部27との間の物理蒸着層31の端部に引っ掛かり難くなる。また、物理蒸着層31は、TiN(窒化チタン)から形成されることが好ましい。これにより、スプール本体15は、表面強度が向上し、高級感のある金色の外観を有することとなる。また、物理蒸着層31は、TiC,TiAlN,TiCNから形成されてもよい。特に、摩擦係数が小さくなるため、物理蒸着層31がTiCNから形成されることは好ましい。
【0033】
そこで、上記構成のスプール8では、以下の効果を奏する。スプール8では、前方側フランジ21の外径が糸巻回部23の外径より大きい。このため、前方側フランジ21には、物等が当たり易い。そこで、スプール8では、前方側フランジ21の外表面に設けられる第1の層形成部26の厚さT1を、糸巻回部23の外表面に設けられる第2の層形成部27の厚さT2より厚くしている。このため、第1の層形成部26では、剛性、強度が向上する。特に、第1の層形成部26では、鋭利な物体が当たった際等の負荷に対する厚さ方向のせん断強度が向上する。これにより、物等が当たった際に、前方側フランジ21が凹み難い構成となる。また、前方側フランジ21に釣り糸が摩擦接触した際にも、前方側フランジ21が損傷し難い構成となる。
【0034】
また、スプール8では、第1の層形成部26の最外層である物理蒸着層31が薄く形成されている。このため、釣り糸放出時に釣り糸が第1の層形成部26と第2の層形成部27との間の物理蒸着層31の端部に、引っ掛かり難い。また、前方側フランジ21の外表面にカバー等の別部材を取付ける構成でもない。このため、前方側フランジ21と糸巻回部23との間に、釣り糸が引っ掛かり易い段差、隙間等も形成されない。このため、釣り糸放出時に、釣り糸が引っ掛かり難く、糸放出性が向上する。
【0035】
また、スプール8では、スプール本体15が樹脂材料から形成されている。また、金属製の層部25は、負荷が掛かりやすい前方側フランジ21の外表面に設けられる第1の層形成部26のみ厚く形成している。すなわち、負荷が掛かり難く、釣り糸が摩擦接触し難い糸巻回部23の外表面に設けられる第2の層形成部27等は薄く形成されている。これにより、負荷に対する強度のバランスが優れた軽量のスプール8が提供される。
【0036】
また、スプール8では、第1の層形成部26の最外層として、物理蒸着層31が形成されている。このため、釣り糸放出時に前方側フランジ21に釣り糸が摩擦接触した際に、釣り糸と物理蒸着層31との間の摩擦抵抗が小さくなる。これにより、糸放出性が向上する。また、物理蒸着層31をTiNから形成することにより、高級感のある金色の外観となり、意匠性(外観光沢)が向上する。さらに、物理蒸着層31をTiNから形成することにより、耐磨耗性が向上し、釣り糸放出時の釣り糸との間の摩擦抵抗もより小さくなる。
【0037】
なお、実験結果では、本実施形態のスプール本体15の図6のAで示す範囲(第1の層形成部26)の表面硬度は、上記特許文献2に示す手法で表面硬度を向上させた場合に比べ、約40%向上した。
【0038】
さらに、スプール8のメッキ層30では、第1のメッキ層形成部36の厚さTM1に比べ第2のメッキ層形成部37の厚さTM2を薄くしている。これにより、第1の層形成部26の厚さT1より第2の層形成部27の厚さT2が薄くなっている。メッキ層30は、物理蒸着層31に比べ、強度、弾性率が高く、形成するコストが低い。また、メッキ層30は、複数の層から構成することが容易で、厚さの調整もし易い。したがって、メッキ層30に第1のメッキ層形成部36及び第2のメッキ層形成部37を設けて、メッキ層30の厚さを調整することにより、第1の層形成部26と第2の層形成部27との間で層部25の厚さの調整が行い易い。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図10乃至図14を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の部分及び同一の機能を有する部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0040】
図10及び図11は、本実施形態のスプール本体15を示す図である。本実施形態のスプール本体15は、第1の実施形態と同様に、樹脂材料から形成されている。また、図10及び図11に示すように、スプール本体15は、前方側フランジ21と、後方側フランジ22と、糸巻回部23と、スカート部24とを備える。
【0041】
図12は前方側フランジ21の構成を示す図であり、図13は糸巻回部23の構成を示す図である。図14の(A)は図12のX2の範囲の拡大図であり、(B)は図13のY2の範囲の拡大図である。図14(A)(B)に示すように、スプール本体15の外表面には、金属製の層部25が形成されている。層部25は、前方側フランジ21の外表面に設けられる第1の層形成部26と、糸巻回部23の外表面に設けられ、第1の層形成部26の厚さT1より厚さT2が薄い第2の層形成部27とを備える。第1の層形成部26は図12のAで示す範囲に設けられ、第2の層形成部27は図13のBで示す範囲に設けられている。第1の層形成部26と第2の層形成部27との間には、第1の層形成部26から第2の層形成部27に向かって厚さが薄くなっている(図12のCで示す範囲)。
【0042】
図14(A)(B)に示すように、層部25は、メッキ層30を備える。第1の実施形態とは異なり、本実施形態では物理蒸着層31は設けられていない。メッキ層30は、第1の実施形態と同様に、ニッケル層32と、銅層33と、ニッケル層34と、クロム層35とから構成されている。
【0043】
メッキ層30は、第1の層形成部26に設けられる第1のメッキ層形成部36と、第2の層形成部27に設けられる第2のメッキ層形成部37とを備える。第2のメッキ層形成部37では、第1のメッキ層形成部36に比べて、銅層33及びニッケル層34の厚さが薄くなっている。すなわち、第1のメッキ層形成部36の厚さTM1に比べ、第2のメッキ層形成部37の厚さTM2は、薄くなっている。このため、第1の層形成部26の厚さT1よりも第2の層形成部27の厚さT2が薄くなっている。
【0044】
以上のように、本実施形態では、第1の層形成部26に物理蒸着層31が設けられていない。このため、第1の実施形態に比べて意匠性、糸放出性が低下する。しかし、第1の金属層形成部36を厚くすることにより、第1の層形成部26の厚さT1は厚くなる。このため、前方側フランジ21では、物等が当たった際の負荷に対する強度、釣り糸が摩擦接触した際の強度は確保される。
【0045】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、図15乃至図18を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の部分及び同一の機能を有する部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0046】
図15及び図16は、本実施形態のスプール本体15を示す図である。本実施形態のスプール本体15は、第1の実施形態と同様に、樹脂材料から形成されている。また、図15及び図16に示すように、スプール本体15は、前方側フランジ21と、後方側フランジ22と、糸巻回部23と、スカート部24とを備える。
【0047】
図17及び図18は、前方側フランジ21の構成を示す図である。図18に示すように、スプール本体15の外表面には、金属製の層部25が形成されている。層部25は、第1の実施形態と同様に、第1の層形成部26と、第2の層形成部27とを備える。また、層部25は、メッキ層30と、メッキ層30の外層側に設けられる物理蒸着層31とを備える。物理蒸着層31は、第1の層形成部26の最外層となる。
【0048】
図17及び図18に示すように、前方側フランジ21は、糸巻回部23側の後端面に設けられる段部51を備える。段部51では、内周側が外周側より高く形成されている。物理蒸着層31は、第1の層形成部26と第2の層形成部との間に設けられる端部52を備える。物理蒸着層31の端部52は、外周側から段部51に突き当たっている。なお、段部51での内周側と外周側との段差は、0.05mm〜1.0mmであることが好ましい。
【0049】
本実施形態では、前方側フランジ21の糸巻回部23側の後端面に、内周側が外周側より高い段部51が形成されている。そして、物理蒸着層31の端部52が、外周側から段部51に突き当たっている。これにより、釣り糸放出時に釣り糸が物理蒸着層31の端部52により引っ掛かり難くなる。したがって、糸放出性がより向上する。
【0050】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について、図19乃至図21を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の部分及び同一の機能を有する部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0051】
図19は、本実施形態のスプール本体15を示す図である。本実施形態のスプール本体15は、第1の実施形態と同様に、樹脂材料から形成されている。また、図19に示すように、スプール本体15は、前方側フランジ21と、後方側フランジ22と、糸巻回部23と、スカート部24とを備える。
【0052】
図20は後方側フランジ22の構成を示す図であり、図21はスカート部24の構成を示す図である。スプール本体15の外表面には、第1の実施形態と同様に、金属製の層部25が形成されている。層部25は、第1の実施形態と同様に、第1の層形成部26と、第2の層形成部27とを備える。第1の層形成部26には、最外層として物理蒸着層31が設けられている。
【0053】
また、図20に示すように、本実施形態の層部25は、後方側フランジ22の外表面に設けられる第3の層形成部55を備える。すなわち、図20のDで示す範囲に、第3の層形成部55が設けられている。第3の層形成部55では、メッキ層30の外層側に最外層である物理蒸着層(図示しない)が設けられている。なお、第3の層形成部55でのメッキ層30の厚さは、掛かる負荷、品質等に対応させて決定される。
【0054】
さらに、図21に示すように、本実施形態の層部25は、スカート部24の後端部の外表面に設けられる第4の層形成部56を備える。すなわち、図21のEで示す範囲に、第4の層形成部56が設けられている。第4の層形成部56では、メッキ層30の外層側に最外層である物理蒸着層(図示しない)が設けられている。なお、第4の層形成部56でのメッキ層30の厚さは、掛かる負荷、品質等に対応させて決定される。
【0055】
以上、本実施形態より、第3の層形成部55及び第4の層形成部56にも、最外層として物理蒸着層が設けられてもよい。すなわち、スプール本体15の第1の層形成部26以外の部分にも、最外層として物理蒸着層が設けられてもよい。この場合、第1の層形成部26の最外層となる物理蒸着層31以外にも、最外層となる物理蒸着層が設けられることとなる。
【0056】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について、図22及び図23を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の部分及び同一の機能を有する部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0057】
図22及び図23は、本実施形態のスプール8を示す図である。本実施形態のスプール8のスプール本体15は、第1の実施形態と同様に、樹脂材料から形成されている。また、図22及び図23に示すように、スプール本体15は、前方側フランジ21と、後方側フランジ22と、糸巻回部23と、スカート部24とを備える。
【0058】
スカート部24の後方側には、スプール本体15とは別部材の筒状部材61が設けられている。筒状部材61は、例えば金属、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等から形成されている。筒状部材61がスカート部24に接着等されることにより、筒状部材61がスプール本体15に取り付けられる。筒状部材61を設けることにより、意匠性の向上が図られる。また、筒状部材61を設けることにより、特定の釣り種において要求されるスプール8の品質への対応も可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形ができることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1…魚釣り用スピニングリール、8…スプール、15…スプール本体、21…前方側フランジ、22…後方側フランジ、23…糸巻回部、25…層部、26…第1の層形成部、27…第2の層形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方側フランジと、後方側フランジと、前記前方側フランジと前記後方側フランジとの間に設けられ、釣り糸が巻回される糸巻回部とを備える樹脂製のスプール本体と、
前記スプール本体の外表面に形成される金属製の層部と、
を具備し、
前記層部は、前記前方側フランジの外表面に設けられる第1の層形成部と、前記糸巻回部の外表面に設けられ、前記第1の層形成部より厚さが薄い第2の層形成部とを備えることを特徴とする魚釣り用リールのスプール。
【請求項2】
前記層部は、メッキ層と、前記メッキ層より外層側に設けられ、前記第1の層形成部の最外層となる物理蒸着層とを備えることを特徴とする請求項1の魚釣り用リールのスプール。
【請求項3】
前記メッキ層は、前記第1の層形成部に設けられる第1のメッキ層形成部と、前記第2の層形成部に設けられ、前記第1のメッキ層形成部より厚さが薄い第2のメッキ層形成部とを備えることを特徴とする請求項2の魚釣り用リールのスプール。
【請求項4】
前記前方側フランジは、前記糸巻回部側の後端面に設けられ、内周側を外周側より高く形成する段部を備え、
前記物理蒸着層は、前記第1の層形成部と前記第2の層形成部との間に設けられ、外周側から前記段部に突き当たる端部を備えることを特徴とする請求項2の魚釣り用リールのスプール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−65561(P2012−65561A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211234(P2010−211234)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】