説明

魚釣用スピニングリール、及びその製造方法

【課題】ロータの回転バランスの調整を容易かつ低コストで行えると共に、微調整も容易に行える魚釣用スピニングリールを提供する。
【解決手段】本発明に係る魚釣用スピニングリールは、ハンドルの巻き取り回転操作によって連動回転するロータ3と、ロータ3に設けられた釣糸案内部3dを介して釣糸が巻回されるスプールとを有する。そして、ロータ3の構成部材に、切削又は切断可能な質量調整用の突出部10を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用スピニングリールに関し、詳細には、ロータの回転バランスの向上が図れる魚釣用スピニングリール、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、魚釣用スピニングリールは、ハンドルの巻き取り回転操作によって、連動回転するロータ及び前後動するスプールを備えた構造となっており、前記ロータは、回転バランスの向上を図るように、ロータの内部に、位置調節を自在とする移動可能なバランサを設置することが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、特許文献3には、ロータ周縁部の適切な位置にバランサをネジ止めして、ロータの回転バランスの向上を図ることが可能な魚釣用スピニングリールが開示されている。
【0003】
さらに、上記した構成以外に、ロータの回転バランスが図れるように、ロータの所定位置にバランサを接着によって固定することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭52−80887号
【特許文献2】実開昭52−80888号
【特許文献3】実開平5−15767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した公知技術では、バランサの移動領域を確保したり、ネジ止めするための領域を確保する必要があり、そのための大きなスペースが必要となって設計自由度に制限がある。また、微調整するに際しては、バランサを多品種準備すると共に高い重量精度が必要とされるため、コスト上問題がある。
【0006】
さらに、接着によるバランサの固定方法では、接着されたバランサが衝撃等によって外れてしまう可能性があり、その場合、ロータ回転時の振動の問題が生じると共に、部材間に挟まって作動できなくなる可能性もある。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、ロータの回転バランスの調整を容易かつ低コストで行えると共に、微調整も容易に行える魚釣用スピニングリール、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、ハンドルの巻き取り回転操作によって連動回転するロータと、前記ロータに設けられた釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールとを有する魚釣用スピニングリールにおいて、前記ロータの構成部材に、切削又は切断可能な質量調整用の突出部を形成したことを特徴とする。
【0009】
上記した構成の魚釣用スピニングリールのロータは、複数の構成部材(ロータ本体、一対の支持アーム、カバー部材、ベール支持部材、ベールなど)によって構成されており、これらの構成部材を成形する際、予め、切削又は切断可能な質量調整用の突出部が形成される。そして、このような突出部は、組み立て時、或いはメンテナンス時などにおいて、適宜切削(切断)することで、容易に質量(質量分布)を調整することができ、最適なロータの回転バランスが得られる。また、突出部は、単に切削(切断)するだけであるため、微調整が可能であるとともに外れたりすることはなく、更には、空いたスペース部分に形成するため、バランサ用の大きなスペースが必要とされることもない。
【0010】
また、上記した課題を解決するために、本発明は、ハンドルの巻き取り回転操作によって連動回転するロータと、前記ロータに設けられた釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールとを有する魚釣用スピニングリールの製造方法において、前記ロータの構成部材を、切削又は切断可能な質量調整用の突出部を有するように成形する工程と、前記成形された構成部材を研磨する工程と、前記研磨された構成部材を表面処理する工程と、前記表面処理された構成部材の突出部を切削又は切断することで質量調整する工程と、前記質量調整された構成部材を組み立てる工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記した魚釣用スピニングリールにおけるロータの構成部材は、成形工程時、研磨工程時、表面処理工程時において、質量のばらつきが生じる可能性がある。このような質量のばらつきについては、質量検査処理や層別処理する際に、構成部材に予め形成されている質量調整用の突出部を切削又は切断することで、容易に調整(微調整)することが可能となる。この場合、質量調整する工程は、例えば質量検査において良好な結果が得られていれば、実際の切削又は切断が行われないことも含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロータの回転バランスの調整を容易かつ低コストで行えると共に、微調整も容易に行える魚釣用スピニングリールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る魚釣用スピニングリールの一実施形態を示す図。
【図2】図1に示す魚釣用スピニングリールにおいて、ロータ及びスプール部分を反対側から見た図。
【図3】ロータを示す斜視図。
【図4】ロータの一方の支持アーム部分を示しており、カバー部材を取り外した状態を示す図。
【図5】図4に示す支持アームに取着されるカバー部材の内面側を示す図。
【図6】ベール支持部材の内面側を示す図。
【図7】ロータの他方の支持アーム部分を示しており、カバー部材を取り外した状態を示す図。
【図8】図7に示す支持アームに取着されるカバー部材の内面側を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る魚釣用スピニングリールの一実施形態を示す図であり、図2は、図1に示す魚釣用スピニングリールにおいて、ロータ及びスプール部分を反対側から見た図である。最初に、これらの図を参照して、魚釣用スピニングリールの全体構成について説明する。
【0015】
魚釣用スピニングリール1は、釣竿に装着するための竿取付け部2aが形成されたリール本体2と、リール本体前方に回転可能に配されたロータ3と、ロータ3の回転運動と同期して前後動可能に配されたスプール5とを備えている。前記リール本体2には、ハンドル6が回転可能に支持されており、ハンドル6を巻き取り操作することで、リール本体2内に配設された公知の駆動力伝達機構を介して前記ロータ3は回転駆動され、かつ公知のオシレーティング機構を介して前記スプール5は前後往復駆動される。
【0016】
前記ロータ3を構成する円筒状の本体3Aには、略180°の間隔をおいて一対の支持アーム3a,3a´が対向するように形成されており、夫々の前端部には、ベール3bの基端部を取り付けたベール支持部材3c,3c´が釣糸放出位置と釣糸巻き取り位置との間で反転可能に支持されている。この場合、ベール支持部材3c,3c´は、一対の支持アーム3a,3a´の内、一方の支持アーム3a´側に設けられた公知のベール反転機構3B(図7参照)によって、釣糸放出位置と釣糸巻き取り位置に振分け保持されるようになっている。なお、ベール3bの一方の基端部は、ベール支持部材3c´に一体的に設けられた釣糸案内部3dに取り付けられている。
【0017】
上記した構成により、ハンドル6を巻き取り操作することで、ロータ3が回転駆動され、かつスプール5が前後動されるので、釣糸は、釣糸案内部3dを介してスプール5に均等に巻回される。また、釣糸を放出する場合、ベール支持部材3c,3c´を、図1に示す釣糸巻き取り位置から釣糸放出位置に反転操作して、釣糸を釣糸案内部3dから外して釣竿を振り下ろすことで行なわれる。そして、釣糸を放出した後は、再び、ベール支持部材3c,3c´を、図1に示す釣糸巻き取り位置に反転復帰させる。このとき、釣糸はベール3bによってピックアップされ、釣糸案内部3dに案内される。なお、釣糸放出位置にあるベール支持部材3c,3c´は、ハンドル6を巻き取り操作することで、釣糸巻き取り位置へ自動で反転復帰することが可能となっている。
【0018】
次に、図3から図8を参照して、図1に示すロータ構造について具体的に説明する。これらの図において、図3は、ロータを示す斜視図、図4は、ロータの一方の支持アーム部分を示しており、カバー部材を取り外した状態を示す図、図5は、図4に示す支持アームに取着されるカバー部材の内面側を示す図、図6は、ベール支持部材の内面側を示す図、図7は、ロータの他方の支持アーム部分を示しており、カバー部材を取り外した状態を示す図、そして、図8は、図7に示す支持アームに取着されるカバー部材の内面側を示す図である。
【0019】
前記ロータ3は、上述したように、複数の構成部材、すなわち、ロータ本体3A、ロータ本体3Aに対して略180°の間隔をおいて形成された一対の支持アーム3a,3a´、一対の支持アームの前端部に回動可能に支持され、それぞれベール3bの基端部を保持した反転可能なベール支持部材3c,3c´、一方のベール支持部材3c´側に設けられた釣糸案内部3d、ベール支持部材3c,3c´を釣糸放出位置と釣糸巻き取り位置との間で反転可能に振り分け保持するベール反転機構3B、及び、一対の支持アーム3a,3a´をそれぞれカバーするカバー部材3e,3e´等を備えている。なお、上記したベール反転機構3Bは、一方の支持アーム3a´とカバー部材3e´との間に配設され、カバー部材3e´を被着することで閉塞される。
【0020】
上記したロータ本体3Aは、金属や合成樹脂によって形成されており、一対の支持アーム3a,3a´と共に鋳造等によって一体成形される。このようなロータ本体3Aに対して、上記したベール反転機構3Bを組み込むと共に、ベール3bを保持した一対のベール支持部材3c,3c´を装着し、支持アーム3a,3a´に、カバー部材3e,3e´を被着することでロータ3が組み立てられる。そして、このように組み立てられたロータ3は、他の構成部品(前記スプール5及びハンドル6等)と共にリール本体2に組み付けられることで、魚釣用スピニングリール1が製造される。
【0021】
上記したロータ3の構成部材には、切削又は切断可能な質量調整用の突出部10が形成されている。この突出部10は、上記したようにロータの構成部材を成形する際、空いたスペース部分に適宜、一体形成することが可能であり、最終的にロータ(魚釣用スピニングリール)を組み立てた状態で外部に露出しない領域に一体形成される。そして、このような突出部10は、質量検査処理をする際、或いは層別処理する際に、切削したり切断することで、質量調整することが可能となっている。
【0022】
前記突出部10は、ロータ3の構成部材のいずれかに形成しておくことが可能であり、複数個所に形成しておくことで、質量調整に加え、質量分布の調整が容易に精度良く行えるようになる。例えば、図3に示すように、ロータ本体3Aの円筒部3fの底面3hに周方向に沿って複数個(4箇所)形成したり、図4に示すように、支持アーム3aの内面3mに複数個(5箇所)形成することが可能である。また、図5に示すように、カバー部材3eの内面3nに複数個(3箇所)形成したり、図6に示すように、ベール支持部材3cの内面3pに形成することも可能である。また、図7及び図8に示すように、上記したベール反転機構3Bの動作に干渉しないように、他方側の支持アーム3a´の内面3m´に複数個(2箇所)形成したり、カバー部材3e´の内面3n´に複数個(2箇所)形成することも可能である。
【0023】
上記したような突出部10については、ロータ3をユニット化する際に、突出部10を適宜切削(切断)することで、部分的な質量を減少でき、ロータの質量分布を容易かつ精度良く調整して回転バランスを向上することが可能となる。
【0024】
また、突出部10は、構成部材に対して1箇所形成したものであっても良いが(図6参照)、ロータ構成部材のいずれかの部材に複数個所形成しておくことで、質量調整に加え、質量分布の調整が容易に行えるようになる。例えば、ロータの前後方向(或いは、回転方向)に2箇所形成したことを考慮すると、いずれか一方を切削(切断)することで、同質量としながら、重心位置を変えるような調整も容易、かつ精度良く行えるようになる。
【0025】
さらに、上記したような突出部10については、ロータ3の構成部材の内、少なくとも支持アーム3a,3a´、カバー部材3e,3e´、及びベール支持部材3c,3c´のいずれかに形成しておくことが好ましい。
【0026】
これらの部材は、ロータの回転中心(スプール軸5aの位置となる)の外周側に位置することから、質量分布がロータユニットの回転バランスに与える影響が大きくなり、容易にロータの回転バランスを調整することが可能となる。また、突出部10を比較的小さく形成しても、外周側に位置するため、ロータの回転バランスを調整し易く、かつ図4から図8に示すように、外部に露出しないように突出部を形成し易い(糸絡みが生じることもない)。さらに、支持アーム、カバー部材、及びベール支持部材は、意匠性の向上を図るために、表面処理を施すことが多く、質量がばらつき易いという問題があるが、上記したような突出部10を形成しておくことにより、そのようなばらつきも容易に調整することが可能となる。
【0027】
次に、上記した構成の魚釣用スピニングリールの製造方法(特に、ロータ部分の製造方法例)について説明する。
ロータ3の構成部材(例えば、一対の支持アーム3a,3a´を有する本体3Aやカバー部材3e,3e´)については、上述したような質量調整用の突出部10を有するように、鋳造によって一体成形される。この成形工程時では、理想的な質量、及び質量分布があるものの、成形時におけるボイド(気泡)の発生、或いは構成材料の流動性の変化等によってばらつきが生じる可能性がある。
【0028】
上記したように成形された構成部材は、その表面領域に凹凸があるため、引き続きバレル研磨やバフ研磨等による研磨処理が施される。この際、研磨状態を均一に制御することは困難であり、理想的な質量、及び質量分布に対してばらつきが生じる可能性がある。
【0029】
引き続き、意匠性の向上、表面保護等を図るため、上記のように研磨された構成部材に対して、メッキ、イオンプレーティング等によって表面処理が施される。この際、表面層を均一に制御することは困難であり、理想的な質量、及び質量分布に対してばらつきが生じる可能性がある。
【0030】
以上のような処理工程時で生じ易いばらつきについては、予め形成されている突出部10を切削又は切断することで質量調整され、この質量調整については、層別の範囲、或いは、実際に個別に質量検査を行うことで任意に調整することが可能である。すなわち、必要な管理幅のなかで、単に突出している部材を切削等の処理をするだけで、質量調整(質量分布調整)が、容易かつ高精度に行うことが可能となる。
【0031】
そして、上記したように質量調整された構成部材を組み合わせることで、ロータユニットとなり、最終的な魚釣用スピニングリールが製造される。
上記したように、ロータ3の構成部材については、質量(質量分布)が調整されていることから、ロータの回転バランスが良い魚釣用スピニングリールが得られる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記した質量調整用の突出部10については、その形成位置、形成個数、高さや径(太さ)について、適宜変形することが可能であり、また、上記した切削や切断による質量調整には、突出部10を折り曲げるような手法も含まれる。また、そのような突出部10については、製造工程において、ロータ3の回転バランスを検査しながら所定の位置を切削しても良いし、アフターメンテナンス時において、理想の回転バランスとなるように切削などしても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 魚釣用スピニングリール
2 リール本体
3 ロータ
3A ロータ本体
3a,3a´ 支持アーム
3b ベール
3c,3c´ ベール支持部材
3e,3e´ カバー部材
6 ハンドル
10 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの巻き取り回転操作によって連動回転するロータと、前記ロータに設けられた釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールとを有する魚釣用スピニングリールにおいて、
前記ロータの構成部材に、切削又は切断可能な質量調整用の突出部を形成したことを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記突出部は、前記ロータの構成部材の内、少なくとも1つの部材に複数個所形成されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
前記突出部を形成する部材は、前記ロータの構成部材である支持アーム、カバー部材及びベール支持部材の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項4】
ハンドルの巻き取り回転操作によって連動回転するロータと、前記ロータに設けられた釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールとを有する魚釣用スピニングリールの製造方法において、
前記魚釣用スピニングリールの構成部材を、切削又は切断可能な質量調整用の突出部を有するように成形する工程と、
前記成形された構成部材を研磨する工程と、
前記研磨された構成部材を表面処理する工程と、
前記表面処理された構成部材の突出部を切削又は切断することで質量調整する工程と、
前記質量調整された構成部材を組み立てる工程と、
を有することを特徴とする魚釣用スピニングリールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110251(P2012−110251A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259736(P2010−259736)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】