魚釣用リール
【課題】回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造を有する魚釣用リールを提供する。
【解決手段】本発明は、リール本体に回転可能に支持されたハンドルの回転操作でスプールに釣糸を巻回可能とする魚釣用リールにおいて、リール本体1は、ピニオンギヤ7に配置されるカラー7bと、ピニオンギヤ7との間に配設される一方向クラッチ20と、一方向クラッチ20をシールするように配設されるシール機構50とを備えている。そして、シール機構50は、オイルを含浸させたリング状の不織布51を両面から保持して本体1に固定される保持部材52a,52bを備え、カラー7bと不織布51の端との間でシールしたことを特徴とする。
【解決手段】本発明は、リール本体に回転可能に支持されたハンドルの回転操作でスプールに釣糸を巻回可能とする魚釣用リールにおいて、リール本体1は、ピニオンギヤ7に配置されるカラー7bと、ピニオンギヤ7との間に配設される一方向クラッチ20と、一方向クラッチ20をシールするように配設されるシール機構50とを備えている。そして、シール機構50は、オイルを含浸させたリング状の不織布51を両面から保持して本体1に固定される保持部材52a,52bを備え、カラー7bと不織布51の端との間でシールしたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用リールに関し、詳細には、駆動軸部分に設置される防水構造に特徴を有する魚釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用リールには、駆動軸部分に配設される軸受や一方向クラッチなどをシールする防水構造が採用されており、例えば、特許文献1には、ハンドルの巻上げ効率を向上させ、かつ回転フィーリングを低下させないように、ロータ(駆動軸)と本体との間をシールするリップ付きの軸シールを備えた防水構造が開示されている。
【0003】
上記した防水構造は、リップ付きの軸シールを用いることで、高粘度のグリースの使用に代えて低粘度のグリースを使用できるようにし、これにより、抵抗を少なくしてハンドルの巻上げ効率の向上を図ると共に、海水の浸入を確実に防止して回転フィーリングの低下を防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−83533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した公知文献に開示されている軸シールは、ゴム系の弾性部材で、相手部材に接触させて防水を図るため、摩擦により回転抵抗が重くなってしまい、更には、摩擦によって磨耗することがあり、防水機能が低下することもある。すなわち、従来の防水構造では、回転の性能(軽い回転)、及び防水性と耐久性をバランス良く両立させることが難しい。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造を有する魚釣用リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用リールは、リール本体に回転可能に支持されたハンドルの回転操作でスプールに釣糸を巻回可能とする構成において、前記リール本体は、駆動部と、前記駆動部との間に配設されるシール対象部材と、前記シール対象部材をシールするように配設されるシール機構と、を備えており、前記シール機構は、オイルを含浸させたリング状の不織布を両面から保持して本体に固定される保持部材を備え、前記駆動部と前記リング状の不織布の端との間でシールしたことを特徴とする。
【0008】
上記した魚釣用リールの構成によれば、シール機構を構成している不織布に保持されているオイルによって駆動部との間でシール機能が発揮される。このため、駆動部との間で回転抵抗が小さい状態でシール機能が発揮されるようになり、また、オイルは、リング状の不織布に含浸されて表面に保持された状態にあるので、長期に亘って安定したシール機能が発揮される。
【0009】
上記した構成において、駆動部は、回転する駆動軸、軸方向に摺動する駆動軸、或いは、そのような駆動軸と共に一体回転したり一体摺動する部材等が含まれる。また、シール対象部材は、前記駆動軸を支持する軸受や一方向クラッチ等が含まれる。さらに、保持部材に保持されるリング状の不織布については、保持部材に対して固定された状態であっても良いし、移動可能となるように遊度を持たせたものであっても良い。すなわち、遊度があっても、不織布はリング状に構成されて、その開口部分に駆動部が挿通された状態にあるため、駆動部の表面との間では、オイル膜が形成された状態を維持することが可能となり、駆動部と不織布との接触をソフト(摩擦抵抗が小さい)にすることが可能となる。
【0010】
さらに、前記リング状の不織布の内径(開口の径)をD1、前記駆動部の外径をD2としたとき、D1−D2=0〜0.3mmに設定することで、リング状の不織布の耐久性を低下させることなく摩擦抵抗を低下(回転性能の向上)させることが可能となり、かつ、オイル膜を維持(防水性能を維持)することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造を有する魚釣用リールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る魚釣用リールの一実施形態(スピニングリール)を示す図であり、内部構成を示した図。
【図2】図1の主要部の拡大図。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図。
【図4】シール機構の拡大図。
【図5】シール機構のシール状態を説明する図。
【図6】シール機構の第1の変形例を示す拡大図。
【図7】図6に示すシール機構のシール状態を説明する図。
【図8】シール機構の第2の変形例を示す拡大図。
【図9】図8に示すシール機構のシール状態を説明する図。
【図10】シール機構の第3の変形例を示す拡大図。
【図11】図10に示すシール機構のシール状態を説明する図。
【図12】図11において、オイル状態を模式的に示す図。
【図13】リング状の不織布の肉厚と保持部材の間隔との関係(L−T)、リング状の不織布の開口とカラー外周面との隙間(D1−D2)、及びリング状の不織布の肉厚(T)を種々変形したサンプルを作成し、それぞれ回転性能、防水性、耐久性、及び生産性について行った評価試験の結果を示す表。
【図14】リング状の不織布の厚みを変えた評価試験の結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る魚釣用リールの実施形態について説明する。
図1から図5は、本発明に係る魚釣用リール(スピニングリール)の一実施形態を示す図であり、図1は、内部構成を示した図、図2は、図1の主要部の拡大図、図3は、図2のA−A線に沿った断面図、図4は、シール機構の拡大図、そして、図5は、シール機構のシール状態を説明する図である。
【0014】
スピニングリールのリール本体1には、ハンドル軸2が軸受を介して回転可能に支持されており、ハンドル軸2の端部には、巻き取り操作されるハンドル3が装着されている。前記ハンドル軸2には、駆動歯車(ドライブギヤ)4が一体回転可能となるように取り付けられており、前記駆動歯車4には、ハンドル軸2に対して直交する方向に延出し、軸受5a,5bを介して回転可能に支持されたピニオンギヤ(駆動部を構成する)7の歯部7aが噛合している。ピニオンギヤ7の先端部には、ロータナット8を螺合することで、ベール9aおよび釣糸案内装置9bを備えたロータ9が一体回転するように取り付けられている。
【0015】
前記ピニオンギヤ7は、軸方向に沿って貫通しており、その内部には、先端に釣糸が巻回されるスプール10を保持したスプール軸11が挿通されている。このスプール軸11の基端側には、公知のオシレーティング機構(図示せず)が連結されており、前記ハンドル軸2がハンドル3の回転操作によって回転されたとき、スプール軸11は軸方向に沿って往復駆動される。この場合、スプール軸11には、前記ロータ9をピニオンギヤ7に固定するロータナット8を回転可能に支持するように、ロータナット8との間に軸受13が介在されている。詳細には、スプール軸11は、ピニオンギヤ7の先端縁に設置されるカラー部材15に挿通されており、軸受13は、カラー部材15とロータナット8との間に介在されている。
【0016】
また、前記ピニオンギヤ7の中間部には、一方向クラッチ20が設置されており、リール本体1の外部に設けられた切換操作レバー28を回動操作することで、一方向クラッチを作動させ、ハンドル3(ロータ9)の釣糸繰り出し方向の逆回転を防止する公知の逆転防止機構(ストッパ)を構成している。
【0017】
この場合、前記一方向クラッチ20は、ピニオンギヤ7に対して回り止め嵌合される内輪21と、内輪21の外側に配された保持器22と、保持器22の外側に配された外輪23と、外輪23の内側で前記保持器22によって転動可能に保持された複数の転がり部材(コロ)25とを備えている。前記外輪23の内周面には、各転がり部材25をフリー回転可能にするフリー回転領域と、その回転を阻止する楔領域が形成されており、各転がり部材25は、保持器22に設けられたバネ部材によって楔領域に付勢されている。
【0018】
前記外輪23は、保持器22の径方向外側に同心的に配置される回り止めプレート26によってリール本体1に対する回転が阻止されている。この回り止めプレート26の周方向の一部には、径方向に突出する係止凸部26aが形成されており、この係止凸部26aが外輪23に形成されている切欠き23aを介してリール本体1に形成された係止溝1aに係止されることで、外輪23はリール本体1に対して回り止めされている。
【0019】
上記した構成の一方向クラッチ20において、ピニオンギヤ7と共に内輪21が正回転(ロータ9が釣糸巻き取り方向に回転)すると、保持器22の転がり部材25が外輪23のフリー回転領域に位置され、そのため、内輪21の回転力が外輪23に伝達されず(外輪23によって阻止されず)、したがって、ピニオンギヤ7と共にロータ9が支障なく回転する。これに対して、ピニオンギヤ7と共に内輪21が逆回転(ロータ9が釣糸繰り出し方向に回転)しようとすると、保持器22の転がり部材25が外輪23の楔領域に位置するため、これがストッパとなってピニオンギヤ7及びロータ9の回転(逆回転)が阻止される。
【0020】
また、上記した一方向クラッチ20による逆転防止機構の作動は、前記リール本体1の外部に設けられた切換操作レバー28を回動操作することで、切換え制御できるようになっている。具体的には、切換操作レバー28は、リール本体内でスプール軸11と略平行に延びる切換えカム28aを有しており、この切換えカム28aの先端突部28bは、作動アーム29の係合孔29aに係合している。この場合、作動アーム29は、外輪23に形成される切欠きを通じて保持器22に連結されている。したがって、この構成では、切換操作レバー28を回動操作することにより、切換えカム28aおよび作動アーム29を介して保持器22を回動することができ、保持器22に保持される転がり部材25をバネ部材の付勢力に抗して外輪23のフリー回転領域に強制的に保持させる逆転可能位置(ロータ9を逆回転させることができる位置)と、転がり部材25をバネ部材の付勢力によって外輪23の楔領域に位置させるようにする逆転防止位置(ロータ9の逆回転を防止する位置)との間で選択的に切換えることが可能となる。
【0021】
次に、上記したように構成されるスピニングリール内に配設されるシール機構について説明する。なお、本実施形態のシール機構は、上記した一方向クラッチ20等をシール対象部材としてシールするよう構成されている。
【0022】
図2及び図4に示されるように、リール本体1には、ハンドル3の操作で連動回転する駆動部としてのピニオンギヤ7(及び/又は、これと一体に回転する内輪21)を部分的に収容して軸受5aにより支持する収容凹部1Aが凹状に形成されている。また、収容凹部1Aは、前述した逆転防止機構の一方向クラッチ20を内部に位置決め状態で収容保持する(収容凹部1A内に逆転防止機構が設けられる)とともに、スプール10側に面する前方側に開口1Bを有している。この開口1Bには、図2において矢印で示されるルートを経て水分や異物等が侵入する虞があるため、開口1Bがカバー部材30によって部分的に閉じられるとともに、カバー部材30によって部分的に残された開口部30aには、シール機構50が設けられている。また、このカバー部材30は、その外周端部が止めネジ32によってリール本体1に取り付けられるとともに、カバー部材30の外周端部の内面とリール本体1の取り付け端面との間にはシール部材33が介挿されている。
【0023】
前記シール機構50は、開口部30aをシールする機能を有するものであり、本実施形態では、ピニオンギヤ7の外周面に設けられる位置決め用の筒状のカラー(駆動部となる)7bとの間で油膜を形成し、開口部30aをシールする機能を有する。なお、シール機構50によってシールされる部分は、位置決め用のカラー7bを配設しない構成であれば、直接、ピニオンギヤ7の外周面との間でシールをするようにしても良い。また、カラー7bは、ピニオンギヤ7と一体回転するように回り止め嵌合(円形嵌合支持)することにより、ピニオンギヤ7の外周との間に水分等が侵入することを効果的に抑制することが可能である。
【0024】
前記収容凹部1A内をシールするシール機構50は、カラー7bが挿通されるリング状の不織布51と、リング状の不織布51を両面から保持してリール本体1(カバー部材30)に固定される保持部材52a,52bとを備えている。この場合、リング状の不織布51は、保持部材52a,52bに対して固着されており、その中心領域に形成された開口51aにカラー7bが挿通して、カラー7bの外周面と開口51aの内面(不織布の端)との間でシールがされるようになっている。なお、カラー7bの外周面と開口51aの内面との隙間は、カラー(駆動部)7bが抵抗なく回転できる状態が確保されているのが好ましく、0mm以上であることが好ましい(本実施形態では、略0mmに設定されている)。すなわち、前記リング状の不織布の内径(開口51aの径)をD1、カラー7bの外径をD2としたとき、D1−D2が0mm以上に設定されていれば、大きな回転抵抗を生じさせることはない。
【0025】
前記リング状の不織布51は、例えば、フェルト(羊毛布)、合成繊維布などによって構成されており、繊維を織らずに絡み合わせた開口51aを有するシート状の部材となっている。リング状の不織布51は、予め保持部材52a,52b間に挟着されて1つのユニットとして構成しておくことが可能であり、リール本体1からカバー部材30を外せば、カバー部材30と共にシール機構50を一体的に外すことが可能となる。
【0026】
なお、本実施形態の保持部材52a,52bは、リング状の不織布51を挟持し、且つリング状の不織布51の内側を径方向内側に突出させるように保持しており、基端側で、カバー部材30の内周当接面に当て付いて支持されている。この場合、リング状の不織布51は、カバー部材30の内周当接面との間で隙間Sが生じるように保持部材52a,52bに対して固着されており、後述するようにオイルを含浸した際のオイル溜り領域を形成している。
【0027】
また、保持部材52a,52bは、保持部材52a側(シール対象部材側)において対面接触し且つカバー部材30の内面に取着される支持板35と、保持部材52b側(シール対象部材と反対側)において対面接触するカバー部材30との間で挟圧保持されており、カバー部材30と保持部材52bとの間にはシール部材36が介挿されている。保持部材52a,52bは、カラー7bの外表面との間に僅かな隙間Gを生じさせ、かつその隙間Gに、リング状の不織布51が突出するように支持している。
【0028】
前記リング状の不織布51には、オイル55が含浸されている。このオイル55は、カラー7bの表面との間で油膜を形成して、外部から異物が侵入するのを防止できる程度に含浸されたものであれば良く、シリコン系オイル、フッ素系オイル等を使用することが可能である。また、このオイル55は、シール対象部材(本実施形態では、一方向クラッチ20)のオイルと同じものを使用することで、シール対象部材の性能を維持することが可能となる。
【0029】
上記した構成のシール機構50によれば、リング状の不織布51の表面領域の繊維が絡み合った状態で露出しているため、この部分でオイル55が流出することなく保持された状態になる。すなわち、図5に示すように、収容凹部1A内は、リング状の不織布51の表面に保持されるオイル55の油膜及びリング状の不織布51によってシールされた状態となり、外部側からの異物(海水、砂など)の侵入を確実に防止することが可能となる。この場合、上記したように、保持部材52a,52bは、カラー7bの外表面との間に僅かな隙間Gを生じさせているので、オイル55は、その表面張力によっても保持状態が維持され、流出するようなことはない。さらに、本実施形態では、リング状の不織布51は、カバー部材30の内周当接面との間で隙間Sが生じるように保持部材52a,52bに対して固着されているため、オイル溜り領域が形成され、これにより、リング状の不織布51をオイルリッチ状態に維持しておくことが可能となり、長期に亘って安定したシール効果を発揮することが可能となる。
【0030】
さらに、カラー7bの外周面と開口51aの内面との隙間は、上記したように、略0mmに設定されており、リング状の不織布51の開口側が変形して当て付いていないため、回転抵抗が小さくなり、これにより、回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造とすることが可能となる。
【0031】
なお、上記した構成では、回転抵抗が小さくなるように、D1−D2を0mm以上にしておくことが好ましいが、あまり大きくし過ぎると、カラー7bの外周面と開口51aの内面との隙間で表面張力が低下してオイル膜が十分に形成されなくなってしまう。このため、具体的には、D1−D2が0〜0.3mm、特に、0.05〜0.2mmに設定しておくことが好ましい。
【0032】
このような関係に設定しておくことにより、リング状の不織布51とカラー7bとの間の摩擦抵抗(回転抵抗)を低減して回転性能を高くしつつ、隙間内の表面張力でオイル55を有効に保持することができ、回転性能と防水性のバランスを高い状態にすることが可能となる。また、リング状の不織布51とカラー7bとの接触がないため、摩擦が生じることもなく、長期間に亘ってシール機構50の性能を維持することが可能となる。
【0033】
図6及び図7は、シール機構の第1の変形例を示す図である。なお、以下に説明する変形例では、上記したシール機構と同一の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を簡略、もしくは省略する。
【0034】
図6及び図7に示すシール機構50Aは、リング状の不織布51の内径(開口51aの径)をD1、カラー7bの外径をD2としたとき、(D1−D2)が0mm未満となるように設定した例を示している。このような構成では、図6に示すように、リング状の不織布51の開口51aの周囲がスラスト方向に膨出した状態でカラー7bの外周面に当接することから、カラー7bの回転に多少の抵抗が作用するが、図7に示すように、オイル55のみならず、開口51aの周囲がカラー7bの外周面に確実に密着するため、シール効果をより向上することが可能となる。この場合、上記した(D1−D2)については、−0.2mm程度までは、回転性能を大きく低下させることなく、シール効果を高めることが可能である。
【0035】
図8及び図9は、シール機構の第2の変形例を示す図である。
これらの図に示すシール機構50Bは、上記した実施形態において、リング状の不織布51を、保持部材52a,52b間において移動可能となるように遊度を持たせて保持している。すなわち、上記した実施形態では、リング状の不織布51は、その両面側において、保持部材52a,52bに固着されていたが(図4参照)、本実施形態では、(保持部材52a,52b間の距離;L)>(リング状の不織布51の厚みT)となるように設定し、リング状の不織布51は、保持部材52a,52b間において、スラスト方向に移動可能となるように保持されている。この場合、カラー7bが回転することで、リング状の不織布51と保持部材52a,52bとの間では、スラスト方向の隙間が広がったり狭まったりするものの、そのような隙間はオイル55の存在によって閉塞され、シール性は維持される。
【0036】
このように、リング状の不織布51と保持部材52a,52bとの間で遊度を持たせたことによって、カラー7b(駆動部)に対する抵抗を小さくすることができ、回転性能が低下しなくなる。すなわち、前記遊度によって、不織布と駆動部との接触がソフトになり(磨耗が少なくなる)、長期間に亘って、シール性能を維持することが可能となる。また、駆動部の回転性能が高くなることで、肉厚な不織布を使用することもでき、より耐久性の向上を図ることが可能となる。さらに、このような構成では、リング状の不織布51を保持部材52a,52bに対して固着する必要がないため、精密な芯出しをする必要性がなくなり、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
なお、このような遊度を持たせる構成では、上記した(L−T)は、0.1〜0.5mmに設定することが好ましい。すなわち、0.1mm未満にすると、回転性能が低下する傾向となり、0.5mmを超えると、オイル55による防水性能が低下する傾向となるため、上記した範囲に設定することで、回転性能と防水性のバランスを高い状態にすることが可能となる。
【0038】
図10及び図11は、シール機構の第3の変形例を示す図である。
これらの図に示すシール機構50Cは、上記した第2の変形例において、リング状の不織布51を、保持部材52a,52b間において移動可能となるように遊度を持たせると共に、リング状の不織布51の内径(開口51aの径)をD1、カラー7bの外径をD2としたとき、(D1−D2)が0mmより大きくなるように設定した例を示している。
【0039】
このような構成では、リング状の不織布51は、保持部材52a,52b間において、スラスト方向に移動可能であり、かつ、径方向にも移動可能に保持されているため、摩擦力の低減が図れると共に、芯出し作業が軽減され、生産性をより向上することが可能となる。
【0040】
なお、このような構成では、カラー7bが回転することで、リング状の不織布51と保持部材52a,52bとの間では、スラスト方向での隙間が広がったり狭まったりし、かつ開口51aの内面とカラー7bの外周面との間の隙間が径方向に広がったり狭まったりするものの、図12に示すように、リング状の不織布51の表面領域の繊維は、絡み合った状態で露出していることから、オイル55はこの部分における毛細管力や、対向部材(保持部材52a,52b及びカラー7b)の表面張力によって、流出するようなことなく保持された状態になる。すなわち、リング状の不織布51が、保持部材52a,52bに対して遊度を持って移動可能に保持されていても、シール効果を維持することが可能となる。
【0041】
図13及び図14は、上述した実施形態において、リング状の不織布51の肉厚(T)と保持部材52a,52bの距離(L)との関係(L−T;条件A)、リング状の不織布51の開口51aの径(D1)とカラー外周面の径(D2)との隙間(D1−D2;条件B)、及びリング状の不織布51の肉厚(T;条件C)を種々変形したサンプルを作成し、それぞれ回転性能、防水性、耐久性、及び生産性について行った評価試験の結果を示す表である。これらの表において、数値単位は、全て(mm)であり、良好なものから順に、◎、○、△、×で評価した。
【0042】
サンプル1からサンプル8は、図4から図7に示した構造に対応しており、リング状の不織布51の厚さを一定(0.6mm)として保持部材52a,52bに固着した状態で(L−T=0)、リング状の不織布の開口51aとカラー7bの外周面との間の距離(D1−D2)を変化させたものである。
【0043】
サンプル1及び2の構成では、図6及び図7に示したように、リング状の不織布51の開口51aの周囲がスラスト方向に膨出してカラー7bの回転に多少の抵抗が作用するため、回転性能及び耐久性は良くないが、シール性(防水性)に優れた結果が得られた。また、サンプル3から8のように、(D1−D2)が0mm以上になると、回転性能、及び耐久性の向上が図れ、かつシール性については、大きく低下しない効果が得られた。ただし、サンプル8のように、隙間が0.4mmを超えると、シール性が多少、低下する傾向となった。
【0044】
このため、リング状の不織布51を保持部材52a,52bに固着する構成では、(D1−D2)が0〜0.3mm程度にすることが好ましく、特に、0.05〜0.2mm程度に設定することが好ましい。
【0045】
サンプル9からサンプル14は、図8から図11に示した構造に対応しており、リング状の不織布51の厚さを一定(0.6mm)として保持部材52a,52bに対して遊度を持たせつつ、(L−T=0.1〜0.7mm)、リング状の不織布の開口51aとカラー7bの外周面との間の距離(D1−D2)を変化させたものである。
【0046】
このような構成では、リング状の不織布51を保持部材52a,52bに対して固着することなく、移動可能に保持させておくだけで良いため、生産性の向上が図れると共に、回転性能及び耐久性の向上が図れるようになる。また、サンプル9〜11のように、(D1−D2)を0mm未満にしてシール性(防水性)を高めても、回転性能を低下させない効果が得られた。ただし、サンプル13,14のように、遊度(L−T)が大きくなりすぎると防水性が低下する傾向となるため、(L−T)については0.5mm以下に設定しておくことが好ましい。
【0047】
図14の表のサンプル15,16は、リング状の不織布51の肉厚を変えて、上記したサンプル2,11と比較したものである。肉厚は、薄くすると回転性能の向上が図れるものの、防水性、及び耐久性の面で低下し、厚くすると防水性、及び耐久性の向上が図れるものの、回転性能が低下する傾向となる。
【0048】
リング状の不織布の肉厚に関しては、上記したサンプル1から14に示したように、0.6mm程度、好ましくは0.6±0.2mm程度に設定することで、回転性能、防水性、及び耐久性においてバランスの良いシール構造を構築し易くなる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形して実施することが可能である。
【0050】
上述した構成のシール機構は、各種の魚釣用リールの軸受部分など、シールを必要とする部材(シール対象部材)に隣接して設置することが可能であり、リールの種別や、シール対象部材が設置される部分については、特に限定されるものではない。
また、シール機構が配設される駆動部については、上述したような回転する部材に限らず、スプール軸のように軸方向に摺動する駆動軸、或いは、そのような駆動軸と共に一体回転したり一体摺動する部材等であっても良い。また、上述した構成において、リング状の不織布51は、リール本体に対して保持されたものであれば良く、その保持方法(保持部材の構成)、構成繊維の種類、及び使用されるオイルの構成や含浸量など適宜変形することが可能である。
さらに、上記した実施形態及び変形例のシール機構の構成については、適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1リール本体
3 ハンドル
7 ピニオンギヤ(駆動部)
7b カラー(駆動部)
10 スプール
20 一方向クラッチ(シール対象部材)
50,50A,50B,50C シール機構
51 リング状の不織布
52a,52b 保持部材
55 オイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用リールに関し、詳細には、駆動軸部分に設置される防水構造に特徴を有する魚釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用リールには、駆動軸部分に配設される軸受や一方向クラッチなどをシールする防水構造が採用されており、例えば、特許文献1には、ハンドルの巻上げ効率を向上させ、かつ回転フィーリングを低下させないように、ロータ(駆動軸)と本体との間をシールするリップ付きの軸シールを備えた防水構造が開示されている。
【0003】
上記した防水構造は、リップ付きの軸シールを用いることで、高粘度のグリースの使用に代えて低粘度のグリースを使用できるようにし、これにより、抵抗を少なくしてハンドルの巻上げ効率の向上を図ると共に、海水の浸入を確実に防止して回転フィーリングの低下を防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−83533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した公知文献に開示されている軸シールは、ゴム系の弾性部材で、相手部材に接触させて防水を図るため、摩擦により回転抵抗が重くなってしまい、更には、摩擦によって磨耗することがあり、防水機能が低下することもある。すなわち、従来の防水構造では、回転の性能(軽い回転)、及び防水性と耐久性をバランス良く両立させることが難しい。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造を有する魚釣用リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用リールは、リール本体に回転可能に支持されたハンドルの回転操作でスプールに釣糸を巻回可能とする構成において、前記リール本体は、駆動部と、前記駆動部との間に配設されるシール対象部材と、前記シール対象部材をシールするように配設されるシール機構と、を備えており、前記シール機構は、オイルを含浸させたリング状の不織布を両面から保持して本体に固定される保持部材を備え、前記駆動部と前記リング状の不織布の端との間でシールしたことを特徴とする。
【0008】
上記した魚釣用リールの構成によれば、シール機構を構成している不織布に保持されているオイルによって駆動部との間でシール機能が発揮される。このため、駆動部との間で回転抵抗が小さい状態でシール機能が発揮されるようになり、また、オイルは、リング状の不織布に含浸されて表面に保持された状態にあるので、長期に亘って安定したシール機能が発揮される。
【0009】
上記した構成において、駆動部は、回転する駆動軸、軸方向に摺動する駆動軸、或いは、そのような駆動軸と共に一体回転したり一体摺動する部材等が含まれる。また、シール対象部材は、前記駆動軸を支持する軸受や一方向クラッチ等が含まれる。さらに、保持部材に保持されるリング状の不織布については、保持部材に対して固定された状態であっても良いし、移動可能となるように遊度を持たせたものであっても良い。すなわち、遊度があっても、不織布はリング状に構成されて、その開口部分に駆動部が挿通された状態にあるため、駆動部の表面との間では、オイル膜が形成された状態を維持することが可能となり、駆動部と不織布との接触をソフト(摩擦抵抗が小さい)にすることが可能となる。
【0010】
さらに、前記リング状の不織布の内径(開口の径)をD1、前記駆動部の外径をD2としたとき、D1−D2=0〜0.3mmに設定することで、リング状の不織布の耐久性を低下させることなく摩擦抵抗を低下(回転性能の向上)させることが可能となり、かつ、オイル膜を維持(防水性能を維持)することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造を有する魚釣用リールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る魚釣用リールの一実施形態(スピニングリール)を示す図であり、内部構成を示した図。
【図2】図1の主要部の拡大図。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図。
【図4】シール機構の拡大図。
【図5】シール機構のシール状態を説明する図。
【図6】シール機構の第1の変形例を示す拡大図。
【図7】図6に示すシール機構のシール状態を説明する図。
【図8】シール機構の第2の変形例を示す拡大図。
【図9】図8に示すシール機構のシール状態を説明する図。
【図10】シール機構の第3の変形例を示す拡大図。
【図11】図10に示すシール機構のシール状態を説明する図。
【図12】図11において、オイル状態を模式的に示す図。
【図13】リング状の不織布の肉厚と保持部材の間隔との関係(L−T)、リング状の不織布の開口とカラー外周面との隙間(D1−D2)、及びリング状の不織布の肉厚(T)を種々変形したサンプルを作成し、それぞれ回転性能、防水性、耐久性、及び生産性について行った評価試験の結果を示す表。
【図14】リング状の不織布の厚みを変えた評価試験の結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る魚釣用リールの実施形態について説明する。
図1から図5は、本発明に係る魚釣用リール(スピニングリール)の一実施形態を示す図であり、図1は、内部構成を示した図、図2は、図1の主要部の拡大図、図3は、図2のA−A線に沿った断面図、図4は、シール機構の拡大図、そして、図5は、シール機構のシール状態を説明する図である。
【0014】
スピニングリールのリール本体1には、ハンドル軸2が軸受を介して回転可能に支持されており、ハンドル軸2の端部には、巻き取り操作されるハンドル3が装着されている。前記ハンドル軸2には、駆動歯車(ドライブギヤ)4が一体回転可能となるように取り付けられており、前記駆動歯車4には、ハンドル軸2に対して直交する方向に延出し、軸受5a,5bを介して回転可能に支持されたピニオンギヤ(駆動部を構成する)7の歯部7aが噛合している。ピニオンギヤ7の先端部には、ロータナット8を螺合することで、ベール9aおよび釣糸案内装置9bを備えたロータ9が一体回転するように取り付けられている。
【0015】
前記ピニオンギヤ7は、軸方向に沿って貫通しており、その内部には、先端に釣糸が巻回されるスプール10を保持したスプール軸11が挿通されている。このスプール軸11の基端側には、公知のオシレーティング機構(図示せず)が連結されており、前記ハンドル軸2がハンドル3の回転操作によって回転されたとき、スプール軸11は軸方向に沿って往復駆動される。この場合、スプール軸11には、前記ロータ9をピニオンギヤ7に固定するロータナット8を回転可能に支持するように、ロータナット8との間に軸受13が介在されている。詳細には、スプール軸11は、ピニオンギヤ7の先端縁に設置されるカラー部材15に挿通されており、軸受13は、カラー部材15とロータナット8との間に介在されている。
【0016】
また、前記ピニオンギヤ7の中間部には、一方向クラッチ20が設置されており、リール本体1の外部に設けられた切換操作レバー28を回動操作することで、一方向クラッチを作動させ、ハンドル3(ロータ9)の釣糸繰り出し方向の逆回転を防止する公知の逆転防止機構(ストッパ)を構成している。
【0017】
この場合、前記一方向クラッチ20は、ピニオンギヤ7に対して回り止め嵌合される内輪21と、内輪21の外側に配された保持器22と、保持器22の外側に配された外輪23と、外輪23の内側で前記保持器22によって転動可能に保持された複数の転がり部材(コロ)25とを備えている。前記外輪23の内周面には、各転がり部材25をフリー回転可能にするフリー回転領域と、その回転を阻止する楔領域が形成されており、各転がり部材25は、保持器22に設けられたバネ部材によって楔領域に付勢されている。
【0018】
前記外輪23は、保持器22の径方向外側に同心的に配置される回り止めプレート26によってリール本体1に対する回転が阻止されている。この回り止めプレート26の周方向の一部には、径方向に突出する係止凸部26aが形成されており、この係止凸部26aが外輪23に形成されている切欠き23aを介してリール本体1に形成された係止溝1aに係止されることで、外輪23はリール本体1に対して回り止めされている。
【0019】
上記した構成の一方向クラッチ20において、ピニオンギヤ7と共に内輪21が正回転(ロータ9が釣糸巻き取り方向に回転)すると、保持器22の転がり部材25が外輪23のフリー回転領域に位置され、そのため、内輪21の回転力が外輪23に伝達されず(外輪23によって阻止されず)、したがって、ピニオンギヤ7と共にロータ9が支障なく回転する。これに対して、ピニオンギヤ7と共に内輪21が逆回転(ロータ9が釣糸繰り出し方向に回転)しようとすると、保持器22の転がり部材25が外輪23の楔領域に位置するため、これがストッパとなってピニオンギヤ7及びロータ9の回転(逆回転)が阻止される。
【0020】
また、上記した一方向クラッチ20による逆転防止機構の作動は、前記リール本体1の外部に設けられた切換操作レバー28を回動操作することで、切換え制御できるようになっている。具体的には、切換操作レバー28は、リール本体内でスプール軸11と略平行に延びる切換えカム28aを有しており、この切換えカム28aの先端突部28bは、作動アーム29の係合孔29aに係合している。この場合、作動アーム29は、外輪23に形成される切欠きを通じて保持器22に連結されている。したがって、この構成では、切換操作レバー28を回動操作することにより、切換えカム28aおよび作動アーム29を介して保持器22を回動することができ、保持器22に保持される転がり部材25をバネ部材の付勢力に抗して外輪23のフリー回転領域に強制的に保持させる逆転可能位置(ロータ9を逆回転させることができる位置)と、転がり部材25をバネ部材の付勢力によって外輪23の楔領域に位置させるようにする逆転防止位置(ロータ9の逆回転を防止する位置)との間で選択的に切換えることが可能となる。
【0021】
次に、上記したように構成されるスピニングリール内に配設されるシール機構について説明する。なお、本実施形態のシール機構は、上記した一方向クラッチ20等をシール対象部材としてシールするよう構成されている。
【0022】
図2及び図4に示されるように、リール本体1には、ハンドル3の操作で連動回転する駆動部としてのピニオンギヤ7(及び/又は、これと一体に回転する内輪21)を部分的に収容して軸受5aにより支持する収容凹部1Aが凹状に形成されている。また、収容凹部1Aは、前述した逆転防止機構の一方向クラッチ20を内部に位置決め状態で収容保持する(収容凹部1A内に逆転防止機構が設けられる)とともに、スプール10側に面する前方側に開口1Bを有している。この開口1Bには、図2において矢印で示されるルートを経て水分や異物等が侵入する虞があるため、開口1Bがカバー部材30によって部分的に閉じられるとともに、カバー部材30によって部分的に残された開口部30aには、シール機構50が設けられている。また、このカバー部材30は、その外周端部が止めネジ32によってリール本体1に取り付けられるとともに、カバー部材30の外周端部の内面とリール本体1の取り付け端面との間にはシール部材33が介挿されている。
【0023】
前記シール機構50は、開口部30aをシールする機能を有するものであり、本実施形態では、ピニオンギヤ7の外周面に設けられる位置決め用の筒状のカラー(駆動部となる)7bとの間で油膜を形成し、開口部30aをシールする機能を有する。なお、シール機構50によってシールされる部分は、位置決め用のカラー7bを配設しない構成であれば、直接、ピニオンギヤ7の外周面との間でシールをするようにしても良い。また、カラー7bは、ピニオンギヤ7と一体回転するように回り止め嵌合(円形嵌合支持)することにより、ピニオンギヤ7の外周との間に水分等が侵入することを効果的に抑制することが可能である。
【0024】
前記収容凹部1A内をシールするシール機構50は、カラー7bが挿通されるリング状の不織布51と、リング状の不織布51を両面から保持してリール本体1(カバー部材30)に固定される保持部材52a,52bとを備えている。この場合、リング状の不織布51は、保持部材52a,52bに対して固着されており、その中心領域に形成された開口51aにカラー7bが挿通して、カラー7bの外周面と開口51aの内面(不織布の端)との間でシールがされるようになっている。なお、カラー7bの外周面と開口51aの内面との隙間は、カラー(駆動部)7bが抵抗なく回転できる状態が確保されているのが好ましく、0mm以上であることが好ましい(本実施形態では、略0mmに設定されている)。すなわち、前記リング状の不織布の内径(開口51aの径)をD1、カラー7bの外径をD2としたとき、D1−D2が0mm以上に設定されていれば、大きな回転抵抗を生じさせることはない。
【0025】
前記リング状の不織布51は、例えば、フェルト(羊毛布)、合成繊維布などによって構成されており、繊維を織らずに絡み合わせた開口51aを有するシート状の部材となっている。リング状の不織布51は、予め保持部材52a,52b間に挟着されて1つのユニットとして構成しておくことが可能であり、リール本体1からカバー部材30を外せば、カバー部材30と共にシール機構50を一体的に外すことが可能となる。
【0026】
なお、本実施形態の保持部材52a,52bは、リング状の不織布51を挟持し、且つリング状の不織布51の内側を径方向内側に突出させるように保持しており、基端側で、カバー部材30の内周当接面に当て付いて支持されている。この場合、リング状の不織布51は、カバー部材30の内周当接面との間で隙間Sが生じるように保持部材52a,52bに対して固着されており、後述するようにオイルを含浸した際のオイル溜り領域を形成している。
【0027】
また、保持部材52a,52bは、保持部材52a側(シール対象部材側)において対面接触し且つカバー部材30の内面に取着される支持板35と、保持部材52b側(シール対象部材と反対側)において対面接触するカバー部材30との間で挟圧保持されており、カバー部材30と保持部材52bとの間にはシール部材36が介挿されている。保持部材52a,52bは、カラー7bの外表面との間に僅かな隙間Gを生じさせ、かつその隙間Gに、リング状の不織布51が突出するように支持している。
【0028】
前記リング状の不織布51には、オイル55が含浸されている。このオイル55は、カラー7bの表面との間で油膜を形成して、外部から異物が侵入するのを防止できる程度に含浸されたものであれば良く、シリコン系オイル、フッ素系オイル等を使用することが可能である。また、このオイル55は、シール対象部材(本実施形態では、一方向クラッチ20)のオイルと同じものを使用することで、シール対象部材の性能を維持することが可能となる。
【0029】
上記した構成のシール機構50によれば、リング状の不織布51の表面領域の繊維が絡み合った状態で露出しているため、この部分でオイル55が流出することなく保持された状態になる。すなわち、図5に示すように、収容凹部1A内は、リング状の不織布51の表面に保持されるオイル55の油膜及びリング状の不織布51によってシールされた状態となり、外部側からの異物(海水、砂など)の侵入を確実に防止することが可能となる。この場合、上記したように、保持部材52a,52bは、カラー7bの外表面との間に僅かな隙間Gを生じさせているので、オイル55は、その表面張力によっても保持状態が維持され、流出するようなことはない。さらに、本実施形態では、リング状の不織布51は、カバー部材30の内周当接面との間で隙間Sが生じるように保持部材52a,52bに対して固着されているため、オイル溜り領域が形成され、これにより、リング状の不織布51をオイルリッチ状態に維持しておくことが可能となり、長期に亘って安定したシール効果を発揮することが可能となる。
【0030】
さらに、カラー7bの外周面と開口51aの内面との隙間は、上記したように、略0mmに設定されており、リング状の不織布51の開口側が変形して当て付いていないため、回転抵抗が小さくなり、これにより、回転性能を良好にしつつ、防水性と耐久性に優れた防水構造とすることが可能となる。
【0031】
なお、上記した構成では、回転抵抗が小さくなるように、D1−D2を0mm以上にしておくことが好ましいが、あまり大きくし過ぎると、カラー7bの外周面と開口51aの内面との隙間で表面張力が低下してオイル膜が十分に形成されなくなってしまう。このため、具体的には、D1−D2が0〜0.3mm、特に、0.05〜0.2mmに設定しておくことが好ましい。
【0032】
このような関係に設定しておくことにより、リング状の不織布51とカラー7bとの間の摩擦抵抗(回転抵抗)を低減して回転性能を高くしつつ、隙間内の表面張力でオイル55を有効に保持することができ、回転性能と防水性のバランスを高い状態にすることが可能となる。また、リング状の不織布51とカラー7bとの接触がないため、摩擦が生じることもなく、長期間に亘ってシール機構50の性能を維持することが可能となる。
【0033】
図6及び図7は、シール機構の第1の変形例を示す図である。なお、以下に説明する変形例では、上記したシール機構と同一の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を簡略、もしくは省略する。
【0034】
図6及び図7に示すシール機構50Aは、リング状の不織布51の内径(開口51aの径)をD1、カラー7bの外径をD2としたとき、(D1−D2)が0mm未満となるように設定した例を示している。このような構成では、図6に示すように、リング状の不織布51の開口51aの周囲がスラスト方向に膨出した状態でカラー7bの外周面に当接することから、カラー7bの回転に多少の抵抗が作用するが、図7に示すように、オイル55のみならず、開口51aの周囲がカラー7bの外周面に確実に密着するため、シール効果をより向上することが可能となる。この場合、上記した(D1−D2)については、−0.2mm程度までは、回転性能を大きく低下させることなく、シール効果を高めることが可能である。
【0035】
図8及び図9は、シール機構の第2の変形例を示す図である。
これらの図に示すシール機構50Bは、上記した実施形態において、リング状の不織布51を、保持部材52a,52b間において移動可能となるように遊度を持たせて保持している。すなわち、上記した実施形態では、リング状の不織布51は、その両面側において、保持部材52a,52bに固着されていたが(図4参照)、本実施形態では、(保持部材52a,52b間の距離;L)>(リング状の不織布51の厚みT)となるように設定し、リング状の不織布51は、保持部材52a,52b間において、スラスト方向に移動可能となるように保持されている。この場合、カラー7bが回転することで、リング状の不織布51と保持部材52a,52bとの間では、スラスト方向の隙間が広がったり狭まったりするものの、そのような隙間はオイル55の存在によって閉塞され、シール性は維持される。
【0036】
このように、リング状の不織布51と保持部材52a,52bとの間で遊度を持たせたことによって、カラー7b(駆動部)に対する抵抗を小さくすることができ、回転性能が低下しなくなる。すなわち、前記遊度によって、不織布と駆動部との接触がソフトになり(磨耗が少なくなる)、長期間に亘って、シール性能を維持することが可能となる。また、駆動部の回転性能が高くなることで、肉厚な不織布を使用することもでき、より耐久性の向上を図ることが可能となる。さらに、このような構成では、リング状の不織布51を保持部材52a,52bに対して固着する必要がないため、精密な芯出しをする必要性がなくなり、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
なお、このような遊度を持たせる構成では、上記した(L−T)は、0.1〜0.5mmに設定することが好ましい。すなわち、0.1mm未満にすると、回転性能が低下する傾向となり、0.5mmを超えると、オイル55による防水性能が低下する傾向となるため、上記した範囲に設定することで、回転性能と防水性のバランスを高い状態にすることが可能となる。
【0038】
図10及び図11は、シール機構の第3の変形例を示す図である。
これらの図に示すシール機構50Cは、上記した第2の変形例において、リング状の不織布51を、保持部材52a,52b間において移動可能となるように遊度を持たせると共に、リング状の不織布51の内径(開口51aの径)をD1、カラー7bの外径をD2としたとき、(D1−D2)が0mmより大きくなるように設定した例を示している。
【0039】
このような構成では、リング状の不織布51は、保持部材52a,52b間において、スラスト方向に移動可能であり、かつ、径方向にも移動可能に保持されているため、摩擦力の低減が図れると共に、芯出し作業が軽減され、生産性をより向上することが可能となる。
【0040】
なお、このような構成では、カラー7bが回転することで、リング状の不織布51と保持部材52a,52bとの間では、スラスト方向での隙間が広がったり狭まったりし、かつ開口51aの内面とカラー7bの外周面との間の隙間が径方向に広がったり狭まったりするものの、図12に示すように、リング状の不織布51の表面領域の繊維は、絡み合った状態で露出していることから、オイル55はこの部分における毛細管力や、対向部材(保持部材52a,52b及びカラー7b)の表面張力によって、流出するようなことなく保持された状態になる。すなわち、リング状の不織布51が、保持部材52a,52bに対して遊度を持って移動可能に保持されていても、シール効果を維持することが可能となる。
【0041】
図13及び図14は、上述した実施形態において、リング状の不織布51の肉厚(T)と保持部材52a,52bの距離(L)との関係(L−T;条件A)、リング状の不織布51の開口51aの径(D1)とカラー外周面の径(D2)との隙間(D1−D2;条件B)、及びリング状の不織布51の肉厚(T;条件C)を種々変形したサンプルを作成し、それぞれ回転性能、防水性、耐久性、及び生産性について行った評価試験の結果を示す表である。これらの表において、数値単位は、全て(mm)であり、良好なものから順に、◎、○、△、×で評価した。
【0042】
サンプル1からサンプル8は、図4から図7に示した構造に対応しており、リング状の不織布51の厚さを一定(0.6mm)として保持部材52a,52bに固着した状態で(L−T=0)、リング状の不織布の開口51aとカラー7bの外周面との間の距離(D1−D2)を変化させたものである。
【0043】
サンプル1及び2の構成では、図6及び図7に示したように、リング状の不織布51の開口51aの周囲がスラスト方向に膨出してカラー7bの回転に多少の抵抗が作用するため、回転性能及び耐久性は良くないが、シール性(防水性)に優れた結果が得られた。また、サンプル3から8のように、(D1−D2)が0mm以上になると、回転性能、及び耐久性の向上が図れ、かつシール性については、大きく低下しない効果が得られた。ただし、サンプル8のように、隙間が0.4mmを超えると、シール性が多少、低下する傾向となった。
【0044】
このため、リング状の不織布51を保持部材52a,52bに固着する構成では、(D1−D2)が0〜0.3mm程度にすることが好ましく、特に、0.05〜0.2mm程度に設定することが好ましい。
【0045】
サンプル9からサンプル14は、図8から図11に示した構造に対応しており、リング状の不織布51の厚さを一定(0.6mm)として保持部材52a,52bに対して遊度を持たせつつ、(L−T=0.1〜0.7mm)、リング状の不織布の開口51aとカラー7bの外周面との間の距離(D1−D2)を変化させたものである。
【0046】
このような構成では、リング状の不織布51を保持部材52a,52bに対して固着することなく、移動可能に保持させておくだけで良いため、生産性の向上が図れると共に、回転性能及び耐久性の向上が図れるようになる。また、サンプル9〜11のように、(D1−D2)を0mm未満にしてシール性(防水性)を高めても、回転性能を低下させない効果が得られた。ただし、サンプル13,14のように、遊度(L−T)が大きくなりすぎると防水性が低下する傾向となるため、(L−T)については0.5mm以下に設定しておくことが好ましい。
【0047】
図14の表のサンプル15,16は、リング状の不織布51の肉厚を変えて、上記したサンプル2,11と比較したものである。肉厚は、薄くすると回転性能の向上が図れるものの、防水性、及び耐久性の面で低下し、厚くすると防水性、及び耐久性の向上が図れるものの、回転性能が低下する傾向となる。
【0048】
リング状の不織布の肉厚に関しては、上記したサンプル1から14に示したように、0.6mm程度、好ましくは0.6±0.2mm程度に設定することで、回転性能、防水性、及び耐久性においてバランスの良いシール構造を構築し易くなる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形して実施することが可能である。
【0050】
上述した構成のシール機構は、各種の魚釣用リールの軸受部分など、シールを必要とする部材(シール対象部材)に隣接して設置することが可能であり、リールの種別や、シール対象部材が設置される部分については、特に限定されるものではない。
また、シール機構が配設される駆動部については、上述したような回転する部材に限らず、スプール軸のように軸方向に摺動する駆動軸、或いは、そのような駆動軸と共に一体回転したり一体摺動する部材等であっても良い。また、上述した構成において、リング状の不織布51は、リール本体に対して保持されたものであれば良く、その保持方法(保持部材の構成)、構成繊維の種類、及び使用されるオイルの構成や含浸量など適宜変形することが可能である。
さらに、上記した実施形態及び変形例のシール機構の構成については、適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1リール本体
3 ハンドル
7 ピニオンギヤ(駆動部)
7b カラー(駆動部)
10 スプール
20 一方向クラッチ(シール対象部材)
50,50A,50B,50C シール機構
51 リング状の不織布
52a,52b 保持部材
55 オイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持されたハンドルの回転操作でスプールに釣糸を巻回可能とする魚釣用リールにおいて、
前記リール本体は、駆動部と、前記駆動部との間に配設されるシール対象部材と、前記シール対象部材をシールするように配設されるシール機構と、を備えており、
前記シール機構は、オイルを含浸させたリング状の不織布を両面から保持して本体に固定される保持部材を備え、
前記駆動部と前記リング状の不織布の端との間でシールしたことを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記リング状の不織布は、前記保持部材間において移動可能となるように遊度を持たせていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【請求項3】
前記リング状の不織布の内径をD1、前記駆動部の外径をD2としたとき、
D1−D2=0〜0.3mmに設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚釣用リール。
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持されたハンドルの回転操作でスプールに釣糸を巻回可能とする魚釣用リールにおいて、
前記リール本体は、駆動部と、前記駆動部との間に配設されるシール対象部材と、前記シール対象部材をシールするように配設されるシール機構と、を備えており、
前記シール機構は、オイルを含浸させたリング状の不織布を両面から保持して本体に固定される保持部材を備え、
前記駆動部と前記リング状の不織布の端との間でシールしたことを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記リング状の不織布は、前記保持部材間において移動可能となるように遊度を持たせていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【請求項3】
前記リング状の不織布の内径をD1、前記駆動部の外径をD2としたとき、
D1−D2=0〜0.3mmに設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚釣用リール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−110293(P2012−110293A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263209(P2010−263209)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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