説明

鳥類用抗菌液剤

【課題】本発明は、強い抗菌性を有する鳥類用抗菌液剤を提供する。
【解決手段】炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を有効成分として含み、pHが4〜6の範囲である鳥類用抗菌液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い抗菌性を有し、飲用で用いる鳥類用抗菌液剤に関する。また、本発明は、強い抗菌性を有し、飲用により卵殻を強化させることができる鳥類用抗菌液剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食中毒の原因菌としてカンピロバクター菌、サルモネラ菌が上位に挙げられている。それらの汚染食品で最も多いのが、カンピロバクター菌が鶏肉由来、サルモネラ菌が鶏卵由来とされており、養鶏業界では生産物の食中毒菌汚染防止対策が緊急課題である。このように、サルモネラ菌、カンピロバクター菌等の家禽への感染は、養禽業者にとって、直接的な商品ロスを生じる。
【0003】
これらの問題を解決するために、従来、各種の抗生物質や合成抗菌剤を飼料に添加することにより、家禽の抗病性、生産性の向上を図る手段が講じられている。しかしながら、抗生物質や合成抗菌剤の使用は、薬剤耐性菌の出現、あるいは家禽への残留等の点から問題があった。
【0004】
特に肉用鶏であるブロイラー飼育においては約50年も前から、飼料に抗生物質を配合した有薬飼育が行なわれているが、近年の耐性菌出現問題によりEU諸国では禁止され、世界中で無薬飼育法の実用化が望まれている。このため、抗生物質や合成抗菌剤を使用せず、サルモネラ菌、カンピロバクター菌、大腸菌等の食中毒菌の家禽への感染を防止する方法の開発が求められている。
【0005】
従来から酢酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸等の有機酸には抗菌作用や抗カビ作用や抗ウイルス作用が知られていた。そして、これら有機酸の希釈液が家畜や家禽の飼育環境や飼料の殺菌剤あるいは静菌剤として利用されている。特に、プロピオン酸及びそのナトリウム塩やカルシウム塩は飼料添加物(防カビ剤)として使用されている。
【0006】
近年、種々の有機酸の希釈液を家畜や家禽に飲用させて、消化器官中での細菌感染を阻止しようとの研究開発が進められているが、その感染予防効果は実証されていない。Knightらは(2006年)、市販の有機酸飲料は飼料中のサルモネラ菌数を減少させたが、家禽の盲腸中のサルモネラ菌数に対する抑制効果は得られなかったと報告している(非特許文献1)。
【0007】
通常、家禽の飲用水のpHは6前後であるが、有機酸希釈液のpHは2〜3と酸性が強く、これを家禽に飲用させようとしても、嗜好性が問題となる。さらに、酸性水を家禽に与えると脛骨の軟骨形成異常が起こる可能性があるとの報告もあり、通常は家禽の飼育に有機酸を希釈した酸性水は利用されていない。
【0008】
ただ、アメリカでは肉用鶏の飼育に、酢酸、クエン酸、乳酸、マロン酸、プロピオン酸、酒石酸などの抗菌効果を期待して、これら有機酸の希釈液を間欠的に1〜3日間飲用させることが行われている(N.H.C Sparks、2009年)(非特許文献2)。
【0009】
一方、家禽の卵殻強化を図る飼料添加物及びその製造方法が検討されているが(例えば特許文献1)、強い抗菌性を有しサルモネラ菌やカンピロバクター菌や大腸菌等の細菌感染症を予防し、かつ卵殻を強化する鳥類に飲用させる抗菌液剤は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−325112号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Knight, C., Hofacre, C., Mathis, G., Quiroz, M. and Dibner, J. (2009) Organic acid water treatment reduced Salmonella horizontal transmission in broiler chickens. No 239 Poultry Science Association Symposium, p232.
【非特許文献2】The role of the water supply system in the infection and control of Campylobacter in chicken.: N.H.C Sparks, World’s Poultry Science Journal, Vol. 65, p466 (2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、有機酸の抗菌作用や抗カビ作用や抗ウイルス作用を家禽類の飼育環境や飼料のみならず、家禽類の消化管内で発現させることができれば、それらを種々の細菌やカビやウイルス感染から防御し、結果として家禽類の生産性を高め、さらには得られる生産物の食中毒菌汚染を未然に防げるのではないかと種々検討した。
【0013】
その結果、有機酸を直接飲料水に添加して家禽に飲用させる方法は、抗菌作用が期待される有機酸濃度ではpHが低すぎて、家禽に対して嗜好性が悪く、また家禽が問題なく飲用する有機酸濃度では、嗜好性に全く問題のないpHであるが、有機酸の抗菌作用が低下する問題点があることがわかった。
【0014】
そこで、本発明は有機酸又はその塩類を有効成分とする鳥類用抗菌液剤であって、強い抗菌性を示し、かつ、家禽の嗜好性がよい抗菌液剤を提供することを目的とする。本発明は、特に飲水に添加して希釈してもpHの変動も少なく、家禽の嗜好性に悪影響を与えず、かつ抗菌作用が低下しない抗菌液剤を提供することを目的とする。また、本発明は、さらに卵殻を強化させる効果を有する抗菌液剤の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、有機酸の中で一般的な酢酸とプロピオン酸に着目し、それらのカルシウム塩を用いて調製した緩衝液を用いて、食中毒菌に対する抗菌性(最小発育阻止濃度:MIC)とpHの関係を詳細に調べた。その結果、いずれの有機酸でも、MICはサルモネラ菌に対しpH7で1重量%以上、pH6で0.5重量%、pH5で0.05重量%、pH4では0.005重量%以下、カンピロバクター菌に対してはpH7で0.5重量%、pH6で0.05重量%、pH5で0.01重量%、pH4では0.005重量%以下といずれの食中毒菌にもpH4〜6で強い抗菌性を有することを見出した。
【0016】
また、有機酸希釈液の家禽に対する嗜好性を調べた結果、家禽は酢酸やプロピオン酸の0.05%水希釈液をほとんど飲まないが、貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢(酢酸濃度約5%)を100倍希釈した液は水道水とかわりなくよく飲むことがわかった。貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢は、酢酸に貝殻(炭酸カルシウム)が溶解することで酢酸カルシウムができるので、結果的に酢酸とそのカルシウム塩の組み合わせで緩衝化されている。この結果から、同じ有機酸濃度であっても有機酸とその塩類の組み合わせで緩衝化されている方が家禽に対する嗜好性がよいことを見出した。
【0017】
さらに、酢酸やプロピオン酸及びそれらの塩類を配合してpH3〜6の0.05%有機酸緩衝液を調製し、それらpHと家禽に対する嗜好性を詳細に調べた結果、pH3ではほとんど飲まず、pH4では水に比べて若干飲水量が少なくなったが、pH5〜6では水を飲ませた場合の飲水量と大差ないことを見出した。
【0018】
次に、本発明者らは有機酸の抗菌性を家禽の消化管内でも維持するには、有機酸とその塩類を含む緩衝液を用いることが重要であると考え、緩衝液の有機酸濃度とその緩衝能の関係を調べた。その結果、有機酸として酢酸やプロピオン酸を用いた場合、緩衝液のpHをそれら有機酸のpKa4.8に設定して調べた結果、有機酸濃度として0.006重量%では緩衝能が十分ではなく、0.03重量%で好ましい、0.06重量%以上でより好ましい緩衝能を示すことを見出した。
【0019】
本発明者らは、このように上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を有効成分として含み、pHが4〜6の範囲である鳥類用抗菌液剤、特に、pHを4〜6の範囲に緩衝化させた鳥類用抗菌液剤が、家禽に対する嗜好性もよく、カンピロバクター菌やサルモネラ菌や大腸菌に対して強い抗菌性を示すことを見出した。
【0020】
また、本発明者らは、pH4〜6の範囲に緩衝化することで、有機酸濃度を20〜50重量%に調整した鳥類用抗菌液剤を飲用水で1000〜2000倍希釈しても所望のpHを維持することができ、家禽類に飲用させても、その消化器官内で抗菌作用を有することを見出した。さらに、上記アルカリ土類金属塩としてカルシウム塩を用いた場合には、上記の効果に加えて卵殻を強化させることができることを見出した。これらの知見に基づき、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]に関する。
[1]炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を有効成分として含み、pHが4〜6の範囲である鳥類用抗菌液剤。
[2]直鎖カルボン酸が、酢酸及びプロピオン酸から選択される1又は2種であり、脂肪族ヒドロキシ酸が乳酸及びクエン酸から選択される1又は2種である、上記[1]記載の抗菌液剤。
[3]炭素数1〜3の直鎖カルボン酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む緩衝液、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む緩衝液を含有させて緩衝化させた、上記[1]記載の抗菌液剤。
[4]直鎖カルボン酸が、酢酸及びプロピオン酸から選択される1又は2種であり、脂肪族ヒドロキシ酸が乳酸及びクエン酸から選択される1又は2種である、上記[3]記載の抗菌液剤。
[5]有効成分の含有量が、直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量として0.01重量%以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の抗菌液剤。
[6]アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が、ナトリウム塩又はカルシウム塩である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の抗菌液剤。
[7]pHが4.5〜5.5の範囲である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の抗菌液剤。
[8]抗サルモネラ及び/又は抗カンピロバクター用である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の抗菌液剤。
[9]さらに、貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢を含有する、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の抗菌液剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明の鳥類用抗菌液剤は、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を有効成分とし、pHが4〜6の範囲であることで、家禽類に対して嗜好性も良好でかつ強い抗菌性を有する。特に、pHが4〜6の範囲に緩衝化した本発明の鳥類用抗菌液剤は、保存又は輸送等の便宜のために有機酸濃度を高濃度(例えば20〜50重量%)に調整した鳥類用抗菌液剤を、鳥類に摂取させるために飲水に添加しても、1000〜2000倍希釈でも所望のpHを維持することができ、抗菌作用が低下しない。さらに上記アルカリ土類金属塩としてカルシウム塩を用いた場合には、強い抗菌性を有し、かつ卵殻を強化させることができる。
【0023】
本発明の鳥類用抗菌液剤は、酢酸やプロピオン酸などの有機酸又は酢酸カルシウムやプロピオン酸カルシウム等の有機酸塩を有効成分とするので、本発明によれば、家禽の肉や卵等の養禽生産物の食中毒菌汚染が防止されるのみならず、抗生物質や合成抗菌剤の残留の恐れがない安全な生産物が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、試験例4における卵殻破壊強度(kg/cm)の推移を示すグラフである。
【図2】図2は、試験例4における血清Ca濃度(mg/dl)の推移を示すグラフである。
【図3】図3は、試験例5における飲料水(g/日・羽)の推移を示すグラフである。
【図4】図4は、試験例5における飼料消費量(g/日・羽)の推移を示すグラフである。
【図5】図5は、試験例5における腸管各部位における大腸菌群数の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、試験例7における1羽あたりの飲水量(g/日)の推移を示すグラフである。
【図7】図7は、試験例7における1羽あたりの飼料消費量(g/日)の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の抗菌液剤は、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を有効成分とする。
炭素数1〜3の直鎖カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸が挙げられ、その中では特に、酢酸、プロピオン酸、酢酸とプロピオン酸の組合せが好ましい。
炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸としては、乳酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられ、カルシウム塩が好ましい。アルカリ土類金属塩としてカルシウム塩を用いた場合には、卵殻を強化させる効果を有する点からも好ましい。
「炭素数1〜3の直鎖カルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩」、「炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩」としては、上記に例示した「炭素数1〜3の直鎖カルボン酸」又は「炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸」のカルシウム塩が好ましく、なかでも酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが好ましい。
【0026】
本発明の抗菌液剤において、有効成分の含有量は、直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量として、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.03重量%以上、さらにより好ましくは0.04重量%以上、特に好ましくは0.05重量%以上である。本発明の抗菌液剤において、有効成分の含有量は、直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量として、通常50重量%以下である。有効成分として「炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩」及び「炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩」を含む場合の含有量は、その総量が上記の範囲であればよい。
以下、有効成分の含有量(直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量)を単に有機酸濃度ということがある。
ここで、本明細書において「直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量」とは、有効成分が炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又は炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸である場合には、そのものの量をいい、有効成分が炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又は炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である場合には、当該塩を形成する炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又は炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸の量に換算した量をいう。「直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量」は有機酸塩の分子量から有機酸部分の分子量のみを用いて計算する。
例えば、プロピオン酸カルシウム(分子量約185)15kgは、その有機酸部分であるプロピオン酸(分子量約74×2分子)への換算量として12kg(15kg×(148/185))となる。
すなわち、例えば実施例1の鳥類用抗菌液剤(1000倍希釈前)では、全量100kg中、貝殻溶解醸造酢(商品名:イノ21)50kg(酢酸濃度5重量%なので酢酸2.5kgを含有)、プロピオン酸カルシウム15kg(プロピオン酸換算量として12kg)、及び酢酸20kgを配合するので、当該鳥類用抗菌液剤100kg中の「炭素数1〜3の直鎖カルボン酸」の総量は34.5kgとなり、有効成分含有量(直鎖カルボン酸換算量)は34.5重量%となる。
【0027】
本発明の抗菌液剤は、pHが4〜6の範囲であることを特徴とする。好ましくはpHが4.5〜5.5であり、さらに好ましくはpHが4.8付近である。pHの調整方法は特に限定されず、例えば弱酸緩衝液による緩衝化等の自体公知の方法を用いることができる。
本発明の抗菌液剤は、pHが4〜6の範囲(好ましくはpHが4.5〜5.5、さらに好ましくはpHが4.8付近)に緩衝化されていることが好ましい。
本発明の抗菌液剤においては、緩衝化方法は特に限定されず自体公知の方法を用いることができるが、例えば、弱酸緩衝液を含有させてpHを4〜6に調整して、緩衝化すればよい。あるいは、酢酸やプロピオン酸などの有機酸溶液に水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムを添加溶解してpHを4〜6に調整して、緩衝化すればよい。
【0028】
弱酸緩衝液は、弱酸と弱酸の塩を含む。
「弱酸」とは、一般に水溶液中での電離度が小さい酸であり、生成する水素イオンの濃度が小さい酸をいう。本発明において緩衝液に用いる弱酸としては、特にpKa値が4.5付近である有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸など)が食中毒菌に対する抗菌性と家禽類に対する嗜好性の面から好ましい。
例えば、弱酸としては、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸)、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、クエン酸、乳酸)等が挙げられ、1又は2種以上を組み合せて用いてもよい。
本発明において、弱酸として酢酸やクエン酸を用いた場合には、投与又は摂取対象へのカルシウムの吸収を促進させる効果も有するため卵殻強化の点から好ましい。
【0029】
弱酸の塩としてはアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)が挙げられ、ナトリウム塩等が好ましい。
本発明に用いられる弱酸緩衝液としては、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む緩衝液、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む緩衝液等が挙げられる。具体的には、例えば、酢酸と酢酸の塩(例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム)からなる酢酸緩衝液、クエン酸とクエン酸の塩(例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム)からなるクエン酸緩衝液等が挙げられる。
弱酸と弱酸の塩の割合は、通常モル濃度で1:1容量を混合すれば緩衝液のpHが弱酸のpKa値となり最も緩衝能が強くなる。好ましくは弱酸と弱酸の塩を混合して、弱酸の有するpKa値付近のpHにすれば強い緩衝能を得ることができる。
本発明の抗菌液剤において、有効成分として、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む場合は、pHを所望の範囲に緩衝化できるので、さらなる緩衝液が含まれていなくてもよい。
【0030】
本発明に用いる弱酸緩衝液のモル濃度は5mM以上が緩衝能や細菌の感染予防効果の観点から好ましく、より好ましくは10mM以上である。
酢酸やプロピオン酸の場合、1mM緩衝液で総有機酸濃度が約0.006重量%、5mM緩衝液で総有機酸濃度が約0.03重量%、10mM緩衝液では約0.06重量%になる。
【0031】
本発明の抗菌液剤は、「貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢」を含有することが好ましい。
本発明の抗菌液剤における「貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢」の含有量は、特に限定されず、「貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢」中の酢酸含有量によっても異なるが、例えば、酢酸濃度約5重量%の「貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢」である場合、通常0〜75重量%である。好ましくは、20重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。
【0032】
本明細書において、「貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢」は、例えば、特許第3635545号記載の方法(特に、実施例1記載の方法)、又は該方法に準ずる方法により製造することができる。
具体的に例えば、酢酸発酵により調製した醸造酢100重量部に貝殻粉末10重量部を添加し、12〜48時間撹拌し、その液をろ過して不溶解物を除去したろ液であればよい。醸造酢の調製は、通常でんぷん原料として米、麦、トウモロコシなどの穀類、ぶどうやリンゴなどの果実の果汁、サトウキビや砂糖大根などから調製した糖蜜、じゃがいもやサツマイモなどの芋類等を用い、これに酵母菌を培養してアルコール発酵を行い、さらに酢酸菌を用いて酢酸発酵して調製することができる。このようにして調製した醸造酢の酢酸濃度は通常5〜10重量%で醸造原料によっては酢酸以外の有機酸として乳酸やクエン酸などを数%含有する。貝殻粉末は牡蠣、あさり、しじみ、赤貝など貝殻を水洗いしたのち乾燥して粉砕して調製される。
「貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢」は、市販品を用いることもできる。特に、サトウキビの糖蜜をアルコール発酵後、酢酸発酵して得た醸造酢に赤貝の貝殻粉末を溶解飽和させた醸造酢(商品名:イノ21、(株)ヘックジャパン製造販売)は酢酸濃度約5重量%、クエン酸濃度約0.05重量%、カルシウム濃度約1.5重量%、pH約4.8であり、家禽類に対する好ましい嗜好性を有する。
【0033】
本発明においては、例えば、貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢(酢酸濃度約5重量%)と、炭素数1〜3の直鎖カルボン酸或いはそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の混合物を上記弱酸緩衝液で希釈することにより上記pHの範囲に緩衝化できる。
【0034】
本発明の抗菌液剤は、あらかじめ所要の有機酸濃度に希釈しておいてもよく、また、投与又は摂取させる際に飲水等に定量ポンプを利用して希釈して用いてもよい。希釈液としては、前記弱酸緩衝液、イオン交換水、水道水等が挙げられる。希釈した抗菌液剤も本発明の効果を奏する限り本発明の範囲に包含される。また、本発明の抗菌液剤は、上記成分の他、各種ミネラル(例えば、リン、鉄、銅、亜鉛、マンガン)等の鳥類用飼料添加物、動物用製剤に通常用いられる添加剤等を含有していてもよい。
投与又は摂取時の、本発明の抗菌液剤における有効成分の含有量は、特に限定されないが、直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量として、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.03重量%以上である。また、嗜好性の観点からは、直鎖カルボン酸換算量として、通常0.09重量%以下、好ましくは0.06重量%以下である。
【0035】
本発明の抗菌液剤の投与又は摂取対象としては、例えば、鶏(ブロイラーを含む)、うずら、アヒル、ダチョウ等の家禽が挙げられる。
【0036】
本発明の抗菌液剤の投与又は摂取量は、自由飲水させて必要量を飲ませればよく、特別に制限する必要はない。対象の家禽種や日齢等によっても異なるが、たとえば産卵鶏の場合、1日あたり、通常150〜250mlで、投与又は摂取期間は特に制限されないが、感染症予防の観点から、孵化してから常時飲用させればよい。
【0037】
本発明の抗菌液剤は、例えば、サルモネラ菌、カンピロバクター菌、大腸菌等に対して強い抗菌作用を有するため、鳥類の細菌感染症の予防及び/又は治療に有効である。
【0038】
本発明の抗菌液剤は、そのまま、又は飼料若しくは飲料水に添加して摂取させ又は投与すればよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
実施例中、有機酸濃度を表す%は重量%を示す。
【0040】
実施例1
サトウキビの糖蜜をアルコール発酵後、酢酸発酵して得た醸造酢に赤貝の貝殻粉末を溶解飽和させた貝殻溶解醸造酢(商品名:イノ21、(株)ヘックジャパン製造販売)50kgにプロピオン酸カルシウム15kgを溶解し、さらに酢酸20kgを配合し、水酸化ナトリウムでpHを4.8に調整したのち、水を加えて全量を100kgとして鳥類用抗菌液剤(有機酸濃度34.5%)を調製した。これを水道水で1000倍希釈してpHが変動しない緩衝化した鳥類用抗菌液剤の希釈液を家禽へ自由飲水で与えた。
【0041】
実施例2
サトウキビの糖蜜をアルコール発酵後、酢酸発酵して得た醸造酢に赤貝の貝殻粉末を溶解飽和させた貝殻溶解醸造酢(商品名:イノ21、(株)ヘックジャパン製造販売)50kgにプロピオン酸カルシウム15kgを溶解して鳥類用抗菌液剤の原液(pH5.66)を調製した。この原液を10mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.8で1000〜2000倍希釈して、鳥類用抗菌液剤を調製した。
【0042】
試験例1
異なるpH条件下で、酢酸とプロピオン酸のサルモネラ菌、カンピロバクター菌に対する抗菌作用について検討した。
(1)試験方法
日本化学療法学会標準法に準拠した寒天平板希釈法により、最小発育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration:MIC)を測定した。
(2)試料溶液の調製
滅菌精製水9mlに、酢酸ナトリウム又はプロピオン酸ナトリウムを各々有機酸として1g溶解させ、これらを試料溶液とした。次に各試料溶液を滅菌精製水で2倍段階希釈し、有機酸濃度として10、5、2.5、1.25、0.63、0.31、0.16、0.08、0.04%の試料溶液を調製した。
(3)培地の調製
MIC測定用培地は感性ディスク用培地(日水製薬)を用い、水酸化ナトリウム試液を用いて培地のpHを5、6又は7に調整し、121℃で15〜20分間高圧蒸気滅菌した。次いで各濃度の試料溶液1mlをシャーレに入れた後、pH調整した各培地9mlを各々加えて混和し、試料溶液添加培地(培地内の有機酸濃度:1〜0.004%)を調製した。
(4)試験菌株
試験菌株にはCampylobacter jejuni (C.jejuni)、Salmonella Enteritidis (S.Enteritidis) IFO3313を用いた。
カンピロバクター(C.jejuni)の培養は、感受性測定用ブイヨン(日水製薬)を用い、37℃で一夜微好気培養(アネロパック微好気:三菱ガス化学)した。またサルモネラ(S.Enteritidis)の培養は、感受性測定用ブイヨンを用い、37℃で一夜培養した。各々培養した菌液を滅菌生理食塩水で希釈し、菌数を(106 cfu/ml)に調製して試験菌液とした。
(5)MIC測定
試料溶液添加培地上に各試験菌液をミクロプランター(佐久間製作所)で接種した後、C.jejuniは37℃で一夜微好気培養し、また、S.Enteritidisは37℃で一夜培養した。培養後、肉眼的に菌の発育の有無を確認し、MICを求めた。結果を表1に示す。なお、S.Enteritidisは繰返し2回のMIC測定を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果より、酢酸ナトリウム及びプロピオン酸ナトリウム水溶液は、pH5及びpH6において顕著な抗菌作用を示した。特に酢酸やプロピオン酸のpKa4.8に近いpH5におけるMICは、有機酸濃度としてS.Enteritidisに対して0.031%及び0.016%、C.jejuniに対しては0.008%であった。
【0045】
試験例2
実施例2で調製した鳥類用抗菌液剤の原液を試料原液(pH5.66)とした。
試料原液を、イオン交換水(pH6.69)又は水道水(pH7.05)により10倍、100倍、500倍、1000倍、10000倍に各々希釈後、各希釈液のpHを測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果より、試料原液のみをイオン交換水で希釈した場合は、500倍以上で、水道水で希釈した場合は100倍以上で、pH6を超えるpHの上昇が観察された。
【0048】
試験例3
実施例2で調製した鳥類用抗菌液剤の原液を試料原液(pH5.66)とした。
試料原液の希釈用液として、酢酸2.9ml、酢酸ナトリウム4.1gをそれぞれイオン交換水500mlに溶解し、各溶解液を混和し、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.68)を1000ml作成した。これをイオン交換水で10倍もしくは100倍希釈して、それぞれ10mM若しくは1mM酢酸ナトリウム緩衝液を調製した。これらの緩衝液、又は水道水、100mlに、試料原液(pH5.66)を各々0.1ml添加し、1000倍希釈液(試料溶液)とした。次いで、各試料溶液に0.01M NaOHを0.1mlずつ添加し、pHの変化を測定した。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
NaOHを1ml添加すると、水道水希釈はpH6.7から7.3に上昇し緩衝能は見られなかった。1mM酢酸ナトリウム緩衝液希釈ではpH5.4から5.5に、10mM酢酸ナトリウム緩衝液希釈ではpH4.8から変化はなく、特に10mM酢酸ナトリウム緩衝液希釈ではNaOHを7.4ml添加してもpHは5.0までの上昇で、強い緩衝能を示した。
【0051】
試験例4 産卵鶏への飲水投与試験(卵殻強度の改善効果の検討)
老産卵鶏(日齢567日)を1群10羽づつ3区に分け、一週間の予備飼育(水道水を飲水投与)の後、1区は水道水(対照)、2区は実施例2の鳥類用抗菌液剤の原液を水で1000倍希釈した飲料(pH6.7)(比較例)、3区は実施例2の鳥類用抗菌液剤の原液を10mM酢酸緩衝液(pH4.68)で1000倍希釈した飲料(pH4.88)(本発明)を自由に飲水させ、6週間の投与試験を行った。その後、水道水に変えて1週間飼育し、予備飼育、投与試験、投与後1週間の合計8週間に渡り、各区の飲水量、飼料消費量、体重の変化、血清Ca濃度、産卵率、卵重、卵質検査(ハウユニット、卵殻厚、卵殻破壊強度)を調べて比較した。
その結果、産卵鶏の平均体重、飼料消費量は各区で差がなく、飲水量は投与試験の初めの1週間で、1区の203±32ml/日に対して3区で167±28ml/日と有意差(p<0.05)があったが、産卵鶏が酸性飲料に慣れてきたためか、それ以外の期間では各区に有意差がなかった。産卵率や卵重、ハウユニットや卵殻厚についても各区で有意な差は見られなかった。一方、卵殻破壊強度(図1、表4)は、投与試験期間中のみ、3週と5週で3区が高値を示した。血清Ca濃度(図2、表5)についても、3区の3週と5週が1区及び2区の値より高値を示した。そして、全ての区を水に変えた試験期間終了1週後には3区の高値が見られなくなった。これらの結果より、3区の酢酸緩衝化飲料(本発明の抗菌液剤)の飲用効果として、Caの吸収性を高め、卵殻強度が改善される傾向が見られた。
3区の酢酸緩衝化飲料(pH4.8)のCa濃度は計算値で0.125%であり、1日の飲水量を200mlとして、産卵鶏は0.25gの可溶性Caを摂取している。一方、飼料中のCa濃度は3.5%で、飼料摂取量を1日130gとすると、産卵鶏は飼料に添加されている蠣殼などから4.6gの不溶性Caを摂取している。酢酸緩衝化飲料から摂取できるCa量が、可溶性Caではあるが、非常に少量であること、及び3区の酢酸緩衝化飲料摂取のみが血清Ca濃度と卵殻強度が高値であることから、おそらく3区の酢酸緩衝化飲料(本発明の抗菌液剤)の効果として、消化管内で飼料由来の不溶性Caを可溶化し、総合的にCaの吸収性を高めているのではないかと思われる。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
試験例5 ブロイラー飼育試験(無薬抗病性効果の検討)
ブロイラーの初生雛(チャンキー種)の雄100羽、雌100羽(ワクチンはMD、FO接種済み)を50羽ずつ4区に分け、1区は水道水(抗生物質配合有薬飼料、対照)、2区は水道水(無薬飼料、対照)、3区は実施例2の原液の鳥類用抗菌液剤を水で1000倍希釈した飲料pH6.7(無薬飼料、比較例)、4区は実施例2の原液の鳥類用抗菌液剤を10mM酢酸緩衝液(pH4.68)で1000倍希釈した飲料pH4.88(無薬飼料、本発明)を自由に摂取させて、7週間の飼育試験を行った。
体重の推移を表6に示す。1区の成長が最も早く、3区が最も遅く、試験期間中の両者にはp<0.01で有意差があった。無薬飼育では、2区と4区の体重はほぼ同等の推移を示し、有意差は無いが1区有薬飼育区と比較すると、無薬飼育区は若干成長が遅い傾向が見られた。
【0055】
【表6】

【0056】
各区の体重の推移に合わせて、1日あたりの飲水量と飼料消費量の推移を図3と図4に示す。特に成長が遅かった3区では、飼育4週目あたりから飲水量が明らかに低下し、5週目に飼料消費量が大きく落ちた。3区と4区の飲料の違いは酢酸緩衝化の有無のみでpHが6.7か4.8の違いである。いずれも予備試験で鶏に対する嗜好性は水道水と変わりない事を確認済みであったが、4週以降に3区の飲水量が低下し、5週の飼料消費量が落ち込んだ理由は不明である。
次に、飼育試験終了時の各区ブロイラー鶏腸管各部位における大腸菌群数の比較を図5に示す。これは各部位を内容物ごと10倍量の滅菌生理食塩水で懸濁液とし、デソキシコレート培地で大腸菌群数を測定した結果である。1区の水道水(有薬飼育)が十二指腸と空腸で大腸菌群数が少なく、4区の酢酸緩衝化飲料(無薬飼育)は盲腸で菌数が少なかった。通常、盲腸内の細菌叢は鶏の健康状態をよく表すと言われている。4区の盲腸で大腸菌群数が1〜3区に対して1/10以下であったことは、4区の酢酸緩衝化飲料(本発明の抗菌液剤)の飲水投与効果が出ていると思われる。
また、図5の結果より、4区(本発明)では、2区(対照)に対して、すべての部位において顕著な大腸菌群数の減少が観察された。
【0057】
試験例6 ブロイラーのCampylobacter jejuni感染試験
ブロイラー初生雛(チャンキー種)を雌36羽準備し、9羽ずつ4区に分け、水道水区は水道水、有機酸濃度0.015%、0.03%、0.06%区は、実施例1の鳥類用抗菌液剤の原液(即ち、1000倍希釈前の鳥類用抗菌液剤)を水でそれぞれ2000倍、1000倍、及び500倍希釈した鳥類用抗菌液剤pH4.8を自由摂取させた。
飼料は初生から全区に無薬飼料を給与した。14日齢まで加温育雛器で飼育し、当センター内のP2感染実験施設内の感染実験用ケージに3羽/ケージ、収容した。3日間の馴致の後、17日齢時に生理的食塩水で懸濁したCampylobacter jejuni(GTC No.03263)2.8×104CFU/mlを1羽あたり1mlずつマウス用ゾンデで全個体に経口接種した。C.jejuni接種後1、2、3、4、5、6、7日目に全個体のクロアカスワブを採取し、CCDA培地(OXOID)に直接塗沫し、37℃、48時間の微好気培養を行いC.jejuniの検出を行った。また、C.jejuni接種後7日間飼育した後、鶏を解剖して盲腸内容物中のC.jejuniの菌数を培養法及びリアルタイムPCR法で測定し、腸管内へのC.jejuni定着阻止効果を検討した。
クロアカスワブからのC.jejuni検出及びその割合を表7に示した。
【0058】
【表7】

【0059】
水道水区ではC.jejuni接種後2日目に1羽の陽性個体を認め、4日目以降7日目までの陽性率は50%を越え推移した。有機酸濃度0.015%区では接種後2日目までは陽性率0%だったが、3〜5日目には高い陽性率を示した。しかし、C.jejuni陽性率は6日目には33.3%まで回復し、7日目には0%までもどった。また、有機酸濃度0.03%区及び0.06%区においては、陽性個体を認めたものの、陽性率は11.1〜22.2%と低く推移し、抗菌性飲料の細菌感染予防効果を認める結果であった。
【0060】
試験例7 抗菌性飲料の嗜好性調査
ブロイラー初生雛(チャンキー種)雌40羽を、10羽ずつ4区に分け、水道水区は水道水、有機酸濃度0.015%、0.03%、0.06%区は、実施例1の鳥類用抗菌液剤の原液(即ち、1000倍希釈前の鳥類用抗菌液剤)を水でそれぞれ2000倍、1000倍、及び500倍希釈した鳥類用抗菌液剤pH4.8を自由摂取させた。
飼料は全期間を通して無薬飼料を給与した。初生から3週齢までは保温育雛器で飼育し、以後8週齢まで大すう用ケージで群飼とした。各区の飲水量、飼料消費量、体重の変化を毎週測定した。
飼育期間中の飲水量の推移を図6に、飼料消費量の推移を図7に、体重の推移を表8に示した。
0.06%区の飲水量は、3〜6週齢にかけて他区より少なく推移したものの、飼料消費量に影響を与えることがなく、増体への影響も認めなかった。0.03%区は6週齢以降の飼料消費量が伸び、出荷時期である8週齢時の体重は最も重くなった。また、飼料消費量の増加に伴って7週以降の飲水量も増加していることから有機酸濃度0.03%であれば嗜好性に何ら問題が無いことが明らかとなった。また、0.06%区については、飲水量が他区に比べて少なかったことから、ブロイラーにとっては嗜好性が若干良くないと推察されるが、生産性に影響の無い範囲であった。
【0061】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、強い抗菌性を有し、飲用で用いる鳥類用抗菌液剤を提供できる。また、本発明によれば、強い抗菌性を有し、飲用により卵殻を強化させることができる鳥類用抗菌液剤を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜3の直鎖カルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を有効成分として含み、pHが4〜6の範囲である鳥類用抗菌液剤。
【請求項2】
直鎖カルボン酸が、酢酸及びプロピオン酸から選択される1又は2種であり、脂肪族ヒドロキシ酸が乳酸及びクエン酸から選択される1又は2種である、請求項1記載の抗菌液剤。
【請求項3】
炭素数1〜3の直鎖カルボン酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む緩衝液、或いは、炭素数3〜6の脂肪族ヒドロキシ酸及びそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含む緩衝液を含有させて緩衝化させた、請求項1記載の抗菌液剤。
【請求項4】
直鎖カルボン酸が、酢酸及びプロピオン酸から選択される1又は2種であり、脂肪族ヒドロキシ酸が乳酸及びクエン酸から選択される1又は2種である、請求項3記載の抗菌液剤。
【請求項5】
有効成分の含有量が、直鎖カルボン酸換算量又は脂肪族ヒドロキシ酸換算量として0.01重量%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌液剤。
【請求項6】
アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が、ナトリウム塩又はカルシウム塩である請求項1〜5のいずれかに記載の抗菌液剤。
【請求項7】
pHが4.5〜5.5の範囲である、請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌液剤。
【請求項8】
抗サルモネラ及び/又は抗カンピロバクター用である、請求項1〜7のいずれかに記載の抗菌液剤。
【請求項9】
さらに、貝殻粉末を飽和溶解させた醸造酢を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の抗菌液剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−161298(P2012−161298A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25487(P2011−25487)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(599131963)
【出願人】(397037904)株式会社ヘックジャパン (1)
【出願人】(591097702)京都府 (19)
【Fターム(参考)】