説明

麻酔鎮痛剤の製造

【課題】麻酔鎮痛剤ハイドロコドン及びハイドロモルフォンの新規製法の提供。
【解決手段】触媒量の均質有機金属錯体を使用した下記の麻酔鎮痛剤、例えばハイドロコドン及びハイドロモルフォンの新規の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒量の均質有機金属錯体を使用した、麻酔鎮痛剤(narcotic analgesics)、例えば、ハイドロコドン(hydrocodone) 及びハイドロモルフォン(hydromorphone) の新規の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロコドン及びハイドロモルフォンは、共に、中枢神経系及び平滑筋に関係する。コデイン(codein)及びモルヒネ(morphine) の作用と定量的に類似する多面的作用をもつ半合成オピオイド鎮痛剤である。これらの鎮静剤(opiate)の正確な作用機構は知られていない。但し、中枢神経系内の鎮静剤レセプターの存在に関係すると信じられている。
【0003】
ハイドロコドンとハイドロモルフォンの両者は、過去において、コデイノン(codeinone) の水素添加(Arch. Pharm. (1920), 258,295)、ジヒドロコデイン(dihydrocodein) の酸化(DE 415097 ; US 2715626) 、ジヒドロモルフィンの酸化(J. Org. Chem. 1950) 15,1103, US 2628962 ; US 2654756 ; US 2649454) を含むさまざまな方法により、モルフィンの電気分解還元(J. Pharm. Soc. Japan (1936), 56, 44 及び(1942),62,347)により又はコデイン又はモルフィンのいずれかの触媒転位反応(DE 623821, Appl. Radiat. Isot. (1987) 38,651)により、製造されてきた。しかしながら、これらの方法の全ては、費用のかかる2段階方法を含む。
【0004】
モルフィンの触媒転位反応は、パラジウム黒(palladium black)を使用して説明されてきた。しかしながら、製造のために好適であるであろう大規模にこの方法を実施することは不可能である。なぜなら、上記手順は、所望の生成物と共に30〜35%の不所望のo−デスメチルセバイノン(o−desmethylthebainone)をもたらすからである。純粋な生成物の単離は、ひじょうに手間がかかり、そしてかなりの精製を必要とする。
【0005】
本発明者らは、今般、単一の方法により最小の精製を要求する80を上廻る収率を与えるハイドロコドン及びハイドロモルフォンへの新たな1段階経路を発見した。
【発明の概要】
【0006】
従って、本発明は、以下の式(I):
【化1】

{式中、R1 は水素、メチル又は保護基であって典型的にはフェノール又はアルコールを保護するために使用されるものであり;R2 は水素、メチル、アリル、シクロブチルメチル、ベンジル、トリアルキルシリル又はアミン保護基であり;R3 は水素、ヒドロキシル又はアミノ基である。}により表される化合物の新規の製法であって、以下の式(II):
【化2】

{式中、R1 ,R2 及びR3 は先に定義したものと同じである。}により表される化合物を、以下の式(III ):
【化3】

{式中、Mは金属であり;各Arはアリール基であり;nは2〜5であり;Xは BF4- 又はClO4- であり;そしてsolvはメタノール、塩化メチレン/メタノール、テトラヒドロフラン又はエタノールである。}により表される有機金属錯体と反応させることを含む、前記製法を提供する。
【0007】
上記のR1 の定義内のアルコール又はフェノール保護基の例は、エーテル(例えば、メトキシメチル、ベンジルオキシメチル、2−(トリメチルシリル)−エトキシメチル・エーテル、テトラヒドロピラニル、フェナシル、アリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル)、エステル(例えば、アセテート、ピバロエート、ベンゾエート)、カーボネート(例えば、ベンジル、メチル)及びスルホネート(例えば、メタンスルホネート、トルエンスルホネート)を含む。
【0008】
2 の定義内のアミン保護基の例は、カーバメート(例えば、メチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチル、ベンジル)、アミン(例えば、ホルミル、アセチル、ベンゾイル、シクロブチル)、スルホネート及びアミノ・アセタール保護体を含む。
【0009】
好適には、R1 は水素又はメチルである。
好適には、R2 は水素又はメチル、好ましくは水素である。
好適には、R3 は水素である。
好適には、Mはロジウム、パラジウム、白金、イリジウム又は鉄、好ましくはロジウムである。
好適には、Arはフェニル基又はシクロヘキシル基である。好ましくはArはフェニル基である。
好ましくは、nは4である。
【0010】
上記反応は、好適には、極性溶媒は混合溶媒、例えば、メタノール、メタノール/塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン又はエタノール中で行われる。好ましくは、上記反応は、メタノール/塩化メチレン混合物中で行われる。
【0011】
好適には、上記反応は、5℃〜50℃の非極値温度(non-extremetemperature)で行われる。好ましくは、上記反応は、周囲温度、例えば、25℃〜27℃で行われる。
【0012】
式(III )の化合物は、商業的に入手可能であり、そして式(III )の化合物は、Bosnich et al., J. Am. Chem. Soc. (1991), 113, 958及びOrgano metallics (1988), 7, 936 中に記載されたものと類似の手順を使用して、以下の式(IV):
【化4】

により表される化合物と有機金属化合物を反応させることにより製造されることができる。
本発明を例としてのみ以下に説明し、そして本発明は限定されることを意図されない。
【実施例】
【0013】
実施例1
ハイドロコドンの大規模製造
メカニカル・スターラー、気体散布管、気体出口及び温度計を備えた2リッター4首丸底フラスコに窒素を流し、そして無水メタノール(500ml) を充填した。上記溶媒を、10〜15分間それを通して窒素をバブリングすることにより脱酸素した。ビス(ビシクロ〔2.2.1.〕ヘプタ−2,5−ジエン)ロジウム(I)テトラフルオロポレート(1.88g, 0.005M)及び1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(2.17g,0.0051M)を窒素下で添加し、そして上記溶媒を、周囲温度で30分間撹拌した。上記溶媒を、30分間水素ガスを散布することにより水素添加した;この時点で、上記溶液の色はオレンジ〜黄褐色(tan-yellow) に変化した。
【0014】
過剰の水素を、10分間溶液を通して窒素をバブリングすることにより除去した。次に、コデイン(150g, 0.5M)を窒素の流れの下、上記撹拌された溶液に添加した。5〜15分間上記反応混合物を撹拌した後、ハイドロコドンは細かい結晶として析出しはじめ、そして塩化メチレン(300ml) をその固形物の全てを溶解させるために添加した。暗赤色の均質溶液を1時間撹拌した。上記反応の完了後、上記溶液を、真空下、周囲温度で、その元の容量の約半分まで濃縮した。この沈殿生成物を濾過し、冷メタノール(100ml) を用いて上記フィルター上でスラリーとし、メタノール(1×100ml)で洗浄し、そして60〜70℃で16時間真空下で乾燥させて、遊離塩基として 124.5g(83%)のハイドロコドンを得た。
【0015】
1H NMR (CDCl3):δ1.26(qd,J=4.3 Hz及び13.0Hz, 1H);1.75−1.90(m,2H);2.06(td,J=4.6 Hz及び12.0Hz,1H);2.20(td,J=3.4 Hz及び12.0Hz,1H);2.30(dd,J=6.0 Hz及び18.5Hz,1H);2.36(td,J=4.7 Hz及び13.7Hz,1H);2.38−2.48(m,1H);2.43(s,3H);2.51−2.61(m,2H);3.03(d,J=18.5Hz,1H);3.17(dd,J=2.8 及び5.4 Hz,1H);3.91(s,3H);4.65(s,1H);6.63(d,J=8.2 Hz,1H);6.70(d,J=8.2 Hz, 1H)。
13C NMR (CDCl3):δ19.8;25.3;35.3;40.0;42.4;42.7;46.58 ; 46.65 ; 56.6;58.9;91.2;114.5 ; 119.5 ; 126.2 ; 127.2; 142.5 ; 145.2 ; 207.5 。
【0016】
実施例2
ハイドロモルフォンの製造
マグネチック・スターラー、ガス入口、ガス出口及び温度計を備えた100ml 3首丸底フラスコに窒素を流し、そして無水メタノール(10ml)及び塩化メチレン(5ml)を満たした。溶媒を、10分間それを通して乾燥窒素をバブリングすることにより脱酸素した。窒素の流れの下、ビス(ビシクロ〔2.2.1.〕ヘプタ−2,5−ジエン)ロジウム(I)テトラフルオロポレート(112mg, 0.0003M)及び1,4−ビス(ジフェニル−ホスフィノ)ブタン(130mg, 0.00031M)を添加し、そしてオレンジ色の溶液を周囲温度で15分間撹拌した。次に、上記溶液を10分間水素ガスをバブリングすることにより水素添加した。過剰の水素を5分間上記溶液を通して窒素をバブリングすることにより除去した。この触媒の溶液を40℃に温め、そしてモルフィニ(2.14g,0.0075M)を中程度の窒素の流れの下で添加した。この暗色溶液を40℃で4時間撹拌した。この粗生成物の 1H NMRは、88%のハイドロモルフォン、8%の未反応モルフィン及び3〜4%の未同定副生成物を示した。真空下で上記溶媒を除去後、粗ハイドロモルフォンを褐色固体(1.21g,56%)としてフラッシュ・クロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール3:1)により単離し、これを、エタノール(25ml) からの再結晶化により精製し、>98%の純度のハイドロモルフォン(0.75g,35%)を得た。
【0017】
1H NMR (CDCl3-CD3OD 〜10:1):δ1.25(qd,J=4.5 Hz及び13.0Hz, 1H);1.79(ddd,J=1.8, 3.4及び12.3H,1H);1.88(qd,J=4.1 及び13.0Hz, 1H);2.09 (td,J=4.7 Hz及び12.3Hz,1H)2.25(td,J=3.5 Hz及び12.1Hz,1H);2.35(dd,J=5.6 Hz及び18.6Hz,1H);2.38−2.53(m,2H);2.44(s,3H);2.55−2.64(m,2H);3.03(d,J=18.6Hz,1H);3.19(dd,J=2.7 及び5.6 Hz,1H);4.67(s,1H);6.61(d,J=8.1 Hz,1H);6.70(d,J=8.1 Hz,1H)。
13C NMR (d6−DMSO) :δ19.5;25.0;34.8;39.6;41.4;42.5;46.2;46.3;58.3;90.3;116.9 ; 119.1 ; 124.4 ; 127.3 ; 139.2 ; 143.9 ;208.6。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

{式中、R1 は水素、メチル又は保護基であって典型的にはフェノール又はアルコールを保護するために使用されるものであり;R2 は水素、メチル、アリル、シクロブチルメチル、ベンジル、トリアルキルシリル又はアミン保護基であり;R3 は水素、ヒドロキシル又はアミノ基である。}により表される化合物の新規の製法であって、以下の式(II):
【化2】

{式中、R1 ,R2 及びR3 は先に定義したものと同じである。}により表される化合物を、以下の式(III ):
【化3】

{式中、Mは金属であり;各Arはアリール基であり;nは2〜5であり;Xは BF4- 又はClO4- であり;そしてsolvはメタノール、塩化メチレン/メタノール、テトラヒドロフラン、アセトン又はエタノールである。}により表される有機金属錯体と反応させることを含む、前記製法。
【請求項2】
1 が水素又はメチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2 が水素又はメチルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2 が水素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
3 が水素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
Mがロジウム、パラジウム、白金、イリジウム又は鉄である、請求項1〜5の、いずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Mがロジウムである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Arがフェニル基又はシクロヘキシル基である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
Arがフェニル基である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
nが4である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
式(I)の化合物の製造における式(III )の有機金属錯体の使用。

【公開番号】特開2009−161557(P2009−161557A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59906(P2009−59906)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【分割の表示】特願平10−507698の分割
【原出願日】平成9年7月18日(1997.7.18)
【出願人】(509051716)ジョンソン マッセイ パブリック リミティド カンパニー (1)
【Fターム(参考)】