説明

黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質、及びこれに特異的な抗体を用いて黒真珠貝の繁殖量を予測する方法

【課題】 本発明の課題は、黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質、これに特異的な抗体、及び上記抗体を用いて黒真珠貝の繁殖量を予測する方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の方法によれば、容易且つ正確に黒真珠貝の繁殖量を定量化でき、これにより黒真珠貝のライフサイクル研究の重要な情報提供及び効率的な管理が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質、及びこれに特異的な抗体を用いて黒真珠貝の繁殖量を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インド太平洋の珊瑚地域にわたって生息する黒真珠貝(Pinctada margaritifera)は、他の種(species)よりもサイズが非常に大きいため、より大きい真珠を生産することができる。これにより、黒真珠貝の養殖を通した黒真珠の生産は南太平洋の島嶼国家において最も重要な産業の一つとして位置付けられており、黒真珠の年平均生産量は6M/T(Metric ton,米貨175,000,000)に達する。このような黒真珠生産量の増加は黒真珠貝の母貝の需要を急激に増加させ、黒真珠貝の資源量を減少させた。
【0003】
南太平洋のチュークラグーン(Chuuk Lagoon)での真珠養殖産業において、黒真珠生産のための母貝の安定的供給は最も急を要する事項の一つである。現在、チュークラグーンにおける黒真珠貝の養殖方法としては、天然黒真珠貝から放出された浮遊稚貝を採苗する天然採苗方式が主に用いられているが、養殖産業のために十分な量の稚貝を確保するのが難しいというのが実情である。このため、人工種苗生産を導入して黒真珠貝の稚貝を安定的に供給する必要性が高く認識されているが、黒真珠貝のライフサイクル及び繁殖生理などに関する基礎研究の不足により黒真珠貝の人工種苗生産は未だ成功されていない。また、熱帯地域に分布する二枚貝類の繁殖に関する研究実績が温帯地域の二枚貝類に比べて非常に貧弱なため、熱帯地域の二枚貝類の繁殖戦略及び生理に関する情報が絶対的に不足しているのが実情である。
【0004】
従って、黒真珠貝の資源管理に成功するためには、優良種苗の生産のための母貝の繁殖生理学的研究が必ず先行されなければならず、これは母貝の年中生殖周期の把握及び産卵時期の予測のような定性的研究と、母貝から生産される卵と精子の定量的測定、即ち、抱卵数(reproductive effort又はfecundity)の測定などに関する研究を含む。特に、抱卵数の測定に関する研究は、測定方法上の困難さゆえに、定性的研究に比べて非常に低調であるのが実情である。これは、他の動物とは異なり、大部分の二枚貝類は卵を含む生殖巣(ovary)が物理的に分離されておらず、外套膜及び消化盲嚢に含まれており、抱卵数が数百万または数千万個に達するためである。
【0005】
よって、本発明者等は、二枚貝類の一種である黒真珠貝(Pinctada margaritifera)の卵タンパク質に対して特異的に反応する抗体を製造し、黒真珠貝の繁殖量を定量的に測定する方法を開発することにより本発明を完成させた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質に特異的な抗体を提供することにある。
【0008】
本発明のまた他の目的は、上記抗体を用いて黒真珠貝の繁殖量を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、本発明は、アミノ酸配列[X−Y−Pro−Phe−Arg−Glu−Z−Lys−Asp−Arg]で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質を提供する。
【0010】
上記アミノ酸配列において、
XはPheまたはAspで;
YはLysまたはIleで;
ZはGluまたはSerである。
【0011】
(上記アミノ酸配列において、Proはプロリン;Pheはフェニルアラニン;Argはアルギニン;Gluはグルタミン酸;Lysはリジン;Aspはアスパラギン酸;Ileはイソロイシン;Serはセリン;のアミノ酸の略字である。)
上記アミノ酸配列を具体的に表示すれば、配列番号1乃至8で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質を提供することができる。
【0012】
本発明の他の様態としては、本発明は上記抗原タンパク質に特異的な抗体を提供する。
【0013】
本発明のまた他の様態としては、本発明は、
(i)上記抗体を利用した抗原抗体反応によって黒真珠貝の卵タンパク質量を定量する段階;及び
(ii)段階(i)で定量した黒真珠貝の卵タンパク質量と実際量との標準曲線から実際の黒真珠貝の卵タンパク質量を推定する段階;を含む、黒真珠貝の繁殖量を予測する方法を提供する。
【0014】
上記抗原抗体反応の測定には、酵素免疫測定法(ELISA)を用いることができるが、これに限定しない。より具体的には、本発明による黒真珠貝の繁殖量を予測する方法によれば、黒真珠貝の卵の成熟に関与する特異的な卵タンパク質を本発明の抗体を利用した酵素免疫測定法で定量分析することによって、特異的な卵タンパク質の総量を間接的に収得することができる。実際量−上記間接的に収得した特異的な卵タンパク質の総量の標準曲線から実際の卵タンパク質量を推定し、一個体が有している卵タンパク質量から卵の数(抱卵数)を予測できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による黒真珠貝の繁殖量測定方法は、抗原抗体の特異的な反応原理を利用して容易且つ正確に黒真珠貝の繁殖量を定量化できるという長所がある。また、本発明による方法は、黒真珠を生産する黒真珠貝の効率的管理及びライフサイクルの研究に重要な情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の全体過程図である。
【図2】本発明の望ましい実施例による血球凝集試験の結果写真である。
【図3】本発明の望ましい実施例によるウェスタンブロットの結果写真である(A:交差反応除去前、B:交差反応除去後、1:卵タンパク質、2:分子量マーカー、3:体組織抽出物(somatic tissue extract)、4:消化腺抽出物(digestive gland extract)、5:精巣抽出物(male gonad extract))。
【図4】本発明の望ましい実施例によるウェスタンブロットの結果写真である(A:非還元条件、B:還元条件、1:分子量マーカー、2:P.margaritiferaの卵抽出物、3:C.gigasの卵抽出物、4:C.ariakensisの卵抽出物、5:S.kegakiの卵抽出物、6:M.edulisの卵抽出物、7:R.pilippinarumの卵抽出物)。
【図5】本発明の望ましい実施例によるELISA分析結果グラフである(A:交差反応除去前、B:交差反応除去後、各グラフ中、上方にある線:卵抽出物との反応式、下方にある線:体組織抽出物との反応式)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を通して本発明の構成要素及び技術的特徴をより詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明の内容を例示するものに過ぎず、これによって発明の範囲が限定されることはない。
【実施例】
【0018】
(実施例1:黒真珠貝卵抽出物の製造)
1−1:卵の分離
黒真珠貝の成熟期である4月頃にマイクロネシア連邦チューク州の延縄垂下式養殖場にて黒真珠貝30個体を採集した。本発明で用いられた雌母貝は12個体で、大きさの範囲は105.3乃至155.7mmであった。
【0019】
まず、黒真珠貝の貝殻を除去した後、生殖巣組織の一部を取って光学顕微鏡で雄/雌を区分した。成熟した雌の卵巣部位を切開してペトリ皿(Petri dish)にのせ、剃刀を用いて卵巣上に格子縞の細かい切り込みを入れてから、軟らかい棒で圧迫して卵を抽出した。上記分離された卵を0.02mMのアンモニア水溶液(ammonium hydroxide)及び一定量の海水(0.45μm濾過及び滅菌処理されたもの)と混合し、この混合液を網目の大きさが100μmの篩で巨大不純物を濾した。更に、この濾した混合液を再び網目の大きさが40μmの篩で濾して卵以外の微細不純物を除去した後、低速で遠心分離して(1000rpm、10min.)上澄液内の残余不純物を除去した。続いて、精製された黒真珠貝卵を−75℃で冷凍し、凍結乾燥器を用いて凍結乾燥した。
【0020】
1−2:黒真珠貝卵の生化学組成分析
(1)総炭水化物含量分析
総炭水化物含量分析は、フェノール硫酸法(Phenol-Sulfuric acid method,Taylor(1955))を用いて行なった。凍結乾燥された黒真珠貝卵の粉末にPBSを入れて超音波破砕機で均質化した後、遠心分離して上澄液を取った。その後、上澄液にフェノールと硫酸溶液を添加して発色させた後、分光光度計(spectrophotometer)を用いて波長490nmで吸光度を測定した。無水デキストロース(Dextrose anhydrous)を50乃至1000μg/ml濃度に希釈して標準液として用い、デキストロース標準液の炭水化物濃度と吸光度との相関式によって試料の総炭水化物含量(mg/g Tissue Dry Weight,TDW)を求めた。
【0021】
(2)総タンパク質含量分析
総タンパク質含量分析は、凍結乾燥された黒真珠貝卵の粉末に0.1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を入れて37℃で2時間インキュベーションし、遠心分離して上澄液を取った後、BCAタンパク質アッセイキット(protein assay kit,Pierce,23227)と分光光度計を用いて波長562nmで吸光度を測定し、吸光度との相関式によってBSA(bovine serum albumin)標準液のタンパク質濃度(50〜1000μg/ml)と試料の総タンパク質含量(mg/g TDW)を求めた。
【0022】
(3)総脂肪含量分析
総脂肪含量分析は、凍結乾燥された黒真珠貝卵の粉末にクロロホルム及びメタノールの混合液を入れて試料の総脂肪を抽出した。続いて、0.9%の塩化ナトリウム(NaCl)を添加し、クロロホルム層とメタノール−水層との2層に分けた後、上側のメタノール−水層を捨て、脂肪が溶けているクロロホルム層を取った。脂肪を含有している上記クロロホルム層をアルミニウムディッシュに注ぎ、乾燥器で1日乾燥してクロロホルムを除去した。その後、ディッシュの重さを引いて脂肪の量(mg/g TDW)を測定した。
【0023】
従って、黒真珠貝卵の生化学組成分分析結果は、下記表1から分かるように、総タンパク質が40乃至51%、総炭水化物が4乃至10%、総脂肪が20乃至22%の範囲であった。
【0024】
【表1】

(実施例2:黒真珠卵抽出物の抗原タンパク質のアミノ酸配列分析)
実施例1−1で分離された黒真珠卵抽出物を分析した図3及び図4の抗原タンパク質のうち、黒真珠卵に特異的なタンパク質のアミノ酸配列を分析した。その結果、23kDタンパク質のアミノ酸配列を確認し、下記表2に示した。但し、タンパク質のアミノ酸配列分析方法は当業界において自明なものである。
【0025】
【表2】

分析されなかった他の大きさのタンパク質は、大部分がN−末端側にメチル化(methylation)、グリコシル化(glycosylation)、アルキル化(alklation)、アセチル化(acetylation)などの変形(modification)が行われているためであると判断される。
【0026】
(実施例3:抗体の製造)
実施例1−1による凍結乾燥された黒真珠貝卵粉末にPBSを入れて超音波破砕機で均質化し、遠心分離して上澄液を取り、黒真珠貝卵タンパク質抽出物の濃度が0.5mg/mlになるように希釈した。上記黒真珠貝卵タンパク質抽出物0.5mlと、これと同量のフロイント完全アジュバント(FCA;Freund's Complete Adjuvant)とを混合して、ウサギの背の皮下に4〜5ヶ所に分けて注射した。この時、対照群としては、初回注射前にウサギの耳動脈より血液を採取して使用した。初回注射から2週間後、同一の抗原タンパク質とフロイント不完全アジュバント(FIA;Freund's Incomplete Adjuvant)とを混合して総4回注射した。
【0027】
一方、抗体の製作過程は表3の通りである。抗体が製作される間に、ウサギの耳動脈より血液を採取して血清を分離した。
【0028】
【表3】

(実施例4:抗体の効果検証及び精製)
4−1:血球凝集試験(Heammaglutination test)
血清内における抗体の有無及び力価を調べるために血球凝集反応実験を行なった。実験には、ヒトの血液から分離された赤血球を利用した。EDTAまたはヘパリン(Heparin)処理されたチューブにヒトの血液を3ml程度採血し、PBSで3回洗浄してから遠心分離して赤血球(RBC;Red blood cells)を分離させた。上記分離された赤血球が1%になるようにPBSに浮遊させ、1%の赤血球にホルマリンを添加して赤血球を安定化させた後、ホルマリン処理された1%の赤血球と0.05mg/mlのタンニン酸(tannic acid)とを1:1で混ぜて赤血球をコーティングした。続いて、上記コーティングされた赤血球に抗原である黒真珠貝の卵タンパク質抽出物を同量添加し、常温で10分間インキュベーションした後、表3に示された血清採取時期に採取された血清を100倍希釈し、56℃で30分間熱処理して補体(complement)を不活性化させた。96ウェルプレート(well plate)に血清を2倍希釈し、血清が2倍希釈された96ウェルプレートに予めコーティング処理された赤血球を10μlずつ分注して3時間後凝集反応を観察した。その結果は図2の通りである。
【0029】
図2から分かるように、上記対照群として用いられた抗原タンパク質の注射前に採取された血清、及び注射2週間後の血清には、抗原抗体凝集反応がなく赤血球が底に集まる点の形態が表れ、4週間後からは赤血球が96ウェルプレートの底に均等に広がる抗原抗体凝集反応が起きて抗体の力価が増加するのが認められた。この時、96ウェルプレートの底に完全に広がった形態のみを反応が起きたものと見なした。一方、8週間後には1:1600で希釈した場合においても反応が起きる抗体力価の敏感度が表れた。
【0030】
4−2:免疫吸着交差反応(Immunosorbent cross-reaction)除去及びIgG分離
卵以外の組織細胞との交差反応は繁殖量の測定にあたり過大評価の要因として作用するが、黒真珠貝の場合は、年中産卵する習性を持っていて卵を含まない未分化(indifferent)段階の個体を使用できないため、雄個体を用いた、雄個体抽出物が結合されたグルタルアルデヒド(glutaraldehyde)免疫吸着剤によって交差反応を除去した。
【0031】
凍結乾燥された雄個体5gをPBS50mlに溶かし、超音波破砕機を用いて均質化させた。この後、4500rpmで10分間遠心分離して上澄液を取った。このように収得された雄個体抽出物に2Mナトリウム−アセテート緩衝溶液(pH5.0)10mlを混合し、25%のグルタルアルデヒド4mlを徐々に加え、3時間反応させた。続いて、グルタルアルデヒドと結合しなかった残余タンパク質を除去するためにPBSで洗浄した後、0.2Mグリシン緩衝溶液(Glycine buffer,pH2.8)200mlを入れて溶出させ、1MのKHPO100mlでpHを調節し、1Mエタノールアミン(ethanolamine)100mlを混ぜ、一晩反応させて免疫吸着剤を準備した。準備された上記免疫吸着剤と2倍希釈された同量の血清とを常温で3時間反応させ、3000rpmで5分間遠心分離して上澄液を取った後、NaOHを用いてpH6程度に調整した。
【0032】
続いて、上記交差反応が除去された血清から免疫グロブリンG(以下、IgG)を分離するために、100%飽和された硫酸アンモニウムを希釈して40%にした硫酸アンモニウム((NH)SO)溶液と4℃で6時間反応させてIgGを沈殿させ、遠心分離(4000rpm、30分)してIgGを収得した。ここに、交差反応除去前に取った血清量の50%程度のPBSを入れて再浮遊させた後、透析管(dialysis tubing)を用いて一日透析してIgG分離を終えた。分離されたIgGは分析前まで冷凍保管した。
【0033】
4−3:ウェスタンブロット(Western blot)
4−3−1.他の組織との交差反応性の確認
黒真珠貝の卵タンパク質が有する分子の特性を調べるためにSDS−不連続電気泳動(PAGE)方法を行ない、本発明による抗体が卵タンパク質のどの部分に特異的であるか、また他の組織との交差反応があるかどうかを調べるためにウェスタンブロッティング(Western blotting)を行ない、交差反応の除去前と除去後とをウェスタンブロッティングを利用して比較することにより、交差反応の除去がきちんとなされたのかを確認した。
【0034】
黒真珠貝の卵、その他の組織(足、エラ、外套膜、筋肉)、消化盲嚢、雄生殖巣の凍結乾燥粉末にPBSを入れて超音波破砕機で均質化した後、遠心分離してそれぞれの上澄液を取り、タンパク質濃度が2μg/mlになるように希釈した。このように収得されたそれぞれの抽出物を10μlずつ分注してSDS−PAGEを行なった後、PVDF膜(PIERCE,88114)に移植(transfer)した。
【0035】
以後、移植された膜を5%のスキムミルク(skim milk)で1時間ブロッキング(blocking)し、上記実施例4−2の交差反応除去後に1次抗体として開発した本発明の黒真珠貝の卵タンパク質に特異的な抗体(交差反応除去前は開発中のウサギの血清を使用)を5%のスキムミルクに1:1000で希釈して(交差反応除去前は1:5000で希釈)2時間反応させ、ウォッシング後、ウォッシングバッファー(washing buffer)に2次抗体(goat anti-Rabbit IgG HRP,KOMA)を1:3000で希釈して1時間反応させた。ウォッシング後、ペルオキシダーゼ(peroxidase)及びルミナル(luminal)を1:1で混ぜて膜(membrane)に振りかけて1乃至2分程度反応させ、暗室でECL反応を30秒間隔で3分間撮影した。
【0036】
一方、図3のA及びBは、交差反応除去前/後の写真を示したものである。図3のAには卵タンパク質以外のその他の組織との交差反応が示されている反面、Bには卵タンパク質を除いたその他の組織との交差反応が消えたことが確認された。
【0037】
4−3−2.他種との交差反応性に対する確認
本発明による抗体が他の二枚貝(bivalve)種の卵タンパク質とも交差反応するかどうかを調べるためにウェスタンブロッティング(Western blotting)を行なった。
【0038】
黒真珠貝(Pinctada margaritifera)の卵抽出物と他種(C.gigas; C.ariakensis;S.kegaki;M.edulis;R.pilippinarum)の卵抽出物を10μlずつ分注してSDS−PAGEを行なった後、上記4−3−1と同様の方法でウェスタンブロッティングを行なった。その結果、図4に示した通り、本発明の抗体は黒真珠貝(Pinctada margaritifera)以外の他の二枚貝種の卵タンパク質とは交差反応しないことが確認された。
【0039】
特に、実施例2でアミノ酸配列を分析した23kDの黒真珠貝卵タンパク質は、これまで研究された他の二枚貝(bivalve)種の卵タンパク質と比較分析した結果、黒真珠貝卵に特異的に存在するものと分析された(表4参照)。
【0040】
【表4】

4−4:酵素免疫測定法(ELISA;Enzyme Linked Immunosorbent Assay)
黒真珠貝卵タンパク質に特異的な抗体の敏感度を確認するために、卵以外の非特定細胞との交差反応の有無を間接(indirect)ELISAで確認した。抗原タンパク質としては、黒真珠貝の卵タンパク質をPBS−T(0.05%のトリトンX−100を含有するPBS)で希釈したものを用い、対照群としては、雄個体の組織抽出物を用いた。交差反応除去前は卵タンパク質18μg/ml、雄個体組織抽出物22.5μg/mlの濃度になるように2倍希釈し、交差反応除去後は卵タンパク質20μg/ml、雄個体組織抽出物20μg/mlの濃度になるように2倍希釈して抗原タンパク質として用いた。希釈された上記抗原タンパク質をポリスチレン製の96ウェルELISAマイクロプレート(Polystyrene 96-well ELISA microplate)に100μg/μlずつ入れて4℃で一晩反応させ、マイクロプレート自動洗浄器(microplate autowasher)を用いてPBS−Tで洗浄した。続いて、0.1%のBSA(in PBS−T)を150μl入れて1時間ブロッキング(blocking)し、同様の方法で洗浄した。上記実施例4−2の交差反応除去後に1次抗体として開発した本発明による黒真珠貝の卵タンパク質に特異的な6.3μg/ml濃度の抗体(交差反応除去前は12.8μg/ml濃度の血清を使用)を100μl入れて1時間反応させ、洗浄した後、1μg/mlの2次抗体(Goat anti-rabbit IgG alkaline phosphatase-conjugated)を100μl入れて1時間反応させた。p−ニトロフェニルリン酸(pNPP,p−nitrophenylphosphate)を発色試薬として用いて405nmで吸光度を測定した。ELISA分析の結果、交差反応除去前は0.14〜18μg/mlの卵タンパク質が測定可能で、陰性対照群(negative control)では2.8乃至22.5μg/mlと交差反応が非常に弱いことが確認された。交差反応除去後は0.07乃至20μg/mlの卵タンパク質が測定可能で、陰性対照群では反応を見せないことが分かった(図5)。
【0041】
4−5:免疫蛍光染色(Immunofluorence staining)
本発明による抗体が卵に特異的に反応するかどうかを、免疫蛍光法を用いて組織スライド上で交差反応除去前と除去後とを比較して観察した。組織スライドはキシレン(xylene)を用いてパラフィンを除去し、アルコール脱水過程を経てPBS−Tで置換した。5%のBSAで1時間ブロッキングした後、PBS−Tで3回洗浄した。1次抗体として、上記実施例4−2の交差反応除去後の1mg/ml濃度の抗体(交差反応除去前は1.2mg/ml濃度の血清)を組織スライドに対して組織を覆う程度に振りかけて1時間反応させた。その後、PBS−Tで洗浄してから、2次抗体(fluorescein isothiocyanate-conjugated goat antibody to rabbit IgG)をブロッキング緩衝溶液に1:4000で希釈し、組織スライドに組織を覆う程度に振りかけて1時間反応させた。PBS−Tで洗浄した後、50%のグリセロール(glycerol)でマウンティング(mounting)した。従って、光学顕微鏡下で写真を撮り、同写真を蛍光顕微鏡下で観察した。
【0042】
以上、本発明の望ましい実施例を参照しながら説明したが、該当技術分野における熟練した当業者は、下記特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で本発明の多様な修正及び変更が可能であることを理解し得るであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項2】
配列番号2で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項3】
配列番号3で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項4】
配列番号4で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項5】
配列番号5で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項6】
配列番号6で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項7】
配列番号7で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項8】
配列番号8で表示される黒真珠貝卵抽出物の抗原タンパク質。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちの何れか一項における抗原タンパク質に特異的な抗体。
【請求項10】
(i)請求項9の抗体を利用した抗原抗体反応によって黒真珠貝の卵タンパク質量を定量する段階;及び
(ii)段階(i)で定量した黒真珠貝の卵タンパク質量と実際量との標準曲線から実際の黒真珠貝の卵タンパク質量を推定する段階;を含む、黒真珠貝の繁殖量を予測する方法。
【請求項11】
上記抗原抗体反応の測定には酵素免疫測定法(ELISA)を用いることを特徴とする、請求項10に記載の黒真珠貝の繁殖量を予測する方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248190(P2010−248190A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92129(P2010−92129)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(509190646)コリア オーシャン リサーチ アンド ディベロプメント インスティチュート (2)
【Fターム(参考)】