説明

黒鉛粒子分散液の製造方法並びに樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 本発明は、黒鉛粒子がその本来の性質を損なうことなくプロトン性極性溶媒中に均一に分散してなる黒鉛粒子分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の黒鉛粒子分散液の製造方法は、黒鉛粒子が凝集している黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して混合物を作製する混合工程と、上記混合物を撹拌して黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とし、この黒鉛粒子を上記プロトン性極性溶媒中に分散させて黒鉛粒子分散液を作製する分散工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、黒鉛粒子をフィラ−として用いることが広く検討されており、更に、黒鉛粒子をより良好な分散状態で分散させる技術の開発も検討されている。特許文献1には、例えば、カ−ボンブラックを溶媒に対して5〜25重量%、ポリビニルピロリドン(PVP)をカ−ボンブラックに対して20〜60重量%の割合で含み、かつ、式:300≦T2/D50≦550(式中、T2は当該分散液のスピン−スピン緩和時間(ms)、D50は当該分散液中のカ−ボンブラックのメディアン径(μm)を示す。)を満たすカ−ボンブラック分散液が開示されている。
【0003】
そして、特許文献1には、溶媒としてN−メチルピロリドンを用いることが好ましく、カ−ボンブラックのメディアン径D50が0.12〜0.20μmであることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によると、使用する有機溶媒が限定されるという問題があった。
【0005】
一方、近年、グラファイトをその層面で剥離して薄片化した薄片化黒鉛をフィラ−として用いる試みもなされている。例えば、特許文献2には、酸化グラファイトを熱的に剥離させた変性グラファイト酸化物材料が提案されている。そして、特許文献2には、実施例において、DMF、NMP、1,2−ジクロロベンゼン又はニトロメタンを溶媒として用いると、安定した分散液が得られることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術によると、グラファイトに変性処理や熱処理を加えているので、得られる変性グラファイト酸化物材料は、グラファイト本来の性質が損なわれているという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−091500号公報
【特許文献2】特表2009−511415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、黒鉛粒子がその本来の性質を損なうことなくプロトン性極性溶媒中に均一に分散してなる黒鉛粒子分散液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の黒鉛粒子分散液の製造方法は、黒鉛粒子が凝集している黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して混合物を作製する混合工程と、上記混合物を撹拌して黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とし、この黒鉛粒子を上記プロトン性極性溶媒中に分散させて黒鉛粒子分散液を作製する分散工程とを含むことを特徴とし、後述する黒鉛化合物、黒鉛層間化合物などの黒鉛粒子は凝集して黒鉛粒子凝集体となり易く、このような黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とすると共に、この黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒に略均一に分散させて黒鉛粒子分散液を作製することにある。
【0010】
先ず、本発明では、黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して混合物とを混合して混合物を作製する(混合工程)。
【0011】
上記プロトン性極性溶媒としては、特に限定されず、例えば、1−ブタノ−ル、1−プロパノ−ル、メタノ−ル、エタノ−ルなどのアルコ−ル、蟻酸などのカルボン酸、水などが挙げられ、誘電率が適正(極性が適正)という理由から、1−ブタノ−ル、1−プロパノ−ル、メタノ−ル、エタノ−ル及び蟻酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物が好ましい。なお、プロトン性極性溶媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0012】
黒鉛粒子凝集体は黒鉛粒子が凝集してなる。なお、本発明において、「黒鉛粒子凝集体」とは、黒鉛粒子が凝集してなり、SEMにて測定された直径が20μm以上の凝集体をいう。SEMにて測定された凝集体の直径とは、測定された凝集体を包囲し得る最小径の真円の直径をいう。黒鉛粒子としては、黒鉛、膨張黒鉛、黒鉛層間化合物などの黒鉛化合物、黒鉛化合物をその層面間において剥離し薄片化して得られる薄片化黒鉛の何れであってもよい。なお、黒鉛に官能基が化学的に結合してしても、或いは、黒鉛に官能基が弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。
【0013】
黒鉛としては、粒子全体で単一の多層構造を有する黒鉛が好ましく、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛とキッシュ黒鉛は、各層面(基本層)が略単一の方位を有する単独の結晶又はその集合体であり、高配向性熱分解黒鉛の各層面(基本層)は異なる方位を有する多数の小さな結晶の集合体である。
【0014】
膨張黒鉛としては従来公知のものが用いられる。膨張黒鉛の製造方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、硫酸と硝酸との混合水溶液中に天然黒鉛を浸漬した後、天然黒鉛を混合水溶液から取り出して水洗して残余化合物とする。この残余化合物を急速加熱して、天然黒鉛の層面間に進入した化合物の分解によって天然黒鉛の層面間の間隔を拡げて天然黒鉛を膨張させる膨張黒鉛の製造方法などが挙げられる。
【0015】
黒鉛層間化合物は、上記黒鉛の層面間にインターカレーターを挿入することによって形成されている。黒鉛層間化合物における黒鉛の層面間に挿入されるインターカレーターとしては、特に限定されず、例えば、酸、酸化剤、金属、金属塩、気体、ハロゲン化合物などが挙げられ、高圧条件を用いることなく黒鉛層間化合物を生成することができるので、酸と酸化剤との混合物が好ましい。インターカレーターは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0016】
酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、カルボン酸、クロム酸、リン酸、ヨウ素酸などが挙げられる。酸化剤としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、過塩素酸、過マンガン酸塩などが挙げられる。金属としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。金属塩としては、例えば、塩化銅、塩化鉄、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸銅、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。気体としては、例えば、水素などが挙げられる。ハロゲン化合物としては、例えば、塩化ヨウ素、塩化臭素、臭化ヨウ素、フッ化ヨウ素、フッ化臭素、フッ化塩素、フッ素、塩素、塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0017】
黒鉛の層面間にインターカレーターを挿入して黒鉛層間化合物を製造する方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、黒鉛をインターカレーターの溶液に分散させて、分散液中において黒鉛とインターカレーターとを反応させて黒鉛層間化合物を製造する方法、黒鉛と気体状のインターカレーターとを高圧下にて反応させて黒鉛層間化合物を製造する方法、酸化剤を用いてHummers−Offeman法によって黒鉛層間化合物を製造する方法などが挙げられ、酸化剤を用いてHummers−Offeman法によって黒鉛層間化合物を製造する方法が好ましい。
【0018】
上述の要領で製造された黒鉛層間化合物に薄層化処理を施して原料黒鉛よりも薄層化させておくことが好ましい。黒鉛層間化合物に施す薄層化処理としては、例えば、黒鉛層間化合物にマイクロ波又は超音波を照射する方法、黒鉛層間化合物に物理的に応力を加えて黒鉛層間化合物を粉砕する方法などが挙げられる。
【0019】
黒鉛層間化合物において、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%体積平均径として得られる値は、小さいと、黒鉛層間化合物を薄片化して得られる薄片化黒鉛において異方性が得られないことがあり、大きいと、黒鉛層間化合物の薄片化が進行しにくいことがあるので、0.1〜50μmが好ましい。
【0020】
なお、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%体積平均径として得られる値が20μm未満である黒鉛層間化合物は、例えば、SECカ−ボン社から商品名「SNO−15」などのSNOシリ−ズにて、中越黒鉛工業所から商品名「CX−3000」にて、伊藤黒鉛社からCNP−シリ−ズにて市販されている。黒鉛化合物をその層面間において剥離し薄片化して得られる薄片化黒鉛は、XGSience社から商品名「XGnP−5」にて市販されている。
【0021】
なお、黒鉛粒子が凝集してなる黒鉛粒子凝集体は、例えば、XGScience社の商品名「XGnP」シリ−ズ、Angstrom Materials社の商品名「N」シリ−ズから得ることができる。
【0022】
混合物を作製する際において、黒鉛粒子凝集体の量は、少ないと、黒鉛粒子分散液が黒鉛粒子に起因した機能を発揮しないことがあり、多いと、黒鉛粒子分散液中の黒鉛粒子が再度、凝集してしまうことがあるので、プロトン性極性溶媒100重量部に対して0.1〜1.5重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。
【0023】
混合物を作製するにあたって、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物が用いられる。この化合物は、共役二重結合を含む環状骨格を有し、この共役二重結合を含む環状骨格が黒鉛粒子凝集体の黒鉛粒子のπ電子と強く相互作用する。更に、上記化合物は、水素結合性部位を有しており、この水素結合性部位が上記プロトン性極性溶媒との間において水素結合を形成する。その結果、後述するように、黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して得られる混合物を撹拌することによって、黒鉛粒子凝集体に黒鉛粒子同士を剥離させる剥離力を作用させて黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とすることができる。
【0024】
そして、上述のようにして生成された黒鉛粒子は、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物との間において上記相互作用を維持していると共に、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物はプロトン性極性溶媒との間において水素結合を形成した状態を維持していることから、生成された黒鉛粒子は、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物を介して、プロトン性極性溶媒中にて凝集することなく均一に分散されており、黒鉛粒子が均一に分散された黒鉛粒子分散液を得ることができる。
【0025】
共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物において、共役二重結合を含む環状骨格としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環骨格、ナフタレン環骨格、アントラセン環骨格、フェナントレン環骨格などの六員環骨格や、ピロール環骨格、フラン環骨格、チオフェン環骨格などの五員環骨格などのπ電子群を有する環状骨格が挙げられ、黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒中に分散させる能力に優れているので、ベンゼン環骨格が好ましい。
【0026】
共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物において、水素結合性部位としては、プロトン性極性溶媒との間において水素結合を形成することができればよく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などを含む骨格が好ましく、エーテル構造(−O−)を含む骨格が好ましく、オキシエチレン鎖(−O−CH2CH2−)、ポリオキシエチレン鎖がより好ましい。
【0027】
共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物において、水素結合性部位の炭素数は、少ないと、黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒中に均一に分散させることができないことがあるので、4以上が好ましく、12〜40がより好ましい。
【0028】
共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジブチルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンジブチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル、下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどが挙げられる。
【0029】
【化1】

【0030】
一般式(1)中、nは1〜20の整数である。nが21以上であると、黒鉛粒子が再度、凝集して黒鉛粒子凝集体を形成する虞れがある。nが2以上であると、黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒中に均一に分散させることができるので、nは2〜20が好ましく、6〜12がより好ましい。上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルは、花王社から商品名「エマルゲンA」シリーズにて市販されている。
【0031】
混合物を作製する際において、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物の量は、少ないと、黒鉛粒子が再凝集することがあり、多いと、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物自体が凝集体となることがあるので、プロトン性極性溶媒100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。
【0032】
黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して混合物を作製する(混合工程)が、混合物の作製にあたっては、黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とが混合されておればよく、各成分が均一に混合されている必要はないが、各成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0033】
又、黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して混合物を作成するにあたっては、黒鉛粒子凝集体をプロトン性極性溶媒に効率よく均一分散させることができるので、プロトン性極性溶媒に共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物を供給した後に黒鉛粒子凝集体を供給することが好ましい。
【0034】
黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して得られる混合物を撹拌して黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とし、この黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒中に分散させて黒鉛粒子分散液を得ることができる(分散工程)。
【0035】
混合物を撹拌する方法としては、汎用の撹拌装置を用いて混合物を撹拌すればよく、このような撹拌装置としては、特に限定されず、例えば、ナノマイザー、超音波照射装置、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル、ホモジナイザーなどが挙げられ、黒鉛粒子凝集体に物理的な付加が加わらないことから、超音波照射装置が好ましい。
【0036】
混合物に超音波を照射する際の照射条件としては、周波数20〜30kHz、出力500〜600Wの超音波を混合物に30〜300分に亘って照射することが好ましい。
【0037】
上述のように、混合工程において製造された混合物において、黒鉛粒子凝集体の黒鉛粒子は、そのc軸方向の電子(π電子)群を有することから、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物の共役二重結合を含む環状骨格と強く相互作用を生じると共に、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物は、水素結合性部位においてプロトン性極性溶媒と水素結合を形成する。
【0038】
この状態において、分散工程において混合物を撹拌すると、黒鉛粒子凝集体に剥離力が加えられ、黒鉛粒子凝集体が円滑に解砕されて黒鉛粒子を生成する。そして、生成された黒鉛粒子は、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物を介してプロトン性極性溶媒と上述の相互作用を維持しており、プロトン性極性溶媒中に黒鉛粒子が凝集することなく均一に分散してなる黒鉛粒子分散液を得ることができる。
【0039】
なお、プロトン性極性溶媒を撹拌しながら、黒鉛粒子凝集体と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とをプロトン性極性溶媒に供給して混合物を作製すると同時に、黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とし、この黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒中に分散させて黒鉛粒子分散液を作製する分散工程を行ってもよいし、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物を撹拌しながら、黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒とを共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物に供給して混合物を作製すると同時に、黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とし、この黒鉛粒子をプロトン性極性溶媒中に分散させて黒鉛粒子分散液を作製する分散工程を行ってもよい。
【0040】
そして、上述のようにして得られた黒鉛粒子分散液と合成樹脂とを混合することによって、黒鉛粒子が合成樹脂中に均一に分散してなる樹脂組成物を作製することができる。具体的には、加熱されて溶融状態となっている合成樹脂中に黒鉛粒子分散液を添加して混合し、合成樹脂中に黒鉛粒子を分散させると共に黒鉛粒子分散液を構成していたプロトン性極性溶媒を蒸発、除去して、黒鉛粒子が合成樹脂中に均一に分散してなる樹脂組成物を作製することができる。又は、黒鉛粒子分散液を加熱するなどしてプロトン性極性溶媒を蒸発、除去して、黒鉛粒子及びプロトン性極性溶媒を含む混合体を作製し、この混合体を合成樹脂中に混合することによって、黒鉛粒子が合成樹脂中に均一に分散してなる樹脂組成物を作製することができる。
【0041】
得られた樹脂組成物は、合成樹脂中に黒鉛粒子が分散してなるが、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物が合成樹脂と黒鉛粒子との間に介在しており、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物によって合成樹脂中への黒鉛粒子の分散性が改善され、その結果、黒鉛粒子は合成樹脂中に凝集することなく均一に分散した状態となっている。
【0042】
上記合成樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエチレン、EVA樹脂、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンエーテルなどが挙げられ、ポリプロピレンが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の黒鉛粒子分散液の製造方法は、上述の如き構成を有しているので、黒鉛粒子凝集体を解砕してなる黒鉛粒子がその本来の性質を損なわれることなくプロトン性極性溶媒中に分散されてなる黒鉛粒子分散液を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
エタノール5重量部に、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王社製 商品名「エマルゲンA60」)0.05重量部を供給した後、更に、エタノール中に薄片化黒鉛が凝集してなる黒鉛粒子凝集体(XGScience社製 商品名「XGnP−5」)0.05重量部を供給して均一に混合して混合物を作製した。
【0046】
【化2】

【0047】
次に、超音波照射(カイジョー社製 商品名「PHENIXII 26kHz」)を用いて、周波数26kHz、出力600Wにて混合物に超音波を60分間に亘って照射して混合物を撹拌し、黒鉛凝集体を解砕して黒鉛粒子を生成し、この黒鉛粒子がエタノール中に分散してなる黒鉛粒子分散液を製造した。
【0048】
(実施例2)
混合物への超音波の照射時間を60分の代わりに240分としたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0049】
(実施例3)
一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルを0.05重量部の代わりに0.1重量部としたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0050】
(実施例4)
一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの代わりに、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(花王社製 商品名「エマルゲンB−66」)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0051】
(実施例5)
一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの代わりに、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(青木油脂工業社製 商品名「BLAUNON NK−808」)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0052】
(実施例6)
一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの代わりに、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(青木油脂工業社製 商品名「BLAUNON N−509」)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0053】
(実施例7)
一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの代わりに、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル(青木油脂工業社製 商品名「BLAUNON DP−9」)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0054】
(比較例1)
一般式(1)で表されるポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの代わりに、水素結合性部位は有するが共役系二重結合を含む環状骨格を有していない化合物としてポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製 商品名「ポリビニルピロリドンK30」、重量平均分子量:4万)を用いたこと以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を作製した。
【0055】
(比較例2)
ポリビニルピロリドンを0.05重量部の代わりに0.1重量部としたこと以外は比較例1と同様にして黒鉛粒子分散液を製造した。
【0056】
各実施例及び比較例において、黒鉛粒子凝集体の粒子径分布と、黒鉛粒子分散液中における黒鉛粒子の粒子径分布を粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製 商品名「AccuSizer780」)を用いて測定し、測定の結果、得られた体積平均粒子径分布のピーク値を表1に示した。
【0057】
又、180℃に加熱して溶融状態としたポリプロピレン(日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックEA9」)中に、実施例1〜7又は比較例1、2で得られた黒鉛粒子分散液を供給して混合して、ポリプロピレン中に黒鉛粒子を分散させると共に、エタノールを蒸発、除去することによって樹脂組成物を得た。
【0058】
得られた樹脂組成物中における黒鉛粒子の分散状態をマイクロスコープ(キーエンス社製 商品名「VHX−200」)によって測定し、その結果を表1に示した。黒鉛粒子凝集体が全く観察されなかった場合を「◎」、視野内に測定された黒鉛粒子及び黒鉛粒子凝集体の総数のうち、黒鉛粒子凝集体の数が1/4未満の場合を「○」、視野内に測定された黒鉛粒子及び黒鉛粒子凝集体の総数のうち、黒鉛粒子凝集体の数が1/4以上で且つ1/2未満の場合を「△」、視野内に測定された黒鉛粒子及び黒鉛粒子凝集体の総数のうち、黒鉛粒子凝集体の数が1/2以上の場合を「×」とした。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子が凝集している黒鉛粒子凝集体と、プロトン性極性溶媒と、共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物とを混合して混合物を作製する混合工程と、上記混合物を撹拌して黒鉛粒子凝集体を解砕して黒鉛粒子とし、この黒鉛粒子を上記プロトン性極性溶媒中に分散させて黒鉛粒子分散液を作製する分散工程とを含むことを特徴とする黒鉛粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
プロトン性極性溶媒が、1−ブタノ−ル、1−プロパノ−ル、メタノ−ル、エタノ−ル及び蟻酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
共役二重結合を含む環状骨格及び水素結合性部位を有する化合物が、ベンゼン環及びオキシエチレン鎖を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の黒鉛粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の黒鉛粒子分散液の製造方法によって製造された黒鉛粒子分散液と、合成樹脂とを混合することによって製造されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
溶融状態の合成樹脂中に、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の黒鉛粒子分散液の製造方法によって製造された黒鉛粒子分散液を供給し、上記合成樹脂中に黒鉛粒子を混合すると共に黒鉛粒子分散液中のプロトン性極性溶媒を蒸発、除去することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の黒鉛粒子分散液の製造方法によって製造された黒鉛粒子分散液からプロトン性極性溶媒を蒸発、除去して、黒鉛粒子及びプロトン性極性溶媒を含む混合体を製造し、この混合体を合成樹脂中に混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−31038(P2012−31038A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213538(P2010−213538)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】