説明

%CDTの定量方法

【課題】総トランスフェリンに対する炭水化物欠失トランスフェリン(CDT)の割合(%CDT)を簡易に直接定量するための免疫測定方法を提供する。
【解決手段】トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質Aと、炭水化物欠失トランスフェリン(CDT)に特異的に反応する物質Bとを用い、該物質Aにより体液中のトランスフェリンのアイソフォームを非特異的に選択し、且つ、該物質BによりCDTを特異的に選択することにより、体液中の総トランスフェリンの量を測定することなく総トランスフェリンに対するCDTの割合(%CDT)を定量する方法である。得られた測定値は%CDTに正比例する。トランスフェリンを非特異的に選択する時にトランスフェリンが過剰量になるような条件で行うことで、各体液中のトランスフェリンの変動による影響を受けず、総トランスフェリンの測定を行う必要がなく、直接%CDTを測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール中毒患者を同定することができる簡易な免疫測定方法を行うための総トランスフェリンに対するCDTの割合(%CDT)の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール中毒は、アルコール中毒患者とかれらの関係者に多大の損害をもたらすばかりか、アルコール中毒に関連する生産性の損失及び莫大な年間健康管理費用をもたらす。従って、アルコール中毒への早期認識と治療とが個人及び社会にとって最善且つ費用効果的である。このような状況下において、高感度で特異的、しかも迅速で費用のかからない検査方法が必要である。
【0003】
例えば、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γ−GTP)、平均血球容積(mean corpuscular volume) (MCV)、アスパラギン酸アミノトランスアミナーゼ(AST)又はアラニンアミノトランスアミナーゼ(ALT)、α−リポタンパク質及びフェリチンのような臨床検査項目が、アルコール乱用の生化学的マーカーとして多年にわたって用いられてきたが、これらの検査の診断的感度及び特異性は満足のいくものではなかった。
【0004】
Stibler らは、トランスフェリンの中で高い等電点を持つアイソフォームが1週間以上にわたって毎日60g以上のエタノールを摂取した者の81%で増加し、10日以上にわたって禁酒する場合に高い等電点を持つアイソフォームが正常レベルに戻ることを報告している(Acta Med Scan, 206, 275-281,(1979) :非特許文献1)。
【0005】
血清トランスフェリンは、79.5kDの分子量を有し、二つのN−連結の多糖鎖を有する一本のポリペプチド鎖から成る糖タンパクである。これらの多糖鎖は、分岐状であり、かつ末端シアル酸残基を有している。Wongおよび Regoeczi は、Int.J.Peptide Res. 9, 241-248, (1977) (非特許文献2)において、ヒトトランスフェリンは天然ではシアル化のレベルにより種々のアイソフォームが存在すると述べている。事実、6 種のアイソフォームとしてペンタシアロ、テトラシアロ、トリシアロ、ジシアロ、モノシアロおよびアシアロトランスフェリンが存在する。
【0006】
正常な健康個体に比べて、アルコール中毒患者の血液中には、アシアロ、モノシアロ、ジシアロトランスフェリンが上昇したレベルで存在することが見出されている (van Eijk et al, Clin Chim Acta 132, 167-171, (1983) :非特許文献3、Stibler, Clin Chem, 37, 2029-2037, (1991) :非特許文献4、および Stibler et al, "Carbohydrate-deficient transferrin (CDT) in serum as a marker of high alcohol consumption", Advances in the Biosciences, (Ed Nordmann et al), Pergamon, 1988, Vol.71, pages 353-357 ):非特許文献5)。
【0007】
アシアロ、モノシアロ及びジシアロトランスフェリンは、炭水化物(糖鎖)欠損トランスフェリン(略語:CDT)と呼ばれており、CDTを測定する方法としては、免疫学的検査法(WO−96/26444:特許文献1、および Heil et al 、Anaesthesist, 43, 447-453,(1994):非特許文献6等)や、高速液体クロマト法(WO95/04932:特許文献2)が用いられている。
【0008】
前記免疫学的検査法には、アニオン性イオン交換樹脂でCDT分画を分離した後、免疫比濁法 (immunoturbidimetric assay)等によって測定する方法や、CDT特異抗体を用いた競合ラテックス凝集法(特開2004−051633:特許文献3)が挙げられる。前記免疫学的検査法により総トランスフェリンに対する炭水化物欠失トランスフェリン(CDT)の割合(%CDT)を定量するには、該検査法で得られたCDT濃度と、総トランスフェリン濃度から%CDTを算出している。また、前記高速液体クロマト法により%CDTを定量するには、該方法で得られたCDT濃度と、総トランスフェリン濃度から%CDTを算出している。
【特許文献1】WO−96/26444
【特許文献2】WO95/04932
【特許文献3】特開2004−051633
【非特許文献1】Acta Med Scan, 206, 275-281,(1979 )
【非特許文献2】Int.J.Peptide Res. 9, 241-248, (1977)
【非特許文献3】Clin Chim Acta 132, 167-171, (1983)
【非特許文献4】Clin Chem, 37, 2029-2037, (1991)
【非特許文献5】Advances in the Biosciences, Pergamon, 1988, Vol.71, pages 353-357
【非特許文献6】Anaesthesist, 43, 447-453, (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の免疫学的検査法や、前記高速液体クロマト法による、総トランスフェリンに対するCDTの割合(即ち、%CDT)の定量において、何れもCDTの測定に加えて総トランスフェリンの測定をそれぞれ行うことで、%CDTを算出するというプロセスが行われていた。
【0010】
そこで本発明は、総トランスフェリンの測定を行う必要がなく、直接%CDTを測定することができる%CDTの定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決する本発明の%CDTの定量方法は、トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質Aと、炭水化物欠失トランスフェリン(CDT)に特異的に反応する物質Bとを用い、該物質Aにより体液中のトランスフェリンのアイソフォームを非特異的に選択し、且つ、該物質BによりCDTを特異的に選択することにより、体液中の総トランスフェリンの量を測定することなく総トランスフェリンに対するCDTの割合(%CDT)を定量する方法である。
【0012】
本発明の%CDTを定量する方法において、「トランスフェリンのアイソフォームに対して非特異的に反応する物質A」とは、トランスフェリンの特定のアイソフォームだけに特異的に反応する物質ではない意味で用いている。
【0013】
前記トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質Aには、抗トランスフェリン抗体が挙げられる。また、前記CDTに対して特異的に反応する物質BにはCDT特異抗体が挙げられる。
【0014】
本発明の%CDTを定量する方法において、トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質Aにより体液中のトランスフェリンを非特異的に選択する時に、トランスフェリンが過剰量になるような条件下で行うことで、各体液中のトランスフェリンの変動による影響を受けず、しかも総トランスフェリンの測定を行う必要がなく、直接%CDTを測定することができる。
【0015】
本発明の%CDTを定量する方法に適用可能な方法は、不均一系測定方法であり、例えば、CDTに対して特異的に反応する物質B(即ち、CDT特異抗体)を標識化する場合は放射性同位体元素標識免疫測定法、酵素標識免疫測定法、蛍光標識免疫測定法等が挙げられる。或いは、CDT特異抗体を標識化しなくても、質量変化等により直接測定することは可能である。本発明の%CDTを定量する方法は不均一系であれば、如何なる反応形式で行われてもよい。これらの定量方法は用手法あるいは自動化されてもよい。
【0016】
本発明の%CDTを定量する方法において、放射性同位体元素標識免疫測定法、酵素標識免疫測定法、蛍光標識免疫測定法に用いられる試薬の一つは、体液中のCDTの検出または定量化を可能にするために、標識化される必要があるが、それらの標識物質については公知のものを使用してもよく、例えば、以下のものが挙げられる。
【0017】
1)酵素:アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコース−6−フォスフェートデヒドロゲナーゼ、アセチルコリンエステラーゼ等
2)蛍光体:フルオレセインイソシアネート、ローダミン、テキサスレッド等
3)放射性同位体元素:I125 、I131
4)生物発光体:ルシフェリン、エクオリン等
5)化学発光体:イソルミノール、アクリジニウムエステル、オキサレートエステル等 所望の試薬へのこれらの標識体の結合は、公知の技術を用いて行うことができる。
【0018】
本発明の%CDTを定量する方法において、前記物質Aと、トランスフェリンのアイソフォームと、物質Bの反応によりサンドイッチ複合体を形成することにより%CDTを定量することができる。
【0019】
本発明の%CDTを定量する方法を行う好ましい態様は、前記物質Aを固相に結合させて行うことである。前記物質Aを固相化する場合、抗体の固相化に用いる担体の材質及び形状は、測定用途によって公知のものから選択できる。例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ガラス、アガロース、ニトロセルロース等が挙げられる。形状としては、マイクロタイタープレート、バイアル、ラテックスビーズ、ディップストリップ等が挙げられる。
【0020】
測定法の%CDTを定量する好ましい方法は、(1)前記物質Aと、トランスフェリンのアイソフォームと、物質Bの反応により形成された種々のアイソフォームの複合体におけるCDTの量に依存して測定される値と、%CDTとの検量線を予め作成しておき、(2)体液中のトランスフェリンのアイソフォームに対して、前記物質A及び物質Bを反応させることにより種々のアイソフォームの複合体を形成し、(3)形成された複合体におけるCDTの量に依存して測定される値を測定し、(4)前記工程で得たCDTの量に依存して測定される値と、前記予め作成した検量線とから、%CDTを算出する方法である。
【0021】
本発明の%CDTを定量する方法により得られた、CDTの量に依存して測定される値は、%CDTに正比例する。該CDTの量に依存して測定される値は、例えば、吸光度、蛍光強度、発光強度、放射能等が挙げられる。
【0022】
本発明の%CDTを定量する方法に用いるのに適した物質Aは、好ましくはトランスフェリンに対する抗体が挙げられる。特に好ましい抗体は特許生物寄託センター(IPOD)に寄託したハイブリドーマNCDT076(受領日:平成18年3月14日、受領番号:FERM AP−20842)から産生される抗体である。
【0023】
本発明の免疫測定法に用いるのに適した物質Bは、CDT特異抗体が挙げられ、CDT以外のトランスフェリンアイソフォームに対してCDT分画に選択的に反応するものであればよい。特に好ましいCDT特異抗体は特許生物寄託センター(IPOD)に寄託したハイブリドーマNCDT503(受領日:平成18年3月14日、受領番号:FERM AP−20844)から産生される抗体である。
【0024】
トランスフェリンに対する抗体やCDT特異抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよく、抗血清またはその精製分画、あるいは既知のイソタイプまたはサブクラスでもよい。更には、必要に応じて抗原と結合できる抗体フラグメントであってもよい。
【0025】
本発明の免疫測定方法の対象となる体液は、血清、血漿、唾液またはその他の体液であってもよいが、血清であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のCDTの定量方法によれば、総トランスフェリンの測定を行う必要がなく、直接%CDTを測定することができることから、アルコール中毒患者を簡単な手法で、精度よく同定することが可能となる。
【0027】
本発明のCDTの定量方法によれば、体液中のトランスフェリンを非特異的に選択する時に、トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質に対して、トランスフェリンが過剰量になるような条件下で行うことで、各体液中のトランスフェリンの変動による影響を受けず、総トランスフェリンの測定を行う必要がなく、直接%CDTを測定することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を実施例及び添付した図を参照して詳述する。
【0029】
[実施例1] 抗体産生のハイブリドーマの作製
天然のジシアロトランスフェリンとアシアロトランスフェリンが混合された状態で含まれるCDT分画(抗原溶液 0.5mg/ml)を調製し、免疫抗原とした。該抗原溶液500μlにアジュバンド500μl(TiterMax Gold:商品名、 TiterMax Co.)を混和して乳化させ、5週令のBALB/cマウスの皮下に免疫した。追加免疫として同様に調製したものを2週おきに3回繰り返した。その間免疫時に採血をして抗原に対する血中の抗体活性を測定した。最終免疫から14日後に100μlの抗原溶液を腹腔内に投与し、3日後、脾臓を摘出した。脾細胞はマウスミエローマ細胞(P3x63Ag8.653)とポリエチレングリコール4000(メルク社製)の存在下で2分間反応させることにより融合させた。融合後、HAT選択培地に懸濁して96ウェルの培養プレートに分注し、37℃のCO2 インキュベーターで培養し、ハイブリドーマを調製した。
【0030】
抗体産生ハイブリドーマの確認はサンドイッチELISAにより行った。96ウェルのマイクロプレートにPBSで10μg/mlに調製した抗マウスIgG抗体を1ウェル当たりそれぞれ50μl加え、4℃で一昼夜反応させた。その後PBSで1回洗浄し、0.5%BSA−PBSでブロッキングを行いスクリーニング用のプレートとした。
【0031】
ハイブリドーマの増殖が認められたウェルの培養上清50μlをウェルに加え、室温で1時間反応させた。引き続き洗浄液(0.05%Tween−PBS)で洗浄後、前記CDT分画を室温で1時間反応させ、同様に洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識抗トランスフェリンポリクローナル抗体50μlを加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄後、アルカリフォスファターゼ活性をKind−King法にて発色させ、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度を測定し、該CDT分画に対する抗体活性を持つモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(NCDT503)と全てのトランスフェリンアイソフォームに対する抗体活性を持つハイブリドーマ(NCDT076)を選抜した。
【0032】
選抜した2種類のハイブリドーマを限界希釈法により、クローニングを二回実施し、各々樹立株を得た。得られたハイブリドーマNCDT503及びNCDT076はそれぞれ特許生物寄託センター(IPOD)に寄託された(受領日:平成18年3月14日、受領番号:FERM AP−20844、FERM AP−20842)。
【0033】
[実施例2] 抗体の調製
前記実施例1で樹立した2種類のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(ハイブリドーマNCDT076及びNCDT503)は、モノクローナル抗体の大量産生のため各々マウス腹腔内にて増殖させた。各マウス腹水中から2種類のモノクローナル抗体を得、プロテインGカラム(商品名、GE社製)を用いてカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0034】
[実施例3] 抗体のサブクラスの決定
前記実施例2で得られた2種類の抗体のサブクラスはIsostrip(商品名、ロシュ社製)を使用して決定した。各抗体のサブクラスを下記の表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
[実施例4] サンドイッチELISAを用いた抗体の特異性の確認
前記実施例2で調製した2種類の抗体は、サンドイッチELISAを用いて、トランスフェリンアイソフォームに対する特異性の確認を次のようにして行った。
【0037】
96ウェルのマイクロプレートにPBSで10μg/mlに調製した抗体を1ウェル当たりそれぞれ50μl加え、4℃で一昼夜反応させた。その後PBSで1回洗浄し、0.5%BSA−PBSでブロッキングを行った。その後、前記実施例1で調製したトランスフェリンアイソフォーム50μlをウェルに加え、室温で1時間反応させた。引き続き洗浄液(0.05%Tween−PBS)で洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識抗トランスフェリンポリクローナル抗体50μlを加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄後、アルカリフォスファターゼ活性をKind−King法にて発色させ、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度を測定し、トランスフェリンアイソフォームに対する反応の強さを比較することで抗体の特異性を確認した。選抜したハイブリドーマのトランスフェリンアイソフォームへの反応性の結果を下記の表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
[実施例5] ウエスタンブロットを用いた抗体の特異性の確認
前記実施例2で調製した2種類のモノクローナル抗体(ハイブリドーマNCDT076の産生するモノクローナル抗体及びハイブリドーマNCDT503の産生するモノクローナル抗体)について、ウエスタンブロットを用いて、トランスフェリンアイソフォームに対する特異性の確認を次のようにして行った。また、比較のために、全てのトランスフェリンアイソフォームに反応する抗トランスフェリンポリクローナル抗体(株式会社シバヤギ製)を用いて同様にして確認した。
【0040】
等電点電気泳動用ゲル(Novex IEFゲルpH3−7:商品名、インビトロジェン社製)にCDT分画、およびCDT以外のトランスフェリンを1レーンあたり各5μgになるように専用のサンプルバッファーで希釈後に添加し、専用の泳動バッファーで泳動後、専用のバッファーでPVDF膜に転写した。転写後のPVDF膜はブロックエース(商品名、大日本製薬株式会社製)でブロッキング後、前実施例2で調製した抗体をPBSで10μg/mlに調製したものと室温で1時間反応させた。さらにPBSで3回洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体と室温で1時間反応させた。再び洗浄後、BCIP、NBT試薬で発色させた。
【0041】
これらの抗体の特異性を示すウエスタンブロットの展開を示す写真を図1に示す。
【0042】
図1によれば、ハイブリドーマNCDT076の産生するモノクローナル抗体はトランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応し、また、ハイブリドーマNCDT503の産生するモノクローナル抗体は、CDT特異抗体であることがわかる。
【0043】
[実施例6] 固相化プレートの作製
前記実施例2で得た全てのトランスフェリンアイソフォームに抗体活性を示す抗体(NCDT076)をサンドイッチELISA用のプレートに次のように固定化した。
【0044】
96ウェルのマイクロプレートにPBSで10μg/mlに調製した抗体を1ウェル当たりそれぞれ100μl加え、4℃で一昼夜反応させた。その後PBSで1回洗浄し、0.5%BSA−PBSでブロッキングを行った。
【0045】
[実施例7] アルカリフォスファターゼ標識抗CDT抗体の調製
前記実施例2で得たCDT分画に対する抗体活性を持つモノクローナル抗体(NCDT503)に対してALP−la beling kit−NH2(商品名、Dojindo社製)を用いてアルカリホスファターゼ標識を行った。
【0046】
[実施例8] 検体希釈率の設定
前記実施例6で作製した固相化プレートに、鉄飽和したアルコール中毒患者血清の希釈サンプル(10、20、40、80、160、320、640、1280、2560、5120、10240、20480倍希釈)を作製し、各100μlをウェルに加え、室温で1時間反応させた。引き続き洗浄液(0.05%Tween−PBS)で洗浄後、前記実施例7で調製したアルカリフォスファターゼ標識抗CDT抗体100μlを加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄後、固相化プレートに結合されたサンドイッチ免疫複合体のアルカリフォスファターゼ活性をKind−King法にて発色させ、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度を測定し、検体希釈倍率の飽和領域を調べた。その結果を横軸に検体希釈倍率、縦軸に吸光度をとったグラフにして図2に示す。
【0047】
図2のグラフに示すように検体希釈倍率100倍以下が飽和領域であることがわかる。
【0048】
さらに%CDTが2.5%から6.5%までの検体を用いて検体希釈倍率25倍、50倍、100倍、200倍の4種類の場合の吸光度の測定値の変動を上記と同様な方法で確認した結果を横軸に%CDT、縦軸に吸光度をとったグラフにして図3に示す。図3のグラフに示すように%CDTに関係なく検体希釈倍率25倍から200倍の間の吸光度の測定値の変動は認められなかった。これにより、以下の実施例において検体希釈倍率を50倍に設定した。
【0049】
[実施例9] 標識抗体希釈率の設定
前記実施例6で作製した固相化プレートに鉄飽和し、50倍希釈した健常者血清とアルコール中毒患者血清を100μlウェルに加え、室温で1時間反応させた。引き続き洗浄液(0.05%Tween−PBS)で洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識抗CDT抗体の希釈液(500倍からの2倍希釈系列)を100μl加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄後、アルカリフォスファターゼ活性をKind−King法にて発色させ、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度を測定した。その結果を横軸に標識抗体希釈率、縦軸に吸光度をとったグラフにして図4に示す。図4のグラフに示すように健常者血清とアルコール中毒患者血清の各測定値の差が顕著に認められる範囲、標識抗体希釈率が10000倍以内、好ましくは、5000倍以内、さらに好ましくは1000倍以内、最も好ましくは500倍以内であることから、以下の実施例で標識抗体希釈率500倍を選択した。
【0050】
[実施例10] %CDT標準溶液の作製と吸光度(OD)
%CDTが高い検体と低い検体を組み合わせて、人為的に%CDTが0から12.7%まで漸増する各値を持つ8種類の標準溶液を調製した。得られた8種類の%CDTの標準溶液を前記実施例6で作製した固相化プレートに50倍希釈で100μl ウェルに加え、室温で1時間反応させた。引き続き洗浄液(0.05%Tween−PBS)で洗浄後、前記実施例5の設定倍率で希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗CDT抗体100μlを加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄後、アルカリフォスファターゼ活性をKind−King法にて発色させ、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度を測定し、測定レンジの確認を行った。その結果を横軸に%CDT、縦軸に吸光度をとったグラフにして図5に示す。図5のグラフに示すように%CDTの低値(0%)から高値(12%)までは直線的に%CDTと吸光度は正比例しているので、図5のグラフは%CDTが0%−12%の範囲で検量線として使用できることがわかる。
【0051】
〔実施例11] 検体の測定
前記実施例8、9で示した設定することができる検体希釈率(50倍)と標識抗体希釈率(500倍)を用いてサンドイッチELISAで健常者とアルコール中毒患者の血清合計40検体の吸光度を次のようにして測定した。
【0052】
鉄飽和した血清40検体を50倍希釈した後、固相化プレートのウェルに100μlを加え、室温で1時間反応させた。引き続き洗浄液(0.05%Tween−PBS)で洗浄後、前記実施例5の設定倍率(500倍)で希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗CDT抗体100μlを加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄後、アルカリフォスファターゼ活性をKind−King法にて発色させ、マイクロプレートリーダーで490nmの吸光度を測定した。前記実施例10で作製した、検量線(図5)を用いて、前記工程で得られた各検体の吸光度から%CDTを算出した。
【0053】
また、対照試験としてバイオラッド(Bio−rad)社製の試薬を用い、前記工程で得た各検体の%CDTとバイオラッド(Bio−rad)社製の試薬の%CDTを最小二乗法による回帰分析を行い、相関係数と回帰式を求めた。得られた相関図を図6のグラフに示す。
【0054】
回帰式y=1.148x−0.938 式(1)
相関係数R=0.979
なお、該対照試験は、カラムを用いたトランスフェリン中の%CDTを測定する方法であり、カラムでの分離前の総トランスフェリンの量と、分離後のCDTの量を測定し、検体中のCDT濃度と%CDTを算出したものである。図6に示すようにサンドイッチELISAで測定した本発明の%CDTの測定値は、バイオラッド社製の試薬を用いた方法による%CDTの測定値と非常に強い正の相関が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の%CDTを定量する方法は、体液中のトランスフェリンの全てのアイソフォームに対して非特異的に選択し、さらにその中の炭水化物欠失トランスフェリン(CDT)を選択性が高い抗体を用いて測定しているので、得られた測定値は%CDTに正比例する。したがって、本発明の方法により得られた%CDTは、高感度で特異的、しかも迅速で費用のかからないアルコール中毒患者を同定するための検査方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例2で調製した2種類のモノクローナル抗体の特異性を示すウエスタンブロットを示す写真である。
【図2】固相化プレートに結合されたサンドイッチ免疫複合体のアルカリフォスファターゼ活性を示す吸光度と、検体希釈倍率の関係を示すグラフである。
【図3】検体希釈倍率が4種類の場合の%CDTと吸光度の関係を示すグラフである。
【図4】健常者血清とアルコール中毒患者血清について、標識抗体希釈倍率と吸光度の関係を示すグラフである。
【図5】8種類の%CDTの標準溶液を用いた%CDTと吸光度の関係を示すグラフである。
【図6】健常者とアルコール中毒患者の血清合計40検体についてサンドイッチELISAの%CDTと対照試験(バイオラッド)%CDTの相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質Aと、炭水化物欠失トランスフェリン(CDT)に特異的に反応する物質Bとを用い、
該物質Aにより体液中のトランスフェリンのアイソフォームを非特異的に選択し、且つ、該物質BによりCDTを特異的に選択することにより、体液中の総トランスフェリンの量を測定することなく総トランスフェリンに対するCDTの割合(%CDT)を定量する方法。
【請求項2】
前記物質Aの量に対して、体液中のトランスフェリンのアイソフォームを過剰量になる条件下で行う、請求項1記載の%CDTを定量する方法。
【請求項3】
前記物質Aと、トランスフェリンのアイソフォームと、物質Bの反応によりサンドイッチ複合体を形成する、請求項1又は2記載の%CDTを定量する方法。
【請求項4】
前記物質Bは標識化されている請求項1−3の何れか1項に記載の%CDTを定量する方法。
【請求項5】
前記物質Aを固相に結合させて行う、請求項1−4の何れか1項に記載の%CDTを定量する方法。
【請求項6】
(1)前記物質Aと、トランスフェリンのアイソフォームと、物質Bの反応により形成された種々のアイソフォームの複合体におけるCDTの量に依存して測定される値と、%CDTとの検量線を予め作成しておき、
(2)体液中のトランスフェリンのアイソフォームに対して、前記物質A及び物質Bを反応させることにより種々のアイソフォームの複合体を形成し、
(3)形成された複合体におけるCDTの量に依存して測定される値を測定し、
(4)前記工程で得たCDTの量に依存して測定される値と、前記予め作成した検量線とから、%CDTを算出する請求項1−5の何れか1項に記載の%CDTを定量する方法。
【請求項7】
前記CDTの量に依存して測定される値は、吸光度である請求項1−6の何れか1項に記載の%CDTを定量する方法。
【請求項8】
前記トランスフェリンのアイソフォームに非特異的に反応する物質が抗トランスフェリン抗体である請求項1−7の何れか1項に記載の%CDTを定量する方法。
【請求項9】
前記CDTに対して特異的に反応する物質がCDT特異抗体である請求項1−7の何れか1項に記載の%CDTを定量する方法。
【請求項10】
前記抗トランスフェリン抗体が、ハイブリドーマNCDT076(FERM AP−20842)の産生するモノクローナル抗体である請求項8に記載の%CDTを定量する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−256216(P2007−256216A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84305(P2006−84305)
【出願日】平成18年3月25日(2006.3.25)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)