説明

(メタ)アクリル酸の製造方法

【課題】本発明は、接触気相酸化反応による(メタ)アクリル酸の製造工程において、接触気相酸化反応器から排出されるガスの温度変動に拘わらず、高濃度のアクリル酸溶液を安定的に得るための方法と、当該方法で用いるシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造方法は、接触気相酸化反応器において原料ガスを接触気相酸化反応させて(メタ)アクリル酸を含有するガスを製造する工程;および、製造された(メタ)アクリル酸含有ガスを非凝縮性ガスの分離装置へ導入し、(メタ)アクリル酸含有ガスから非凝縮性ガスを分離して(メタ)アクリル酸溶液を得る工程;を含み、非凝縮性ガスの分離装置へ供給する直前における(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸やメタクリル酸(以下、これらを合わせて「(メタ)アクリル酸」という)は、工業製品の製造原料等として用いられるものであり、大規模なプラントで大量に生産される化学物質である。一般に、これら化合物は、高純度の製品を得るために、粗生成物から非凝縮性ガスを分離して(メタ)アクリル酸の溶液を得る工程や、さらに種々の精製工程などを経て製造される。
【0003】
例えばアクリル酸の製造工程においては、プロピレン、プロパン、アクロレイン等を酸化触媒の存在下で分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化すると、目的物であるアクリル酸の他に、酢酸、低級アルデヒド、水等の低沸点物質と、フルフラール、無水マレイン酸等の高沸点物質が副生成物として発生する。このため、得られた混合ガスを非凝縮性ガスの分離装置に導き、凝縮させたり或いは捕集溶剤と接触させることによりアクリル酸とその他の副生物を含む溶液を得て、この溶液から蒸留、放散、抽出、晶析等の方法によりアクリル酸を分離、精製して製品を得ている。
【0004】
このように、プロピレン等を接触気相酸化して得た(メタ)アクリル酸含有ガスを非凝縮性ガスの分離装置に導き、捕集溶剤と接触させることにより(メタ)アクリル酸溶液を得る工程を含む(メタ)アクリル酸の製造方法としては、例えば特許文献1〜5で開示されている技術がある。これら特許文献には、(メタ)アクリル酸含有ガスを、非凝縮性ガスの分離装置の一種である捕集塔へ供給する前に冷却することが記載されている。例えば特許文献3には、(メタ)アクリル酸含有ガスが反応器から200〜350℃で出てきて、非凝縮性ガス分離装置の一種である吸収塔へ100〜300℃で供給されると記載されている。
【0005】
これら方法は夫々特徴を有するが、特許文献1の技術では、接触気相酸化反応に用いる分子状酸素含有ガスの圧縮機の閉塞等を抑制するために、当該圧縮機の吸入口における混合ガス温度が規定されている。特許文献2と3の技術は、非凝縮性ガス分離装置の閉塞を抑制するために、それぞれ(メタ)アクリル酸含有ガスを複数の箇所から分離装置に供給するものと、吸収効率の異なる充填物を分離装置内で多段に設置するものである。
【0006】
また、特許文献4の技術は、排ガスがアクリル酸を連行してしまうという問題を解決するために、非凝縮性ガス分離装置からエネルギーを除去するものである。特許文献5の技術も、排ガス中に残留するアクリル酸濃度を低減するためのものであり、アクリル酸含有ガス中のアクリル酸の重量分率等を規定している。
【0007】
しかし、これら技術では、非凝縮性ガス分離装置から得られる(メタ)アクリル酸溶液の濃度の変動に関して何ら考慮されていない。これに対し、(メタ)アクリル酸溶液に含まれる水分量が変動すると次工程以降の稼動安定性の確保が困難となることに鑑み、(メタ)アクリル酸溶液の濃度を制御するための技術として特許文献6記載の技術がある。かかる技術は、大気条件の変動により反応器から排出されるガス中の水分量が変化することにより(メタ)アクリル酸溶液の濃度が変動することに着目してなされたものであり、捕集塔塔頂の温度や圧力を制御して塔頂から排出されるガス中の水分量を変化させることによって、(メタ)アクリル酸濃度を制御する技術である。しかし、当該文献には反応器から排出されたガスの温度とアクリル酸溶液の濃度の関係は何ら開示されていない。
【0008】
また、非凝縮性ガスの分離装置から得られる(メタ)アクリル酸溶液の濃度が高ければ、その後における精製工程での効率が向上する。よって、当該濃度を高めるための技術も開発されている。特許文献7には、捕集塔で得られたアクリル酸溶液を晶析工程と蒸留工程に付し、得られた留出液を捕集塔に循環する技術が開示されており、かかる技術によって80%以上の高濃度アクリル酸溶液が得られている。しかし、当該技術によれば高濃度のアクリル酸溶液を得ることはできるが、当該技術はアクリル酸溶液を一定濃度で安定的に得るためのものではない。
【特許文献1】特開2003−176252号公報(段落[0018])
【特許文献2】特開2005−179354号公報(段落[0016])
【特許文献3】特開2001−19655号公報(段落[0008])
【特許文献4】特開平8−176062号公報(段落[0017])
【特許文献5】特開2003−206256号公報(段落[0029])
【特許文献6】特開2003−238485号公報
【特許文献7】特開2005−15478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した通り、従来、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスから非凝縮性ガスを分離し、(メタ)アクリル酸を効率的に捕集するための技術は知られていた。しかしこれら先行技術では、非凝縮性ガスの分離装置から高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を安定的に得ようとすると問題が生じることが分かった。
【0010】
即ち、先行技術にも記載されている通り、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度の幅は、例えば200〜350℃と100℃を超える。これは、使用する触媒が十分な活性を保っている間は温度が低くても反応は進行するが、触媒の劣化に応じて(メタ)アクリル酸の生成量を維持するために反応温度を上げざるを得ず、そのために得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度も上昇してしまうからである。また、(メタ)アクリル酸を含有するガスから非凝縮性ガスを分離して(メタ)アクリル酸溶液を得る工程においては、水などの低沸点化合物が蒸発し続ける。よって、(メタ)アクリル酸含有ガスの温度や水分含量などによって、得られる(メタ)アクリル酸溶液の濃度が変動する。そこで、一般的には、得られた(メタ)アクリル酸溶液の一部を非凝縮性ガスの分離装置へ循環し、循環溶液が分離装置へ循環される前に、循環ラインに設けてある冷却器を通過する量を制御する等の手段を用い、分離装置の温度を制御することによって、(メタ)アクリル酸溶液の濃度を一定に保つことが行なわれる。
【0011】
ここで、従来求められていた濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得るためには、この態様でも対応可能であるが、高濃度溶液を得る場合には対応できなくなる場合があった。例えば、従来、非凝縮性ガス分離装置から得られる(メタ)アクリル酸溶液の濃度は50〜70質量%程度である。この場合、非凝縮性ガス分離装置から排出される水蒸気量は少なく、積極的に非凝縮性ガス分離装置を冷却すればよいため、余裕をもって制御することができる。ところが、より高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を目的とする場合、非凝縮性ガス分離装置へ導入される(メタ)アクリル酸含有ガスの温度変化に応じて微妙な制御が必要となり、非凝縮性ガス分離装置の制御可能範囲を超えてしまうか、或いは制御可能範囲の限界付近での操業を強いられ、わずかな外乱で(メタ)アクリル酸溶液の濃度が変動してしまうことがあった。
【0012】
より具体的には、従来の濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る場合、循環させる(メタ)アクリル酸溶液における最小の除熱量を100とすると、最大除熱量は150程度でよい。しかし、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る場合には、非凝縮性ガスの分離装置内で蒸発させる水の量を多くすべく分離装置内温度を比較的高く保つ必要があり、入口ガス温度が低い時には極少量の除熱が必要となるので、循環する溶液の除熱量は、26〜140程度にする。この場合の除熱量差は、従来の1.5倍(150/100)に対して約5.4倍(140/26)であり、循環ラインにおける冷却器を通過する循環溶液の量を制御するといった手段により可能な制御範囲を超えてしまい、濃度変動が起こってしまう。つまり、従来方法では、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を安定的に得ることはできなかった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、接触気相酸化反応による(メタ)アクリル酸の製造工程において、接触気相酸化反応器から排出されるガスの温度変動にかかわらず、高濃度のアクリル酸溶液を安定的に得るための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、(メタ)アクリル酸含有ガスの温度にかかわらず、非凝縮性ガスの分離装置から得られる(メタ)アクリル酸溶液を安定的に高濃度かつ一定濃度とする条件につき鋭意検討した。その結果、従来、(メタ)アクリル酸含有ガスは、非凝縮性ガスの分離装置へ供給する前において、単に廃熱回収熱交換器や冷却器等によりその伝熱能力に見合った熱量だけ冷却されていたところ、接触気相酸化反応により得られた(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を適切に調節すれば、容易に上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造方法は、
接触気相酸化反応器において原料ガスを接触気相酸化反応させて(メタ)アクリル酸を含有するガスを製造する工程;および
製造された(メタ)アクリル酸含有ガスを非凝縮性ガスの分離装置へ導入し、(メタ)アクリル酸含有ガスから非凝縮性ガスを分離して75質量%以上の高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る工程;を含み、
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御することを特徴とする。
【0016】
上記方法においては、上記温度制御を、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度に応じて、非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの除熱量を制御することにより行なうことが好ましい。
【0017】
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度は、下記に示す何れかのガス温度制御手段により制御することが好ましい。
(1)内部を通過する(メタ)アクリル酸含有ガスの供給量を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
(2)蒸気を発生させることにより熱交換を行う熱交換器であって、蒸気の圧力を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
(3)蒸気を発生させることにより熱交換を行う熱交換器であって、内部の被蒸発液の液面高さを変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
(4)冷却媒体を通過させることによって熱交換を行う熱交換器であって、冷却媒体の流量を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器。
【0018】
上記ガス温度制御手段は、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度に応じて、ガス温度を簡便に調節できる。
【0019】
上記ガス温度制御手段は、好適には、接触気相酸化反応器と非凝縮性ガスの分離装置の間に設ける。
【0020】
上記方法においては、非凝縮性ガスの分離装置に供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を200℃〜300℃に制御することが好ましい。当該ガス温度を200〜300℃の範囲に制御し、分離装置の入口におけるガス温度の変動幅を抑制することで、分離装置に設置された冷却器で行う除熱量の制御が、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る場合においても可能になり、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得るに当たり安定性を向上させることができる。
【0021】
上記方法においては、凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度変動を40℃以内に制御することが好ましい。高濃度の(メタ)アクリル酸溶液をより安定的に得られるからである。
【0022】
また、非凝縮性ガスの分離装置から排出される(メタ)アクリル酸溶液中の水分濃度を1〜10質量%とすることが好適である。このような高濃度とすることにより、次工程以降において、蒸留工程といった前処理工程を経ることなく晶析工程に供することが可能となるからである。従って、次工程以降に及ぼす負担を一層軽減することが可能となり、本発明の有用性は一層高まる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度変動に拘わらず、高濃度のアクリル酸溶液を安定的に得ることが可能となる。従って、本発明を用いたアクリル酸の製造方法は、非凝縮性ガスの分離工程以降の工程における負担や労力を大きく軽減することが可能となり、従来より一層生産効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造方法は、
接触気相酸化反応器において原料ガスを接触気相酸化反応させて(メタ)アクリル酸を含有するガスを製造する工程;および
製造された(メタ)アクリル酸含有ガスを非凝縮性ガスの分離装置へ導入し、(メタ)アクリル酸含有ガスから非凝縮性ガスを分離して75質量%以上の高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る工程;を含み、
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御することを特徴とする。
【0025】
まず、接触気相酸化反応についてアクリル酸の製造を代表例として説明する。メタクリル酸については、例えば原料としてアクロレインの代わりにメタクロレインを用いるなど、当業者であれば以下の説明を参照し応用することができる。
【0026】
当該反応の原料としてはプロピレン、プロパン、アクロレイン等を用い、不活性ガス等と、ブロワーで昇圧された空気等の分子状酸素含有ガスと共に、酸化触媒が充填された接触気相酸化反応器に供給し、接触気相酸化反応してアクリル酸含有ガスを生成する。ここで接触気相酸化反応に用いる反応器としては、接触気相酸化触媒の存在下でアクリル酸を生成するものであれば特に制限はないが、反応効率に優れる点で多管式反応器を利用するものが好ましい。具体的には、多管式反応器等の反応器を用い、酸化触媒の存在下、プロピレン、プロパン、アクロレイン等の原料成分、不活性ガス等、空気等の分子状酸素含有ガスからなる反応原料ガスを所定量供給し接触気相酸化反応を行なう。この時、原料成分としてプロピレンを使用すると、まずアクロレインが生成され、これをさらに接触気相酸化することによりアクリル酸が得られる。本発明で採用される反応工程としては、これらの反応を1つの反応器で行なう一段法であるか、異なる反応器でそれぞれ行なう二段法であるかは問わない。また、使用する酸化触媒、ならびに原料成分、分子状酸素、不活性ガス等のガス濃度、反応温度等の反応条件は、従来公知であるアクリル酸生成反応工程の何れの条件をも適用することができる。
【0027】
例えば、原料成分としては、プロピレン、プロパン、アクロレインの何れかまたはこれらの2種以上の混合物を用いることができ、これらの原料成分は、反応器に供給する反応原料ガスの6〜20容量%、好ましくは8〜15容量%とするのがよい。また、該反応原料ガスは、酸化反応を行なわせるため原料成分に対し1〜3倍(モル比)の分子状酸素を含有し、残りは窒素、二酸化炭素、水蒸気などの不活性ガスである。
【0028】
また、例えば、本発明でプロピレン含有ガスを接触気相酸化反応してアクリル酸を製造するには、プロピレンの接触気相酸化によりアクロレインを生成する前段反応に使用する触媒として、プロピレンを含有する原料ガスを接触気相酸化してアクロレインを製造するのに一般的に使用される酸化触媒を使用することができる。同様に、上記前段反応で得られたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を生成する後段反応に使用する触媒についても特に制限はなく、アクロレインを含む反応ガスを接触気相酸化してアクリル酸を製造するのに一般に用いられている酸化触媒を使用することができる。
【0029】
この接触気相酸化反応で得られるアクリル酸含有ガスには、アクリル酸、分子状酸素、未反応原料成分、不活性ガスが含まれ、その他に副生する水、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒド等の不純物が含まれている。
【0030】
上記反応においては、(メタ)アクリル酸の生成量を保つために触媒の経時劣化に応じて反応温度を上げる必要がある。また、用いる触媒によって反応温度は異なる。このため、反応器から排出された(メタ)アクリル酸含有ガスの温度は、一般的に200〜350℃と100℃を超える幅を有する。そして、反応器から排出されたガスは、従来、非凝縮性ガスの分離装置へ供給される前に適宜100℃〜300℃程度に冷却されており、かかる冷却に用いる熱交換器としては、一定圧力の蒸気を発生させる等の廃熱回収熱交換器が使用されており、熱交換器の伝熱能力のみに依存した除熱を行なっていた。しかし、このような廃熱回収熱交換器では除熱量が熱交換器の伝熱能力に見合ったもののみであるため、冷却後の反応ガスの温度は、反応器から排出されるガスの温度変動に依存して100℃以上という大きな温度変動幅を有することになる。
【0031】
本発明方法は、非凝縮性ガスの分離装置の塔底より抜き出される(メタ)アクリル酸溶液中の(メタ)アクリル酸濃度を75質量%以上と高く設定するにも関わらず、当該溶液を安定的に得るための技術である。非凝縮性ガスの分離装置から排出された(メタ)アクリル酸溶液は、不純物分離のため蒸留、放散、抽出あるいは晶析工程等の精製工程へ供給されるが、75質量%以上と高濃度にすることによって、蒸留、放散あるいは抽出工程に比べてより操作が簡便である晶析工程を用いることが容易となる。しかも、蒸留工程などの脱水工程を経ることなくそのまま晶析工程に供することができるため、(メタ)アクリル酸の精製が一層効率的なものとなる。このように(メタ)アクリル酸濃度を75質量%とすることによって次工程以降の設備費、用役費を削減できる。また、廃水量を減少させることもできる。より好適には80質量%以上とする。一方、(メタ)アクリル酸濃度を98質量%超とするのは実質的に不可能なため、上限は98質量%に設定するのが好ましい。
【0032】
本発明に係る(メタ)アクリル酸の製造方法では、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する。例えば、得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度に応じて、非凝縮性ガスの分離装置へ供給する前における当該ガスの除熱量を制御する。つまり、従来技術のように、(メタ)アクリル酸含有ガスを熱交換器の伝熱能力のみに依存した除熱量で冷却するか或いは除熱を行なわないのに対して、本発明では触媒の劣化、即ち(メタ)アクリル酸含有ガスの温度の上昇に応じてその温度を制御する。従って、特に高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得ようとする場合、分離装置の温度を一定にするために循環ラインに設けられている冷却器を通過する循環溶液の量を制御する等の従来の手段では、制御可能な除熱量範囲を超えてしまい溶液の濃度変動が起こってしまっていたところ、本発明では、同様の手段をもって安定的に高濃度の溶液を得ることができる。このため、(メタ)アクリル酸溶液に含まれる不純物分離のための蒸留、放散、抽出あるいは晶析工程等の精製工程における設備費、用役費を削減できると共に廃水量を減少させることが可能となる。
【0033】
(メタ)アクリル酸含有ガスの温度は、非凝縮性ガス分離装置の除熱制御によって、非凝縮性ガス分離装置より得られる(メタ)アクリル酸溶液の濃度が高濃度で略一定になる様に制御する。一般的に、非凝縮性ガス分離装置の温度が高ければ、非凝縮性ガスに伴って放出される水分が多くなり、(メタ)アクリル酸溶液の濃度は高くなる。従って、触媒が十分な活性を有しており温度が低くても反応が進行する場合には、得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度も低くなることから、(メタ)アクリル酸溶液の濃度を高くするためにはガスの除熱量は少なくしなければならない。その一方で、触媒が劣化して反応温度が高くなければ(メタ)アクリル酸の生成量を維持できない場合には、(メタ)アクリル酸含有ガスの温度も高くなることから、ガスの除熱量を多くしなければならない。本発明では、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得るために、分離装置の入口ガス温度が低くなり過ぎない様に、ガス温度を制御する。特に、ガス温度が低い時の除熱量を少なくすることで、(メタ)アクリル酸含有ガスを高温のまま分離装置へ供給する。それによって、非凝縮性ガス分離装置における既存の温度制御手段による除熱量の差が小さくなり、当該手段による温度制御を可能にし、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を安定的に得ることができる。
【0034】
非凝縮性ガスの分離装置に供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度は、好ましくは200℃〜300℃、より好ましくは210〜290℃、さらに好ましくは230〜280℃に制御することが望ましい。200℃以上とすることによって、アクリル酸より低い沸点を有する成分の凝縮の抑制を一層向上することができ、(メタ)アクリル酸溶液を高濃度にするための非凝縮性ガスの分離装置の温度制御を可能にできる。一方、300℃以下とすることによって、非凝縮性ガスの分離工程における冷却負荷を低減することができ、(メタ)アクリル酸の製造効率を一層高めることが可能となる。
【0035】
上記製造方法において、非凝縮性ガスの分離装置の塔底より抜き出される(メタ)アクリル酸溶液中の(メタ)アクリル酸濃度を「略同一にする」とは、後続する精製工程などの条件を変更する必要のない範囲であればよいが、例えば当該濃度の最高値と最低値の変動幅を±2%以内にすることをいうものとする。当該変動幅は少ない方がよいので、±1%以内がより好ましく、0%が最も好ましい。当該変動幅を±2%以内とすることにより、次の精製工程における条件の変動を一層抑制することが可能となる。その結果、精製工程等の次工程以降において(メタ)アクリル酸濃度に応じて操作条件を設定・変更するための負担や労力を、一層軽減することができ、一層安定的に(メタ)アクリル酸の製造を行うことができる。
【0036】
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度変動は、40℃以内に制御することが好ましい。高濃度の(メタ)アクリル酸溶液をより一層安定的に製造できるからである。より好適には、当該温度変動を30℃以内に制御する。
【0037】
さらに、非凝縮性ガスの分離装置の底より抜き出される(メタ)アクリル酸溶液の水分濃度は、特に限定されないが1〜10質量%とすることが好ましい。10質量%以下とすることによって、十分に水分が分離され、相対的に(メタ)アクリル酸濃度を高くすることができるため、次工程以降の(メタ)アクリル酸の精製が一層効率的なものとなる。一方、水分濃度を1質量%未満とすることは実質的に不可能なため、下限は1質量%とするのが好ましい。
【0038】
制御された除熱により一定の温度幅に調節された(メタ)アクリル酸含有ガスは、次に非凝縮性ガスの分離装置へ供給され、捕集溶剤により或いは凝縮により非凝縮性ガスが分離され、(メタ)アクリル酸溶液が得られる。ここで非凝縮性ガスとは、常温常圧で気体のものをいい、例えばプロピレン、プロパン、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、酸素等をいう。また、(メタ)アクリル酸含有ガスに含まれる水分などは、主に非凝縮性ガスの分離装置から排出されるガスの温度に依存して、(メタ)アクリル酸溶液に含まれるものと非凝縮性ガスに伴って放出されるものとの割合が決まる。かかる割合は(メタ)アクリル酸溶液の濃度に大きな影響を与えるため、捕集塔へ供給される(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御すれば、高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得ようとするに当たり非凝縮性ガスの分離装置の温度制御が容易になり、(メタ)アクリル酸溶液の濃度を高い濃度で略一定にすることができる。
【0039】
ここで、非凝縮性ガスの分離装置が捕集溶剤により(メタ)アクリル酸を捕集する捕集塔である場合、従来公知の捕集塔を用いることができる。例えば(メタ)アクリル酸含有ガスを下部から供給し、捕集溶剤を上部から供給し、反応ガスと捕集溶剤を塔内で接触させ、非凝縮性ガスを塔頂部から排出し、凝縮溶液を塔底から排出することができるものであればよく、特に限定されない。
【0040】
使用する捕集溶剤は、特に限定されるものではないが、例えば、主成分を水とするものが挙げられる。また、主成分が水である溶液として、(メタ)アクリル酸の製造工程で発生する廃水および次工程である(メタ)アクリル酸精製工程等で発生する廃液の一部または全量を回収して再利用するのが経済的であり好ましい。また、場合によっては洗浄廃液などを混合して用いることもできる。
【0041】
ここで(メタ)アクリル酸含有ガスと捕集溶剤との接触方法には、公知の接触方法を使用することができ、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラックストレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バルブトレイ、ベンチュリートレイおよびそれらの任意の組み合わせを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、不規則充填物、規則充填物およびこれらの任意の組み合わせを用いる向流接触などが挙げられる。中でも、向流接触により(メタ)アクリル酸含有ガスと捕集溶剤とを接触させる方法が有利であり、特に、捕集塔において、捕集溶剤の塔内の流れにおける上流側に吸収効率の高い充填物を、その下流側に重合生成能の相対的に低い充填物および/または棚段(トレイ)を設置することが有利である。また、捕集溶剤の供給温度や供給量に関しては、適宜設定することができる。
【0042】
捕集溶剤を用いることなく(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮して(メタ)アクリル酸溶液を得る場合に用いる非凝縮性ガスの分離装置としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、バブルトレイ、シーブトレイ、バルブトレイなどのトレイや、充填物を含む蒸留塔であって、導入された(メタ)アクリル酸含有ガスを冷却媒体により満遍なく冷却することができ、非凝縮性ガスを塔頂から排出しつつ(メタ)アクリル酸などの凝縮成分を凝縮して(メタ)アクリル酸溶液が得られるものであれば、特に制限されない。かかる非凝縮性ガスの分離装置の冷却媒体としては、得られた(メタ)アクリル酸溶液を熱交換器で冷却したものを循環して用いることができる。
【0043】
上記の通り、本発明で用いる非凝縮性ガスの分離装置の種類は特に制限されないが、より好適には捕集溶剤を用いるもの、即ち捕集塔を用いる。
【0044】
非凝縮性ガスの分離装置の非凝縮性ガス排出部、例えば捕集塔の塔頂部における温度については、従来公知の温度範囲とすることができ特に限定されないが、40〜80℃の範囲であることが好ましい。40℃より低いと冷却のための設備費、用役費がかかる上に、(メタ)アクリル酸より低い沸点を持つ物質の凝縮が多くなり非凝縮性ガスの分離装置から得られる(メタ)アクリル酸溶液中の(メタ)アクリル酸濃度の低下を招き、廃水量も増加するからである。また、80℃より高いと非凝縮性ガスの分離装置の非凝縮性ガス排出部からの(メタ)アクリル酸のロスが増加するため製品(メタ)アクリル酸のコストアップに繋がり好ましくない。
【0045】
非凝縮性ガスの分離装置の非凝縮性ガス排出部の圧力についても、従来公知の圧力範囲とすることができ、特に限定されないが0〜30kPa(ゲージ圧)の範囲であることが好ましい。0kPa(ゲージ圧)より低いと減圧装置が必要となり設備費、用役費がかかり、30kPa(ゲージ圧)より高いと接触気相酸化反応器へ原料ガスを供給するためのブロワーを大型化する必要があり、設備費、用役費がかかるため、経済的ではないからである。
【0046】
また、非凝縮性ガスの分離装置より排出される非凝縮性ガスは、その全てを排気ガスとして処理してもよいが、一部をリサイクルガスとして、例えばブロワーを使用して反応器に循環すれば不活性ガス等の供給量を減らすことができ有利である。
【0047】
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する直前、即ち非凝縮性ガスの分離装置の入口部における(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御するための手段としては、下記(1)〜(6)の手段が挙げられる。
【0048】
(1)内部を通過する(メタ)アクリル酸含有ガスの供給量を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器(図1)。供給量の変化は、例えば図1のように反応器と非凝縮性ガス分離装置との間に廃熱回収熱交換器への通過を回避するためのバイパスラインを設け、合流後のアクリル酸含有ガスの温度を温度計により確認しながらバイパス量を変化させることによって行うことができる。
【0049】
(2)蒸気を発生させることにより熱交換を行う熱交換器であって、蒸気の圧力を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器(図2)。蒸気圧力の変化は、例えば図2のように、アクリル酸含有ガスの温度を温度計により確認しながら圧力を変化させることによって行うことができる。
【0050】
(3)蒸気を発生させることにより熱交換を行う熱交換器であって、内部の被蒸発液の液面高さを変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器(図3)。液面高さは、例えば、アクリル酸含有ガスの温度を温度計により確認し、また、液面高さを液面高さ表示計により確認しながら、変化させることができる。
【0051】
(4)冷却媒体を通過させることによって熱交換を行う熱交換器であって、冷却媒体の流量を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器(図4)。当該冷却媒体の流量変化は、例えば図4のように冷却媒体のバイパスラインを設け、アクリル酸含有ガスの温度を温度計により確認しながらバイパス量を変化させることによって行うことができる。
【0052】
(5)非凝縮性ガスの分離装置から排出された(メタ)アクリル酸溶液を(メタ)アクリル酸含有ガスと直接接触させて熱交換を行う熱交換器であって、冷却媒体によって冷却されたアクリル酸溶液の供給量および/または温度を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する直接接触熱交換器(図5、6)。冷却されたアクリル酸溶液の供給量の変化は、例えば図5のように、捕集塔塔底から抜き出したアクリル酸溶液を直接接触式熱交換器に供給するラインを設け、アクリル酸含有ガスの温度を温度計により確認しながら供給量を変化させることによって行うことができる。また、冷却されたアクリル酸溶液の温度の変化は、例えば図6のように、捕集塔塔底から抜き出したアクリル酸溶液を直接接触式熱交換器に供給するラインを設け、アクリル酸含有ガスの温度を温度計により確認しながら冷却媒体の供給量を変化させることによって行うことができる。
【0053】
(6)冷却媒体を供給して熱交換を行う複数の熱交換器であって、冷却媒体が供給される熱交換器の数を変化させることによって、アクリル酸含有ガスの温度を制御する直接接触熱交換器(図示せず)。かかる温度制御は、複数の熱交換器を配設し、冷却媒体が供給される熱交換器と供給されない熱交換器とを適宜組み合わせることによりアクリル酸含有ガスの温度を変化させる態様である。
【0054】
尚、上記(4)〜(6)における冷却媒体としては、従来公知の冷却媒体を適宜用いることができ、例えば水を用いることができる。
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0056】
比較例
触媒の充填された多管式接触気相酸化反応器へ、反応ガスを流量360.3Nm3/hrで導入した。接触気相酸化反応により、アクリル酸7.1容量%、水11.6容量%、窒素76.5容量%、酸素1.5容量%、その他3.3容量%の組成のアクリル酸含有ガスを得た。
【0057】
反応器から排出されたガスの温度は350℃であり、当該ガス348.5Nm3/hrを、水蒸気の発生により除熱を行うことができる廃熱回収熱交換器に導入した。当該熱交換器の発生蒸気圧力は0.7MPaGであり、当該熱交換器を通過することにより、アクリル酸含有ガスは250℃に冷却された。このアクリル酸含有ガスを捕集塔下部から供給し、捕集溶剤として45kg/hrの水を用いてアクリル酸水溶液を捕集し、非凝縮性ガスを分離した。その結果、高濃度にするための捕集塔の温度制御を塔底の冷却器で安定的に行うことができ、91%のアクリル酸水溶液を安定に得ることができた。
【0058】
その後、反応器を停止して反応触媒を交換した。また、触媒交換の間に上記熱交換器を洗浄した。触媒交換完了後、再び上記反応条件で反応を開始し、反応器より250℃のアクリル酸含有ガスを得た。当該ガス348.5Nm3/hrを上記廃熱回収交換器に導入したところ、熱交換器を通過後、アクリル酸含有ガスは188℃に冷却された。次いで、上記と同様の条件でアクリル酸水溶液の捕集を行ったところ、捕集塔の塔頂温度が低くなり、アクリル酸よりも沸点の低い物質の凝縮が多くなった。また、捕集塔塔底の冷却器による温度制御が困難になってアクリル酸濃度は71〜72%まで低下し、高濃度のアクリル酸水溶液が得られなくなり、実施を停止せざるを得なくなった。
【0059】
実施例1
上記比較例と同条件で、触媒交換を行なって反応を行ない、反応器より250℃のアクリル酸含有ガスを得た。このガスを図1のようにバイパスラインを使用し、アクリル酸含有ガスの一部を上記廃熱回収熱交換器に通さず、87.3Nm3/hrのアクリル酸含有ガスのみを廃熱回収熱交換器に導入した。当該熱交換器を通過することにより、アクリル酸含有ガスは170℃に冷却され、バイパスラインを通過した261.2Nm3/hrのアクリル酸含有ガスと合流したところ、アクリル酸含有ガスの温度は230℃となった。
【0060】
当該合流ガスから上記比較例と同条件でアクリル酸の捕集を行ったところ、捕集塔塔底の冷却器により高濃度アクリル酸溶液を得るための温度が安定的に制御でき、91質量%のアクリル酸水溶液を安定に得ることができた。このように、反応器より得られるアクリル酸含有ガスの温度に応じ、廃熱回収熱交換器へ導入するアクリル酸含有ガスの量を調節して捕集塔へ供給されるアクリル酸含有ガスの温度を調節することによって、得られるアクリル酸溶液の濃度を反応器から排出されるガス温度が350℃の場合とほぼ同等にすることができ、捕集塔を安定に稼動することができた。
【0061】
実施例2
比較例と同条件で、触媒交換を行なって反応を行ない、反応器より250℃のアクリル酸含有ガスを得た。図2のように発生蒸気圧力を変化させることができる廃熱回収熱交換器を用い、発生蒸気圧力を2.5MPaGとした。この熱交換器にアクリル酸含有ガスを導入したところ、230℃に冷却された。このガスを比較例と同条件でアクリル酸水溶液の捕集を行ったところ、捕集塔塔底の冷却器により高濃度アクリル酸溶液を得るための温度が安定的に制御でき、91質量%のアクリル酸水溶液を安定に得ることができた。このように、反応器より得られるアクリル酸含有ガスの温度に応じ、廃熱回収熱交換器の発生蒸気圧力を調整して、捕集塔へ供給されるアクリル酸含有ガスの温度を反応器から排出されるガス温度が350℃の場合とほぼ同等にすることによって、捕集塔を安定に稼動することができた。
【0062】
実施例3
比較例と同条件で、触媒交換を行なって反応を行ない、反応器より250℃のアクリル酸含有ガスを得た。このガスを、比較例と同じ廃熱回収熱交換器を用いて冷却を行った。但し、比較例に対して伝熱可能な面積が19%となる様、図3のように熱交換器内部のボイラー水の液面高さを調節して上記ガスを導入したところ、230℃に冷却された。このガスを比較例と同条件でアクリル酸水溶液の捕集を行ったところ、捕集塔塔底の冷却器により高濃度アクリル酸溶液を得るための温度が安定的に制御でき、91質量%のアクリル酸水溶液を安定に得ることができた。このように、反応器より得られるアクリル酸含有ガスの温度に応じ、廃熱回収熱交換器のボイラー液面高さを変化させることによって、捕集塔へ供給されるアクリル酸含有ガスの温度を反応器から排出されるガス温度が350℃の場合とほぼ同等にすることができ、捕集塔を安定に稼動することができた。
【0063】
実施例4
比較例と同条件で、触媒交換を行なって反応を行ない、反応器より250℃のアクリル酸含有ガスを得た。図4のように冷却媒体として105℃のボイラー供給水を通過させる廃熱回収熱交換器を用い、ボイラー供給水の供給ラインにバイパスを設け、廃熱回収熱交換器を通過するボイラー供給水の量を0.6m3/hrにした。当該熱交換器に、比較例と同じ条件でアクリル酸含有ガスを導入したところ、アクリル酸含有ガスは230℃に冷却された。このガスを比較例と同条件でアクリル酸水溶液の捕集を行ったところ、捕集塔塔底の冷却器により高濃度アクリル酸溶液を得るための温度が安定的に制御でき、91質量%のアクリル酸水溶液を安定に得ることができた。尚、熱交換器より排出されたボイラー供給水は140℃であり、バイパスしたボイラー供給水との合流後の温度は120℃であった。このように、反応器より得られるアクリル酸含有ガスの温度に応じ、廃熱回収熱交換器に供給するボイラー供給水の量を調節することによって、捕集塔へ供給されるアクリル酸含有ガスの温度を反応器から排出されるガス温度が350℃の場合とほぼ同等にすることができ、捕集塔を安定に稼動することができた。
【0064】
上記実施例の通り、本発明によれば、反応器から排出される(メタ)アクリル酸含有ガスの温度にかかわらず、非凝縮性ガスの分離装置内へ供給されるガス温度をほぼ一定にしたことから、高濃度溶液を得るための捕集塔の温度制御が捕集塔付属の冷却器により可能になり、また、捕集塔塔底から得られるアクリル酸水溶液の濃度の変動を抑制することが可能となった。この結果、アクリル酸の捕集工程を安定して稼動することができた。また、捕集塔へ供給されるアクリル酸含有ガスの温度を200℃以上とすることによって、90質量%以上の高濃度アクリル酸水溶液を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のシステムを実施するための一例を示す概略図である。
【図2】本発明のシステムを実施するための一例を示す概略図である。
【図3】本発明のシステムを実施するための一例を示す概略図である。
【図4】本発明のシステムを実施するための一例を示す概略図である。
【図5】本発明のシステムを実施するための一例を示す概略図である。
【図6】本発明のシステムを実施するための一例を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸を製造するための方法であって、
接触気相酸化反応器において原料ガスを接触気相酸化反応させて(メタ)アクリル酸を含有するガスを製造する工程;および
製造された(メタ)アクリル酸含有ガスを非凝縮性ガスの分離装置へ導入し、(メタ)アクリル酸含有ガスから非凝縮性ガスを分離して75質量%以上の高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る工程;を含み、
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
【請求項2】
上記温度制御を、接触気相酸化反応により得られる(メタ)アクリル酸含有ガスの温度に応じて、非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの除熱量を制御することにより行なう請求項1に記載の(メタ)アクリル酸の製造方法。
【請求項3】
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を、下記に示す何れかのガス温度制御手段により制御する請求項1または2に記載の(メタ)アクリル酸の製造方法。
(1)内部を通過する(メタ)アクリル酸含有ガスの供給量を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
(2)蒸気を発生させることにより熱交換を行う熱交換器であって、蒸気の圧力を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
(3)蒸気を発生させることにより熱交換を行う熱交換器であって、内部の被蒸発液の液面高さを変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
(4)冷却媒体を通過させることによって熱交換を行う熱交換器であって、冷却媒体の流量を変化させることにより(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を制御する廃熱回収熱交換器
【請求項4】
上記ガス温度制御手段を、接触気相酸化反応器と非凝縮性ガスの分離装置の間に設ける請求項3に記載の(メタ)アクリル酸の製造方法。
【請求項5】
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度を200℃〜300℃に制御する請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
非凝縮性ガスの分離装置へ供給する(メタ)アクリル酸含有ガスの温度変動を40℃以内に制御する請求項1〜5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
非凝縮性ガスの分離装置から排出されるアクリル酸溶液中の水分濃度を1〜10質量%にする請求項1〜6の何れかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−162957(P2008−162957A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355386(P2006−355386)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】