説明

1−フルオロ−1−フェニルチオエテンの製造方法

【課題】 従来収率が悪く、過酷な条件でしか製造されていなかった1-フルオロ-1-フェニルチオエテンの工業的に実施が可能で効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】 1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体をカリウムt−ブトキシドや水酸化カリウムなどの塩基と反応させることにより、1-フルオロ-1-フェニルチオエテンを工業的有利に、かつ効率的に製造方法することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-フルオロ-1-フェニルチオエテンの効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-フルオロ-1-フェニルチオエテンは各種医薬品、生理活性物質および機能性材料の製造中間体として重要であり、その製造はフェニルチオアニオンと1,2-ジブロモ-1-フルオロエテンとの反応((方法1)非特許文献1)または加熱条件下に1-ジフェニルメチルシリル-1-フルオロエテンとS-フェニルベンゼンチオスルホネートとの反応((方法2)非特許文献2)によって実施されていた。
【0003】
しかし、方法1では極めて収率が低く、また方法2は加熱操作の必要性やアトムエコノミーの観点から効率的ではない。
【非特許文献1】Zh. Org. Khim., 27, 2362(1991).
【非特許文献2】J. Fluorine Chem., 118, 99(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする問題点は、工業的に実施容易で効率的な1-フルオロ-1-フェニルチオエテンの製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体を塩基と反応させることにより、効率良く1-フルオロ-1-フェニルチオエテンが製造でき、工業的に実施容易な製造方法となり得ることを見出し、本発明を完成したものである。
【0006】
即ち、本発明は、
1)
一般式(1)
【0007】
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表される1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体を塩基と反応させることを特徴とする
式(2)
【0008】
【化2】

で表される1-フルオロ-1-フェニルチオエテンの製造方法、
【0009】
2)塩基がカリウムt−ブトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水酸化カリウム、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、リチウムt−ブトキシド、リチウムエトキシド、リチウムメトキシド、または水酸化リチウムである上記1)記載の製造方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1-フルオロ-1-フェニルチオエテンの製造方法は、従来のフェニルチオアニオンと1,2-ジブロモ-1-フルオロエテンとの反応による方法に比べて著しく収率が高い。また、従来の、加熱操作下に1-ジフェニルメチルシリル-1-フルオロエテンとS-フェニルベンゼンチオスルホネートとの反応による方法に比べて、加熱操作を必要とせず、またアトムエコノミーの観点からも効率的であり優れた方法である。これにより、1-フルオロ-1-フェニルチオエテンが工業的に有利に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一般式(1)で示される原料化合物1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体は公知または公知の方法によって容易に得ることができる(例えば、J. Org. Chem., 55, 2973(1990).)。
【0012】
一般式(1)中、Xで示されるハロゲン原子とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。
【0013】
一般式(1)で示される1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体には、不斉中心に基づく光学異性体が存在し得るが、本発明にはこれらの光学異性体のいずれをも使用することができ、またそれらの任意の比率を示す混合物またはラセミ体を使用することも可能である。
【0014】
本反応は、−40〜110℃、好ましくは−15〜40℃で円滑に進行する。
本反応に用いる塩基としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムt-ブトキシド、ブチルリチウム、水素化リチウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、水素化ナトリウム、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、炭酸カリウム、水酸化カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド、水素化カリウム、カリウムヘキサメチルジシラジド、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、ホスファゼンベースまたはペンタイソプロピルグアニジン等が例示できる。好ましくは、カリウムt−ブトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水酸化カリウム、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、リチウムt−ブトキシド、リチウムエトキシド、リチウムメトキシド、または水酸化リチウムが用いられる。
【0015】
本反応に用いられる溶媒としては、反応に関与しない不活性な溶媒、例えばヘキサン、トルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタンまたはジクロロメタンなどが用いられる。
【0016】
実施例
以下の実施例により本発明の有用性を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
1−フルオロ−1−フェニルチオエテンの合成
1−クロロ−2−フルオロ−2−フェニルチオエタン(27.6g)をテトラヒドロフラン(500mL)に溶解し、氷水浴上で冷却しながら、カリウムt−ブトキシド(19.5g)を加えた。5℃で1時間撹拌後、テトラヒドロフランを留去した残渣にヘキサンを加えて攪拌し、不溶物を濾去した。濾液を濃縮した残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン)で精製し、淡黄色油状の1−フルオロ−1−フェニルチオエテンを14.7g(収率66%)得た。
MS(EI)m/z=154(M).
H NMR(CDCl):δ 4.97(dd、J=3.1,42.2Hz、1H)、5.11(dd、J=3.1,10.4Hz、1H)、7.26−7.39(m、3H)、7.43−7.49(m、2H).
【産業上の利用可能性】
【0018】
1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体を塩基と反応させることにより、効率良く1-フルオロ-1-フェニルチオエテンが製造でき、工業的に実施容易な製造方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表される1-フルオロ-2-ハロゲノ-1-フェニルチオエタン誘導体を塩基と反応させることを特徴とする
式(2)
【化2】

で表される1-フルオロ-1-フェニルチオエテンの製造方法。
【請求項2】
塩基がカリウムt−ブトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水酸化カリウム、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、リチウムt−ブトキシド、リチウムエトキシド、リチウムメトキシドまたは水酸化リチウムである請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−298872(P2006−298872A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125988(P2005−125988)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】