説明

1液型歯科用プライマー組成物の製造方法

【課題】 保存安定性に優れた1液型歯科用プライマー組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 (A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んでなる1液型歯科用プライマー組成物の製造方法であって、(A)リン酸基含有重合性単量体と(C)芳香族第3級アミンを予め混合させ、その後(B)カルボン酸基含有重合性単量体を混合することを特徴とする1液型歯科用プライマー組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた1液型歯科用プライマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により欠損を生じた歯質の修復において、(メタ)アクリレート系の重合性単量体と無機フィラーとを主成分とする歯科用複合材料である歯科用レジンで作られた補綴物が多用されている。これは、その色調が天然歯牙とほとんど同じにでき、また、高密度で充填されている無機フィラーの効果により、極めて良好な機械的強度が得られ、さらには補綴物の作成もセラミックス等に比べて容易であるなどの利点が多いためである。
【0003】
このようなレジン製補綴物(レジン硬化体)は、歯質及び/又は他の歯科用材料と、(メタ)アクリレート系重合性単量体を主成分とする硬化性組成物からなる接着材((メタ)アクリレート系接着材)等の接着材を用いて接着される。その際に、両者をより強固に接着させることが強く望まれており、本発明者等は、このレジン硬化体に対する接着強度向上の手法として、酸性基含有重合性単量体、特定構造の芳香族第3級アミンおよび揮発性有機溶媒からなるプライマー組成物(特許文献1)を提案した。このものは、レジン硬化体と歯質及び/又は他の歯科用材料との上記接着材を用いた接着に対して、優れた接着強度を付与するものであるが、一方で、前記3成分を単一の包装にして保存すると、該組成物が短時間でゲル化してしまうという問題があった。特に、酸性基含有重合性単量体として、リン酸基含有重合性単量体とカルボン酸基含有重合性単量体を併用したものは、良好な接着性の付与効果を示す一方で、このゲル化が顕著に発生し、このような単一包装の形態での実用化を妨げていた。したがって、このプライマー組成物は、酸性基含有重合性単量体及び揮発性有機溶媒を含むが上記芳香族第3級アミンを含まない包装(I)と、上記芳香族第3級アミン及び揮発性有機溶媒を含むが酸性基含有重合性単量体を含まない包装(II)とに分割した状態で保存し、使用時に全成分を混合する必要があった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−45094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯科用プライマー組成物において、このように複数の包装に分割した場合、保存スペースが広く必要になる他、保存の管理も面倒になり、さらに、使用時の1液への混合操作も煩雑であった。
【0006】
したがって、上記酸性基含有重合性単量体、芳香族第3級アミン、及び揮発性有機溶媒を含んでなる歯科用プライマーは、レジン硬化体に対してより強固な接着力を付与するものであることはもちろんであるが、この試薬形態について、保存安定性に優れた1液型に改良することも強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んだ混合液からなる1液型歯科用プライマー組成物において、その製造を、リン酸基含有重合性単量体と芳香族アミンを予め混合させ、その後に、カルボン酸基含有重合性単量体を混合すれば、前記ゲル化の問題が大きく改善され、保存安定性に優れた1液型のプライマー組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んだ混合液からなる1液型歯科用プライマー組成物の製造方法であって、(A)リン酸基含有重合性単量体と(C)芳香族第3級アミンを予め混合した後、(B)カルボン酸基含有重合性単量体を混合することを特徴とする1液型歯科用プライマー組成物の製造方法である。
【0009】
また他の発明は、さらに(E)水、及び/又は(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を含む上記の1液型歯科用プライマー組成物の製造方法である。
【0010】
また他の発明は、(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んでなる混合液からなる1液型歯科用プライマー組成物であって、50℃で3週間保存した後に、23℃の質量比で10倍量のメタノールに対して、23℃の該混合液を滴下した際に不溶物の析出が実質的にないことを特徴とする1液型歯科用プライマー組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によって、得られる歯科用プライマー組成物は、レジン製歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系接着材等の接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理して使用することにより、優れた接着性の向上効果を発揮する。
【0012】
そして、保存スペースや操作性の面で優れる1液型であるにもかかわらず、保存安定性に優れており極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で製造するプライマー組成物は、(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んだ混合液からなるものである。このプライマー組成物において、(A)リン酸基含有重合性単量体(以下、リン酸モノマーとも称す)としては、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基と、少なくとも一つのホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、及びこれらに対応する酸無水物基、酸ハロゲン化物基を有する化合物であれば、歯科用として公知の如何なるリン酸基含有重合性単量体を用いてもよい。
【0014】
また、重合性不飽和基は、特に限定されず公知の如何なる基であってもよいが、通常はラジカル重合性不飽和基である。具体的には、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。
【0015】
当該リン酸モノマーを具体的に例示すると、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸等の分子内にホスホノ基を有すラジカル重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭59−15468号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着性組成物の成分として記載されているリン酸基含有重合性単量体も好適に使用できる。
【0016】
上記のリン酸基含有重合性単量体は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0017】
本発明のプライマー組成物における上記リン酸基含有重合性単量体の配合量は特に限定されない。なお、レジン硬化体への接着性を考慮した場合には、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.1〜15質量%、更に好ましくは0.25〜10質量%である。含有量を上記範囲内とすることによりレジン硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
【0018】
本発明のプライマー組成物に配合される第二の成分は、(B)カルボン酸基含有重合性単量体(以下、カルボン酸モノマーとも称す)である。本発明では、上記酸性基含有重合性単量体として、前記(A)リン酸基含有重合性単量体と、この(B)カルボン酸基含有重合性単量体とを併用することにより、そのプライマーとしての接着性付与効果が優れたものになる。
【0019】
上記カルボン酸基含有重合性単量体としては、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基と、少なくとも一つのカルボキシル基(−COOH)、及びこれらに対応する酸無水物基、酸ハロゲン化物基を有する化合物であれば、歯科用として公知の如何なるカルボン酸基含有重合性単量体を用いてもよい。
【0020】
また、重合性不飽和基は、特に限定されず公知の如何なる基であってもよいが、通常はラジカル重合性不飽和基である。具体的には、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。
【0021】
当該カルボン酸モノマーを具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル サクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート アンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート アンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着性組成物の成分として記載されているカルボン酸モノマーも好適に使用できる。
【0022】
上記のカルボン酸基含有重合性単量体は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
本発明のプライマー組成物における上記カルボン酸基含有重合性単量体の配合量は特に限定されない。なお、レジン硬化体への接着性を考慮した場合には、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.1〜15質量%、更に好ましくは0.25〜10質量%である。含有量を上記範囲内とすることにより、レジン硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
【0024】
レジン硬化体への接着性を考慮した場合には、上記(A)成分と(B)成分は合計して、プライマー組成物100質量%中、0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%であることが好ましい。また、(A)成分と(B)成分の使用比率は、接着性の付与効果と、保存安定性の良好さを勘案すると、質量比で(A):(B)=20:1〜1:20、より好ましくは(A):(B)=10:1〜1:10が望ましい。
【0025】
本発明のプライマー組成物に配合される第三の成分は、(C)芳香族第3級アミンである。
【0026】
芳香族第3級アミンとしては、アミノ基がアリール基に結合した第三級アミンであれば公知の如何なるアミンを用いてもよい。
【0027】
上記芳香族第3級アミンを具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アニリン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、p−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、N,N,2,4,6−ペンチメチルアニリン、N,N,2,4−テトラメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,4,6−トリメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン
等が例示される。
【0028】
上記芳香族第3級アミンは1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0029】
本発明のプライマー組成物における上記芳香族第3級アミンの配合量は特に限定されない。同様にレジン硬化体への接着性を考慮した場合には、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜8質量%である。含有量を上記範囲内とすることにより、レジン硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
【0030】
本発明のプライマー組成物に配合される第四の成分は、(D)揮発性有機溶媒である。当該揮発性有機溶剤としては、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を溶解可能であり、かつ使用温度、即ち、室温〜口腔内温度(20〜37℃程度)において、気流の吹きつけにより用意に揮発、除去されるものであれば特に制限されるものではない。より良好な揮発除去性を得るために、上記温度下での蒸気圧が水よりも大きい有機溶媒、より好ましくは1.5倍以上、特に好ましくは2倍以上の蒸気圧を有する有機溶媒を採用することが好ましい。
【0031】
このような有機溶媒を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性の観点からアルコール類、ケトン類、エーテル類又はエステル類が好ましい。また、接着性向上効果、及び(A)成分、(B)成分及び(C)成分の溶解性等の理由で炭素数3以上の化合物が好ましい。良好な揮発除去性をも考慮すると、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アセトン又はイソプロピルアルコール等が特に好ましく使用される。
【0032】
これら揮発性有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
本発明のプライマー組成物における上記揮発性有機溶媒の配合量は特に限定されない。同様にレジン硬化体への接着性を考慮した場合には、より良好な接着性向上効果を得るために、プライマー組成物全体が均一となる量を用いることが好ましい。均一溶液とすることにより、塗布時の塗りムラが生じ難くなり、安定して高い接着強度を得ることが容易となる。他の配合成分の種類や配合量にもよるが、一般的には、プライマー組成物100質量%中、30〜98質量%であり、好ましくは50〜95質量%である。含有量を上記範囲内とすることにより、レジン硬化体に対して、特に優れた接着強度を得ることができる。
【0034】
本発明の方法の最大の特徴は、上記各組成から成るプライマー組成物において、その製造を、(A)リン酸基含有重合性単量体と(C)芳香族第3級アミンを予め混合した後、(B)カルボン酸基含有重合性単量体を混合することにより実施することにある。この操作により得られるプライマー組成物は、前記3成分が単一の包装になる1液型であるが、保存安定性に優れており、長期間が経過してもゲル化が生じ難いものになる。これに対して、上記(A)、(B)および(C)成分の全てを同時に混合したり、これら各成分を上記以外の順序で混合した場合、得られるプライマー組成物は、短時間の保存でゲル化し易いものになる。
【0035】
上記順序での各成分の混合は、夫々をそのまま混合に供しても良く、また、いずれか一成分以上を(D)成分である揮発性有機溶媒で希釈した状態で混合に供しても良い。もちろん、(D)成分である揮発性有機溶媒は、上記(A)〜(C)成分の混合の過程のいずれかの箇所、或いはこれらの混合の後において、単独で混合しても良い。希釈率は特に限定されることはなく、使用する(A)成分や(B)成分の粘度などから決定されればよい。
【0036】
混合方法は、マグネテッィクスターラーあるいは攪拌羽での攪拌等、通常の方法が使用できる。混合時間は特に限定されることはないが、(A)成分と(C)成分の混合も、この(A)成分と(C)成分の混合液への(B)成分の混合も、歯科用プライマーとしての保存安定性を確保するためには1時間以上、好ましくは3〜72時間、より好ましくは6〜48時間であるのが好ましい。
【0037】
本発明で製造するプライマー組成物には、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分に加えて、他の成分が配合されていてもよい。特に、(E)水、又は(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を配合することにより、レジン硬化体に対する接着性向上効果をさらに高めることができ好適である。この際のこれらの他の成分の混合は、前記上記(A)〜(C)成分が前記の順序で混合される限り、いずれの箇所で混合しても、本発明の保存安定性に関する効果は良好に発揮される。一般には、(A)成分と(C)成分を予め混合した後、(B)成分と同時か、或いは(B)成分を混合した後において、さらに(E)成分や(F)成分等のその他の配合成分を混合するのが、本発明の効果をより安定的に発揮させる観点から好ましい。
【0038】
本発明のプライマー組成物に対して上記(E)水を配合する場合の配合量は特に限定されるものではないが、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜30質量%、更に好ましくは1〜25質量%、最も好ましくは1〜5質量%である。水の配合量が0.5質量%以下では、レジン硬化体に対する接着性向上効果がほとんど期待できない。他方、あまりに多い場合、他の成分の溶解性が低下し、液の均一性が低下する。
【0039】
上記(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体(以下、多官能モノマーとも称す)としては、一分子中に2つ以上の重合性不飽和基を有し、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SOH)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}等、及びこれらに対応する酸無水物基、酸ハロゲン化物基等を有さない化合物であれば、歯科用として公知の化合物を特に限定されることなく使用することができる。上記重合性不飽和基は、特に限定されず公知の如何なる基であってもよいが、通常はラジカル重合性不飽和基である。
【0040】
このような(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、脂肪族ジイソシアネート類とアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート(例えば、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートなど)等の重合性不飽和基を複数有する脂肪族系(メタ)アクリレート系単量体類;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を複数有する芳香族系(メタ)アクリレート系単量体類等が例示される。
【0041】
これらのなでも特に、2,2’−ビス{4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2−ビス[(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
【0042】
上記(F)成分は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0043】
本発明のプライマー組成物に対して上記(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を配合する場合の配合量は特に限定されるものではないが、好ましくはプライマー組成物100質量%中、0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%である。配合量が0.5質量%以下では、レジン硬化体に対する接着性向上効果がほとんど期待できない。他方、あまりに多い場合には、逆に、接着性が低下する場合がある。
【0044】
さらに、本発明のプライマー組成物に配合しても良い、他の成分を具体的に例示すると、酸性基を有しない単官能の重合性単量体、重合禁止剤、ラジカル重合開始剤、顔料や染料などの着色成分などが挙げられる。
【0045】
酸性基を有しない単官能の重合性単量体としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基を有する重合性単量体類;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有する重合性単量体類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性単量体類;2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート等のエステル基を有する重合性単量体類等が挙げられる。
【0046】
重合禁止剤としては、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4−ターシャルブチルフェノール等を添加することができる。
【0047】
このようにして製造される1液型歯科用プライマー組成物は、その保存安定性に優れており、50℃で3週間保存した後に、23℃の質量比で10倍量のメタノールに対して、23℃の該混合液を滴下した際に不溶物の析出が実質的にない性質を呈している。すなわち、(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んでなる混合液からなる1液型歯科用プライマー組成物において、前記本発明の方法以外の方法((A)〜(C)成分の混合順序)で製造されたものは、既にゲル化しているか、或いはゲル化し易い状態にあるため、上記50℃で3週間保存して、前記温度および量の10倍量のメタノールに対して、23℃のものを滴下しようとしても、ゲル化により滴下できないか、或いは、滴下できても不溶物が有意な量で析出するものになる。従って、このように不溶物の析出が実質的にない、上記組成の1液型プライマー組成物は、本発明により初めて創出されたものであり、本発明は、このようなプライマー組成物も提供する。
【0048】
ここで、23℃の質量比で10倍量のメタノールに対して、23℃の該混合液を滴下した際に不溶物の析出が実質的にない状態とは、目視による観察で該不溶物が全く析出しない状態が最も好ましい。プライマーとしての使用に影響しないような極僅かの量で不溶物が生じているようなものは、実質的に析出していない状態として、本発明では許容される。具体的には、不溶物が析出すると前記混合液を滴下したメタノールは濁っていくが、本発明では、前記混合液を滴下した後のメタノールの、分光光度計(波長600nm)で測定した吸光度(A600)が、ブランクとして測定したメタノールの上記吸光度(A600)を差し引いて値で示して、0.02以下、より好ましくは0.01以下、最も好ましくは0.005以下の範囲であるように、若干量の不溶物が析出している程度のものは、不溶物が実質的に析出していない状態の範疇に含める。
【0049】
上記プライマーのゲル化し難い性状の確認試験(保存安定性評価試験)において、50℃で3週間実施される保存期間は、歯科用プライマーの4℃における冷蔵保存で約3年間の保存に相当するものであり、この長期にわたって、安定に保存できるということは、このプライマー組成物の実用性を証するものである。
【0050】
このようにして製造されるプライマー組成物は、配合されている揮発性有機溶媒が保存期間中に揮発して消滅してしまわないような気密性のある容器に充填して使用するのが好ましい。使用時には、所定量(例えば、1滴)取り出し、歯科用スポンジ、小筆等で被着面に塗布する。塗布後、1〜120秒間程度放置し、さらに圧搾空気等を吹きつけ、揮発性有機溶剤を揮発除去する。その後、定法に従って接着操作を行えば良い。
【0051】
本発明の製造方法によって製造された1液型歯科用プライマー組成物の使用目的は特に制限されないが、レジン製歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系の接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理するために用いるプライマー組成物が特に好適である。
【0052】
上記レジン製歯科用補綴物の素材であるレジンとしては、(メタ)アクリレート系単量体などのラジカル重合性単量体と、シリカ等の無機フィラーを主成分として含む組成物であれば、歯科用として公知の如何なるレジンでもよい。このような歯科用レジンとしては、代表的には、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン等がある。
【0053】
具体的には、ラジカル重合性単量体としては、前記、本発明のプライマー組成物において説明した(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体が主に用いられる。また無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物や、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物、バリウムガラス等が主に用いられる。無機フィラーは、50〜95質量%程度配合されており、さらに、硬化させるために有効な量の、光重合開始剤、化学重合開始剤あるいは熱重合開始剤が配合されている。例えば、特開2002−255721号公報、特開2001−139411号公報、特開2003−95836号公報、特開2000−80013、特開平10−218721号公報、特開平11−100305号公報、特開平7−196431号公報、特開平6−107516号公報、再公表2002−005752号公報等に記載の歯科用複合材料が挙げられる。
【0054】
このようなレジンは、通常、未硬化のペーストの状態で歯質の修復に必要な形状に付形された後、光照射、加熱などにより硬化させられて、歯科用の補綴物(例えば、支台歯、レジンインレー、レジンクラウンなど)にされる。また硬化後に形態修正や未重合層の除去の為に研磨や研削されることが多い。
【0055】
本発明の1液型歯科用プライマー組成物を用いて上記のようなレジン製歯科用補綴物を処理した後、該補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系接着材を用いて接着するのが好ましい。
【0056】
当該(メタ)アクリレート系の接着材としては、歯科用として公知の(メタ)アクリレート系の接着材を特に制限なく使用することができる。例えば、特開平5−170618号公報、特開平6−16520号公報、特開平8−319209号公報、特開平9−3109号公報、特開2002−161013号公報、特開2003−96122号公報等に記載の歯科用接着材が挙げられる。
【0057】
具体的には、前記本発明のプライマー組成物の配合成分として説明した、リン酸基含有重合性単量体、カルボン酸基含有重合性単量体、酸性基を有しない多官能の重合性単量体あるいは酸性基を有しない単官能の重合性単量体などの(メタ)アクリレート系単量体を主成分とし、光重合開始剤、化学重合開始剤が含まれる硬化性組成物である。また、機械的強度が必要とされる場合も多く、そのような場合には、歯科用複合材料の配合成分として説明したのと同様の無機フィラーが、25〜75質量%程度含まれたものを用いるのが好適である。
【0058】
上記重合開始剤を具体的に例示すると、光重合開始剤としては、カンファーキノン等のα−ジケトンと、ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の第3級アミンからなるα−ジケトン/第3級アミン系重合開始剤、クマリン等の色素、トリクロロメチル基置換−s−トリアジン等の光酸発生剤及びテトラフェニルボレート・アミン塩等のアリールボレート化合物からなる色素/光酸発生剤/アリールボレート化合物系光重合開始剤を挙げることができる。また、化学重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物と、N,N−ジエタノール−p−トルイジン等の第3級アミンからなる過酸化物/アミン系の重合開始剤のほか、酸性化合物/アリールボレート化合物からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体/有機過酸化物からなる重合開始剤;トリブチルボランの部分酸化物等のアルキル金属化合物;n−ブチルバルビツール酸/塩化銅のようなバルビツール酸系開始剤が例示される。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0060】
なお、各実施例及び比較例で使用した物質とその略号、及び接着試験方法を以下に示す。
【0061】
1.プライマー組成物の調製に用いた物質
【0062】
【表1】

【0063】
2.レジン硬化体に対する接着強度測定方法
市販の歯科用レジンである「エステライト」(トクヤマデンタル製)を10×10×3mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドに充填し、透明ポリプロピレンフィルムで圧接して酸素を遮断した状態で光重合することで「エステライト」のレジン硬化体を得た。また、「パールエステ」(トクヤマデンタル製)を10×10×3mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドに充填し、透明ポリプロピレンフィルムで圧接して酸素を遮断した状態で光重合、引き続き加熱重合(100℃で15分)することで「パールエステ」のレジン硬化体を得た。
【0064】
このレジン硬化体(10×10×3mm)の表面を#1500の耐水研磨紙で磨いて平滑にした後、その研磨面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。この模擬窩洞内に、各実施例及び比較例の歯科用プライマー組成物をそれぞれスポンジで塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、歯科用レジンセメント「ビスタイトII」セメント(トクヤマデンタル社製)を模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。その後、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて「エステライト」あるいは「パールエステ」の各レジン硬化体との接着強度を測定した。
【0065】
3.保存安定性評価試験
各実施例および比較例で製造したプライマー組成物のそれぞれを50℃にて3週間、または25℃で1年間保存した。次いで、20mlのガラスサンプル瓶に23℃の10gのメタノールを入れ、そこに、23℃の該プライマー組成物1gを滴下した。蓋を閉めてよく混合した後に、目視にて不溶物の析出有無を観察した。次いで、分光光度計を用いて上記プライマー組成物を滴下したメタノールの600nmにおける吸光度(A600)測定した。また、ブランクとして、メタノールの上記吸光度を測定し、上記プライマー組成物を滴下したメタノールの吸光度の値から差し引いて、不溶物の析出による濁りの程度を調べた。
【0066】
実施例1
0.3gのPM、0.5gのDMPTを2.0gのアセトンに溶解し均一溶液とした後、24時間混合した。該混合液に対して、0.7gのMAC−10及び6.5gのアセトンを混合して均一溶液を得た。なお、上記溶液は容量20mlのガラスサンプル瓶中で調整した。
【0067】
これを歯科用プライマー組成物として用いて、「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、10.2MPaの接着強度を得た(初期接着強度)。
【0068】
上記で調製したプライマー組成物について、保存安定性評価試験を実施したところ、50℃で3週間保存後において、メタノールに対する不溶物の析出は目視にて観察されなかった。また、吸光度(A600)は0.002であった。さらに、50℃で3週間保存したプライマー液を用いて「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、9.8MPaの接着強度を得た。
【0069】
さらに、同様に調整したプライマー組成物を25℃で1年間保存したところ、ゲル化等の目視による変化は認められなかった。また、保存安定性評価試験を実施したところ、吸光度(A600)は0.001であった。この25℃で1年間保存したプライマー液を用いて同様に「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、10.5MPaの接着強度を得た。
【0070】
比較例1
0.3gのPM、0.7gのMAC−10、0.5gのDMPT、及び8.5gのアセトンを同時に混合して均一溶液を得、これを歯科用プライマー組成物とした。
【0071】
調整直後の上記歯科用プライマー組成物を用いて「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、9.8MPaの接着強度を得た。
【0072】
この歯科用プライマー組成物をガラスサンプル瓶中にいれたまま、50℃で保存したところ、2日でゲル化していた。また25℃で保存したところ、10日間でゲル化した。
【0073】
比較例2
0.7gのMAC−10、0.5gのDMPTを2.0gのアセトンに溶解し均一溶液とした後、24時間混合した。該混合液に対して、0.3gのPM及び6.5gのアセトンを混合して均一溶液を得た。なお、上記溶液は容量20mlのガラスサンプル瓶中で調整した。
【0074】
調整直後の上記歯科用プライマー組成物を用いて「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、9.9MPaの接着強度を得た。
【0075】
この歯科用プライマー組成物をガラスサンプル瓶中にいれたまま、50℃で保存したところ、5日でゲル化していた。また25℃で保存したところ、31日間でゲル化した。
【0076】
実施例2
0.3gのPM、0.5gのDMPTを2.0gのアセトンに溶解し均一溶液とした後、24時間混合した。該混合液に対して、0.7gのMAC−10、0.5gの水、1.0gのUDMAおよび5.0gのアセトンを混合して均一溶液を得た。なお、上記溶液は容量20mlのガラスサンプル瓶中で調整した。
【0077】
これを歯科用プライマー組成物として用いて、「エステライト」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、14.8MPaの接着強度を得た(初期接着強度)。
【0078】
上記で調製したプライマー組成物の保存安定性評価試験を実施したところ、50℃で3週間保存後において、メタノールに対する不溶物の析出は観察されなかった。また、吸光度(A600)は0.001であった。さらに、50℃で3週間保存したプライマー液を用いて、レジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、15.1MPaの接着強度を得た。
【0079】
さらに、同様に調整したプライマー組成物を25℃で1年間保存したところ、ゲル化等の目視による変化は認められなかった。また、保存安定性評価試験を実施したところ、吸光度(A600)は0.001であった。この25℃で1年間保存したプライマー液を用いて同様に「エステライト」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、14.5MPaの接着強度を得た。
【0080】
比較例3
容量20mlのガラスサンプル瓶中で0.3gのPM、0.7gのMAC−10、0.5gのDMPT、0.5gの水、1.0gのUDAM及び7.0gのアセトンを同時に混合して均一溶液を得、これを歯科用プライマー組成物とした。
【0081】
調整直後の上記歯科用プライマー組成物を用いてエステライトを硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、15.5MPaの接着強度を得た。
【0082】
この歯科用プライマー組成物をガラスサンプル瓶中にいれたまま、50℃で保存したところ、1日でゲル化していた。また25℃で保存したところ、5日間でゲル化した。
【0083】
上記実施例1と比較例1、比較例2及び実施例2と比較例3の結果を比較すれば明らかなように、リン酸基含有重合性単量体、カルボン酸基含有重合性単量体、芳香族第3級アミンを同時に混合させると、また、カルボン酸基含有重合性単量体と芳香族第3級アミンを予め反応させ、その後リン酸基含有重合性単量体を添加すると、かなりの短時間でゲル化してしまい、歯科用として必要な保存安定性が得られないものであった。従って、本発明で規定するように、リン酸基含有重合性単量体と芳香族第3級アミンを予め反応させ、その後カルボン酸基含有重合性単量体を添加する製造方法であることが必要であることがわかった。
【0084】
実施例3
0.3gのPMと0.5gのDMPTを混合する際、溶媒なしで両者を混合させた以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。その結果は9.1MPaであった。
【0085】
上記で調製したプライマー組成物の保存安定性評価試験を実施したところ、50℃で3週間保存後においても、メタノールに対する不溶物の析出は観察されなかった。また、吸光度(A600)は0.001であった。さらに、50℃で3週間保存したプライマー液を用いて「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、9.3MPaの接着強度を得た。
【0086】
実施例4
0.3gのPM、0.5gのDMPTを2.0gのアセトンに溶解し均一溶液とした後、12時間混合させた以外は、実施例1と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、「パールエステ」を硬化させて得たレジン硬化体に対する初期接着強度を測定した。その結果は9.7MPaであった。上記で調製したプライマー組成物の保存安定性を評価したところ、50℃で3週間保存後においても、メタノールに対する不溶物の析出は観察されなかった。また、吸光度(A600)は0.001であった。この50℃で3週間保存したプライマー液を用いてパールエステを硬化させて得たレジン硬化体に対する接着強度を測定したところ、9.6MPaの接着強度を得た。
【0087】
実施例5〜9
表2に示すアミン量あるいはアミン種を変更した以外、実施例2と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、「パールエステ」に対する初期接着強度、および50℃で3週間保存したプライマー組成物を用いたパールエステに対する接着強度を測定した。また、この50℃で3週間保存したプライマー組成物を用いて保存安定性評価試験を実施した。結果を表3に示す。いずれのプライマー組成物を用いた場合にも、良好な接着強度および保存安定性が得られた。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
実施例10〜13
表4に示すリン酸基含有重合性単量体の種類と量、およびカルボン酸基含有重合性単量体の種類と量を変更した以外、実施例2と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、「パールエステ」に対する初期接着強度および50℃3週間保存したプライマー組成物を用いた「パールエステ」に対する接着強度を測定した。また、この50℃で3週間保存したプライマー組成物を用いて保存安定性評価試験を実施した。結果を表5に示す。いずれのプライマー組成物を用いた場合にも、良好な接着強度および保存安定性が得られた。
【0091】
【表4】

【0092】
【表5】

【0093】
実施例14〜17
表6に示す酸性基を有しない多官能の重合性単量体の種類と量に変更した以外、実施例2と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、「パールエステ」に対する初期接着強度および50℃で3週間保存したプライマー組成物を用いた「パールエステ」に対する接着強度を測定した。また保存安定性評価試験を実施した。結果を表7に示す。いずれのプライマー組成物を用いた場合にも、良好な接着強度および保存安定性が得られた。
【0094】
【表6】

【0095】
【表7】

【0096】
実施例18〜20
表8に示す揮発性有機溶媒量、揮発性有機溶媒種および水量を変更した以外、実施例2と同様の操作を行ってプライマー組成物を得、「パールエステ」に対する初期接着強度および50℃で3週間保存したプライマー組成物を用いた「パールエステ」に対する接着強度を測定した。また保存安定性評価試験を実施した。結果を表9に示す。いずれのプライマー組成物を用いた場合にも、良好な接着強度および保存安定性が得られた。
【0097】
【表8】

【0098】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んだ混合液からなる1液型歯科用プライマー組成物の製造方法であって、(A)リン酸基含有重合性単量体と(C)芳香族第3級アミンを予め混合した後、(B)カルボン酸基含有重合性単量体を混合することを特徴とする1液型歯科用プライマー組成物の製造方法。
【請求項2】
1液型歯科用プライマー組成物が、さらに(E)水を含む請求項1記載の1液型歯科用プライマー組成物の製造方法。
【請求項3】
1液型歯科用プライマー組成物が、さらに、(F)酸性基を有しない多官能の重合性単量体を含む請求項2または請求項3記載の1液型歯科用プライマー組成物の製造方法。
【請求項4】
1液型歯科用プライマー組成物が、レジン製歯科用補綴物と、歯質及び/又は他の歯科用材料とを(メタ)アクリレート系接着材を用いて接着するに先立って、該歯科用補綴物を前処理するために用いる歯科用プライマー組成物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の1液型歯科用プライマー組成物の製造方法。
【請求項5】
(A)リン酸基含有重合性単量体、(B)カルボン酸基含有重合性単量体、(C)芳香族第3級アミン、及び(D)揮発性有機溶媒を含んでなる混合液からなる1液型歯科用プライマー組成物であって、50℃で3週間保存した後に、23℃の質量比で10倍量のメタノールに対して、23℃の該混合液を滴下した際に不溶物の析出が実質的にないことを特徴とする1液型歯科用プライマー組成物。

【公開番号】特開2008−63288(P2008−63288A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244295(P2006−244295)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】