説明

1,2−ジクロロエタンの製造方法

【課題】 エタノールから1,2−ジクロロエタンを製造するにあたり、経済的にかつ簡便に1,2−ジクロロエタンを製造する方法を提供する。
【解決手段】 エタノールから1,2−ジクロロエタンを製造するにあたり、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を分離工程を経ること無く、オキシ塩素化工程に導入することを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールから1,2−ジクロロエタンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−ジクロロエタンは、ビニルクロライドモノマーまたはエチレンジアミン類等の原料として広く利用されており、工業的に極めて有用な化合物である。
【0003】
従来、1,2−ジクロロエタンの製造方法は、ナフサの熱分解から得られた生成ガスをエチレンと他の炭化水素とに分離精製し、得られたエチレンを用いてオキシ塩素化を行い、1,2−ジクロロエタンを製造してきた。この方法では、ナフサの分解炉および生成したガスをエチレンと他の成分とを分離精製する設備が必要となり、設備規模が莫大になり、非経済的となる課題がある。
【0004】
また、ナフサは原油から製造されているため、1,2−ジクロロエタンを原料とした製品を燃焼させた場合、二酸化炭素が排出され、温室効果ガスが大気中に放出され、環境負荷が大きい。
【0005】
従来のエタノールの脱水反応触媒は、アルミナまたはシリカアルミナ等の固体酸触媒が用いられており、高活性および高選択性を得るために、反応温度は350〜450℃と高い温度を必要とする(例えば、特許文献1,2)。
【0006】
また、ゼオライト触媒を用いたエタノールの脱水反応によるエチレン製造では、反応温度150〜250℃、触媒としてプロトン型のゼオライトを用いた方法が知られている(例えば、特許文献3)。
【0007】
これらのエタノールの脱水反応によるエチレン製造では、生成した気体を分離工程を経ず、直接オキシ塩素化反応をして1,2−ジクロロエタンを製造する記載はない。
【0008】
【特許文献1】特許2911244公報(第5頁)
【特許文献2】特公昭59−19927公報(第5頁)
【特許文献3】特開2006−116439公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、経済的かつ簡便にエタノールから1,2−ジクロロエタンを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、エタノールから1,2−ジクロロエタンを製造するにあたり、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を分離工程を経ること無く、オキシ塩素化反応工程に導入することで、経済的にかつ簡便に1,2−ジクロロエタンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、エタノールから1,2−ジクロロエタンを製造するにあたり、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を分離工程を経ること無く、オキシ塩素化反応工程に導入することを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法である。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、エタノールから1,2−ジクロロエタンの製造するにあたり、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を分離工程を経ること無く、オキシ塩素化反応工程に導入することを特徴とする。
【0013】
本発明のエタノール脱水反応工程は、エタノールの脱水反応によりエチレンを含む気体を製造する工程であり、オキシ塩素化反応工程は、エチレンを含む気体のオキシ塩素化反応により1,2−ジクロロエタンを製造する工程である。
【0014】
本発明のエタノール脱水反応工程で使用する触媒は、固体酸触媒であれば特に限定されないが、例えば、結晶性アルミノシリケート、アルミナ、チタニア、シリカアルミナ、シリカジルコニア、シリカイットリア、シリカランタニア、アルミナジルコニア、チタニアアルミナ、チタニアシリカ、チタニアジルコニア、ヘテロポリ酸、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸鉄、硫酸根担持ジルコニア、硫酸根担持チタニア等が挙げられるが、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくは結晶性アルミノシリケートが挙げられる。
【0015】
本発明で使用する結晶性アルミノシリケートとは、ゼオライトおよびゼオライト類似物質の一種であり、その組成は一般に下記式(1)で表される。
【0016】
xM2/nO・Al・ySiO・zHO (1)
(ここで、nは陽イオンMの原子価、xは0.8〜2の範囲の数、yは2以上の数、zは0以上の数である。)
その基本構造は、ケイ素を中心として4つの酸素がその頂点に配置したSiOで示される四面体構造と、このケイ素の代わりにアルミニウムがその中心にあるAlOで示される四面体とが、酸素/(ケイ素+アルミニウム)の原子比が2となるようにお互いに酸素を共有して、規則性のある三次元的に結合したものである。
【0017】
その結果、この四面体の結合方式の違いによって大きさ、形の異なる細孔を有する三次元的骨格構造が形成される。
【0018】
また、結晶性アルミノシリケートは固体酸性を持つことが知られている。アルミニウムが中心にある四面体の電子価は負に帯電しており、プロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の陽イオンと結合することで電気的に中和されている。特にプロトンと結合した場合では、ブレンステッド酸性を示すことから、結晶性アルミノシリケートは固体酸触媒として使用されている。
【0019】
ここに、結晶性アルミノシリケートは、例えば、ABW型ゼオライト[国際ゼオライト学会が規定する構造コード、以下同じ:ABW]、アフガナイト(Afghanite)[AFG]、アナルサイム(Analcime)[ANA]、リューサイト(Leucite)[ANA]、ベータ(Beta)[*BEA]、ビキタイト(Bikitaite)[BIK]、ボグサイト(Boggsite)[BOG]、ブリュスター沸石(Brewsterite)[BRE]、ECR−5、カンクリナイト(Cancrinite)[CAN]、EU−20b[CAS]、CIT−5[CFI]、チャバサイト(Chabazite)[CHA]、ダッキャルド沸石(Dachiardite)[DAC]、Sigma−1[DDR]、ZSM−58[DDR]、TMA−E[EAB]、ベルバーガイト(Bellbergite)[EAB]、エディングトナイト(Edingtonite)[EDI]、EMC−2[EMT]、CSZ−1[EMT]、ZSM−20[EMT]、剥沸石(Epistilbite)[EPI]、エリオナイト(Erionite)[ERI]、ERS−7[ESV]、EU−1[EUO]、ZSM−50[EUO]、X型[FAU]、Y型[FAU]、ホージャサイト(Faujasite)[FAU]、フェリエライト(Ferrierite)、ZSM−35[FER]、フラジナイト(Franzinite)(FRA]、ギスモンダイト(Gismondine)[GIS]、グメリナイト(Gmelinite)[GME]、グースクリーカイト(Goosecreekite)[GOO]、ヒューランダイト(Heulandite)[HEU]、クリノプチロライト(Clinoptilolite)[HEU]、SSZ−42[IFR]、SSZ−36[ITE]、JBW型ゼオライト[JBW]、ZK−5[KFI]、濁沸石(Laumontite)[LAU]、レビ沸石(Levyne)[LEV]、リオタイト(Liottite)[LIO]、Losod[LOS]、ビストライト(Bystrite)[LOS]、A型[LTA]、L型[LTL]、ペルリアライト(Perlialite)[LTL]、N型(LTN)、マッツアイト(Mazzite)[MAZ]、ZSM−4[MAZ]、ZSM−18[MEI]、ZSM−11[MEL]、メルリーノ沸石(Merlinoite)[MER]、W型[MER]、ミューティナアイト(Mutinaite)[MFI]、ZSM−5[MFI]、ZSM−57[MFS]、マンテソマイト(Montesommaite)[MON]、モルデナイト(Mordenite)[MOR]、MCM−61[MSO]、MCM−35[MTF]、ZSM−35[MTN]、ZSM−23[MTT]、ZSM−12[MTW]、MCM−22[MWW]、ナトロライト(Natrolite)[NAT]、ゴンナルダイト(Gonnardite)[NAT]、NU−87[NES]、ゴッタルディ鉱(Gottardiite)[NES]、ZSM−51[NON]、オフレタイト(Offretite)[OFF]、パーシアイト(Partheite)[−PAR]、ポーリンジャイト(Paulingite)[PAU]、フィリプサイト(Phillipsite)[PHI]、Rho型ゼオライト[RHO]、SSZ−48[SFE]、SSZ−44[SFF]、SSZ−58[SFG]、ソーダライト(Sodalite)[SOD]、SSZ−65[SSF]、SSZ−35[STF]、スティルバイト(Stilbite)[STI]、バレライト(Barrerite)[STI]、SSZ−23[STT]、テルラノバアイト(Terranovaite)[TER]、ムソナイト(Thomsonite)[THO]、シータ−1[TON]、ZSM−22[TON]、Tschortnerite[TSC]、UZM−5[UFI]、ウェンカイト(Wenkite)[−WEN]、ユガワラライト(Yugawaralite)[YUG]等が挙げられ、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくはフェリエライトおよびモルデナイトであり、さらに好ましくはフェリエライトである。
【0020】
本発明で使用する結晶性アルミノシリケートのケイ素/アルミニウム比(原子比)は特に制限されないが、低温で高活性を得られることから、好ましくは3〜20、さらに好ましくは4〜10である。
【0021】
本発明で使用する結晶性アルミノシリケートのナトリウムおよびカリウムの含有量は特に制限されないが、エタノールの脱水反応工程におけるアセトアルデヒド生成を抑制し、コークの析出や活性および選択性の低下を防止し、低温で高活性が得られることから、各々が好ましくは0.1wt%以下、さらに好ましくは0.01wt%、特に好ましくは0.005wt%以下である。
【0022】
本発明で使用する固体酸触媒は、上記に該当するものであれば、通常の水熱合成法、沈殿法、共沈法等の合成法で製造したもの等を使用することができる。
【0023】
ナトリウムとカリウムの両方またはどちらか一方の含有量が0.1wt%を越える結晶性アルミノシリケートを入手した際は、ナトリウムとカリウムの各々の含有量を0.1wt%以下にするために、ナトリウムおよびカリウムを除去することが好ましい。含有するナトリウムおよびカリウムを除去する方法は、特に限定されないが、例えば、ナトリウムおよびカリウムを含有する結晶性アルミノシリケートをアンモニウム塩水溶液で処理した後、洗浄し、乾燥後に、熱処理する方法等が挙げられる。
【0024】
アンモニウム塩水溶液の処理方法は、特に限定されないが、例えば、アンモニウム塩水溶液中で加熱撹拌を行い、固形物を分離して取り出して、この操作を数回繰り返す方法等が挙げられる。アンモニウム塩の種類は、特に限定されないが、効率的にナトリウムおよびカリウムを除去できることから、好ましくは塩化アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが使用できる。アンモニウム塩水溶液の濃度は、特に制限されないが、効率的にナトリウムおよびカリウムを除去できることから、好ましくは0.5〜5N、さらに好ましくは1〜3Nの濃度である。アンモニウム塩水溶液の量は、特に制限されないが、効率的にナトリウムおよびカリウムを除去できることから、結晶性アルミノシリケートの重量に対し好ましくは5〜100倍量、さらに好ましくは10〜50倍量である。加熱撹拌温度、時間および処理回数は、特に制限されないが、効果的にナトリウムおよびカリウムを除去できることから、加熱撹拌温度は好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは70〜90℃、加熱撹拌時間は、好ましくは0.5〜12時間、さらに好ましくは1〜6時間、処理回数は、好ましくは1〜10回、さらに好ましくは2〜5回である。固形物を分離する方法は、特に限定されないが、例えば、ろ別、遠心分離等の方法が使用できる。
【0025】
洗浄処理の方法は、特に限定されないが、例えば、純水で加熱撹拌を行い、固形物を分離して取り出して、この操作を数回繰り返す方法等が挙げられる。純水の量は、特に制限されないが、効率的にナトリウムおよびカリウムを除去できることから、結晶性アルミノシリケートの重量に対し好ましくは5〜100倍量、さらに好ましくは10〜50倍量である。加熱撹拌温度、時間および処理回数は、特に制限されないが、効果的にナトリウムおよびカリウムを除去できることから、加熱撹拌温度は好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは70〜90℃、加熱撹拌時間は、好ましくは0.5〜12時間、さらに好ましくは1〜6時間、処理回数は、好ましくは1〜10回、さらに好ましくは2〜5回である。固形物を分離する方法は、特に限定されないが、例えば、ろ別、遠心分離等の方法が使用できる。
【0026】
乾燥方法は特に限定されないが、例えば、恒温乾燥器、マッフル炉、環状炉等を用い、80〜120℃で行うことができる。
【0027】
熱処理方法は、特に限定されないが、例えば、マッフル炉、環状炉等が使用できる。熱処理温度は、特に制限されないが、アンモニウムイオンの分解および結晶性アルミノシリケートの構造を維持することから、好ましくは400〜700℃、さらに好ましくは、450〜600℃である。また、必要に応じ、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴンまたは空気等のガスを流しても良く、これらのガスを単独または二種類以上混合しても良い。
【0028】
本発明で使用する固体酸触媒の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、楕円状、円柱状、ハニカム状、粉体、顆粒状等が挙げられ、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくは、球状、円柱状、ハニカム状、顆粒状である。
【0029】
本発明で使用する固体酸触媒の成粒方法は、特に限定されないが、例えば、打錠成型、押出成型、スラリーを乾燥後熱処理し、粉砕してふるい分けする方法が挙げられ、触媒の物理的強度が得られることから、打錠成型または押出成型が好ましい。また、必要に応じ、シリカ、シリカゾル、アルミナ、アルミナゾル、グラファイト、セルロース等の成粒助剤を混在させても良い。
【0030】
本発明で使用するエタノール脱水反応工程の反応形式は、特に限定されないが、例えば、固定床気相流通式、固定床液相流通式、懸濁床回分式等が挙げられ、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくは固定床気相流通式である。
【0031】
本発明のエタノール脱水反応工程の反応温度は特に制限されないが、燃焼炉を建設することなく、経済的に1,2−ジクロロエタンを製造することができることから、好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは220〜280℃である。
【0032】
反応圧力は特に制限されないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造することができることから、好ましくは絶対圧で0.01〜10MPaであり、さらに好ましくは0.05〜5MPaである。
【0033】
また、固定床流通式反応の際の重量時間空間速度(WHSV)は特に制限されないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造することができることから、好ましくは0.01〜100hr−1、さらに好ましくは0.1〜10hr−1である。ここで、重量時間空間速度(WHSV)とは、単位触媒重量当たりの単位時間(hr)に対するエタノールの供給量の合計重量を表すものである。
【0034】
本発明では、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を、分離工程を経ること無く、オキシ塩素化反応工程に導入するものであり、例えば、エタノール脱水反応工程で生成したガスに塩化水素および酸素を混入し、この混合ガスをオキシ塩素化反応工程に導入すること等が挙げられる。必要であれば、混合ガスの温度を調節してもよい。
【0035】
本発明で行うオキシ塩素化反応工程は、エチレンを含む気体をオキシ塩素化反応させるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミナに主に塩化第二銅を担持させた触媒に、エチレンを含む気体、塩化水素および分子状酸素を接触させ、反応温度200〜300℃、反応圧力0.1〜0.5MPaで反応する方法等が挙げられる。
【0036】
本発明で使用するオキシ塩素化反応触媒は、エチレンのオキシ塩素化反応が起きれば、特に制限がないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくは、活性アルミナに主として塩化銅を担持させたいわゆるディーコン触媒が挙げられる。
【0037】
本発明で使用するオキシ塩素化反応触媒の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、楕円状、円柱状、ハニカム状、粉体、顆粒状等が挙げられ、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくは、球状、円柱状、ハニカム状および顆粒状である。
【0038】
本発明で使用するオキシ塩素化反応触媒の調製法は特に限定されないが、例えば、塩化第二銅およびその他の塩化物を純水に溶解させ、担体に含浸し、乾燥させる方法等が挙げられる。
【0039】
本発明において塩化水素および酸素の供給は、効率的に1,2―ジクロロエタンを得られることから、エタノール脱水反応工程とオキシ塩素化反応工程の間で供給することが好ましい。
【0040】
本発明で使用するオキシ塩素化反応工程の反応形式は、気相反応であれば特に限定されないが、例えば、固定床気相流通式、流動床気相流通式、固定床パルス反応式等が挙げられ、効率的に1,2−ジクロロエタンを得られることから、好ましくは固定床気相流通式である。
【0041】
本発明のオキシ塩素化反応工程で使用する塩化水素の量は、特に制限されないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造できることから、塩化水素/エタノール比(mol比)として、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1.5〜5である。
【0042】
本発明のオキシ塩素化反応工程で使用する分子状酸素の量は、特に制限されないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造できることから、分子状酸素/エタノール比(mol比)として、好ましくは0.1〜5、さらに好ましくは0.2〜2.0である。また、酸素は窒素などの不活性ガスで希釈しても良く、また、酸素源として空気を用いても良い。
【0043】
本発明で使用するオキシ塩素化工程の体積時間空間速度(GHSV)は特に制限されないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造することができることから、好ましくは0.1〜10000hr−1、さらに好ましくは1〜3000hr−1である。ここで、体積時間空間速度(GHSV)とは、単位触媒体積当たりの単位時間(hr)に対する気体の供給量の合計体積を表すものである。
【0044】
本発明で使用する原料エタノールは、特に限定されないが、例えば、石油由来のエタノールやサトウキビやコーン等の植物由来のエタノールを使用することができる。植物由来のエタノールを使用した場合、製造された1,2−ジクロロエタンまたはそれを原料とする製品を燃焼する時に放出される二酸化炭素はもともと植物が光合成により取り込んだもので、二酸化炭素排出量にカウントされないため、環境負荷の小さい製造方法となる。
【0045】
本発明で使用する原料エタノールの純度は特に限定されないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造することができることから、好ましくは50〜100wt%、さらに好ましくは85〜100wt%である。
【0046】
本発明で使用する原料エタノールをそのまま用いても、不活性ガスで希釈して用いても良い。不活性ガスの種類は、特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、水蒸気等が挙げられ、これらの不活性ガスは単独で使用するのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【発明の効果】
【0047】
エタノールからジクロロエタンを製造するにあたり、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を分離工程を経ること無く、オキシ塩素化反応工程に導入することで、経済的にかつ簡便に1,2−ジクロロエタンを製造できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
以下の実施例に用いた測定法を示す。
【0050】
<ゼオライト中のナトリウムおよびカリウムの含有量>
ゼオライト中のナトリウムおよびカリウムの含有量は原子吸光分光光度計(AA)(ジャーレルアッシュ製、商品名AA800MarkII)にて定量分析した。
【0051】
<エタノールからのジクロロエタン反応評価>
エタノールからのジクロロエタン反応評価は、二段の固定床気相連続流通反応器を用いて行った。前段のエタノールの脱水反応はステンレス製の直管(内径14mm)に触媒を充填し、後段のオキシ塩素化反応はパイレックス(登録商標)製の直管(内径20mm)に触媒を充填し、塩化水素と酸素は前段と後段の間から供給して行い、前段から後段の間は200℃で加温した。反応ガスの分析は、2台のガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名GC−14A)で行い、それぞれにパックドカラムを使用し(充填剤:Waters社製、商品名PorapakQ、3m×2.3mm(内径)および充填剤:GLサイエンス社製、商品名MS−5A3m×2.3mm(内径))、熱伝導度検出器(TCD)を用い定量した。反応液の分析は、2台のガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名GC−14A)で行い、それぞれにキャピラリーカラムを使用し(GLサイエンス社製、商品名TC−1、60m×0.25mm(内径)、膜厚0.25μmおよびGLサイエンス社製、商品名TC−1、60m×0.25mm(内径)、膜厚0.25μm)、水素炎イオン化検出器(FID)を用い定量した。
【0052】
実施例1
<エタノールの脱水反応触媒の調製>
フェリエライト:HSZ720KOA(東ソー株式会社製、Si/Al比=8.9)56.1gを1N−塩化アンモニウム水溶液1.5lに懸濁させ、80℃で2時間加熱撹拌した後、ろ別し、白色ケーキ状の物質を分離した。この操作を4回繰り返した。次に純水1.5lにケーキ状物質を懸濁させ、80℃で2時間加熱撹拌した後、ろ別し、白色ケーキ状物質を分離した。この操作を5回繰り返した。
【0053】
得られた白色ケーキ状物質を100℃で15時間乾燥させた。乾燥後のゼオライトの一部を500℃で2時間、空気中で熱処理した。熱処理後のフェリエライトのナトリウムおよびカリウムの含有量はいずれも0.001wt%であった。
【0054】
乾燥したゼオライト51.1gに、粉砕したSiO19.4g(富士シリシア製、商品名キャリアクト30)を混合し、打錠機(畑鉄工所製、商品名HU−A)を用い、直径5mm高さ2mmの円柱状のペレットに成粒した。100℃で15時間乾燥させた後、500℃で5時間熱処理した。これをエタノール脱水反応触媒とした。
【0055】
<オキシ塩素化反応触媒の調製>
オキシ塩素化反応触媒は特公昭46−40251号公報に準拠して調製した。すなわち、塩化第二銅2水和物33.7g塩化カリウム7.3gを純水に溶解させ、市販の活性アルミナ成形体100ml(球形6〜7mm、比表面積280m/g)を添加し、室温で1時間浸漬し溶液をろ別した後、200℃で4時間乾燥した。これをオキシ塩素化反応触媒とした。
【0056】
<1,2−ジクロロエタンの製造>
エタノール脱水反応工程は、ステンレス製の直管(内径14mm)にエタノール脱水反応触媒を12.1g充填し、エタノール(和光純薬製、純度99.5%)42μl/min(液体)および窒素58ml/minを供給し、反応温度230℃として行った。
【0057】
エタノール脱水反応工程後、得られた生成ガスを200℃で加温して、塩化水素41ml/min、酸素8.1ml/minと混合し、オキシ塩素化反応工程の反応器に供給した。
【0058】
オキシ塩素化反応工程はパイレックス(登録商標)製の直管(内径20mm)に反応器にはオキシ塩素化反応触媒7.0mlおよび希釈剤(セラミックボール球形6〜7mm)8.5mlを混合して充填し、反応温度は260℃として行った。
【0059】
反応の結果、1,2−ジクロロエタン37.7%およびエチレン62.1%の収率となった。
【0060】
実施例2
実施例1のフェリエライトをモルデナイト:TSZ600NAA(東ソー株式会社製、Si/Al比=5)に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0061】
調製したモルデナイトのナトリウムの含有量は0.001wt%であった。
【0062】
反応の結果、1,2−ジクロロエタン37.0%およびエチレン61.0%の収率となった。
【0063】
比較例
エタノール脱水反応工程後、分離工程を経た純度99.5%のエチレンを用い、オキシ塩素化反応工程を行った。パイレックス(登録商標)製の直管(内径20mm)に反応器にはオキシ塩素化反応触媒7.0mlおよび希釈剤(セラミックボール球形6〜7mm)8.5mlを混合して充填した。エチレン16.2ml、窒素58ml/min、塩化水素41ml/min、酸素8.1ml/min、水32.4ml/minを供給し、オキシ塩素化反応工程の反応温度を260℃として行った。
【0064】
反応の結果、1,2−ジクロロエタン37.7%の収率となり、実施例1および2と同等の結果を得たが、分離工程を経ているため、経済的や簡便ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールから1,2−ジクロロエタンを製造するにあたり、エタノール脱水反応工程で生成した反応生成物を分離工程を経ること無く、オキシ塩素化反応工程に導入することを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項2】
エタノール脱水反応工程とオキシ塩素化反応工程の間で、塩化水素および酸素を導入することを特徴とする請求項1に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項3】
エタノール脱水反応工程において、エタノールを固体酸触媒に接触させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項4】
固体酸触媒が結晶性アルミノシリケートであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項5】
結晶性アルミノシリケートがフェリエライトおよび/またはモルデナイトであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項6】
結晶性アルミノシリケートがケイ素/アルミニウム比(原子比)が3〜20およびナトリウムの含有量が0.1wt%以下でカリウムの含有量が0.1wt%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。

【公開番号】特開2009−275014(P2009−275014A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129369(P2008−129369)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】