説明

1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類及び2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類の製造方法

【課題】 2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類とその前駆体である1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を高純度で工業的に有利に製造する方法の提供。
【解決手段】アントラニル酸エステル誘導体をアルカリ金属アルコキシドおよび水と混和しない有機溶媒の存在下に縮合環化して1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を得、これを単離することなくアルカリ水溶液の存在下に反応させることにより式(4)で示される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類を工業的に有利に製造する。


(式中、R1はH、C1〜4の分岐を有してもよいアルキル基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医、農薬中間体として有用な2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類とその中間体の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的とする医薬、農薬中間体として有用な式(4)
【化1】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)
で示される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類の製造法としては、(A)3−アニリノプロピオン酸類に加圧条件下、HFおよびBFを80℃で20時間作用させる方法(特許文献1)、(B)3−アニリノプロピオン酸をポリリン酸中、120〜130℃で1時間反応する方法(非特許文献1)等が知られている。しかし、(A)の方法では安全性・腐食性等で問題となる原料(HFおよびBF)を加圧下で用いる必要があり、(B)の方法では、ポリリン酸を用いた結果、生成するリン酸廃液の処理にコストがかかる等、(A)、(B)とも工業的なスケールで生産するには問題があった。
また、N―(2−カルボキシエチル)―アントラニル酸ジメチルエステルから1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を製造する方法としては、(C)乾燥ベンゼン溶媒還流下、細かく分散した金属ナトリウムを22時間反応させる方法(非特許文献2)や(D)乾燥トルエン溶媒中、2.5当量の水素化ナトリウムを用いて20℃4時間、還流下45分反応させる方法(非特許文献3)等が知られている。 しかし、(C)では、工業的に取扱いが難しい金属ナトリウムを反応に用いている。また、(D)では反応時に水素化ナトリウムから多量の水素が発生し、かつ水素化ナトリウムと共に仕込まれたオイル分と1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類とを分離するために蒸留操作が必要となる等、工業的に実施するうえでは、種々の欠点があり、工業的に有利に製造する方法の開発が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−171970号公報
【0004】
【非特許文献1】J.Heterocycl.Chem., 22 , 713〜718 ,(1985)
【0005】
【非特許文献2】J.C.S.,1957,2312-2314
【0006】
【非特許文献3】J.C.S. Perkin Trans 1,1972,1803-1808
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、これら従来技術の欠点を解決し、目的とする2,3−ジヒドロ−4(1H)-キノリノンとその前駆体である1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を工業的な規模で、高純度、高収率で、かつ工業的有利に製造する方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究検討の結果、
式(1)
【化2】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表わし、R及びRは炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)で示されるアントラニル酸エステル誘導体を水と混和しない有機溶媒の存在下、式(2)
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基、Mはアルカリ金属を表す)で示されるアルカリ金属アルコキシド、あるいはこれらを含むアルコール溶液と反応させることで式(3)
【化4】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表わし、Rは炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を得、これを単離することなくアルカリ水溶液の存在下に反応させることにより、式(4)
【化5】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)で示される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類を、工業的な規模で、高収率かつ工業的有利に製造できること、および式(1)で示されるアントラニル酸エステル誘導体を、水と混和しない有機溶媒および式(2)で示される化合物の存在下、縮合閉環させることにより、式(3)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類が工業的な規模で、高収率かつ工業的有利に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明における式(1)、(3)及び(4)で示される置換基R の具体例としては、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0010】
また、本発明における式(1)において、R2またはRで示される置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0011】
また、本発明における式(2)において、R で示される置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0012】
また、本発明における式(2)において、Mで示されるアルカリ金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0013】
また、本発明における式(3)において、R で示される置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられ、これらの中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が好ましい。
【0014】
本発明は、1段階目の環化反応においてアルコキシド類やアルコキシドの対応するアルコール溶液を用いることを特徴とするが、本発明に用いられるアルコキシドの使用量は、式(1)で表されるアントラニル酸エステル誘導体1.0モルに対し1.0モル〜3.0モル、好ましくは1.1〜2.0モル、さらに好ましくは1.2〜1.5モルである。
【0015】
本発明は、2段階目の脱炭酸反応においては反応系をアルカリ水存在下で脱炭酸を行うことを特徴とするが、この塩基性条件は1段階目の反応終了後、そのままの反応温度条件にて水を添加するだけでよく、その水の量はアントラニル酸エステル誘導体1重量部に対し1.0重量部〜4.0重量部、好ましくは1.5重量部〜3.0重量部、さらに好ましくは1.8〜2.5重量部である。
【0016】
本発明に用いられる水と混和しない有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類が挙げられ、好ましくはトルエン、キシレンである。
【0017】
本発明に用いられる水と混和しない有機溶媒の量としては、通常、アントラニル酸エステル誘導体1重量部に対し3.0重量部〜10.0重量部、好ましくは4.0重量部〜8.0重量部、さらに好ましくは4.5〜6.5重量部である。
【0018】
本発明の製造方法における反応温度は、1段階目及び2段階目とも、70〜110℃、好ましくは70〜90℃で行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、目的とする2,3−ジヒドロ−4(1H)-キノリノンとその前駆体である1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を高純度、高収率で、工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の方法を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
200mlの硝子製容器に、LC純度94.8%のN―(2−カルボキシエチル)―アントラニル酸ジメチルエステル17.0g(71.7mmol)、トルエン80.0gを加え、85℃まで昇温した。昇温後、28%のナトリウムメトキシドを含むメタノール溶液18.5g(95.9mmol)を83〜85℃で滴下し、滴下後メタノールを減圧留出させながら86〜89℃で10時間攪拌し、1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステルを含む反応液を得た。この反応液に水68.0gを82〜88℃で滴下して、ナトリウムメトキシドを分解してメタノールを含むNaOH水とした。水滴下後82〜85℃で4時間攪拌後冷却し、一旦水層を除いた後、さらに水20.0gで水洗、分離し、油層を減圧濃縮したところ、LC純度94.4%の2,3−ジヒドロ−4(1H)-キノリノンを6.92g(47.0mmol、収率65.6%)得た。
【実施例2】
【0022】
2000mlの硝子製容器に、LC純度93.9%のN―(2−カルボキシエチル)―アントラニル酸ジメチルエステル212.8g(896.9mmol)、トルエン1064.0gを加え、85℃まで昇温した。昇温後、20%のナトリウムエトキシドを含むエタノール溶液396.8g(1166mmol)を83〜86℃で滴下し、滴下後エタノールを減圧留出させながら83〜90℃で8時間攪拌し、1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステルを含む反応液を得た。この反応液に水425.6gを73〜90℃で滴下して、ナトリウムメトキシドを分解してメタノールを含むNaOH水とした。水滴下後73〜80℃で7時間攪拌後冷却し、一旦水層を除いた後さらに水250.0gで水洗、分離し、油層を減圧濃縮したところ、LC純度97.3%の2,3−ジヒドロ−4(1H)-キノリノン94.6g(643mmol、収率71.7%)を得た。
【実施例3】
【0023】
300mlの硝子製容器に、LC純度87.9%のN―(2−カルボキシエチル)―アントラニル酸ジメチルエステル20.00g(84.3mmol)、トルエン100.0gを加え、65℃まで昇温した。昇温後、28%のナトリウムメトキシドを含むメタノール溶液21.79g(113mmol)を64〜68℃で滴下し、滴下後メタノールを減圧留出させながら83〜88℃で13時間攪拌した。トルエンを加えて3℃まで冷却、冷水を加えて分液した。 水層を塩酸水にてpH7まで中和した後、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層をろ過後、水洗、減圧にて溶媒を留去して、LC純度82.7%の1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸メチル 9.08g(44.3mmol、収率52.5%)を得た。このものは5.1%の2,3−ジヒドロ−4(1H)-キノリノン、8.4%の4−ヒドロキシ−3−キノリンカルボン酸メチルを含んでいた。 トルエン層を濃縮したところ、1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸メチル66.4%を含む濃縮残分1.72gを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表わし、R 及びRは炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)で表されるアントラニル酸エステル誘導体を式(2)
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表わし、Mはアルカリ金属を表す)で表されるアルカリ金属アルコキシドおよび水と混和しない有機溶媒の存在下に縮合環化して式(3)
【化3】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表わし、Rは、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)で表される1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類を得、これを単離することなくアルカリ水溶液の存在下に反応させることを特徴とする下記式(4)
【化4】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の分岐を有していてもよいアルキル基を表す。)で示される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類の製造方法。
【請求項2】
式(1)で表されるアントラニル酸エステル誘導体を、水と混和しない有機溶媒およびアルカリ金属アルコキシドの存在下、縮合閉環させることを特徴とする、式(3)で示される1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エステル類の製造方法。