説明

15−ケトプロスタグランジンを含む胆汁分泌促進剤組成物

【課題】胆汁分泌促進剤組成物の提供。
【解決手段】有効成分として15−ケト−プロスタグランジン化合物を含む胆汁分泌促進剤組成物を開示する。15−ケト−プロスタグランジン化合物は極めて強い胆汁分泌促進作用があり、そのため該剤は、胆汁分泌の欠乏によって引き起こされる、またはそれが関与する種々の疾患または症状などの治療あるいは予防への利用や肝移植時の肝臓保存液、灌流液およびリンス液としての使用や肝移植後の使用が期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、15−ケト−プロスタグランジン化合物の胆汁分泌促進剤としての新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
胆汁は、肝細胞で生成され、胆管に排泄される複雑な組成のコロイド溶液であり、その生成は肝臓の多くの機能のうちでも、最も重要な機能に属する。肝臓から分泌される胆汁の成分は97%が水で、その他に胆汁酸塩、胆汁色素、ホスファチジルコリン、コレステロール、微量のアルブミン、電解質などを含む。胆汁の主な作用は胆汁酸による脂肪の消化吸収促進作用である。また、胆汁酸はそれ自体、強力な利胆作用があり、これによる胆汁の分泌を胆汁酸依存性胆汁分泌といい、胆汁酸に依存しない分泌を胆汁酸非依存性胆汁分泌という。胆嚢管の閉塞、胆嚢の収縮不全、肝細胞性黄疸等によって胆汁分泌が減少すると脂肪の吸収障害等様々な障害や疾病を引き起こすことが知られている。
【0003】
一方、肝臓の切除・移植において、虚血−再灌流による細胞障害が起こることが知られている。この細胞障害の原因の一つにフリーラジカルの関与が問題視されており、生体内でフリーラジカルが過剰に生産されると、生体分子や組織、特に生体膜中の脂質が攻撃され、細胞膜障害が惹起されると同時に、過酸化脂質を生成し、これが生体内に種々の障害や疾病を引き起こすことが知られている。また、虚血−再灌流により惹起されるフリーラジカルによる肝障害により、胆汁分泌の著明な低下が起こることも明らかにされている。したがって、移植時および移植後の肝臓の性状、特に胆汁分泌能を保つことは重要な課題となっている。
プロスタグランジン類(以後プロスタグランジンはPGとして示す)はヒトおよび他の動物の組織または器官に含有され、広範囲の生理学的活性を示す有機カルボン酸の1群である。天然に存在するPG類(天然PG)は一般的な構造特性として、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する。
【0004】
【化1】

【0005】
一方、天然PG類の幾つかの合成類似体は修飾された骨格を持っている。天然PG類は5員環の構造特性によって、PGA類、PGB類、PGC類、PGD類、PGE類、PGF類、PGG類、PGH類、PGI類およびPGJ類に分類され、さらに鎖部分の不飽和の数と位置によって、
(下付1)...13,14−不飽和−15−OH
(下付2)...5,6−および13,14−ジ不飽和−15−OH
(下付3)...5,6−、13,14−および17,18−トリ不
飽和−15−OH
として、分類される。
【0006】
さらに、PGF類は9位の水酸基の配置によってα(水酸基がアルファー配置である)およびβ(水酸基がベータ配置である)に分類される。
PGE、PGEおよびPGEは血管拡張、血圧降下、胃液分泌減少、腸管運動亢進、子宮収縮、利尿、気管支拡張および抗潰瘍活性をもつことが知られている。また、PGF1α、PGF2αおよびPGF3αは血圧上昇、血管収縮、腸管運動亢進性、子宮収縮、黄体退行および気管収縮特性を有することが知られている。
【0007】
また、幾つかの15−ケト(すなわち、水酸基の代わりに15位にオキソ基を持つ)−PG類および13,14−ジヒドロ−15−ケト−PG類は、天然PGのインビボ代謝中に酵素の作用によって自然に産生させる物質として知られている。さらに15−ケト−PG化合物は、米国特許第5,073,569号、米国特許第5,166,174号、米国特許第5,221,763号、米国特許第5,212,324号、米国特許第5,739,161号等の明細書(上記文献はいずれも引用形態で本明細書に含まれる)に記載されている。
【0008】
15位に水酸基を有するプロスタグランジン化合物が胆汁分泌促進作用を有することは既に知られており、例えばイヌやネコにおいてPGE、PGE、PGA、PGF2αおよびプロスタサイクリンが利胆作用を有することが報告されている(J.Physiol.254,813−820,1976;J.Surg. Res. 18,391−397,1975;J.Surg. Res. 22,545−553,1977;Hepatology 2,275−281,1986;Hepatology 4,644−650,1984、これらの文献はいずれも引用形態で本明細書に含まれる)。
【0009】
一方、肝移植を行ったブタにプロスタグランジンEを門脈内投与すると、胆汁流量が増加することが報告されている(Transplantation 64,205−209,1997、本文献は引用形態で本明細書に含まれる)。また、ラットの肝移植実験において、肝保存液にPGI安定誘導体TEI−9063を添加することにより、移植後の肝の胆汁生産が改善されることが報告されている(Transplantation 46:626−628,1988、本文献は引用形態で本明細書に含まれる)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明者は、15−ケト−プロスタグランジン化合物の生物活性について鋭意研究の結果、15−ケト−プロスタグランジン化合物が極めて強い胆汁分泌促進作用を発現することを見出し、この発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、この発明は15−ケト−プロスタグランジン化合物を有効成分とする、胆汁分泌促進剤組成物に関する。該組成物は、肝臓の処置に用いることができる。
本発明は、胆汁分泌の欠乏が関与する種々の疾患または症状を有する対象に対して有効量の15−ケト−プロスタグランジン化合物を投与することを含む、胆汁分泌を促進する方法にも関する。
本発明はさらに、肝移植における肝臓の処置のための方法であって、15−ケト−プロスタグランジン化合物を含む液体組成物と肝臓を接触させる工程を含む方法に関する。
【0012】
本発明はさらに、胆汁分泌の欠乏が関与する種々の疾患または症状を有する対象の処置のための医薬組成物を製造するための15−ケト−プロスタグランジン化合物の使用に関する。
さらに本発明は、肝移植における肝臓の処置のための医薬組成物を製造するための15−ケト−プロスタグランジン化合物の使用に関する。
【0013】
より詳細には、本発明は下記に関する:
(1) 15−ケト−プロスタグランジン化合物を有効成分とする、胆汁分泌促進剤組成物。
(2) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が下記一般式(I)で表される化合物である、(1)記載の組成物。
【化2】

[式中、W、W、およびWは炭素または酸素原子;
L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ(低級)アルキルまたはオキソ(ただし、LおよびMの基のうちの少なくとも1つは、水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい);
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された、飽和または不飽和の低−中級脂肪族炭化水素残基、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基]
(3) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジン化合物である、(1)記載の組成物。
(4) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−16−モノまたはジ−ハロゲン−プロスタグランジン化合物である、(1)記載の組成物。
(5) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−ハロゲン−プロスタグランジン化合物である、(1)記載の組成物。
(6) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−プロスタグランジン化合物である、(1)記載の組成物。
(7) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−プロスタグランジン化合物である、(1)記載の組成物。
(8) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−プロスタグランジンE化合物である、(1)記載の組成物。
(9) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18−メチル−プロスタグランジンEである(1)記載の組成物。
(10) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−17−メチル−プロスタグランジンEである(1)記載の組成物。
(11) 肝移植における肝臓の処置に使用するための(1)記載の組成物。
(12) 保存液として使用するための(11)記載の組成物。
(13) 灌流液として使用するための(11)記載の組成物。
(14) リンス液として使用するための(11)記載の組成物。
(15) 15−ケト−プロスタグランジン化合物を有効成分とする、肝移植肝臓処置剤組成物。
(16) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が下記一般式(I)で表される化合物である、(15)記載の組成物。
【化3】

[式中、W、WおよびWは炭素または酸素原子;
L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ(低級)アルキルまたはオキソ(ただし、LおよびMの基のうちの少なくとも1つは、水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい);
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された、飽和または不飽和の低−中級脂肪族炭化水素残基、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール基、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基]
(17) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジン化合物である、(15)記載の組成物。
(18) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−16−モノまたはジ−ハロゲン−プロスタグランジン化合物である、(15)記載の組成物。
(19) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−ハロゲン−プロスタグランジン化合物である、(15)記載の組成物。
(20) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−プロスタグランジン化合物である、(15)記載の組成物。
(21) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−プロスタグランジン化合物である、(15)記載の組成物。
(22) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−プロスタグランジンE化合物である、(15)記載の組成物。
(23) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18−メチル−プロスタグランジンEである(15)記載の組成物。
(24) 15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−17−メチル−プロスタグランジンEである(15)記載の組成物。
(25) 保存液として使用するための(15)記載の組成物。
(26) 灌流液として使用するための(15)記載の組成物。
(27) リンス液として使用するための(15)記載の組成物。
【0014】
この発明において、「15−ケト−プロスタグランジン化合物(以下15−ケト−PG化合物と略称する)」とは、5員環の構造、α鎖・ω鎖上の2重結合の数、その他置換基の存否および鎖上部分の変形にかかわりなく、プロスタン酸骨格の15位に水酸基の代わりにオキソ基を有する化合物のあらゆる誘導体または類似体(置換誘導体を含む)を包含する。
この発明の15−ケト−PG化合物の命名に際しては、前記式(A)に示したプロスタン酸の番号を用いる。
【0015】
前記式(A)はC−20の基本骨格のものであるが、本発明では炭素数がこれによって限定されるものではない。式(A)において、基本骨格を構成する炭素の番号はカルボン酸を1とし5員環に向かって順に2〜7までをα鎖上の炭素に、8〜12までを5員環の炭素に、13〜20までをω鎖上に付しているが、炭素数がα鎖上で減少する場合、2位から順次番号を抹消し、α鎖上で増加する場合2位にカルボキシル基(1位)に代わる置換基がついたものとして命名する。同様に、炭素数がω鎖上で減少する場合、20位から炭素の番号を順次減じ、ω鎖上で増加する場合、20番目以後の炭素原子は置換基として命名する。また、立体配置に関しては、特に断りのない限り、上記式(A)の基本骨格の有する立体配置に従うものとする。
【0016】
また、例えばPGD、PGE、PGFは、9位および/または11位に水酸基を有するPG化合物をいうが、この発明では、9位および/または11位の水酸基に代えて他の基を有するPG類も包含する。これらの化合物を命名する場合、9−デヒドロキシ−9−置換体あるいは11−デヒドロキシ−11−置換体の形で命名する。なお、水酸基の代わりに水素を有する場合は、単に9あるいは11−デヒドロキシ化合物と称する。
【0017】
前述のように、この発明では15−ケト−プロスタグランジン化合物の命名はプロスタン酸骨格に基づいて行うが、上記化合物がプロスタグランジンと同一の部分構造を有する場合には、簡略化のため「PG」の略名を利用することがある。この場合、α鎖の骨格炭素数が2個延長されたPG化合物、すなわちα鎖の炭素数が9であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(2−カルボキシエチル)−15−ケト−PG化合物と命名する。同様にα鎖の炭素数が11であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(4−カルボキシブチル)−15−ケト−PG化合物と命名する。また、ω鎖の骨格炭素数が2個延長されたPG化合物、すなわちω鎖の骨格炭素数が10であるPG化合物は、15−ケト−20−エチル−PG化合物と命名する。なお、命名はこれをIUPAC命名法に基づいて行うことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において用いられる15−ケト−プロスタグランジン類はC−15がカルボニル基を構成するあらゆるPGの誘導体類または類似体であり得、13−14位に2重結合を有する15一ケト−PGタイプ1化合物類、13−14位と5−6位に2重結合を有する15−ケト−PGタイプ2化合物類、13−14位、5−6位および17−18位に2重結合を有する15−ケト−PGタイプ3化合物類、あるいはこれらの化合物の13−14位の2重結合が単結合となった13,14−ジヒドロ−15−ケト−PG化合物類などが例示される。
【0019】
本発明に用い得る代表的な例は、15−ケト−PGタイプ1、15−ケト−PGタイプ2、15−ケト−PGタイプ3、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGタイプ1、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGタイプ2、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGタイプ3等およびそれらの誘導体である。
置換体または誘導体の例は、上記15−ケト−PG類のα鎖末端のカルボキシル基がエステル化された化合物、α鎖末端の骨格炭素数が延長された化合物、生理学的に許容し得る塩、2−3位の炭素結合が2重結合あるいは5−6位の炭素結合が3重結合を有する化合物、3位、5位、6位、16位、17位、18位、19位および/または20位の炭素に置換基を有する化合物、および9/11位の水酸基の代りに低級アルキル基またはヒドロキシ(低級)アルキル基を有する化合物等である。
【0020】
この発明において3位、17位、18位および/または19位の炭素原子に結合する置換基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基があげられ、特にメチル基、エチル基があげられる。16位の炭素原子に結合する置換基としては、例えばメチル基、エチル基などの低級アルキル基、水酸基あるいは塩素、ふっ素などのハロゲン原子、トリフルオロメチルフエノキシ等のアリールオキシ基があげられる。17位の炭素原子の置換基としては、塩素、ふっ素等のハロゲン原子が挙げられる。20位の炭素原子に結合する置換基としては、C1−4アルキルのような飽和または不飽和の低級アルキル基、C1−4アルコキシのような低級アルコキシ基、C1−4アルコキシ−C1−4アルキルのような低級アルコキシアルキルを含む。5位の炭素原子の置換基としては、塩素、ふっ素などのハロゲン原子を含む。6位の炭素原子の置換基としては、カルボニル基を形成するオキソ基を含む。9位および11位の炭素原子にヒドロキシ基、低級アルキルまたはヒドロキシ(低級)アルキル置換基を有する場合のこれらの基の立体配置はα,βまたはそれらの混合物であってもかまわない。
【0021】
さらに、上記誘導体は、ω鎖が天然のPG類より短い化合物のω鎖末端にアルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、フエノキシ基、フェニル基等の置換基を有するものであってもよい。
特に好ましい化合物としては、13−14位の炭素結合が単結合となった13,14−ジヒドロ−15−ケト−PG化合物、16の炭素に塩素、フッ素などのハロゲン原子を1個または2個有する化合物(15−ケト−16モノまたはジ−ハロゲン−PG化合物)、α鎖の骨格炭素が2個延長された2−デカルボキシ−2−(2−カルボキシエチル)−15−ケト−PG化合物、および5員環の9位の炭素にオキソ基および11位の炭素に水酸基を有する化合物(15−ケト−PGE化合物)があげられる。
【0022】
この発明で使用される好ましい化合物は、式(I)
【化4】

[式中、W、WおよびWは炭素原子または酸素原子;
L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ(低級)アルキルまたはオキソ(ただし、LおよびMの基のうちの少なくとも1つは、水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい);
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された、飽和または不飽和の低−中級脂肪族炭化水素残基;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;または複素環オキシ基]を有する。
【0023】
上記化合物のうち、特に好ましい化合物の一群としては、式(II)
【化5】

[式中、L、M、R、AおよびBは、上述と同意義である。
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、アリールまたは複素環で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
は、単結合または低級アルキレン;および、
は、低級アルキル、低級アルコキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環または複素環オキシ]で表される化合物である。
【0024】
上式中、RおよびRaにおける「不飽和」の語は、主鎖または側鎖の炭素原子間の結合として、1つまたはそれ以上の2重結合および/または3重結合を孤立、分離または連続して含むことを意味する。連続する2つの位置間の不飽和は若い方の位置番号を表示することにより示し、連続しない2つの位置間の不飽和は両方の位置番号を表示して示す。好ましい不飽和結合は、2位の2重結合および5位の2重または3重結合である。
【0025】
「低〜中級脂肪族炭化水素」の語は、炭素数1〜14の直鎖または分枝鎖(ただし、側鎖は炭素数1〜3のものが好ましい)を有する炭化水素を意味し、好ましくはRの場合炭素数1〜10、特に6〜10の炭化水素であり、Raの場合炭素数1〜10、特に1〜8の炭化水素である。
「ハロゲン」の語は、ふっ素、塩素、臭素およびよう素を包含する。
【0026】
「低級」の語は、特にことわりのない限り炭素原子数1〜6を有する基を包含するものである。
「低級アルキル」の語は、炭素原子数1〜6の直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
「低級アルコキシ」の語は、低級アルキルが上述と同意義である低級アルキル−O−を意味する。
【0027】
「ヒドロキシ(低級)アルキル」の語は、少なくとも1つのヒドロキシ基で置換された上記のような低級アルキルを意味し、例えばヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシエチルおよび1−メチル−1−ヒドロキシエチルである。
「低級アルカノイルオキシ」の語は、式RCO−O−(ここで、RCO−は上記のような低級アルキルが酸化されて生じるアシル、例えばアセチル)で示される基を意味する。
「シクロ(低級)アルキル」の語は、炭素原子3個以上を含む上記のような低級アルキル基が閉環して生ずる基であり、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルを含む。
【0028】
「シクロ(低級)アルキルオキシ」の語は、シクロ(低級)アルキルが上述と同意義であるシクロ(低級)アルキル−O−を意味する。
「アリール」の語は、置換されていてもよい芳香性炭素環基を包含し、好ましくは単環性の、例えばフェニル、ナフチル、トリル、およびキシリルが例示される。置換基としては、ハロゲン、低級アルコキシおよびハロ(低級)アルキル基(ここで、ハロゲン原子および低級アルキル基は前記の意味)が含まれる。
「アリールオキシ」の語は、式ArO−(ここで、Arは上記のようなアリール基)で示される基を意味する。
【0029】
「複素環基」としては、置換されていてもよい炭素原子および炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる1種または2種のヘテロ原子を1乃至4個、好ましくは1乃至3個含む、5乃至14員、好ましくは5乃至10員の、単環式乃至3環式、好ましくは単環式の複素環基が例示される。複素環基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、フラザニル基、ピラニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、2−ピロリニル基、ピロリジニル基、2−イミダゾリニル基、イミダゾリジニル基、2−ピラゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、インドリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、プリニル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズイミダゾリニル基、ベンゾチアゾリル基、およびフェノチアジニル基などが例示される。置換基としてはハロゲン、ハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲン原子および低級アルキル基は前記の意味)が例示される。
【0030】
「複素環オキシ基」の語は、式HcO−(ここでHcは上記のような複素環基)で示される基を意味する。
Aの「官能性誘導体」の語は、塩(好ましくは、医薬上許容し得る塩)、エーテル、エステルおよびアミド類を含む。
【0031】
適当な「医薬上許容し得る塩」としては、慣用される非毒性塩を含み、無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、有機塩基との塩、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によってまたは塩交換によって製造し得る。
【0032】
エーテルの例としてはアルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテル、1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル、オクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテル、セチルエーテル等の中級または高級アルキルエーテル、オレイルエーテルおよびリノレニルエーテル等の不飽和エーテル、ビニルエーテルおよびアリルエーテル等の低級アルケニルエーテル、エチニルエーテルおよびプロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル、ヒドロキシエチルエーテルおよびヒドロキシイソプロピルエーテルのようなヒドロキシ(低級)アルキルエーテル、メトキシメチルエーテルおよび1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル、および例えばフェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジ−メトキシフェニルエーテルおよびベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル、およびベンジルエーテル、トリチルエーテルおよびベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルが挙げられる。
【0033】
エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステルおよび1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル、ビニルエステルおよびアリルエステル等の低級アルケニルエステル、エチニルエステルおよびプロピニルエステル等の低級アルキニルエステル、ヒドロキシエチルエステルのようなヒドロキシ(低級)アルキルエステル、およびメトキシメチルエステルおよび1−メトキシエチルエステル等のアルコキシ(低級)アルキルエステルのような脂肪族エステルおよび、例えばフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステルおよびベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル、およびベンジルエステル、トリチルエステルおよびベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルが挙げられる。
アミドとしては、メチルアミド、エチルアミドおよびジメチルアミド等のモノ−もしくはジ−低級アルキルアミド、アニリドおよびトルイジド等のアリールアミド、およびメチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキルもしくはアリールスルホニルアミド等が挙げられる。
【0034】
好ましいLおよびMの例は、ヒドロキシ、オキソであり、特に好ましくはMがヒドロキシでありLがオキソであり、いわゆるPGEタイプと称される5員環構造を有するものである。
好ましいAの例は、−COOH、およびその医薬上許容し得る塩、エステル、およびアミドである。
好ましいBの例は、−CH−CH−であり、いわゆる13,14−ジヒドロタイプと称される構造を有するものである。
【0035】
好ましいXおよびXは少なくとも一方がハロゲンであり、好ましくは両方がハロゲンである。特に好ましくはフッ素であり、いわゆる16,16−ジフルオロタイプと称される構造を有するものである。
好ましいRは炭素数1〜10の炭化水素であり、好ましくは6〜10の炭化水素、およびより好ましくは8の炭素原子である。
の具体例としては、例えば、次のものが挙げられる。
【0036】
−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−、
−CH−C≡C−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
など。
【0037】
好ましいRaは炭素数1〜10の炭化水素であり、特に好ましくは1〜8の炭化水素であり、さらに炭素数1の側鎖を1または2有していてもよい。
本発明中、環、αおよび/またはω鎖の配置は、天然のPG類の配置と同様かまたは異なっていてもよい。しかしながら、この発明は、天然の配置を有する化合物および非天然の化合物の配置を有する化合物の混合物も包含する。
この発明で用いる15−ケト−PG化合物が例えば13−14位間に単結合を持つ場合に、11位のヒドロキシと15位のオキソ間のへミアセタール形成により、ケト−ヘミアセタール平衡を生ずる場合がある。
【0038】
このような互変異性体が存在する場合、両異性体の存在比率は他の部分の構造または置換基の種類により変動し、場合によっては一方の異性体が圧倒的に存在することもあるが、この発明においてはこれら両者を含むものとし、このような異性体の存在の有無にかかわりなくケト型の構造式または命名法によって化合物を表わすことがあるが、これは便宜上のものであってヘミアセタール型の化合物を排除しようとするものではない。
この発明においては、個々の互変異性体、その混合物または光学異性体、その混合物、ラセミ体、およびその他の立体異性体等の異性体も、同じ目的に使用することが可能である。
【0039】
この発明に使用する化合物のあるものは、米国特許第5,073,569号、米国特許第5,166,174号、米国特許第5,221,763号、米国特許第5,212,324号、米国特許第5,739,161号、米国特許出願第09011218号(これらの文献はいずれも引用形態で本願明細書に含まれる)等に記載の方法によって製造し得る。
【0040】
この発明で用いる化合物は動物およびヒト用の薬剤として使用することができ、全身的あるいは局所的に投与することができる。通常、経口投与、静脈内注射(点滴を含む)、皮下投与、直腸内投与、膣内投与などの方法で投与される。投与量は動物またはヒト等のような対象の種類、年齢、体重、処置されるべき症状、所望の治療効果、投与方法、処置期間等により変化するが、通常1日2〜4分割用量または持続形態で全身投与する場合、0.001〜500mg/kgの投与量でよい。
【0041】
この発明の胆汁分泌促進剤組成物は経口投与薬、注射薬、点滴薬、外用薬、錠剤、舌下剤、座薬および膣座薬等として使用できる。
これらの薬剤は生理学的に許容される適当な添加剤と併用しても良く、この明細書では添加剤としては賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、滑沢剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基材、座薬用基材、エアゾール剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、矯臭剤、芳香剤、着色剤、機能性素材(例えばシクロデキストリン、生体内分解高分子など)など15−ケト−プロスタグランジン化合物と共に使用される薬剤成分を総称して用いる。これらの添加剤の詳細については製剤学に関する一般書籍に記載されているものから適宜選択すればよい。
【0042】
この発明の胆汁分泌促進剤組成物に配合される15−ケト−プロスタグランジン化合物の量は薬剤の形態にもよるが、通常0.0001〜10.0重量%、より好ましくは0.001〜1.0重量%である。
この発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、トローチ、舌下錠、カプセル、丸剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。このような固体組成物においては、1つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも1つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ぶどう繕、ヒドロキシプロピルセルロース、微晶性セルロース、でんぷん、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤や繊維素グルコン酸カルシウムのような崩壊剤、α,βまたはγ−シクロデキストリン、ジメチル−α−、ジメチル−β−、トリメチル−β−またはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等のエーテル化シクロデキストリン、グリコシル−,マルトシル−シクロデキストリン等の分技シクロデキストリン、ホルミル化シクロデキストリン、硫黄含有シクロデキストリン、ミソプロトール、りん脂質のような安定剤を含んでいてもよい。上記シクロデキストリン類を用いた場合はシクロデキストリン類と包接化合物を形成して安定性が増大する場合がある。また、りん脂質を用いてリポソーム化することにより安定性が増大する場合がある。錠剤または丸剤は必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよいし、また、2以上の層で被覆してもよい。更にゼラチンのような崩壊され得る物質のカプセル剤としてもよい。速効性を必要とするときは、舌下錠としてもよい。
【0043】
基剤としてはグリセリン、乳糖等を用いればよい。経口投与のための液体組成物としては、乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等が例示される。一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノール等を含んでいてもよい。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0044】
この発明による組成物は、1またはそれ以上の活性物質を含むスプレー剤の形態であってよく、公知の方法により処方されてよい。
この発明による非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を包含する。水性の液剤、懸濁剤用媒体としては、例えば注射用蒸留水、生理食塩水およびリンゲル液が含まれる。
【0045】
非水性の液剤、懸濁剤用媒体としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤のような補助剤を含んでいてもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、ガス滅菌または放射線滅菌によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0046】
別の形態は坐薬または膣坐薬である。これらの坐薬はカカオ脂等の体温で軟化する基剤に有効成分を混合して作ることができ、適当な軟化温度を有する非イオン界面活性剤を用いて吸収性を向上させてもよい。
この発明において、「処置」の語は、予防、治療、症状の軽減、症状の減退、進行停止等、あらゆる管理が含まれる。「肝臓の処置」等の状況において用いられる場合、「処置」または「処置する」なる用語は、液体組成物で肝臓を灌流またはリンスすること、および液体組成物中に肝臓を保存することを含む、液体組成物と肝臓を接触させるあらゆる管理をいう。
【0047】
この発明で用いる化合物を肝移植の処置に使用する場合、前述の如く生体内に投与する形で使用する場合と、摘出する肝臓の処置剤として使用する場合がある。
摘出する肝臓の処置剤として使用する場合、摘出時の肝内灌流に用いる灌流液、その後、摘出した臓器を保存する保存液、そして血液再灌流時のリンス液としてのいずれの用途にも使用することができ、灌流液、保存液、リンス液のいずれか1つに使用してもよいし、2つまたは全ての溶液に使用してもよい。
【0048】
この肝臓処置剤組成物は、予め液剤の形にしておいてもよく、あるいは固形剤として使用時に溶解して使用してもよい。固形剤はたとえば精製水や生理食塩水などに溶解、懸濁または乳化させるのがよい。固形剤としては、例えば錠剤、顆粒剤、散剤などが挙げられ、これらは公知の方法により適宜調整することができる。これらの製剤には通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、再吸収促進剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調整剤などの各種添加剤を適宜使用してもよい。また、この発明の目的に反しない限り、通常肝臓処置剤に使用されるその他の保存成分を含有させてもよい。
【0049】
さらに、この肝臓処置剤組成物は、例えばユーロコリンズ液(EC溶液)やウィスコンシン液(U−W溶液)およびKrebs−Ringer液など公知の臓器処置剤に溶解して用いてもよい。
この発明の摘出肝臓処置剤組成物における15−ケト−PG化合物の濃度は、化合物の種類や肝臓の状態、目的とする肝臓の処置時間などによっても異なるが、液剤の最終濃度として、通常0.001μM/L〜1000μM/L、好ましくは0.1μM/L〜100μM/L程度である。
【0050】
この発明の胆汁分泌促進剤組成物は、胆汁分泌の欠乏が関与する種々の疾患または症状の処置に適用することができる。また、胆汁酸の存否にかかわらず胆汁分泌を促進させることができる。更に、肝移植の処置に適用することができ、肝臓保存液、灌流液またはリンス液としても有効である。
さらに本発明の胆汁分泌促進剤組成物には、本発明の目的に反しない限り、別種の薬効成分を適宜含有させることができる。
【0051】
実施例
以下、この発明を試験例によりさらに詳細に説明するが、これはこの発明を限定するものではない。
試験例1
試験方法
ウイスター系雄性ラットを用いた。被験群(n=8)には、試験化合物1(13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18(S)−メチル−プロスタグランジンE)の100μg/kgを1日3回、7日間経口投与した。対照群(n=7)には、媒体として0.01%ポリソルベート80及び0.5%エタノール含有蒸留水を同容量投与した。投与最終日の翌日(第8日)に、エーテル麻酔下でラットの総胆管内にカテーテルを挿入した。その後ラットをボールマンケージ内に収容し1時間放置して麻酔から覚醒させた。カテーテル挿入1〜2時間後の1時間に排出された胆汁を採取し、胆汁流量を測定した。
【0052】
試験結果
試験化合物1の正常ラットの胆汁流量に及ぼす効果を図1に示す。
この結果から明らかなように、試験化合物1の投与により正常ラットの胆汁流量が有意に増加することが認められた。
試験例2
【0053】
試験方法
ウイスター系雄性ラットを用いた。被験群、対照群ともにペントバルビタールナトリウム麻酔下で胆汁採取用として総胆管内にカテーテルを挿入した。門脈にカテーテルを挿入固定後、95%Oと5%COで飽和させたKrebs−Ringer液(pH7.4,37℃)を、ペリスタポンプを用い4.0mL/分/g肝臓体重の一定速度で注入し、灌流しながら肝臓を摘出した。胆汁分泌を生理的レベルに維持する必要がある場合には、ナトリウム タウロコレート(sodium taurocolate)(30μmol/L)を含むKrebs−Ringer液で肝を灌流した。被験群にはKrebs−Ringer液中に試験化合物1を添加した。被験群、対照群ともに胆汁を5分間隔で採取した。
【0054】
試験結果
灌流ラット肝における試験化合物1の胆汁流量に及ぼす効果を図2A、図2Bおよび図2Cに示す。図2Aは、胆汁酸の存在下、10μMの試験化合物1添加時の胆汁流量(BF)の経時変化を示したものである。図2Bは、胆汁酸の存在下、試験化合物1の利胆効果の用量依存性を示したものである。図2Cは、胆汁酸の存在下(TC(+))および非存在下(TC(-))における試験化合物依存性の胆汁分泌反応の相違を示したものである。
【0055】
この結果から明らかなように、試験化合物1は灌流ラット肝の胆汁流量を有意に増加することが認められた。また、胆汁酸の存在下、非存在下にかかわらず、胆汁流量を有意に増加することが認められた。
【0056】
試験例3
試験方法
試験例2と同様の方法により灌流摘出肝標本を作製した。被験群、対照群ともに、肝を95%Nと5%COで飽和させたKrebs−Ringer液で20分間灌流し、無酸素にさらした。その後、95%Oと5%COで飽和させたKrebs−Ringer液で灌流することにより再酸素化した。再酸素化の際、被験群には10μMの試験化合物1を再酸素化のための灌流開始時点から投与した。
【0057】
試験結果
無酸素化−再酸素化負荷を行った灌流ラット肝における試験化合物1による胆汁流量の回復の変化を図3に示す。
この結果から明らかなように、胆汁流量(BF)は、試験開始前を100%とすると、無酸素化処置により20%まで減少した。そして、再酸素化の際、試験化合物1を添加することによって胆汁流量は媒体群と比較し有意に回復することが認められた。
【0058】
試験例4
試験方法
ウイスター系雄性ラットをペントバルビタールナトリウムで麻酔し、腹部正中切開を行って肝門部を露出した。総胆管にカニューレを挿入した後、門脈本幹に三方活栓を装着した19ゲージのサーフロ針を挿入すると同時に酸素化したKrebs−ringer Bufferを4.0ml/分/g肝で灌流し、下大静脈を切開して脱血した。肝臓周囲の靱帯、トライツ靱帯と横隔膜を切離して肝臓を体外に出し、分離灌流状態にした。15分の前灌流をして酸素消費を定常状態にした後、灌流液を4℃にしたウィスコンシン溶液(U−W溶液)に置換し、直ちに灌流回路から三方活栓を装着した状態で肝臓を外して、入り口をクランプした後同じ温度にしたU−W溶液内に16時間保存した(この保存時間では再灌流後15分以内に酸素ラジカルが発生し、基礎胆汁分泌の著明な低下が起こることが明らかにされている;Hepatology Vol.30,No.6,1454−1463,1999、本文献は引用形態で本明細書に含まれる)。再灌流開始はKrebs−Ringer液により行い40分間続けた。この間、胆汁流量を5分毎に測定した。
【0059】
上記の灌流プロトコールで試験化合物1あるいは試験化合物2(13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−17(R)−メチル−プロスタグランジンE)を10μMでU−W溶液内に添加した群での胆汁流量の回復効果を調べた。
【0060】
試験結果
図4に、試験化合物1および試験化合物2を摘出ラット肝保存液に添加した際の、試験化合物1および試験化合物2が摘出ラット肝の胆汁流量に及ぼす効果を示す。
以下の結果から明らかなように、摘出ラット肝において保存液中に試験化合物1および試験化合物2を添加すると再灌流後の胆汁流量が有意に増加することが認められた。
【0061】
試験例5
試験方法
試験例4と同じ灌流プロトコールを用いて、試験化合物1および試験化合物2をU−W溶液内には添加せず、再灌流開始から40分間灌流したKrebs−Ringer液(リンス液)に添加した場合の胆汁流量の回復効果を調べた。
【0062】
試験結果
図5に、試験化合物1および試験化合物2をリンス液中に添加した際の摘出ラット肝の胆汁流量に及ぼす効果を示す。
この結果から明らかなように、冷保存したラット肝の再灌流においてリンス液中に試験化合物1および試験化合物2を添加すると胆汁流量が有意に増加することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明に使用される化合物は胆汁分泌促進剤として有用であり、従って、胆汁分泌の欠乏によって引き起こされる、またはそれが関与する種々の疾患または症状などの治療あるいは予防への利用や肝移植時の肝臓保存液、灌流液およびリンス液としての使用や肝移植後の使用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、試験例1の結果、即ち試験化合物1(13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18(S)−メチル−プロスタグランジンE)の正常ラットの胆汁流量に及ぼす効果を示す。
【図2】図2A−Cは、試験例2の結果を示す。図2Aは、胆汁酸の存在下、10μMの試験化合物1添加時の胆汁流量(BF)の経時変化を示したものである。図2Bは、胆汁酸の存在下、試験化合物1の利胆効果の用量依存性を示したものである。図2Cは、胆汁酸の存在下(TC(+))および非存在下(TC(−))における試験化合物1依存性の胆汁分泌反応の相違を示したものである。
【図3】図3は、試験例3の結果、即ち無酸素化−再酸素化負荷を行った灌流ラット肝における試験化合物1による胆汁流量の回復の変化を示す。
【図4】図4は、試験例4の結果、即ち試験化合物1および2(13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−17(R)−メチル−プロスタグランジンE)を肝保存液に添加した場合の摘出ラット肝の胆汁流量に及ぼす効果を示す。
【図5】図5は、試験例5の結果、即ち試験化合物1および2をリンス液中に添加した際の摘出ラット肝の胆汁流量に及ぼす効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される15−ケト−プロスタグランジン化合物を有効成分とする、胆汁分泌障害が関与する疾患または症状を有する対象の処置のための医薬組成物。
【化1】

[式中、W、WおよびWは炭素または酸素原子;
L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシ(低級)アルキルまたはオキソ(ただし、LおよびMの基のうちの少なくとも1つは、水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい);
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された、飽和または不飽和の低−中級脂肪族炭化水素残基、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール基、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基]
【請求項2】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジン化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−16−モノまたはジ−ハロゲン−プロスタグランジン化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−ハロゲン−プロスタグランジン化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−プロスタグランジン化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16−モノまたはジ−フルオロ−プロスタグランジン化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が15−ケト−プロスタグランジンE化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18−メチル−プロスタグランジンEである請求項1記載の組成物。
【請求項9】
15−ケト−プロスタグランジン化合物が13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−17−メチル−プロスタグランジンEである請求項1記載の組成物。
【請求項10】
胆汁分泌障害が関与する疾患または症状が、胆汁分泌欠乏症である、請求項1〜9何れかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−291033(P2008−291033A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148107(P2008−148107)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願2001−574111(P2001−574111)の分割
【原出願日】平成13年4月5日(2001.4.5)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【Fターム(参考)】