説明

2−アミノピリジン誘導体の製造方法

【課題】 穏やかな反応条件下で2−アミノピリジン誘導体を高純度で製造する方法の提供。
【解決手段】 3−置換−2,5,6−トリフルオロピリジンを出発物質として用いてフルオロ置換基をヒドラジノ基に取り替えた後、水素還元反応を行ってアミン基を導入する段階を含む本発明の2−アミノピリジン誘導体の製造方法は、反応条件が穏やかであるため、産業への適用が容易であり、また98%以上の高純度の2−アミノ−3−フルオロ−5−置換ピリジン誘導体を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度2−アミノピリジン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アミノピリジン誘導体は、水素と水酸基との生物学的同族体(bioisostere)として作用し得るフッ素置換基を有し、CCR(細胞化学受容体)5モジュレータ(modulator)及び感染症治療剤(anti−infective agents)の製造などに有用な生理活性物質の中間体としてよく知られている。従って、このような2−アミノピリジン誘導体を製造するための多様な方法が開発されて来た。
【0003】
通常、2−アミノピリジン誘導体は、複数のフルオロ置換基を有するピリジンをアミン化して製造されて来た。例えば、参考文献[M. Maなど、 J. Chem. Soc. Perkin Transaction I, 817−821, 1980]は、下記反応式(A)に示すように、2,3,5,6−テトラフルオロピリジンを高圧条件下、アンモニア水中で50℃に加熱して2−アミノ−3,5,6−トリフルオロピリジンを製造する方法を提示している。
【化3】

【0004】
また、日本国特許公開第2001−2645号には、下記反応式(B)に示すように、2,3,5,6−テトラフルオロピリジンをアンモニア水中で高温高圧の条件下でアミン化して2,6−ジアミノ−3,5−ジフルオロピリジンを製造する方法が提示されている。
【化4】

【0005】
しかし、このようなアンモニア水を用いたアミン化方法は高圧反応器で高温に加熱する反応条件を要求するため産業的有用性が低く、生成物の純度が低いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明者らは、穏やかな条件で2−アミノピリジン誘導体を効率的に製造する方法を開発するために研究してきた。
【特許文献1】日本国特許公開第2001−2645号
【非特許文献1】M. Maなど、 J. Chem. Soc. Perkin Transaction I, 817−821, 1980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、穏やかな反応条件で2−アミノピリジン誘導体を高純度に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に従って、本発明では(i)下記式(II)の3−置換−2,5,6−トリフルオロピリジンをヒドラジン一水和物と反応させて下記式(III)の2−ヒドラジノ−3−置換−5,6−ジフルオロピリジンを得る段階;及び(ii−a)前記段階(i)で得られた式(III)の化合物をラネーニッケル触媒の存在下で水素で還元させて下記式(I−a)の2−アミノ−3−置換−5,6−ジフルオロピリジンを得る段階;または(ii−b)前記段階(i)で得られた式(III)の化合物を脱ヒドラジン化させて下記式(IV)の5−置換−2,3−ジフルオロピリジンを得、式(IV)の化合物をヒドラジン一水和物と反応させて下記式(V)の2−ヒドラジノ−3−フルオロ−5−置換ピリジンを得た後、式(V)の化合物をラネーニッケル触媒の存在下で水素で還元させ、下記式(I−b)の2−アミノ−3−フルオロ−5−置換ピリジンを得る段階を含む、下記式(I−a)または(I−b)の2−アミノピリジン誘導体の製造方法を提供する:
【化5】

【化6】

【0009】
式中、Rはフッ素または塩素である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、穏やかな反応条件下で98%以上の高純度を有する2−アミノピリジン誘導体を製造することができ、従って本発明の製造方法はCCR5調節体及び抗感染治療剤の製造などに有効に活用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法によって、式(I−a)及び(I−b)の2−アミノピリジン誘導体は、下記反応式(I)に示すように製造され得る。
【化7】

【0012】
式中、Rはフッ素または塩素である。
【0013】
前記反応式(I)において、式(I−a)の化合物は、(i)式(II)の3−置換−2,5,6−トリフルオロピリジンをヒドラジン一水和物と反応させて式(III)の2−ヒドラジノ−3−置換−5,6−ジフルオロピリジンを得る段階、及び(ii−a)式(III)の化合物をラネーニッケル触媒の存在下で水素で還元させる段階を含む工程を用いて製造され得る。
【0014】
段階(i)で、本発明の出発物質である式(II)の化合物は、通常の方法によって3−置換−2,4,5,6−テトラフルオロピリジンを亜鉛触媒の存在下、アンモニア水中で脱フッ素化させて得られる。ヒドラジン一水和物は、式(II)の化合物を基準に3〜15当量、好ましくは3〜8当量の範囲で用いられ得る。段階(i)の反応は50〜150℃、好ましくは30〜100℃で2〜10時間、好ましくは2〜8時間行われ得る。また段階(i)で、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール及びt−ブタノールなどの中から選択されたC1−4アルキルアルコールを溶媒として用いられ得、この際、式(II)の化合物を基準に3〜15重量倍、好ましくは2〜7重量倍の範囲で用いられ得る。
【0015】
前記段階(ii−a)で、ラネーニッケルは、式(III)の化合物を基準に2〜15当量、好ましくは5〜12当量で用いられ得る。また、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール及びt−ブタノールなどの中から選択されたC1−4アルキルアルコールを溶媒として用いられ得、この際、式(III)の化合物を基準に20〜40重量倍、好ましくは20〜30重量倍の範囲で用いられ得る。段階(ii−a)の反応は10〜35℃、好ましくは15〜25℃で10〜30時間、好ましくは10〜24時間行われ得る。
【0016】
一方、式(I−b)の2−アミノ−3−フルオロ−5−置換ピリジンは、前記段階(i)を行った後、(ii−b−1)式(III)の化合物を脱ヒドラジン化させて下記式(IV)の5−置換−2,3−ジフルオロピリジンを得る段階、(ii−b−2)式(II)の化合物の代わりに式(IV)の化合物を用いることを除いては、前記段階(i)と同様な工程を行って式(V)の2−ヒドラジノ−3−フルオロ−5−置換ピリジンを得る段階、及び(ii−b−3)式(III)の化合物の代わりに式(V)の化合物を用いることを除いては前記段階(ii−a)と同様な工程を行う段階を含む工程を行って製造され得る。
【0017】
前記段階(ii−b−1)で、脱ヒドラジン化反応は、式(III)の化合物を酢酸水溶液中で10%硫酸銅水溶液と反応させることによってヒドラジノ基を除去して行われ得る。この際、式(III)の化合物を基準に、酢酸は10〜50重量倍、好ましくは12〜30重量倍の範囲で、水は10〜30重量倍、好ましくは12〜20重量倍の範囲で、また10%硫酸銅水溶液は50〜65重量倍、好ましくは50〜60重量倍の範囲で用いられ得る。また、段階(ii−b−1)の反応は−10〜60℃、好ましくは0〜40℃で10〜48時間、好ましくは12〜40時間行われ得る。
【0018】
このように、3−置換−2,5,6−トリフルオロピリジンを出発物質として用い、そのフルオロ置換基をヒドラジノ基に取り替えた後、水素還元反応させてアミン基を導入する工程を含む本発明の2−アミノピリジン誘導体の製造方法は、既存のアンモニア水を用いた直接アミン化方法と比べて穏やかな反応条件下で98%以上の高純度の2−アミノピリジン誘導体を製造できるという長所がある。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を下記実施例によってより詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0020】
[実施例1]:2−アミノ−3,5−ジフルオロピリジンの製造
<段階1>2,3,5,6−テトラフルオロピリジンの製造
ペンタフルオロピリジン(ヤンセン)80g及び亜鉛粉末111.5gを20%アンモニア水溶液560mlに加え、室温で5時間攪拌した。反応混合物をディーン・スターク(Dean−Stark)・トラップを用いて還流させながら水を除去して、標題化合物60.4gを得た(収率:84.5%)。
【0021】
H NMR (200MHz, CDCl): d 7.53−7.67 (1H, m)
<段階2>2,3,5−トリフルオロ−6−ヒドラジノピリジンの製造
前記段階1で得られた化合物23.2g及びヒドラジン一水和物37.3mlをn−プロパノール100mlに加え、これを80℃で2時間加熱した。反応混合物を減圧蒸留して溶媒を除去し、残留物を塩化メタン100mlに溶かして水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた。乾燥された有機層を減圧濃縮して淡黄色固体の標題化合物21.9gを得た(収率:83.8%)。
【0022】
H NMR (300MHz, CDCl): d 3.83 (2H, brs), 5.95 (1H, brs), 7.23−7.31 (1H, m)
<段階3>2,3,5−トリフルオロピリジンの製造
酢酸320mlと水120mlとの混合溶液に前記段階2で得られた化合物8.2gを加えた後、これに10%硫酸銅水溶液400mlを滴加した。得られた混合物をディーン・スターク・トラップを用いて24時間還流させながら水を除去し、生成した残留物を乾燥させて標題化合物5.8gを得た(収率:87.1%)。
【0023】
H NMR (300MHz, CDCl): d 7.36−7.44 (1H, m), 7.88−7.89 (1H, m)
<段階4>2−ヒドラジノ−3,5−ジフルオロピリジンの製造
n−プロパノール100mlに段階3で得られた化合物6.65g及びヒドラジン一水和物4.6mlを加えて6時間加熱還流した後、これを減圧蒸留して反応溶媒を除去した。残留物を塩化メタン80mlに溶かした後、水で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた。乾燥された有機層を減圧濃縮して標題化合物6.20gを得た(収率:85.6%)。
【0024】
H NMR (300MHz, CDCl): d 3.75 (2H, brs), 5.90 (1H, brs), 7.06−7.13 (1H, m), 7.91 (1H, s)
<段階5>2−アミノ−3,5−ジフルオロピリジンの製造
水素化反応器にメタノール500ml、段階4で生成した2−ヒドラジノ−3,5−ジフルオロピリジン14.5g及びラネーニッケル11.5gを加え、室温で24時間反応させた後、セライトでろ過して触媒を除去した。ろ過された反応混合物を減圧濃縮させて淡黄色固体の標題化合物10.8gを得た(純度:98.0%)。
【0025】
H NMR (300MHz, CDCl): d 4.52 (2H, brs), 7.07−7.14 (1H, m), 7.81 (1H, d, J=2.4Hz)
[実施例2]:2−アミノ−3−フルオロ−5−クロロピリジンの製造
<段階1>3−クロロ−2,5,6−トリフルオロピリジンの製造
3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロピリジン(フルオロケム社)55.5g及び亜鉛粉末20gを20%アンモニア水溶液560mlに加え、これを室温で5時間攪拌した。生成した反応混合物をディーン・スターク・トラップを用いて還流させながら水を除去して標題化合物46.2gを得た。
【0026】
H NMR (300MHz, CDCl): d 7.77 (1H, q, J=7.2Hz)
<段階2>3−クロロ−5,6−ジフルオロ−2−ヒドラジノピリジンの製造
n−プロパノール100mlに前記段階1で得られた3−クロロ−2,5,6−トリフルオロピリジン16.6g及びヒドラジン一水和物20.12mlを加えて3時間加熱還流した後、これを減圧蒸留して反応溶媒を除去した。残留物を塩化メタン100mlに溶かして水で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた。乾燥された有機層を減圧濃縮して標題化合物15.9gを得た(収率:85.24%)。
【0027】
H NMR (300MHz, CDCl): d 3.80 (2H, brs), 5.91 (1H, brs), 7.53−7.61 (1H, m)
<段階3>3−クロロ−5,6−ジフルオロピリジンの製造
酢酸360ml及び水135mlの混合溶液に前記段階2で得られた化合物17.9gを加えた後、10%硫酸銅水溶液450mlを滴加した。得られた混合物をディーン・スターク・トラップを用いて24時間還流させながら水を除去して、標題化合物12.9gを得た。
【0028】
H NMR (300MHz, CDCl): d 7.71−7.78 (1H, m), 8.08−8.10 (1H, m)
<段階4>2−ヒドラジノ−3−フルオロ−5−クロロピリジンの製造
n−プロパノール50mlに前記段階3で得られた化合物7.5g及びヒドラジン一水和物9.57mlを加えて6時間加熱還流し、これを減圧蒸留して反応溶媒を除去した。残留物を塩化メタン80mlに溶かして水で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた。乾燥された有機層を減圧濃縮して標題化合物7.26gを得た。
【0029】
H NMR(300MHz, CDCl): d 3.72 (2H, brs), 5.86 (1H, brs), 7.58 (1H, d), 8.41(1H, s)
<段階5>2−アミノ−3−フルオロ−5−クロロピリジンの製造
メタノール100mlに前記段階4で得られた2−ヒドラジノ−3,5−ジフルオロピリジン16.1g及びラネーニッケル8.13gを加え、水素化反応器中で室温で12時間反応させ、セライトでろ過して触媒を除去した。ろ過された反応混合物を減圧濃縮して固体状の標題化合物12.7gを得た(純度:98.5%)。
【0030】
H NMR (300MHz, CDCl): d 4.45 (2H, brs), 7.57−7.64 (1H, m), 8.30 (1H, s)
[実施例3]:2−アミノ−3,5,6−トリフルオロピリジンの製造
メタノール100mlに前記実施例1の段階2で得られた2−ヒドラジノ−3,5,6−トリフルオロピリジン16.3g及びラネーニッケル8.0gを加え、水素化反応器中で室温で12時間反応させ、セライトでろ過して触媒を除去した。ろ過された反応混合物を減圧濃縮して固体状の標題化合物13.7gを得た(純度:99.1%)。
【0031】
H NMR (300MHz, CDCl): d 4.56 (2H, brs), 7.26 (1H, m)
本発明を前記の具体的な実施例と関連して記述したが、添付された特許請求の範囲によって定義された本発明の範囲内で当該分野の熟練者が本発明を多様に変形及び変化させ得ることを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記式(II)の化合物をヒドラジン一水和物と反応させて下記式(III)の化合物を得る段階;及び
(ii)前記段階(i)で得られた式(III)の化合物をラネーニッケル触媒の存在下で水素で還元させる段階を含む、下記式(I−a)の化合物を製造する方法:
【化1】

式中、Rはフッ素または塩素である。
【請求項2】
(i)下記式(II)の化合物をヒドラジン一水和物と反応させて下記式(III)の化合物を得る段階;及び
(ii)前記段階(i)で得られた式(III)の化合物を酢酸及び硫酸銅の存在下で脱ヒドラジン化させて下記式(IV)の化合物を得、式(IV)の化合物をヒドラジン一水和物と反応させて下記式(V)の化合物を得た後、式(V)の化合物をラネーニッケル触媒の存在下で水素で還元させる段階を含む、下記式(I−b)の化合物を製造する方法:
【化2】

式中、Rはフッ素または塩素である。

【公開番号】特開2006−70034(P2006−70034A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251430(P2005−251430)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(500087154)韓国化学研究院 (1)
【Fターム(参考)】