説明

2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法

【課題】医薬の製造中間体として有用な2−イミノ−3−チアゾリジンの工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)チオ尿素とモノハロゲノ酢酸又はモノハロゲノ酢酸低級アルキルエステルとを、水又は含水低級アルコール中にて、酢酸のアルカリ金属塩の存在下で加熱還流させることを特徴とする2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法、(2)低級アルコールがエチルアルコールであり、酢酸のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである前記(1)に記載の2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法、及び(3)チオ尿素と反応させるモノハロゲノ酢酸がモノクロル酢酸であり、反応溶媒が水であり、酢酸のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである前記(1)に記載の2−イミノ−3−チアゾリジノンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の製造中間体として有用な2−イミノ−チアゾリジノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チオ尿素とモノハロゲノ酢酸低級アルキルエステル、モノハロゲノ酢酸又はそのアルカリ金属塩とを反応させて2−イミノ−4−チアゾリジノンを製造する方法については、種々報告されている(例えば、非特許文献1、2等)。しかし、本発明のように酢酸のアルカリ金属の存在下で、チオ尿素とモノハロゲノ酢酸又はモノハロゲノ酢酸低級アルキルエステルとを反応させる方法を開示したものはない。
なお、種々開示されている方法に準拠して追試をしたところ、報告のとおりの結果は得られず、いずれも低収率であった。
【0003】
【非特許文献1】ファルマコ、エディズィオネ サイエンティフィカ(Farmaco, Edizione Scientifica)、第9巻、p.691−704(1954)
【非特許文献2】オーガニック シンセシス,合冊版 第3巻(Org. Synth., Coll. Vol.3)p. 751−752
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、医薬の製造中間体として有用な2−イミノ−3−チアゾリンを簡便かつ温和な条件下、高収率で得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、原料となるチオ尿素と酢酸ナトリウムとを水に溶解し、これを加熱還流下、モノクロル酢酸を滴下することにより、所期の目的を達成することができることを見出し、さらに検討を加え、本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち本発明によれば、下記(1)、(2)及び(3)の方法を提供することができる。
(1)チオ尿素とモノハロゲノ酢酸又はモノハロゲノ酢酸低級アルキルエステルとを、水又は含水低級アルコール中にて、酢酸のアルカリ金属塩の存在下で加熱還流させることを特徴とする2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法。
(2)低級アルコールがエチルアルコールであり、酢酸のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである前記(1)に記載の2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法。
(3)チオ尿素と反応させるモノハロゲノ酢酸がモノクロル酢酸であり、反応溶媒が水であり、酢酸のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである前記(1)に記載の2−イミノ−3−チアゾリジノンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の反応において、酢酸のアルカリ金属塩を存在させることにより、温和な条件下でチオ尿素とモノハロゲノ酢酸又はその低級アルキルエステルとが、容易に反応する。したがって、本発明の反応により、副反応を効果的に抑えることができ、高収率で2−イミノ−3−チアゾリジノンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において使用するモノハロゲノ酢酸としてはモノクロル酢酸又はブロム酢酸が好ましく、モノハロゲノ酢酸低級アルキルエステルとしては、モノクロル酢酸メチル、モノクロル酢酸エチル、ブロム酢酸メチル、ブロム酢酸エチル等が好ましく、これらの中で、モノクロル酢酸が最も好ましい。
本発明において使用する反応溶媒としては、水が最も好ましいが、含水低級アルコールも好適に使用できる。その低級アルコールとしては、メタノ−ル、エタノ−ル、プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、ブタノ−ル、イソブタノ−ル、2−メトキシエタノ−ル等を挙げることができ、中でもエタノールが好ましい。
また、酢酸のアルカリ金属塩としては、酢酸ナトリウムと酢酸カリウムが好ましく、中でも酢酸ナトリウムが好ましい。
反応温度は、加熱することにより反応溶媒が還流する温度が好ましく、反応時間は、1時間〜20時間の範囲内が好ましい。
【実施例】
【0009】
実施例1
チオ尿素(304.5g)と酢酸ナトリウム(361g)を水(1340mL)に加熱溶解し、加熱攪拌下、穏やかに還流する程度にモノクロル酢酸(378g)の水(365mL)溶液を滴下した。その後、9時間加熱還流し、室温で冷却攪拌し、さらに約10℃で約3時間程度攪拌した。析出した結晶を濾取し、冷水で洗浄した後、乾燥することにより2−イミノ−4−チアゾリジノンの結晶(378.5g:収率81.5%)を得た。
【0010】
mp240〜248℃(分解点)
HPLC(ピーク面積%):99.9%(2−イミノ−4−チアゾリジノン含量)
IR(Neat)cm−1:3225、2812、1692、1651、1514
H−NMR(DMSO−d:TMS)δppm:3.91(2H、s)、8.77(1H、s)、9.01(1H、s)
【0011】
実施例2
エタノール(380ml)にチオ尿素(38.1g)と酢酸ナトリウム(45g)を懸濁し、加熱攪拌下、穏やかに還流する程度にブロム酢酸エチル(88.5g)を滴下した。その後、2時間加熱還流し、室温まで冷却した。反応液に水(220ml)を加え、約70℃で約1時間加熱攪拌した後、約20℃で2時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、水洗、次いでエタノール洗浄した後、乾燥することにより、実施例1と実質的に同一の機器データを示す2−イミノ−4−チアゾリジノンの結晶(55.6g:収率95.7%)を得た。
【0012】
実施例3
チオ尿素(38.1g)と酢酸ナトリウム(42g)を水(240ml)に加熱溶解し、加熱攪拌下、穏やかに還流する程度にモノクロル酢酸(47.3g)の水(60ml)溶液を滴下した。その後、16時間加熱還流し、室温まで冷却し、さらに約5℃で1時間程度攪拌した。析出した結晶を濾取し、冷水で洗浄、次いでエタノール洗浄した後、乾燥することにより、実施例1と実質的に同一の機器データを示す2−イミノ−4−チアゾリジノンの結晶(53.5g:収率92.1%)を得た。
【0013】
比較例1
チオ尿素(38.1g)を水(200ml)に加熱溶解し、加熱攪拌下、穏やかに還流する程度にモノクロル酢酸ナトリウム(58.3g)の水(100ml)溶液を滴下した。その後、20時間加熱還流し、室温まで冷却し、さらに約5℃で4時間程度攪拌した。析出した結晶を濾取し、冷水で洗浄した後、乾燥することにより実施例1と実質的に同一の機器データを示す2−イミノ−4−チアゾリジノンの結晶(35g:収率60.3%)を得た。
【0014】
比較例2
チオ尿素(38.1g)と酢酸ナトリウム(42g)をエタノール(200ml)に懸濁し、加熱攪拌下、70〜80℃でモノクロル酢酸(47.3g)の含水エタノール(100ml)溶液を滴下した。その後、24時間加熱還流し、室温まで冷却攪拌し、析出した結晶を濾取し、水洗,メタノール洗浄した後、乾燥したが,目的物である2−イミノ−4−チアゾリジノンは得られなかった。
【0015】
比較例3
チオ尿素(38.1g)と酢酸(35g)を水(200ml)に懸濁し、加熱攪拌下、80〜90℃でモノクロル酢酸ナトリウム(58.3g)の水(100ml)溶液を滴下した。その後、24時間加熱還流し、室温まで冷却攪拌し、さらに約5℃で2時間程度攪拌した。析出した結晶を濾取し、冷水洗浄,エタノール洗浄した後、乾燥することにより実施例1と実質的に同一の機器データを示す2−イミノ−4−チアゾリジノンの結晶(21.5g:収率37%)を得た。
【0016】
比較例4
チオ尿素(38.1g)と酢酸ナトリウム(42g)を水(240ml)に加熱溶解し、加熱攪拌下、約80℃でモノクロル酢酸(47.3g)の水(60ml)溶液を滴下した。その後、24時間加熱還流し、室温まで冷却し、さらに約5℃で1時間程度攪拌した。析出した結晶を濾取し、冷水で洗浄、次いで含水エタノール洗浄した後、乾燥することにより実施例1と実質的に同一の機器データを示す2−イミノ−4−チアゾリジノンの結晶(43.2g:収率74.4%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、種々の医薬、例えばピオグリタゾン(一般名称)等の製造中間体として使用され得る2−イミノ−3−チアゾリジノンの工業的に有利な製造方法として、産業上利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ尿素とモノハロゲノ酢酸又はモノハロゲノ酢酸低級アルキルエステルとを、水又は含水低級アルコール中にて、酢酸のアルカリ金属塩の存在下で加熱還流させることを特徴とする2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法。
【請求項2】
低級アルコールがエチルアルコールであり、酢酸のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである請求項1に記載の2−イミノ−4−チアゾリジノンの製造方法。
【請求項3】
チオ尿素と反応させるモノハロゲノ酢酸がモノクロル酢酸であり、反応溶媒が水であり、酢酸のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである請求項1に記載の2−イミノ−3−チアゾリジノンの製造方法。

【公開番号】特開2008−260725(P2008−260725A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105502(P2007−105502)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】