説明

2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法

【課題】
塩素をピリジンと、例えば、気相反応させて、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンを製造する方法において、例えば、蒸留、精製工程において、タール状物質の副生を抑制しつつ、簡便で安価に、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンを高収率で製造することを目的とする。
【解決手段】
塩素をピリジンと反応させた後、更に還元剤と反応させる2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素をピリジンと、気相反応させて2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリジンを塩素化して2−クロロピリジンや2,6−ジクロロピリジンを得る方法としては、四塩化炭素ガスの存在下、約300〜420℃で、塩素とピリジンを気相反応させて、2−クロロピリジンを得る方法(特許文献1)、特定のラジカル開始剤の存在下、200〜300℃で、塩素とピリジンを気相反応させて、塩素化ピリジンを得る方法(特許文献2)、およびピリジンと塩素を、水を希釈剤として紫外線照射下に、180〜300℃で、気相で反応させて2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンを得る方法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3153044号明細書
【特許文献2】特開平2−59558号公報
【特許文献3】特開平6−199794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の2−クロロピリジンや2,6−ジクロロピリジンの製造方法によると、例えば、蒸留、精製工程等において、比較的多量のタール状物質が副生し、収率が低下したり、タール状物質が蓄積すると製造装置等の配管を閉塞するなど、種々の不具合を引き起こす原因となる。
【0005】
本発明は、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法において、タール状物質の副生を抑制し、簡便で安価に、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンを高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記タール状物質が生成される反応機構としては、例えば、下式のように、未反応塩素が、塩素化ピリジンと錯体を形成することで開環し、水が存在する場合は、ジアルデヒド化合物となり、これらが縮合するものと考えられる。
【0007】
【化1】

【0008】
また、水が存在しない場合でも、未反応塩素が、塩素化ピリジンと錯体を形成することで開環しやすく、タール状物質が生成しやすくなるともの考えられる。
【0009】
本発明者らの実験によると、ピリジンや2−クロロピリジンに塩素を吹き込むと、熱処理温度約70℃以上で、時間と共にタール化が進行して、ピリジンや2−クロロピリジンの1時間後の残存率が90〜97%に低下する現象が認められた。
【0010】
本発明は、塩素をピリジンと反応させた後、更に還元剤と反応させる2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法に関する。
【0011】
ピリジンと塩素とを反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、液相または気相において、ピリジンを塩素によって、350〜420℃で熱塩素化させる方法、ラジカル開始剤を用いて塩素化させる方法、紫外線照射下で塩素化させる方法等が挙げられる。
【0012】
ラジカル開始剤を用いて塩素化させる方法、および紫外線照射下で塩素化させる方法において、反応温度は、例えば、160〜300℃であることが好ましく、180〜220℃であることがより好ましい。
【0013】
本発明において、塩素の使用割合は、例えば、ピリジン1モルに対して、0.1〜3モルであることが好ましく、0.3〜2モルであることがより好ましい。
【0014】
本発明において、前記還元剤としては、例えば、二酸化硫黄、亜硫酸ナトリウムおよび亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩、並びに、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素塩等が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点から、二酸化硫黄および亜硫酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0015】
前記還元剤の使用割合は、未反応塩素1モルに対して、0.1〜10モルであることが好ましく、0.3〜2モルであることがより好ましい。還元剤の使用割合が0.1モル未満の場合は、タール状物生成の抑制が不十分になるおそれがあり、還元剤の使用割合が10モルを超える場合は、使用量に見合う効果が得られにくく経済的でない。
【0016】
前記還元剤の使用割合を設定する方法としては、予め未反応塩素量を測定し、該未反応塩素量に対する割合として添加する方法等が挙げられる。
【0017】
前記還元剤を添加する際の温度としては、0〜100℃であることが好ましく、30〜80℃であることがより好ましい。
【0018】
前記ピリジンと塩素とを反応させる方法の中でも、塩素化反応の効率を高める観点から、ピリジンと塩素とを、紫外線照射下に気相反応させる方法が好ましい。
【0019】
紫外線の光源としては、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯および紫外線LED等を挙げることができる。
【0020】
また、ピリジンと塩素との気相反応において、反応温度の急激な上昇を抑制するため、希釈剤として、水を使用するとよい。
【0021】
ピリジンと塩素との気相反応において、水を使用する場合、水の使用割合は、例えば、ピリジン1モルに対して、1〜30モルであることが好ましい。
【0022】
ピリジンと塩素との気相反応において、水を使用しない場合では、還元反応後の反応液は、未反応ピリジン、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの混合液となる。
【0023】
しかしながら、水を使用した場合では、還元反応後の反応液は、主に未反応ピリジン、水および2−クロロピリジンからなる上層と、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンからなる下層との2層に分離する。
【0024】
かくして得られた2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンは、当該反応液を蒸留等の処理により、それぞれ単離することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法によれば、タール状物質の副生を抑制しつつ、簡便で安価に、2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施例1
上部中央に100ワット高圧水銀灯と上端部に吹き込み管2本を備えた3L容量の気相反応部と、当該反応部の下部に連結させたコンデンサ、吹き込み管および枝管を備えた2L容量の3つ口フラスコとからなる反応器を用い、以下の手順で光塩素化反応を行った。
【0027】
予め110℃以上に加熱して完全に気化させた42重量%ピリジン水溶液を20g/分の割合で、塩素を3.7g/分の割合で、上端部の吹き込み管より、それぞれ反応器に導入して、190℃で反応させた。反応物は、下部のコンデンサで凝縮させることにより、反応液として前記フラスコに受けた。
【0028】
前記反応液が前記フラスコに流出し始めた時、下部の吹き込み管を用いて二酸化硫黄を0.8g/分の割合で反応液に導入した。
【0029】
即ち、ピリジン:塩素:水:二酸化硫黄=1:0.47:6.1:0.12のモル比で反応を行った。なお、二酸化硫黄を吹き込む前の未反応塩素量は、ピリジン1モルに対して0.11モルであった。
【0030】
前記二酸化硫黄を導入してから80分間経過後、反応液2760gを得た。
【0031】
前記反応液を分液し、上層(2330g)に25%水酸化ナトリウム水溶液470gを添加してpH11以上に調整した後、常圧にて105〜150℃で2時間かけて精留を行い、ピリジン水溶液745.3g(ピリジン濃度55.0%、純分ピリジン回収量409.9g)および2−クロロピリジン107.0gを得た。
【0032】
また、前記反応液の下層(430g)を20.0〜6.7kPaにて100〜150℃で7時間かけて精留を行い、2−クロロピリジン288.1g、2,6−ジクロロピリジン25.1gおよびタール状物質1.7gを得た。
【0033】
合計の収量および収率については、ピリジン409.9g(回収率61.0%)、2−クロロピリジン335.1g(対ピリジン収率34.7%)、2,6−ジクロロピリジン25.1g(対ピリジン収率2.0%)およびタール状物質1.7gであった。
【0034】
実施例2
実施例1において、二酸化硫黄を用いる代わりに、予め、フラスコに仕込んだ20重量%亜硫酸ナトリウム水溶液630g(1.0モル)を用いた以外は、実施例1と同様にして、光塩素化反応を行った。
【0035】
前記ピリジン水溶液および塩素を反応器に80分間導入することにより、前記フラスコに反応液3326gを得た。
【0036】
実施例1と同様な方法で、分液および精留を行い、合計の収量および収率として、ピリジン410.1g(回収率61.0%)、2−クロロピリジン335.5g(対ピリジン収率34.7%)、2,6−ジクロロピリジン25.1g(対ピリジン収率2.0%)およびタール状物質1.5gを得た。
【0037】
比較例1
実施例1において、還元剤としての二酸化硫黄を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、光塩素化反応を行った。
【0038】
前記ピリジン水溶液および塩素を反応器に80分間導入することにより、前記フラスコに反応液2696gを得た。
【0039】
実施例1と同様な方法で、分液および精留を行い、合計の収量および収率として、ピリジン397.6g(回収率59.2%)、2−クロロピリジン311.6g(対ピリジン収率32.3%)、2,6−ジクロロピリジン22.1g(対ピリジン収率1.8%)およびタール状物質20.4gを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素をピリジンと反応させた後、更に還元剤と反応させる2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法。
【請求項2】
水存在下で、塩素をピリジンと反応させる請求項1に記載の2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法。
【請求項3】
紫外線照射下に、塩素をピリジンと反応させる請求項1または2に記載の2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が、二酸化硫黄または亜硫酸ナトリウムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の2−クロロピリジンおよび2,6−ジクロロピリジンの製造方法。

【公開番号】特開2011−63551(P2011−63551A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216466(P2009−216466)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】